バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

From the edge -Re:闇を暴け-

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kyogokurowa

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夢を見ていた。

星空の中にいるような不思議な浮遊感を抱きながら。

やがて煌めく星の群れの中に、見知った顔が浮かんでくる。

「久しいな、オシュトル。それに...煉獄よ」

浮かび上がった友と強敵(とも)の姿に俺は思わず頬が緩む。

そうか、俺は死んだのだな。

悔いはない。忠義を貫き、全てを出し切った上で敗北したのだから。

再会を祝し、さっそく一献やろうかと酒を取り出そうとするも―――友たちは笑って受け入れてはくれなかった。

何故か。その答えはすぐにわかった。

『――――――』

誰かが泣いていた。少女のものだった。

この声は間違いない。姫殿下が遺し、自分に打ち勝った少女のものだ。

なぜ奴が泣いている。なぜ勝利の歓喜ではなく、あんなにも苦しそうな悲鳴をあげている。

わからない。わからないが―――

「これが...俺の遺したものなのか?」

悪鬼羅刹となってでも忠義を貫くと誓った。けれど、その果てが少女の絶望なのか。

「ミカヅチ、君はこれで満足か。きみはこの為に戦い剣を振るってきたのか」

そう言う煉獄は真っすぐに俺を見つめていた。諫めるのでも罵るのでもなく、純粋にそう問いかけているようだった。
答えは否。
屍をいくらでも詰もうとは誓った。手を汚しても構わんとも誓った。
だが、己は朽ち果て勝者も勝利の余韻にも浸れない。
こんな結末で満足しよう筈もない。

「だが、俺は...」

「なにを躊躇う。左近衛大将は彼女たちに打ち倒されたのだろう」

そうだ。ヤマト左近衛大将ミカヅチは負けた。そして死んだ。ならば―――

「好きにやんな、サッちゃん」

オシュトルとしてではなく"義侠の漢:ウコン"として笑いかけてくる友に、俺の頬がふっと緩む。

「煉獄、オシュトル―――酒はまた次の機会だ」

踵を返し、足を進めるその背中を、奴らが微笑み見送ってくれている気がした。

その視線を温かく思いつつも、振り返りはしない。俺の進む道に後悔などないのだから。

ほどなくして光に包まれ、そして―――



ガッ ガッ

頭を刺す鋭い痛みに意識が覚醒する。
いったい何事か―――見れば、周囲には炎が撒かれ、辺り一帯は地獄の様相を齎していた。

痛みを齎してくる原因へと目をやれば、俺と戦っていた時よりもはるかに傷つき、痛々しい火傷を負っていたココポが必死に俺の頭を突いていた。

「ココポ...?」
「ホロォ...ロォ...」

ミカヅチの意識が戻ったのに安堵したのか。
ココポはそのままグラリと倒れ込み、大きく息を吐いた。

「生きてたんすか...」

そう力なく声をかけてきたのは、あの決して斬られない不思議な術を使う少女だった。
彼女は力なく横たわり、覇気のない視線だけをこちらに向けている。

「なにがあった」
「もうさんざんですよ...あんたが血を吐いたかと思ったら、変な陰陽師が現れて高千穂さんがやられて、みんなチリヂリに...」
「...そうか」

その陰陽師とやらが何者かはわからないが、自分と同じく殺し合いを肯定した者なのだろう。
俺は地面に転がる剣を拾い上げ、肩に担ぎ彼方を見据える。

誰に問わずとも、足跡が残されているのでわかる。
この先に戦うべき相手がいることを。

「あんたは...敵じゃないんですか...?」

自分にトドメを刺されなかったのを疑問に思ったのか、少女はそう問いかけてきた。

「どう思う?」

そう返した俺の顔は、おそらく、笑っていたのだと思う。

少女の表情が信じられないものを見たかのように驚愕で固まっていたからだ。

そして俺は駆け出した。
躊躇いなく、真っすぐ、真っすぐに。

ほどなくして戦闘音が近づいてくる。

それを頼りに足を進め、やがて音が止まるのとほぼ同時に俺は見つけた。

力なく尻餅を着き震える少女、それに迫るマロロのような白の衣装に身を包んだ道士を。

そして耳に届く。

少女の"助けて"というか細い叫びを。

それは数刻前にも投げかけられた言葉だった。

あの時はそれに応えることはできなかった。

けれど。

今は、躊躇いなくその想いに応えることができた。

ヤマト左近衛大将ミカヅチとしてではなく。

なんの肩書もないただの"ミカヅチ"として。


「ミカヅチさん...どうして...」

カタリナは、己の命を救ってくれたミカヅチに思わず問う。
殺し合いに乗っている彼が助けてくれたのもそうだが、そもそも彼が生きているというのが摩訶不思議な現象だった。


人間以外を認めぬゲッター線。ミカヅチは亜人であるため、完全な人間ではないためソレの注入に身体を害されたが半分は人間であるため比較的軽症に収まった。
武偵たちの必死な延命措置が奇跡的に命を繋いだ。

客観的に見て理屈をつけるならそれらが相応しいだろうが、ミカヅチは、否、誰もがその答えを知る術はない。

確かなことはただひとつ。
ミカヅチという漢は、確かに死地より舞い戻り、カタリナ・クラエスを救ったということ。

「なるほど。貴様は奴らの中では一番の使い手らしい」

乱入者にも清明は微塵も揺らがず、むしろ嬉々として笑みを深める。
もとより混乱と混沌を好む男。
この程度のイレギュラーはむしろ望ましいというものだ。

あいさつ代わりにと燃える札が放たれる。
ミカヅチはカタリナを小脇に抱え、一足飛びで札を躱しつつあかりのもとへと降り立つ。

「......」

カタリナを降ろし、掌であかりの呼吸を確かめる。
まだ息はある。気を失っただけのようだ。
白目を剥くあかりの目をそっと閉ざしてやり、そのままカタリナに押し付ける。

「この娘、あかりとか言ったか。俺は奴に用がある...頼めるか?」

カタリナはあかりを抱きしめ、呆然としながらもミカヅチを見上げる。

「ありが、とう...」
「礼ならあかりに言え。俺は姫殿下の意思を汲んだにすぎん」


ミカヅチはそれだけ言って清明へと相対する。
その背中を見つめながら、カタリナは思う。

あかりの不殺の意思は無駄じゃなかった。
彼女の武偵としての信念は確かに実を結んだのだと。


ミカヅチは清明と相対し、改めて己の中の闘争本能が高まるのを感じていた。

(なるほど...手強い)

己が万全ではないことを差し引いても強敵だと一目でわかる邪悪な氣。
同じ術師として比べてもマロロとはレベルが違うと言わざるを得ない。
マロロがヤマトでも数えるほどしかいない練度の術師であると踏まえたうえでだ。

「さて。貴様は私を楽しませてくれるのだろうなぁ?」

挑発するかのように清明は笑う。
それを合図にミカヅチは強く地面を踏み込み一気に距離を詰め、肩に担いでいたクロガネ征嵐を振り下ろす。
清明はそれを紙一重で回避すると、今度はミカヅチの腹に向けて符を放つ。
ミカヅチはその攻撃を予測していたのか、ひらりと身を翻すと清明の背後に回り込み剣を振るう。

「ぐっ!?」

だが、ミカヅチの剣は清明を斬ることはなく、五芒星の結界に遮られていた。

「そうらどうした。動きは大したものだが、この程度の使い手は元の世界にも湧いて出るほどおったわ」

そう言うと、清明は懐から無数の燃える呪符を放ち攻撃してくる。

「ちぃッ!」

ミカヅチは舌打ちしながら剣を操りそれらを斬り捨てる。
だが、両腕が健在ならばまだしも今は片腕。
そんな状態ではミカヅチの剣技を以てしても、呪符による飽和攻撃を防ぐことはできない。

「ぐおっ...!」

ミカヅチの身体に次々と火傷が刻まれていく。
致命傷こそ避けているが、このままではいずれジリ貧になるだろう。

「ほぅら、どうした。その程度か? いいや、あるのだろう。その仮面の力が」
「!...知っていたのか」
「先ほど、貴様に似た仮面を着けた漢とやり合ったのでな。同類なのだろう、貴様らは」

"同類"。その言葉にミカヅチのこめかみがピクリと動いた。
この会場にいる仮面の者は"オシュトル""ヴライ""ムネチカ"、そして自分を含めての四人。
漢と言うからにはムネチカは除かれ、残るはオシュトルかヴライである。
そして、そのどちらと邂逅していてもこの道士は決して相容れず殺し合ったのは明白であり、且つ奴らが仮面の力を使ったというならば。

「出し惜しみは必要ないということか...いいだろう。ならば刻め、俺の力を」

ミカヅチはクロガネ征嵐を小脇に抱え、掌を仮面に添える。

「我は鳴神也。仮面アクルカよ、無窮なる力以て、我に雷神を鎧わせたまえ!」

解号の合図と共に、ミカヅチの身体纏う氣が膨れ上がり、電流が迸る。
その変化にも清明はたじろがず、むしろ目を輝かせて歓喜の声を挙げる。

「おおお、その力!まさしく我が求めしものよ!」
「いつまで余裕を保っていられるか...見ものだな!」


ミカヅチは地を蹴り一気に間合いを詰めると、征嵐の刃を横薙ぎに振るい、清明の首を狙う。
それを五芒星の結界が防ぎ、鉄同士が衝突したような甲高い音が鳴り響く。

「ほう、奴とは違い攻撃のみならず己の身体能力にも干渉するか。斬撃一つ一つが先ほどとはワケが違うわ...ククッ。それでいいぞ小僧」

嘲笑う清明にも構わず、ミカヅチは更に踏み込み、連撃を叩き込む。
一撃、二撃、三撃。その全てが五芒星によって阻まれるが、ミカヅチの攻撃は止まらない。
元来のミカヅチの強力な身体能力に加え仮面の力で増された力と、電流の付与効果から放たれる斬撃の嵐はまさに疾風迅雷。

防御に徹している清明にミカヅチは容赦なく攻め立てる。

「ぬぅ...ッ」
「オオオオォォォォォッ!!」



―――ピシリ。

「ムッ」

ミカヅチの連撃に耐えかねた五芒星にヒビが入り始める。


――ピシッピシッ!!

「ぬぉああああっ!!!」

遂に限界を迎えた五芒星が砕け散ると同時に、ミカヅチはそのまま渾身の突きを打ち込んだ。

だが、清明の笑みは未だ絶えず。

「合格だ!貴様のその仮面の力、我が手中に収めるに値する!」

想定内だったと言わんばかりに、清明は水晶を取り出し炎の龍をミカヅチ目掛けて放つ。
炎龍は突きを打ち込んだミカヅチを飲み込み、そのまま後方へと押し返す。

「先の漢は炎の性質を持つが故耐えられたが貴様はどうかな?」
「グッ、ヌウウウウウ!!」

ミカヅチの身体が焼けていく。全身を蝕む痛みの中、ミカヅチは清明を睨みつける。

「舐めるなぁぁああぁぁぁ!!!!」

例えヴライのような耐性が無くとも、ミカヅチとて煉獄の炎を耐え抜いた漢。
その事実は彼の自信として昇華され、負けるわけにはいかぬというプライドに火をつける。

袈裟。
逆袈裟。
右薙ぎ。
左薙ぎ。
左切り上げ。
右切り上げ。
逆風。

上下左右方向感覚も定まらぬ中、それでもミカヅチは旋風の如く斬撃を放つ。
短時間で無数に斬りつけられた炎龍は内部より細切れになり、ミカヅチを解放して空に四散していく。
同時に、ミカヅチの身体を纏っていた電流の勢いが瞬く間に落ちていき、彼もまた地に膝を着ける。

「う、嘘でしょ...」

戦闘の一部始終を見ていたカタリナの表情が青ざめていく。
ミカヅチは、これまでカタリナが見てきた中でも屈指の実力者だ。
そのミカヅチですら、清明には未だ傷一つつけれておらず、防戦一方のまま追い詰められていた。

余裕の清明に、肩で息をするミカヅチ。
一度は希望を抱いたカタリナの心を、再び絶望が染め上げていく。

しかし。

「クッ―――ハハハハハハッ!!」

当のミカヅチは笑い始めた。

それは諦めからくるものではなく、ただ純粋に楽しいと言わんばかりの笑顔だった。

「なんで笑ってるの...?」

カタリナは呆然と呟く。
その困惑は清明ですら同じだったようで、先ほどまで浮かべていた薄ら笑いもこの時ばかりは成りを潜めていた。

「この俺がまるで赤子扱いだ...例え万全だとしても、結果は同じだっただろう」
「ならばなぜ笑う」
「かつてを...初心を思い出した。世界とははまだこんなにも広いものだとな」

ミカヅチの脳裏を過るのは、かつての記憶。
信念だとか忠義だとか、そういった大層なものではなく。
ヤマトの将軍職に就く前の、まだまだ幼く非力であった頃。
強さを求め鍛えていた時の、一歩進む度に為せることが増えていく高揚感。

ミカヅチは純粋に思う。
憎悪でも怒りでもなく、ただただ純粋に、目の前の漢を越えたいと。
ヤマトの為ではなく、ただ一人の武士(もののふ)として。

(煉獄よ、貴様もこんな想いだったのか?)

煉獄杏寿郎は、仮面の力を解放した自分とも互角に渡り合い最期まで食らいついてきた。
彼もまた、責務だけではなく彼自身として自分を越えたいと思ってくれたのだろうか。

「フーッ...」

呼吸を整える。
ミカヅチの想いに応えるように身体が燃えるように熱く、心拍数が目に見えて増していく。

だが、そんなミカヅチの内面になど清明は興味がない。

仮面の力も見た以上はもはや用済み。
符の群れを放ち、ミカヅチの身体を焼き尽くさんとす。

瞬間。

駆けた。ミカヅチは姿勢を低くし、符の軍勢を掻い潜り清明へと肉薄する。

その予想外の速さに清明は目を見開く。

(最後の力を振り絞ったか―――だが問題ない)

清明は再び五芒星の結界を眼前に展開する。

先ほどまでと同じく、剣と結界が衝突し火花を散らす―――はずだった。

―――ザンッ

斬った。
ミカヅチの剣が、五芒星の結界を裂いた音だ。

「なにっ!?」

清明の顔が驚愕に包まれる。
確かにミカヅチは一度は結界を破った。しかしそれはあくまでも連撃を重ねた上での成果である。
如何に即興で作り耐久性が低かったとはいえ、これまでの経緯を振り返ればたった一振りで破られる代物ではない。
仮面の力がまだ残っていたとしても、不可解にすぎる。

その動揺で固まった隙に、ミカヅチの剣は袈裟懸けに振り下ろされ、清明の身体に切傷が刻まれる。
清明は瞬時に後方へと跳躍し距離を取りミカヅチの様子を観察する。

(何が起きた...?)

あれだけ動きダメージを負ったならば動きは鈍るはずだ。
なにかタネがあるはずだ。なにか...

そして清明の目は捉える。ミカヅチの胸板に浮かび上がるモノの存在を。

(あれは―――)


煉獄杏寿郎は人間である。
如何に練り上げられようとも限界があり、それが鬼の始祖やそれに近い鬼を越えることは決してない。
それは世界が違っても同じこと。
ミカヅチは過酷な環境でも生き残れる亜人であり、且つ仮面の力を有しているまさに『人外』である。
対して、煉獄は身体能力を増す支給品もなく、有していたのは元来の世界からの炎の呼吸のみ。
その彼が、仮面の力を解放したミカヅチと渡り合い、あまつさえ死の瀬戸際まで追い詰めることが出来たのは何故か。


強い感情だけで鬼に勝てるならばもう鬼など存在していない。
彼らが強力な鬼に対抗する為には必要だったのだ。
例え寿命を縮めてでも身体能力を増すモノが。

鬼殺隊が飛躍的に戦力を増した呼吸の始祖・継国縁壱。
彼には生まれつき痣があった。
それに類する痣が周囲の剣士にも伝搬すると、その剣士は身体能力が飛躍的に増した。
それこそ、鬼の始祖・鬼舞辻無惨の側近、上弦の鬼にも比類するほどに。

痣が刻まれる条件は三つ。
①体温が三十九度以上になること。
②心拍数が二百を超えること。

上記二つは行動一つすら命に係わってしまう。
そこを越えられるか越えられないかが痣が現れる境目となる。

そして三つ目。
③揺らがぬ強い感情を抱くこと。

竈門炭治郎や時透無一郎が人に害為す鬼の所業に激しい怒りを抱いたように。
甘露寺蜜璃や不死川実弥が仲間や家族を護りたいという強く願ったように。
冨岡義勇が強者との戦いを通じ、倒すために次なるステージに進もうとしたように。

燃え盛る己の身体。
己よりも強い実力者との戦い。
そして揺らがぬ強い感情。

煉獄杏寿郎はミカヅチとの戦いにおいて全ての条件を満たし、『痣』を発現していた。

故に仮面を解放したミカヅチにもその刃は届き得たのだ。


―――そして今。


清明の符による灼熱。
清明という己を超える強者との戦いによる高揚感。
揺らがぬ強気意志。

条件は全て整っていた。



こんな逸話がある。
"痣の者が一人現れると、共鳴するように周りの者たちにも痣が現れる"

煉獄杏寿郎が死の間際に"痣"を発現したように。
ミカヅチの胸板には、龍のようにうねる紋様の"痣"が刻まれていた。

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