バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

裁定、そして災害(前編)

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kyogokurowa

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 一人の漢が歩き続ける。
 剛腕のヴライ。

 仮面の者(アクルトゥルカ)にして、ヤマト八柱将の一人。
 シドーとの闘いを経て、わずなか小休止をしただけで再び動き出した。

 当初はシドーの後を追う気でいたが、今は見失ってしまっている。
 だが、帝の遺物を傷つけられた怒りはなおも消えていない。燃え上がるような怒りを抑えながらも歩き続ける。

 参加者を見つける。
 その参加者を屠る。
 ヴライのやる事は変わらない。

 下らぬ小細工も、同盟者も不要。
 それは今後も変わらない。

 本来であれば、このような方針は愚策もいいところ。
 ヴライといえども、侮れない実力を持った参加者が多数、参加しているこの戦いで、単独で活動し、力押しのみで優勝しようなどは不可能に近い。

 事実、この戦いでもトップクラスの実力を持つ参加者達も、早々に単独での優勝、あるいは主催打倒の困難を悟り、利害の一致による同盟や、本性を隠して集団に溶け込もうとする者達が続出した。
 そんな中、ヴライは一切の妥協をすることなく単独での生き残り方針を
変えず、ただひたすらに戦い続けた。

 だが、逆に言えば。
 このような方針を続けながらも、参加者が三分の二にまで減じた二度の放送を生き残っているのは彼の実力あっての事だといえる。

 放送がはじまって退場者の名前が呼ばれ続けても、ヤマト最強の漢は歩みを止めない。
 もとより、全ての参加者を殲滅し、ただ一人で勝者となる気でいるのだ。何人の名前が呼ばれたところで、ただ退場する順序が変わるだけだ。

 それでも。


『――ミカヅチ――』


 ただ一人、今回呼ばれた中では唯一の同郷である名前が呼ばれた時にはわずかな間ではあるが足を止めた。

 ミカヅチは間違いなく仮面の者(アクルトゥルカ)に選ばれるだけの力もある。
 だが、そんな相手ですら放送二回目にして退場した。

 彼とは帝への忠誠という点では、間違いなく同じだったはずだ。
 だが、帝の子であるアンジュに対する評価には大きな隔たりがあった。

 あの漢は、アンジュの事も帝の後継たる器があると認め、変わらぬ忠誠を誓っていた。
 その時は、失笑した。
 ただあの偉大な御方の子というだけで、寵愛を受ける小娘を盲目的に忠誠を向ける滑稽さを嘲笑った。

(だが、違った。それは我の誤りだった)

 今は認めよう。
 ミカヅチは正しかった。
 アンジュは、確かに帝の地位を引き継ぐに足るだけの気概と器があった事をこのヴライに確かに見せつけたのだ。

 しかし、それでも帝そのものではない。帝を継ぐ資格があっただけ。真の覇者たるものはこのヴライ。
 あの御方の後継たるは自分のみ。
 その思いは変わらない。

 一瞬だけヴライは瞳を閉じ、わずかな間をおいてから、再び進みだす。
 ヴライの方針は、今もなお変わらない。手あたり次第に参加者を見つけ、屠る。
 それを繰り返すだけだ。

 そして最終的にはこのような下らぬ催しを企んだ女共も一片の慈悲も与える事なく、屠り尽くす。
 ただそれだけの話だ。

 再びヤマト最強は動き出す。
 シドーを見失い、オシュトルの居場所も分からない今、明確な目的地はな
い。ただ、人が集まりそうなところへと向かっていくだけだった。



◇ ◇ ◇




「……」

 病院の一階。
 いわば、ここは法廷だった。
 被告人であるフレンダの、これまでの罪の有無を問うための法廷だ。

 検察側は、カナメと霊夢。
 弁護側――というべき立場なのがブチャラティと九郎なわけだが、現状は中立寄り。
 彼らも多少の差はあれどもフレンダを疑っており、この際だから聞いておくべきか、などといった態度。

 そんな四人を前に、フレンダは悩む。


「えっと、その……」

「できる事なら自分の口から話したら? その方がコッチとしては楽なんだけど」

 竜馬のような凶悪な面というわけでもないが、見る者を威圧するだけの力が霊夢の瞳には浮かんでいる。

「う……」

 何か手はないか、とこの期に及んでも考える。

「その、まださっきのスタングレネードの影響で声がよく聞こえなくて……」

「ちゃんと反応してるじゃねえか」

「えっと、そういえばライフィセットは大丈夫なのかなー、と心配に思うわけよ」

「今はシルバについてもらっている。何か容態が急変すれば、すぐにでも呼ぶように言ってある。それよりも、今は君の話を聞きたい」

「ぐぐ!?」

 せめてもの時間稼ぎを考えるフレンダだが、その悉くが論破されていく。

「ねえ、やっぱりコレの方が手っ取り早くない?」

 そんなフレンダに業を煮やしたのか、霊夢が再び針を手にする。

「あ、えっと、その……」

 タイムリミット。
 やはり万事休すか、と思われた時。

「待ってください」

 これまで、フレンダへの尋問を見ながらも外の様子を伺っていた九郎が口を開いた。

「誰か来ます」

「何?」

 新たな来客に、皆の様子も変わる。

「すみません。ちょっと、対応してきます」

 そう言って九郎が出ていく。

 乗った側が来てしまえば危険ではある。
 だが嫌な言い方にはなるが、この中で最も危険に晒して問題が少ないのは九郎だ。
 くだんの力が使えないとはいえ、人魚の力がある以上、王のような初見殺しの一撃を食らっても致命傷にはならない。
 とはいえ、不死者相手に攻撃できる手段や能力が存在する可能性がある以上、完全とはいえないが、それでも最も安全な事に代わりはない。

 そんな中、フレンダ裁判は中断され、新たな来客が来るまで沈黙が場を支配する。

 乗った側か。
 むしろ、主催打倒の側か。
 あるいは、ただの一般人。
 この中に知り合いはいるのか。

 皆が警戒心を高め、様々な可能性が全員の頭の中で駆け巡る。

 そんな中、唯一フレンダだけは、

(キターっ! やっぱり、まだ運は尽きてなかったってわけよ!)

 予期せぬ来客に、内心で歓喜する。
 何とか有耶無耶にできるかもしれない、と考えたフレンダだが、すぐに冷静さを取り戻した。

(けど待って! そいつがまた竜馬やレイン達から話を聞いてきた参加者の可能性だってあるし、むしろそっちの方が高い気が……)

 会場内でフレンダが自分優位な事を吹き込む事ができてなおかつ、今も生存しているのは、ブチャラティ達を除けばシグレとメアリのみ。竜馬ら三
人から自分の悪事をバラされた参加者の方が圧倒的に多いはずだ。
 かといって、どちらの悪評も聞いていない者ならばとりあえず中立となり、良くて九郎とブチャラティと同じ立場になるだろう。

(やっぱダメ! 来るならもっと、この状況を滅茶苦茶にしてくれるヤツ!)

 いっその事、麦野でも来てくれないかと思うが、残念ながら麦野は麦野でいろいろとマズイ要素が多い。
 最悪、自分が最優先ターゲットにされてしまうかもしれない。

 こんな詰みの局面をひっくり返してくれるのは、もう盤上ごとぶっ壊してくれるヤツ以外にない。

(もう殺し合いにのっているヤツでも何でもいいから!)

 そうなってしまった場合、当然自分も危険に晒される羽目になるわけだが、それに気が回らないくらいには今のフレンダは追い詰められていた。
 自分を殺しかけた仮面の漢でもこの際いい――などと思い始めた時、九郎が再び参加者を連れて現れた。

 残念ながら、フレンダの期待は裏切られた事を悟る。
 素直に九郎の案内を受けている事から、問答無用で襲い掛かるような輩ではないようだ。

 しかもその相手には一瞬、こちらの姿を見てから、

「フレンダ=セイヴェルンか?」

 などとフレンダの名前を呟かれた。




◇ ◇ ◇



 梔子が、病院へと到達したのは、静雄とレインと別れてさして時間をおかずにの事だった。

 炎ほどのトラウマがあるわけではないが、病院は好きではない。
 どうしても、最期に面会した姉の事を思い出してしまうからだ。

 もっとも、病院は様々な死に関連する施設。事故だけでなく、病気などもある。
 梔子のような特殊ケースでなくとも、家族との別れの場となる事が多く、あまり良い思い出があるという者はいないだろう。

 その入口で出会った桜川九郎と名乗った男に案内され、病院の内部に入る。
 が、その中は無残な状況だった。
 あちらこちらにある戦闘の後に加え、大量の針がささっている。
 明らかにただ事ではない。

 そして、その中心にいる少女。
 見覚えはない。だが、外見がこれまでの同行者達から聞いていたある参加者と一致する。

 フレンダ=セイヴェルン。
 梔子が彼女と会うのはこれがはじめて。
 だが、これまでの同行者達とは何度も関わっている。

 彩声に偽りの情報を吹き込み、竜馬といらぬ対立を生み出し。
 煉獄の死には大きく関与している可能性が高く。
 静雄にも偽りの情報を吹き込んで竜馬と対立をさせた。
 レインには見破られ、彼女を叩きのめして支給品を巻き上げたらしい。

 完全に危険人物といってよく、個人的にもあまり好印象を抱けない相手だった。

 だが、その事をすぐには指摘しなかった。
 まだ、どういう状況か分からない。

 一見すると、訊問でもしているように見える状況だ。
 少なくとも、凶悪な参加者に襲われた哀れな被害者を見る目で見られてはいない。

 彼女がこの時点で属しているグループでどういう立ち位置にいるかはわからない。
 彩声や静雄のように利用されているだけの集団なのか、それとも分かった上で彼女と共犯関係にある琵琶坂のような外道の集団なのか。

 それによって、こちらの対応もまるで変わる。

(そんなに悪い人達には見えないが)

 この場にいるのは、九郎以外にブチャラティ、博麗霊夢、カナメと名乗った者達。
 それ以外にも、病室にも他の仲間がいるらしい。

 あくまで、梔子の第一印象の話ではあり、彼らも何かしらの本性を隠している可能性もある。
 それでも、かつて幼かった頃、若きエリート弁護士として紹介された時の琵琶坂のような胡散臭さは感じない。

 フレンダにしても悪事が露呈して問い詰められている――そんな風に見えるが完全に警戒は解かない。

「なあ、アンタ。コイツの事を知っているのか?」

 名乗られる前からフレンダの名前を知っていた事を疑問に思ったらしく、梔子にカナメが問いかける。それに梔子が答えようとするよりも先に、

「待って」

 霊夢がそれを止めて、フレンダに視線を移す。

「その前に、コッチを優先させた方がいいんじゃないの? 後付けで、適当な出まかせを言い出されたら困るし」

「……そうだな」

 その言い分に納得したようにカナメも頷いた。

 適当な事をフレンダが言い出したとしても、矛盾があれば即座にそれを指摘する。そういうやり方でいった方が良さそうだ。

「う、その……」

 フレンダは、視線をずらして周囲を見渡す。

 カナメ・霊夢は言うに及ばず。
 ブチャラティと九郎も中立を貫く様子。
 ライフィセットは病室のまま。
 梔子という新たな参加者も、竜馬、あるいは静雄やレインと接触している可能性が高い。

 何とか適当な自分優位な話をしようかとも考えるが、カナメや梔子がどこまで知っているかが分からない以上、矛盾が出てしまう可能性がある。
 この状況下でさらに嘘を重ねれば、今は中立の九郎達ですら敵に回ってしまう可能性もある。

 たっぷり――といっても時間にして十数秒ほど――の沈黙の後、フレンダも決断せざるをえなくなった。

 ――そして、フレンダは話し始めた。

 この会場に来て幾度目かの、それでありながら嘘がいっさい混じらないこれまでの軌跡を。



 最初に会場に来て竜馬との接触して殺害しようとしたのも失敗した事。
 彩声を利用――これに関しては勝手に暴走してしまったのはフレンダからしても想定外だったものの――した事。
 静雄とレインと出会い、彩声同様に利用しようとしたものの途中でレインに見破られたので支給品を奪って逃走した事。
 その途中、仮面の漢に殺されそうになったところを煉獄と名乗った男に助けられた事。
 そこから他の参加者二名に出会った後、ホテルに来た事。

 今回に限ってはいっさいの嘘偽りない話をした。

 ある程度、話を聞いていた様子のカナメと霊夢。それに梔子はそこまで動揺した様子はないが、何か隠し事をしていると疑っていたとはいえはじめて聞いた九郎とブチャラティは少し驚いていた。
 難しい顔をして二人とも考え込んでいる。

「……それで、何か弁明はあるのか?」

 そんな中、全てを話し終えたフレンダに、最初に尋ねたのはカナメだった。
 その言葉にフレンダはもじもじとしながら、

「べ、弁護士を呼んで欲しいかなー、何て」

「いや、こんなところにいるわけねえだろ」

 とフレンダの言葉を、呆れた様子でカナメは切って捨てる。
 霊夢もそれに同意しかけるが、

「いや、そういえばいたわね」

 と不意に思い出したように言った。
 早苗達と情報交換をしている際に、みぞれという少女が話していたはずだ。

「確か、参加者の一人に横領だか何かしたっていう弁護士がいたはず――」


「――何!?」


 言いかけた霊夢を、これまでほとんど会話に加わる事のなかった梔子が食い入るように声を荒げる。

「その話、詳しく聞かせろ!」

「ちょ、ちょっと。そんなに迫らないでよ」

 これまで大人しく聞いているだけだった梔子の豹変に、この場にいる者も戸惑っていたが、ブチャラティがそれを諫めた。

「落ち着いてくれ。そんな風に詰め寄られては話せるものも話せなくなるだろう」

「――っ! す、すまない」

 梔子も思わぬところから情報が入ってきて興奮してしまったが、それを抑える。

「どうやら、君も何か求めている情報もあるようだ。ここは、落ち着いて情報交換をしないか?」

 本来なら、もっと早くにやるべきだったかもしれないが、フレンダから話を聞き出すために後回しにしていた事だ。
 霊夢たちも納得したように頷き、互いの知る情報が出し合われた。



「なるほど、確かにあんたの言っている事に間違いはないようね」

 霊夢がフレンダを見て言う。
 ひとまずは、梔子の証言からフレンダの言っていた事の裏付けがされた。これまでの彼女の同行者だった煉獄、彩声、静雄、レイン。
 全てがフレンダ被害者の会といってもいい面子だ。
 唯一竜馬のみがいないが、彼についても静雄とレインから話を聞いてはいる。

 そんな彼ら、彼女らから話を聞いていた梔子の話からも概ね、先ほどの自供は真実と見ていいだろう。

 ただ唯一、煉獄殺しの疑いのみは証人がいないため、潔白が証明はできなかった。
 その相手――ミカヅチは既に退場済みでありフレンダはその名前すら知らないままなので、証明しようがない。

(俺の名を騙っていたという存在。やはりあんたなのか? ボス)

 続いて、ブチャラティも、霊夢やカナメの知る「自称」ブチャラティについての詳しい話を聞いて考える。
 話を聞く限り、表面的には何か問題を起こしているわけでもなく善良な人物として振舞っているようだ。
 フレンダのように、ジョルノやリゾットといったブチャラティ以外にも始末したいであろうターゲットの悪評を流したというわけでもないようだ。
 だからといって安心していい相手ではないし、要警戒といったところだ。

 ちなみに、霊夢とカナメとして二人のブチャラティ問題に関しては保留とした。
 このブチャラティに怪しい点はないが、もう一人のブチャラティの方も、それなりの時間を共に行動していた早苗に聞く限り露骨な問題行動を起こしたというわけではない様子なのが二人の判断を迷わせた。
 元はリゾットの支給品であり、今は垣根の持っている顔写真付きの参加者名簿のようなものでもない以上、この話は水掛け論となる。

「ひとまず、佐々木志乃さんの無事が確認できたのは良かったですね」

 九郎が呟くように言う。
 アリアの言っていた佐々木志乃。
 罪歌、という問題はあるにせよ、ひとまずは無事だった事が判明した。

「ああ、例のジオルドも無力化されているならば、それはそれで安心ではあるが……」

 さらには、問題人物であるジオルド・スティアートも大人しくなっているようだし、洗脳という箇所に抵抗感はあるにせよ懸念事項が一つなくなった事になる。

 とにかく、この件はアリアが任せろと言っている以上、彼女に一任する気でいた。

 もっとも、あの直後にシドーらの乱入によって、志乃やジオルドらが戦闘に巻き込まれた事を霊夢は知らない。
 よって、ブチャラティと九郎がひとまずは無事でいた彼女らを下の優先順位に置いてしまう事は仕方のない事だった。

「あんたらもあいつに襲われていたんだよな」

「ああ、正確にいうなら俺は襲われていない。九郎とこの場にいない新羅。それに今も病室で寝ているライフィセットという仲間だ」

 こちらはフレンダ被害者の会とは別に、ジオルド被害者の会ともいえる一同である。

「大丈夫なのか?」

 カナメも先ほど、九郎の言っていたグレネードから庇ったという相手であろう事を思い出す。

「良くない。今も安定している、とは言い難い」

「……そうか」

 ブチャラティの言葉に、カナメも険しい顔になる。
 王やフレンダのような輩ならともかく、巻き込まれた側の者だ。当然、心配にはなる。
 だが、カナメはカナメで優先すべき事がある以上、こちらの問題はブチャラティ達に任せるしかない。

 そして、今現在片付けなければいけない問題の存在へと視線を動かす。
 霊夢も気づいたのか、同様の相手の方を向く。

「……さて、一通り済んだ事だし、まずは目の前の問題を片付けちゃいましょう」

 霊夢の言葉にフレンダがビクリと固まる。
 情報交換をしている間、判決は先延ばしにされたいたが、ついにその時が来たのだ。

「正直な事を言えば、俺は今でも殺すべきだと考えている」

 その言葉に、フレンダの顔は先ほど以上に青くなる。


 情報交換している間は、刑の執行が先延ばしにされとはいえ、フレンダの処遇は未だ決まっていない。

「けど、それをやるべきなのは、コイツに騙された竜馬やレイン達だ。無関係の奴らに裁かれましたなんて言われても、気は晴れねえし満足なんてしねえ」

 その事は、カナメ自身がよく知っている。

(あのクソ野郎がくたばった時に、よく分かった)

 王は、今この瞬間にも、目の前にいれば八つ裂きにしてやりたい存在だ。その王が死んだなどと、霊夢から聞かされ、放送でも確定した。
 その瞬間、カナメの心は晴れなかった。それどころか、鬱屈とした思いを抱える事になっただけだった。

 だから、分かる。
 ここで、カナメがフレンダを殺したところで竜馬もレインも、会った事はないが静雄という男も喜びはしないだろう。
 無関係の第三者によって達成される復讐など、空しいだけで何の意味もない。

「でも、コイツを生かしておいた方が危険なんじゃないの?」

 霊夢はその言葉を咎めるでも激昂するでもなく、尋ねる。
 許す許さないなどといった感情的な問題はともかく、フレンダは殺し合いを加速させる要因になりかねない。

「ああ。だが、コイツの評判は既に最低。もうかなりの人数がこいつの悪行を知った。悪評を振りまく策はもう使えねえ」

 今や、フレンダの悪評は多くの参加者に広まってしまった。

 ここの病院組に加え、北宇治高校にいる面々。さらには、レインや静雄。
 彼らは知らないが遺跡にいる者達も竜馬経由でそれを知り、麦野らのグループとは敵対確定。

 もはやフレンダの事を知らない他の参加者に竜馬達の広めようにも、それは難しいだろう。仮に、ここから逃げ出し、他のグループに取り入ったところでいずれはフレンダの悪行を知るグループと接触してしまう可能性が高い。
 単独で優勝できるような圧倒的な力がフレンダにない以上、仮にこの場から逃げ出したところでフレンダは詰みなのだ。

「それでどうするの? 無罪放免?」

「まさか。さっきも言っただろ。コイツに罰を与えていいのは竜馬やレイン達だって」

「つまり?」

 結論を促す霊夢にカナメが答える。

「フレンダから被害を受けた連中。竜馬や、レインと一緒にいるらしい静雄って奴に、コイツを任そうと思う」

 その言葉に「え」と固まるフレンダをよそに、霊夢が重ねて聞く。

「そいつらに処遇を委ねるっていうの?」

「ああ。幸いにも、レイン達は近くにいるようだしな」

「コイツを連れていく気?」

「ああ」

 幸い、梔子がレイン達と別れてからさほど時間は経っておらず、距離もそこまで離れていない。
 別れた場所からして、禁止エリアの関係で西の方に行った可能性は低く、さらに梔子とは別方向という事である程度は場所が絞り込める。

「そう言っているけど、あんたらはどうなの?」

「確かに、お前たちの言う事は正しい。この催しで最も警戒すべきは、主催者だが、それに次いで危険なのは積極的にのる参加者だ」

 チョコラータや王のような輩はもちろんとして、恐怖に負けて殺し合いにのる者達もそれは同様。
 被害者となった参加者からすれば、それは関係のない事なのだから。

 だが、とブチャラティは続ける。

「それでも彼女は俺達のチームとして、助けられもした。それに、殺し合いに乗っているからといって殺してしまっては主催の思うツボだ」

 そこまで言ったブチャラティに、フレンダも一瞬、目を輝かせるが、

「――だから、殺させるのだけは止めてくれ」

 次の言葉に再び固まる。

 フレンダの殺害には断じて反対するが、ある程度の制裁は許容する。それがブチャラティの決断だった。

 何せ、やった事が事だ。
 お咎めゼロにしてしまう事はできない。
 九郎も特に異論はないようだ。中立な立場に徹していた彼からしても、過剰な制裁を望む気はないいが、さすがにこのまま何もなしではフレンダ被害者の会の面々も納得しないだろう。

「分かったわ。つまり、殺されるのだけは止めればいいのね」

「え、えっと……」

 フレンダは口ごもる。
 死を免れたのは良かったが、あの竜馬や静雄から制裁を受けるのは覚悟しなければらない。
 そのまま勢いで殺されました――などという事にならないだろうか。

「何か不満でも?」

「――ぐ、わ、わかったってわけよ」

 だがフレンダからしても、とりあえず死刑判決は覆り、減刑されたのだ。
 これ以上、下手に抵抗するのは逆効果と判断し、項垂れる。

 とにかく、竜馬や静雄に会ったなら、土下座でも何でもして少しでも処罰を軽くする事に尽力するのみだ。
 多少は殴られはするかもしないが、やりすぎとなれば今のブチャラティとの約束もあるし止めてくれるだろう――と半ば自棄になりながらも納得する。

「あんたもそれでいい?」

 霊夢の言葉にそれらのやりとりを黙って聞いていた梔子も、頷く。

「構わない」

 レイン達との証言にも矛盾はない。そして、フレンダは梔子がレイン達と会っていることすら言っていない。
 この点から、適当なことを言ったわけではなく、彼女の言ったことはおそらく本当だろう。

 その上で、ブチャラティ達が受け入れる方向でまとまるというのであれば口を挟む気はなかった。

 直接の仇ではなかったにせよ、煉獄の死には関与しているし、竜馬が本当に危険人物であったならば彩声もその時点で死んでいた。
 そういった点から、思う事もあるし、フレンダに対する感情は良くない。
 だが、それでも糾弾する事はなかった。

(すまない、天本彩声、煉獄さん)

 既に亡くなっている二人に心の中で謝罪する。

 二人の件で、フレンダに思う事はある。だが、ここでまとまった空気をぶち壊し、会ったばかりの霊夢やブチャラティ達との関係を悪化させない方を優先したのだ。

 それに、ようやく手にした仇の情報。
 その事が、自分が虚構かもしれないという事実を多少は薄れさせてくれる。

(琵琶坂永至……)

 可能性としては低いが、自分と出会う前。そして弓野家への放火の前からであるなら、復讐心に戸惑いが生まれたかもしれない。
 しかし、間違いなく自分の仇敵である琵琶坂永至だと確信が持てた。
 霊夢の言うみぞれという少女の証言を聞く限り、間違いないだろう。

 可能であれば、直接会って話を聞いてみたい気もしたが、残念ながら彼女が会っていたのはゲーム開始直後でわずかな期間。今の霊夢の証言以上の情報は期待できないだろう。

「その上で一応聞くが、フレンダ。煉獄さんを殺したのはお前ではないのか?」

「ち、違! 今更、嘘はつかないからっ」

 フレンダはものすごい勢いで首を左右に振る。

 結局、煉獄殺しの無罪を証明する事がフレンダはできない。
 あの場で唯一の証人になれるミカヅチは既に放送で名前を呼ばれており、フレンダはその名前も知らないままなのだ。

「どうだか」

 そんなフレンダに霊夢は疑わし気な視線を送る。
 はっきり言って現時点でのフレンダへの信用は最低といってよく、当然といえば当然だ。

 そんな空気の中、ブチャラティが口を開く。

「しかし、その煉獄という男の言っていた鬼舞辻無惨という奴が垣根の言っていた鬼舞辻無惨と同一人物の可能性は高いな」

 梔子からジョルノの仇でもある無惨の情報が入った事は、ブチャラティにとっても僥倖ではある。

 だが、残念なのは梔子の知る情報は今は亡き煉獄からの又聞きの情報に過ぎないという点か。
 鬼と呼ばれる一味の首魁である危険人物である事など、基本的な情報は分かるが詳細までは分からない。

「それでも、垣根に知らせれば多少の助けにはなるかもしれないが……」

 そんな情報であっても、ないよりはマシかもしれない。
 また会う機会があれば、一応垣根は伝えようとブチャラティは考える。

「その垣根帝督、だっけ? そいつも無惨って奴を狙っているのよね」

「そうだ」

 現状、魔理沙の件がある以上、ウィキッドを優先するが、鈴仙の事がある無惨も機会があれば顔ぐらいは拝んでやろうと考えた相手だ。
 相応の実力を持つようだし、場合によっては対無惨で共闘を考えてもいいかもしれない。

 ――もっとも、無惨とウィキッドの両名はこの時点で同じ場所にいるわけだが、そんな事を霊夢は知るはずがなかった。

 さらには無残は早苗からの情報によれば、「冨岡義勇」あるいは「月彦」と名乗っている人物と同一人物の可能性が浮上した。
 霊夢はどちらも本物を知らないがブチャラティの例もあり、名を騙っている可能性が高い。

「あー、そういえばアンタ、Storkの仲間だったんだよな?」

 ここでふと思い出した様子でカナメが梔子に声をかける。

「一応はそうなる」

 楽士達はお互いに隠し事はあり、心の壁があった。みんなが固い信頼関係で結ばれた仲間です――などとは口が避けても言えないが、それでもStorkとも、最初に殺された少年ドールとも悪い仲ではなかった。

「すまなかった。俺がもっとうまくやっていれば、アイツが死ぬ事もなかったはずだ」

 Storkの件に関して、カナメは謝罪する。

「状況を考えれば、仕方がないと思う。気にしないでくれ。むしろ、最期を伝えてくれて感謝している」

 Storkの変態行為に関しては思う事はありはしたが、別に嫌いではなかった。誕生日会で倒れかけた時などにも、即座に助けに動いてくれたし、根本の部分では真面目な人間だったと思う。
 少なくとも、琵琶坂やウィキッドなどと比べればずっと。

 この世界が虚構かどうかの問題はいったん、置いておくとして、その死を悼みはするし、死に際の様子を知れた事で多少は救われた。

「それでアンタ、ウィキッドに関して何か情報でもないの?」

 霊夢が傍らから口を挟む。
 彼女らがウィキッドをターゲットにしている事は聞いているが、別に止める気も妨害しようという気もない。

 一応は仲間だったとはいえ、こんな状況で庇う気はないし、何より彼女らがウィキッドを狙う動機は十分に理解できてしまうから。

「それほど知っている事は多くない」

 だが、残念ながら梔子からしてもウィキッドに関してそれほど多くの情報を持っているわけでもないが、一応は知りうる限りの事は話した。

「それでカナメ。これからどうする気なの?」

「まずはレイン達との合流だな。そこに、コイツもつれていく」

「ちょ!? 痛いって、引っ張らないでよ!」

 カナメはフレンダの腕を掴んで立たせる。

「まあ、レインってあんたの仲間との合流は元々の予定だし、当然といえば当然ね」

「さっき言ったように、コイツにもそこで謝罪させる」

 カナメとしては、リュージとレインを秤にのせるつもりはないが、現時点で優先すべきはすぐ近くにいると分かっているレインだ。
 ブチャラティからリュージの初期情報が手に入ったとはいえ、半日も前の情報だ。明確な目的地があるわけではなかったようなので、今はどこにいるかも分からない。
 ならば確実にレインと合流し、フレンダにけじめをつけさせた上で奪った支給品も返却させる事が先。
 それが、当面の目標だった。

「それじゃ、私も付き合うわ」

「いいのか?」

「ええ。アンタ一人じゃ、何かのきっかけでコイツを殺しかねないし。コレの借りがある分、殺させないって約束ぐらいは守ってやるわよ」

 そういって、しっかりとくっつけられた二本の指を見せつける。
 霊夢にとっての病院に来た目的である指の接合は、ブチャラティのスタンドによって思ったよりもあっさりと、先ほど話をしている間に達成できてしまった。

 霊夢は魔理沙と比べればドライな性格ではあるが、借りのある相手との約束を破るほど無責任でも身勝手でもない。
 この指の借り分ぐらいは、しっかりと返す気でいた。

 フレンダがそんな霊夢に縋るような視線を向けるが、

「大丈夫よ。静雄って奴に殺されそうになっても、命ぐらいは守ってやるから。 ……アンタが余計な事をしない限りね」

 最後にボソッと小声で付け加えた言葉に、無言のまま凄まじい勢いでフレンダは首を縦に振る。

「なら、急いだほうがいいか。あんまり時間をかけるとレイン達が遠くに行っっちまう」

「そうね。じゃ、いくわよ」

「いたたた! だから、引っ張らないでってばっ」

 フレンダが引きずられるようにされながら、病院の出口へと二人は向かっていく。

「さっきも言ったが、くれぐれも」

「だから分かってるって。さすがに、やりすぎと判断したら止めるわよ」

 ブチャラティの言葉に、霊夢は頷く。

「頼む」

 本来ならば、ブチャラティもそれを見届けるべきなのだろうが、今この病院残る事になるのは、不死身の力を持つとはいえ、際立って高い戦闘能力を持たない九郎。それに、重傷のライフィセット。一応は自衛程度の力は使
えると言っているが、実力に関してまだ未知数の梔子。戦う力は持っていても、精神的にはまだ幼いシルバとなる。
 この状況下で、病院からブチャラティまで離れるわけにはいかなかった。

「まだ暫くはこの病院にいるつもりだ。そっちが、仲間と合流できたのならば、また届けてくれ」

「ああ、分かった」

 とりあえずは、レインと静雄に合流してフレンダにけじめをつけさせてからは、再びフレンダをブチャラティ達の元へと戻す。
 居場所が分からないが、遠方にいる可能性が高い竜馬に関しては後回しという事で話はまとまりを見せた。

 一応、フレンダの処遇を巡っての話はこれで終わり、ひとまずはこの病院でのいざこざも落ち着く事ができた。

 だが、この近くに新たな災害が近づいてきている事を彼らはまだ知らなかった。



◇  ◇  ◇



 シドーを見失ったヴライは、ひとまずは参加者が集まりそうな箇所へと移動を続けていた。

 ここで、距離的には近い大いなる父の遺跡へと向かう道を選んでいれば、そこで念願のオシュトルとの再戦も叶った可能性があるのだが、それはしょせんはIFの話である。

 ヴライの視界に病院が入ったのは、最も太陽が高くなる時間での事だった。

 ――戦の匂いがする。

 病院に近づくにつれ、まずヴライが感じた事がそれだった。
 それは、理屈ではない。根っからの武人であり、多くの戦場での経験があるヴライの第六感ともいうべきものが告げている。
 それも一人や二人ではない。
 複数人が、何度かに至ってやりあっている。
 そんな怨念が病院からは漂ってくる。

「……ふん」

 ヴライは、歩を進めていく。
 誰も残っていないのであれば、それはそれで良い。
 いるならば、見つけて屠る。
 それだけの話だ。

「奇怪な」

 ヤマトに生きるヴライにとって、この病院は見慣れない建物だ。
 病院だけでなく、ここまでに見てきた会場内の建物の数々も同様であり、気にはする。だが、それだけだ。
 同郷のクオンや、この会場にはいないネコネなどからすれば違うだろうが、ヴライはそういった事に興味はない。

 だが、人やヒトが集まりそうな場所だ。
 それだけを判断材料に、ヴライは病院へと近づいていった。

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明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- 投下順 裁定、そして災害(後編)

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