バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

護るべきもの

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kyogokurowa

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会場南東に位置するデパート。
一般的には営業時間外である真夜中であるが、館内は人工照明により眩い光に満ちていた。

その5階フロアで怒りに震える武人が一人。その名はムネチカ。
白と紺と淡い蒼を基調とした装束を身に纏い、銀色の髪を靡かせるその姿は麗しいものではあるが、其の実ヤマトを守護する八柱将の一人であり、帝より選ばれた仮面の者(アクルトゥルカ)の一人でもある。
帝より賜わったその力の象徴(アクルカ)により、顔の下半分は覆われているが、その表情は非常に険しい。愛らしい白の獣耳も小刻みに揺れている。


「外道めが……!」

彼女の怒りの矛先は、この殺人ゲームの主催者テミスへと向けられている。
何の罪もない若い男女の命を理不尽に奪い取った、彼の者の愉悦に満ちた表情を脳裏に浮かべ、歯噛みする。

ムネチカは武人だ。
過去の戦場においても幾多の将兵を葬ってきた女傑である。
しかし、それはあくまでも外敵からヤマトを守護するための戦いであったり、アンジュを騙り帝を名乗る逆賊たちを討ち滅ぼすための戦いであったりと、ムネチカは仕える主君のため、ただひたすらに己が拳を振るってきた。
当然、ムネチカに戦う理由があるように、敵側にも敵側なりの信念があり、命を賭す覚悟でムネチカに挑んでいったことも彼女は理解している。
それらは全て理のある戦いであった。

だが、この状況はムネチカが体験してきた戦場とは訳が違う。戦う意思のないものを無理やりに連れてきて、死にたくなければ殺し合えという理不尽極まりない要求を行う運営の卑劣さは断じて許すことは出来ない。
ムネチカは誉れある武人として、力ある者による力なき者への一方的な殺戮を是としない。
故に、最初の会場で運営により惨殺された少年と少女の死に胸を痛め、彼らの魂の為にも主催者打倒を誓ったのである。


「姫殿下ッ……! それにオシュトル殿、クオン殿、ミカヅチ殿まで……!」


支給された名簿を確認したところ、自分だけではなく主君であるアンジュを初め仲間達も参加させられていることに気付き憤る。
更に名簿にはムネチカを困惑させる名前があった。

マロロ
ヴライ

既に死亡しているはずの二人の男の名前があったのだ。
あのテミスという女は最初の会場で「死者の蘇生」について言及していたが、まさか本当に二人を蘇生させたとでもいうのだろうか。
マロロに関しては、敵対はしていたもののライコウらによって操られていたと聞いている。根は心の優しい采配師なので、この殺し合いに乗ることはないだろう。

だが問題はもう一人の男、剛腕のヴライーーー。
弱肉強食こそを己が信条とするこの漢は、敵対するもの阻むものすべてを徹底的に叩き潰してきた。
それこそ投降を申し出る敵兵もーーー
無抵抗の民でさえもーーー
徹底的に蹂躙した。

共に帝より認められた仮面の者(アクルトゥルカ)ではあるが、敵味方問わず犠牲は最小のものに留めたいと願うムネチカとは対なる思想の漢であった。
彼の者が蘇り、この場に招かれているということであれば、殺し合いに乗ることは容易に想像できる。
もしもヴライとアンジュが鉢合わせでもしたら、と考えると、一刻も早くこの建物から出てアンジュを保護せねばならない。

出口は何処やと、フロアを彷徨うこと数分後。
彼女の青く澄んだ瞳は、フロアの傍らに羅列されていた‘それら‘を発見した。





ここはデパートのおもちゃ売り場。
ブロンドのショートヘアに、セーラー襟の白いワンピース風なローブに身を包まれた少年―――ライフィセットはこの場所で目を醒ました。
少年の周りには見たこともないような乗り物の模型や人形など多種多様な玩具が揃い踏み、普段の彼であれば飛びつく様な品々ではあるが、生憎と今はそれに興じるような気分にはなれなかった


ライフィセットは座り込み、俯き、思い返す。

目を覆いたくなるような凄惨な光景だった。
首を吹き飛ばされた少女の亡骸に。
ただ呆然と少女だったものを抱き寄せる金髪の少年。
そんな悲劇を愉しそうに見下ろす悪女の姿。

もしも、あの少女ではなく自分が見せしめに選ばれてしまったら、と思うとーーー。
首筋に当たる金属の感触が、より一層冷たく感じる。
自分の命運が、あのテミスという女の気分次第でいつでも摘まれてしまうという恐怖に身体が震えてしまう。

今は自分の「器」であるエレノアとの繋がりを感じることも出来ない。
聖隷との繋がりを切られてしまった彼女も心配ではあるが、今はこの身体の震えをどうにかしたい。

「ベルベット……」

ライフィセットは、ポツリとその名を呟いた。
“モノ”だった自分に名前をくれた、ベルベット。
羅針盤を持たせてくれた、ベルベット。
「生きている」ということを教えてくれた、ベルベット。

これが「生きたい」ということなのだろうか。

すぐに怒るけど
優しくて
怖くて
あったかくてーー

まだまだ、この先もそんな彼女の傍にいて旅を続けたいと思っている。
だからこんな悪趣味なゲームで死ぬわけにはいかない。
ベルベットも、ライフィセット自身も。

ライフィセットがそう自分に言い聞かせ、発破をかけようとしたその瞬間―――。

「っ!!?」


コツリという、乾いた足音が耳へと入り、その思考は妨げられた。
その足音はライフィセットがいるおもちゃ売り場より、遥か右前方より連続して聴こえてくる。そしてその音は、次第に大きなものへと変化していく。


「(誰か来る……!)」


と慌てふためくライフィセットは周囲を見渡す。
そこで目に留まったのは、レジ隣の棚に羅列されていた大量の蛙のぬいぐるみ群。
大きいものは成人男性が丸々入れるほどの着ぐるみのようなものから、掌に収まるような小さいサイズのものまで、大小さまざまなサイズの愛らしい蛙たちが棚一杯に埋め尽くされていた。
徐々に近づく第三者の影に脅威を感じたライフィセットは、ぬいぐるみの大群へと潜り込み様子を窺った。
ライフィセットの小さな身体はものの見事にぬいぐるみたちの中へと埋もれているが、隙間からぴょこんとアホ毛が飛び出ていることに当人は気付いていない。

「……!」


そんなライフィセットの視界に入ってきたのは、足音の主とおぼしき、おもちゃ売り場を横切ろうとする人影。
それは黒を基調とするベルベットと対を為すような、白銀の女性であった。
綺麗な人だなぁと思いつつ、声を掛けるべきか、掛けざるべきかライフィセットが躊躇っていると、その女は突如としてライフィセットが潜むぬいぐるみ群へと振り向いた。

「(ッ!? 気付かれたッ!?)」

蛇に睨まれた蛙のように硬直するライフィセット。
そんな彼の元に女性はゆっくりと近づき、やがてぬいぐるみ群の前へと辿り着く。

ライフィセットは恐る恐る様子を窺うが、どうやら女性はライフィセットの存在には気付いていないようだ。
この女性は所謂獣人の類なのだろうか。遠目では気付かなかったが、凛とした顔の左右には白熊のような毛に覆われた耳がパタパタと動いている。
女性は頬を紅潮させ、ただひたすらにライフィセットの身体を隠している等身大サイズのぬいぐるみを見つめる。


やがて。


ライフィセットにとっては気が遠くなるほどの長い沈黙を経てから


女性は口を開いた。


「……か。」
「(か?)」
「可愛い……」
「(ええっ……!?)」

拍子抜けするライフィセットのことなど知る由もなく、獣耳の女はうっとりとした表情でぬいぐるみへと手を伸ばす。
その瞬間にびくりとライフィセットは反応してしまう。
釣られる形で、アホ毛も揺れ動く。

「……? 何だ…これは……?」

女性はようやっと、ぬいぐるみの隙間から不自然に生えているブロンド色のそれに気付いたようだ。
頭の上で疑問符が浮かべつつも、彼女はライフィセットのそれを掴み、引っ張り上げてみた。


「う、うわあああああああああッーー!!」
「なッ!?」

髪の一部を引っ張られる痛みと共に、悲鳴を上げながら棚から飛び出るライフィセット。
まさか子供が身を隠していたなどとは、夢にも思わなかったのか仰天する獣耳の女。

両者の視線が空中で交錯してーーー。

小さな衝突音がフロア内に木霊した。






「小生としたことが、面目ない……。 改めて謝罪させてくれ、ライフィセット殿。 本当に申し訳なかった……。」
「ううん……気にしないで、ムネチカ。 すぐに声を掛けなかった僕も悪かったし」

軽い自己紹介の後に、深々と頭を下げ改めて先程の非礼を陳謝するムネチカを、ライフィセットは快く受け入れる。
その後、崩れたぬいぐるみの山を背景に、二人は情報交換を行う。
互いの身の上と、仲間達について詳細を語ってはいるのだが。

「ライフィセット殿、少し宜しいか。 貴公の話に出てくる『聖寮』やら『聖隷』…それに『業魔』だったか? 小生はそういった類の存在などは聞いたこともないのだが……」
「うーん、僕達の世界では常識なんだけどなぁ。 僕の方も世界中を旅してきたけど、ムネチカが話していた『ヤマト』や『トゥスクル』という國は聞いたことないよ……」
「それは異なことを……。 島国のトゥスクルはともかく、小生が仕えるヤマトは巨大國家。ライフィセット殿が世界を旅してきたというのであれば、風聞でもその名は聞いたことがあるはずだ」


互いの常識が通用せず、日常的に使われる単語ですら説明が必要になっている始末である。
こうも話が噛み合わぬとは、とムネチカは首を傾げる。
勿論ライフィセットが嘘を騙る様な人間とは思えないので、彼の語る内容は真実であろうと思考するが、それでも腑に落ちない点が多い。

ライフィセットもまた同じような気持ちを抱いていた。
この違和感の正体は何なのか。
ライフィセットはう~ん、と難しそうな表情を浮かべ熟考し、やがて一つの仮説へと辿り着く。

「もしかすると、僕とムネチカは違う世界の人間なんじゃないかな? だからお互いの常識がこうも通用しないのかも……」
「異なる世界……とな?」

ライフィセットは旅の道中で、自分は異なる世界からやってきたとうたう青年達と出会ったことがある。
最終的に彼らは元の世界へと帰還をしたが、彼らとの出会いと別れが、ライフィセットに異世界という存在を認識させていた。

「成程……。 確かに、その理屈で言うならば、我々の認識のズレも合点がいく。 ライフィセット殿はまだ幼いように見えるが、慧眼であるな」
「あ、ありがとう……。」

ムネチカに褒められ、えへへへと、恥ずかしそうに顔を朱に染めるライフィセット。
そんな、ライフィセットの愛らしい反応にムネチカの口許もまた綻んだが、仮面に隠されているため、ライフィセットに悟られることはなかった。

「コホン……。それで、ライフィセット殿はこれからどうするつもりだ?」
「僕はこの地図に載っている『バンエルティア号』に向かうよ。 この船で僕たちは旅をしてきたんだ。 だからベルベット達も此処を目指すと思う」
「そうか、ならば小生も同行しよう」
「ええっ!? いいの!? ムネチカも探している人がいるはずじゃ……。」
「ふむ。 勿論道中で姫殿下らの情報が入れば、そちらを優先とさせていただくが、今のところは行く当てがないからな。 それに貴公のような幼子を、戦場にただ一人野放しにするのは武士として看過することは出来ぬ」
「そう……分かったよ! これから宜しくね、ムネチカ!」
「ああ、この鎮守のムネチカ。道中、命を賭してライフィセットの盾となることを誓おう」


そして出発を前に、二人は互いの支給品を確認する。

ムネチカは仮面(アクルカ)こそ支給はされているが、自らの得物である巨大な籠手は手元になかった。つまり、いざ戦闘となれば素手での戦いを余儀なくされるが、ライフィセットに支給されていた『タイタンナックル』なる腕輪は、装着主の振るう拳の威力を著しく向上させる代物だという。
これはムネチカが持っていた方が良いと思う、とライフィセットからこれを譲り受け、ムネチカは言われるがまま右の腕に装着してみた。
当初は半信半疑であったムネチカではあったが、試しに正拳突きの要領で拳を軽く突き出してみるとゴウッと風が轟き、拳に重みが増したことを実感した。

またムネチカの支給品には『ミスリルリーフ』なる紙葉があった。
聞けばライフィセットはこのような紙葉を用いて、聖隷術なる力を行使できるとのこと。
それならば、ライフィセット殿が持っていた方が良い、と腕輪のお返しにとムネチカはこちらを譲った。
ライフィセットとしては、使い慣れた武器が手に入ったのは何よりの僥倖であった。


「それでは参るか、ライフィセット殿!」
「うん、行こう! ムネチカ!」

当面の目標も定まり、準備も整った。
ムネチカとライフィセットは、決意改めおもちゃ売り場を後にする。

目指すは仲間達との合流。
武士と聖隷―――出自は異なれど、仲間達への想いは変わらない。
仲間達との未来(あす)を守るため、二人は歩を進める。

だが二人は知らない。
この会場に招かれた『ベルベット・クラウ』は、ライフィセットの知る『ベルベット・クラウ』に在らず。
禍々しい殺意をライフィセットに放つ、過去からの刺客であるということをーーーー。




【G-8/デパート/深夜/一日目】
【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの、タイタンナックル@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品1つ(本人確認済み)、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)
[思考]
基本:仲間達とともに主催者を打倒する
1:ライフィセットと共に行動し、護る
2:仲間達を探す。最優先はアンジュ
3:ヴライを警戒
[備考]
※ 参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります


【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服装
[装備]: ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ(本人確認済み)
[思考]
基本:ベルベットを護り、皆と共に殺し合いから脱出する
1:ムネチカと共に行動する
2:仲間達と合流するため、バンエルティア号へ向かう
3:エレノアが心配。無事だといいんだけど。
[備考]
※ 参戦時期は新聖殿に突入する直前となります

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