☆
―――ここはカタリア・クラエスの脳内。
タン、と木づちの音が鳴り響く。
その部屋には一目で個性的だとわかる同じ顔の少女たちが円卓を囲んでいた。
その部屋には一目で個性的だとわかる同じ顔の少女たちが円卓を囲んでいた。
「第二回カタリナ・クラエスがバトロワから無事生還するための作戦会議の開会を宣言します」
そう口火を切ったのは、木づちを片手に付け髭を着けた議長・カタリナクラエスだ。
「武人・ミカヅチを退けたカタリナ・クラエス一行を襲撃する新たな敵・陰陽師。これをやり過ごすための意見を募ります。カタリナ・クラエスさん、何か意見は」
「ハイ、議長!とりあえずぶっ潰せばいいと思います!」
「ハイ、議長!とりあえずぶっ潰せばいいと思います!」
真っ先に手を挙げたのは強気カタリナだ。
「顔つきといいムーブといいあれどう考えても悪者でしょ。話通じないNPC野盗でしょ。ジオルド達みたいに攻略法探すとかそういう問題じゃないって!だったらもうフクロ叩きにしてふんじばる!これしかない!」
シュッシュッとボクサーのように拳を突き出す強気カタリナ。
そんな彼女に反論するかのように弱気カタリナ
そんな彼女に反論するかのように弱気カタリナ
「で、でも...みんな疲れきってますし、相手がなにをしてくるかわからないし、逃げた方がいいんじゃ...」
弱気カタリナの言葉に一同はウームと押し黙る。
ミカヅチとの戦いでカタリナ以外の皆は疲労困憊している。
そのカタリナも戦闘ではトンと使い物にならないのもまた、自覚している。
ミカヅチとの戦いでカタリナ以外の皆は疲労困憊している。
そのカタリナも戦闘ではトンと使い物にならないのもまた、自覚している。
「大丈夫だよ~、皆で力を合わせればきっとなんとかなるよ~」
「そうよその通りよ!よく言ったわハッピーカタリナ!」
「そうよその通りよ!よく言ったわハッピーカタリナ!」
のほほんとした雰囲気を崩さぬままハッピーカタリナに同意するかのように強気カタリナが声を荒げる。
そうだ。そもそも本来ならば魔法学園でヒイラギイチロウとマッチメイクされた時点で、カタリナの運命は潰えていた筈だった。
それを乗り越えられたのはアンジュとあかりの助力があったからに過ぎない。
メイドの時も、琵琶坂とココポ、そしてヒイラギの協力のお陰で乗り越えられた。
今回のミカヅチ戦もそうだ。絹旗と高千穂と琵琶坂とココポとあかり、そして自分が力を合わせたからこそ勝利をもぎ取れた。
力を合わせればどんな局面も乗り越えられるはずだ。
そうだ。そもそも本来ならば魔法学園でヒイラギイチロウとマッチメイクされた時点で、カタリナの運命は潰えていた筈だった。
それを乗り越えられたのはアンジュとあかりの助力があったからに過ぎない。
メイドの時も、琵琶坂とココポ、そしてヒイラギの協力のお陰で乗り越えられた。
今回のミカヅチ戦もそうだ。絹旗と高千穂と琵琶坂とココポとあかり、そして自分が力を合わせたからこそ勝利をもぎ取れた。
力を合わせればどんな局面も乗り越えられるはずだ。
「そんじゃ行くわよ陰陽師戦!」
「お待ちください強気カタリナ」
「お待ちください強気カタリナ」
勢いづいて突貫しようとする強気カタリナを制するように眼鏡をかけた真面目カタリナが言葉を挟み込む。
「まずはミカヅチが血を吐いた原因を突き止めるべきではないでしょうか?下手人が陰陽師だとしたら猶更です」
「はぁ~!?今更なにそんな悠長なこと言ってんのよ!?そんなもん戦いながら考えればいいでしょ!?」
「そんな高等技術をカタリナ・クラエスが出来るとでも?そもそも今の私たちの状態であれと戦うこと自体が悪手ではないかと。やはり戦闘よりも逃走するべきです」
「逃げるったってどうやってよ!?あいつ空飛んできたのよ?変な札も使ってきたし!」
「だいじょうぶだいじょうぶ~、きっとなんとかなるって~」
「その根拠を示してくださいハッピーカタリナ。もはや事態は運だけでは転がせないのですよ」
「じゃああんたこそあれから逃げれるって根拠を出しなさいよ真面目カタリナ!」
「静粛に、静粛に!!」
「はぁ~!?今更なにそんな悠長なこと言ってんのよ!?そんなもん戦いながら考えればいいでしょ!?」
「そんな高等技術をカタリナ・クラエスが出来るとでも?そもそも今の私たちの状態であれと戦うこと自体が悪手ではないかと。やはり戦闘よりも逃走するべきです」
「逃げるったってどうやってよ!?あいつ空飛んできたのよ?変な札も使ってきたし!」
「だいじょうぶだいじょうぶ~、きっとなんとかなるって~」
「その根拠を示してくださいハッピーカタリナ。もはや事態は運だけでは転がせないのですよ」
「じゃああんたこそあれから逃げれるって根拠を出しなさいよ真面目カタリナ!」
「静粛に、静粛に!!」
ぎゃあぎゃあと喧騒が飛び交い始める議会場を鎮めるために議長カタリナが木づちを叩く。
しかしそれでも場は静まらない。
まるで結論を出すのを遠ざけるかのように真面目カタリナと強気カタリナの言い争いは苛烈し、時折ハッピーカタリナが楽観論を挟み二人の激情を煽っていく。
しかしそれでも場は静まらない。
まるで結論を出すのを遠ざけるかのように真面目カタリナと強気カタリナの言い争いは苛烈し、時折ハッピーカタリナが楽観論を挟み二人の激情を煽っていく。
「静粛に!静粛に...」
「もういいよ」
「もういいよ」
ここまで押し黙っていた弱気カタリナのその一言でピタリと議会が静まり返る。
先ほどまでの喧騒が嘘だったかのように、皆の注目が弱気カタリナに集う。
先ほどまでの喧騒が嘘だったかのように、皆の注目が弱気カタリナに集う。
「わかってるんでしょ...本当はもう答えは出てるんだって」
いつの間にか、彼女の服はカタリナ・クラエスの令嬢衣装ではなく白衣に変わっていた。
日本においてとある状況に着させられる装束に。
日本においてとある状況に着させられる装束に。
「認めたくなかった。だから強気カタリナが必死に議会をかき乱して、真面目カタリナが対抗するように理屈をぶつけて、ハッピーカタリナが話のコシを折ってきた。でも、ちゃんと現実を見よう?」
涙を流しながら顔を上げる弱気カタリナに対し、三人のカタリナは暗い面持ちで顔を俯かせる。
強気カタリナ
弱気カタリナ
ハッピーカタリナ。
真面目カタリナ。
そして議長カタリナ。
弱気カタリナ
ハッピーカタリナ。
真面目カタリナ。
そして議長カタリナ。
もはや木づちを叩くでもなく、彼女たち五人の結論は既に出ているようなものだった。
弱気カタリナの着ている服は経帷子。
死出への旅路に手向けられる死装束。
死出への旅路に手向けられる死装束。
誰が悪いわけでもない。フラグを踏み間違えたわけでもない。
それでも。
「私たちは、ここまでだよ」
きっとあると前向きに信じてきたHAPPYな『未来』は、もう訪れない。
【結論:GAME OVER】
☆
身体が燃え上がり悲痛な叫びをあげる高千穂。
親友が燃える現実を受け入れられず、情報の処理をできないあかり。
彼女たちを嘲笑う安倍晴明。
そんな地獄のような光景を放心し呆然と眺めるカタリナ。
後ずさる琵琶坂。
親友が燃える現実を受け入れられず、情報の処理をできないあかり。
彼女たちを嘲笑う安倍晴明。
そんな地獄のような光景を放心し呆然と眺めるカタリナ。
後ずさる琵琶坂。
真っ先に動いたのは絹旗とココポだった。
絹旗最愛は暗部の人間だ。目の前で人が死ぬなど日常茶飯事である。
その中に前振りのある劇的な死が果たしていくつあるだろうか?
否、大概はこうして不意に失われるものだ。
だから高千穂が燃やされようとも構わず行動に移すことができた。
その中に前振りのある劇的な死が果たしていくつあるだろうか?
否、大概はこうして不意に失われるものだ。
だから高千穂が燃やされようとも構わず行動に移すことができた。
それはココポも同じ。
彼女もまた主と共に戦場を駆けてきた戦士である。
先ほどまで会話していた兵士が物言わぬ肉塊になることなど戦場では当たり前のことだ。
故に反応できた。敵が誰であるか、護るべき者が誰かを即座に判断できた。
彼女もまた主と共に戦場を駆けてきた戦士である。
先ほどまで会話していた兵士が物言わぬ肉塊になることなど戦場では当たり前のことだ。
故に反応できた。敵が誰であるか、護るべき者が誰かを即座に判断できた。
絹旗は窒素装甲を纏った拳で高千穂の傍の地面を殴りつけ、彼女とあかりとついでにミカヅチの身体を吹き飛ばし清明から距離を取らせるついでに、その砂塵で彼女の身体を纏う火の勢いを弱める。
こちらに視線を向けるあかりには「高千穂を連れて逃げろ」と指示をし戦場を後にさせる。
こちらに視線を向けるあかりには「高千穂を連れて逃げろ」と指示をし戦場を後にさせる。
ココポは動けないでいるカタリナを琵琶坂のもとへと体当たりで突き飛ばし、清明に向かって駆ける。
絹旗の能力に口角を釣り上げる清明に向けて絹旗の拳が突き出され、微かに遅れてココポの跳び蹴りが襲い掛かる。
しかし両者の攻撃は通じず。
清明に当たる前に五芒星を描く障壁のようなものに塞がれた。
清明に当たる前に五芒星を描く障壁のようなものに塞がれた。
舌打ちと共に絹旗は離れ、ココポへと一瞬だけ目配せをする。
絹旗はもう一度正面から拳を放ち、ココポはその脚力を以てして高速で清明の背後へと回る。
絹旗はもう一度正面から拳を放ち、ココポはその脚力を以てして高速で清明の背後へと回る。
声明はココポを見ようともせず、絹旗だけを見据えている。
それほどまでに興味を抱いているのか、油断か。
彼女にはわからないがこれは好機だ。
ココポの跳び蹴りが清明の後頭部に迫り―――しかし、ガキンと甲高い音と共に防がれる。
背後の空間には既に小型の五芒星が貼られていたのだ。
それほどまでに興味を抱いているのか、油断か。
彼女にはわからないがこれは好機だ。
ココポの跳び蹴りが清明の後頭部に迫り―――しかし、ガキンと甲高い音と共に防がれる。
背後の空間には既に小型の五芒星が貼られていたのだ。
あのサイズでもなお発揮する防御力に、突破は無理だと判断するも既に遅い。
清明の放った呪符はココポの身体を燃え上がらせ、火にくるまれた彼女の悲鳴が響き渡る。
清明の放った呪符はココポの身体を燃え上がらせ、火にくるまれた彼女の悲鳴が響き渡る。
絹旗は高千穂の時のように地面に拳を打ち付け鎮火を試みる。だが、拳が地面に打たれる前に札が合間に入り込み衝突を防いだ。
打点を変えようと場所を移動しようとする絹旗。
しかし、既に彼女の周囲には陣が貼られていた。
打点を変えようと場所を移動しようとする絹旗。
しかし、既に彼女の周囲には陣が貼られていた。
(大丈夫、火なら―――)
窒素装甲とは文字通り窒素を使用する能力である。
火とは空気の酸素を燃やし生じる現象だ。
そのため、窒素を限りなく増やす一方で酸素濃度を限りなく減らしてやれば火の勢いを殺しダメージを軽減できる。
火とは空気の酸素を燃やし生じる現象だ。
そのため、窒素を限りなく増やす一方で酸素濃度を限りなく減らしてやれば火の勢いを殺しダメージを軽減できる。
「ガッ!?アアアアアア!」
だが、放たれたのは火に非ず。
全身を伝う電流の激痛に絹旗は悲鳴を上げた。
力なく倒れる絹旗は、歩み寄り笑みを浮かべ見下ろしてくる清明を睨みつける。
そんな彼女に、清明は札を放ち五芒星を描かせ電撃を浴びせ続ける。
何度も。何度も。何度も。
やがて悲鳴も消え、絹旗のもがいていた腕もパタリと地に落ちた。
全身を伝う電流の激痛に絹旗は悲鳴を上げた。
力なく倒れる絹旗は、歩み寄り笑みを浮かべ見下ろしてくる清明を睨みつける。
そんな彼女に、清明は札を放ち五芒星を描かせ電撃を浴びせ続ける。
何度も。何度も。何度も。
やがて悲鳴も消え、絹旗のもがいていた腕もパタリと地に落ちた。
「二人目...さて、どちらから向かうか」
☆
「クソ、クソ、クソッ!なんでこうなった!」
琵琶坂は悪態をつきながら必死に逃げていた。
ココポから押し付けられたカタリナとも既にはぐれてしまっている。
別にあんな小娘をどうこう思う訳ではないが、いざという時の盾くらいは欲しかったというものだ。
ココポから押し付けられたカタリナとも既にはぐれてしまっている。
別にあんな小娘をどうこう思う訳ではないが、いざという時の盾くらいは欲しかったというものだ。
全て上手く行っていたはずだ。
頭数が多く、リスクの少ない内にあかりを補助し強力な障害であるミカヅチを下し。
奴の身体を検分して人間ではないことを確かめ、害のないものだとカタリナを騙して、ゲッター線を身体に注入させ殺害し。
違和感なく邪魔者を排除したうえであかりを慰め確かな手駒にする。
頭数が多く、リスクの少ない内にあかりを補助し強力な障害であるミカヅチを下し。
奴の身体を検分して人間ではないことを確かめ、害のないものだとカタリナを騙して、ゲッター線を身体に注入させ殺害し。
違和感なく邪魔者を排除したうえであかりを慰め確かな手駒にする。
計画は完璧なはずだった。なのにあの陰陽師のせいで全てがオシャカだ。
このまま逃げおおせても、琵琶坂にはまだ梔子やのぞみといった脅威が残っている。
そんな中であかり達という手駒を失うのは非常に痛い。
このまま逃げおおせても、琵琶坂にはまだ梔子やのぞみといった脅威が残っている。
そんな中であかり達という手駒を失うのは非常に痛い。
「ふざけるな...終わってたまるか...!俺はこんなところで死んでいい人間じゃねえんだ!」
憎悪を滾らせるのと同時に己を鼓舞するかのように一人ごちる。
行先はどこか。
経過したのは10分か、5分か、あるいはもっと短いのか。
なにもわからぬまま、琵琶坂は一心不乱に駆け抜ける。
行先はどこか。
経過したのは10分か、5分か、あるいはもっと短いのか。
なにもわからぬまま、琵琶坂は一心不乱に駆け抜ける。
その背中目掛けて飛来する札に、琵琶坂は気づかない。
疲労で遅くなった彼の足目掛けてソレが着弾する。
「ギッ、アアアアアア!!」
脚を焼かれる激痛に琵琶坂の悲鳴が鳴り響く。
「鬼ごとは飽いたのでな。足は封じさせてもらった」
倒れもがく琵琶坂の眼前にふわりと清明が降り立つ。
「さて。貴様はここから私に何を見せてくれる」
頭上からかけられる声に対して、琵琶坂の脳髄は必死に打開策を模索する。
いま、奴は優位に立っていることで油断している。
ならばその隙を突くか?いや、ハッキリ言って自分の力ではまるで歯が立たないだろう。
それよりも、だ。この男が参加者を殺して回るつもりならば。
いま、奴は優位に立っていることで油断している。
ならばその隙を突くか?いや、ハッキリ言って自分の力ではまるで歯が立たないだろう。
それよりも、だ。この男が参加者を殺して回るつもりならば。
「...同盟を組もう。僕も優勝を狙おうとしていたところだ」
こちらの懐に入るべきだ。
全く気が合わない帰宅部に潜り込んだように。
全く気が合わない帰宅部に潜り込んだように。
「つまらぬ。ここでなにもできぬ貴様と手を組む道理などどこにもないわ」
―――ボッ
琵琶坂の提案を一蹴と同時に着火。
高千穂と同じように琵琶坂の身体は炎にくるまれ絶叫が周囲に響き渡る。
こちらをゴミのように見下す目に怒る余裕もなく、ただひたすらにこの苦痛から逃れようと手を伸ばし―――やがて、動かなくなった。
高千穂と同じように琵琶坂の身体は炎にくるまれ絶叫が周囲に響き渡る。
こちらをゴミのように見下す目に怒る余裕もなく、ただひたすらにこの苦痛から逃れようと手を伸ばし―――やがて、動かなくなった。
「三人目」
☆
全身を黒こげにした高千穂を背負いながらあかりは走る。
友達を死なせたくない。その一心で、既に何者かが争った痕があろうとも構わず、どことも知れぬ道をただ走る。
友達を死なせたくない。その一心で、既に何者かが争った痕があろうとも構わず、どことも知れぬ道をただ走る。
「だいじょうぶ...だいじょうぶだから。絶対に助けるから、高千穂さん...!」
絹旗のお陰で高千穂の身体の消火は済んだ。
けれど、焼けただれた唇から伝う呼吸はひどく掠れ、背中越しに伝わる鼓動も小さくなっていく。
それでもあかりは諦めない。
病院で適切な治療をすれば間に合うと、己に言い聞かせ、歯を食いしばり流れそうになる涙を堪えながらその足を前へ前へと進め続ける。
けれど、焼けただれた唇から伝う呼吸はひどく掠れ、背中越しに伝わる鼓動も小さくなっていく。
それでもあかりは諦めない。
病院で適切な治療をすれば間に合うと、己に言い聞かせ、歯を食いしばり流れそうになる涙を堪えながらその足を前へ前へと進め続ける。
しかし、彼女の尽力を嘲笑うようにその時は訪れた。
「――――」
ぼそぼそと高千穂の唇から、あかりの耳元へ言葉が囁かれた。
あかりは思わず立ち止まり、顔を彼女の方へと向ける。
あかりは思わず立ち止まり、顔を彼女の方へと向ける。
しかし、高千穂はなにも言わない。なにも反応を示さない。
代わりに、力を無くしたかのようにすべての体重を乗せてくる。
「高千穂、さん...?」
あかりは彼女に呼びかける。
何度も、何度も。
怪我人を揺らしてはいけないと教わっているはずなのに、何度も揺らして反応を待ち続ける。
けれどかえってくるのは空しい静寂だけ。
何度も、何度も。
怪我人を揺らしてはいけないと教わっているはずなのに、何度も揺らして反応を待ち続ける。
けれどかえってくるのは空しい静寂だけ。
「ぁ」
炭化した手足がボロリと崩れ、ドシャリと地に落ちた高千穂だったものをあかりは抱きしめた。
無駄だとわかっていても何度も何度も名前を呼び続けた。
流れる涙は、滴り落ちる度に現実を突きつける。
無駄だとわかっていても何度も何度も名前を呼び続けた。
流れる涙は、滴り落ちる度に現実を突きつける。
高千穂麗の生はここで終わったのだと。
「――――――――!!」
あかりは哭いた。
その叫びがなにをもたらすかを考えることもなく。
ただ無心で哭いた。
その叫びがなにをもたらすかを考えることもなく。
ただ無心で哭いた。
「あかりちゃん!」
その叫びを最初に聞きつけたのは、琵琶坂から逸れ彷徨っていたカタリナ・クラエスだった。
逸れた仲間と会えたのを喜ぶのも束の間、彼女の腕で眠る少女の姿に息を呑む。
逸れた仲間と会えたのを喜ぶのも束の間、彼女の腕で眠る少女の姿に息を呑む。
「嘘...高千穂さん...」
カタリナは絶句する。
つい先ほどまで一緒に笑い合っていた彼女の惨状は、カタリナから思考を奪うのには十分すぎた。
つい先ほどまで一緒に笑い合っていた彼女の惨状は、カタリナから思考を奪うのには十分すぎた。
呆然と立ち尽くすカタリナへとあかりは振り返り―――銃の引き金を引いた。
銃声と共にカタリナへと向かう弾丸は、彼女の頬スレスレを通り過ぎ、背後より迫る札を貫く。
「ひっ...」
思わず声を漏らし、へなへなと力なくカタリナは尻餅を着いてしまう。
そんな彼女を気遣う様子もなく、あかりはカタリナの背後の空間を鬼のような形相で睨みつける。
そんな彼女を気遣う様子もなく、あかりはカタリナの背後の空間を鬼のような形相で睨みつける。
「射撃の腕は大したものだが...貴様の力はそれだけか?」
カタリナの背後より現れた清明の姿に、カタリナはワタワタと地面を這いずり距離を取る。
「さて、残るは貴様らだけだが...せめてここまで足を運んだ甲斐があったと思わせてもらおうか」
清明の言葉に、あかりのこめかみがピクリと動く。
「...他の人たちはどうしたの」
「焼いた。他愛もなかったのでな。せめてやつらの最期の叫びだけは堪能させてもらったぞ」
「そう」
「焼いた。他愛もなかったのでな。せめてやつらの最期の叫びだけは堪能させてもらったぞ」
「そう」
言うが早いか、あかりの銃が火を吹き五発の弾丸を吐き出した。
照準を定めぬ早撃ち。
しかして、向かう着弾点は、寸分狂い無く清明の額・右目・左目・ノド・心臓部―――全て、人体の急所である。
清明は涼しい顔で五芒星の結界で弾丸を防ぐ。
照準を定めぬ早撃ち。
しかして、向かう着弾点は、寸分狂い無く清明の額・右目・左目・ノド・心臓部―――全て、人体の急所である。
清明は涼しい顔で五芒星の結界で弾丸を防ぐ。
「なるほど。その殺気、貴様はそれなりには楽しませてくれそうだ」
「煩い」
「煩い」
あかりの冷めた声音に、顔を上げた瞳に浮かぶ憎悪の色に、カタリナの背筋に怖気が走る。
「もうあなたの声なんて聞きたくない。消えて」
己に向けられている訳ではないのに、カタリナはあかりから放たれる殺気に身体を震わせる。
彼女から放たれるソレはヒイラギや咲夜のように大義の為にという責任感からくるものではなく。
また、ヴライのように此方をゴミのように見下すものでも、清明のように享楽でもなく。
ただただ憎悪と殺気の塊をぶつけられているような純粋な殺意。
彼女から放たれるソレはヒイラギや咲夜のように大義の為にという責任感からくるものではなく。
また、ヴライのように此方をゴミのように見下すものでも、清明のように享楽でもなく。
ただただ憎悪と殺気の塊をぶつけられているような純粋な殺意。
これが本当に自分の知る間宮あかりなのか?
さっきまであんなに『殺さないように』苦心していた彼女なのか?
さっきまであんなに『殺さないように』苦心していた彼女なのか?
怖い。仲間であるはずの間宮あかりが。どうしようもなく怖い。
カタリナが怯えている間にも戦闘は始まってしまう。
あかりは清明から放たれる札を撃ち抜き、躱しざまに放つ弾丸は全て清明の急所へと狂い無く放っていく。
あかりは清明から放たれる札を撃ち抜き、躱しざまに放つ弾丸は全て清明の急所へと狂い無く放っていく。
(わ、私はどうすれば...アンジュさん...!)
目を瞑り、共に戦った少女の背中に縋る。
―――己が務めを果たせよ
「――――!」
思い返す。
そう言われたのはあかりだけではない。自分もだ。
正直、自分の務めなんてわかっていない。けれど守られているだけでは駄目なのはわかる。
そう言われたのはあかりだけではない。自分もだ。
正直、自分の務めなんてわかっていない。けれど守られているだけでは駄目なのはわかる。
(私も何かしないと、ええと、ええと...!)
土ボコの魔法も浮いている清明にはなんの効果もない。
弱い自分に出来ることはなにがあるか、必死に周囲を探す。
弱い自分に出来ることはなにがあるか、必死に周囲を探す。
「!」
地面に突き立っていたモノに目が留まり、カタリナはすぐに駆け出した。
それは朱色の剣だった。
一応、護身程度(全くモノにはなってないが)の剣術は有している。
そんなものが何の役に立つかはわからないが、それでもなにもしない訳にはいかない。
それは朱色の剣だった。
一応、護身程度(全くモノにはなってないが)の剣術は有している。
そんなものが何の役に立つかはわからないが、それでもなにもしない訳にはいかない。
(待っててあかりちゃん、私も力になるから!)
剣を引き抜き、カタリナは振り返る。
―――バチィ
それと同時だった。
あかりが五芒星の電撃に身を焼かれたのは。
あかりが五芒星の電撃に身を焼かれたのは。
「あ...」
倒れゆくあかりの姿が酷くスローモーションに見えた。
しかし彼女の名前を叫ぼうとする己の口もひどくゆっくりで。
彼女の名前を呼び終える時には、彼女の身体は地に落ち白目を剥いた顔がこちらを向いた。
しかし彼女の名前を叫ぼうとする己の口もひどくゆっくりで。
彼女の名前を呼び終える時には、彼女の身体は地に落ち白目を剥いた顔がこちらを向いた。
「なかなか楽しめたぞ小娘。さて、残るは一人か」
息一つ乱さず愉悦の笑みを浮かべる清明は、ゆっくりとカタリナのもとへと歩み寄ってくる。
「はっ、はっ」
心臓が締め付けられるように痛い。
呼吸ができない。
頭がくらくらする。
視界が霞む。
足に力が入らない。
呼吸ができない。
頭がくらくらする。
視界が霞む。
足に力が入らない。
(嫌だ)
カタリナの胸を占めるのは恐怖。
あかりの敗北を悲しむよりも。皆を殺した清明への怒りよりも。
ただただ純粋な、彼女が破滅フラグを回避しようと思い立った根源たる生への欲求。
あかりの敗北を悲しむよりも。皆を殺した清明への怒りよりも。
ただただ純粋な、彼女が破滅フラグを回避しようと思い立った根源たる生への欲求。
「助けて...」
思わず漏れるのは、あまりにも弱弱しい救いを求める声。
彼女がただの一般人でしかないことの証左。
彼女がただの一般人でしかないことの証左。
「つまらん!貴様など生きている価値もないわ」
心底残念そうに声を荒げ、投げやりに燃え盛る札を投げつける。
(あっ、終わったわ)
ヴライの時もそうだったが、今まで散々破滅しないように抗ってきたが、いざ終わるとなるとすんなり受け入れられた。
自分は出来る限りのことはやってきた。
カタリナ・クラエスに転生する前よりも頑張って生きてきたと思う。
自分は出来る限りのことはやってきた。
カタリナ・クラエスに転生する前よりも頑張って生きてきたと思う。
自分の身体が燃えるのを見るのは怖いので、せめてあまり痛くないようにとそっと目を瞑った。
―――瞬間。
旋風が吹き荒れた。
なにが起こったかわからないカタリナは、未だに来ない痛みに疑問を抱きながらも頭を抱えて蹲った。
「な、なに?なんなの!?」
恐る恐る目を開けると、視界いっぱいに広がるのはゴツゴツとした肌色。
「え...」
信じられないモノを見たカタリナは目を見開く。
ありえない。だって彼は目の前で死んでしまったはずだから。
ありえない。だって彼は目の前で死んでしまったはずだから。
「うそ...なんで...」
しかし、確かに彼は目の前にいる。
下着一つでありながら、恥ずべきことなどないと言わんばかりに威風堂々と己が筋肉を見せつけ。
片腕でありながら、微塵もハンデなど感じさせないほどの威圧感を放つ漢。
大剣を肩に担いだあの漢。
下着一つでありながら、恥ずべきことなどないと言わんばかりに威風堂々と己が筋肉を見せつけ。
片腕でありながら、微塵もハンデなど感じさせないほどの威圧感を放つ漢。
大剣を肩に担いだあの漢。
「ミカヅチ...さん」
ヤマトの誇る筋肉将軍・ミカヅチは確かにカタリナの前に立ちふさがっていた。
前話 | 次話 | |
カラスウリの咲く頃に | 投下順 | 再会 |