バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

疾風怒濤

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kyogokurowa

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ここはC-3に位置する公園エリア。
公園には中心部をぐるりと囲むように、アスファルトの道が舗装されている。
健康のためのジョギングにはうってつけのロケーションではあるが、生憎とこの地は殺し合いの会場――。
暢気に散歩やジョキングを楽しむ参加者などは勿論おらず、ただ街灯による照明と夜風の音が漂うだけの殺風景な景色が広がっている。
そんな閑散とした道の外側――生い茂る草むらの中、柏木鈴音ことレインは身を潜めていた。

(――さてと、どうしたものでしょうか)

レインのこの殺し合いにおける行動スタンスは、脱出狙いと決めている。
そもそも彼女の異能(シギル)は直接的な戦闘には不向きである。
どちらかというと緊急回避及び情報整理に特化した異能(シギル)である。
レイン自身もそのことをよく理解しており、Dゲームにおいても、この異能(シギル)を上手く駆使して、『逃げ専』プレイヤーとして生き残ってきた。
この会場に飛ばされてからは、Dゲームアプリがインストールされているスマートフォンは手元から消えていたが、それでも異能(シギル)の行使に問題はないことは確認できている。

したがって彼女の行動スタンスは揺らぐことはない。

では、何故レインは草むらで息を潜め、このように逡巡しているのかーー
その答えは彼女の視線の先にあった。

「……。」

公園の中心部―ー様々な遊具が点在するその場所に、その男はいた。
街灯と月明かりによって顕になるのは、

顔のおおよそ半分を覆い尽くす禍々しい仮面――。
見るものを畏怖させるギラついた眼差しーー。
はだけた衣服から伺える筋骨隆々の身体――。
右手に備える黒光りする大太刀――。

その風貌だけ見れば、殺し合いに乗った危険人物と判断されても仕方がない。

仮面の男は静かに周囲に睨みをきかせつつ、園内を横断している。

深夜の公園にそんな男に遭遇するものなら、一般人は全力で逃げるだろう。
しかし外見だけで敬遠するほど、レインは浅はかではない。

会場からの脱出を狙うレインにとって、欲しいものは二つある。
一つは主催者の情報。【トリニティ】の支配人テミスのことは勿論知っている。
彼女は過去の大型イベントの勝利者特権により、ダーウィンズゲームを利用した賭博場の経営を許され、莫大な収入を得ている。
日常的に、ダーウィンズゲームというゲームの特異性と命を賭けたプレイヤー同士の争いを見せ物にしている女だ。
もしかすると、この殺し合いもその延長線上にあり、富豪層による賭博の対象になっているかもしれない。

以上のように、テミスについては相応の情報は持ち合わせてはいるのだが…。
問題は、テミスの傍らにいた白い少女―ーμだ。

テミスが言うには、この殺し合いの会場を用意したのはμだというのだが、まるで得体が知れない。
少年ドールという参加者は、μの知り合いだったようだが、他にμを知りうる参加者がいるのであれば接触を行いたいところである。

そして、もう一つ。
レインが情報と共に欲しているのは、協力者の存在である。
宝探しゲームでカナメ達と手を組んで、クリアしたように。
この殺し合いという鳥籠の中から、主催者の目を掻い潜り脱出するには、レイン一人の力では到底叶うことはできない。

だからこそ、レインは眼前にいる参加者の一人と思わしき男を見過ごすことはできず、こうして様子を窺っているのである。
勿論殺し合いに乗っていると分かれば、即座に退散するつもりだ。

白か、黒か…。
接触すべきか、逃走か…。
それを判断するためにも、レインは仮面の男の観察を続けていた。

万が一に備え、レインの手元には黒光りする拳銃がしっかり握られている。

(ベレッタ・モデル92……。私の支給品で武器と呼べる代物は、これしかなかったです。やはりスコープ付きの狙撃銃がないのは痛いですね)

恐らく主催者に没収されてしまったのであろうか、相棒ともいえるスナイパーライフルは手元にない。
おまけに、Dゲームがインストールされている自身のスマートフォンもないため、武器の追加もままならない。
勿論拳銃の取り扱いに苦手意識があるわけではないが、レインの強みはあくまでも遠方からの狙撃にある。
実戦下で2000mを超える距離からの超遠距離狙撃を成功させたこともあるレインにとって長距離用の狙撃銃がないことは、彼女が採りうる戦略の幅を狭めるものと同時に戦力を大きく削がれていることを意味する。

(現状を鑑みるにやはり戦闘だけは避けたいですね――)

と、そこでレインは思考を中断する。
観察対象の男が突如として、歩を止めたのだ。

そして、次の瞬間――。

「……っ!?」

まるで心臓を鷲掴みにされたような悪寒がレインを襲う。
男は眼光鋭く、レインが潜伏している草むらを睨みつけてきたのだ。
そのまま、大太刀を構え前傾姿勢を取る。

(気付かれたッ! まずいですッ、世界関数(ラプラス)――!)


世界関数(ラプラス)――Dゲームにより与えられたレインの異能(シギル)は、万物の動きを予測する能力である。
「戦う」のではなく「逃げる」ことで勝利を掴みとる彼女にとっては、うってつけの能力といえる。

だがーー

『動き』を予測できたとしても、それに対応できる身体能力を有さなければ、意味がない。
結論から言うと、十三歳の少女にとって、迫りくる男はあまりにも速すぎたのだ。

「ふんッ!」
「きゃあッ……!」

レインが退散する間もなく、距離を縮めた男は得物を豪快に振るい、草むらに叩きつける。
異能(シギル)で、大太刀の軌道を読み取り、辛うじてこれを躱すが、その風圧により幼き少女の身体は横殴りに吹き飛ばされ、アスファルトの道へと叩きつけられてしまう。

「――くッ!」
「悪いがここで死んでもらう。 気配を消しているつもりだったようだったが、残念だったな」

倒れ伏せるレインの耳に、近づいてくる足音が聞こえてくる。
レインにとって、その音が近づくたびに死期が近づくことを意味していた。

ピタリと足音が止まり、見上げると、今にも大太刀を振り下ろさんとする死刑執行人がそこにいた。その刀身は妖しく光っている。

「ッ!?」

そこで初めて男と目が合った。

女子(おなご)か」
「だったら、何だって言うんですか……」
「……。」

街灯と月明りに照らせれ、これから仕留める獲物が幼き少女であることを悟った男の動きは止まる。
そこに生じた僅かな隙を、レインは決して見逃さない。

まともに戦って勝てるとは思えないが。
柏木鈴音という自己の存在を潰えさないためにも。
億分の一の僅かな可能性に縋り。
手元の拳銃を強く握りしめ、反撃に転じようとした。


だが結果としてーー
銃弾が男の脳天を撃ち抜くことも、少女の身体が両断されることもなかった。

その瞬間ーーレインの世界関数(ラプラス)は捉えていた。

それは、どこにでもあるような自動販売機だった。
仮面の男の真横から物凄いスピードでそれは飛来してきたのだ。
それを察知した仮面の男は、ひらりと身を翻し。
ただ無言のまま、それを両断した。
そして、自販機が飛んできた方向を睨みつける。

一体何がーーとレインが釣られるように視線を向ける。
そこには怒声を上げながら、ズカズカと此方に近づくバーテン服の男の姿があった。







「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」

物騒な言葉を呪詛のように繰り返しながら夜道を歩く男が、一人。
その男の名は、平和島静雄。

『自動喧嘩人形』、『池袋最強』などとうたわれ、池袋界隈では恐れられている静雄ではあるが、彼自身は暴力を振るうことは好きではない。
争いごとに巻き込まれることなく、『平和島静雄』という名前が表すような、静かで穏やかな生活を送りたいと常々願っている。
だからこそ、このような悪趣味なゲームを主催し、静雄に暴力を強要させようとする主催者を許せなかった。

繰り返しになるが、平和島静雄は暴力が嫌いだ。
相手が女であれば尚更ではある。
だが、あのテミスという女は最初の会場で何の罪もない女の子の命を嬉々として奪いとったクズ女だ。
遠慮なんて無用、絶対に殺す!

剥き出しの殺意を言の葉として吐き出し続け、静雄は夜の街を徘徊する。
顔に青筋を立てて「殺す」と連呼するその言動は、傍から見ると誤解されかねないものではあるが、生憎と頭に血が昇った静雄にそこまで考える余裕はなかった。

やがて静雄は公園へと足を踏み入れる。
特に目的があって公園を立ち寄ったのではない、たまたま進行先に公園があっただけのことである。

「殺す殺す殺す殺す殺―――あ“ッ!?」

そこで発見したのは、街灯の下でおかっぱ頭の少女に刃を向ける仮面の男の姿であった。
その凶刃は今にも少女へと振り降ろされようとしていた。

先程まで「殺す」と連呼していた静雄は鎮まりかえり、じろりと辺りを見渡す。
そこで散歩道の脇に手頃な自動販売機が設置されていることに気付く。
静雄は自動販売機へと近づいていき、外箱の角部分を片手で握り締める。
理外の握力によって、掴まれた角部分はまるで取っ手のように変形していく。

静雄はそのまま自動販売機を持ち上げて、まるで野球選手のように大きく振りかぶる。
配線がブチブチと切れて火花が散るが、特に気にしない。

そして勢い殺さずそのままーー

「女の子にそんなもの向けてんじゃねえぞォ、ゴラァあああああッーーーー!!!」

積もりに積もった怒りを全てぶつけるが如くーー
女の子に襲い掛からんとする、仮面の男に向けて全力で投擲したのであった。







数百キロの重量の凶器が迫った瞬間、仮面の男――ミカヅチは寸前でこれを回避した上で両断する。
二つに分裂した自動販売機からはアルミ缶やペットボトルに詰まった飲料水が四散するが、彼の興味はそこにはない。
近くにはまだ少女がアスファルトの地面の上で座り込んでいるが、そこにも興味はない。
ミカヅチの敵意は一点、自動販売機を投げつけてきた下手人にのみ向けられていた。

対する下手人――平和島静雄も、ミカヅチを睨み返し、ずかずかと距離を縮めてくる。

「何者だ、貴様ァ……。」
「なぁ、おい。お前今その子に刃向けてたよなァ? そんな大きな刃で斬りつけられたら死んじまうってことは分かるよなァ? 分かっててやるってことは殺すつもりだったってことだよなァ? つまりお前は、この殺し合いに乗ってるってことでいいんだよなァッ!?」
「――だとしたら、どうするつもりだ……」
「だったら何されても文句は言えねえよなぁッ、このゴミ野郎がァあああああー!!!」


半ば八つ当たりに近いような形で、感情を爆発させる池袋最強。
仮面(アクルカ)に選ばれしヤマト左近衛大将。
二人の怪物による殺し合いが始まった。

地を震わすような咆哮を上げながら、静雄は傍らにある街灯に手を伸ばし、まるで芋ほりのように簡単にそれを引っこ抜くと、ミカヅチの頭蓋に向けて叩き落す。
ミカヅチはというと表情を一切変えずに、これを難なく躱す。
ド派手な衝突音とともに大地が割れる。

これを引き起こす平和島静雄という怪物は、言うなれば活火山。
怒りという名の火砕流をぶちまけ、大地に破壊の痕跡を残す。
しかし、平和島という活火山に相対するミカヅチという男もまた怪物である。
たった一騎で数千の敵兵を蹂躙するとうたわれる、彼は言うなれば超大型ハリケーン。
その俊敏さを以てして、振り回される街灯を掻い潜っていく。
まるで稲妻のように静雄の懐へと肉薄し、支給品である大太刀を掲げる。

「てめえッ……!」
「散れいッ!」

顔を顰める静雄に、ミカヅチは処刑宣告とともに剣を無慈悲に振り降ろす。
狙うは荒れ狂う男の首、唯一つ。
この状況、この間合い。間違いなく回避は追いつかない。
通常の戦場であれば、首を刎ねて決着だ。
ミカヅチは必殺を確信する。


だがーー。


平和島静雄という怪物はあまりにも規格外だった。

「何ぃッ!?」


ミカヅチの刃はその侵攻を妨げられる。
静雄は自身に迫りくる刃に白い歯を立て噛みつき、その侵攻を阻んだのである。
刃を握る腕に更に力を込めるが、全く動じる気配はない。
それどころか、大太刀はガチガチと軋み、悲鳴をあげている。

「貴様ァ……!」
「んぬおおおおおおりゃあああああッーーー!!!!」


静雄はミカヅチを睨みつけたまま雄叫びを上げ、上体を思い切りに回転させる。
そのまま、咥えていたミカヅチの得物を解放すると、その遠心力を以ってミカヅチの身体は宙へと舞った。
そして、流れるように手元にある街灯を全力でぶん投げた。


「舐めるなよォッ!」

夜の空の中、ミカヅチは身体を翻し、一閃。飛来する街灯を叩き斬る。
しかし着地の瞬間に、第三の投擲物――。
静雄が、その辺からひっぺ返し投げ飛ばしてきた滑り台が襲い掛かる。
普段であれば園児達を乗せ、何とも微笑ましい情景を演出させる遊具であったとしても、猛スピードで突っ込んでくるのであれば、それはまるでダンプカー。
常人に直撃すれば、即死へと繋がる凶器へとなり替わる。

「ぬッ!」

迎撃も回避も間に合わないと判断したミカヅチは瞬時に、大太刀を前面に盾のように構え、受け身を取る。
果たして滑り台はミカヅチへと着弾し、ミカヅチの五体は後方へと跳ね飛ばされる。
防御態勢を取ったことである程度の勢いは殺せたものの、その身体はボールのように地面をバウンドしていく。
ミカヅチは直ぐに起き上がり、反撃に転じようとするが。
そこに迫るは、突進してきた最強の男の拳――。

「うぉおおおおおおッ―――!」
「……。」

しかし、静雄の全力の拳は空を切り、その先にある大木を薙ぎ倒す形となってしまう。
チッと舌打ちをする静雄。
その真横で長髪を靡かせるはミカヅチ。
今度こそ隙だらけの静雄の胴に刀を振り下ろす。

その瞬間、鮮血が夜の公園に飛んだ。

「やりやがったな、この野郎ォオオオオオッーーー!!!」

静雄は自分の胸元が赤く染まったのを見て激昂し、さらに殴りにかかる。
ミカヅチに対する怒りのボルテージは更に高まったようだ。

対するミカヅチは、相変わらず澄ました顔を浮かべて攻撃を捌いているが、内心では困惑する。

「(何者だ、この男は……)」

ミカヅチはヤマトの國ではその名を知らぬ者はいない、一騎当千の武士である。
仮面(アクルカ)の力を借りずとも、大岩や鉄製のものを真っ二つにすることなど造作もない。それに加えて、支給された刀の切れ味も悪くはない。

しかし、この目の前の男は何だ。
細身の身体からはまるで想像できないような怪力で、重量物を軽々とぶん回すわ。
差し迫る刀身に猛獣のように噛みつき、斬撃を防ぐわ。
殺し合い経験が豊富なミカヅチを驚愕させるような攻守を展開してくる。

がら空きの身体に叩きこんだ渾身の一撃も、まるで手応えがなかった。
出血量からも察するに、傷はまるで浅い。
致命傷になるどころか、更に闘争心を昂らせて、こうして拳を撃ち込んでくる。


その拳の威力は、まるであの男を想起させる。


剛腕のヴライーー。
ヤマト八柱将の一人で、仮面の者(アクルトゥルカ)の漢。
目の前の漢は、彼の者との闘争を彷彿させていた。
思わぬ強敵との邂逅、そして死合いーー。
それは、冷徹にこの殺し合いに乗ると決めていたミカヅチの胸を高鳴らせる。

面白い、と口角を吊り上げるミカヅチに、静雄は「何笑ってんだ、てめえ!!!と道端のベンチを引っ張り上げ、襲い掛かる。
ミカヅチは上体を反らし、これを回避。
間をおかず静雄の胴へと斬りつけるが、やはり手応えはなく、数センチメートル程度浅い傷が残るのみとなる。
静雄はというと、胸元から滲む出る自身の血を見て、さらに激昂する。

尚も攻防は続く。

平和島静雄はとにかく目につくものを片っ端から引っこ抜き、即席の得物としてミカヅチへと叩きこむ。
ジャングルジム、ブランコ、うんていに鉄棒……あらゆる公園遊具が、怒れる怪物の手によりむしり取られて凶器へと成り果てる。
対峙する武士は、その悉くを避け、ときには両断する。

更に斬撃をいくつか静雄へと見舞うが、やはり浅い傷を残すのみとなる。

やがてーー

「(埒が明かん……)」

平和島静雄との攻防を続けていくうちに、ミカヅチは眼前の強敵を葬り去るためには、出し惜しみ出来ない、と判断した。
まさか序盤も序盤、これほどの強敵と相まみえることになるとは、想定していなかった。
少々名残惜しい気もするが、背に腹はかえられない。

決断するやいなや地を蹴り、後方へと跳びあがり、ガードレールを振り回す静雄から、距離を取る。

「逃げてんじゃねえぞォ、ゴラァアアアッーー!!!」

静雄は大地を震わせるような叫び声を上げ、猪突猛進。
ミカヅチへと猛スピードで、駆け抜ける。

迫りくるは、天地を喰らわんとする猛獣――。
ミカヅチはその様子を双眸で捉えながら、己が仮面へと手を添える。

「我は鳴神也。仮面(アクルカ)よ。無窮なる力以て、我に雷神を鎧わせたまえ」

眩い雷がミカヅチの身を包む。
と同時に、大振りに剣を振りかざす。
端から見ても、何かを仕掛けようとしているのは明らかである。

しかし、そんな光景を目の当たりにしても、平和島静雄は止まらない。
怯むことなく接近する難敵を前に、ミカヅチは笑みを浮べ、そのまま切り札となる一撃を解き放った。


その瞬間――真夜中の公園に閃光が走り、轟音が鳴り響いた。




仮面(アクルカ)の力を解放したミカヅチの渾身の一撃は、凄まじいものであった。
公園の三分の二は荒地へと成り果て、緑豊かな草木は焼きただれ、整備した道は土に埋もれ、
無造作に散らかっていた公園遊具や街灯、自販機などは焦げており所何処が帯電しているように見える。
ヤマト國の帝より与えられた仮面(アクルカ)の力は、まさに無双の兵器と呼ぶに相応しいと言えるだろう。

「――おい……」

だが、しかしーー

「――何……だと!」
「痛てぇじゃねえか、この仮面野郎がぁ……!」

仮面(アクルカ)の力を以てしても、平和島静雄という存在を、消し去ることは叶わなかった。
驚愕するミカヅチを目前にし、静雄はのそりのそりと近づいていく。

身に纏うバーテン服はズタボロとなり、半裸状態となっている。
雷撃によって所々が焼き焦げて、今もなお煙が纏わりついている。
荒い呼吸でゆっくりと歩くのが精一杯なところから、さしもの静雄でもダメージの深刻さが窺える。
それでも、その闘争心と怒りは尚も噴火を続けている。

――上等だ。

尚も立ち向かってくる不屈の怪物を迎え撃つべく、ミカヅチは身体を動かそうとするが、其処で自身の身体に違和感を覚える。

(っ!!? 身体が鈍い……。たった一撃で、これほどの消耗か……)

本来、仮面(アクルカ)は、超常の力を授ける代償として、使用者の命を削る禁忌の兵器だ。
したがって、たった一度能力を行使したとしても、多少なりとも消耗は発生する。
それはミカヅチにとっても覚悟の上だ。

だがそれでも、これほどの消耗は異常だ。
戦場で使い慣れている仮面(アクルカ)がまるで別物のようだ、と感じた。
そして、この違和感の原因は恐らくーー。

(おのれーー。あのテミスという女、俺の仮面(アクルカ)に細工をしたな!)

折角出会えた好敵手を相手に全力で闘えないという苛立ち。
帝より賜った仮面(アクルカ)に細工されたという怒り。
ミカヅチの心は、主催者への憎悪で溢れかえる。

やがてーー。

「興が削がれた。 勝負は預けたぞ……。」
「あ“っ!?」

迫りくる静雄に背を向けて、歩み出す。

「おい、こら待て。どういうつもりだ、コラァッ!」
「……。」

釈然としない静雄が呼び止めようとするが、ミカヅチの足は止まらない。
そして一点、彼方の草むらを見つめる。
その瞬間、びくりとその草むらが騒めいた。

「貴様は精々、拾った”命”を大切にするといい」

と言い残し、足早に闇夜へと消えていった。
静雄が尚も大声で何かを叫び続けるが、彼が其処に戻る気配はなかった。





「まさか、あれほどの男と早々に出会うことになるとはな……。」

公園から離れること数百メートル。
ミカヅチは、先程の平和島静雄との戦闘を回想する。

素人丸出しの隙だらけの型ではあるがーーあのヴライに匹敵するほどの腕力と強靭な肉体。
それに加えて、あの不屈の闘志――。
武芸に通じる身として、彼の者との死合いに心躍かないわけがない。

だが、あの男との決着は今ではない。

仮面(アクルカ)による消耗が増幅されていると分かった以上、強者との闘争にかまけて能力を必要以上に乱発するのは、命取りとなる。

ミカヅチは何としても、帰還せねばならない。
なぜならミカヅチの身命は、ミカヅチのものだけにあらず。
亡き帝より授けられたヤマトの民を護るという使命のため、ミカヅチは悪鬼羅刹となり優勝を目指す。

その為であれば、例え相手が女子供であろうとーーー。

「く……ッ」

ミカヅチは、戦人ではあるが、決して快楽殺人者ではない。
ヤマトの國を護り、民を虐げる悪を誅する義侠の漢である。

そんな彼の脳裏に浮かんだのは、先程自身が手に掛けようとした幼気な少女の姿であった。
歳は恐らく10代前半か。
目下に泣き黒子を伴い、幼さが残る瞳を潤わせながら、此方を見上げる容姿はまるでーー。

『イヤです、退かないです!』
『先ほども言ったように、(あに)さまは怪我をしているのです!』
『どうか剣を引いてくださいです、ミカヅチさま!』

「ぬゥ……」

嫌なことを思い出してしまった。
あれは二人の”友”と訣別をした日のことだった。
あの時は本当に胸が痛んだ。
迷いも生じた。
だがそれでも。
俺は奴等と敵対する道を選んだ。
そうだ、一体何を迷う。
あの日、奴等と訣別をしたときから、答えは既に出ているのではないか。

「……殺す」

覚悟は決めた。
邪魔立てするのであれば、女子供であろうと、今度こそーー。

「俺は覚悟を決めたぞ、ハク……。いや、”オシュトル”よ。 貴様はこの状況どう動くつもりだ……。」

会場のどこかにいるであろう宿敵(とも)の姿を思い浮かべ、ミカヅチは静かに天を仰いだ。



【C-3 南部/1日目/深夜】
【ミカヅチ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]: ダメージ(中)、疲労(中)、覚悟、主催者への怒り
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミカヅチの仮面、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品1つ
[思考]
基本:ヤマトの民を守るため、優勝して元の世界へ戻る
1:参加者を見つけ出して、殺す
2:先程の男(平和島静雄)との決着はいずれ……
3:オシュトル(ハク)とも決着をつける。姫殿下については……
4:覚悟は決めた。立ち塞がるのであれば、女子供であろうと容赦しない
[備考]
※参戦時期は少なくともオシュトル達と敵対していた頃からとなります。
※仮面の力に制限が課されていることに気付きました。






ミカヅチという大災害が去った戦場。
至る所に暴力の残骸が散らばる公園の中で、二人の男女が会話をしている。

「なるほど、このやくそうなる支給品の効果は真実のようですね」
「……みてえだな。さんきゅな、レインちゃん」
「借りを返したまでです、平和島さんが来なければ、私はあのまま斬られていましたから。 それとちゃん付けは結構です、私はれっきとした中学一年生ですので……」

おぉう…と、多少やり辛そうに返事をするのは平和島静雄。つい先ほどまで仮面の男ミカヅチと殺し合い、整った公園を見るも無残な更地へと変えた主役の一人である。
もう一人はレイン。ミカヅチに襲撃されていたところを、平和島静雄によって命を助けられた少女である。

静雄とミカヅチが本格的に戦闘を始めたときーー
レインは、化け物同士の殺し合いに巻き込まれないよう避難を行い、草むらに隠れて遠目に二人の戦闘を観察していた。
静雄はレインの存在などすっかり忘れて、暴れ回っていたが、どうやらミカヅチはレインの隠密行動を把握していたようだ。
ミカヅチが去り際にこちらを一瞥してきたのは、生きた心地がしなかった。

そしてミカヅチが完全に立ち去ったことを確認すると、レインは意を決する。

――やはり、今は一人でも多くの戦力が欲しい

レインは、何やら喚き散らしながらミカヅチを追い駆けようとしていた静雄を呼び止めたのであった。
当初は鬼のような形相を浮かべていた静雄であったが、レインに声を掛けられるとハッと我に返り、やがて落ち着く。
その反応を見てレインは、静雄のことを沸点は低いが最低限の思慮分別(ブレーキ)を利かせることが出来る人間と評価した。

その後二人は軽めの自己紹介を行い、レインは自身の支給品であるやくそうを静雄に与えたのであった。
レインが強く推したため、「苦ぇ……」と文句を言いながら、渋々と齧っていた静雄ではあったがーー
やがて体の至る所についた切傷や火傷はみるみるうちに回復していき、現在へと至る。
本当は「やくそうーー食べると傷が治ります」という胡散臭い説明書きに偽りがないかの人体実験も兼ねていた、ということは口が裂けても言えない。

静雄は癒えた身体の具合を確かめるかのように、拳や指の関節を鳴らしている。
その視線は、既に先程の仮面の男が向かった方向を見据えている。
今すぐにでも「よしっ、ちょっとあいつぶっ殺しに行ってくるわ」と言いかねない雰囲気だ。

だが、そうはさせるものか。

「よし、傷も癒えたことだし、さっきのあいつぶっ殺――」
「平和島静雄さん、貴方に一つ提案があります。」
「あん? 何だよ、改まって」

先程の男とまた殺し合いを始めてしまったら、今度こそ命を落としかねない。
折角巡り合えた一大戦力をここで失うわけにもいかないのだ。

「このゲームから脱出するため、私と手を組みませんか?」

だからこそ、これから交渉を行い、彼の感情を上手くコントロールすることにしよう。
ここは『解析屋』レインとしての腕の見せ所だ。



【C-3 公園/1日目/深夜】
【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:健康
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実
[道具]:基本支給品一色、やくそう×4@ドラゴンクエストビルダーズ2、不明支給品1つ(確認済み)
[思考]
基本:会場から脱出する
0: 平和島さんを仲間に引き入れる
1: 【サンセットレーベンズ】メンバーとの合流を目指す
2: 狙撃銃が欲しいところです
3: μについての情報を収集したい
4: 王、ヒイラギイチロウを警戒
[備考] 
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております


【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、全身火傷(小)、全身に複数の切り傷(小)、やくそうにより回復中
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品3つ
[思考]
基本:主催者を殺す
0:まずはレインの話を聞いてみる
1:さっきの仮面野郎は絶対殺す
2:セルティと新羅を探す
3:ノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す
[備考]
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
仮面(アクルカ)による閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。



前話 次話
ドワワワォ!~ようこそイクストローディネリィ~ 投下順 インフィニア

前話 キャラクター 次話
GAME START 平和島静雄 どうしようか?
GAME START レイン どうしようか?
GAME START ミカヅチ 闇を暴け(中)
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