バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

愛されるよりも、愛したい真剣(マジ)で

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kyogokurowa

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テレビ局のある小島から橋を渡り、西に歩くこと10分程で目に付く民家。
白を基調とした何の変哲もない、如何にも一般家庭向けに建設されたであろう家屋の浴室からは、シャワーの音が溢れている。
外向けには明かりが灯り、夜の暗闇に埋もれる港町の中において、圧倒的な存在感を放っていた。

「あかりちゃん……」

シャワーから発する温水を浴びつつ、黒の長髪の少女、佐々木志乃は自身の唇に手を当て、愛しき彼女の名前を呼んだ。

艶かしく。
愛おしく。
切なげに。
そして、ありったけの愛情を込めて。


日本には古来より神事などの重要な儀式の前には、行水や清拭によって身に付いた穢れを落とす風習がある。
志乃もそれに倣って、こうして身を清めている。

これは言うなれば戦支度――。
志乃はこれより、武偵として粉骨砕身努めていく覚悟がある。
その根幹には、彼女が愛してやまない少女・間宮あかりに振り向いてもらい、愛されたいという欲動があった。


普段の彼女の思考であれば、このような殺し合いーー忌み嫌うものと見做すが、呪われた妖刀・罪歌を支配することで、あかりへの情欲が高揚した現状――この殺し合いという異常事態は、あかりの中であの神崎・H・アリアを差し置いて、自分が絶対的な存在に成り得ることができる絶好の機会であると考えるようになっていた。


「ふぅ……」

浴室から出た志乃の顔は紅潮している。
これは決して湯上りのそれによるものではなく、愛する彼女(あかり)のことを想い焦がれた上での表情であった。

志乃は一糸纏わぬ姿のまま脱衣所に掛けられている白のバスタオルで身体に付着した水分を拭き取り、自身で丁寧に折り畳んでいた制服を手に掛ける。
やがて、ショーツ、ブラジャー、スカート、シャツ、黒タイツ、ネクタイーーと普段着こなしている東京武偵高校の制服に袖を通すと、先程の愛欲で呆けていた顔は嘘のように引き締まっていた。

志乃はそのまま脱衣所を出て、リビングに置いてあるテーブルに腰掛け、支給品袋から食パンを取り出しそれを頬張る。

戦前の腹ごしらえとしての、早めの朝食であった。
食パンは特に味もしない質素なものではあるが、志乃はしっかりとそれを噛みしめる。
全てはあかりと一つになるためにーー。
志乃はこれからの戦いに備えて、体内へ活力を取りこんでいた。


ザザ、ザザザッー―――

「―――ッ?」

自分しかいないはずのリビングルーム。
予期せぬ砂嵐のような音が響いて、志乃はビクリと身を震わせた。
辺りを注視すると、リビングの端に置いてあるテレビに明かりが灯り、何かが映し出されていることに気付く。
志乃がこの部屋に初めて来たとき、電源は付いたままではあったが、特に画面には何も映し出されてはいなかったはずだが。
一体何が?と、志乃は訝しみ、テレビに映し出される映像を凝視した。







カタカタカタカタカタカタ


「―――!!」


キーボードの打刻音が鳴り止まないテレビ局内の一室。
目大洋ことStorkの意識は耳障りなタイプ音によって、覚醒した。
Storkが寝かされていたのは、先ほどの監視室の固い床の上――ではなく、柔らかいソファの上であった。


「やあ、目が覚めたようだね」


不意に声を掛けられ其方に振り向くと、大層なコンピュータを背景にして、黒コートを羽織った黒短髪の男が、回転椅子の背もたれに寄り掛かり、ニコニコとこちらに視線を送っていた。


(さっきの怖い彼だぁあああーーー!!!)
「おっと、そんなに身構えないでよ。俺はこの通り殺し合いには乗っていないし、君に対しても敵意はない……というか、むしろ逆かな? 俺は君に大いに興味があると言っても良い」
「……。」


男はわざとらしく両手を挙げて、如何にも自分は危険人物ではありませんよーとアピールする。

とてつもなく胡散臭い……。
それが、Storkが男に対して抱いた印象であった。
そんなStorkの心中を察したのか男は、はぁ…とわざとらしく溜息を漏らした。


「しかしその反応は頂けないなぁ…冷たい床に放置するのも可哀想だから、こっちは気絶していた君を、こうしてふかふかのソファの上へと運んで介抱してあげたのにさぁ……」
「君が…僕をわざわざここまで運んでくれたのかい……?」
「ああそうだよ、少しは感謝してくれるかい。俺は折原臨也。しがない情報屋さ。
さっきも言ったけど、この殺し合いには乗っていないから、安心して良いよ。宜しく」
「僕は目大洋…。名簿上にはStorkという名前で記載されている」


少し危険な香りのする男ではあるが、今のところ友好的に接してきている。
何より鼻血を出して気絶していた自分に世話を焼いてくれたというのだから、背景にどのような意図があったにせよ、その好意を無碍にすることもできない。
Storkはそう思い、折原臨也との会話に応じたのであった。


「Stork…、なるほど、コウノトリか。そのマスクもコウノトリになぞったものなのかな?
まあいいや、早速君に聞きたいことがあるんだけどーー」

臨也と名乗る男は、Storkを上から下まで吟味するかのように見通し、質問を投げかける。

かくして、二人の「覗きたがり屋」による情報交換が始まった。






「バーチャドールμが作り出した世界『メビウス』…。それに『オスティナートの楽士』に『帰宅部』か……。実に興味深いねぇ」

Storkが語った彼の身の上話は、臨也の好奇心を刺激するには十分な内容であった。
まず主催者の一人、μの情報を得ることが出来たのはこの上ない収穫であった。

聞けば、μは人々の幸せを願い、現実の生活に苦しむ人間にとっての理想郷『メビウス』を創生し、彼らを招いたという。

臨也は、バーチャドルなるμ自身には興味は沸かない。
むしろ自分を差し置いて、多くの人間を閉鎖した世界に抱え込んだという彼女は忌むべき存在である。
メビウスに招かれた人々は現実での記憶を忘れ、老若男女問わず永遠の高校生活を送るというが、とんでもない。
『苦しみ』を奪われ、記憶を書き換えられ、偽りの衣食住を与えられ、鳥籠の中に閉じこまれていることも気付かず、永遠に続く平穏な日々を過ごすメビウスの住人は、果たして『人間』と言えるだろうか? いいや、言えない。
『人間』の営みを愛する臨也からすれば、μの起こした善意とやらは『人間』から『人間』たらしめるものを奪い去った愚行に他ならない。
だからこそ、臨也は『人間』を愛するものとして、『人間』を貶めるμに対して、強い嫌悪を抱いたのであった。


だが、その一方で、彼女を取り巻く『人間』たちには強く魅了された。
理想郷(メビウス)を自らの居場所を見出し、その秩序を守らんとする『オスティナートの楽士』――。
目指すべき場所が地獄だと知っていても、それでも現実へ帰還しようとする『帰宅部』――。

偽りの世界の真実を知ったうえで固執する者たちと、反旗を翻し現実(じごく)を求める者たちーー。
二つの勢力が衝突することで生じるであろう群像劇を想像するだけで、胸が高鳴ってくる。
願わくば、彼ら/彼女らが織り出す人間ドラマを間近で観察してみたいものだと思った。


「あの時のμは、明らかに様子がおかしかった…。μにとっても、少年ドールは友達だ、あんな非道いことをするはずがないんだーー。きっと、あのテミスとかいう女の人に何かされたんだ……」

悔しさを声に滲ませ語るStork。
臨也は神妙な面持ちで彼の訴えに相槌を打った。


(なるほど、ね。確かに最初の会場で見たμは、Stork君が話してくれた人物像とは乖離している。)


臨也は知っている。
他人を斬ることでその人間を自らの支配下に置く妖刀のことを。
大方、μもそういった類の異能で操られているのだろうか。

色々考察する余地はありそうだがーー。


(まあ、どうでもいいや)

繰り返しになるが、『人間』を平等に愛する折原臨也は、電子人形なぞに一切の関心を持たないーーむしろ、さっさと壊れてくれとさえ思っている。

だがーー。
そんな電子人形の身を友人として気遣い、臆病な性格ながらも、これを救い出そうと躍起になるStorkの姿には惹きつけるものがあった。

その姿は、紛れもなく臨也の愛する『人間』の姿であった。


(やっぱり人間は面白いね)


折原臨也はこの殺し合いの地で、Storkという興味深い観察対象を見出したのである。






「天本彩声、琵琶坂永至、Stork、梔子、それに、ウィキッドか……うん、やっぱりこの名簿には纏めて並べられているね」
「折原君と、折原君の知り合いも同じような感じで固まっているね」


改めて参加者名簿を眺めてニヤリと笑う臨也。
彼の正面に佇むStorkも名簿を片手にコクリと頷く。

臨也が、主催者から与えられた参加者名簿を最初に見たときに感じた疑問――。
それは、如何なる法則を以って参加者の名前が羅列されているか、であった。
パッと見、あいうえお順でもなければ、アルファベット順でもない。名前を構成する文字から法則性を見出すこともできない。

現に臨也自身の名前もそのように羅列されていたため、この名簿は知り合い同士まとめて並べられていると考えるのは自然な流れではあったが、Storkから得た情報を照らし合わせることで、その考察は確信へと変わった。

「主催者は複数のコミュニティを見出した上で、そこから複数人を選別して、殺し合いに招いている…数としては一つのコミュニティにつき、概ね五人前後かな?
Stork君達が『メビウス』というコミュニティで括られて選別されているのであれば、俺達はさしずめ池袋の都市伝説『首無しライダー』の関係者で纏められている、ってところかな」



天本彩声、琵琶坂永至、Stork、梔子、ウィキッドの五人を結びつけるは『メビウス』。
セルティ・ストゥルルソン、岸谷新羅、平和島静雄、折原臨也の四人を結びつけるは『池袋』そして『首無しライダー』。
それぞれのコミュニティから選出されるのは五名前後で、互いが顔見知りーー。
そのように考えると、名簿に記載された参加者についても、誰と誰が共通の知り合いなのかなどの情報を見出すことが出来る。

例えをあげるとすれば、

カタリナ・クラエス、マリア・キャンベル、ジオルド・スティアート、キース・クラエス、メアリ・ハント

この五人は、どこか異国の文化圏の者たちだろうかーー明らかに日本人の名前ではない。
加えて、「カタリナ・クラエ」の前に位置する名前は「夾竹桃」という明らかな和名。
「メアリ・ハント」の後に来る名前は『メビウス』コミュニティに属する「天本彩声」。
同じコミュニティに属する人間はまとまって並べられているという考察に従えば、この五人は共通の文化圏に属し、お互いが知り合いであると推察するのは容易い。


名簿で他に気になるところはーー
「セルティ・ストゥルルソン」の手前に位置する「武蔵坊弁慶」に「安倍晴明」。
日本史にそこまで詳しくない人間でも、その名を耳にしたことがあろう人物の名が羅列されている。
実際の歴史上の弁慶と清明は生まれた時代は異なっているが、この名簿上に記載されている二人は間違いなく同じコミュニティに所属しているだろう。
歴史上の人物を擁する、このコミュニティに所属する人間たちは一体どのようなバックボーンがあるのだろうかーー興味が尽きない。


「しかし、μ…。いや、この場合はテミスさんかな? 彼女たち、中々愉快な人選をしてくれるよね」
「……? どういう意味だい、折原君?」


名簿を拡げて口角を吊り上げる臨也に、Storkは首を傾げた。


「だってさ、考えてごらんよ。Stork君ら『オスティナートの楽士』にそれに敵対する『帰宅部』……首なしライダーに、その同居人の変態、加えて暴力が大好物な超A級危険生物のシズちゃんーーああ、シズちゃんっていうのはさっき話した平和島静雄っていう間違いなく殺し合いに乗る危ない奴のことね……っとまあ、あからさまに異常な環境に身を置く連中や人外の化け物を集めている。この分だと、善良な一般市民は俺くらいかな」


いやいや、折原君もどう考えても危ない人でしょ……と、Storkは突っ込みを入れたかった。
Storkの脳裏には、先程の監視室で例の女の子の映像を見て、ケタケタ笑っていた臨也の姿が強烈に焼き付いていたのであった。


「例えば…の話だけど、この殺し合いを企画した連中は、単純な色物ショーのようなノリで愉しんでいるだけかもしれないよね。
異なる非日常のコミュニティを複数見出した上で、『ここにいるコイツとあっちにいるコイツが接触したらどうなるか?』だとか『結局一番強いのは誰か?』だとか…ただそういったエンターテインメントとしての人間ドラマが見たいが為に、この殺し合いを開催したとか、ね。今も俺達の会話をポップコーン片手に鑑賞していたりしてーー」
「待ってよ! そんな…そんなことの為に、これだけの人数を拐って…殺したというのかいッ!? あの女の子も、少年ドールもッ!!」


最初の会場で惨殺された少年少女のことを思い出し、Storkは言葉に怒気を含めて詰め寄る。
そんなStorkを、臨也はまぁまぁと宥めて、話を先に進める。


「――まだ結論付けるのは早いけどね。俺も連中がただの娯楽目的だけで、こんな大層な舞台を用意したと本気で思っちゃいない。まあ、この殺し合いを開催した理由については、連中に直接問い質せばいいんじゃないかな」
「えっ…それってどういうーー」
「なあに、単純なことさ――このゲームの主催者を引きずり下ろす…神様の視点で俺達のことを面白おかしく観察しているであろう連中に一泡吹かしてやろうじゃないか!」
「……ッ!?」


愉しそうに笑う臨也に、Storkは冷や汗を浮かべる。

何とも大胆不敵な発言。
臨也は、主催者が今も自分達の会話の内容を傍受している可能性を提示しながらも、こうして堂々と反逆宣言したのだ。

最初の会場でテミスは言っていた。
運営に危害を及ぼすような行動をしたら首輪を爆破すると。
捉え方によっては、臨也の今の発言はそれに抵触しかねないものだがーー。


「……首輪に変化はなし、か。
うんうん…こんなスケールの大きい舞台を用意したんだーーやっぱり、主催者さんは、それ相応の度量を備えてもらわなくちゃね。
それとも、俺のこうした言動も織り込み済みで、取るに足らない、とでも思っているのかな?」
「折原君、君って人はーー」


首元で銀色に光る首輪に手を触れ、子供のように弄る臨也。
Storkには、万一の爆破リスクを省みず、このように平然と主催者を試すような言動を行う折原臨也という人間が、恐ろしく映った。


「まあ、とにかくだ……。協力しようよ、Stork君。
君はμを救い出す。俺は彼女の背後にいる『人間』テミスさんを引きずり下ろして、彼女がなぜこのような殺し合いを開いたのか問い詰める…。
互いの利害は一致していると思わないかい?」

しかしその反面――
Storkの眼には、まるで恐れを知らぬ折原臨也の姿は、頼もしくも映った。
何を考えているのか予測できない部分もあるが、この男なら何とかしてくれるかもしれない、と。


――結局のところ、自分の力だけではμを救うことは難しいと理解していたStorkには、折原臨也からの誘いを断る理由はなかったのであった。






「ぐわはっ!?」


テレビ局のエントランスホールでStorkの情けない悲鳴が響く。
臨也が壁側に配置されていた茶色のソファに軽く蹴りを入れたところ、瞬く間にStorkが出現したのであった。


「これが擬態ってやつか。驚いたね……完全に景色と同化していた」
「折原君のほうこそ、驚かされたよ。僕の擬態をこれだけ早く見破るなんて、Lucid以来だ……」



出発の前に、二人が行ったのはStorkの擬態能力のテストであった。
情報交換の際に、Storkからある程度の擬態が出来ると聞いていた臨也は、戦力分析の為に実際に見てみたいと依頼して、今へと至っている。


「しかし本当に便利な能力だよね、これ。隠密とかスパイには打ってつけの能力だし。
悪用すれば、何でもかんでも覗き放題だよね。
例えばさ、さっきの監視カメラに映っていたような、女の子の秘め事とかーー」
「ッ!? 言っておくけど、さっきのあの女の子の映像については、ふ、不可抗力だからね……! 意図して覗いた訳じゃないよ!」


少女のあられもない姿を思い出し、鼻血を噴出しそうになるがどうにか堪えるStork。
取り乱すStorkを愉快そうに眺め、臨也は言い放つ。


「Stork君、『覗き』っていうのは、対象に悟られず見ることで成立するものだよ…本意、不本意にかかわらずにさ」
「――ッ!!?」


本意、不本意に関わらずーー。
臨也が放ったその言葉に、心の臓を撫でられたような感覚を覚え、Storkは思わず後退った。

思い返す。眼前で家に火を放つ不審者の姿をーー。

思い返す。理不尽に命を奪われた少女の事をーー。

思い返す。消火もできず、犯人を捕まえることもできなかった無力な自分の事をーー。

あの時の後悔が、罪悪感がーーStorkに襲い掛かる。

そんなStorkの心中などお構いなしに、臨也は更なる問いを投げかける。


「もしかして、Stork君はさ。さっきの女の子の『アレ』を覗いたことに、負い目を感じてたりするのかい?
折角『覗き』をするのに持って来いの能力があるのに、まさか『覗き』はいけないことだと
、そう思うのかい?」


だが、それでもーー

Storkは過去からは、もう逃げないと誓った。


「僕は――『覗き』は、やっぱりいけないことだと思う…だから、僕は今後の人生は、自分の本性と戦っていくつもりだし、この騒動を最後に『覗き』はしないと、決めたんだ」
「へぇ…本性と戦うか……随分と感心なことだねぇ。
ちなみに、Strok君はこの殺し合いで、何を『覗く』つもりなんだい?」
「僕は『覗く』よ、μの心を……。そして彼女を助ける」


これは決して先の臨也の問いに対する回答のみにあらず。
自分自身に言い聞かせる意味での決意表明でもあった。

それは、自分に変わるきっかけを与えてくれた”彼女”への恩返しーー。
Storkこと目大洋は、過去から逃げないし、友達を見捨てることもしない。

そんなStorkの覚悟を前に、臨也は一瞬だけ虚を突かれた表情を浮かべ、そしてーー。

「ククッ、アハハハハハハハハハッ! 想像以上だッ! やっぱり君は面白いよ、Stork君!!!」


大いに笑った。

「な、何もそんなに笑うことないじゃないか!」


大笑いする臨也に、Storkは少しムッとして抗議の声をあげる。
自分の悲壮なる決意を嘲笑われたような気がしたからだ。


「ああ、ごめんごめん。不快にさせたなら、謝るよ。立派な心掛けだと思うよ、Stork君。何が君をそのように駆り立てているかは気になるところではあるけど。そこは追々話を聞かせて貰おうじゃないか! まあ精々俺は、それの手助けをさせてもらうとするよ」


平静を取り戻した臨也はすぐに謝罪の言葉を投げ、少し熱くなっていたStorkも「ああ、うん……」とそれを受け入れる。
兎にも角にも、この情報屋を名乗る男との協力体制は暫く続きそうだ、とStorkは結論付けた。


その後、二人はテレビ局をから外に出るべく、玄関口へと向かう。
映像に写っていた少女は既にテレビ局を後にしたようだ。

「ああ、そうだ!」

と突然、臨也は思いだしたかのように手を叩き、振り返る。
そして、ビクリとするStorkにこう告げた。


「安心すると良いよ。俺と君が見てしまった、さっきの子のアレについては、『覗き』には当たらないと思うからさ。それは俺が保証する」
「えっーー?」


臨也は意味深な事を言うだけ言うと、Storkの反応を窺うことなく、さっさと玄関口の方へと歩いていく。
Storkはその言葉の意味が理解できず、ただ首を傾げるしかなかった。







「――何これ……」


咥えていた食パンを口元からポロリと落とし、志乃は愕然とする。
テレビに映し出されていたのは自身の姿――。
ロケーションは、この会場で最初におけるスタート地点――テレビ局内にあったあの一室であったが、問題はその内容――。


テレビというフレームの中で垂れ流されているその内容は、手持ちのあかりちゃんグッズに己の欲望をぶちまけているという、第三者が見たらドン引き間違いなしの、志乃の痴態であった。


暫くの間。

佐々木志乃の、世界は停止した。




【H-4/民家/黎明/一日目】

【佐々木志乃@緋弾のアリアAA】
[状態]:健康、呆然、思考停止
[服装]:制服
[装備]:罪歌@デュラララ!!、あかりちゃんボックス@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1
[思考]
基本方針:あかりちゃんと共に生きる。
0:?????
1:あかりちゃんとの合流。あかりちゃんを愛でる。
2:アリアや高千穂以上に武貞として活躍しあかりちゃんに愛される。
3:平和島静雄...最強...?どうでもいい。一般人なら保護すればいいだけでしょう。あかりちゃんと×××する。
4:あかりちゃん愛してる。
※参戦時期は高千穂リゾートへ遊びに行った後です。
※罪歌の愛を侵食しあかりちゃんに変換しました。
※罪歌の影響で気分が高揚していますが、あかりを斬るつもりは一切ありません。
※テレビを通じて、自身のあかりちゃん行為の映像を見ました。







(そろそろ、あの映像を目にする参加者が出てくる頃合いかな……)


玄関口に掲げられている大きめの時計を見上げて、臨也は先の自身の行動を振り返る。

臨也達がエントランスに来る前に滞在していたあの部屋は、テレビ局の主調整室(マスター・コントロール・ルーム)。
Storkがまだ気絶してソファで寝かされていた頃ーー臨也は監視モニター室から拝借したビデオテープを部屋の機械にセット。
カセットテープには、Storkを(鼻)血の海へと沈めた、あの少女の一連の行動がしっかりと記録されており、臨也はマウスやキーボードを巧みに動かし、この部分を抜粋。
そして、最後にエンターキーを打ち込み、抜粋したデータを送信――。

一連の作業は、コンピュータ前に無造作に置かれていた操作マニュアルを参照することで
滞りなく行われた。

結果、少女の慰め行為は、会場内のありとあらゆる電波受信器に垂れ流されることとなった。


そうーー秘め事と思われていたものも、公然と公開されているものとなれば、それは秘め事ではなくなる。
したがって、臨也とStorkが目にしたアレは、『覗き』ではなくなるのだ。


(さぁて…あの子やあの子の知り合いは「アレ」を見たら、何て思うかな?)


臨也の当面の目標は、先程Storkに語った通りで、主催者を引きずり降ろし、その目的を問い質すことにある。
放送電波を使った臨也の一連の行動は、その目標には直結せず、参加者間に混乱を引き起こすだけのものである。
いいや、下手したら自分の首を絞めかねない行動だ。


それだけのリスクを冒してまで、臨也はなぜこのようなことを行ったのか?
理由は単純に『見たいから』である。

この殺し合いが行われているという異常な状況下でーー

『人間』があの映像を見て、何を思うのか。

『人間』があの映像を見て、どのような行動を起こすのか。

『人間』があの映像を見て、この殺し合いに何をもたらすのか。

あの映像が、臨也の愛すべき『人間』達にどのような影響を与えるのか、興味が無尽蔵にわいてくる。

例え自分の行動が他の参加者に糾弾され、結果として破滅に追いやられたとしても、『人間』によってその破滅へと導かれるものなら、それはそれで構わないとさえ思っている。
仮に平和島静雄や罪歌のような『化け物』がそこに関わってくるのであれば、願い下げではあるが。


(楽しみだなぁ、楽しみだなぁ、楽しみだなぁ! 罪歌に打ち勝った女の子に、Stork君…この場所で出会う『人間』は悉く俺を楽しませてくれる! これだから人間観察は止められないッ!)


興奮気味にエントランスから飛び出る臨也に、Storkが慌てて、これに続く。


(さぁて、次はどんな『人間』が俺を楽しませてくれるかな……)

外は夜の闇に覆われているが、臨也の心の内は清々しいほど晴れやかなものとなっており、その足取りは、まるで遠足に出掛けるウキウキした児童のように、非常に軽いものであった。

【H-5/テレビ局前/黎明/一日目】

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:健康
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3
[思考]
基本:人間を観察する。
0:まずは人が集まりそうな場所へ向かおうか。
1:Stork君は本当に面白い『人間』だなぁ。
2:平和島静雄はこの機に殺す。
3:新羅はまあ、気が向いたら探してやろう。セルティは別に...
4:佐々木志乃の映像を見た、本人と他の参加者の反応が楽しみ。
5:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
6:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃に興味。
[備考]
※少なくともアニメ一期以降の参戦。
※志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※Storkと知り合いについて情報交換しました。
※Storkの擬態能力について把握しました


【Stork@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。μの心を覗く。
0:とりあえず折原君と一緒に周辺探索
1:梔子を探して保護する。あとちょっと怖いけどウィキッドや帰宅部の二人も探してあげよう。
2:覗きはしたいけど...我慢できるかなぁ
3:折原君、頼もしいけど、やっぱり怖いね……
[備考]
※少なくともキャラエピソードでStorkの心の奥底に踏み込んだ後。
※志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※臨也と知り合いについて情報交換しました。



【テレビ放送について】
テレビ局から発信された映像は各施設や市街地に設置にされているテレビ受信機にて映されます。電波送信範囲は会場全体となります。
またテレビの電波を受信できるような支給品の類があれば、そちらに映し出される可能性もあります。
志乃のあかりちゃん行為の映像は、一日目6時まで定期的に繰り返し配信されます。


前話 次話
闇を暴け(中) 投下順 闇を暴け(下)

前話 キャラクター 次話
愛にできることはまだあるかい 佐々木志乃 愛のバクダン
覗【ほんしょう】 折原臨也 裏切りの朝焼け
覗【ほんしょう】 Stork 裏切りの朝焼け
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