バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

夕暮れのかなたから

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kyogokurowa

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「結局、誰も見つからなかった訳よ」

見るも無残な姿に成り果てた病院内を探索したカナメ、霊夢、フレンダの三人。
先程まで行動を共にしてきたブチャラティ達の安否が気がかりではあったが、戦闘の爪痕が激しく刻みつけられた院内には、彼らはおろか、彼らと交戦したと思わしき人物の影も形も見当たらなかった。
彼らの身体の一部が散らばっていたり、骸が転がっていないだけ、まだ僥倖とも言えるが、戦闘は既に収束し、病院にいた連中は揃って退避したようにも見受けられる。

「――どう思う、霊夢?」

特に目立った収穫はなく、捜索を切り上げることになった三人は、病院から出ると、瓦礫の山を前にして佇んで、今後の方針について話し合っていた。

「大方『乗った側の人間』に襲撃されて、上手く撒いたか。それとも、こうしている今も、どこかで、追いかけっこをしている―――といったところね……」

カナメからの問いかけに対して、霊夢は顎に手を添えながら淡々と答える。
その表情や声色からは、ただ事実だけを冷静に受け止めているように見えた。
霊夢の見解は、カナメの意見と一致していたようで、彼は頷き、言葉を続ける。

「前者だったら、まだ良いんだが……」

「そうね……。後者のパターンだと、ブチャラティ達が心配だわ」

とそこで、霊夢は、チラリと、目の前に拡がる瓦礫の山を見やる。
一度手合わせした手前、ブチャラティの実力は把握しているつもりだ。
そう易々と彼が遅れをとってしまうとは考えにくいのだが、これほどの火力を引き起こす者を相手になるとなれば、話は別だろう。

「───ああ、もう。本当に、次から次へと面倒くさいことが起こるわね。」

苛立ち混じりに、頭を掻きむしる霊夢。
シドーの時といい、早苗と再会した時といい、この殺し合いに巻き込まれてからは、立て続けにままならない事態が続いている。
だが、今ここで文句を垂れたところで状況は何も変わらない。
霊夢は小さく息をつくと、「行くわよ」と、その場から離れるべく踵を返す。
カナメも相槌を打つと、その後ろに続いて歩き出すが―――。

「えっ? ちょっと待って。 結局、皆を追いかける訳……!?」

フレンダは、慌ただしい様子で、カナメ達に詰め寄る。
すると、カナメと霊夢は、互いに顔を見合わせた上で、訝し気に眉根を寄せると、彼女に冷ややかな視線を送る。

「当たり前でしょ? ブチャラティ達を放っておくわけにはいかないし―――。
それに危ない奴がいるんであれば、とっちめないといけないじゃない?」

霊夢は当然のことのように言い放つと、その横で、カナメも無言の同調圧力を伴った視線をフレンダに向ける。
有無を言わせぬ二人の眼差しを前にして、フレンダは思わずたじろいだ。

「そ、それは……確かに、そうだけど……!」

二人の圧に気圧されながらも、フレンダは必死に言葉を紡ごうとする。
フレンダからしてみれば、眼前の「災害」を引き起こした危険人物と鉢合わせするのではないかという不安から、ようやく解放されたのも束の間―――再び死地に飛び込む羽目になるのだから、心中穏やかではない。
仮に麦野や、先の仮面の漢のような化け物とあいまみえようならば、命がいくつあっても足りない。
それならば、ブチャラティとの約束に望みを託し、レイン達に裁定を委ねたほうがまだマシというものだ。

しかし、そんな彼女の心情など知る由もない二人は、フレンダに向けて、更に追い打ちをかけるように言葉を重ねる。

「グズグズするなよ、 今は一刻を争うんだぞ」
「ほら、さっさと行くわよ」

そう言うなり、二人は、足早に歩を進めていく。
フレンダは、一瞬、躊躇う素振りを見せたものの、観念したように肩を落とす。
フレンダは、謂わば刑罰の執行を待つ身柄。
連行中のこのタイミングで逃げ出しても、参加者間に蔓延る自分の悪評に上塗りしてしまうのが目に見える。
つまり、フレンダには二人に従う他選択肢はない―――。
それを悟るフレンダは、意気消沈気味に、カナメ達に追従するのであった。


ザシュリ


「えっ?」

「―――まずは二人……」

フレンダの聴覚が、氷のように冷たい声音を拾ったのは、その直後のことだった。
瞬間、フレンダは身体の彼方此方から、灼熱にも似た激痛を覚え、ひっくり返るように倒れた。

(な、何が……)

背中に地面の冷たさを感じながら、首を起こす。
前方を見やると、カナメが仰向けに倒れていた。
彼の身体には、銀色に光る小型ナイフのようなものが生えており、そこからどくどくと紅色の鮮血が溢れ出している。
そこでフレンダは、自分の身に何が起こったのかを理解する。
自分もカナメと同じように、的にされたのだと――。

「……そう……。あんたは“そっち側”という訳ね……」

倒れるカナメの前方で、霊夢は険しい表情を浮かべながら、何者かと対峙していた。
霊夢が睨みつけるその先には―――。

「仲間は無力化したわ。次はあなたの番よ、博麗の巫女」

ボロボロのメイド服を身に纏い、両手に幾つものナイフを握り締めている死神の姿があった。




神々を交えた大戦―――。
その後に、ジオルド・スティアートが引き起こした血みどろの闘争劇―――。
幾人の参加者の命が散り、死屍累々が重なった戦地に背を向けて、咲夜は傷ついた身体を引きずるように、歩みを進めていた。

――ゾワリ

突如背後から、ただならぬ気配を感じて、咲夜は背後を振り返る。
咲夜の目に留まるのは、三人の参加者の遺体。
そして、その中の一人、佐々木志乃だったものが握る妖しく光る刀に、咲夜の視線は吸い寄せられた。
まるで、その妖刀・罪歌に誘われるかのように、咲夜は来た道を引き返し、その妖刀を手に取った。

『愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛愛愛愛愛愛愛あいあ――』

「――っ!?」

その瞬間、呪詛のような言葉が、咲夜の中に入り込んでくる。

『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』

頭の中でリピートされる『愛』の囁きは、やがて『あかり』なる人物への想いへと変容していく。

――咲夜は知る由もないが、これは元の持ち主である佐々木志乃が抱えていた『愛』で、妖刀の『愛』を塗り替えた結果であった。

そんな歪みに歪んだ愛の声に、咲夜は、表情を歪めつつも、自らのデイパックにこれを収納。その声はたちまち消えた。
斬った人間を操る妖刀とは聞いていたが、取り扱うには相応の精神力がいるようだと、咲夜はそれを理解した。
だが、それを差し引いたとしても、この妖刀は強力無比で危険な代物だ。
今後自分と敵対するような他参加者の手に渡るくらいなら、自分の手元に置いておいた方が良いと判断したのである。

そして、踵を返すと、今度こそ彼女は戦場を跡にした。


「あっびゃあああああああああああああっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?」

獣を彷彿させるような絶叫とともに、北の空に飛翔体が飛び出していくのを視認したのは、遠目に紅魔館が見えた頃だった。
その正体は、学園都市第二位と第四位の全力全開、憤怒の拳を一身に受けた聖隷ビエンフーであったのだが、そんなことはもちろん知る由もない咲夜である。

「……今の、何?」

謎の飛翔体が飛んで行った方角と、紅魔館を交互に見やり、足を止める咲夜。
休息のため、一先ずは紅魔館―――と考えていたが、目的地たる彼女の慣れ親しんだ施設にて何かが起こっているのは明白だ。
さて、どうしたものか――と、咲夜は思考する。
ゲーム開始時より、同盟を結んでいた采配師が傍らにいれば、相談もできたのだろうが、今この場にいるのは咲夜一人のみだ。

「……。」

暫くの熟考の後、咲夜は北へと進路を取ることに決めた。
現状何かが紅魔館で起こっているのは間違いない。それこそ、他参加者同士の殺し合いが起きている可能性も十分にある。
なればこそ、ここで安易に近付くと、咲夜自身もその争いに巻き込まれかねない。
であれば、まずは先の飛翔体を探ったうえで、状況把握に務めるべきだと、そう判断したのだ。

「鬼が出るか蛇が出るか――と言ったところかしら……?」

咲夜は誰に向けるともなく呟くと、再び歩き出した。
その瞳には、未だ見えぬ敵の姿を捉えるべく、鋭く研ぎ澄まされた光があった。
行く先で何が待ち構えていたとしても、一切動じることなく切り抜けられるよう覚悟を決めながら、咲夜は一歩ずつ前へ進んでいく。
やがて――北へ歩を進めること数刻。

「えっ? ちょっと待って。 結局、皆を追いかける訳……!?」

(っ!? あれは―――)

荒んだ病院の入り口付近で三つの人影を遠目で視認した咲夜は、咄嗟に草むらに身を伏せて様子を窺う。
どうやら三人の参加者が、言い争っているように見受けられる。
一人は、金髪の西洋人形を彷彿とさせるような可憐な少女。
一人は、パーカーを着込んだ、体格も見た目も特筆すべきところがない、黒髪の青年。
そして、もう一人は―――。

「当たり前でしょ? ブチャラティ達を放っておくわけにはいかないし―――。
それに危ない奴がいるんであれば、とっちめないといけないじゃない?」

(博麗の巫女……)

殺し合いの名簿に、その名が刻まれていた、幻想郷の秩序の番人がそこにいた。
咲夜の主人たるレミリア・スカーレットが引き起こす『異変』にあたり、最大の障害になりえる要注意人物であるとマークしていた手前、その風貌を見間違うことはない。

(奴らは、まだこちらに気付いていない……。なら―――)

懐から複数の小型ナイフを取り出し、身を屈める咲夜―――。

仮に咲夜が発見したのが、フレンダとカナメだけであったなら、満身創痍の彼女は、無理することなく、様子見を決め込むか、或いは、彼らと接触して利用する方向へと、舵を切っていたかもしれない。
しかし、連中に、あの博麗霊夢がいるとなれば、話は別だ。
優勝を狙うにしろ、脱出を目指すにしろ、元の世界に戻った後のことを鑑みると、排除するに越したことはない。
そして、今その標的は目の前にいて、此方の存在は認識しておらず、格好の的といえる状態だ。
まさに千載一遇の好機。これを逃す手はない。

(今ここで、仕留める!!)

揺るぎのない決意と、氷のように冷たい殺意のまま、咲夜は能力を発動。
瞬間、世界は静止――忽ち、咲夜だけの世界に塗り替えられる。
間髪入れず、彼女は標的を目掛けて、水平線に向けて地を蹴り出した。
必殺を誓い、獲物へと駆けて行くその姿は、まさに狩猟者のそれ。
静寂が支配する世界で、彼女だけが唯一動く存在であり、彼女を捉える者は存在しないのであった。



「――っ!?」

それは、霊夢にとっても、虚を突かれた襲撃であった。
突如として、眼前に顕現した、幾つもの銀色の凶器―――。
沈みつつある陽の光を反射したそれは、煌めきを帯びつつも、至近距離から飛来。
咄嵯の判断で、回避行動に移るも、完全とはいかず、数本の刃が、霊夢の身体を捉えて切り裂いた。

バタリ
バタリ

「―――まずは二人……」

霊夢の後方で、フレンダとカナメが共に仰向けに倒れるのと同時に、声が響いた。
霊夢はその声の主のことをよく知っている。

無数のナイフ――。
時空間の法則を無視した無慈悲な攻撃――。

間違いない。彼女だ。
そう確信して、振り返った先には、想像通りの人物が立っていた。

「……そう……。あんたは“そっち側”という訳ね……」

切り裂かれた箇所を手で庇いながら、霊夢は襲撃者である少女を睨みつけた。

「仲間は無力化したわ。次はあなたの番よ、博麗の巫女」

そのメイド――咲夜は、霊夢からの鋭い視線に臆することなく、涼しい顔を張り付けたまま宣告する。
刺々しく敵意を放つ咲夜―――。
有無を言わさぬ狩人の如きその姿に、霊夢は、紅霧異変時で、初めて彼女と対峙した頃を思い出した。

「一応、こんな馬鹿げたゲームに乗っている理由を、聞いてもいいかしら、咲夜?」

「――その言い草……。どうやら、あなたも『私』のことを知っているようね……」

「はぁ? あんた何言ってるの?」

咲夜の意味深な発言に対し、霊夢は眉間にしわを寄せた。
そんな霊夢の反応を、冷めた態度で見据えて、咲夜は続ける。

「いえ、何でもないわ。気にしないで。
それよりも、質問に答えるわ。何でこのゲームに乗っているのか――。
そうね……、私としては元の場所に還りたいだけ。別に優勝に拘っている訳でもないわ。
もし仮に、ゲームでの勝ち残りよりも、確実で迅速な帰還方法があるなら、迷わずそちらを選ぶけど――」

瞬間、咲夜は腕を薙ぎ払うように振るう。
複数の銀光が、風切り音を奏で、一斉に霊夢へと襲い掛かった。
しかし、霊夢はそれを予測していたかのように、サイドステップで真横へ跳び退いて回避する。

「どちらにしろ、あなたは後々邪魔になるのよ。
だから、消えてもらうわ、博麗の巫女」

「あっそ。そもそも何で、私に固執するかはよく分からないけど――」

言うが早いか、霊夢は長針を投擲。
それに呼応するかのように、咲夜も銀のナイフを投げ放つ。
双方の凶器が空中にてぶつかり合い、地に堕ちていく中で、霊夢は地を蹴り上げて、咲夜への接近を試みる。

「あんたがその気なら、こっちも容赦しないわよ、咲夜ッ!!」

咲夜の言動には、どこか違和感があるのだが、兎にも角にも彼女を制圧することが先決であると判断した霊夢。
『空を飛ぶ程度の能力』にて、地面を滑るように、猛スピードで咲夜に肉薄する。

「っ!?」

一気に間合いを詰めてきた霊夢に、咲夜は後方へと飛び退き、ナイフを投擲。
だが、その動きを予測していた霊夢は、さらに加速。
上体を大きく反らし、ナイフを掻い潜りながら、後ろ向きに宙返り。
そして、そのまま咲夜の顎を捉えんと、天を突き上げる勢いで、蹴り上げを放つ。

だが、その瞬間。
咲夜は、その場から姿を消失させ、霊夢の昇天蹴は空を切る。

「やっぱりね―――」

しかし、霊夢は動じることなく、直ぐに背後を振り返ると同時に、ありったけの長針を射出。

「あんたなら、そうすると思ったわ!!」

背後に迫っていた咲夜の大量のナイフが、霊夢の長針によって撃ち落とされ、地面に突き刺さっていく。
『時間を操る程度の能力』を利用しての、相手の死角からの狙撃―――。
咲夜の常套戦術ではあるが、霊夢にとっては既に経験済みだ。
故に、この展開は容易に予想できた。

「成程……こちらの手の内も把握済みという訳ね……」

霊夢の迎撃を受け、自身の思惑が外れた咲夜は、苦々しい表情を浮かべていた。
しかし、それも僅かのことで、すぐに冷徹な顔を取り戻すと、地面を駆け抜ける。
そして、一定の距離を保ちつつ、ナイフによる弾幕を霊夢に向けて放っていく。

「上等よ、あんたが目覚ますまで、とことん付き合ってやるわ!!」

迫りくるナイフの嵐に、霊夢もまた針による弾幕を展開。
両者の弾幕が交錯。これぞ幻想郷の住人達で執り行われる決闘『弾幕ごっこ』。
陽が沈みつつの空の下で、金属と金属の衝突音が、雨の如きに降り注ぐのであった。




「ハァハァ……。結局、死ぬかと思った訳よ」

ここは病院前に積み上げられた瓦礫の山の中―――。
僅かばかりの陽光が射し込む薄暗い世界で、ホッと一息ついて、ペットボトルの水を飲み干すのはフレンダ。
外界では、霊夢と咲夜による『弾幕ごっこ』が繰り広げられており、今尚も、振動や轟音が絶え間無く生じている。
フレンダは、負傷した身体で這いながら、『弾幕ごっこ』の巻き添えになるのを避けるべく、この安全地帯へと潜り込んでいた。
突き刺さったナイフによる負傷は、何れも致命傷には至らず。
凶器を引き抜くことで出血が伴い、彼女が這い進んだ地面には鮮血が彩られる形となったが、現状彼女を追跡するような者はいない。

(これから、どうしよう…)

外では、相も変わらず霊夢が、殺人メイドとド派手にやり合っている。
そして、カナメは仰向けに倒れたまま、起き上がる気配はなかった。
胸が上下に動いていたところから、まだ死んではいないことは察せられたが、深傷であるのは間違いないだろう。

(っていうか、これって、もしかして、チャンス到来ってやつ?)

ここで、ふとフレンダは、自分の置かれた状況を冷静に見つめ直した。
カナメは現在瀕死の状態、あのまま放置していれば絶命は免れない。
そして、霊夢は襲撃者たるメイドと交戦中――側から見れば、互角の攻防を繰り広げている。
仮にここで、カナメが死んで、あのメイドが霊夢を討ち取ることがあれば、フレンダにとっての目の上のたんこぶが、綺麗さっぱり消えることになり、晴れて自由の身だ。
勿論、残るメイドへの対応や、その後の自身の立ち振る舞い方など、憂慮すべき事項は山のようにあるのだが、それでも、実刑判決を待つ今の状況からすれば、遥かにマシなのではないだろうか。
兎にも角にも、今は霊夢達の戦闘の趨勢を見守ろう――最悪、霊夢が勝ったとしても、ボロボロのダメージを負っていたのであれば、フレンダの戦力でも漁夫の利を狙えるかもしれない―――。
フレンダはそのように考え、懐から薬草を一つ取り出す。
まずは傷を癒し、万全の状態にしようとする魂胆であったが――。

ガサッ ガサッ カサッ ガッ

「ひやっ!?」

突如揺れ動いた瓦礫の床に、フレンダは悲鳴を上げる。
そして、ボコリと床から生えた筋骨隆々の腕を見て、更に声を上げた。

「な、何っ―――」

状況を呑み込めず混乱するフレンダだったが、腕の生えた床はさらに盛り上がっていき、やがて巨体が現れた。

「~~~っ!!?」

それは、血塗れの巨漢であった。
全身には夥しい数の傷、頭部からも流血しており、実に痛々しい様相だ。
そして、火傷が目立つ顔面には、仮面が装着されていた。

ギロリ

「ひっ、ひいいっ!!」

仮面越しに睨みつける炎のような真紅の眼光―――先程ミカヅチに襲い掛かられたときのトラウマも相まって、その視線に晒されただけで腰が抜けそうになるフレンダ。

眼前の漢は、見るからに満身創痍。
しかし、暗部で培われた直感と、生物としての本能が、彼女に警鐘を鳴らす。

こんな奴勝てるわけがない。その気になれば、一思いに殺されてしまう、と。

「……。」
「~~~~っ」

漢は沈黙したまま、フレンダを見つめる。
対するフレンダは、蛇に睨まれた蛙の如く、恐怖で震えることしか出来ない。
そして、フレンダにとっては、全く生きた心地がしない膠着を経て―――不意に漢は視線を落とす。
漢が見つめるその先にあるのは、フレンダが手にする薬草。

「……あ、あの、えっと……」

フレンダも、漢の関心が自分ではなく、薬草に移ったことを悟ると―――。

「ど、どうぞ」

恐る恐るといった感じで、薬草を差し出した。えへへ、と媚びるような愛想笑いのおまけつきで。
フレンダとしても、貴重な回復手段を手放すことになるが、背に腹は代えられない。
薬草はもう一つストックがあるし、今は何としてでも、この場を切り抜けて生き延びたい―――だからこそ、眼前のムキムキ男が、興味を示している物品を献上することで、相手の機嫌を取ろうとする魂胆があった。

「……。」

漢は無言のまま、薬草をふんだくると、口に含み咀噛し始める。
そして、ゴクリと飲み込むと――。

「……ぬぅ……」

漢は、自身の身体に生じる異変に、目を見開く。
完治とまではいかないが、目立った外傷は徐々に塞がっていく。
彼は、回復した身体の調子を確認するかのように、その大きな掌を握ったり開いたりする。

「あはは……そ、それにしても、おじさん、ムキムキだよねぇ。
どうやったら、そんなムキムキになれるか教えてほしいかも…なんちゃって」
「……。」

フレンダは冷や汗を浮かべながら、何とか笑顔を取り繕って、会話を試みる。
しかし、漢は見向きもしない。

ダダダダダダダダッ

外の世界では、相も変わらず戦闘が行われているようで、振動と騒音が轟いている。
ここでようやく、漢は、瓦礫の外の喧騒に意識を向けた。

そして、そのまま、拳を真横に振りかぶると―――

「――へっ?」
「……ぬぅうううううんッ!!」

轟ッ!!!

漢の放った拳撃により、粉塵を巻き上げつつ、衝撃波が生じ、外界との境界たる瓦礫の山が吹き飛ばされる。

「ぴぎゃああああっ!?」

衝撃の余波はフレンダにも届き、彼女は奇声を上げながら、瓦礫とともに宙を舞った。
浮遊感を味わいながら、彼女は思う。
何で、私がこんな目に―――と。


剛腕のヴライ―――。
ヤマト最強の武人は、ブチャラティとの交戦を経て、暫しの沈黙に身を置いていた。
殺し合いが始まってから、常に闘争にその身を投じてきた漢は、ある意味、この時初めて、束の間の小休止を享受していたと言える。
しかし、それも長続きはしなかった。

瓦礫の外より伝搬する、闘争の激音が――。振動が――。匂いが――。
彼の武人たる本能を刺激し、その意識を覚醒させたのである。

「~~~っ!!?」

覚醒したヴライの目の前で悲鳴が上がった。
目を凝らしてみると、そこにいたのは金髪碧眼の少女フレンダ。
ヴライの存在に圧倒されたのか、身体を強張らせ、震えている。
既に戦意はないように見受けられ、ヴライとしても、特段興味は沸かない。
しかし、ここは戦場。見逃す理由もない。
かような小娘、満身創痍とはいえ、一思いに、屠るなどわけはないだろう―――。
ヴライが少女の排除について思考を巡らしたその時、彼は、フレンダが手に握るそれに気付くことになる。
それは一束の草。一見雑草のようにも見えるそれだが、どうにも捨て置くことはできないと、ヴライは直感的に悟ったのだ。

「ど、どうぞ」

フレンダの方も、ヴライの視線に気付いたらしく、恐る恐るといった様子で、手に握る草を差し出してきた。
ヴライは差し出された草をもぎ取ると、咀嚼。
何故そうしたのかは彼自身も分からない。ただ、そうすべきだと彼の本能が告げて、それに従ったまでのことである。
そして、その効果は直ぐに現れる。
満身創痍の身体に活力が戻り、全身を覆う火傷や裂傷が徐々に癒えていくではないか。
薬草の類いだったと推察できるが、そんなことはヴライにとって些細なことであった。
肉体の回復を実感して、ヴライは思う。

―――これで、また戦える、と。

傍らで、フレンダが何かを囀っているが、もはやヴライの耳には届かない。
目標は彼の視界を遮っている瓦礫の山のみ。
拳を一振るいし、それらを消し飛ばす。同時に、それに巻き込まれた少女の悲鳴が響くが興味はない。
陽光とともに、晴れた視界に入るは咲夜と霊夢―――。
それぞれ得物を持ったまま、対峙していたのだが、ヴライの出現に呆気にとられ、その動きを止めていた。

「我はヤマト八柱将ヴライ――剛腕のヴライぞ……!!
小娘共よ、汝等は、我を楽しませるに値する存在かっ!!」

ヤマト最強は吠え、拳に炎を纏いし、地を蹴り上げる。
戦場こそが武人の居場所であるが故、漢は次なる“闘争”に誘われる。
此の地が戦場である限り、漢に安息の刻は許されない。

「ちょっと!? いきなり何なのよ、あんたはっ!?」

巨体に似合わぬ速度で迫るヴライに対し、霊夢は弾幕を射出。
大量の針が、弾丸のごとくヴライへと飛来する。
しかし、ヴライの疾走は止まらない。
炎を纏う巨大な剛槍を顕現させると、真正面から投擲―――。

「――なっ!?」

放たれた炎槍は、針の弾幕を飲み込みながら、霊夢の元に迫る。
咄嵯の判断で、横に跳躍することで回避に成功。
霊夢がいた場所は、爆散するものの、彼女は事なきを得る。

――が、次の瞬間には、ヴライは霊夢に肉薄していた。

「……ッ!?」

驚愕の声を上げる間もなく、ヴライの拳は霊夢を圧殺せんと振り下ろされる。
霊夢は、険しい表情を浮かべつつも、後方へと飛翔することで、どうにか、これを回避。
拳は大地を砕き、衝撃波によって病院のガラスは砕け散り、地面が大きく陥没する。
その様相は まさに“災害”。“闘争”に染まっていた戦場は、ヤマト最強の出現によって、更なる戦火に見舞われることとなる。

「本当に、いきなり滅茶苦茶してくれるわねっ!!」

霊夢は毒づきながらも、上空からヴライに向けて弾幕を発射せんと、腕を振り下ろさんとするも―――。
瞬間、大量のナイフが霊夢目掛けて殺到した。

「――くっ!」

即座に、霊夢は標的を変更し、これを迎撃。
空中にて、無数の火花が飛び交い、霊夢は舌打ちをする。
視線を地上に向けると、虎視眈々と此方を見上げるメイドの姿があった。

「咲夜っ……!!」

苦虫を潰したような表情を浮かべる霊夢。
忘れてならないのは、今は三つ巴―――。
ヴライだけに注意を払うわけにもいかない、ということを霊夢は痛感する。

――が、それは咲夜とて同じであった。
ヴライは、今度はその深紅の眼光を、咲夜の方に向けるや否や、炎槍を顕現させ、彼女に向かって投擲。

「――っ」

ヴライの豪速で迫り来るそれを、咲夜は舌打ちと共に、横に大きく飛ぶことで回避する。
しかし、地面に突き刺さった炎槍は、爆発――その爆風によって、彼女の華奢な身体は宙を舞う。

「……!!」

絶好の機会とばかりに、ヴライは咲夜を猛追。落下してくる少女に拳を振るわんと、跳躍。
その様はまさしく、獲物を狙う肉食獣の如し。
一気に間合いを詰めると、鋼のような拳を大きく振りかぶり、咲夜に叩きこまんとする。

「見くびらないで頂戴……!!」

しかし、銀髪の少女は、待っていましたと言わんばかりに、くるりと空中で回転。
そして、流れるままに、手に握るナイフを投擲――。それはヴライの眉間に吸い込まれるように飛んでいく。

「――ぬぅ!!」

ヴライは短く声を発すると、首を傾げることによって、これを回避。
だが、咲夜の投擲はそれだけでは終わらない。
引力に吊られて、落下速度が増す中、それに比例するように高速でナイフを次々に射出――。

「――ッ!!!」

その怒涛の弾幕に、ヴライは両腕を交差させることで防御態勢を取り、対処。
銀色の刃の雨が、武人の腕や脚の皮膚を切り裂き、血飛沫が上がっていく。
しかし、この程度で怯むヴライではない。
着地と同時に、地面を蹴り上げると、その拳に炎を宿し、一気に咲夜との距離を詰めにかかる。

「――っ!?」

咲夜は接近してくるヴライを見て、顔を歪める。

―――あれだけの弾幕を叩き込んだにも関わらず、まるで堪えていない。
―――まさに怪物、まさに化け物。

そう思いつつ、咲夜は次なる一手を模索するも―――。

「ちょっと、あんたたち―――」

その刹那、ヴライと咲夜の頭上より、大量の針の雨が降り注いだ。

「「っ!?」」

咄嗟に、野生動物を彷彿させるような反応速度で、回避するヴライと咲夜。

「私を忘れているんじゃないわよっ!!」

二人が、ほぼ同時に空を見上げると、そこには、霊夢が腕を振り落とした状態で浮かんでいた。

「博麗の巫女っ……!!」

霊夢を睨みつける咲夜。
繰り返しになるが、これは三つ巴の戦い。
片一方だけを気にしていると、もう片方に隙を突かれることになるのだ。

「成る程……。少しは覚えがあるようだな、小娘共……」

三雄が睨み合う最中、ヴライは、自身の両腕から滴る血を眺めながら、そう呟いた。
この傷は、先程の咲夜との攻防によって裂かれたものである。

「だが、所詮は術の類――有象無象の小細工に過ぎぬ。我を殺るに能わず――」

ヴライはそう言うと、左右の拳に炎を灯す。
そして彼の闘志に呼応するかのように、両の拳に宿る炎は、激しく燃え盛る。

「果たして、どこまで、その小細工が通用するか、試させてもらおうぞ、小娘共っ!!」

直後、ヴライは駆ける――。
そして、それに呼応するように咲夜も、霊夢も動き出す。

仁義なき果し合いは、更に激化していくのであった。


「全く、とんでもない目に遭ったでフ〜」

麦野と垣根の怒りの鉄拳を一身に受けたビエンフーは、ホームランボールの如く空高く吹き飛ばされ、中々の飛距離を出してから路上に墜落。
その際に、運悪く大岩に頭を強打し、気絶。
それから、数刻が経過し、ようやく意識が覚醒すると、ともかく、垣根達の元へ戻ろうとフィールドを彷徨い、今へと至っているわけだが――。

ボ ォ ン !!

「な、何の音でフか〜!?」

突然響いた爆音に、ビエンフーは身を震わせる。
一体、何が起こっているのか? それを確かめようと、音がした方向へと飛んでいくと、ビエンフーは、病院へと行き着いた。

「オー、バッド!! 一体全体何が起きてるんでフか!?」

先程までは何の異常も無かったはずの病院は、今は見るも無惨な姿に成り果てていた。
そして、病院前で三つの影が、激しく衝突を繰り返していることに気付く。
目を凝らしてみると、それは三人の男女であった。
仮面をつけた巨漢ヴライが、身体に炎を纏いつつ、二人の少女--咲夜と霊夢に攻勢を仕掛け、少女達はそれを躱しつつ、銀色に光るものを無尽蔵に投擲している。
先程の爆音と、この惨状は、彼らが引き起こしたものになるだろう、とビエンフーは理解した。

「っ!? あ、あれは……」

と、ここで、ビエンフーは、相争う三人から少し離れたところで、一人の青年が仰向けに倒れていることに気付く。

「き、君、大丈夫でフか~!?」
「……ぅ……」

慌てて駆け寄るも、その青年カナメは、呻めき声を上げるだけ。
胸に生えたナイフと、そこから滲み拡がる紅色の染み、そして乱れた呼吸が、もはや一刻の猶予もないことを示していた。

ビエンフーとしては、縁もゆかりもない見知らぬ参加者ではあるが、それでも放っておくわけにもいかず、どうするべきかあたふたする。
そんな折、抜き足忍び足で、こっそりと、病院地帯から離脱しようとする人影に気付く。

「あっ、君はさっきの……!」

ビエンフーに声を掛けられて、ビクリと背筋を震わせたのはフレンダ。
病院で、垣根と情報交換をしたブチャラティ一行に加わっていたことが記憶に新しい。
垣根曰く、学園都市の暗部の人間とのことで、その出自は信用できるものではないが、それでも、ビエンフーは彼女に縋りつく。

「お願いでフ! 彼を助けて欲しいでフよ〜!!」
「む、無理無理無理っー!! 結局、こんなところで、グズグズしてると、こっちまで巻き添え食らっちゃう訳よ!!」

ビエンフーの懇願に対し、全力で首を横に振るフレンダ。
元々、ヴライの戦場復帰に貢献してしまったことを鑑みると、この混沌とした責任の一端はフレンダにもあるのだが、彼女にはその自覚はない。
彼女としては、友人でも何でもないカナメを助ける義理なんてないし、いつ流れ弾が飛んでくるか定かではないこの死地から一刻も早く逃げ去りたいところだが――。

「そんな〜あまりにも薄情でフ〜!!」
「ちょっ!? 引っ付かないで欲しい訳よ!!?」

泣きつくように、飛びついてきたビエンフーに困惑しながら、どうにか引き剥がそうとするフレンダだったが、その時――。

ゴツン!!という豪快な殴打音が響いたかと思うと、何かが一直線に、二人の元へと飛来してきた。

「「えっ?」」

フレンダ達が揃って間抜けな声を上げた直後、それはくるりと身を翻し、空中で静止。彼女達への直撃を寸前で防いだ。

「ゴホッ……やってくれるわね、あいつ……」

その正体はというと、ヴライや咲夜と交戦していた霊夢であった。
炎を帯びた拳をまともに受けて、焦げ跡が生々しい巫女服の上から、脇腹を抑えて血反吐を吐き出している。
しかし、その闘志を失うことはなく、未だ相争っているヴライや咲夜の方角を睨みつけている。

「れ、霊夢、大丈夫な訳よ!?」
「ああ…あんた無事だったのね……。
丁度いいわ、カナメのこと頼めるかしら?」

フレンダのしぶとさに半ば呆れたような表情を浮かべつつ、霊夢は未だ動けぬカナメの方を指差す。

「わ、私がっ!?」
「他に誰がいるっていうのよ? 私はあの馬鹿共をシメに行かなきゃならないし。
そこのヘンテコ生物と戯れる暇があったら、少しは役に立ちなさい」
「ヘンテコとは、酷い言われようでフ〜!!」

抗議の声を上げるビエンフーを無視し、霊夢は再びヴライ達のいる方向を見据える。

「それじゃあ、任せたわよ。
念のため言っておくけど、死なせたりでもしたら許さないから」
「ちょ、ちょっと、待っ――」

フレンダの制止に耳を貸さず、霊夢はそれだけ言い残し、ふわりと宙へ浮かび上がると、ヴライ達の元へと突っ込んでいった。

「ど、どうすれば……」

ビエンフーと共に取り残されたフレンダは、途方に暮れる。
この場所に留まるのが危険なのは、言うまでもない。
しかし、だからといって、ここでカナメを見殺しにして逃走を行うと、霊夢の怒りを買うことになる。
最も望ましいのは、一刻も早くこの場所からトンズラして、カナメも霊夢も亡き者となることなのだが、如何せん霊夢は抜け目がない女―――。あの三つ巴の乱戦で、彼女が都合よく命を落とすかどうかの保証はない。

―――ゴクリ

フレンダは悟る。
これから下す選択が、彼女の命運を左右することを。

「……。」

苦悩と葛藤の末、フレンダが導き出した答えは――。


「――ガハッ!!」

霊夢、咲夜、ヴライによる三つ巴の攻防戦。
ナイフと、針と、炎槍が飛び交う戦場にて、動きがあった。
咲夜との弾幕のぶつけ合いに気を取られていた霊夢に、ヴライが接敵―――。
豪風とともに、その拳を、彼女に叩きこむと、彼女の身体は軽々と吹き飛ばされたのである。

遠方に飛ばされていく霊夢を追撃せんと、ヴライは炎槍を投げつけんとする。
しかし、その隙を逃さまいと、咲夜が時間を停止。
間髪入れず、ありったけのナイフを投げて、ヴライへ攻撃を仕掛けた。

霊夢を助けるという意図はなく、単純に眼前の脅威を排除するべくの行動であった。

「ぬぅうっ……!!?」

世界が動くと同時、ヴライの腹部や胸には、無数のナイフが襲い掛かる。
だが、何れも鍛え抜かれた鋼の肉体を、深く貫くには至らず、皮膚を裂く程度。
ヴライは、ギロリと、咲夜を睨みつけると―――。

「ぬぅおおおおおおおおおッ……!!」

獣のような咆哮と共に、彼の全身から業火が巻き起こる。
爆発的に生じたその炎圧によって、無数のナイフを弾き飛ばすと、続けざまに、手に握る炎槍を、咲夜に向けて投擲―――。

「……っ!?」

咲夜は、一瞬だけ目を見開くも、即座に真横へと跳び、直撃を回避。
炎槍はそのまま地面に着弾し、爆ぜるようにして燃え広がる。
そんな爆炎と煙の中から、咲夜の視界に飛び込んでくるヴライ。
剛腕にて殴りかからんとするが、咲夜はひらりと身を翻して、空を切る。

「……小蠅が……!!」

しかし、ヴライの猛攻は止まらない。
拳だけではなく、自身に宿る火神(ヒムカミ)の力も織り交ぜて、まるで暴風雨のように、苛烈な攻撃を叩きこまんとする。

対する咲夜はそれらを、時に避け、時に身を反らし、時には反撃を交えながら、躱していく。
一見、ヴライの猛撃を冷静に捌いているように見えなくもない。
しかし、その実―――。

(くっ…!! まさか、こんなのと戦う羽目になるなんて……)

自らの頬を伝う汗を感じ取りつつ、内心で苦い思いを噛みしめていた。
霊夢を始末できればと、仕掛けた結果がこれだ。
思いもよらぬ難敵に出会した上、今や防戦一方の展開だ。

(剛腕のヴライ……『災害』とは良く言ったものね……!!)

同盟者である采配士は、かつて眼前の漢を『災害』と評した。
そして今、咲夜はその言葉の意味を、身を以って実感していた。
研ぎ澄まされた圧倒的な武芸と、弾幕の刃では貫くこと叶わぬ強靭な肉体。
そして、全てを滅ぼさんとする圧倒的な火力と熱量。
まさに、眼前の武人は、『災害』の名を冠するに相応しい存在であった。

(何れにせよ、このままでは――)

直撃すれば必殺となりうる攻撃を、紙一重で回避しつつ、この窮地を如何に脱するかを考える咲夜。
その時だった――。

「……ぬぅっ……!!」


自身に差し迫る”何か”の気配を感じたヴライは、咄嵯に咲夜への攻撃を中断。
彼方を見据えると、弾幕を放出しながら、宙を滑るように飛んでくる霊夢の姿があった。
ヴライは、横に転がるように跳ぶと、弾幕の射程範囲外へと回避。
そして、炎槍を立て続けに投擲していき、戦線復帰の霊夢を撃ち落とさんとする。
当然霊夢も左右上下に飛び回り、これらを回避――炎槍は地面に刺さり、戦場に爆音が轟いていく。

(――どうする……?)

霊夢とヴライが相争う中、病院のエントランス前へと、駆け込んだ咲夜は、二人の戦闘を眺めている。
結果的に、霊夢の戦線復帰のおかげで、ヴライとの一対一の対面から脱することは、出来た。
今はヴライも霊夢も互いのことしか眼中にないようで、こちらに注意を向けることはない。

――このまま様子を窺い、二人が隙を見出した時に、殺るか
――それとも、戦場から撤収すべきか

咲夜が、今後の方針について思考を巡らした、その瞬間―――。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 霊夢の弾幕でもなければ、咲夜による弾幕でもない、全く別方向から放たれた、無数の弾丸がヴライへと襲い掛かった。

「――あれは……」

銃弾の雨に晒されるヴライを尻目に、咲夜はその狙撃元を見やる。
するとそこには、先程自分が仕留めたはずのカナメが佇んでいたのであった。




「――ぅう……」

鼓膜に突き刺さるような爆音と、地鳴りと共に押し寄せる振動―――。
それら戦場の喧騒によって、カナメの意識は、生死の狭間から、引っ張り上げられた。

「おおっ、気が付いたでフか~!!」
「何だ、お前?」
「ソー、バッド! 命の恩人であるボクに対して、『お前』とはいきなりご挨拶でフね~!!」

こちらを見下ろしてくる珍妙な生き物に、怪訝な表情を浮かべながら、身を起こすと、フレンダが駆け寄ってくる。

「いやぁ良かったぁ。一時はどうなる事かと思った訳よ」

そう言って胸を撫で下ろす彼女の遥か後方では、断続的に爆発が生じている。
目を凝らしてみると、霊夢が縦横無尽に飛び回り、仮面を付けた巨漢が、彼女に対し、炎を帯びたものを投擲している。

「――何があったか、教えてくれ」
「あー、えっとね……」

状況把握に務めるべく、カナメは落ち着いたまま、フレンダに問い掛けた。
フレンダも、それに応えるべく、現状に至るまでの過程を、簡潔に説明し始めた。

「――ということだった訳よ」
「成程な……つまり、お前らは、俺にとって命の恩人になるってことか……」
「ま、まぁ、結局、そういうことになる訳よ」
「でフ!」

若干ドヤ顔気味に胸を張るフレンダとビエンフー。
フレンダは結局、残る薬草をカナメに分け与え、彼を助けることにした。
それは単なる親切心などではなく、霊夢による脅しと、ここでカナメ達に恩を売りつけることで、この先の裁判で、便宜を図ってくれることを期待した目論みから導き出した選択であった。
要するに、自分の行く末について、カナメと霊夢に賭けてみることにしたのである。

「……礼を言うぞ、フレンダにビエンフー……」

ビエンフーはともかく、フレンダについては、一々恩着せがましい説明をするものだから、何となく邪な思惑を感じずにはいられなかったものの、カナメは素直に感謝の言葉を述べた。
そして、遠方で交戦中の霊夢達の方へと視線を向ける。

「俺達を刺したというメイドは、見当たらないようだが……」
「何か、どさくさに紛れて逃げちゃったみたい」
「……そうか」

行方をくらました咲夜については、まだどこかに潜んでいて、機会を伺っている可能性は否めない。
それはそれで気掛かりではあるのだが、今は、優先すべきことが他にある。

「フレンダ、何か、武器になりそうなものは持っていないか?」
「へっ、それってどう意味な訳よ?」
「これから、俺は霊夢に加勢する、お前にも協力して欲しいんだ」
「えぇっ!? ちょ、冗談でしょっ!? あんなの、人間にどうにか出来る相手じゃないわよぉ!!」

カナメからの協力要請に、フレンダは悲鳴じみた声を上げた。
ヴライが繰り出す火力は凄まじいものがあり、一度爆発が生じれば、地面は揺れ動かんばかりに振動し、辺り一面を焼き払わんばかりの勢いで火炎が立ち昇る。
学園都市第三位の超電磁砲や、第四位の麦野ですら、これ程の火力を生じさせるかと言えば、疑問符が付くところだ。

「結局、私達は足手纏いにならないように、ここから逃げるべきな訳よ。
あいつは、霊夢が引き受けてくれてるし……霊夢なら何とかしてくれる訳よ」
「……そうやって、お前は、霊夢を見殺しにするつもりなのか?……」
「べ、別にそんなことは言ってない訳よ!?」
「だったら、協力してくれ」

有無を言わせない気迫で、カナメはフレンダに迫る。

「で、でも……」

その迫力に押されたのか、フレンダは渋面を浮かべながらも、言い淀む。
悩めるフレンダ。そんな彼女の首を縦に振らせるべく、カナメは、とある提案を口にする。

「もし、霊夢を助けることができたら、後々のことは、色々と都合してやる」
「……っ!?」

途端に、目を見開くフレンダ――。

無論、カナメとしては、彼女を無罪放免にする意図はない。
あくまでも判決を下すのは、レインや竜馬であって、自分ではない。
しかし、彼女への刑罰について、減刑するよう働きかけることは可能だろう。
そういった意味も含めての提案であり、自己保身を優先する彼女には効果があると見立てたが――。

「……そ、そうよねぇ。結局私も、霊夢のことが心配だもの、うん。
よーし、ここはやっぱり、カナメに協力する訳よ!」

カナメの目論み通り、フレンダはあっさり乗っかってきたのであった。

「……現金な子でフね……」
「……。」

フレンダの変わり身の早さに、ビエンフーとカナメは、揃って呆れ顔を浮かべる。

「えっ? 何か言った?」
「……いやっ、何でもない。それよりも、使えそうなものはないのか?」
「あー、えっとね……」

フレンダは自分の支給品袋を取り出し、戦力共有のため、その中身を、カナメ達に披露していく。

ここに二人の男女と一匹の聖隷による即席チームが成立したのであった。



ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

「……ぬぅっ!?」

霊夢に攻勢を仕掛けていたヴライの元に迫る、弾丸の嵐。
カナメの機関銃が火を噴いて、ヤマト最強の肉体に無数の穴が穿たれていく。
血飛沫とともに、身体を削られていく感覚に、ヴライは一瞬だけ、顔を顰める。
しかし、ヤマト最強の肉体は筋骨隆々―――。弾丸の一発一発は、確かにヴライの肉を削り飛ばしていくが、いずれも貫通するまでは至らない。

「小賢しいわッ!!」

ヴライは、即座に、内に宿し火神(ヒムカミ)の力を解放――全身から紅蓮の炎を噴出させるや否や、周囲一帯は炎獄と化す。

「なっ!? 奴はどこだ!?」

火の海に呑み込まれた戦場で、カナメは機関銃の銃口を巡らせるも、ヴライの姿を見失う。

「上よっ、カナメっ!!」

地上の炎から避難し、上空へと飛び上がっていた霊夢。
彼女の声を聞き、天を仰ぐカナメ。
其処には、既に天高く跳躍を果たして、此方を睨みつつ落下するヴライの姿があった。
その腕には既に炎槍が握られており―――。

「塵となれいッ!!」
「クッソぉおおおおおおおお!!!」

機関銃の照準を合わすより早く、放たれる炎槍。
カナメは咄嗟に回避しようとするも間に合わず、撃滅の炎は彼に降り注がんとするが―――。

ひゅん!!

「がっ……!?」

寸前で風を切る音が鳴り響いたかと思ったら、衝撃と共に、カナメの身体は横殴りに吹き飛ばされる。
と同時に、炎槍は、カナメが元いた地面に着弾して爆発―――周囲に爆風を巻き起こすも、カナメはどうにか難を逃れることになった。

「すまないな、霊夢」
「――ったく、さっきまで死にかけていたくせに、あんた無茶しすぎよ」

カナメを救ったのは霊夢だった。
彼女は急降下で飛来すると、カナメを突き飛ばし、間一髪のところで彼を救ったのである。

「蟲共が……。」

着地したヴライは、その双眸で二人を捉えると、再びその手に炎槍を顕現。
間髪入れずに、その即席の砲弾を叩き込まんと、振りかぶるが―――。

「結局―――」
「……ッ!?」

ヴライの視界の隅、瓦礫の山の頂から、ひょっこりと金髪の少女が、現れたかと思うと―――。

「ムキムキのおじさんは、隙だらけって訳よぉっ!!」

ヴライ目掛けて”何か”を宙高く放り投げてきた。
その少女、フレンダが投げつけてきたのは一つの人形―――。
しかし、宙より迫るその造形に、ヴライは目を見開く。
先程のブチャラティとの戦闘において、ブチャラティが追撃手段として用いた人形爆弾であったからだ。
流石に即死とまではいかないものの、その威力は、先程の戦闘で痛感させられている。

「下らぬ小細工をッ……!!」

故に無視することも出来ず。
手に握る炎槍を、人形爆弾を撃墜すべく、天に向けて投擲する。
豪速の炎槍は直進。降りかかる人形爆弾を貫かんとしたその時――。

ひらり

「ぬぅッ!?」

自然法則に従いながら、放物線を描こうとしていた人形爆弾―――その軌道が突如として変化。
まるで意思を持つ生物のように、不自然な軌道を描いて、炎槍を回避すると、再び落下してくる。
あまりにも不可解な挙動に、ヴライは、眉を顰めるも、続けてもう一撃、投擲を行う。
しかし、人形はふわりと重力に抗う形で、左上へと浮上し、これを回避。
そのまま、真っ直ぐにヴライの元へと落下してくる。
ヴライはバックステップで躱そうとするが、それに追尾する形で人形も追従する。

「だ、脱出でフ~~~!!」

やがて、人形から、小さな影が飛び出すのとほぼ同時に、人形はヴライの顔面に着弾。

ボ ン ッ!!

爆音が鳴り響くとともに、ヴライの顔を覆うように黒煙が立ち込める。

「ぐふぅっ……!!」

しかし、顔面への爆撃を受けても尚、ヤマト最強は、膝をつくことはない。
顔を覆う程度の爆発では致命傷にはならず。しかし、爆発の衝撃でその巨体は後退する。


刹那―――。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「―――ッ!!?」

ヴライに襲い掛かる、銃弾と針の雨あられ。
カナメが機関銃を乱射し、霊夢が封魔針の弾幕を放ち、血飛沫と肉片が飛び散っていく。
一発一発はそれほどの致命傷には足らないが、数の暴力によって、確実にヴライの身体を―――、命を削っていく。

ヴライは咄嗟に、全身から炎を噴出。
ヴライの全身に纏わりついた炎は、障壁として、弾丸と針の前に立ちはだかる。
しかし、高速で飛来するそれらを完全に消し去るまでには至らず、弾幕の威力を弱めるまでに留まり、尚もヴライの身体は削られていく。

―――まず、あの二人を屠る

炎の鎧を展開しながら、ヴライが不屈の闘志を燃やし、標的を定めた直後。

「今だ、フレンダぁあああああああっーーー!!!」
「えぇいっ、分かってるって訳よっ!!」

カナメの叫びに呼応するかのように、瓦礫の山の上に立っていたフレンダはやけくそ気味に、大量の人形爆弾を宙に放り投げる。

「結局、おじさんには恨みはないけど―――」

爆弾の雨は、ヴライ目掛けて一直線に降り注いでいく。
落下するぬいぐるみと、瓦礫の頂にいる自身を、凄まじい眼光で見上げてくるヴライ。

「私が生き残るために犠牲になってもらう訳よ!」

そんな彼に、フレンダは冷や汗とともに、無理やりな笑みを取り繕う。

「Ha det bra(サヨナラ)!」

別れの言葉を告げると同時に、爆弾の雨は次々と着弾。
爆音が轟き、爆風が吹き荒れ、爆炎がヴライの巨体を覆っていく。

「ぐぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」

弾丸と弾幕と爆弾の波状攻撃を喰らい続け、ヴライは雄叫びをあげる。
身体中からは、血液が弾け、焦げた匂いが漂ってくる。

「――力だ……、我に力を……」

ヤマト最強に迫り来る終焉の気配。
しかし、ヴライはその双瞳から戦意を失うことはない。
此処でその屍を晒す訳には行くまいと、寧ろ、更にその闘志を増していく。

「――仮面(アクルカ)よッ!!」

漢は、その掌を己が仮面へと翳す。
敬愛する者から下賜されたそれは既に亀裂が入っており、著しい損傷が見受けられる。
しかし、漢はそれに願い、求める。
この窮地を覆す力を―――。

「我が魂魄を喰らいて、その力を差し出せ!!」

瞬間――、ヴライの肉体から、更なる紅蓮の業火が噴出される。
それは謂わば、漢の生命そのもの―――。
魂魄を代価として、その身に宿した、過剰強化。

「――ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

カナメ達の一斉攻撃を一身に纏いながらも、ヴライが、獣のような雄叫びを上げる。
全身の熱気は彼の掌に集約され、これまでと比較にならないほどの大きさの炎槍が顕現されていく。

「――滅せよッッ!!!」

刹那――、その腕が振り下ろされると共に、炎槍が解き放たれる。
"窮死覚醒"―――死に瀕することで発現する火事場の馬鹿力と、仮面による力の解放が相乗効果を生み出し、何倍にも膨れ上がった火力を宿したそれは、ミサイルのようにカナメ達の足場へと飛来する。

「ヤバっ!!」

霊夢は即座に弾幕を中断。
隣にいるカナメを体当たりするような形で、掴み上げると、その場から退避しようとする。

「……ッ!?」

しかし、二人が安全圏に逃れる前に、炎槍は着弾。
戦場に、かつてない程の爆炎が生じ、大地を揺るがすような振動が発生したのであった。




たったの一撃―――。

たったの一撃を以って、趨勢は覆され、勝敗は決した。

先程まで銃撃と爆音が木霊していたD-6エリアは、静寂に包まれている。
まるで隕石の衝突を想起させるようなクレーターが戦闘の爪痕として残り、あちらこちらに炎と黒煙が漂っている。
かつて病院だった建物は、既に三階、四階部分が破壊されていたが、今回の爆炎の衝撃により、その敷地の半分が瓦礫に沈んでしまった。

ズン ズン

そんな戦場に背を向けて、遠ざかる人影が一つ―――。
身体に無数の銃痕と火傷を帯びたヴライは、かの地には、誰一人立ち歩くものがいないことを悟ると、次なる戦場に赴くべく、重厚な足音と共に、歩を進めていた。

「……ッ!! ぬぅう……!!」

しかし、カナメたちの猛攻を受け続けたダメージは、決して軽くはなく、一歩踏み出す度に、ヴライの身体は軋むように悲鳴を上げている。
一時は、フレンダから奪い取った薬草によって、身体の傷を癒したものの、その後のカナメたちとの交戦によって、再び満身創痍となっていた。
ポタリポタリと、鮮血は零れ、彼の筋骨隆々とした肉体を紅色に染めていき、その様相はまるで赤鬼を彷彿させる。
そのダメージに比例するかのように、彼の面貌を覆う仮面(アクルカ)の亀裂も拡がっており、砕け散るのも時間の問題のように見受けられる。

しかし、それでも尚―――。

「足らぬッ……。まだ、このヴライを終わらせるには足らぬぞッ……!!」

全ては、あの御方が遺された國のため。
そして、あの御方の忘れ形見を屠った、その宿業を背負って。

最強の漢は、歩みを止めず。
その深紅の双眼から、闘志の炎が消えることはない。


【E-5/夕方/山林地帯/一日目】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)、火傷(絶大)、頭部、顔面に複数の打撲痕、右腕に複数の銃創、シドーに対する怒り、顔面に爆破による火傷、全身にガラス片による負傷、全身に銃弾と針による負傷
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
0:次なる戦場へと向かう
1:あの男(シドー)もいずれ殺す
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
6:あの術師(清明)と金髪の男(静雄)は再び会ったら葬る。
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です。
※破損したことで、仮面の効能・燃費が落ちています。
※『特性』窮死覚醒 弐を習得しました。




「――なるほど、紅魔館には垣根帝督という男と、その知り合いの女がいるってことね……」
「……でフ……」

病院から南に離れた平地にて、ビエンフーの頭を鷲掴みし、尋問していたのは咲夜。
彼女は、カナメ、フレンダ、霊夢の三人による一斉攻勢が始まる前に、既に病院から離脱を果たしており、先程の大爆発に巻き込まれることなく、事なきを得ていた。
その後、爆風によって吹き飛ばされてきたビエンフーを鹵獲すると、こうして彼の知りうる情報を吐き出させていたのである。

「ボ、ボクをどうするんでフか?」

一通りの情報を吐き終えた後、ビエンフーが震え声でそう言う。
ビエンフーからすると、自分は咲夜と敵対していた霊夢達に肩入れしていたこともあり、このまま殺されるのではないかという不安があったのだ。
だが、咲夜はそんな彼を掴んでいた手を離すと、こう言った。

「別にどうともしないわ。どこへなりとも行きなさい」
「――へっ?」

あまりにもあっさりと解放され、拍子抜けとなるビエンフー。
解放されたというのに、どこか釈然としない様子だった。
そんな彼に、咲夜は鋭い眼光を浴びせる。

「さっさとどこかに消えてくれない? それとも、何?
ここで始末されるのがお望みだったかしら?」

懐から銀色の得物をチラつかせた咲夜に、ビエンフーは「ビエ~ン!!!」と甲高い悲鳴を上げると、慌ててその場から逃げ出した。

「……ふぅ……。」

ビエンフーの背中を見送ると、咲夜は小さな溜息をつく。

カナメやフレンダはともかく、ビエンフーはまず参加者ではない。
霊夢達に手を貸していたのは事実だが、此処で殺したところで、何のメリットもない。
仮に始末しようとして、暴れて抵抗でもされると、余計な体力を浪費することになる。
故に、彼女は敢えてビエンフーを逃すことにしたのだ。

(……垣根帝督、ね……)

ビエンフーの言葉を思い出しながら、咲夜は次なる目的地について思案する。
病院では、霊夢に釣られる形で無茶をしてしまったものの、冷静になって考えれば、今の自分に連戦はご法度だ。
初手でカナメやフレンダを仕留めきれなかったのも、片目を損失し、精彩さを欠いていることを鑑みると当然の帰結だろう。
体力もそろそろ限界―――この状態で更に戦闘を行うのは極力避けるべきだ。

なればこそ、まずは何処かで身を休めることが優先される。
その候補地として、まず思い浮かぶのが紅魔館―――。
ビエンフーの話によれば、垣根帝督という「乗っていない側」の人間と、その知り合いと思わしき女が腰を据えているらしい。
先程のヴライのような無差別に襲ってくるような輩でないのは、ありがたい話ではあるが、交渉の余地があるのかについては何とも言えない。

(―――どうする……?)

悩める咲夜が、次なる目的地として定めたのは―――。


【E-6/夕方/市街地/一日目】

【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(絶大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(絶大)、右目破壊(治療不可能)
済み)、腹部打撲(処置済み)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(2/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ 、罪歌(デュラララ!!)
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:紅魔館に行き垣根達と接触すべきか、それとも別の場所に行くべきか決断する。
1:まずは、身体を休める。
2:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
3:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
4:博麗の巫女は、死んだと見ていいかしら?
5:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す。...生きているかも怪しいが。
6:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
7:ヴライに、最大限の警戒。
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ビエンフーからこれまでの経緯を聞きました。
※どこの施設に向かっているかは次の書き手様にお任せします。


【ビエンフー@テイルズオブベルセリア】
[状態]:体力消耗(大) 、垣根と契約中、マギルゥ死亡による喪失感
[思考]
基本:皆と共に脱出を目指す
0:これからどうするべきでフか……
1:カナメさん達が心配でフ
2;垣根さん達に会うのは、少し気まずいでフ
3:姐さん……。



鼻腔に突き刺す焦げた匂いに、バチバチと燃え上がる炎。
『災害』が立ち去った戦場の様相は、炎獄と呼ぶに相応しいものとなっていた。
そんな戦場に積み上げられた瓦礫の陰から、飛び出す影が一つ―――。

「ぐぅ……畜生っ……!!」

カナメは痛む身体を庇いながら、どうにか歩き出す。
そして、ある程度歩を進めた後、後ろへ振り返ると、物言わなくなった”彼女”に別れを告げた。

「……すまない、霊夢……」

霊夢は全身を焦がして死んでいた。

あの瞬間―――彼女はカナメを抱えて、爆心地から退避しようとした。
しかし、爆炎の威力は想像を絶するものがあり、カナメという重荷を抱えたままでは、その勢いから逃れること叶わず。
そして、二人が業火に飲み込まれんとした刹那、彼女は弾幕を飛ばす要領で、カナメを吹き飛ばしたのだ。

『―――。』

それはコンマ秒で行われた出来事―――宙に投げ出されたカナメは、彼女が口を開いて、言葉を紡いでいたのを目にした。
しかし、その声は災害の音によって搔き消され、彼女の最期の言葉は届かず―――最終的に、カナメは助かり、彼女は死んでしまった。

―――取り返しのつかない失態だ……

カナメの脳裏には後悔の文字しか浮かばない。
物に取り憑くことができるというビエンフーの能力を活かした、人形爆弾での爆撃――。
そこで生じた隙をついて、機関銃と霊夢の弾幕による一斉掃射――。
そして、カナメの異能(シギル)によって複製された人形爆弾の雨――。

即席とはいえ、三人の連携は、確かにヴライを追い詰めていた。

だが、結果はこれだ。
たった一撃――。それでいて、あまりにも理不尽すぎる一撃によって、全てを覆されてしまい、カナメ達は敗北したのである。

 失意と圧倒的な絶望の中、カナメは瓦礫の山を徘徊する。
 すると、視界の隅で、蠢めく影があり、彼はふらりとそちらに歩を進める。

「……カ、ナメ……」
「フレンダっ!? 無事だったのか!?」

そこには、瓦礫の下敷きとなったフレンダの姿があった。
どうやら、爆発の余波を受けて吹き飛ばされた際、運悪く下敷きとなってしまったようだ。
彼女のしぶとさに呆れ半分、安堵半分といった感情を抱きつつ、カナメは彼女の元へと駆け寄る。

「……お願い……助けて……」
「少し待ってろ、今どかしてやる」

掠れた声を上げるフレンダを助けるべく、カナメは彼女を押し潰す瓦礫の山々に手にかける。
しかし、個々の瓦礫は相応の質量を誇り、それが何重にも積み重なってしまっているため、一筋縄ではいかない。

「ねえ……早く……助けてよ……。
身体の、感覚が……もう、ほとんどなくて……こ、のままじゃ……」
「分かってる! もう少しだけ辛抱してくれ!」

フレンダの声は徐々に弱々しくなっていく。
焦燥感と苛立ちを募らせながら、カナメは必死になって、彼女を救出せんと手を動かす。
 そんなカナメに、フレンダは急かすように言葉を紡いでいく。

「……嫌ぁ……死にたくない……。
こん、なところで……終わりたくなんか……ない……」

内臓が押し潰されているのだろうか、口からは血が溢れている。
呼吸もままならないのか、時折ヒューヒューという音が混じる。
顔色も見る見るうちに青ざめていく。
カナメも事態が逼迫しているのを感じ取っていた。
だからこそ、より一層の力を込めて、瓦礫を持ち上げようと試みるが――。

「……お、願い、カナメ……助け―――。」

助けを求める少女の声はここで途切れた。

「……っ!? おい、フレンダ……?」

カナメは、フレンダの方へ目を向ける。
彼女は目を見開いたまま、カナメを見つめていた。
その瞳には、光は宿っておらず、一筋の涙が頬を伝っている。
血に濡れた彼女の唇が、もう動くことはない。

フレンダ=セイヴェルンは、絶命したのだ。
それは紛れもない現実であり、決して取り消すことはできない事実であった。

「―――俺のせいだよな……」

カナメにとって、フレンダ=セイヴェルンはそこまで親しい人間はなかった。
むしろ、ここまでの所業を鑑みると、印象はかなり悪い方だ。
それでも、自分が立案した作戦に彼女を巻き込んで、その結果死なせてしまったという事実に、カナメは罪悪感を覚えずにはいられなかった。

「――クソっ……!!」」

唇を噛み締め、拳を地面に叩きつけるカナメ。

振り返ってみると、魔理沙にしても、Storkにしても、霊夢にしても、フレンダにしても、彼は、同行者を悉く失ってしまっている。
その事実が、彼の心に重くのしかかっている。

あの時―――王にシノヅカを殺された時、彼は「殺す覚悟」を決めた。
しかし、その過程で生じるであろう「仲間を失う覚悟」は出来ていなかった。
現に、彼は霊夢とフレンダの死に対して、悲嘆と責任を露わにしている。
非情になると決意はしたものの、仲間の死を割り切れるほど、カナメは非道にはなりきれなかったのだ。

殺し合いの場を照らしていた陽は、まもなく沈む。
それはまるで、独りぼっちとなったカラスの心を映すかのように―――。


【博麗霊夢@東方Project 死亡】
【フレンダ=セイヴェルン@とある魔術の禁書目録 死亡】


【D-6/夕方/病院付近/一日目】
※戦闘の余波で、病院の敷地の半分は破壊しつくされましたが、「身体ストック室」を含む一部エリアは現存しております。

【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み)、シュカの喪失による悔しさ、虚無感、ダメージ(小) 、胸部に刺傷(回復済み)、霊夢とフレンダの死による失意と罪悪感
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(×0~2)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
0:俺は―――。
1:回収した首輪については技術者に解析させたい。
2:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。今は初期位置しか分からないリュージよりも近くにいるレイン優先。
3:王の奴は死んだのか……そうか……
4:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
5:無力化されたようだが一応ジオルドを警戒
6:折原を見つけたら護る。
7:絶対にウィキッドを殺す。
8:爆弾に峰があってたまるか!
9:ヴライを警戒。
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子達と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。

前話 次話
ニンゲンだから 投下順 愛をとりもどせ!!(前編)

前話 キャラクター 次話
裁定、そして災害(後編) フレンダ=セイヴェルン GAME OVER
裁定、そして災害(後編) カナメ 導火線に火をくべろ
裁定、そして災害(後編) 博麗霊夢 GAME OVER
裁定、そして災害(後編) ヴライ 天翔けるもの ―偽りの仮面―
英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー 十六夜咲夜 愛をとりもどせ!!(前編)
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