バトルロワイアル - Invented Hell - @ ウィキ

人生は選択肢の連続だ

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kyogokurowa

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―――夢を見ていた。
その夢はまさに常世のようだった。
戦友たちと共に肩を並べ戦場を駆け。
仕事を終えた後は酒を飲み馬鹿騒ぎに興じ。
聖上の双六遊びに招かれ、身分の差に構わず容赦なく戦い抜き。都合が悪くなればカツラを被って誤魔化し。
飴屋を営む傍らで『彼女』に餞別として菓子を持たせ。
尊敬する兄に頼りにしてると肩に手を置かれ。

そんな日々がこれ以上なく楽しく、充実したものであった理想そのものの世界だった。

...嗚呼、だがな。

これは夢だ。ただの夢なのだ。

そうだろう、煉獄杏寿郎よ。

「......」

灼熱が蘇る。
あの漢から刻まれた剣筋が。炎が。斬られた腕が再び生と痛みを取り戻していく。

「...忘れるはずもないだろう」

そうだ。忘れられるはずがない。
かの漢と刃を交えられた喜びを。
全力で打ち合った愉しみを。
かのものを失った喪失感を。

「お前との戦いをなかったことに...忌まわしきものになどするものか」

奴は強い漢だった。正しく武人であった。
かような漢との全力の斬り合いは誉れである。
あの戦いに『後悔』などという言葉は俺たちへの侮辱以外の何物でもない。

ならばこそ戻る。
なんのために。
己の矜持を貫くために。ヤマトへの忠誠を貫くために。
あの光り輝く常世に目を背け、血と灼熱の痛みに濡れた地獄へと。

そして俺の意識が覚醒すると共に、あの煩わしい声が木霊した。




「......」
「カタリナ、さん」

放送が終わり、あかりと琵琶坂は呆然と立ち尽くすカタリナの背中を見つめていた。
涙を流すでもなく、恐怖と喪失に身を震わせるでもなく。
彼女はただ茫然と虚空を見つめていた。

あかりも琵琶坂も知り合いの名前を呼ばれなかったが、カタリナだけが呼ばれた。
キース・クラエス。彼女の心優しい義弟だと聞いている。
彼女の反応が薄いのは決して情が薄いからではないのはわかっている。

嘘だと叫びたいだろう。信じたいだろう。
けれど、自分たちの知っているアンジュとヒイラギイチロウも呼ばれたのだ。
キースだけ特別に嘘であるとはとても思えない。

手を伸ばそうとするあかりの肩に琵琶坂は手を置き、ふるふると首を横に振る。

「...カタリナさん。少し、一人になりたいんじゃないかい」
「......」
「僕らのことは気にしなくていい。落ち着いたら戻ってきてくれ」
「そうさせて...もうらうわ」

二人に背を向けたままカタリナは歩き去っていく。

「本当にこれでいいんですか」
「ああ。いま一番心に傷を負っているのは彼女だ。そんな彼女に僕らの慰めの言葉など何になる」

こんな危険な状況なのだ。先の戦いのこともあり、あかりとしては常に護衛として付き添っていたい。
しかし、悲しみに暮れるカタリナからすればいまの自分たちの慰めが煩わしいだろうという琵琶坂の意見もわかる。
合理性のみで人は動けない。時には一人で感情を整理する時間も必要なのだ。

「まあどうしてもというなら少し離れたところから見張るとしよう。武偵というのは隠密行動も得意なのだろう?君なら彼女に気取られることなく見守ることはできるはずだ。もちろん、僕も同行するよ」
「はっ、はい」

琵琶坂からの提案にあかりは顔を上げ、共に気配を殺しながらひっそりと後をつける。

(まったく面倒な小娘共だ...まあそれも利用させてもらうがね)

隣のあかりに気取られないように、琵琶坂は内心で悪態をつく。
琵琶坂永至に他者を気遣う善意など存在しない。
何を置いても優先するのは自分であり、他者など己が満たされるための踏み台であり使い捨ての道具である。
故に、彼がカタリナを気遣うような台詞を吐いたのには当然ながら理由がある。

いま彼らがいるのは公園。地図上にも記載されている施設だ。
放送で指定された禁止エリアが近いこともあり、もしも周辺に参加者がいれば寄ってくる可能性は非常に高い。
その対策としての先の進言だ。
もしもゲームに乗る参加者がいれば、真っ先に一人であるカタリナを狙うだろう。
もし彼女がそれで襲撃されても離れている自分とあかりはどうとでも手段をとれる。
とどのつまり、カタリナは体のいい撒き餌、良いように言葉を変えても斥候兵でしかない。
仮にこちらが襲撃されても問題ない。
三人纏まっていればあかりはカタリナと自分のどちらを護るか悩む隙が生じるが、いま自分が狙われれば間違いなく彼女は自分を庇う。
つまり、カタリナを先行させるというのはどう転んでも琵琶坂にとって得でしかないのだ。

そんな各々の想いを胸にあとをつける二人を他所に想いを馳せるのはカタリナ・クラエス。

(...涙が、流れない)

アンジュやヒイラギイチロウの死をその目で認めた時はいくらでも涙が出てきた。
なのに、キースの名を放送で聞かされてからぽっかりと胸に穴が空いてしまったような空虚に捕らわれ泣くこともできない。
口をつぐみ真顔のまま歩くことしかできない。
確かにキース・クラエスという存在はある種、彼女にとって破滅フラグを招く種の一つであるかもしれない。
しかし、そんなものに怯えていたのは顔合わせまで。破滅フラグ回避が根底にあったとはいえ、カタリナは純粋にキースを本物の弟のように可愛がり、キースも本物の姉のように接してくれた。
設定上は義姉弟とはいえ、もはや本物の家族と言っても差し支えないだろう。
そんな彼が死んだと聞かされて、悲しみも感じているのにどうして涙が流れない。

(あっ)

ふと、キースとの思い出が脳髄からじわじわと滲みだしてくる。
初めて会った時の可愛らしさに胸がときめいたこと。
木登りに失敗して尻に敷いてしまったこと。
土人形の魔法の件から、一気に距離が縮まったのかお茶会などは当然、農作業や遊びにも笑顔で付き合ってくれるようになったこと。
成長し、学園に入学してからも仲つむまじく姉弟として一緒に過ごしてきた。

そんな、一大イベントから何事もない些細なことまで様々な光景が脳裏に浮かんでは消えていく。
そして、涙が滲み始めてようやく実感できた。
あまりにも大きな悲しみを前にしたとき、人の心は情緒を鈍くして受け入れる準備を整えようとする場合がある。
自分はまだキースの死を受け入れられてなかったのだと。

だからカタリナは気づけなかった。
背後のあかり達ではなく、前方の物陰から自分を見ていた視線に。
飛び出てきた影がカタリナの胸元を素早くつかみ背負い投げたことを。
だからカタリナは受け身を取る暇もなく、身体を地面に強く打ち付けてしまう。
薄れゆく意識の中で、カタリナの視界にぼんやりと映るのは薄茶色のふわふわとした髪型。
なんとなくそれを「キースに似ているな」と思いつつ、カタリナの意識は闇に落ちた。



「ふざけるのも大概にしろっつーんスよ」

重傷の高千穂麗から大まかに事情を聞き、放送を聞いた後に彼女を無理やり寝かしつけた絹旗は舌打ち混じりに悪態をついた。

浜面仕上が殺された。
お調子者のスケベ男だが、なんやかんや言いつつ頼みごとを聞いてくれたり滝壺理后を護る時の真剣さ加減は結構気に入っていた。
それでも彼が生き残れる確率は低いと思っていたし、自分を含む『アイテム』の四人の中では無能力者故に真っ先に死にそうだとも思っていた。
絹旗最愛は暗部の人間であり身近な者の死などは慣れているためそれをずっと引きずるような性分ではない。

その彼女が怒りを向けているのは浜面を殺した下手人の存在。
高千穂は断言していないものの、状況を鑑みれば嫌でもわかる。
浜面を殺したのは麦野沈利。『アイテム』の元リーダーである。


「ほんと超なにやってんすかあのババア...!」

浜面が殺されてしまったというだけならまだわかる。自分を逃がしたシュカが死んでしまったというのも、あの時の彼女の怪我を考えればわかる。
なぜその下手人が麦野なのか。
無能力者にやられたプライドがどうのこうのなど知ったことか。
曲がりなりにもリーダーを務めた女が己の身内を殺していくなどタチの悪い冗談にしか思えない。

「あの女の言葉を借りるのも超シャクですが...オ・シ・オ・キ・カ・ク・テ・イってやつですね」

無報酬で殺しをやらせるこのゲームも。
それを企画する女たちも。
麦野も。

なにもかもに絹旗は苛立ち、ぶっ飛ばさずにはいられなかった。

ともあれ、浜面の最後に立ち会った高千穂をこのまま放置する訳にもいかず、彼女が目を覚ますまでは周囲を見張っていようと物陰に隠れながら身体を休めていた。

それからほどなくして、彼女の耳に一つの足音が近づいてくるのが届く。
そっと陰からそちらを覗かせれば、歩いてくるのは一人の女。
ところどころボロボロになりながらもその高貴さは失っていないお嬢様風の衣装。
だが何よりも印象的なのはその周囲を圧する鋭く凶悪な眼光。
俗にいう悪党顔である。

(っ...真っすぐこっちに向かってくる...これは超感づかれてると思っていいですね)

躊躇いなくこちらまで向かってくる佇まいに、麦野にも並ぶ悪党面から、絹旗の警戒心は一気に跳ね上がる。

(上等ですよ。こちとら超気が立ってるんですからね)

あの女がどのような能力を有しているかはわからない。しかし、相手になにかされる前にこちらから攻撃を仕掛け拘束できるチャンスだ。
息を潜め、女が近づいてくるのをジッと待つ。
三歩、二歩、一歩...

(いまっ!)

射程距離に入った瞬間、絹旗は女の眼前に飛び出し、その小柄な体躯を活かし懐に入り込むなり胸元を掴み上げる。

「とおりゃあああ!」

そこから放たれるのは我流の背負い投げ。
手ごたえあり。どうやら受け身すら取る暇はなかったようだ。

「...うん?」

受け身すら取れない、なんてことはありえるのだろうか。こんな素人の雑な投げ技でだ。
顔を覗き込むと女は衝撃に耐えきれなかったのか、白目をむいて気絶していた。

「はっ、離れてください!」

背後から響く声に思わず振り返れば、赤と白を基調とした制服に身を纏った少女が銃を、青のネクタイと端正な顔立ちが特徴の青年が鞭を手にこちらを警戒しているのが見て取れる。

(...あちゃ~、これは超失態ですね)

この状況から絹旗は己の失態を推測する。
どうやら自分が投げ飛ばした少女はただの顔が悪党面の一般人であり、あの二人が目を離した隙に離れてここまで来てしまったらしい。

「ス、ストップストップ!私はやましい者じゃありませんよ!」

絹旗は指示通りにすぐに手を離し、倒れる少女から距離を置く。
たかだか銃と鞭相手であればさしたる脅威ではないが、しかし余計な面倒ごとはご免こうむりたい。
穏便に済ませられるならこちらが引いてでも済ませるべきである。

「大丈夫ですかカタリナさん!」
「待つんだあかりちゃん」

駆け寄ろうとするあかりを琵琶坂は冷静に手で制する。

「この状況はもっと疑ってかかるべきだ。なぜ彼女はああもカタリナさんを手放した?ひょっとして彼女の服に爆弾か何かを仕込んだんじゃないか...とね」
「えっ!?」
「なっ」

琵琶坂の突然の疑惑にあかりも絹旗も共に驚愕する。

「あんなに無害なカタリナさんに奇襲をかけるような人間が、なぜなにもせず僕らの警告に従うと思う?
だってそうだろう。カタリナさんを殺そうとした彼女が目撃者である僕らを逃がすはずがない。だったら三人纏めて殺して一気に証拠隠滅を図る筈だ」
「いや、これはちょっとした手違いで...」
「だというなら君が僕らに害意がないことをちゃんと示し謝罪が必要だろう。違うかい?」
(クッ...なんか超ムカつくんですけどこいつ!)

絹旗はグッと息を呑む。

確かに誰がどう見てもこれは絹旗の側の失態でありそこに間違いはない。
しかし、琵琶坂がこの状況をダシに主導権を握ろうとしているのは明確であり、かといってこちらがなにか反論すれば間違いなくそこを突いてくるだろう。

(...超面倒ですね)

いっそのことあの男を組み倒して強引に主導権を握ってしまおうか。
このままこちらの手の内だけを明かされて情報や支給品を持ち逃げされるよりもスッキリする。
銃を構えるあかりもよく見れば手が震えており、ロクに狙いも着けられていない。
これなら首輪にだけ注意していれば自身の能力『窒素装甲』で完全に防げる。

(それじゃあ早速...)
「絹旗さん、なんの騒ぎかしら」
(超悪いっすねタイミング!!)

頭を抑えつつ復帰してきた高千穂に、絹旗は思わず地団太を踏みそうになる。
ただでさえ面倒なのにこれ以上事態をややこしくされるのはご免こうむりたい。
だがその心配は杞憂に終わる。
なぜなら。

「たっ、高千穂さん!?」
「えっ...あっ、あかり!?」

彼女たちは心より信頼し合う友達同士であるからだ。



「高千穂さ...っ」

駆け寄ろうとしたあかりは思わず立ち止まる。
彼女の視線の先にいる高千穂麗。その左腕が―――ない。

あかりに気づかれたのを察した高千穂は慌てて腕を後ろに隠す。

「こっ、これくらいどうってことなくてよ!そう、ハンデよハンデ!!」

そう言って胸を張りながら高笑いするも、それが強がりであるのは一目瞭然。
あかりが絹旗へと視線を向けると彼女は慌てて両手を横に振りながら弁明する。

「私じゃないですよ!むしろ高千穂さんを超手厚く保護した方ですから!」
「ええそうよ。絹旗さんは私の恩人―――」

そこまで言いかけた高千穂は言葉を失い、暗い表情で視線を落とす。

「...そうよ。あかり、私は武偵失格よ」
「え?」
「死なせてしまったのよ。絹旗さんの同僚ともう一人の下僕を」

もしもこれが「なにか物を壊してしまった」だとか「財布を落としてしまった」などの日常の光景であれば高千穂も秘めたる変態性を表に出してあかりに抱き着き己を慰めようとするだろう。
だが今回ばかりはそうもいかない。

失われたのは本来は高千穂が護るべき命。
高千穂の脳裏にバイクから弾き飛ばされた錆兎と目の前で消し炭になった浜面の影が過る。
左腕が異形の女と対峙した時、麦野沈利との戦いの立ち回り、あの戦場からの逃走。
他者から見れば、どれをとっても高千穂麗は最適な立ち回りを選択し全力を尽くしており、非難することはないかもしれない。
けれど彼女自身は違う。
あの選択は間違っていた。あの時ああしていれば。そんな後悔が絶えず彼女の精神を蝕んでいく。

「高千穂さん...」

あかりは堪らず声をかけようとするが―――できない。
目の前で命を守れなかったのはあかりも同じ。けれど決定的なのはお互いの状態の差。
左腕を失い疲弊しきった高千穂に比べてあかりは疲労を除けばほぼかすり傷だ。
あの燃え盛る学園の戦いを経てこの程度の損傷というのは本来は喜ばしい状態なのに、それがかえってあかりを苦しめる。
高千穂さんはこんなになるまで必死に頑張った。
なのに自分はこの程度で尽力した気になって。
自分の敷いたルールに従って、高千穂さんのようにベストを尽くさぬままに二人の命を散らしてしまった。

『私は言ったはずだ! 懸命に抗え、そして存分に殺し合おう、と! 結果として君の生半可な覚悟と弱さが味方の足を引っ張り、窮地に晒したのだ。
殺す覚悟もない人間が私の前に立ち塞がるなッ!』

『戦場に弱者たる汝等など無価値、無意味。早々に消え失せいッ!』

ズキリ、ズキリと呪いの言葉が脳髄を侵食していく。
もしもあの学園にいたのがアリア先輩で、且つ彼女が間宮の家の必殺術を身に着けていたら、こんな結末にはなっていなかっただろう。
彼女は強いから。凄いから。きっと、『必殺』の術も『必殺』ではない形にして使いこなしてヴライもヒイラギもマロロたちも取り押さえることが出来たはずだ。
自分は違う。自分は弱いし未熟だ。
だから『武偵』と『間宮』のどちらかしか選べない。
そして『武偵』としては未だに未熟。だから手に負えないことが多すぎる。
だから―――自分のベストを尽くすことすらできずになにもかもが零れ落ちて周りばかりが被害を被ってしまう。

「あかりちゃん、さっきも言っただろう。君がそんな調子で引き摺ったままだとアンジュさんが浮かばれないと」

己を責め続ける負のスパイラルに陥いりかけたあかりの肩に手を置き、琵琶坂は彼女の思考に釘を差し込む。

「いま君がするべきことは後悔に浸って己を慰めることじゃない。高千穂さんと言ったかな、そこの君もだ。知己に出会えたのならば喜びを噛み締め、互いに必要な情報を交換し合い今後の対策を打つことだ」
「っ...」
「辛い思いをしているのは君たちだけじゃない。カタリナさんも、まだ見ぬ他の参加者たちもそうだ。だからこそ、僕らに求められているのはこんなふざけたゲームを早急に終わらせることだ。わかってくれるかい?」

琵琶坂の言葉に高千穂とあかりは涙の滲む目を袖で擦り、辛うじて顔を上げる。

「それと...えっと、きみはなんて言ったかな?」
「...絹旗最愛。あんたは?」
「僕は琵琶坂永至。絹旗さん、高千穂さんを匿っていた件に免じてカタリナさんを襲った罪は許そう。彼女が目を覚ましたら僕が説明しておくよ」


微笑みすら向けてくる琵琶坂に絹旗は訝しむ。
琵琶坂のこれまでの言動に違和感や怪しい点はない。状況を分析するなら彼はあかりとカタリナを保護している一般男性以外の何物でもないだろう。
しかし、長年暗部に身を沈ませてきたからこそ直感でわかる。
この琵琶坂永至という男―――なにやらクサイ。

「超助かります」
(ま、別にいいですけどね)

しかし、彼女はそこで疑念をかけるのを止め素直に協力を受け入れた。
そもそも、彼女自身があかりや高千穂のような善人ではないのは自覚している。
金や褒美で命のやり取りをする。それが自分たち『アイテム』だ。
仮に琵琶坂が悪党だったとしても、傷つけ殺してきた人数は間違いなく自分たちの方が多い。
この事実を知られれば間違いなくあかりも高千穂もいい目はしないだろう。
だから余計な詮索はこれで終わり。
いま必要なのはゲームを壊すために集った同士という事実だけだ。
牙を剥いてきたらその時に返り討ちにすればいい。

「ひとまずここを離れよう。禁止エリアも近いしうかうかしていると逃げ場もなくなってしまうからね」
「了解でーす」

琵琶坂の提案に乗り、絹旗も公園を経つ準備をしようとしたその時だった。



ビ リ ィ


ただならぬ気配を察知した四人の背筋に怖気が走り咄嗟に振り返る。
あかりと高千穂、琵琶坂はおろか、数多の死地に身を寄せてきた絹旗ですらも恐怖を感じざるをえないほどの殺意のプレッシャーだ。

ズン、ズン、と地響きが鳴るような錯覚に陥る。
四人が固唾を飲み込み見守る中、やがて現れたのは一人の漢。

朝日に照らされたその姿はあまりにも傷ついていた。
大太刀を肩に乗せ、身体には数え切れぬほどの火傷と斬傷が刻まれ。
左腕も肘から先が失われていた。
誰がどう見ても満身創痍と言わざるをえない。
五人の中で一番の重傷だった高千穂と比べても死に体だ。

なのに。

その目からは微塵も衰えぬ眼光を覗かせていた。
放つ殺意はあまりにも強大すぎた。
その歩みは威風堂々としていた。

そして四人は言葉を交わす間もなく理解した。
この漢との交戦は避けられぬと。

「―――みんなを連れて逃げてください絹旗さん、高千穂さん。あの人は私が止めます」

先んじて前に出たのはあかりだった。

「な、なに言ってるっちゃあかり!ここは私に任せてあなたこそ逃げなさいな!」
「傷が一番深い高千穂さんが残ってどうするの」

それはあまりにも静かで暗い声だった。
勢いで詰め寄った高千穂でさえ戸惑うほどの、普段のあかりからは考えられないほどに冷たい言葉だった。

―――『武偵』であり続けることと、誰かを護ること…二者択一だった場合、どちらを採りたいんだい?
―――法もない、秩序もない…そんな地獄のようなこの場所で、誰かを護りきりたいと願うのなら、護る過程で別の誰かを討つ覚悟を心に留めておくべきだ。
―――ここは生半可な覚悟で生き残れる場所ではない。二兎を追うものは一兎を得ず―――厳しいことを言うかもしれないが、この過酷な戦場で、相反する二つの目標を達成するのは難しい

先の琵琶坂の言葉が脳内を反芻する。
誰かを護るということは時に誰かを殺めるという選択をしなければならないことを。

「高千穂さんがここで死ぬつもりなら絶対に残さない。いま、あの人を止められる可能性があるのは私だよ」
「それはつまり怪我してるかどうかってことですよね。なら超健康な私まで逃げろってどういうことですか」
「私は一人で戦わなくちゃいけないんです」
「なんですかソレ。ひょっとして私、超ナめられてます?」
「だって!...一人で戦わないと、私は足を引っ張っちゃう。私が甘えてたからアンジュさんは死んじゃったんだよ!」

『アンジュ』。
その名前に漢の眉根がピクリと動くが、あかりは気づかぬままに己の心情を吐露し続ける。

「アンジュさんと一緒に戦ってたから私は『武偵』に拘っちゃった!足を引っ張った!ヒイラギさんの言った通りに全力で戦ってたらなにかが違ったかもしれない!
そうしたらアンジュさんは...アンジュさんは...!」

涙すら流し叫ぶあかりをいたたまれぬ目で見つめる高千穂と絹旗。
その背後で、琵琶坂は冷めた目であかりの背を眺めていた。

(彼女はもう駄目かもしれないな)

先は慰めるフリをしつつさりげなく殺人のニオイも唆せておいた。
しかしそれが効きすぎたのか、いまの彼女は不必要に背負い不安定になっている。
『間宮』の術がどれほどのものかは知らないが、それでも眼前の漢を斃すには力不足だろう。
力が足りないのならば素直に協力して事に当たればいいものを、精神論を理由に一人で戦うなどという無謀極まりないことをしようとしている。

(ちょうどいい。ここで切り捨てるか)

おそらくあの男とまともにやりあえばこちらの被害は甚大だ。
ならば望み通りにあかりを尖兵として使い捨てた後に高千穂たちをぶつけ、消耗させたところを討ち取るなりカタリナを連れて逃げるなりすればいい。
適当に甘い言葉を囁いてあかりをその気にさせるか。
そう思い口を開こうとした時だった。

「...娘。いま、アンジュと言ったな」

ここまで黙していた漢がそう問いかける。

「貴様、姫殿下のなにを知っている?」
「え...?」

漢の纏っていた殺気が消えた訳ではない。
しかし、彼の目は確かに語っていた。アンジュについてなにか知っているなら教えてほしいと。
その目を見てあかりの固まりつつあった覚悟がまたも揺らぎ始める。
自分はどうするべきなのだろう。アンジュについてどう話すべきなのだろう―――と。


そして、空気を沈黙が支配しほどなくして―――彼女は口を開いた。






【C-3/公園/一日目/朝】

【ミカヅチ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]: ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、左腕消失、全身火傷(大)、覚悟、主催者への怒り
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミカヅチの仮面、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品1つ
[思考]
基本:ヤマトの民を守るため、優勝して元の世界へ戻る
0:ひとまず姫殿下について知っていると思しき者から彼女の話を聞く。
1:参加者を見つけ出して、殺す
2:先程の男(平和島静雄)との決着はいずれ……
3:オシュトル(ハク)とも決着をつける。
4:覚悟は決めた。立ち塞がるのであれば、女子供であろうと容赦しない
5:煉獄杏寿郎、その名は忘れない。
[備考]
※参戦時期は少なくともオシュトル達と敵対していた頃からとなります。
※仮面の力に制限が課されていることに気付きました。


【絹旗最愛@とある魔術の禁書目録Ⅲ】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服装(ボロボロ)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:必ず主催はぶん殴らないと気がすまない
0:眼前の漢に対処。
1:シュカと浜面の分まで麦野をぶっとばす。
2:カナメとかいう人を探す
[備考]
※アニメ18話、猟犬部隊に捕まった後からの参戦です



【高千穂麗@緋弾のアリアAA】
[状態]:左腕欠損(止血済み)、負傷(中)、精神的疲労(大)
[服装]:武偵高の制服
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一色、双眼鏡@現実
[思考]
基本:この殺し合いを止める
0:眼前の漢に対処。
1:あかりを護る。
2:夾竹桃には最大限の警戒
[備考]
※アニメ版最終回後からの参戦です


【琵琶坂永至@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:顔に傷、全身にダメージ(中~大)、疲労(中)、鎧塚みぞれと十六夜咲夜に対する強い憎悪、背中に複数の刺し傷、左足の甲に刺し傷
[服装]:いつもの服装(傷だらけ)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1、ゲッター炉心@新ゲッターロボ、渡草のワゴン車@デュラララ!!
[思考]
基本:優勝してさっさと元の世界に戻りたい
0:眼前の漢に対処。
1:あかりとカタリナ、高千穂と絹旗を徹底的に利用する。
2:鎧塚みぞれは絶対に殺してやる。そのために鎧塚みぞれの悪評をばら撒き、彼女を追い詰める
3:あのクソメイド(咲夜)も殺す。ただ殺すだけじゃ気が済まない。泣き叫ぶまで徹底的に痛めつけた上で殺してやる
4:クソメイドと一緒にいた白塗りの男(マロロ)も一応警戒
5:他の帰宅部や楽士に関しては保留
6:他に利用できそうなカモを探してそいつを利用する
7:クソメイドの能力への対処方法を考えておく
8:鳥(ココポ)への対処については一旦保留
[備考]
※帰宅部を追放された後からの参戦です


【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:精神疲労(中)、全身火傷(小)
[服装]:いつもの武偵校制服
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。アリア先輩たちが心配
0:目の前の人にアンジュさんのことをどう話す?
1:『武偵』のままだと、誰も護れない……?
2:ヴライ、マロロを警戒。もう誰も死んでほしくない
3:アリア先輩、志乃ちゃん、高千穂さんを探す。夾竹桃は警戒。
4:『オスティナートの楽士』と鎧塚みぞれを警戒。
[備考]
アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です


【カタリナ・クラエス@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
[状態]:軽症(腹部)、左脚に裂傷(小)、頭部にダメージ、キースを失った悲しみ、気絶
[服装]:いつものドレス姿
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一色、まほうの玉×4@ドラゴンクエストビルダーズ2、ココポ@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品2つ
[思考]
基本:さっさとこの殺し合いから脱出したい
0:(気絶中)
1:琵琶坂さん…。メイドさんへの言葉遣いを聞く限りだと少し怖かったけど、信用してもよいのかしら?
2:ヴライ、十六夜咲夜、『オスティナートの楽士』、鎧塚みぞれを警戒
3:マリア、ジオルド、メアリが心配
4:キース...
[備考]
※試験直後からの参戦です


【ココポ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:カタリナの支給品袋の中で休息中、ダメージ(大)、疲労(大)、全身火傷(大)、全身に複数の刺し傷
[思考]
基本: アンジュの命令に従いカタリナとあかりを守る
1:カタリナとあかりを守る
2:理由は不明だが、琵琶坂が怖い
[備考]
※ヒイラギによる洗脳は完全に解けました、ただし琵琶坂との戦闘を含む、洗脳中の記憶は欠落しています
※参戦時期は以降の書き手様にお任せします

前話 次話
神への挑戦 投下順 方針決定

前話 キャラクター 次話
闇を暴け(下) ミカヅチ From the edge -Scarlet Ballet-
撫子乱舞 -凛として咲く華の如く-(後編) 絹旗最愛 From the edge -Scarlet Ballet-
撫子乱舞 -凛として咲く華の如く-(後編) 高千穂麗 From the edge -Scarlet Ballet-)
侵食する黒いモノ 琵琶坂永至 From the edge -Scarlet Ballet-
侵食する黒いモノ 間宮あかり From the edge -Scarlet Ballet-
侵食する黒いモノ カタリナ・クラエス From the edge -Scarlet Ballet-
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