バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

裁定、そして災害(後編)

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 病院の一階。
 一通りの、話も終わり、カナメと霊夢はフレンダを引きずるようにして、病院から連れて出て行った。

 フレンダは最後まで「本当に殺されたりしないよね!?」などと、言っており、何度も確認をとっていたりしたが。

「本当に大丈夫でしょうか?」

「正直、不安は大きいが――今はあの二人に任せるしかないな」

 九郎がブチャラティに問うが、不安はあるが今はカナメと霊夢に任せるしかない。

 ちなみに、フレンダからは出ていく前に敵対する可能性が高いグループの一人である麦野の人物像、そしてその能力である『原子崩し』などに関しても情報を提供させてある――というか、減刑目当てもあってか自分からあっさりと喋った。

 フレンダも麦野に対し、何だかんだでリーダーとしての信頼や情もあるが――それはそれとして、自分の命と天秤に乗せれば後者の方が重い。
 こうなった今、敵対化する可能性が高い麦野に関しての情報を隠す気もなくなっていた。

「君はこのまま俺達といていいのか?」

 ここで病院の方に残る事になった、梔子に問いかけるように訪ねた。

「構わない。このまま、レイン達のところへ行っても二度手間になる」

 元々、レイン達と別れて多くの参加者と接触するのが梔子の目的だ。
 ならば、すぐに合流してしまうよりは他の参加者であるブチャラティ達のグループとしばらく一緒にいた方が良いだろう。

(ウィキッド、か)

 ウィキッドを狙うと公言していた、カナメと霊夢。
 かつて彩声との話し合いの際は、あまり好ましくない相手とはいえウィキッドへに対して最低限の仲間意識は存在していた。
 しかし、この会場で起きたというStorkとウィキッドの件を聞いてしまい、その最低限の仲間意識も薄れ、自分の知っている限りの情報も話した。

(これで良かったのだと、思いたいが)

 そんな風に考えていた梔子に対し、ブチャラティは「そうか」と頷いてから続ける。

「さて、これからの事だが――ひとまず、ついてきて欲しい」

「何かあるんですか?」

「ああ。さっき、誰か侵入者が来た時に備えて罠でも仕掛けられないかと一階を色々と探っていた時に見つけたものがある」

 そう言って、ブチャラティは歩き出し、二人がそこに続いた。
 しばらく歩いていくと、幾度かの交戦によってあちらこちらが戦闘痕がまだ残る壁へと辿り着く。

「ここだ」

「ここがどうかしたんですか?」

「さっきそこの近くの部屋に入ってみたのだが、どうも狭いように感じてな。よく見ると、少し壁の色も違っていたからもしやと思って、みたら――だ」

 そういって、その壁に『スティッキィー・フィンガーズ』によってつけられたジッパーから入り込む。

「ここは……」

 続いて九郎と梔子も入ってみて、そこが何か分かった。

「隠し部屋、ですか?」

「ああ。判りにくい場所にあったしここを拠点にしていたというチョコラータも、気づいてはいなかったのだろう」

 この病院も決して小さくない。
 チョコラータがどの段階で病院を拠点にしていたかは分からないが、それでもせいぜいが数時間。凡その部屋を把握するので精一杯だろう。

「それで一体、ここには何があるんですか?」

「いや、俺もさっき見つけたばかりだ。その件で皆に相談しようと思っていた時に、あの騒ぎでな」

「そうでしたか」

 今は昼間だが、いっさい光の当たらない位置に配置されているため室内は暗い。
 灯りをつけると、部屋の中の様子が見えはじめた。

 ただ、「身体ストック室」と書かれたプレートが目立つ位置に書かれてあるが見えた。

 そして、室内には数十体の黒い布に覆われた箱が置かれてある。
 しかも、その下にはネームプレートがあった。全てが見覚えのある名前だ。


 「ブローノ・ブチャラティ」や「桜川九郎」を含む、参加者達の名前ばかりだ。「ジョルノ・ジョバァーナ」や「弓原紗季」といった、既に退場済みの者も含めて70以上の名前が並んである。

「何だこれは……」

 ブチャラティが呟く。
 そして、そのうちの一つ。自分の名前の書かれたとこの布を取っ払うと、そこには、左右の腕や両足。さらには、眼球や臓器といったものまで保存液らしきもの漬けられてに入っている。

「身体ストックって書いてありましたね」

「身体の一部が欠けるような事があれば、これを使ってくださいという事か」

 いかにも、病院らしい隠しギミックといったところか。
 有効にお使いくださいと言わんばかりに置いてある。

 霊夢も、病院にこんな部屋がある事を知っていれば、回り道して指を回収などしなくて良かったかもしれない。

「これはまた、悪趣味だな」

「そうですね」

 確かに、この戦いではこういったものが役立つ機会も多いだろう。
 チョコラータのような優れた医療技術を持つものや、ブチャラティの能力とは相性が良い。
 あるいは、これを「素材」として利用できるような真似もできるかもしれない。

 だが、それはそれとして自分の身体の部品のあちこちが入っているのはいい気分ではない。

「しかし、どうやってこんなものを用意したんだ?」

 適当な人間の身体をバラして用意したというのならば、まだ分かる。
 だが、各参加者達にぴったりとあう身体の部品など、どうやって用意したというのか。

「ここがメビウスに近い世界だというなら、不思議な事ではないと思う」

 ここで梔子が口を挟んだ。
 メビウスにおいて、死は現実と同様に変わらない。
 あの琵琶坂もその法則に従いメビウスで死に、現実でも――梔子には確認する手段はなかったわけだが――同様に死んだ。

 だが、逆に死に至らなければ、いかに重傷であっても治す――というよりは直す事ができる。
 事実、琵琶坂によって生き残ったシャドウナイフも本来は後遺症どころか一生車椅子生活でもおかしくないほどの重傷だったにも関わらず、あっさりと元に戻っていた。
 身体の欠損箇所をこうやってわざわざ用意してある分、むしろ不便になっているとすらいえる。

「メビウス、か。君はそこで楽士と言われる存在だったんだったな」

「そうだ。だがあまり期待されても困る。さっきも言ったが、私もそこまで多くの情報を持っているわけでもない」

 楽士などといっても、決して対等だったわけではない。実質的にはソーンが一人で取り仕切っており、梔子自身はメビウスに関してそこまで詳しいわけでもない。
 また、彼女に限らずほとんどの楽士はメビウスで現実では叶わなかった理想を叶える事ができさえすればそれでよく、それ以上の事に興味はなかった。
 梔子にしても琵琶坂の件がなければ、あそこまで執拗に帰宅部と戦う気も起きなかったかもしれない。

「それにしても、やっぱり元々ない箇所は用意されていないみたいですね」

 そんな中、九郎は岩永琴子のネームプレートがついた箇所の箱の中身を見ていた。
 そこには、ブチャラティや他の参加者達と違って眼球と足が片方ずつしかない。

「そういえば、お前のいう岩永琴子は一眼一足だったといっていたよな」

「ええ。予想はしていましたが」

 九郎の答えに、ブチャラティは新たに浮かんだ疑問について考える。

(元の世界の記憶にある身体をそのまま再現、というならば俺の身体もおかしな事になる)

 ブチャラティの身体は完全に死んでいたはずであり、今のブチャラティが生きた身体を得ているという事そのものが妙な事になる。

(こちらに来た瞬間のまま再現されているというわけでは、なくあくまでその当人が知る最も自然な状態で身体が再現されていると考えるべきか)

「梔子。メビウスでは、確か顔どころか身体も好きに変える事ができるという話だったな」

 それに梔子は、コクリと頷く。

 メビウスでは、本来、身体も自由に決められる。
 梔子は、顔や身体にコンプレックスがあったわけではないが、イケPのように顔に悩みがある者は違う顔が用意されていたし、スイートPのように性別すら違っている者すらいる。


「だが、俺達の場合はそうじゃない。それに俺の知る限り、これまで会ってきた参加者は全員そのままの顔や身体のようだし」

「そうですね」

 アリアも新羅も、先ほどのカナメや霊夢もそんな事はいっさい言っていなった。
 好きに身体をいじっていいなら高身長でナイスバディな身体に、などと言いかねないな――などと九郎は自分のよく知る知恵の神の事を頭に浮かべる。

「やっぱり、本人が馴染んでいる自然な身体になる――という事でしょうか?」

「かもしれない。Storkも私の知る姿だったようだし、私達楽士や帰宅部がメビウスの姿なのも、こっちの顔や身体が馴染んでいるからそのまま再現されているのかも」

「それに、妙といえば妙なんですが……」

 そう言って、九郎は言葉を続ける。

「僕の身体のストックまである事もおかしいといえば、おかしいんですよね」

 九郎は、不老ではないが不死の身体だ。その事は、ブチャラティも聞いている。
 ジオルドとの闘いでも、しっかりとそれは機能していた。

「それに、無惨という男も驚異的な再生能力があると言っていたな」

 ここには、無惨の身体のストックもしっかりと用意されている。
 無惨は鬼という種族の首魁に相応しく、一部の例外的な手段を除いて死ぬ事がない存在らしい。
 さらには、身体を吹き飛ばされても瞬時に再生してしまっていたと、垣根も話していたはずだ。

「主催者側が、それを把握していないはずはないしな」

「ええ。本来は、不要なはずの存在のはずだというのに。 ……もしかしたら」

 ここでふと気がついたように、九郎が呟く。

「どうした?」

「何かしらの手段で、僕や無惨という人が再生能力を失う可能性があると判断されているのかもしれません」

「再生能力を?」

 ベルベット・クラウが新たに力を得て変貌したのとは、逆のケース。
 この会場で新たに能力を手に入れるのではなく、逆に持っていたはずの力を失う可能性。確かにありえないというわけではない。
 事実、九郎は最初からくだんの未来予測が使えない状態だ。

「そういった手段があると?」

「ええ。あくまで僕の考察ではありますが」

「そうだな。しかし、そういった事が可能なら。 ……いや、この考察は後にしよう」

 だが、そんな風に考えていた事をブチャラティは中断する。
 優先しなければならない事、それを間違える気はない。

「そうですね。せっかく、使えるものがあるんですから」

「ああ、これはこれで使わせてもらうとしよう」

 早速、というべきか使い道がある。
 二人は、「ライフィセット」と書かれたネームプレートのある箱の所へと向かった。



◇  ◇  ◇



「スティッキィ・フィンガーズ!」

 二階へと上がり、ライフィセットとシルバがいる病室へと戻った後、持ち出したライフィセットの腕が、ブチャラティのスタンドによって接合されていく。

 ジョルノがメローネとの闘いで自身のスタンドを進化させるまで、ブチャラティチームのヒーラーともいうべき役割を担っていた。イルーゾォ戦のアバッキオやトリッシュがボスによって腕を奪われた時などにも使われており、つい先ほど霊夢の指を繋げたのもこれによるものだ。

「それがスタンド、か。さっきも見たがやはり不思議な力だな」

 最初に見た時のアリアや九郎のような言葉を、梔子が口にする。
 スタンド使いでもない人間からすれば、急に人から人形のような存在が現れるのだ。
 カタルシスエフェクトも似たようなものといえばそうだが、やっぱり奇妙な気分にはなる。

「とりあえず、問題は一つ解決したが……」

 ブチャラティは、さほど安堵した様子は見せない。
 少年の両腕こそ元に戻ったものの、相変わらず全身を蝕む穢れはそのままなのだ。

「……この子は大丈夫なのか?」

「両腕は何とかなったが、まだ穢れの方の問題が残っているからな」

「穢れ?」

「ああ、そういえば詳しい説明はしていなかったな」



 一応、ライフィセットの事などに関して、ある程度の説明は先ほどもしていたが、詳細はまだだ。

 ブチャラティが説明していく。
 ライフィセット本人や、垣根からの情報も交えてだ。
 彼の出身世界の事などもだ。

「……聖隷に業魔、か。本当に異世界という奴なんだな」

 これまで、梔子が接触してきたのは自身と近い世界出身の者が多い。
 レインからの考察で聞いていたとはいえ、実感したのはこれが初だった。
 煉獄にしても、異世界というよりも過去の時代、という言葉の方が似あう相手だ。
 明らかに世界観が違う風貌の仮面の漢(ヴライ)とも接触してはいたが、いわば災厄ともいうべき存在であり、話し合いなどできていなかった。
 先ほどまでいた霊夢にしても、自身の出身に関してはさらりと語ったのみだ。

 一方のブチャラティからすれば、魔法を用いるキース、さらに武偵と呼ばれる存在のいる世界のアリアなどと早々に接触した事により、その辺りを理解できたのは早かったわけだが。

「それで――」

 と会話を続けようしていた時の事だった。

「誰か来ます」

 不意に、九郎から声がかけられる。
 梔子が来た時と同様、外の様子を伺っていた九郎が、新たな来訪者を視界に入れたのだ。
 つられて、梔子も窓の外を見ると、記憶にある存在が視界に入ってくる。
 筋肉に覆われた巨漢の姿に、特徴的な仮面。
 彩声を退場させた存在であり、危険人物というよりは災害ともいうべき表現の似合う存在。
 最も、梔子はその際には戦力外となってしまっていたため、実質的にヴライの情報はレインと静雄経由のものとなっているが。

「あいつは……」

「知っているのか?」

「一度、襲われている」

 仮面の漢――フレンダの話にも出てきたが、フレンダの話していた相手とは外見からして違う。おそらくは別人。
 だが、こちらの仮面の漢もまた危険人物だと知っている。
 情報交換の際にも一応話してはあるが、改めて詳しい説明をする。

「……そうか」

 乗った側で、しかも話しあいにも乗りそうにない相手。
 正直、ブチャラティとしても、あまり歓迎したくない事態だ。

(運がないな)

 霊夢とカナメに加え、信用できない存在だったとはいえ、フレンダまでがいなくなった事によって病院にいる戦力はさらに落ちているのだ。
 かといって、交渉が通じそうな相手ではない。
 こんな話し合いをしている間にも、相手は病院の入り口にまで到達してしまった。

「相手をしてくる。九郎、ここは任せるぞ」

 ブチャラティの言葉に九郎も頷き、少し話してから病室から出て行った。



◇  ◇  ◇



 ヴライは病院の中へと入ってから、一階の探索を進める。
 ヴライの予想通り、戦闘の跡があった。
 それも、一度や二度ではない。
 何度にも渡ってだ。

(当たりか)

 ヴライは、自分の予感が正しかった事を悟る。
 誰がどれだけやりあおうが、ヴライには関係ない。
 問題は、まだここに参加者達が残っているかどうかだ。
 だが、死体らしきものはない。
 まだ真新しい戦闘の跡も残っている。
 歩を進めながら、ヴライは呟く。

「面妖な」

 外で見た時も思ったが病院の内部もヴライからすれば、見慣れないものだ。
 しかし、ここはそういったものだと理解する事にして、そのまま、内部の探索を進めていく。
 その背後。
 背景と同化している壁に、ジッパーがある。
 それにヴライは気づいていない。

 そのジッパーが開き、無言でヴライに影が迫る。
 ブローノ・ブチャラティとそのスタンドであるスティッキィ・フィンガーズだ。
 完全に不意をついた一撃。
 これで無力化を狙い、ブチャラティは動いた。
 ヴライに視覚の外。

 さらには、ヴライにはブチャラティの存在もスティッキィー・フィンガーズやスタンドに関する情報も知識もいっさいない。
 故に、この不意打ちは、間違いなく成功する――はずだった。



「ぬううっっ!!」


 だが、ヴライは身体を大きく捻り、それをかわす。
 ブチャラティのスタンドが、ほとんど直前に迫ってからの動作であり巨体には似合わぬほど俊敏なものだった。
 完全に、視覚外からの不意打ち。
 これを躱す事ができたのは、ヴライの幾多もの経験、そして鍛え上げた肉体。本能的な勝負勘。これら全てが合わさってできた反応といってもいい。

「……蟲がいたか」

 立ち上がりながらヴライが、ブチャラティとそのスタンドを見て呟く。
 判断材料はそれだけで十分だった。
 敵がいれば、潰す。
 ヴライの行動は単純にして明解。
 ここで交渉を持ちかけるような漢ではなかった。

(奇襲は失敗、か)

 一方のブチャラティはそれを見て、内心で舌打ちする。

(これで一気に決めたかったんだが)

 梔子からの情報でしかないが、このヴライも相当な強者。
 フレンダを襲ったという仮面の漢とはまた違うようだが、侮っていい相手ではない。だからこそ、不意をついたのだがそれは失敗した。

「ふん」

 ヴライは、ブチャラティに対して奇襲をかけた事への怒りや驚きの言葉はない。
 敵がいた。ならば屠る。
 そのために、その異名である剛腕を振るうだけだ。
 これまでも、そしてこれからも。
 ヴライのする事は変わらない。

 剛腕による一撃。
 その一撃だけで、壁に大穴が開く。

(聞いてはいたが、俊敏性に反応速度、それに力も一級品か)

 この相手が予想以上の強敵である事を自覚し、内心でつぶやく。
 階段近く天井へとブチャラティが移動する。
 そして、さらに同じ要領で上の階へと移動する。

「……ふん」

 それを追い、踊り場から跳躍。
 二階、そして三階へとヴライは難なく到達した。
 三階に到達するや否や、ヴライはブチャラティを視界内に捉える。

「燃え尽きよ」

 手土産とばかりに、炎の槍が投擲され、それが廊下内に燃え上がった。

「小賢しく立ち回るだけでは、我は倒せんぞ」

「お前が殺し合いに乗っているかどうか――は聞くまでもないか」

 ブチャラティに対し、これが返事とばかりに、ヴライの炎の槍が再び投擲。
 周囲に炎が燃え広がる。
 これでは、炎を見るだけでもダメだと言っていた梔子では、とてもではないが戦いにならないだろう。

(ここまで来れたのは良かったが、難しい状況だな)

 負傷者と非戦闘員のいる病室のある二階から、ここに移動したものの、厳しい戦いになりそうな事をブチャラティは悟る。
 最初のメアリとエレノア、垣根ら『スクール』とチョコラータや無惨達。先ほどの、カナメと霊夢らも含めれば四度目となる病院での戦いが始まろうとしていた。



◇  ◇  ◇



 戦いの音が聞こえはじめる。
 あの災厄というべき怪物と、ブチャラティが戦いが続いているのだ。
 まずは、不意打ちを狙う。それが失敗したならば、次善の策として、上の階で戦う。
 戦闘音が聞こえているという事は、最初の奇襲は失敗したという事だろう。
 それでも、あの怪物を三階に誘導する事はできたようだ。

「はじまったみたいですね」

「そうだな」

 この部屋にいても聞こえ続ける戦闘音に、九郎が呟き、梔子が返す。
 まるで、それは戦いの音というよりは工事現場か何かのようにも聞こえる。何かをひたすらに壊し続けるような音が、定期的に聞こえてくる。

(助けられてばかりだな、私は)

 自分は煉獄にはじまり、出会った参加者に助けられてばかりだ。
 彩声も、静雄も、レインも。
 そして、ここで会ったブチャラティ達も。
 彼らの中に一人でも悪意を持った参加者が混じっていれば、その瞬間に奈落に底にまで落とされた危うすぎる綱渡り。
 ここまで生き残れたのは幸運というほかなく、これまでの脱落者達の中に自分が含まれていてもおかしくなかった。
 炎という分かりやすい弱点がある以上、今回のヴライのような相手が来てしまえば自分は戦力外になる。

 梔子は知らないが、マロロやジオルドといった炎による攻撃を得意とする参加者は他にもいる。
 炎による攻撃どころか、ライターの小さな火や、匂いですら苦しい梔子では厳しいと言わざるをえない。

「琵琶坂……」

 小声で呟く。
 その目標はあまりにも、遠い。

 これほどの参加者が集う殺し合いの舞台では矮小なはずの存在に過ぎない男なのに、そこまで辿り着くまでの道のりは、あまりにも厳しく、険しい。
 一人では、まともに進む事すらできていない。
 本当にそこまで辿り着けるのか。辿り着いたとしても、本当に奴に復讐する事などできるのか。

(駄目だ。弱気になるな)

 後ろ向きな考えに支配されそうになるのを、必死に振り払う。

 そんな中、部屋の入口に立った九郎は外の様子に耳を澄ませていた。

「音が遠ざかっているようですし、今は三階。いえ、四階でしょうか」

「そうだな」

 こんな事態でも、九郎は落ち着いた様子を見せている。
 九郎は年齢的に、病院に残った面々の中でも最年長になり、ライフィセットはもちろん、ブチャラティや梔子よりも年上だ。

 だから、冷静で頼りになる――というよりも、恐怖などという感情がないかのようにすら見える。
 梔子がつい先ほどまで行動を共にしていたレインにしても、冷戦沈着かつ表情の変化も乏しかったとはいえ、もう少し人間味はあったし感情を表に出していたと思う。

(いや、こんな事を気にするのは失礼か)

 そうだとしても、同じ人間の血が流れているとは思いたくないあの爬虫類の如き琵琶坂のような冷たさは感じないしあの男と比べるなど失礼極まりないだろう。

 そんな中、ベッドの上でなおも苦し気な様子のライフィセットの口から呻き声が漏れる。

「う……」

「2ご、ライフィセット……」

 2号ではなくそう呼んで欲しいという名前を呼びながら、シルバもこれまでよりいっそう、不安げに目の前で眠り続ける少年を見る。
 両腕こそ戻ったものの、未だに苦し気な様子で寝ているかつての相方。

 自分もそうだったのかもしれないが、感情が封じられていた頃には、こんな苦しそうな表情など見た事がなかった。

「なんで……」

 不意に、シルバの口からそんな言葉が漏れた。

「どうして、そこまでして生きなきゃいけないの……?」

 気が付いたら、この会場に来ていて。
 参加者の証である、爆発する首輪こそないものの、こんなところにいたらいつ死んでもおかしくない。

 この会場での最初の主だったマギルゥに続き、放送によれば自分の主の弟でもあったオスカー・ドラゴニアも死んだらしい。
 彼もまた、高い実力を持っていた一等退魔士だったが、そんな相手ですらあっさりと退場した。

「それでも、こんな苦しい思いや怖い思いをするのに、感情なんてあった方が良かったの……っ!?」

 それは、特定の誰かというよりは、ただ心の内の叫び。
 こんな状況下でいきなり、封じられた意思を解放された少年にとっての叫びだった。

「……そうかも、しれないね」

 ぽつり、とその言葉に、意識を再び取り戻していたらしいかつての相方だった少年が答える。

「ライフィセット?」

 恐ろしい業魔に連れされられ、世界の悲しみも怒りも嘆きも知った少年聖隷が、いまだ自分の舵をとれない少年に言う。

「確かに、痛いし、苦しいし、怖いよ。でも、死んで楽になりたいなんて思わないし、意思を、封じて欲しいなんて思わない。感情があれば、意思があれば、怖い事や痛い思いをしても、その後に新しい楽しい事も良かった事もまた見つける事ができる。また作る事ができる」

 苦し気な様子でありながらも、この現状を嘆くような様子はまるでない。
 つい先ほどまで、ただの人形だったシルバにはない強い意志の力だった。

「それに、こんなところで殺し合いをさせられて、わざわざ昔のベルベットを連れてきたりして――そんな奴らに何もできないまま、死んでしまうなんて、悔しい!」

 喜怒哀楽のうちの「怒」。ライフィセットからすれば、極めて珍しい怒りの感情でもあった。
 接合されたばかりの腕は、未だに激痛が走る。
 だが、それでも腕が再び戻ってきた。
 あの時、ベルベットの思いを嘲笑した女も、こんな悪趣味な催しを目論んだ主催の女も。

「絶対に、殴ってやるんだからっ!」

「……っ!」

 強い意思の力を見て、シルバは気圧される。
 使役聖隷1号と聖隷2号。
 テレサ・リナレスの使役聖隷として同じ場所にいた。
 同じ立場にいたはずの相手。

 それがどこで、こんなにも差ができたのか。
 ここまで違う存在になったのか。
 あの時、災禍の顕主に連れ去られたからか。
 ただ、主の言う事を聞くだけの同じモノだったはずの少年が、外見は何一つ変わっていないのに、別人のように見える。

(あの人も、同じ気持ちだったの……?)

 今も契約の繋がりは残っている垣根帝督の事が、シルバの脳裏に浮かぶ。
 仲間達の仇である、鬼舞辻無惨を討とうとしているのも。垣根にとっては何の関わりのないディアボロという相手を討とうとしているのも。
 ただ生き残るだけではない。
 好き勝手やった奴らを放任しておくのは、嫌だから。悔しいから。
 例え、遠回りになったとしてもやると決めた事はやり遂げる。そんな決意が垣根にもあったのだろうか。
 そんな風に今も仇を求めて会場のどこかにいるであろう、垣根の事もシルバは考える。

(悔しい、か)

 一方、同じくライフィセットの言葉を聞いていた梔子は腑に落ちたように目を瞑る。
 確かに、最初に出会って支えてくれた煉獄に続き、敵だった相手とはいえ親切にしてくれた彩声も死に、仲間だったStorkも死んだ。
 さらには、虚構かもしれないという情報まで飛び込んできた。
 本当に、このまま戦い続けても、生き続けても良かったのかという疑問に梔子は支配されかかっていた。

 だが、自分は死んでいない。

(こんなところでは死ねない、死にたくない)

 少しではあるが、後ろ向きだった梔子に力が戻る。

(確かに、悔しい)

 何より、こんなところで死ねばあの男が喜ぶだけだ。

 かつて、あの怨敵ともいえる相手が裁判の際に見せた薄気味悪い人間のものとは思えない醜悪な顔を脳裏に浮かべる。
 次の放送で自分の名前が呼ばれれば、この会場のどこかにいるあの男は、おそらくはあの時と同じ下卑た笑みを浮かべる事だろう。

(それだけは嫌だ)

 その光景を浮かべるだけで、何かしようとする意志が蘇ってくる。

 それは必ずしも、前向きなだけの理由ではなかった。
 だが、それでも。それでも、戦おうとする意志がわずかではあるが梔子の心に灯る。

(あの男を喜ばせる事なんて、したくない)

 琵琶坂も偽りかもしれない。だが、本物かもしれない。
 本物の可能性がある以上、絶対に嫌だ。あの男が喜ぶ事なんてしたくない。
 琵琶坂がまたあの爬虫類染みた顔に笑みを浮かべている姿なんて、想像するだけで、怒りがこみあげてくる。

 ここで、自分にならば何かやれる事はないのか。
 そう考えてから、先ほどの会話を思い出す。

「……桜川さん」

「どうかしましたか?」

「さっきの話で、少し聞きたい事がある」



◇  ◇  ◇



 三階での戦闘は苛烈さを増していった。

「スティッキィ・フィンガーズ!」

 ブチャラティのスタンドである、スティッキィ・フィンガーズによってジッパーをつけられた相手は、その防御力を完全に無視できる。
 鋼鉄のような肉体を持って居ようが、鋼鉄そのものであろうが関係ない。

 似たような能力として、霊夢と交戦し、カナメにとっての仇でもあった王の虚空の王(ベルゼブブ)がある。
 あちらと違い、切り取るだけでなく繋げる事もできるという点や異空間のような隠れ場所を作り出したりできる事も含めて応用性は上――に見えるが、単純な上位互換かといえばそうでもない。
 こちらは相手に直接、触れなければ意味がなく、射程距離も短い。

 それでも、スピード・破壊力共に一流であり、並の相手であれば問題はないのだが、相手は仮面の者(アクルトゥルカ)にしてヤマト最強のヴライ。
 人間よりも高い身体能力を持つヒトの、その中でも最上位に入る存在。

「ぬうぅっっ!」

 そのヴライを相手に、ブチャラティは押され気味だった。
 ジッパーで周囲に隠れようとも、廊下一帯に炎を広げられ、隠れる場所も限られてしまう。
 うかつな動きを見せれば、その瞬間に剛腕が襲う。

(これではまともに近づけんな)

 影に潜みながら、ヴライを見つつブチャラティは内心で呟く。
 近づいて接触する事さえできれば、いかに固い肉体であってもジッパーをつける事ができるのだが、それを迂闊に許す相手ではない。

「そこにいたか」

 気配を察したらしく、ブチャラティのいたところに、ヴライの拳が炸裂する。
 すんでのところで、それはかわす事ができたが、近くの扉が破壊される。
 三階に移動しておいて良かったか、とブチャラティは内心で安堵する。
 あのままならば、間違いなく他の仲間達も巻き込まれていただろうし、それを守りながらの戦いなど到底無理だ。
 この場にいるのは、普段のチームの部下達でもなければ護衛対象でもなく、特に梔子などに至っては、つい先ほどであったばかりの存在に過ぎない。
 彼らを見捨て、あるいは囮にしたところで文句を言われる筋合いはないかもしれない。

 だが、これは矜持だ。
 パッショーネの幹部としてではなく、ただのブチャラティとしての。

「仲間は守る、この殺し合いに乗る者も無力化する。そして、主催も打破する。この全てをやらなければいけないのがつらいところだな」

 小声で呟き、ヴライを見やる。
 守ると決めた者は守る。倒すと決めた相手は倒す。
 ギャングとしてでも、幹部としてでもない。ブローノ・ブチャラティとしてのルールだ。

 ジョルノを失っても、その思いは変わらない。
 例え、どれだけ困難であろうとも、他者を見捨て、自分ただ一人が助かる道を選ぶ気などない。

 ブチャラティのスタンドによってつくられたジッパーの穴により、さらに上の階へと移動していく。

 その後を、ヴライも追う。

「消えよ」

 今度は、階段を使う事なく、天井ごとヴライは破壊し、その勢いで再び跳躍する。
 難なく、四階へと到達したヴライだが、直後にブチャラティのスタンドが迫る。

「スティッキィー・フィンガーズ!」

 病院の床に、ジッパーによる亀裂が走る。
 それにより、ヴライの足元が崩された。
 続いて、ブチャラティのスタンドによる拳撃が、ヴライを襲う。

「ぬっ」

 だが、かすかに掠めただけ。
 それでも、小さなジッパー痕がヴライの身体につく。
 ヴライはスタンド使い、という存在すら知らない。この会場でも出会っていない。
 だが、その豊富な戦経験により『死の水』に対応した時と同じようにどういった能力なのかを把握すればその対策もしっかりとしてくる。
 このわずかな交戦により、ブチャラティのスタンドは触れる事によって分断したり穴を作ったりできる能力であると認識する。

(ならば、触れぬよう行けば良いだけ)

 ブチャラティのスタンドを見て、直接の拳を触れられないよう距離に気をつけつつ、ヴライはその巨躯を動かす。

「今度こそ消え失せよ」

 ブチャラティがどこに隠れひそもうと、周囲一帯ごと破壊しつくさんと拳を振るう。
 一撃で、壁に大穴が開く。
 周囲にある装飾品が破壊される。

 まさに歩く災害。
 室外であれば、ブチャラティの方が圧倒的に不利だっただろう。
 だが、ここは室内。スタンドの応用によって隠れ場所にも武器にもなるものが多くある。

 だが、それらを全て力づくでヴライは破壊していく。

 四階の部屋があらかた破壊され、一旦、足が止まったのは、病院の手術室前。
 ほとんど原形がないほどになり果てているが、ここは数時間前にジョルノとマギルゥが累と戦っていた場所だ。

「どうした? これで終いか、まだまだ我を楽しませよ」

 ヴライが、問いかける。
 この病院に来るまでの連戦による、負傷や疲労はある。
 だが、それでもまだヴライは切り札ともいえる仮面(アクルカ)は、この戦いでは出し惜しんでいる。

 命など惜しむ気はまるでないが、残りの使用が限られるのであれば、これを使うのは宿敵であるオシュトルに対してだ。
 ただの敵。それもたった一人の相手に使うべきではない。
 その思いから、この病院での戦いでは珍しく。ヴライにしては本当に珍しい事に温存する気でいた。

「悪いが、これでも諦めは悪い方でな」

 一方のブチャラティの方は、致命傷といえるダメージこそないが、全身に小さな傷が多数にくわえ、火傷ができている。

 そんな二人が対峙し――再び動き出そうとした時、ヴライの足が止まった。

 そこには階下にまで貫通した穴がある。
 ヴライとの闘いでできたものではない。
 ここでかつてジョルノとマギルゥが累との闘いの際にできた、大穴だ。

 ヴライは、その穴から階下での異変を一瞬で感じ取った。

「……」

 無言のまま、下へと落ちる。

「しまった!」

 ブチャラティは失態を悟るが、既にヴライは階下に飛び降りてしまっていた。

 不意に降り立ったヴライに、下にいた数人の男女――九郎達をヴライは睥睨する。
 それと同時に、炎の槍を投擲。

 彼らの命を一瞬で刈り取らんとされる。

「させないっ」

 かつてジオルドの炎を打ち消さんとした時の再現のように、ライフィセットは素早く水の聖隷術を放つが、あの時よりもライフィセットの術に威力はなく、逆にヴライの投擲はジオルドのそれよりはるかに強力だ。

 だが、それでも威力を衰えるさせるだけの効果はあった。

 威力が減衰されつつも、人の命を奪えるだけのそれだが――、

「くっ――」

 庇うように前に出てきた九郎にそれが突き刺さる。
 多少、威力が衰えたためか、九郎の上半身に一度、大穴を開けながらも、他の者達にそれが降りかかることはなかった。

 そして、再生していく九郎の身体を見てさしものヴライも、その多少は驚きつつも、すぐに次の攻撃に移ろうとするが――、

「ぬぅっ」

 ブチャラティのスタンドが迫り、一度距離を取る。
 ブチャラティ本人もその背後へと向かい、ヴライを挟んで、九郎達に話しかける形になる。

「皆、無事か?」

「ええ。何とか」

 ホテルで調達した部屋着はほぼ燃えて、半裸の状態になりつつも九郎はいつも通りの顔を見せる。

「ライフィセット、君も大丈夫なのか?」

 つい先ほどまで、半死人状態だったはずの少年聖隷へとブチャラティは話しかける。

「うん。梔子が助けてくれたから。ブチャラティもこれまでありがとう」

「そうか……」

 ブチャラティも理解する。
 マギルゥの残したメモから交わした聖隷契約。あれを梔子としたのだろう。
 ブチャラティはスタンド使い、九郎はライフィセットの世界でいう業魔等の異形の存在と認識されてしまう可能性が高く、できなかった事。
 それを梔子がした。

(垣根の話では、スタンド使いの場合、スタンドが精神エネルギーとしての枠を埋めてしまうのではないかという推測をしていたが――)

 ひとまず安堵すると同時に、スタンド使いがダメならば、カタルシスエフェクトや、それに近い力の場合は大丈夫だったのだろうかとふと疑問に思う。

(元々は、彼女らの言うカタルシスエフェクトは本来は物理的な干渉はできない力だったというが)

 ウィキッドが帰宅部を物理的に閉じ込めた際、窮地に追いやられたのもこれが原因。
 それだけでなく、この会場ではμやアリアといった存在の調律なしでも力を発揮できているようなのでもしかすれば、本来のものとかなり違った力へと変質されているのではと推測しかけるが、

(今、警戒すべきはコイツか)

 目の前の災厄へと視線を動かす。

「そういう事か」

 ヴライは呟き、悟る。
 この病院に来たばかりの時、誘導するように三階にまで移動したブチャラティの動きを。
 わざわざ階段の近くでわざとらしく移動したのは、彼らのいる二階を戦場にしないためだったのだろう。
 だが、理解したからこそヴライには理解できない。
 四階から後を追って降りてきたブチャラティに、ヴライは問う。

「……解せんな」

「何がだ?」

「その小細工ばかりの立ち回りは気に食わんが、少なくとも貴様は我に抗おうとするだけの気概はあるようだ。ならば、何故、このような弱き者共を守らんとする」

 それは、かつて平和島静雄と対峙した時とよく似た問い。

 ヴライからすれば、自身を守る力すら持たぬ弱者のために戦うなど、理解できない。
 一時的に、力を借りての共闘だというのであればまだ理解できる。しかし、戦う力もないような相手など捨ておくのみ。
 このような催しだ。足手まといを抱えるという事がどれだけ危険か分からないわけではあるまい。

「弱き者、か。お前にはそう見えるのか」

 ブチャラティは、そんなヴライの問いに、ふと思い出す。
 かつてあった、父と母の離婚。
 その際に、どちらに引き取られるか問われた際、幼き頃のブチャラティは父親を選択した。
 それは、父の方が弱いと思ったから。
 自分がついているべきだと考えたから。

 だが、そんな考えを、おそらくは目の前の漢が理解する事は決してないだろう。

 ヴライにとって、弱者は不要だから。
 肉体的にも、精神的にも弱い者など、國にとって、組織にとって害。

 ヤマトを、國を守れるのは、常に強者のみ。
 守れる力を持たぬ弱者など必要ない――それがヴライの考え。

 故に、二人は決して相容れない。
 弱者を守る在り方を続けるブチャラティを、弱者を切り捨てひたすら強者としての道を歩み続けるヴライを。

 目の前の漢はパッショーネのボスであるディアボロのように、他者を己の欲や保身の為にいいように利用して切り捨てる醜悪さはないのかもしれない。
 だが、決して相容れないし認める事ができない相手。

 交わした言葉はわずかでも、ブチャラティはそれを確信した。

「仮面の者(アクルトゥルカ)――剛腕の、ヴライ」

 そして、そんなヴライを見てライフィセットはそう呟く。

 ムネチカから聞いていた、危険人物の一人。彼女の知る時間では既に亡くなっているようだが、目の前にいる漢はベルベットのように違う時間から呼ばれたのか。あるいは、本当に死者が蘇生されたのか。今のライフィセットには判断がつかない。

「小僧、どこで我の名を知った」

 そんなライフィセットに、ヴライははじめて視線を向ける。

「ムネチカから聞いた」

「……そうか」

 ヴライの回答は短い。
 もしかしたら、オシュトルからではという期待もわずかにあったのだが、それは違ったようだ。

 そして、この場にはそのムネチカもいないという事も悟る。
 ムネチカの性格を考えれば、この状況下で出てこないはずがない。放送で呼ばれていない事から、いまだ健在なのも間違いなく――今は別行動中でもしているのだろうとヴライは考える。
 ならばそれはそれで良い。
 この会場では自分以外の相手など同じ仮面の者(アクルトゥルカ)であろうと敵。会う機会があれば、容赦なく屠る。

 故に、もう語る事はない。
 ないはずなのだが――わずかな間をおいてからヴライは呟くように続ける。

「小僧。ムネチカにまた会う機会があったのならば伝えよ。皇女アンジュは間違いなく帝を引き継ぐに足る器の持ち主であり、それに相応しい散りざまだったとな」

「え?」

 その言葉に驚く。
 ムネチカからは、ヴライは同郷の中で最も危険人物だと聞いており、その事実と変わらない暴れぶりを見せていた。
 それを考えれば、信じられない発言。

「二度は言わぬ」

 ヴライからすれば、別にムネチカのためではない。
 ただアンジュが、帝の後継者に選ばれるだけの資格を持っていた皇女がどうでもいいような死に方をしたと臣下に思われる事だけは許しがたい。
 それだけの話だった。

「話は終わりだ」

 そういうと、ヴライは再びブチャラティへと視線を向ける。

「さて、続きをするとするか」

 ブチャラティもヴライとの距離に気をつけつつ、他の仲間達へも視線を向ける。

 ヴライは、ブチャラティ以外の者達は別に見逃すとも殺さないとも言っていない。
 逃げようとしたならば、それを背後から狙われる可能性もある。

「行け!」

 だが、このままここに留まられては間違いなく、巻き込まれる。
 ならば、危険を承知でも逃げてもらうしかない。

「俺も後で合流するから、急げ!」

 ブチャラティが叫ぶ。

「……分かりました」

 九郎も少し躊躇するように、こちらを見てから頷く。梔子も、わずかに漂ってくる炎の匂いだけでもまずいのか、今は九郎が肩を貸している状態だ。
 ライフィセットも、病み上がりでとても戦える状態ではなく、シルバに支えられ、悔しげな様子だった。

 ヴライは、再び九郎達をどうすべきか、といった様子で眺めている。

 そんな中、先ほどヴライが降りてきた穴から、崩れかかっていたのか瓦礫の塊が落ちてくる。
 それを機として、いっせいに四人は駆け出す。

 九郎に肩を貸された状態でぐったりとしていた梔子だが、それでも必死に足を動かす。
 未だ本調子ではない様子のライフィセットもシルバの助けを借りながらも、駆け出す。

 そちらの方にヴライは視線を動かすが、

「スティッキィー・フィンガーズ!」

「ぬぅっ!」

 ブチャラティによるスタンドが牽制し、ヴライの動きを阻害する。

 その間にも、病院から去っていく九郎達の影は小さくなっていく。

「……」

 それを見てヴライは、それ以上は無理に追おうとしなかった。
 ヴライにとって、一部の強者を除いた参加者など路上の石ころも同然。
 故に、視界に入れば先ほどのように排除しようとするが、勝手に消えてくれるのであれば別に構わない。
 それが、ヴライの判断だった。

「あのような矮小な者どもなど、別に構わぬか」

 ここで生かして、どこかにいるであろうムネチカに伝言を届けるのであれば、屠るのはその後でも良いか。そのムネチカにしても、ミカヅチのようにどこかの参加者に倒されるならばその程度。残っていれば、ヴライ自らが倒す。
 ヴライにとって、その程度の認識。

 そして今、ただ一人残ったブチャラティの方を見る。

「まだ貴様を仕留める方が楽しめそうだ」

「……悪いが、お前を楽しませてやるために残ったつもりはない。ここで仕留めさせてもらうぞ」

 ヴライは、その鉄面皮のまま返答はなく、その拳を握る。
 ブチャラティも自らのスタンドを動かし、ヴライとの闘いを再開した。

 二人を除いて、誰もいなくなった病院での戦闘は続いていく。

「消え失せい!」

「スティッキィー・フィンガーズ!」

 ヴライの拳や炎が、病院を次々と破壊していく。
 一方のブチャラティもスタンドをうまく応用し、身体を分解して回避、さらには障害物の中に隠れたりすることで、致命傷を防いでいく。

 殴る、焼く、壊す。
 分断し、繋げ、分断し、繋ぐ。
 殴る、焼く、壊す。
 分断し、繋げ、分断し、繋ぐ。

 コンクリートでできているはずの壁、それがまるで段ボールか何かのように脆く穴が開き、壊れていく。
 ヴライの進む先には爆撃でもあったかのような痕が残り続ける。

 幾度も戦闘を繰り返していくうちに両者の戦闘は、いつしか先ほどと同じように四階へと戻っていた。
 その一室へとブチャラティが入り込むと同時に、ヴライは力を持って扉をこじ開ける。

「ぬううっんっ!」

 強引に剝ぎ取られた扉を捨て、ゆっくりと中へと入ってくる。

(改めて見ると、コイツは体中に傷だらけだな)

 露出の多いその身体は、これまでの戦いでついたのであろう傷跡だらけだ。戦いどころかむしろ、この状態で立っていられるだけでも驚きだ。
 ブチャラティもこの戦いで相当に傷ついているが、その比ではない。
 万全の状態ならば、今よりもさらに恐ろしい相手だっただろう。
 だが、そんなボロボロな状態でも、圧倒的な強者としての風格が確かにある。
 それを見て、ブチャラティは悟った。

(……アリアには申し訳ないな)

 最初に出会った少女の事を頭に浮かべる。
 こんな状況でありながら、不殺を貫かんとした姿勢。その事には素直に敬意を表するし、好ましく思う。

 ブチャラティも、むやみに人を殺したいわけではない。
 実際、これまでも自分達のチームを襲ってきたスタンド使いであったとしても無力化できるのであれば、それですませていた。
 この会場で出会って襲ってきたキースにしても、リュージがいなければ生かして捕らえる道を選んでいたかもしれない。
 殺さずにすむならば、それに越したことはない。
 だが、目の前の相手に不殺で無力化する余裕はなさそうだし――やるしかないとなれば、ブチャラティはやる。

(この男に交渉は不可能。生きていれば、間違いなく俺達だけでなく他の参加者にとっても災厄となる)

 先ほどのわずかな問答で分かった。
 だから――殺る気で動く。
 ヴライを一度見てから、ブチャラティは動く。

「ぬおおおおっっっ!!!」

 ヴライが咆哮し、ブチャラティと交差する。
 ブチャラティの攻撃はヴライに届くことなく、その剛腕がブチャラティの身体とスタンドをまとめて突き飛ばす。

「がはっ!」

 部屋の窓へとブチャラティの身体が叩きつけられる。

「これで終わりのようだな。だが、多少は楽しめたぞ」

 勝負あり、と判断したのかヴライは進む。
 仮面(アクルカ)を温存したとはいえ、それなりには楽しめた。
 だが、ここまで。ゆえに、せめてもの情けとして自らの手で屠ろうと近づく。
 そして、その手前まで来た時。


「悪いが――終わりなのはそちらの方だ」


「……ぬぅ!?」

 戦闘不能だと思われたブチャラティの身体が動く。
 ブチャラティが使用していたのは、ライフボトル。
 ライフィセット達の世界のアイテムであり、梔子が持っていたもの。
 本来は静雄がろくに確認せずに持っていた支給品の一つであり、ヴライ来襲した際、部屋を出ていくブチャラティに役立てて欲しいと渡したものだった。
 戦闘不能状態から回復するものであり、その効果を見事に発揮して活力が戻る。
 だが、それでも力を強化するわけではない。

「自棄になったか」

 ヴライがそう思っても仕方がない、あまりに単純な突撃。
 不意に力を取り戻した事に少し驚いても、ヴライならば十分に対処できる――はずであった。


「――何っ」


 ヴライが一瞬、驚愕に目を見開く。
 十分に反応できるはずだったブチャラティが、自分の拳を躱し、自分の首輪を掴んでいる。

(この男……! 今、何を)

 素早い、などというものではない。瞬時に移動したようにしか見えなかったブチャラティに、ヴライは対処しきれなかった。
 タネはこの戦いがはじまる前、これもまた梔子から借りた懐中時計に似たストップウォッチ。
 この会場にいる十六夜咲夜や、ジョルノの父であるDIOの時間停止の力と比べると、はるかに制限があって使いにくい代物。
 わずか1秒。
 だが、わずか1秒であってもこの距離での接近戦であれば大きな意味を持ち、ブチャラティはヴライの首輪を掴むことに使った。

「ぐぬ……」

 だが、さしものヴライも何をされたのか把握するよりも、現状の打破に注力する。
 今、ブチャラティが掴んでいるのは首輪。
 ヴライであろうが、不死者も破壊神も鬼の元締めも全ての参加者を等しく平等に屠ることを可能とする代物。
 その脅威をヴライも分かっている。

「貴様……っ!」

 これが爆破すれば、ヴライも他の参加者と等しく命を奪われる。
 即座に、ブチャラティの左腕をがしにかかる。
 本気で、その異名通りの剛腕ではがしにかかればブチャラティの腕を文字通り捻りつぶす事も可能ではあるが――、


「悪いが、既に仕込みは終わっている」


 その言葉と同時に、今、ヴライが背を向けている壁と窓が、ジッパーで切り裂かれ、そのまま室外へと放り出される。

「何ぃ!?」

 そして、ブチャラティの首輪を抑えていた左腕を、躊躇なくジッパーで切り離す。
 ブチャラティの左手に掴まれたままのヴライの巨躯が、重力によって、下へと落ちていく。
 このままでも、並の敵なら十分。
 だが、相手はここまでの暴れぶりを見せたヴライ。
 念には念を入れ、ブチャラティはとどめの一手を投じる。

「オマケだ。こいつもくれてやる」

「ぬぅっ!!」

 自由な右手で投げたのは、フレンダから譲り受けていた人形爆弾。
 扱い方も聞いていたそれを、落下していくヴライへと追撃のように投げつけた。
 まともな防御態勢もとれぬまま、間近で爆発。


「ぬうぅおおおぉぉっっっ!!!」


 苦悶の声を発し、ヴライは落下していく。
 さらに、ブチャラティが意図しなかった事も発生する。元々、ヴライの攻撃の数々によって、この部屋のいたるところが壊れかかっていた。
 それに加え、ジッパーで窓を含む壁が部分的に切り取られた事によって、一気に崩れた。
 何とか、その崩壊に巻き込まれまいと、部屋の隅へとブチャラティは片腕のまま退避する。

 そして、割れた窓ガラス、そして崩れた壁が瓦礫となって、下へと落ちていった。
 崩壊は、部屋全体へと広がっていき、さらに新たな瓦礫が崩れ落ちていった。

「……終わった、か」

 まるで地震か何かでもあったかのように、部屋の壁は崩れきっている。
 その部屋の惨状はまさに災害の跡地だ。

「アリーヴェデルチ(さよならだ)――といいたいところだが」

 そして、そこからブチャラティは落ちていった先を見下ろして呟く。
 ヴライの身体は見えない。
 だが、彼が落ちたと思わしき場所には、大量の瓦礫によよって、埋まってしまっている。

 ここは、100キロ以上で走る列車でもなければ、六十階以上のビルでもなく、病院の四階だ。
 ヴライほどの肉体の持ち主なら、クッションのようなものがなくても耐えられる高さ。
 だが、至近距離で爆発を食らった後にまともな着地体勢もとれずに落下し、さらには窓ガラスの雨と瓦礫のシャワーを浴びたのだ。
 ただの人間であればもちろん、人間よりも屈強な肉体を持つヒトであっても間違いなく死ぬ――はずなのだが。
 これまでの戦いぶりからして、もしかしたらこれほどのダメージを受けてもなおも生き残っている可能性はある。

(どうする?)

 崩れ切った瓦礫でヴライの身体があるであろう場所は、完全に埋まってしまっており、これらを取り除いて確認するには相当な時間がかかる。

「……」

 ここは逃げて行った九郎達の方を優先して合流すべきか――。
 垣根から聞いた話では、チョコラータ達との戦闘直後に、乱入したという無惨の例もある。
 他の「乗った側」によって今まさに襲われている可能性もある。ならば、無理に時間をかけて生死を確認するよりも、優先すべきはそちらか。
 決断までに要した時間は数秒。
 ブチャラティは病院から立ち去り、九郎達との合流する道を選んだのだった。



◇  ◇  ◇



 ブチャラティが、九郎達と合流できたのは病院からそれなりの距離が離れた先だった。
 幸いな事に、他の乗った側の参加者と会う事もなく無事に合流できた。
 さすがにここまで全力疾走を続けた事もあり、皆疲れ切った様子だ。
 特につい先ほどまで重傷だったライフィセットや、過呼吸で倒れかけた梔子はかなりつらそうな様子だ。

「ブチャラティさん、大丈夫だったんですか?」

 まずは比較的余裕のある九郎が、ブチャラティに声をかけてくる。

「ああ。だいぶ、苦戦したがな」

 あれから、失った自分の片腕を補完するために、例の身体セットから、自分の左腕を選び、接合した。
 さらには、全身から傷口をジッパーで塞いで応急処置をしているが、未だに全身に激痛が走る状態ではある。

「本当にあの怪物を……?」

 一方の梔子からすれば、以前にもヴライの事を見ており、レインらからその戦いの様子も聞いている。
 それだけに、撃退できたというのが驚きなのだろう。
 実際に厳しい勝負ではあった。
 梔子が貸した支給品がなければ、ヴライにここまでの戦いで負ったダメージなければ、仮面(アクルカ)の力を出し惜しまなければ。
 どれか一つでも違うIFでこの結果は変わっていただろう。

「生きている可能性もあるが――今は奴にとどめに刺すよりもお前たちとの合流を優先させてもらった」

「そうか……」

 あのヴライが生きている可能性もあるとはいえ、すぐには追ってこれないだろう。
 一応は危機を脱したと考えていいのかもしれない。

「それよりライフィセット。君は大丈夫なのか?」

「あ、うん。さっきも言ったけど大丈夫だよ」

 ライフィセットはとりあえずの命の危機こそ脱したものの未だに体調は万全ではなく、そんな状態で全力疾走をしてきたのだ。
 身体に強い疲労こそ感じるが、先ほどと比べればマシだ。

 そんな中、ヴライとの会話を思い出していた。

(あの言い方からすると、もしかして……)

 ヴライの言い方から、考えて彼はムネチカの主であるアンジュの死ぬ瞬間に居合わせた事になる。
 それも、ムネチカからの事前情報やヴライが「乗った側」だったという事実を合わせてもたまたま死に際に居合わせたなとどいう事は考えにくい。

 ――アンジュを殺した相手はヴライ。

 その可能性が極めて高い。

(……ムネチカには、どう伝えよう)

 今は、虜囚の身となった、かつての同行者をライフィセットは頭に浮かべる。
 もちろん、下手人が分かったからといってアンジュが蘇るわけではない。
 あの直後に、ライフィセットがジオルドに毒を打ち込まれた事によって有耶無耶になったとはいえ、未だにムネチカの中でもアンジュの事は折り合いがついていない問題かもしれない。
 それでも、伝えるべきか。それに、ムネチカの仲間だというオシュトルやクオン、それにマロロという相手にも。

(ううん。今はそれよりも、ムネチカとまた会う事を考えなきゃ)

 そのためには、変貌したベルベットや、その同行者達の問題もある。
 相手の居場所は分からず、分かったとしてもその攻略法も考える必要がある。

「本当に大丈夫か?」

「え?」

「先ほどから難しい顔をしているが、まだ体調が悪いのなら……」

 先ほどから黙り込んでいたためか、気遣うように梔子が声をかけてきたようだった。

「ううん。僕は大丈夫だよ。それよりも、ありがとう。助けてくれて」

「いや、気にしないでくれ。こちらも助けられた」

 これまで助けられるばかりだった事から、何かしらの貢献をしたかったという思いも梔子にはあった。
 だが100%の善意からの行動というわけでもない。
 何せ、仇敵・琵琶坂は未だ健在。
 そして、琵琶坂単独でここまで生き残っているという事実からして、それなりの規模の集団に溶け込んでいるか、相当強力な支給品でも手に入れたかだと梔子は考えている。
 そんな琵琶坂と戦うには、今のままの自分では明らかに力不足。
 聖隷契約とやらをする事で、彼らの世界でいう聖隷術を使えるようになれば、自分の戦力増強にもなる。
 そんな思惑からの行為でもあり、それだけにライフィセットから屈託のない笑みを見せられると自分がひどく後ろめたい事をしたように思えてしまう。

「まあ、何にせよ良かったですね」

 そんな各々の考えはあったにせよ、問題が一つ解決したのだ。
 ライフィセットの全身を蝕んでいた穢れが消えた事に安堵しつつも、九郎は考え込む。

(ここがもし、メビウスに近い世界で、僕たちが何らかの形で力を再現されているのだとしたら、そのものではなく、あくまで「それに近い何か」になっているのかもしれない)

 魔法、スタンド、超能力、聖隷術、異能(シギル)、そしてカタルシスエフェクト。
 これまで聞いた違う世界の異能力の数々が、ごく普通に同じところで再現されているというある種の異常事態。

 これらがそのままの力で再現されているのではなく、あくまで「それに近い能力」としてここで再現されているのだとしたら。

 さきほどまでライフィセットを襲っていたものも「穢れに近いモノ」を消すという結果を求めるのに「聖隷契約をする」という、過程そのものがむしろ大事だったのではないか。

(やっぱり、こういった事を考えるのは僕よりも岩永の方が適任、か)

 そこまで考え、一つため息をつく。
 人と妖の調停者たる彼女。
 九郎も、岩永琴子と共に多くの怪事件の解決――というよりは調停に協力しているが、あくまで主導となって考えていたのは岩永だ。
 九郎自身もまるで考えずにいるわけでもないし、頭が悪いわけでもないがやっぱり、こういった事の考察は彼女の十八番だ。
 今ははたして、どこにいるのか。
 これまで会ってきた参加者達と、何度か情報交換はしているが、未だに岩永の情報は入ってこない。

 とはいえ、ここまで放送で名前を呼ばれていない事実により、そこまで悲観すべきではないかもしれない――とも考える事ができる。
 何せ、岩永琴子に戦う力はほぼない。知恵の神といっても、これまでに会った参加者のように魔法やら超能力やらで敵と戦えるわけでもなく、ごく普通――いや、義足義眼かつ小柄な体躯を考えれば戦闘力はむしろ普通以下といっていい。
 にも拘わらず、これまで生き残っているという事は、力のある参加者の協力を得られたのか、あるいはうまい事を言って説得して味方に取り込んだのだろう。
 そんな風に考えている九郎に、ブチャラティが尋ねる。

「ところで、ここはどの辺りだ?」

 そう言って、皆の前で広げた地図を確認する。

「地図によれば、墓地みたいですけど……」

「垣根がジョルノ達と最初に会ったという、場所か」

 垣根の話を思い出し、周囲を見る。
 話にあった通り、垣根とシグレ・ランゲツ、そして垣根とジョルノ、マギルゥが戦った場所だ。

 墓石が砕かれ、地面にもえぐれた後が多数残っている。
 死者が眠る場所とは思えない荒れ具合であり、彼らの話にあった戦闘があった事実だと分かる。

「位置的には、病院とも遺跡ともそんなに変わらないか……」

 ブチャラティは呟くようにして、考える。
 あの「災害」から避難してきたものの、病院はアリア達やフレンダ達との合流地点となる予定もあった場所だ。
 そこから長い間離れるのはまずいかもしれない。
 ヴライが生き残っており、なおかつあの場で待ち構えている可能性もあり危険ではあるが、そうとは知らずにアリア達が近づいてしまえばそれはそれで危険だ。

 入れ違いになる可能性もあるが、こちらから大いなる父の遺跡に赴くのも手か。

「そういえば――」

 そんなブチャラティに、九郎が思い出したように声をかける。

「どうした?」

「えっと、ブチャラティさんが来る前の話なんですが、病院からここまでに来る途中で馬車? のようなものを見まして」

「馬車だと?」

「ええ。こっちも逃げるのに必死でしたので、遠くからだったので見間違えたのかもしれませんが」

 そういって、地図で指し示す。

「向かった先は、こっちの方みたいでしたが」

「場所的には、ムーンブルク城とやらの辺りか」

 梔子の初期位置だった場所でもある。

「そうか。おそらくは、他の参加者だろうが……」

 ヴライのように「乗った側」であれば危険もあるが、接触すれば新しい情報が手に入るかもしれないし、逆にこちらから危険人物の情報を提供すれば余計な被害を減らせるかもしれない。

(どうするべきか……)

 選択肢は3つ。

 ヴライが生き残っていた場合のリスクもあるが病院へと戻り、そこでのアリア達との合流を目指すか。
 伝言を預けた垣根経由で病院へと向かってしまい、入れ違いになってしまう可能性もあるが遺跡での合流を目指すか。
 それともムーンブルク城に行き、そちらに向かったであろう新たな参加者との接触を図るか。

 思考を進める彼らの元に不思議な鐘の音が響き始めたのは、その少し後の話である。

【D-5/午後/墓地/一日目】


【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(大)、強い決意、全身に火傷、ダメージ(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵) サーバーアクセスキー マギルゥのメモ 身体ストック(ライフィセットの両腕、ブチャラティの左腕使用済)
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:病院・遺跡・ムーンベルク城のいずれかに移動する。
1:放送を聞いた新羅への不安と、アリアへの心配。何とか合流したい。
2:魔王ベルセリアへの対処。
3:ヴライが生き残って襲ってきたら対処。
4:自称ブチャラティ(ディアボロ)に対して警戒。
5:余裕ができてから高千穂リゾートを捜索。
6:フレンダに関しては、被害者達とのけじめがつけば再度合流。
7:志乃、ジオルドに関してはアリアに任せる。
8:カタリナ・クラエスがどのような人間なのか、興味。
[備考]
※参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました。
※垣根と情報交換をしました。
※霊夢、カナメと情報交換をしました。
※持ち出した身体ストックはブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子、アリア、新羅のもののみです。

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着(上半身の部分はほぼ全焼)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1~3
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:行き先を決める
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:フレンダに関してはとりあえず被害者達に任せる
3:岩永を探す
4:ヴライを警戒
5:ジオルドを始めとする人外、異能の参加者、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒
6:きっとみねうちですよ。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。

【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:強い倦怠感、全身のダメージ(大)、疲労(大)、強い決意
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品×2(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:行き先を決める
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:ヴライがアンジュを殺しているならムネチカやその仲間達に伝えるべき?
6:エレノア……。

[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※梔子と聖隷契約をしました。
※意識を失っている間の話を聞きましたが、マギルゥの死に関してはまだ聞いていません。

【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(大)、精神的ダメージ、レインの仮説による精神的疲労(少し回復)
[服装]:メビウスの服装
[装備]:ストップウォッチ@東方project(1回使用)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(心許ないもの)、静雄のデイバック(基本支給品、ランダウ支給品×1~2)、ライフボトル×2@テイルズオブベルセリア
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを。
0:当面はライフィセット達と行動
1:彩声の義理を返す為、レインを死なせないようにする。
2:琵琶坂永至が本人か確かめる。
3:本当に死者が生き返るなら……
4:煉獄さん……天本彩声……
5:私が虚構かもしれない、か……
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後、
 また琵琶坂が死亡しているルートです。
※キャラエピソードの進行状況は少なくとも誕生日のコミュは迎えてます。
※静雄、レインと情報交換してます。
※ブチャラティ、霊夢達と情報交換をしました。
※ライフィセットと聖隷契約をしました。

【ライフボトル@テイルズオブベルセリア】
平和島静雄に支給。
戦闘不能状態で使うと、ある程度戦える状態まで回復できるが状態異常や欠損箇所に関しては効果はない。
3つで1支給品扱いで支給されており、1つ使用。

 ――どうやら、この会場においてフレンダ=セイヴェルンの目論見は悉くがうまくいかない定めにあるらしい。


 本来であれば、幸運にも「災害」が訪れる直前のタイミングで病院から離脱できたはずのフレンダが、カナメと霊夢を説得して病院へと戻ってきたのは、ちょうどブチャラティ達が病院へと離脱するタイミングと合わさっての事であった。
 レインとの合流を目指していたカナメ達だが、フレンダが「お腹の調子が悪い」だの「ここでするしかない」となどと散々ごねて無理に病院へと戻ろうとしての事だった。
 これは別に逃げ出そうなどと考えたり、カナメ達を罠にはめようなどと考えたからでもない。

 単純に、時間を稼いでレイン達と合流できる可能性を少しでも減らそう。そうでなくても、報いを受けるまでの時間を少しでも遅らせよう――という割と儚い願いからのものだった。

 何せ、一応殺させないとは言ってはいるが、カナメも霊夢も味方とは言い難い存在。
 レイン辺りがうまい事、説得してしまえばブチャラティとの約束も反故にされ、それを翻されてしまうのではないかと不安で仕方がなかった。
 そういった不安から、二人から冷たい目で見られながらも無理に病院に戻ってきた。
 そんな時間稼ぎからの思いからであったのだが、病院は既に安全圏ではなくなっていた。

「なななな何をコレ!? ブチャラティ達はどうしたの!?」

 病院の三階より上の階は、外からも見えるような大穴が開いていたり、煙が出ていたりと先ほど以上に凄まじい状態になり果てている。
 どういうわけか、二階と一階に被害は比較的被害が少ないようだが、それでももう病院は頭に「廃」をつけるか、後ろに「跡」をつけるような状態になり果てている。

「近づいてみるか」

「……そうね」

 そんな風に頷きあう二人に、フレンダは慌てる。

「ま、待って! 何もあんなところに……」

「誰かが襲撃をかけたのなら、調べなきゃならねえ」

「えーと、でも。レイン達に謝らないといけないし」

「それも大事だけど、今は目の前の惨事が優先ね。それとも、アンタは病院に残った連中が心配じゃないの?」

「うぐ!?」

 ここで逃げ出しましょう、などと言える雰囲気ではなく二人から無言の圧力を受けながらも病院に近づいていく。
 諦めの思いから、フレンダも二人に続いた。

「……これはひどい状態だな」

 改めて近寄ると、さらに凄惨さが分かる。
 フレンダ達が出ていくまでは、何度かの戦闘の跡こそあったものの、まだ原形は保たれていたはずの病院は見るも無残な状態になり果てていた。

「やっぱり、どこかから危ない輩が来たのは間違いないようね」

 そんな中、霊夢が冷静に告げて目の前の災害を睥睨する。
 今にも逃げ出したそうなフレンダとは違い、好戦的な眼差しを浮かべ、戦意も高まっている。
 いかに強大な敵であろうと、怯えもしないし、怯みもしない。

「クソッ! ブチャラティ達は無事なのかよ」

 カナメも警戒しつつも、周囲への警戒を怠ろうとしない。
 どう考えても、二人は逃げようなどとは微塵も考えていない様子だ。
 敵がいるか調べ、いるならば戦う。そんな様子だ。

 ――逃げ出したい。すぐにでも。

 ただ一人フレンダはそんな風に思うが、二人は聞く耳を持ってくれそうにない。
 襲撃があったのなら、当然、敵もまだこの辺りに残っている可能性は高い。当然、ソイツに襲われる可能性もある。
 仮に逃げ出したところで、カナメがフレンダ裁判の時に指摘していたように、参加者の多くに悪評が伝わってしまい、敵だらけとなった中に、一人で飛び出したところで悲惨な末路を迎えるだけだろう。

(どうして私がこんな目に――っ!)

 口に出してしまえば、「自業自得」とでも間違いなく、返されそうな事を思いながら、フレンダは二人と共に病院の調査を開始していくことになった。


 すぐ近くにある瓦礫の山の下に、つい先ほどまでこの病院を破壊して回っていた「災害」が埋まっている事に、気づかないまま。

【D-6/病院/一日目/午後】
※ 三階、四階を中心に破壊されつくされた状態ですが、二階と一階は比較的無事です。
※ 瓦礫の中にヴライが埋まった状態でいます。

【フレンダ=セイヴェルン@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身にダメージ(小)、心痛、右耳たぶ損傷、頬にかすり傷。衣服に凄まじい埃や汚れ、腹下り(極小)。
[服装]:普段の服装(帽子なし)
[装備]:麻酔銃@新ゲッターロボ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~1、『アイテム』のアジトで回収できた人形爆弾×1他、諸々(その他諸々の内パラシュート3つ&入っていた全てのばくだんいし@ドラゴンクエストビルダーズ2は使用済み)。レインの基本支給品一色、やくそう×2@ドラゴンクエストビルダーズ2、ランダム支給品×1(確認済み)、鯖缶複数(現地調達)
[思考]
基本方針:とにかく生き残る。現状は首輪の解除を優先するが、優勝も視野には入れている
0:逃げ出したい。けど、逃げ出したらもっとまずい
1:静雄とレインに謝罪して何とか許してもらう
2:その後は、何とか守ってもらうしかない
3:麦野の情報、全部話しちゃった…
4:絹旗、彩声、死んじゃったんだ…でも、私のせいじゃないよね?
5:煉獄、死んじゃったんだ…
6:詰 ん だ

【博麗霊夢@東方Project】
[状態]:脱力感、頭痛(物理)、かすり傷、疲労(小)
[服装]:巫女服
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、封魔針(まだまだある)@東方project
[道具]:基本支給品一式、高坂麗奈のトランペット@響け! ユーフォニアム、セルティ・ストゥルルソンのヘルメット@デュラララ! マリアが作ったクッキー@現地調達
[思考]
基本:この『異変』を止める
0:病院を調べてブチャラティ達がどうなったか確かめる。敵がいるなら排除。
1:カナメの仲間のところにフレンダを連れていく。一応殺させないようにする
2:フレンダを謝罪させた後、ウィキッドにけじめをつけにく。
3:続いてムーンブルク城でシドーを待ちぶせしてみる。
4:マリアや幻想郷の仲間の死などによる喪失感。あー、いやになるわ……
5:なんで紫のソックリ能力ばかり出会うのよ。
6:ウィキッド関連に片が付いたら、無惨とやらの面を拝む。垣根との共闘も視野
[備考]
※緋想天辺りからの参戦です
※シドー、マリアと知り合いについて情報交換を行いました。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。

【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み)、シュカの喪失による悔しさ、虚無感、ダメージ(小)
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(×0~2)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
0:病院を調べてブチャラティ達がどうなったか確かめる。敵がいるなら排除。
1:フレンダをレイン達のところに連れて行って謝罪させる。
2:回収した首輪については技術者に解析させたい。
3:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。今は初期位置しか分からないリュージよりも近くにいるレイン優先。
4:王の奴は死んだのか……そうか……
5:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
6:無力化されたようだが一応ジオルドを警戒
7:折原を見つけたら護る。
8:絶対にウィキッドを殺す。
9:爆弾に峰があってたまるか!
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子達と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。

【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)、火傷(絶大)、頭部、顔面に複数の打撲痕、右腕に複数の銃創、シドーに対する怒り、顔面に爆破による火傷、全身にガラス片による負傷
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
0:(気絶中)
1:あの男(シドー)もいずれ殺す
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
6:あの術師(清明)と金髪の男(静雄)は再び会ったら葬る。
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です。
※破損したことで、仮面の効能・燃費が落ちています。
※『特性』窮死覚醒 弐を習得しました。

前話 次話
裁定、そして災害(前編) 投下順 ギャクマンガ虚獄 ~ムギノインパクト~

前話 キャラクター 次話
裁定、そして災害(前編) ブローノ・ブチャラティ ニンゲンだから
裁定、そして災害(前編) 桜川九郎 ニンゲンだから
裁定、そして災害(前編) フレンダ=セイヴェルン 夕暮れのかなたから
裁定、そして災害(前編) ライフィセット ニンゲンだから
裁定、そして災害(前編) カナメ 夕暮れのかなたから
裁定、そして災害(前編) 博麗霊夢 夕暮れのかなたから
裁定、そして災害(前編) 梔子 ニンゲンだから
裁定、そして災害(前編) ヴライ 夕暮れのかなたから
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