「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」
少女―――黄前久美子はただ、ひたすらに走っている。
目から涙がとめどなく溢れ、口から涎が垂れていても、涙もぬぐわず涎も拭こうともせずに、両手は走る為に一心不乱に振っている。その目も焦点はまっすぐ向いていないが、これは疲労が原因では決してない。
目から涙がとめどなく溢れ、口から涎が垂れていても、涙もぬぐわず涎も拭こうともせずに、両手は走る為に一心不乱に振っている。その目も焦点はまっすぐ向いていないが、これは疲労が原因では決してない。
「私は、わたしは……!!」
何処に向かうという事はなく、誰かに追われているという事もなく、ただ一人で恥も外聞もなく走り続けている。
何の為に少女は走っているのかと考えるのであれば、それは恐らく「現実から逃げる為」。
何の為に少女は走っているのかと考えるのであれば、それは恐らく「現実から逃げる為」。
「ちがう……!あれ、は……!!」
少女は先ほど、ジオルド・スティアートという青年を殺害した。青年は彼自身が愛している人物を生かす為に殺戮を行い、彼女は瓦礫を使って疲労困憊の状態だった青年を撲殺をした。
その部分だけみれば、これ以上の被害を出す事はなくなった為少しは喜ばしいことかもしれない。
しかし殺した事の正当性と彼女の精神の捉え方は全くの別。
ましてや少女は一日前まで命の取り合いとは無縁の日々を送っていたのだ。
その部分だけみれば、これ以上の被害を出す事はなくなった為少しは喜ばしいことかもしれない。
しかし殺した事の正当性と彼女の精神の捉え方は全くの別。
ましてや少女は一日前まで命の取り合いとは無縁の日々を送っていたのだ。
「悪くない……!!私は、悪くない……!!!」
殺人の一件だけではない。この殺し合いを主の目的とした島の中で多くの悲しみや苦しみを経験してきた。
どの出来事も彼女に大きな悲しみが抱え込ませたが、そばで支えてくれた同行者達のおかげもあり、なんとか立ち上がり、本物ではないとはいえ母校の北宇治高等学校にたどり着いた。
その同行者達も亡くなり、高校も神々の戦いとビルダーの激戦を経てクレーターの跡地となった。
どの出来事も彼女に大きな悲しみが抱え込ませたが、そばで支えてくれた同行者達のおかげもあり、なんとか立ち上がり、本物ではないとはいえ母校の北宇治高等学校にたどり着いた。
その同行者達も亡くなり、高校も神々の戦いとビルダーの激戦を経てクレーターの跡地となった。
頼れる人も、縋れるモノも最早なにも無い。今の彼女は精神の限界を遥かに超えてしまって、残酷な現実(じごく)から逃げる事しかできない、ただの弱い少女であった。
「彼が……、かれが悪、ギャ!!」
どれくらいの時間を走っているのか定かではないが、何十分も全速力で走れば大体の人間は限界が来る。吹奏楽部の鍛錬の為に肺活量や体力は全く無いわけではないが、それでもここまで走り続けられたのが奇跡の様なものである。
疲労で縺れた足が絡まる事で躓き、ズザサッと前かがみの状態で転んでしまった。反射的に両手で頭をかばった為、顔から落ちる事はなかったが、それでも手足のあちこちは擦り傷が出来てしまっていた。
疲労で縺れた足が絡まる事で躓き、ズザサッと前かがみの状態で転んでしまった。反射的に両手で頭をかばった為、顔から落ちる事はなかったが、それでも手足のあちこちは擦り傷が出来てしまっていた。
転んだ事で、ここに来て久美子は走り続けてから初めて止まる事になった。そして彼女は、これまで衝動的に走っていた事をおぼろげながらも認識し、肩で息をしながら辺りを見渡し始めた。
「…………ここ、は……、駅、の………?」
ゼエゼエと全く息が整わない状態で久美子が目にしたのは、駅のホームと思しき場所。ここで地図を見れば、今の場所がD-7・スパリゾート高千穂周辺だと気づけただろうが、今の彼女にそんな動作を行う余裕はおろか考えるという事すらも全くない。
久美子は、かつて来た道を大体逆戻りしたことになったという事実をいまだに認識してはいないが、立ち上がりゆっくりとホームに移動し始めた。
久美子は、かつて来た道を大体逆戻りしたことになったという事実をいまだに認識してはいないが、立ち上がりゆっくりとホームに移動し始めた。
―――この地で運に恵まれない事が多い彼女であったが、ここでまた一つ不幸な入れ違いがあった。
彼女は、線路の東側沿いをずっと走っていた(最も彼女は走るという事そのものに全て意識が向いていた為、線路など見えてなかったし知らなかった)のだが、ここで線路の西側沿いを走っていたのなら、神隼人の言葉に従って南下してきた平和島静雄とレインの二人組と遭遇していた可能性があり、恐らく保護されていたのだろう。
しかし、反対方向で走っている彼女に気づくことなく、彼らとコシュタ・バワーは北宇治高校方面に一直線に向かい、結果的に黄前久美子はここまで一人で走る事になったのだ。
彼女は、線路の東側沿いをずっと走っていた(最も彼女は走るという事そのものに全て意識が向いていた為、線路など見えてなかったし知らなかった)のだが、ここで線路の西側沿いを走っていたのなら、神隼人の言葉に従って南下してきた平和島静雄とレインの二人組と遭遇していた可能性があり、恐らく保護されていたのだろう。
しかし、反対方向で走っている彼女に気づくことなく、彼らとコシュタ・バワーは北宇治高校方面に一直線に向かい、結果的に黄前久美子はここまで一人で走る事になったのだ。
ホームの中に入り、ベンチに弱弱しく座り込む久美子。いまだに息は整っていないが、安心なんて気持ちは全く浮かんでこなかった。単純に全速力による酸欠に近い状態で、脳がまだ正常に回っていない為か、あるいは考えるという事を本能で否定している為か。
ボーっとした表情で、ただ前を見ている久美子。1分、2分と時間が経過しても何も変わらず、5分程過ぎた頃でようやく息が整って頭が回りはじめ、言葉を発し始める。
ボーっとした表情で、ただ前を見ている久美子。1分、2分と時間が経過しても何も変わらず、5分程過ぎた頃でようやく息が整って頭が回りはじめ、言葉を発し始める。
「……なんで……、私は…………」
一言、口にしてそのままに無意識に両手で顔を覆う。同時に、ベチャ。と顔に汚いナニカがついた感覚と鉄や生もののような異臭で咄嗟に手を放し、左右の手のひらを見る。
「………………あ」
走った事による汗と、転倒した時の土などで、幾らか汚れや臭いは落ちたが、その程度では「人の脳漿や返り血」が落ちきる事なんてない。
汚れてない場所なんてないといった程に真っ黒な両手や返り血で真っ赤な制服を見て、ようやく、自分がなぜ走っていたのか、走る前に何を行ったのかを思いだした。
汚れてない場所なんてないといった程に真っ黒な両手や返り血で真っ赤な制服を見て、ようやく、自分がなぜ走っていたのか、走る前に何を行ったのかを思いだした。
「………………もう……嫌ぁ―――」
―――彼女は限界はとうに超えていた。ただでさえいきなり殺し合いに参加された事のストレスや自分を守ってくれた同行者の死に何気なく放った言葉による自己嫌悪と、精神は殺し合いが始まった時と比べて弱り切っていた。
そこに、自分が犯した罪を改めて突き付けられてしまっては、力を持たない彼女は、最早全てを壊れるしかない。
しかし幸か不幸か彼女の本能は、精神を破壊して現実から逃げる事よりも、今目にしている現実を否定する方を選択してしまったそうで。
ふ、と目に光を失い、身体をベンチのある方向に倒れ、腕はベンチから外れて宙ぶらりんの状態になり、気を失った。
そこに、自分が犯した罪を改めて突き付けられてしまっては、力を持たない彼女は、最早全てを壊れるしかない。
しかし幸か不幸か彼女の本能は、精神を破壊して現実から逃げる事よりも、今目にしている現実を否定する方を選択してしまったそうで。
ふ、と目に光を失い、身体をベンチのある方向に倒れ、腕はベンチから外れて宙ぶらりんの状態になり、気を失った。
それが、黄前久美子という殺人者に許された、最後の防衛手段であった。
▲ ▲ ▲ ▼ ▼ ▼
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」
場所は変わり、太陽の光があまり当たらない森林の中を一心不乱で走る少女がいた。名は、高坂麗奈。
彼女もまた、ひたすらに後ろを振り返ることもなく、自分の身体を傷つける事も厭わずに走り続けていた。
彼女もまた、ひたすらに後ろを振り返ることもなく、自分の身体を傷つける事も厭わずに走り続けていた。
「あぁ……!!うぁああぁあ……!!」
目の焦点は虚ろで、まさに錯乱しているといった状態でありながら、獣の様な速さで道なき道を駆けていく。
この少女もまた、これまでの取り巻く環境や自身の犯した過ちから目を背け続けている。
この少女もまた、これまでの取り巻く環境や自身の犯した過ちから目を背け続けている。
自分を縛っていた怪物は―――こっちに来ているか、わからない。
自分を傷つけてくる魔女は―――どうなっているか、わからない。
自分に手を差し伸べた恩人は―――生きているのかも、わからない。
自分を傷つけてくる魔女は―――どうなっているか、わからない。
自分に手を差し伸べた恩人は―――生きているのかも、わからない。
わからない、わからない、わからない。
考えたくても理解したくない。納得なんて出来る訳がない。何もかもから逃げ出したい。
最早何処に向かうべきなのか、これからどうするべきなのか、思考を働かせてる余裕なんてどこにも無い。
考えたくても理解したくない。納得なんて出来る訳がない。何もかもから逃げ出したい。
最早何処に向かうべきなのか、これからどうするべきなのか、思考を働かせてる余裕なんてどこにも無い。
今の麗奈にある思いは「ここから逃げる」「とにかく離れる」という逃避のみ。
しかし、今の彼女は鬼舞辻無惨の手によって、既に人ならざるモノ、闇の中でしか生きられぬ鬼に変わってしまっている。
森林が生い茂っていた地帯を抜けて、陽の光を当たる所に向かってしまっては―――
森林が生い茂っていた地帯を抜けて、陽の光を当たる所に向かってしまっては―――
「―――ッ!! ガアアアァアアアッ!!」
突如、十代半ばの少女から発したとは思えない叫び声をあげたと思ったら、即座に普通の人体では到底不可能な速さで後ろに跳躍して、自身の身体を襲った激痛を探ろうとする。
激痛の原因はすぐにわかった。左腕の肘から先が、塵となって無くなっていく。
腕がなくなってる。と言葉を発しようとして、自分は先ほどまで腕を切断されたり10本の指を全て折り曲げられた事を思い出し、そして自分が鬼という存在に気が付いたらされていた事を思い出した。
激痛の原因はすぐにわかった。左腕の肘から先が、塵となって無くなっていく。
腕がなくなってる。と言葉を発しようとして、自分は先ほどまで腕を切断されたり10本の指を全て折り曲げられた事を思い出し、そして自分が鬼という存在に気が付いたらされていた事を思い出した。
―――彼女はこれまで鬼の最大の弱点である太陽の光を克服する要因であったデジヘッド化は、同じくデジヘッド化していた鬼舞辻無惨と距離を取った事で解除をされていた。しかし、それがプラスに働くという訳ではない。太陽は沈みつつあるとはいえ未だ顕在。その様な刻に、陽光こそ最大の弱点である鬼が放りだされては、本来ならば死は避けられない。
幸いにも、今彼女がいる場所は陰っている場所である事や、周囲には陽を遮る木々や建設物があった為、むやみに走り回らなければ、移動する事そのものは問題はないようには見える。
しかし、彼女が今いる場所から動かないのは日光とは別の部分である。
しかし、彼女が今いる場所から動かないのは日光とは別の部分である。
先ほどまでの錯乱しながら走っていた為、思考を行うことなどとても出来なかったが、一時的に足を止めて自分の姿を見たことで、僅かばかりだが、少しばかり冷静になる事は出来た。
だが、混乱しながらも頭を働かせる事で、自分の今置かれた絶望的な状況を自覚してゆく。
だが、混乱しながらも頭を働かせる事で、自分の今置かれた絶望的な状況を自覚してゆく。
自身は人ならざる化物になった。そうした張本人が今も追ってきてる可能性が高い。誰か助けが来るなんて望みは、間違いなくない。
考えれば考えるほど八方塞がり。自身の手持ちはどれも戦えるものではなく、先ほどは勢い任せで魔女を殴りこんだが戦闘の心得などない為負けてしまう程の拙い戦闘力。追ってきている相手が来たら、これまで同様に痛め付け、逃げることなんてできない様に生き地獄を味合わせてくるに違いない。抵抗など無意味。
そう考えるだけで、身体の全身に悪寒が走りガタガタと震えてしまう。さっきまで何も考えずに走っていたのに、今度は恐怖で一歩も動けなくなってしまっていた。
そう考えるだけで、身体の全身に悪寒が走りガタガタと震えてしまう。さっきまで何も考えずに走っていたのに、今度は恐怖で一歩も動けなくなってしまっていた。
いっその事ここで太陽の光を全身で浴びて、この世からいなくなった方が総てが楽なのではないのか―――。
そんな考えが脳に思い浮かぶ。本来の彼女では到底考えないだろう発想が、地獄に垂らされた蜘蛛の糸の様に素晴らしいモノに思えてしまう。
陽が沈みつつある現状、太陽を浴びて死ぬなら、今しかない。
そんな考えが脳に思い浮かぶ。本来の彼女では到底考えないだろう発想が、地獄に垂らされた蜘蛛の糸の様に素晴らしいモノに思えてしまう。
陽が沈みつつある現状、太陽を浴びて死ぬなら、今しかない。
「うぅ……」
絞る出すような声を出しながら震える麗奈。それでも、身体を太陽にさらすことはなく、頭を抱え額に地面につけ、もがく様に悩み苦しむ姿をさらしている。
齢15、6にしての自死。人の一生、或いは鬼としての生涯と考えても短いモノ。それでも彼女なりに沢山の出会い、沢山の経験、沢山の想い出を築き上げ、楽しかった頃の記憶をさながら走馬灯の様に思い出そうとしている。
齢15、6にしての自死。人の一生、或いは鬼としての生涯と考えても短いモノ。それでも彼女なりに沢山の出会い、沢山の経験、沢山の想い出を築き上げ、楽しかった頃の記憶をさながら走馬灯の様に思い出そうとしている。
なのに―――。
―――………お前はただ私の質問に答えれば良い。それ以外の発言は許さないーーー
―――………お前はこれから私の従者として、私に尽くしてもらう。先程も言ったが拒否権はないーーー
―――………キャハハハハハハッ!! ねぇねぇ、高坂さん、痛いですかぁ? 苦しいですかぁーーー
―――………もういい加減うぜえんだよ、てめぇは!!ーーー
「うううぅううぅ……!!」
―――脳内に思い浮かぶのは、この殺し合いに巻き込まれてから自身に受けた苦痛や痛み、絶望的な事ばかり。
魔女に殺されかけた時にはちゃんとした思い出を駆け巡れた感覚があったが、今は出来ないのは、その後の自身の犯した過ちによってただの被害者ではなくなってしまったと強く自覚している事が理由なのかは定かではない。
わずか18時間にも満たない出来事が、これまで生きてきた全ての思い出をどす黒いペンキで塗り替えられていく様な感覚に陥る。
魔女に殺されかけた時にはちゃんとした思い出を駆け巡れた感覚があったが、今は出来ないのは、その後の自身の犯した過ちによってただの被害者ではなくなってしまったと強く自覚している事が理由なのかは定かではない。
わずか18時間にも満たない出来事が、これまで生きてきた全ての思い出をどす黒いペンキで塗り替えられていく様な感覚に陥る。
「……このままじゃあ、私は何の為に生きてきたの……?」
誰に聞かせるというわけではなく、自分に言い聞かせる様な言葉を呟き、地面につけた頭を上げる。
『特別』に憧れていたのに、ボロ雑巾の様に扱われて、そして誰にも知られず無意味に生涯を終えるなんて、とても惨めで無様で情けなくなってくる。
『特別』に憧れていたのに、ボロ雑巾の様に扱われて、そして誰にも知られず無意味に生涯を終えるなんて、とても惨めで無様で情けなくなってくる。
「私は、こんな目にあう為にここまで頑張ってきたの……?」
「そんなのは……嫌だ……」
「このまま何も出来ずに死ぬなんて、一方的にやられて終わるなんて、嫌だ……」
ウィキッドを一心不乱のに殴っていた時と似た思いを彼女は馳せる。
あの時はウィキッドが反撃に殴り返してきた事や、命を終わらせられる寸前だった為に悲しみに耽る余裕もあまりなかったが、周囲に誰一人いない状況の今は、沸々と湧く思いに向き合える。
あの時はウィキッドが反撃に殴り返してきた事や、命を終わらせられる寸前だった為に悲しみに耽る余裕もあまりなかったが、周囲に誰一人いない状況の今は、沸々と湧く思いに向き合える。
「私は……、死にたくない……。こんな場所で、終わりたくない……」
左腕が無く不慣れな動作だが、ゆっくりと彼女は立ち上がり、陽の光に当たらないに身体を動かし始める。
生き残りたいという、生物が持つ根本的な欲求。結局の所この思いが高坂麗奈が自殺を選ばなかった
自分を今の状態にさせた当の本人である鬼舞辻無惨が抱く根底的な思いと同一なモノだとは、麗奈は気づいていないし、知った所で理解したくないだろう。
自分を今の状態にさせた当の本人である鬼舞辻無惨が抱く根底的な思いと同一なモノだとは、麗奈は気づいていないし、知った所で理解したくないだろう。
「死んで、たまるか……。生きて、滝先生に……会いたい……」
高坂麗奈と鬼舞辻無惨が似て異なるいう事を挙げるならば、それは生きる理由。
鬼舞辻無惨はとにかく自分が死なない、自分が生き残ればいいという生存欲求に特化している。彼が長年掛けて選別してきた十二鬼月も、言ってしまえば彼が生存確率を上げる為の捨て駒でしかなく、半数を占めた下弦の枠も大半は無惨の手によって処分・解体された。
しかし、高坂麗奈は違う。明確に生きて行いたい事があった。生き延びた先に出会いたい人がいて、伝えたい言葉があった。
鬼舞辻無惨はとにかく自分が死なない、自分が生き残ればいいという生存欲求に特化している。彼が長年掛けて選別してきた十二鬼月も、言ってしまえば彼が生存確率を上げる為の捨て駒でしかなく、半数を占めた下弦の枠も大半は無惨の手によって処分・解体された。
しかし、高坂麗奈は違う。明確に生きて行いたい事があった。生き延びた先に出会いたい人がいて、伝えたい言葉があった。
滝昇先生。自分が北宇治高等学校に入学する最大の理由になった、麗奈が「愛している」人
あの人は化け物になって、人じゃなくなった私を知ってどうするのだろうか。否定するのだろうか。
それでも、また会いたい。どう思われていてもその顔をもう一度見たい。私の想いを伝えたい。
あの人は化け物になって、人じゃなくなった私を知ってどうするのだろうか。否定するのだろうか。
それでも、また会いたい。どう思われていてもその顔をもう一度見たい。私の想いを伝えたい。
「それに……、ヴァイオレットさんと、鎧塚先輩に……、もう一度、会わないと……」
そして、再開したい人物は他にもいた。
化け物になった自分を受け入れたのに、自分を衝動に駆られて血を吸ってしまった、この会場で初めて会った人。
独りで逃げだしたと聞かされ、その言葉を鵜呑みにして心を揺れてしまっていた、一度は再開できた学校の先輩。
彼女たちにももう一度会って、今までの事を謝りたい。守って欲しいとか一緒にいて欲しいとかはもう無理だろうけど、それでも言葉を伝えたい。
化け物になった自分を受け入れたのに、自分を衝動に駆られて血を吸ってしまった、この会場で初めて会った人。
独りで逃げだしたと聞かされ、その言葉を鵜呑みにして心を揺れてしまっていた、一度は再開できた学校の先輩。
彼女たちにももう一度会って、今までの事を謝りたい。守って欲しいとか一緒にいて欲しいとかはもう無理だろうけど、それでも言葉を伝えたい。
そんな思いが抱きながら、歩き始める麗奈。本来の彼女と比べれば随分と後ろ向きな考えだが、それでも無惨に支配されていた時や逃げる頃だけだった時と比べれば、瞳の光は幾らか取り戻していた。
「まずは……、月彦さんや、水口さんから離れないと……。それも、少し休めそうな場所で……」
彼女が向かっている方角は、東のスパリゾート高千穂。病院も行先として少し考えたが、この殺し合いの中で数少ない穏やかな時間を過ごした場所で休みたいと、太陽が沈みつつある会場で足を動かしていった。
―――もし、ここで安易に北宇治高等学校に逃げていたら、行きそうな場所だとだと目星をつけていた鬼舞辻無惨に捕まっていただろう事を考えると、結果的に彼女は一つ危機を乗り越えた。
―――もっとも、彼女はその様なありえた未来を知る事などなく、鬼同士の鬼ごっこは、これからも続いていくだろう。おそらく、鬼という存在がこの殺し合いの会場からいなくなるまで。
―――もっとも、彼女はその様なありえた未来を知る事などなく、鬼同士の鬼ごっこは、これからも続いていくだろう。おそらく、鬼という存在がこの殺し合いの会場からいなくなるまで。
▲ ▲ ▲ ▼ ▼ ▼
「あれ、私……」
私、黄前久美子は、パチリと目が覚めて、心なしか重たい身体を起き上がらせました。
どうやら私はホームのベンチで酔っ払いの様に寝込んでいたそうです。やけに熱を帯びた暖かい身体でも、外で無褒美で寝てたら風邪を引いてしまいます。
今が何時なのかはすぐには確認出来なかったですけど、駅のホームの蛍光灯に明かりがついており、ホームの周り以外は陽が殆ど沈んでいるのか先が見えづらい程に暗くなってきていることから、夜が近い事は脳がボンヤリとした状態でも理解はできました。
どうして私はホームにいるのか、そう考えようとしてすぐに思い出しました。 思い出して、しまいました。
どうやら私はホームのベンチで酔っ払いの様に寝込んでいたそうです。やけに熱を帯びた暖かい身体でも、外で無褒美で寝てたら風邪を引いてしまいます。
今が何時なのかはすぐには確認出来なかったですけど、駅のホームの蛍光灯に明かりがついており、ホームの周り以外は陽が殆ど沈んでいるのか先が見えづらい程に暗くなってきていることから、夜が近い事は脳がボンヤリとした状態でも理解はできました。
どうして私はホームにいるのか、そう考えようとしてすぐに思い出しました。 思い出して、しまいました。
顔がなくて、それでも私を気遣ってくれていたセルティさん。自分の目の前で命を失ったセルティさん。
厳つい顔つきだけどずっと一緒にいてくれた弁慶さん。火だるまになり全身に火傷を負って倒れている弁慶さん。
私の言葉で苦しませてしまったみぞれ先輩。私を庇おうとして炎に飲み込まれたみぞれ先輩。
目の前で次々と人を傷つけていくジオルド……さん。見えちゃいけない中身が見えてる程に頭が潰れてるジオルドさん。 わたしが、ころした、男の人。
厳つい顔つきだけどずっと一緒にいてくれた弁慶さん。火だるまになり全身に火傷を負って倒れている弁慶さん。
私の言葉で苦しませてしまったみぞれ先輩。私を庇おうとして炎に飲み込まれたみぞれ先輩。
目の前で次々と人を傷つけていくジオルド……さん。見えちゃいけない中身が見えてる程に頭が潰れてるジオルドさん。 わたしが、ころした、男の人。
「あ……あぁぁああああぁああぁ!!!」
私は自分でもここまで声を出す事が出来るのかと思いたくなる程に叫び声をあげていました。
私が殺していないと否定したくても、てのひらや服装にベッタリとついた汚れは私が行ったのだと突き詰めて。
私は悪くないと思い込みたくても、人殺しから全力で目を背けきれる程心は強くなくて。
それでも自分があのような殺し方をした事を、人を殺したという事を受け入れるには到底受け入れたくなくて。
私が殺していないと否定したくても、てのひらや服装にベッタリとついた汚れは私が行ったのだと突き詰めて。
私は悪くないと思い込みたくても、人殺しから全力で目を背けきれる程心は強くなくて。
それでも自分があのような殺し方をした事を、人を殺したという事を受け入れるには到底受け入れたくなくて。
そんな考えをしているうちに、心身ともに限界に来ているという事を、胸の下辺りからこみ上げてくるモノを吐き出してようやく少しだけ自覚できました。
「オ゛……エ゛ェ゛ェッ」
吐いた事で気持ちが軽くなる―――なんて事は無く、その勢いのまま2度、3度と四つん這いの状態で胃の中のモノを全て吐いてしまいました。
ここじゃない別の駅の待合室で弁慶さんに渡されて飲んだジュースも、この半日以上経った殺し合いの中で僅かに摂取したモノも、汚染物となって何もかも口から出て行ってしまうのは、この世界での思い出が汚れていくように感じ、そう思っただけでまたえづいてしまいました。
やがて吐き出せるものはなくなり、鼻を刺す刺激臭と口の中の残ったモノの残りの感触で、ただただ苦しいだけになり、肩で息をするのが精一杯の状態になりました。
その体勢のまま、ポロポロと涙が流れ、鼻先を伝い、吐しゃ物の中に落ちてゆくのを見ながら、私の心には思いが沸き上がってきます。
ここじゃない別の駅の待合室で弁慶さんに渡されて飲んだジュースも、この半日以上経った殺し合いの中で僅かに摂取したモノも、汚染物となって何もかも口から出て行ってしまうのは、この世界での思い出が汚れていくように感じ、そう思っただけでまたえづいてしまいました。
やがて吐き出せるものはなくなり、鼻を刺す刺激臭と口の中の残ったモノの残りの感触で、ただただ苦しいだけになり、肩で息をするのが精一杯の状態になりました。
その体勢のまま、ポロポロと涙が流れ、鼻先を伝い、吐しゃ物の中に落ちてゆくのを見ながら、私の心には思いが沸き上がってきます。
どうしてこうなってしまったのだろう。
私は、ただ吹奏楽部の皆と一緒に全国大会を目指していただけなのに、どうして人を殺してしまう様な事をしたのだろうか。
こんなみんなが不幸になるだけの殺し合いに巻き込まれる様な悪い事を、私はしていたのだろうか。
私は、ただ吹奏楽部の皆と一緒に全国大会を目指していただけなのに、どうして人を殺してしまう様な事をしたのだろうか。
こんなみんなが不幸になるだけの殺し合いに巻き込まれる様な悪い事を、私はしていたのだろうか。
そんな疑問が思い浮かんでは消えて、消えては思い浮かんで、答えなんて出せずに時間だけが1秒10秒と過ぎていきます。
そして3分くらい経った頃に、ふと何か音が聞こえた気がして、私は顔を上げました。
少しだけ耳をすませると、それは誰かが走ってくるかのような、逃げる様な不規則な足音の様な音が聞こえてきました。
そして3分くらい経った頃に、ふと何か音が聞こえた気がして、私は顔を上げました。
少しだけ耳をすませると、それは誰かが走ってくるかのような、逃げる様な不規則な足音の様な音が聞こえてきました。
「ヒッ」
誰かが来る。そう分かったら反射的に声が出て四つん這いの体勢から尻もちをついた状態に身体が自然と動いていました。
目を左右に見渡しても、今のホームには私以外の人がいる気配はなく、これからやって来る人と二人きりになる状態になるそうです。
目を左右に見渡しても、今のホームには私以外の人がいる気配はなく、これからやって来る人と二人きりになる状態になるそうです。
「た、助けて……」
逃げる事も隠れる事も、ましてや自衛するなんで考えられず、両腕で抱えるように身体を覆い、目で見るだけしか出来ません。
こっちに来ている人の姿は暗闇で見えないですけと、ホームの明かりが目印になっているのか、ドンドンこちらに近づいているのが私でもわかります。
やがて、線路沿いの反対側から姿をあらわしたその相手は、あちこちに髪が乱れてるけど長い黒髪をした、見慣れた学生服を着ている女の人で―――。
こっちに来ている人の姿は暗闇で見えないですけと、ホームの明かりが目印になっているのか、ドンドンこちらに近づいているのが私でもわかります。
やがて、線路沿いの反対側から姿をあらわしたその相手は、あちこちに髪が乱れてるけど長い黒髪をした、見慣れた学生服を着ている女の人で―――。
「もしかして、麗奈、なの…?」
「え……、嘘。久美、子……?」
▲ ▲ ▲ ▼ ▼ ▼
黄前久美子と高坂麗奈。
本来なら、同じ学校・同じ吹奏楽部で研鑽に励み、青春を謳歌し、血生臭い闘争や非日常とは無縁な日々を送っていた乙女二人。
この殺し合いにおいてそれぞれ形は違えど、血を流し、心を傷付き、殺人という罪を犯し、最早逃げるしか無かったか弱い少女達は。
奇しくも両者が共に逃げた先で再開を果たし―――。
そして、3度目の放送が、始まった。
【D-7 スパリゾート高千穂の隣接したホーム/夕方(放送直前)/一日目】
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、全身に火傷(冷却治療済み)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、右耳裂傷(小)、自己嫌悪、半狂乱、身体のあちこちが血と汚れまみれ
[役職]:ビルダー
[服装]:学生服
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体
[思考]
基本方針: 殺し合いなんてしたくない。
0:麗奈なの……?
0:逃げたい。
1:(岸谷新羅さんに、セルティさんを届ける)
2:(ロクロウさんとあの子(シドー)を許すことはできない)
3:(あすか先輩...希美先輩...セルティさん…)
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※夢の内容はほとんど覚えていませんが、漠然と麗奈達がいなくなる恐怖心に駆られています
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※思考欄の()内の項目は今はロクに考えられていません。落ち着いたら改めて考えられるかもしれません。
[状態]:全身にダメージ(絶大)、全身に火傷(冷却治療済み)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、右耳裂傷(小)、自己嫌悪、半狂乱、身体のあちこちが血と汚れまみれ
[役職]:ビルダー
[服装]:学生服
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体
[思考]
基本方針: 殺し合いなんてしたくない。
0:麗奈なの……?
0:逃げたい。
1:(岸谷新羅さんに、セルティさんを届ける)
2:(ロクロウさんとあの子(シドー)を許すことはできない)
3:(あすか先輩...希美先輩...セルティさん…)
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※夢の内容はほとんど覚えていませんが、漠然と麗奈達がいなくなる恐怖心に駆られています
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※思考欄の()内の項目は今はロクに考えられていません。落ち着いたら改めて考えられるかもしれません。
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:精神的疲労(絶大)、鬼化、食人衝動(中)、恐怖による無惨への服従(極大) 、ウィキッドへの恐怖 及び苛立ち、左腕の肘から先が消失
[服装]:制服
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いからの脱出???
0:久美、子……?
0:休めそうな場所に逃げる
1:今ここにいる私は偽物……?
2:月彦さんが怖い……
3:部の皆との合流???
4:水口さんは怖いけど、ムカつく
5:ヴァイオレットさんとみぞれ先輩にもう一度会って謝りたい
6:誰か……助けて……
[備考]
※参戦時期は全国出場決定後です。
※『コスモダンサー』による精神干渉とあすか達の死によるトラウマの影響で、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した無惨からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、無惨と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※無惨の血により、鬼化しました。身体能力等は向上しております。。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※無惨と離れた為デジヘッド化の状態は解除されています。しかし、再度強烈な心理的負荷がかかれば再びデジヘッド化する可能性があります(此方は後続の書き手に一任します)
[状態]:精神的疲労(絶大)、鬼化、食人衝動(中)、恐怖による無惨への服従(極大) 、ウィキッドへの恐怖 及び苛立ち、左腕の肘から先が消失
[服装]:制服
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いからの脱出???
0:久美、子……?
0:休めそうな場所に逃げる
1:今ここにいる私は偽物……?
2:月彦さんが怖い……
3:部の皆との合流???
4:水口さんは怖いけど、ムカつく
5:ヴァイオレットさんとみぞれ先輩にもう一度会って謝りたい
6:誰か……助けて……
[備考]
※参戦時期は全国出場決定後です。
※『コスモダンサー』による精神干渉とあすか達の死によるトラウマの影響で、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した無惨からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、無惨と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※無惨の血により、鬼化しました。身体能力等は向上しております。。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※無惨と離れた為デジヘッド化の状態は解除されています。しかし、再度強烈な心理的負荷がかかれば再びデジヘッド化する可能性があります(此方は後続の書き手に一任します)
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水面下で絡まる思惑 | 投下順 | 明日を信じて |
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狂騒曲の終末に | 高坂麗奈 | よるのないくに ~新月の花嫁~ |
英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー | 黄前久美子 | よるのないくに ~新月の花嫁~ |