バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

覗【ほんしょう】

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kyogokurowa

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人は誰でも覗きたがる。
他者が隠し、人間社会が禁じ、法律が柵を立てようと、それでも人は覗くのを抑えられない。
表面だけを掬い上げて、きみのことを愛しているだとか大好きですとか、尊敬しているとか、いくら綺麗ごとを並べたってそれがどこまで本当なのかは言った本人でもわからない。
だから人は家庭や会社、部活動のように触れあう機会を増やすことで相手の中身を覗こうとする。
人間関係だけじゃない。
例えば一つの廃工場があるとしよう。そこには立ち入り禁止の看板が立てられており工事ももう手を引かれたというのに、中からは時折明確な物音が聞こえてくる噂があるそうだ。
きみがその正体を知りたい衝動に駆られたらどうする?わざわざ町の図書館にでもいって資料を集めるかい?いや、それよりも手っ取り早く中を覗くんじゃないか?

俺もそうさ。
趣味として人間を観察し、情報屋として普通では手に入らないようなモノを手に入れてきたが、もちろんソイツは無料じゃない。
時には身体を張って、時には他人に頭を下げて、時には持ち金を投資して、時には死の危険にも踏み込んで。
それでも俺は人間観察という名目で『人』を覗くのを止めようとはしなかった。

なんでそこまでするかって?単純な話さ。そうしてでも知りたいものがあるからだよ。


折原臨也は目を覚ますなり名簿に目を通し、口角を吊り上げた。

平和島静雄。真っ先に飛び込んできた名前だ。
臨也は人間を愛している。例え暴力を振るわれようとも、罵声を浴びせられようとも、行使してきたのが『人間』であれば彼は笑って愛することができるだろう。
だが平和島静雄は違う。あれは人の皮を被った化け物だ。
なんの努力も大した経験も重ねてない癖に、他人の努力も策略も執念も愛も、人間のなにもかもを圧倒的な暴力で台無しにしてしまう。これを化け物と言わずしてなんというか。
その平和島静雄が殺し合いに呼ばれている。文字通り、臨也がずっと殺したいと思っていたあいつが。
奴に首輪を嵌めてここに連れてきたということは、あの主催の女達はそれほど奴を殺せる自信があるということだ。
ちょうどいい。シズちゃんにはここで死んでもらおう。
あいつには悲劇も喜劇も必要ない。自分の関わらないところで勝手に野垂れ死ぬならそれでもいい。主催の女達に土下座でもして頼めば静雄の首輪を今すぐに爆破してもらえるなら喜んで地に額を着ける。
恐らく静雄もそう思っているだろうと臨也は確信している。それほどまでに、臨也と静雄の間には殺意しかない。

排除すべき化け物はひとまずおいておいて、他に知る名はセルティ・ストゥルルソン。そして、もう一つ。
その名を見た臨也の口角は瞬く間に下がり、目を細めげんなりと気だるげな表情に変わった。

「なんでお前まで巻き込まれているんだよ」

岸谷新羅。中学からの付き合いで、一応は臨也の数少ない友達である。
新羅がこの殺し合いでどう動くかはあまり興味が湧かない。というより、考えるまでもなく予想はついてしまう。
新羅の行動には常にセルティの存在がある。新羅がこの殺し合いでどういう状況に陥っていようとも、セルティが生きている限り、彼女が悲しむのを見たくないという理由で殺し合いの脱出を目指すだろう。
セルティが先に死ねば、セルティを生き返らせる為に殺し合いに乗るだろう。それこそ、奴の中では友人扱いである自分や静雄を殺してでもだ。
そんなわかりきったことをする奴が巻き込まれていたところで面白くもなんともない。どうせなら竜ヶ峰を連れてきてくれた方が見どころがあったろうに。
まあ、あんなのでも一応は友人だ。積極的に探すようなことはしないが、見つけたら挨拶くらいはしておいてやろう。

名簿の知己たちへの感傷はさておき、名簿をデイバックにしまい、臨也は鼻歌交じりに歩き始める。
果たして集められた参加者たちはどのような『人間』なのか。臨也の眼には溢れんほどの期待が満ち溢れていた。

建物内の雰囲気や機材から、ここがテレビ局であると推測した臨也は、ひとまず監視カメラを支配しようと考え警備室へと足を運んでいた。
建物すべてを把握できる訳ではないが、何の準備もないままに入り口で静雄とばったり遭遇、なんて最悪の事態を避ける確率を少しでも上げる為である。

「どれどれ...中々の数を揃えているじゃないか」

結果は上々だった。監視カメラはあっても8個くらいだろうなと思っていたところで出迎えてくれたのは16分割された画面だ。
入り口はもちろん、主だった部屋や個室にもいくらか着けられている。
これならばなにか異常があってもすぐに対策を考えることができるだろう。

中央部に映し出される少女の姿に、臨也は早速かと顔を綻ばせた。

臨也は少女にはなにもしない。ただ、謂れなき殺し合いに巻き込まれた彼女はどういう行動をとるか。
観察という名目で少女の行動を覗いているだけだ。
少女がデイバックから一振りの刀を取り出しすと、臨也は初めて「へぇ」と小さく言葉を漏らした。

「妖刀『罪歌』...まさかお前までここにいるとはね」

妖刀『罪歌』。それは人を斬ることでしか己の愛を確かめられない化け物だ。
罪歌は全ての人間を愛する為により強い者を斬り支配下に置こうとする。
その罪歌の在り方は、人間を誰よりも愛している臨也にとっては不愉快極まりなかった。

(しかしまあ不運だね。巻き込まれて早々、あんなものを渡されるだなんて)

臨也が彼女を不運と評したのは、モニター越しの彼女に向けたものではない。彼女がいきなり罪歌を引き当てたことで、彼女という人間を観察できなくなる自分に向けてだ。
彼女はこれから罪歌に従い強者を中心に無差別に人を襲う操り人形になってしまうだろう。罪歌を力づくで奪って正気に戻そうと思っても、臨也にはそこまでの力が無い。
罪歌の呪いを無理やりねじ伏せる方法も無くはないが、それこそ数日かけてできるかどうか、というだけの確率に過ぎない。殺し合いの三日の指定期間内に終えられるとは到底思えない。
これでは殺し合いにおける彼女という人間は失われたのも同然だ。ただ、自分にはどうすることもできない。
願わくば、被害が広まらないうちにシズちゃん辺りとぶつかって共倒れしてほしいものだ。
臨也は、万が一にも罪歌と遭遇しないよう、彼女の動向を把握する為にモニターへと意識を戻す。

「...うん?」

ふと、臨也はモニターの中の彼女に違和感を抱く。
彼女はデイバックから取り出した生活用品やヌイグルミなどが詰まった箱を空け、取り出したストローを舐め始めた。
まるで、性欲溢れる男子学生が同級生女子の縦笛を舐めるかのように、艶めかしくじっくりと。
それだけではない。
少女は取り出した写真に口づけを交わし、体操服に顔を埋め、ツインテールの少女を模した人形の腕を股座に挟み擦り始めたではないか。

(罪歌は人を斬ることでしか愛を示せない...だがあの行為はまさに...)

臨也は口角を吊り上げ、食い入るようにモニターを凝視する。

「そうか...そういうことか!ははっ、はははははは!!」

さも愉快だと言わんばかりに臨也は大口を開けて笑う。

「感激した!俺はいまこの目で見させてもらったよ!化け物を人間が打ち倒すその瞬間を!!」

罪歌の支配を逃れた者の例はある。自分の見る世界とその出来事を『額縁の中の出来事』として扱うことで精神の均衡を保つ園原杏里に、時間をかけて罪歌の支配に打ち勝った贄川春奈がそうだ。
だがこの彼女はどうだ。罪歌を手にしものの数分で支配を養分に快楽を貪っているではないか。罪歌の愛し方ではなく、人間の愛し方でだ。
これを人間の勝利と言わずなんと言う。

「これだから人間は素晴らしい...人間はいつだって俺の想像を超えてくれる...!」

臨也は天を仰ぎ、少年のように目を輝かせながら、モニターに映る彼女と同じタイミングで部屋を後にした。





  •  ・ ・ 




臨也がいなくなって数分、警備室には沈黙が訪れていた。
その沈黙を破る者がここに一人。

「プハァ!あぁ、恐かったなぁ」

突如として室内に現れた男が一人。彼の名は目大洋(さがんまさひろ)―――『Stork』の名で活動しているオスティナートの楽士の一人である。

時は、臨也が警備室にたどり着く数分前に遡る。

(μ...いったいどうしちゃったんだよ...)

Storkは目を覚ますなり、先のμによる粛正と少年ドールの死に想いを馳せていた。

(μ...きみはLucidと一緒にあんなに僕を応援してくれた...僕だけじゃない。楽士の皆が少しでも前向きになれたのはきみ達の頑張りがあったからじゃないか)

μは皆の幸せを叶える為に奔走する優しい子だった。時折、天然で心に突き刺さる言動はあったものの、彼女自身が明確な殺意や悪意を以て人を害することはなかった。
少年ドールもそうだ。確かに人を人形に変えようとする危ない一面や少々ヒステリックなきらいはあったが、それでも殺される程のことはしていない筈だ。
そもそも、μは少年ドールをよく気にかけていた者だ。殺す理由がない。
そして首輪を爆発された少女に、最後まで必死に彼女を救おうとしていた青年。なぜμは彼らを殺したのか。普段の彼女からは想像もつかない。

(なにか隠しているとしか思えない。例えば、そう、あのテミスとかいう人になにかをされてたりとか...)

思い返せば、μはあのテミスという女が指示してから少年ドールへと敵意を向けていた。
ならば彼女がμになにかしていると考えるのは当然の帰結だ。

(ねえ、μ。もしもきみがこのまま殺し合いを続けるとしたら...僕のやることはわかるかい?)

Storkのやるべきこと。それは、オスティナートの楽士としてμの望むままに従うこと―――ではない。

(きみがなにかを隠しているなら、僕はどこからだってきみの中身を覗いてあげるよ。だって、僕らは友達だろう?)

Storkの本性は覗きマンだ。
幼少より性的な情報の摂取に厳しい躾のもとに抑圧されてきた欲望は、同級生の悪魔のささやきで一気に開花し、今や女湯や教室などいついかなる場所でもありのままの女子を覗くことで発散されてきた。
警察官を志したのも、覗きの背徳感をより強固なものにする為のものだった。
メビウスに堕ちてからもそれは変わらず、現実での罪から目を背けるかのように、覗きという欲望に身を任せてきた。

もしもここにいる彼がμ達との交流が少ない時の彼であれば、最後の晩餐として命尽きるまで覗きに全てを捧げたかもしれない。
だが、いまここにいるのはただの目大洋になろうと決めた目大洋だ。
今までの行為を見つめなおし、現実の罪と警察官という職業、そしてこれからの人生に改めて向き合うことが出来るようになったのは、μとLucidが友達として見守ってくれたおかげだ。

だから、Storkは決意する。これを最後の覗きにしよう。
己の欲望の為ではなく、彼女への恩返しとして。最後の標的は、大切な友達の心にしようと。

(待っててμ。僕は僕のやり方で君の心を覗きにいくから)

これ以上、μが罪を重ねる前に彼女を止める。
己の方針を定めた彼は名簿を確認し、仮面の奥の目を見開いた。

梔子とウィキッド。
同じオスティナートの楽士の一員だ。
ウィキッドについてはあまり詳しくは知らないがあまりいい噂は聞かない。
梔子とは何度が遊んだことがあり、変人奇人揃いの楽士の中でもかなりまともな部類だ。
ただ、彼女は火を見ると呼吸困難になる病気がある。今も苦しんでいるなら早く合流して保護してあげなければ。

天本彩声と琵琶坂永至。
楽士と敵対する帰宅部の面々だが、彼らには一度は見逃して貰った借りがある。
それを抜きにしても、やはり知人が死んでしまうのは寝覚めが悪い。
恐らく信用を得るのは難しいだろうが、どうにか合流できればいいが。

名簿を仕舞い、モニターを確認しようとしたその時だった。部屋の外の足音をStorkの耳は捉えた。
彼は、反射的に、μより授けられた擬態能力で置物の一つに化け身を潜めた。
その間、およそ数秒。その間だけで適切な擬態を完遂したのは今までの覗きの経験の為せる技だろう。

こうして彼は臨也との接触を回避し、モニターを見て突如笑い出し、なにごとかをまくしたてる彼に戦々恐々しつつも様子を覗くことに成功した。

(彼、絶対に危ない人だよなぁ...話さないといけないのはわかってるけど...)

Storkは覗きを趣味とするものの、根は小心者である。この殺し合いという状況下において、まだ判断材料が少ない中であからさまな危険人物に接触するほどの勇気はまだ彼にはなかった。

(それにしても、彼、なにをあんなにニヤニヤして眺めてたんだろ)

モニターに映る映像を、臨也が覗いていた時間まで巻き戻すStork。
そして、彼は見つけた。見つけてしまった。幾つも流れる映像の中から、その中でも禁断の映像を。
年頃の女学生が、人形や体操服に身を埋め、己の身体を慰めるその様を。

そのあられもない姿を見たStorkは

「ぶはっ!」

興奮が頂点に達し、鼻血と共に地に付した。


「......」

志乃に会えなかった為、ひとまず警備室に戻った臨也は無言で目の前に横たわる男を見下ろしていた。
男の顔は、血に沈み、仮面隠されながらも恍惚に満ちているのが見て取れた。

そんな彼の姿に臨也は笑いながら一言。

「これだから人間は面白い」




以上が、俺たち覗きたがりの出会いの話さ。
え?まだ会話もしてないじゃないかって?
そりゃそうさ。覗きたがりって言うのはね、覗きにはそれ相応のリスクが付きまとっているのを知っている。
そんな用心深い二人が何の前準備もなしに会話を弾ませると思うかい?思わないだろう。

だからひとまず俺たち二人の話にはここでしおりを挟ませてもらおうか。
きみが俺たちのこの先を覗きたいと思うなら、それ相応の覚悟しておくといい。

覗くという行為は、時に知りたくなかったことを知ってしまう危険を孕んでいるものだからね。




【H-5/テレビ局・警備室/深夜/一日目】

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3
[思考]
基本:人間を観察する。
0:Storkを観察する。
1:平和島静雄はこの機に殺す。
2:新羅はまあ、気が向いたら探してやろう。セルティは別に...
3:佐々木志乃に興味。
[備考]
※少なくともアニメ一期以降の参戦。
※志乃のあかりちゃん行為を覗きました。

【Stork@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:鼻血(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。μの心を覗く。
0:こちらも抜かねば...無作法というもの...ガクリ
1:梔子を探して保護する。あとちょっと怖いけどウィキッドや帰宅部の二人も探してあげよう。
2:覗きはしたいけど...我慢できるかなぁ

[備考]
※少なくともキャラエピソードでStorkの心の奥底に踏み込んだ後。
※志乃のあかりちゃん行為を覗きました。

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Light&Shade 投下順 ワイルド・スピード

前話 キャラクター 次話
GAME START 折原臨也 愛されるよりも、愛したい真剣(マジ)で
GAME START Stork 愛されるよりも、愛したい真剣(マジ)で
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