夜の帳が落ちる。再び天幕を闇が包み、月明かりが照らす。
駅のホーム座り込み、お互いの惨状を直視するのは二人。
駅のホーム座り込み、お互いの惨状を直視するのは二人。
この殺し合いにおいて唯我独尊たる悪意に振り回された、被害者二人。
悪意の舞台にて狂い踊り、その手を血に染めた二人。
冷たき月が、青白く輝く新月のみが天幕より照覧する。
刻の静寂に揺れる奈落の一欠片、零れ落ちる雫を受け止める唇は無く。
悪意の舞台にて狂い踊り、その手を血に染めた二人。
冷たき月が、青白く輝く新月のみが天幕より照覧する。
刻の静寂に揺れる奈落の一欠片、零れ落ちる雫を受け止める唇は無く。
――毀れ落ちた二人の世界に残されたこの場所で、彼女(きみ)は。
「――麗奈になら、殺されてもいいよ。」
☆ ☆ ☆
放送が、流れた。
またしても、何人も死んだ。
そこには鎧塚みぞれの名前もあった。
でも、そんな事よりも。
お互いに、再開できたという事実と、渦巻く複雑な感情があった。
またしても、何人も死んだ。
そこには鎧塚みぞれの名前もあった。
でも、そんな事よりも。
お互いに、再開できたという事実と、渦巻く複雑な感情があった。
「……麗奈、麗奈、だよね………?」
再開の喜びの前に、悲惨さからの怯えの方が上回る。
何せ様々な試練や苦難を経て、現実より目を逸らして、大切な友達と再開することになったとはいえ。
そんな友達の、左腕の肘から先が消滅しているという事実と。
そして、人間とは思えぬ赤い瞳が。
何せ様々な試練や苦難を経て、現実より目を逸らして、大切な友達と再開することになったとはいえ。
そんな友達の、左腕の肘から先が消滅しているという事実と。
そして、人間とは思えぬ赤い瞳が。
「麗奈、で、いいん、だよ、ね……?」
恐る恐る、尋ねる。
帰ってきたのは、小さな頷きという名の肯定の意思表明。
赤く妖しく輝く瞳が、黄前久美子を無言で見つめたまま。
帰ってきたのは、小さな頷きという名の肯定の意思表明。
赤く妖しく輝く瞳が、黄前久美子を無言で見つめたまま。
「……良かった。生きてて、良かったぁ……。」
やっと絞り出した言葉が、安堵の感情に乗せて漏れる。
ついさっき死にたくなって、それでも死にたくないと立ち上がれた先にあった一種のご褒美のようなもので。
やはり、生きていたことが、嬉しかったのだ。
ついさっき死にたくなって、それでも死にたくないと立ち上がれた先にあった一種のご褒美のようなもので。
やはり、生きていたことが、嬉しかったのだ。
「……久美子ぉ………。」
泣いた、脇目も振らず、涙を流して。
喜びも悲しみも後悔も絶望も巻き込んで、そしてただ親友と再開できたという事実に。
喜びも悲しみも後悔も絶望も巻き込んで、そしてただ親友と再開できたという事実に。
「……ねぇ、麗奈。何が、あったの……?」
一方で、震えながらも、久美子は麗奈に問い掛ける。
だが、その言葉に、僅かな恐怖が混じっている。
血腥い。久美子でも分かる、血の匂い。
人殺しの、匂い。――自分と、同じ。
だが、その言葉に、僅かな恐怖が混じっている。
血腥い。久美子でも分かる、血の匂い。
人殺しの、匂い。――自分と、同じ。
「麗奈も、……殺したの?」
「ッ!?」
「ッ!?」
徐ろに出たその言葉に、麗奈は思わず息を呑んだ。
殺した、というのならまだマシだった。
高坂麗奈は食べたのだ、人間を。自分を助けようとした騎士を。
そして「麗奈も」という、その言葉が示す意味は。
殺した、というのならまだマシだった。
高坂麗奈は食べたのだ、人間を。自分を助けようとした騎士を。
そして「麗奈も」という、その言葉が示す意味は。
「……久美、子……?」
大きな勘違いをしていた。自分と違って久美子は多少の傷はあれど無事だと思っていた。
自分以上に、その心に負った傷があった。黄前久美子もまた人を殺していた。
それが、衝動的なのか、正当防衛からなるものなのか、判断は付かないけれど。
少なくとも、それが彼女が望んでやったことではないという事だけは、はっきりとそう信じれた。
そして、妖しく光る紅玉を恐れ、畏怖するように。
自分以上に、その心に負った傷があった。黄前久美子もまた人を殺していた。
それが、衝動的なのか、正当防衛からなるものなのか、判断は付かないけれど。
少なくとも、それが彼女が望んでやったことではないという事だけは、はっきりとそう信じれた。
そして、妖しく光る紅玉を恐れ、畏怖するように。
「……ひと、ごろし。」
自分を棚に上げて、黄前久美子はそういった。
ただ、「仕方のないこと」として、冷静に受け入れている自分がいた。
それと同時に、彼女にもそう思われてしまった事への、悲しみはあった。
それ以上に、友達からもそう思われてしまう程に変貌してしまった自分への絶望があった。
久美子の性格の悪さを知っているからこその、諦めで。
でもやっぱり、久美子にそう言われた事が、とてもショックだった。
ただ、「仕方のないこと」として、冷静に受け入れている自分がいた。
それと同時に、彼女にもそう思われてしまった事への、悲しみはあった。
それ以上に、友達からもそう思われてしまう程に変貌してしまった自分への絶望があった。
久美子の性格の悪さを知っているからこその、諦めで。
でもやっぱり、久美子にそう言われた事が、とてもショックだった。
裏切られた。
裏切った。
だったら。
「――ア。」
「……麗奈?」
「アアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!」
「……麗奈?」
「アアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!」
――■■■■■■。
☆
お腹が減った、とてもとてもお腹が減っている。
食べないといけない。人間を食べないと飢えを満たせない。
「こっ……来ないでよぉ、来ないで化け物! ……………ぁ。」
人間がいる。美味しそうな女がいる。
人間の分際で、私を化け物扱いする。鬼をただの化け物扱いとは。
まあ、どうせ食べればいい、関係のない話。
食べれば良い、飢えを満たすために。
私はただの鬼。鬼舞辻無惨様によって鬼に変えられて――。
どうして、私の手が震えている。
どうして、私の身体が止まっている。
どうして、獲物が目の前にいるというのに。
どうして、私の身体が止まっている。
どうして、獲物が目の前にいるというのに。
どうして、私は涙を流しているの?
この心に引っ掛かる感情は何?
「……そうだったんだ。私、麗奈の事裏切っちゃったんだ。」
餌(くみこ)が、何かを言ってる。
全てが遠い思い出のようにリフレインしている。
何か、何か忘れようとしていたことを。思い出そうとしている。
何だこれは、どうでもいい事のハズなのに、私は何を思い出そうとしているの。
全てが遠い思い出のようにリフレインしている。
何か、何か忘れようとしていたことを。思い出そうとしている。
何だこれは、どうでもいい事のハズなのに、私は何を思い出そうとしているの。
「何もかも、言い訳して押し付けようとしたんだ。セルティさんが死んだ事も、ジオルドさんを殺したことも。……みんな悪い奴のせいって。」
お前は何を言っている。貴方は何を言ってるの?
「……ほんっと、私って性格悪いよね。」
そんな事、とうの昔に知っている。
そうじゃなかったら、中学で仲が拗れる事なんて無かったはずなんだから。
大体、久美子は昔っからそういう所あるよね。
そうじゃなかったら、中学で仲が拗れる事なんて無かったはずなんだから。
大体、久美子は昔っからそういう所あるよね。
「……それで、結局。最後の最後に、麗奈の事、裏切ろうとして、結局。」
何もかも諦めたように座り込んだ久美子の姿が、新月に照らされて、美しく見えた。
それ以上に、疲れているように見えた。何もかも、もう良いかなって感じで。
自分の罪から、都合よく逃げようとする愚か者にも見えるように。
それ以上に、疲れているように見えた。何もかも、もう良いかなって感じで。
自分の罪から、都合よく逃げようとする愚か者にも見えるように。
「もう、良いかな。これは私への罰なんだって。……約束したのに、裏切るような真似しちゃったから。」
なんで。そんな顔が出来るの。今から私に食い殺されようってのに、久美子。
……ああ、なんだ。あの時の約束。忘れてなかったんだ。
今の私は人食い鬼なのに、特別になってしまったのに。久美子の手が届かない場所まで行き着いてしまったのに。
……ああ、なんだ。あの時の約束。忘れてなかったんだ。
今の私は人食い鬼なのに、特別になってしまったのに。久美子の手が届かない場所まで行き着いてしまったのに。
「……だから。」
私なんかに構わず、見捨ててしまえばよかったのに。
私はこのまま、高坂麗奈であることを忘れて、ただの一匹の鬼に成り果てるのに。
我慢できない、誰かを食べたいという衝動が抑えられない。
私はこのまま、高坂麗奈であることを忘れて、ただの一匹の鬼に成り果てるのに。
我慢できない、誰かを食べたいという衝動が抑えられない。
「――麗奈になら、殺されてもいいよ。」
――そばにいてくれる?裏切らない?
――もし裏切ったら、殺して良い
――もし裏切ったら、殺して良い
――本気で殺すよ?
――麗奈ならしかねない、それをわかった上で言ってる。
――麗奈ならしかねない、それをわかった上で言ってる。
「もう、疲れたから。…………ごめんね。約束、破って。」
――もう我慢出来ないごめんなさいごめんなさい久美子ああ久美子
私はもう夢を叶えられないヴァイオレットさんにも謝れないしああお腹が減っている食べたい食べたい眼の前の人間美味しそう誰かに食べられる前に食べないと。
食べないと食べないと食べないとその美味しそうなお肉食べごたえある美味しそう食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい――――。
私はもう夢を叶えられないヴァイオレットさんにも謝れないしああお腹が減っている食べたい食べたい眼の前の人間美味しそう誰かに食べられる前に食べないと。
食べないと食べないと食べないとその美味しそうなお肉食べごたえある美味しそう食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい――――。
「ちょっとまったで、フ……ってうわあああああああ!?」
なんだこれ邪魔しないでさもないとお前も食べてやるそうだ口鳴らしにちょうどいい前菜だ。
捕まえちょこまかと動く邪魔するなお前は何だもういいそこで黙ってろダマッテロ――!
捕まえちょこまかと動く邪魔するなお前は何だもういいそこで黙ってろダマッテロ――!
「でフぅぅぅぅ!!!???」
悲鳴(ざつおん)声(ざつおん)声(ざつおん)ドウデモイイドウデモイイハヤクハヤクメインディッシュタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイ
アハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――――――――!!!!!
アハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――――――――!!!!!
―――イタダキマス
「……れい、なぁ。」
――くみ、こ。わたし――――。
私が最後に聞いたのは、久美子の声と。
よくわからない光に包まれる、私の意識。
よくわからない光に包まれる、私の意識。
◯ ◯ ◯
結論から言えばビエンフーは、ただただ運が悪かった。
行く宛もなく我武者羅に駅に向かったのが運の尽きだった。
高坂麗奈と黄前久美子の元にたどり着き、彼女に事情を聞こうとした。
そのタイミングが、高坂麗奈の食人衝動が黄前久美子の発言をトドメとしてトリガーが引かれたタイミングで。
結果、食べようと思ったらちょこまかとするものだから一旦黙らせられて。
その次に正気を失った高坂麗奈は黄前久美子に噛み付いて、その肉を堪能したわけで。
行く宛もなく我武者羅に駅に向かったのが運の尽きだった。
高坂麗奈と黄前久美子の元にたどり着き、彼女に事情を聞こうとした。
そのタイミングが、高坂麗奈の食人衝動が黄前久美子の発言をトドメとしてトリガーが引かれたタイミングで。
結果、食べようと思ったらちょこまかとするものだから一旦黙らせられて。
その次に正気を失った高坂麗奈は黄前久美子に噛み付いて、その肉を堪能したわけで。
ただし、忘れてはいないだろうか。鬼となって間もない頃、高坂麗奈はオスカー・ドラゴニアを食らっている。神衣を習得し霊力を宿した彼を、だ。
そしてまず、この場合の鬼は穢れではなく鬼舞辻無惨の血による変異の結果。
本来ならあり得ない「霊力」と「鬼(けがれ)」の力が共存している状態だ。
しかし、その程度で天秤は傾かない。その程度では、彼女の「鬼(けがれ)」を揺るがす要素とはならない。このまま行けば、彼女はただの人食い鬼と成り果てるだろう。
だが、彼女が次に食べたのはビルダーの鐘を聞いたことで『ビルダー』となった黄前久美子。
つまり、黄前久美子の情報に『ビルダー』の情報が付与された状態のようなものを、直接食べたということであり。
『ビルダー』とは、精霊ルビスによってモノづくりの力を授けられた存在のことであり。
その力の根源は、間違いなく精霊ルビスのものであり。
結果として聖なる力の比重が二重となり、穢れの割合を上回ったということであり。
そしてまず、この場合の鬼は穢れではなく鬼舞辻無惨の血による変異の結果。
本来ならあり得ない「霊力」と「鬼(けがれ)」の力が共存している状態だ。
しかし、その程度で天秤は傾かない。その程度では、彼女の「鬼(けがれ)」を揺るがす要素とはならない。このまま行けば、彼女はただの人食い鬼と成り果てるだろう。
だが、彼女が次に食べたのはビルダーの鐘を聞いたことで『ビルダー』となった黄前久美子。
つまり、黄前久美子の情報に『ビルダー』の情報が付与された状態のようなものを、直接食べたということであり。
『ビルダー』とは、精霊ルビスによってモノづくりの力を授けられた存在のことであり。
その力の根源は、間違いなく精霊ルビスのものであり。
結果として聖なる力の比重が二重となり、穢れの割合を上回ったということであり。
あと一つ、デジヘッドとしての高坂麗奈。
『コスモダンサー』による精神干渉と身内による死のトラウマの相互干渉でデジヘッドになった彼女であるが。
デジヘッドの状態とは要するに内面の暴走状態であり、それをアリアの力もしくは自力で調律し安定化させた力をカタルシスエフェクトであり。
最も後者を可能とするのは柏葉琴乃と琵琶坂永至、そして神隼人等と少ないが。
つまる所、自力での精神安定を可能とするならば、デジヘッドの暴走する力はカタルシスエフェクトとなりうるのであり。
『コスモダンサー』による精神干渉と身内による死のトラウマの相互干渉でデジヘッドになった彼女であるが。
デジヘッドの状態とは要するに内面の暴走状態であり、それをアリアの力もしくは自力で調律し安定化させた力をカタルシスエフェクトであり。
最も後者を可能とするのは柏葉琴乃と琵琶坂永至、そして神隼人等と少ないが。
つまる所、自力での精神安定を可能とするならば、デジヘッドの暴走する力はカタルシスエフェクトとなりうるのであり。
もし仮に、鬼としての力を、穢れを。世界観の異なる、聖なる力を以て調律することが出来たなら。
そして、それに導く最後の鍵となりうるピースは、――高坂麗奈の理解者たる黄前久美子ただ一人である。
そして、それに導く最後の鍵となりうるピースは、――高坂麗奈の理解者たる黄前久美子ただ一人である。
☆ ☆ ☆
教室の中に、私はいる。
いつもの音楽室の中に、私はたっている。
私の周りを囲んでいるのは、私に対し怯え、恐れ、敵意を向ける見知った生徒たち。
いつもの音楽室の中に、私はたっている。
私の周りを囲んでいるのは、私に対し怯え、恐れ、敵意を向ける見知った生徒たち。
『――残念です、高坂さん。』
滝先生が、私に銃を向けている。先生の鶴の一言で、他の生徒も私に銃を向ける。
私の手には血と腸と臓物がへばり付いていて、地面を見ればついさっき私自身が食い散らかした人間の残骸がある。
私の手には血と腸と臓物がへばり付いていて、地面を見ればついさっき私自身が食い散らかした人間の残骸がある。
わかった。これは地獄だ。地獄の獄卒が滝先生やみんなの姿で私を裁きに来たんだ。
仕方ないよね、だって私は久美子を食い殺してしまったんだから。
でも、流石にこれはキツイなぁって。
だって、滝先生が心底失望して、嫌悪した顔で私に銃を向けてくるんだもん。
仕方ないよね、だって私は久美子を食い殺してしまったんだから。
でも、流石にこれはキツイなぁって。
だって、滝先生が心底失望して、嫌悪した顔で私に銃を向けてくるんだもん。
人食い鬼は、元の太陽の下に居られない。たとえそれが望んでいないものだったとしても。
だからこれは当然の帰結。恋の願いもこうやって踏み躙られて。
謝りたい人に謝る機会すらハナから存在しなくて。
あすか先輩も、希美先輩も、みぞれ先輩も、死んでしまった。私を助けようとした人も死んでしまうのなら、ヴァイオレットさんはもう二度と私に会わなくなったほうが良いと思った。
本当なら私は、ここで終わるべきはずで。
だからこれは当然の帰結。恋の願いもこうやって踏み躙られて。
謝りたい人に謝る機会すらハナから存在しなくて。
あすか先輩も、希美先輩も、みぞれ先輩も、死んでしまった。私を助けようとした人も死んでしまうのなら、ヴァイオレットさんはもう二度と私に会わなくなったほうが良いと思った。
本当なら私は、ここで終わるべきはずで。
でも、本当は生きたかった。
生きて帰って、今度こそ。今度こそだって思ったのに。
こんなくだらない事に巻き込まれて、私の人生は終わってしまうのかだなんて考えたら。
誰とも違う『特別』になる事を願って、それがこの結末。
望んでもいない別の『特別』にされて、人を殺してしまって。挙げ句、抑えきれない欲望のままに友達を食い殺した。
生きて帰って、今度こそ。今度こそだって思ったのに。
こんなくだらない事に巻き込まれて、私の人生は終わってしまうのかだなんて考えたら。
誰とも違う『特別』になる事を願って、それがこの結末。
望んでもいない別の『特別』にされて、人を殺してしまって。挙げ句、抑えきれない欲望のままに友達を食い殺した。
『貴方は何処にも行けませんよ。』
酷く冷たい言葉が木霊する。最初から分かっているじゃないか。
この悪夢が全ての答え。元の世界へ帰った所で、食人衝動を抑えられない自分は、こうやった排斥される。
もうちょっとリアリティあっても良かったんじゃないかなと強がりを言おうと思ったけど、無駄だと分かっているからやめた。
この悪夢が全ての答え。元の世界へ帰った所で、食人衝動を抑えられない自分は、こうやった排斥される。
もうちょっとリアリティあっても良かったんじゃないかなと強がりを言おうと思ったけど、無駄だと分かっているからやめた。
『貴様は何処にも行けぬ。』
滝先生の顔が、あの鬼に。月彦さんの顔に。
もうお別れの時間なんだね。私はもう完全に鬼になるんだって。
人を食い殺すただの鬼に。
もうお別れの時間なんだね。私はもう完全に鬼になるんだって。
人を食い殺すただの鬼に。
ねぇ久美子。久美子も人を殺しちゃったんだよね。
裏切ってしまったから、態々私に食い殺されることを選んだんだよね。
じゃあ、せめて一緒に地獄に行こう。
私達の演奏を、地獄の鬼達に聴かせてあげるのも、悪くないのかもね?
裏切ってしまったから、態々私に食い殺されることを選んだんだよね。
じゃあ、せめて一緒に地獄に行こう。
私達の演奏を、地獄の鬼達に聴かせてあげるのも、悪くないのかもね?
「……嫌だ。」
死にたくない。こんな事を鬼になる前に思うなんて情けない。
鬼になって、今までの自分が何処にもいなくなってしまうのが怖い。
それはもう、『高坂麗奈』として死んでしまうのと同義だから。
鬼になって、今までの自分が何処にもいなくなってしまうのが怖い。
それはもう、『高坂麗奈』として死んでしまうのと同義だから。
「……助けて。」
我慢できなくなる。罪悪感を形どったヒト型が私に銃を向ける。
訳の分からない事に巻き込まれて、鬼にされて、挙げ句自分の人生が鬼の価値観に奪い尽くされるなんて。
嫌に決まってる。だから、誰でも良いから。誰でも良いから。
訳の分からない事に巻き込まれて、鬼にされて、挙げ句自分の人生が鬼の価値観に奪い尽くされるなんて。
嫌に決まってる。だから、誰でも良いから。誰でも良いから。
「……私を、助けて。」
泣き崩れて、無意味だと分かっていても。
無駄だと知っていても。それでも願わずには居られない。
無駄だと知っていても。それでも願わずには居られない。
『貴様に救いなんてある訳無かろう。』
知っている。救いなんて無い。鬼になった私に救いなんて。
それでも。助けて欲しかった。
誰でも良いから。鬼でも蛇でも、救いようのない外道でも誰でも良い。
だから。私の全てを捧げてもいいから。だから。
それでも。助けて欲しかった。
誰でも良いから。鬼でも蛇でも、救いようのない外道でも誰でも良い。
だから。私の全てを捧げてもいいから。だから。
『貴様は、永遠に私の奴隷なのだから―――』
ただ一つ、たった一つ願うことがあるのなら。
せめて、それでも叶うものがあるのなら。
せめて、それでも叶うものがあるのなら。
☆
――私、特別になりたいの。
――他の奴らと、同じになりたくない
――だから私は、トランペットやってるの。
――他の人と同じにならないために
ある日のやり取り。私達の関係が元の音調に戻る切っ掛けになった、夜の下で。
街の煌めきに照らされた、よるのないくにで。
私はいつまでも覚えてる、あの愛の告白をいつまでも覚えてる。
街の煌めきに照らされた、よるのないくにで。
私はいつまでも覚えてる、あの愛の告白をいつまでも覚えてる。
私は今この時なら、命を落としても構わないと思った。
☆
生きているのか死んでいるのかわからない曖昧な意識の中で、私は肉の塊に包まれた麗奈を見つけた。
抉り取られたお腹の事なんて気にしないで、血を流しながら。
抉り取られたお腹の事なんて気にしないで、血を流しながら。
「……れい、な。」
ねぇ、麗奈。麗奈の思い描く『特別』ってそんな汚いものだったの?
そんな人食い鬼になることが『特別』だったの?
違うよね、違うと言ってくれるよね?
そんな人食い鬼になることが『特別』だったの?
違うよね、違うと言ってくれるよね?
これは、夢で。私はとうの昔に死んでいるのかも知れない。
そもそも、麗奈が生きているのか死んでいるのかどうかもわからないのに。
体中が悲鳴あげている、顔の色んな所から血が吹き出して、視界が真っ赤で定まらなくなっているのに。
今まで死にたくないと怖がって逃げ続けたというのに、こんな時に限って死ぬことが怖くないなんて本当に都合がいい。麗奈に言われた通り、やっぱり私は性格の悪い女だ。
そもそも、麗奈が生きているのか死んでいるのかどうかもわからないのに。
体中が悲鳴あげている、顔の色んな所から血が吹き出して、視界が真っ赤で定まらなくなっているのに。
今まで死にたくないと怖がって逃げ続けたというのに、こんな時に限って死ぬことが怖くないなんて本当に都合がいい。麗奈に言われた通り、やっぱり私は性格の悪い女だ。
でもさ、こっちだって麗奈に言いたいことはあるよ。
人が苦労している時に勝手に鬼になって勝手に人殺しておいて、挙げ句麗奈らしくない所見せられて。
私一体どういう思いで麗奈に接したら良いのかわからなくなったじゃない。
ああもう、そんな事考えてたらジオルドさん殺した時の事とか本当にどうでも良くなってきた!
人が苦労している時に勝手に鬼になって勝手に人殺しておいて、挙げ句麗奈らしくない所見せられて。
私一体どういう思いで麗奈に接したら良いのかわからなくなったじゃない。
ああもう、そんな事考えてたらジオルドさん殺した時の事とか本当にどうでも良くなってきた!
「……れいな、は。ほかのひと、とは、ちがう。」
一歩ずつでも近づいて、へばり付いた肉を引き剥がす。
すごく頑丈だから今の私じゃまとも動かせないし、周りの触手が邪魔してくるし体中串刺してくるし滅茶苦茶痛い。
でも、こんな麗奈の姿を、泣いている彼女の姿なんて見ていられないから。
綺麗な顔で眠っているのに、酷く悲しくて、後悔してる顔を見ていたら。
すごく頑丈だから今の私じゃまとも動かせないし、周りの触手が邪魔してくるし体中串刺してくるし滅茶苦茶痛い。
でも、こんな麗奈の姿を、泣いている彼女の姿なんて見ていられないから。
綺麗な顔で眠っているのに、酷く悲しくて、後悔してる顔を見ていたら。
「……れいなは、とくべつなひとに、なるんでしょ……!」
こんな所で、麗奈の夢が奪われてたまるか。
こんな場所で、麗奈の人生を終わらせてたまるか。
例え、麗奈が悪者になったとしても、私は、私だけは――――
こんな場所で、麗奈の人生を終わらせてたまるか。
例え、麗奈が悪者になったとしても、私は、私だけは――――
「だから、そんなことで、ながされ、ないで……!」
私だけは、ずっと。麗奈にとっての友達(とくべつ)のままで。
「そんなわけのわからないのに、まけるな、れいなぁぁっ!!!!」
だから、負けないで、高坂麗奈。
私にとって、大切な特別(ともだち)。
……でも、もうダメみたい。身体、動かないや。
私にとって、大切な特別(ともだち)。
……でも、もうダメみたい。身体、動かないや。
「なに、いってるの、くみこ。」
なんだ、起きてたんだ。だったら、早く言ってよ。
もう私、疲れちゃったじゃない。
もう私、疲れちゃったじゃない。
「……わたしは、まけたくなんて、ないに、きまってる。」
そんな声を聞いて、私は安心しきったように気を失いました。
肉を引き裂き飲み込み、包み込む光のようなものを目の当たりにして―――。
肉を引き裂き飲み込み、包み込む光のようなものを目の当たりにして―――。
☆ ☆ ☆
「な、なんでフか、これ……?」
気を失ってから再び目覚めたビエンフーが見た光景は、正しく常軌を逸した未知そのものであった。
抉り取られた黄前久美子の脇腹が、まるで時計を逆再生するかのように巻き戻り、修復されていく。
肉を貪り終えた鬼の少女・高坂麗奈には、瑠璃色の霊力のようなものが纏わりつくように彼女の中に入り込んで行くのが視認できる。
そしてまた、麗奈の髪の色にも変化が生じた。瑠璃色の魔力が入り込むごとに、髪の色が黒から赤へと変遷していく。
髪色が端まで完全な赤へと変化したと同時に、麗奈の左眼は完全な蒼へと姿を変える。
抉り取られた黄前久美子の脇腹が、まるで時計を逆再生するかのように巻き戻り、修復されていく。
肉を貪り終えた鬼の少女・高坂麗奈には、瑠璃色の霊力のようなものが纏わりつくように彼女の中に入り込んで行くのが視認できる。
そしてまた、麗奈の髪の色にも変化が生じた。瑠璃色の魔力が入り込むごとに、髪の色が黒から赤へと変遷していく。
髪色が端まで完全な赤へと変化したと同時に、麗奈の左眼は完全な蒼へと姿を変える。
「……あれ、は……!」
そしてビエンフーは気付く。瑠璃色の霊力の出先が、高坂麗奈の口元から。
いや、更に正しくは彼女が喰らった黄前久美子の血肉から"も"だ。
だが、血肉から放出されているのは霊力ではない別の何か。
いや、更に正しくは彼女が喰らった黄前久美子の血肉から"も"だ。
だが、血肉から放出されているのは霊力ではない別の何か。
ビエンフーは知らないが。放出されているのは黄前久美子の『ビルダー』としての魔力。
ルビスと言う名の、アレフガルドの大地と海を創造した精霊の、その力の一端。
いわゆる聖主の力にも告示した聖なる力そのもの。
もう一つ、鬼舞辻無惨に与えられた呪い。人を鬼に変え理性を失わせる忌まわしき血。
オスカー・ドラゴニアを喰らったことによる霊力と、無惨の血と言う名の穢れの力。
そこに追加されたのが、精霊ルビスを大元とした『ビルダーの力』。――いや、これはもはやルビスの力の一端を取り込んだに等しい。
聖と穢、相反する二つの力を皮肉にも調律(ビルド)して、高坂麗奈は己がモノとした。
あり得ぬ二律背反(アンチノミー)をねじ伏せた、新種の人類の姿がそこにあった。
ルビスと言う名の、アレフガルドの大地と海を創造した精霊の、その力の一端。
いわゆる聖主の力にも告示した聖なる力そのもの。
もう一つ、鬼舞辻無惨に与えられた呪い。人を鬼に変え理性を失わせる忌まわしき血。
オスカー・ドラゴニアを喰らったことによる霊力と、無惨の血と言う名の穢れの力。
そこに追加されたのが、精霊ルビスを大元とした『ビルダーの力』。――いや、これはもはやルビスの力の一端を取り込んだに等しい。
聖と穢、相反する二つの力を皮肉にも調律(ビルド)して、高坂麗奈は己がモノとした。
あり得ぬ二律背反(アンチノミー)をねじ伏せた、新種の人類の姿がそこにあった。
黄前久美子の傷もまた、いつの間にか完治していた。
これに関しては『デジヘッド・高坂麗奈』としてのスキル『アフィクションエクスタシー』によるものであるが。
その光景を、ビエンフーにとっては一種の未知として受け取っており、神秘的な光景と未知への恐怖が入り混じった心情であった。
これに関しては『デジヘッド・高坂麗奈』としてのスキル『アフィクションエクスタシー』によるものであるが。
その光景を、ビエンフーにとっては一種の未知として受け取っており、神秘的な光景と未知への恐怖が入り混じった心情であった。
「……ん、あれ……私……。」
そうこうしている内に、黄前久美子が眼を覚ます。まるで長い夢を見たかのような夢見心地で。
大きく疲れたような気怠さで、誰かに見られているような視線を感じて起き上がった。
大きく疲れたような気怠さで、誰かに見られているような視線を感じて起き上がった。
「………久美子。」
「麗奈……ってええ!? そ、その髪の色何!? というか眼、左眼青くなってる?!」
「麗奈……ってええ!? そ、その髪の色何!? というか眼、左眼青くなってる?!」
起床一番に目撃したのは、食人衝動は何処行ったと言わんばかりに元気そうな麗奈の姿。
なのだが、目尻がなんか赤く腫れているのは兎も角、髪の色は赤く染まっているし、左眼は蒼く妖しく輝いていると来た。
なのだが、目尻がなんか赤く腫れているのは兎も角、髪の色は赤く染まっているし、左眼は蒼く妖しく輝いていると来た。
「うん、私は大丈夫。久美子のお陰で、大事なこと思い出したし、今は色々と安定してる。……本当にありがと。」
「いや、あっけからんに言われても私の方がすごく困惑してるから!? いきなりモンスターが人間に戻りましたってされても戸惑うだけだから!?」
「いや、あっけからんに言われても私の方がすごく困惑してるから!? いきなりモンスターが人間に戻りましたってされても戸惑うだけだから!?」
麗奈から開口真っ先に御礼の言葉を言われて、混乱する久美子。
そう言えば変な夢を見たなぁとか思い返して、齧られた傷を確認してみたら痕跡一つ残らず消えていると来た。困惑してもおかしくない状況ではあるが、何とも不思議と腑に落ちた。
腑に落ちたと同時に、何か吹っ切れたような清々しい感覚だった。
そう言えば変な夢を見たなぁとか思い返して、齧られた傷を確認してみたら痕跡一つ残らず消えていると来た。困惑してもおかしくない状況ではあるが、何とも不思議と腑に落ちた。
腑に落ちたと同時に、何か吹っ切れたような清々しい感覚だった。
「……モンスター呼ばわりは酷くない? いやでも、別に戻ったわけじゃない、かな。」
そんな地味に毒の混じった言葉を吐いた久美子に、少々引きながらも「そうそう、そういう所が久美子だよね」とほほえみ返す。
その上で、まだ自分は人間じゃないままであるということも、自覚していた。
その上で、まだ自分は人間じゃないままであるということも、自覚していた。
「でもね、久美子。」
「麗奈……ってうわっ!?」
「麗奈……ってうわっ!?」
そして唐突に、高坂麗奈は黄前久美子に抱きついた。
抱き着いた、と言うよりは押し倒された、というべきか。
久美子の胸に埋まるかのように麗奈が抱き着いているという状況。
頬を紅潮させ、友人の異常な行動に思わず硬直する。
血で汚れた制服に、涙がポタポタと染みている感覚があって。
久美子の胸に埋まるかのように麗奈が抱き着いているという状況。
頬を紅潮させ、友人の異常な行動に思わず硬直する。
血で汚れた制服に、涙がポタポタと染みている感覚があって。
「………もう、人間じゃない何かになっちゃったの、私。」
「知ってるよ、麗奈。」
「知ってるよ、麗奈。」
涙ぐんだ麗奈を、久美子は優しく抱きしめた。
感じる肌の血潮は冷たくて、涙の雫は凄く透き通っていて。
何が起こったのかは分からないけれど、さっきまで自分を喰おうとしていた化け物だったのが。
こうやって抱きしめられて、涙を流すことが出来る麗奈が、今更化け物だなんて思えなかったから。
感じる肌の血潮は冷たくて、涙の雫は凄く透き通っていて。
何が起こったのかは分からないけれど、さっきまで自分を喰おうとしていた化け物だったのが。
こうやって抱きしめられて、涙を流すことが出来る麗奈が、今更化け物だなんて思えなかったから。
「だから、例え麗奈が悪者になっても、私はずっと麗奈の味方でいる。」
「……裏切らない?」
「今度こそ、裏切らない、絶対に。――約束する。この言葉は嘘じゃない。嘘なんかにしたくない。」
「……裏切らない?」
「今度こそ、裏切らない、絶対に。――約束する。この言葉は嘘じゃない。嘘なんかにしたくない。」
あの時と同じ用に、麗奈が香織先輩に勝ちを譲ってしまおうだなんて考えをした時みたいに。
「悪者になっちゃうかも」なんて弱みを見せちゃった時のように。
だったら、今度こそ。ずっと麗奈の味方でいると、黄前久美子は。
「悪者になっちゃうかも」なんて弱みを見せちゃった時のように。
だったら、今度こそ。ずっと麗奈の味方でいると、黄前久美子は。
「じゃあ。嘘じゃないって証明するために―――久美子の血を、吸わせて。」
それは、ある意味愛の告白だ。高坂麗奈にとって、特別(ともだち)である黄前久美子への。
「――いいよ。私も、ちょっと覚悟決めたから。」
そして、その言葉に堰が崩れたかのように、麗奈は、久美子の首元に噛み付いて。
「ああっ……麗奈、れいなぁ……!」
「……久美子の、おいしい…………」
「……久美子の、おいしい…………」
可愛らしい喘ぎ声が響き渡る。月光の輝きに照らされて慰め合う二人の少女の絆が映し出される。
それは正しく愛の契約(ちぎり)であり、二度と手を離さないようにと誓った願いであり。
この後に告げられる黄前久美子の、とある覚悟を示すための儀式でもある。
それは正しく愛の契約(ちぎり)であり、二度と手を離さないようにと誓った願いであり。
この後に告げられる黄前久美子の、とある覚悟を示すための儀式でもある。
聖なる力と、二人の友情(あい)が、高坂麗奈に掛けられた鬼舞辻無惨の呪いを討ち果たした証左であった。
呪いから解き放たれた高坂麗奈はただの鬼ではなく、黄前久美子という浄化の巫女を伴侶とした。
月光に照らされるに相応しき夜の女王。―――新月の花嫁である。
呪いから解き放たれた高坂麗奈はただの鬼ではなく、黄前久美子という浄化の巫女を伴侶とした。
月光に照らされるに相応しき夜の女王。―――新月の花嫁である。
☆ ☆ ☆
「………じゃあ、いいかな。」
数十分にも渡るまぐわいを得て、乱れた服装を整え直し。黄前久美子の決意が告げられる。
「いいよ、久美子。……そこの小さな誰かさんは、変な事しないでくれないかな?」
「あっ、やっぱりそうですか逃げられないでフか。」
「あっ、やっぱりそうですか逃げられないでフか。」
その傍らに、二人の濃厚な絡み合いを見せられ、逃げるタイミングを完全に見失った結果、麗奈に釘を差されれ動けないビエンフーという余分な何かを同席させたまま。
「麗奈。私はこの殺し合いで苦しい事があって、それで逃げようとして、それで麗奈にまた出会えて。思ったんだ。」
黄前久美子にとって、この殺し合いとはジェットコースターのようなものだった
同行者に恵まれたと思えば、自分のやらかしで誰かが死んで、失言で大変なことになって、挙げ句恐怖にまみれて望まぬ人殺しをして。結果的に生きているとは言え人間じゃなくなった親友に食い殺されそうになった。
いつも通りに振る舞っているように見えて、既に久美子の心は残酷な現実に押し潰されていた。
その、一滴の奇跡と残酷な現実を経て、黄前久美子というこの殺し合いにおいて唯一の特別(ふつう)は。
大言壮語にも等しい、たった一つの冴えた考えを告げる。
同行者に恵まれたと思えば、自分のやらかしで誰かが死んで、失言で大変なことになって、挙げ句恐怖にまみれて望まぬ人殺しをして。結果的に生きているとは言え人間じゃなくなった親友に食い殺されそうになった。
いつも通りに振る舞っているように見えて、既に久美子の心は残酷な現実に押し潰されていた。
その、一滴の奇跡と残酷な現実を経て、黄前久美子というこの殺し合いにおいて唯一の特別(ふつう)は。
大言壮語にも等しい、たった一つの冴えた考えを告げる。
「……もし、あのμの力を何とか利用出来たら、この殺し合いを、なかった事に出来るんじゃないかなって。」
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とある少女の薄明邂逅(エンカウント) | 高坂麗奈 | よるのないくに ~さよならビエンフー~ |
とある少女の薄明邂逅(エンカウント) | 黄前久美子 | よるのないくに ~さよならビエンフー~ |