「アンジュさんは...」
あかりの口が言葉を紡ぎ出す。
それを止める者は誰もおらず、誰もがじっと彼女の言葉を待っている。
そこから生まれる重圧にあかりの心臓がバクバクと脈打つ。
それを止める者は誰もおらず、誰もがじっと彼女の言葉を待っている。
そこから生まれる重圧にあかりの心臓がバクバクと脈打つ。
恐い。
この一言が状況を左右してしまうかもしれないことが。
本当ならなにも言わない方がいいかもしれない。
でも。
本当ならなにも言わない方がいいかもしれない。
でも。
伝えなければならない。
彼はアンジュさんの知人で、決して悪しようには思っていないから。
隠してはならない。
私が犯した罪を。
彼はアンジュさんの知人で、決して悪しようには思っていないから。
隠してはならない。
私が犯した罪を。
「アンジュさんは、私が殺しました」
言った。
震える声で、それでも確かに言った。
己の弱さを告白した。
震える声で、それでも確かに言った。
己の弱さを告白した。
ミカヅチは一瞬だけ目を見開くも、すぐに目を細め続けるように暗に促す。
「アンジュさんは、私を信用して連携してくれたのに私は応えられなかった。
こんな事態でも自分のルールを優先したせいで、ヒイラギさんを止められなくて、それで...」
「ルールだと?」
「...人を、絶対に殺さないことです」
こんな事態でも自分のルールを優先したせいで、ヒイラギさんを止められなくて、それで...」
「ルールだと?」
「...人を、絶対に殺さないことです」
不殺。この異常事態においてもそれを掲げ矜持をもって遂行できれば多くの参加者の希望になるだろう。
事実、この殺し合いでの全参加者を見渡しても『叶うならば誰も殺すことなく帰還したい』と願う者が大多数だ。
そしてそれを為すには絶対なる力以上に、確固たる信念が必要だ。
事実、この殺し合いでの全参加者を見渡しても『叶うならば誰も殺すことなく帰還したい』と願う者が大多数だ。
そしてそれを為すには絶対なる力以上に、確固たる信念が必要だ。
「でも!私のそれはただ憧れの人みたいになりたいっていうだけの理想でしかない!
そんな薄っぺらいものの為に、アンジュさんたちを、巻き込んで...」
そんな薄っぺらいものの為に、アンジュさんたちを、巻き込んで...」
あかりの目から涙が溢れだし、言葉も途切れ途切れになり始める。
いくら慰められても、いくら時間が経過しても何度も後悔が反芻してしまう。
いくら慰められても、いくら時間が経過しても何度も後悔が反芻してしまう。
アンジュが死んだのは自分のせいだ。
自分がいなければ彼女は死ななかった。
自分がいなければ彼女は死ななかった。
そんな自責の念が呪いのようにあかりの心を蝕み続ける。
彼女の悲痛な叫びに誰も言葉をかけられなかった。
味方はおろか、敵であるミカヅチでさえも。
誰もがあかりを見つめるまま、動くことができなかった。
味方はおろか、敵であるミカヅチでさえも。
誰もがあかりを見つめるまま、動くことができなかった。
ただ、一羽を除いて。
「コッコオオオォォォ!!」
パ ァ ン
清々しいほど小気味よい音が鳴り響き、あかりの顔が横を向く。
平手打ち。
いつの間にか休憩から復帰していたココポが、その丈夫な翼であかりの頬を叩いたのだった。
平手打ち。
いつの間にか休憩から復帰していたココポが、その丈夫な翼であかりの頬を叩いたのだった。
「コォ、コオオォォ!!」
呆然とするあかりに、ココポは激しく詰め寄る。
あかりにはココポの言葉はわからない。
けれど、ココポが怒っているのだけはなんとなくわかる。
あかりにはココポの言葉はわからない。
けれど、ココポが怒っているのだけはなんとなくわかる。
(...そうだよ。ココポはアンジュさんの友達なんだもん。怒るのは当たり前だよ...)
仇同然の相手がいれば自分だって怒りと殺意が湧いてしまう。
今までは我慢してきたものが、ここで決壊したのだろう。
ココポに心底申し訳なく思いつつ、あかりは面持ちを暗くする。
今までは我慢してきたものが、ここで決壊したのだろう。
ココポに心底申し訳なく思いつつ、あかりは面持ちを暗くする。
「...娘」
ここまで押し黙っていたミカヅチが静かに口を開く。
「姫殿下は、お前たちを護るために戦ったのだな」
「...はい」
「そうか」
「...はい」
「そうか」
短い返答にあかりは心臓を鷲掴みにされるような感覚に陥る。
きっと、選択を間違えた。
ミカヅチはすぐにでも此方へと切りかかってくるだろう。
震えながらも顔を上げ―――
きっと、選択を間違えた。
ミカヅチはすぐにでも此方へと切りかかってくるだろう。
震えながらも顔を上げ―――
「礼を言う」
思わぬ言葉に、「えっ」というあかりの困惑の声が小さく漏れた。
「皇とは民を護るための存在だ。あの御方は最期まで戦い抜き、お前たちを護ったのだろう。ならばあの御方も本望であったはずだ」
「で、でも、私が殺すつもりで戦っていたら...」
「殺戮を望まぬ者を死地においてなにが皇か。貴様がその場で不殺の信念を穢していればそれこそあの御方は悔いていたことだろう」
「ちが...信念なんかじゃ...」
「――――小娘ェ!」
「で、でも、私が殺すつもりで戦っていたら...」
「殺戮を望まぬ者を死地においてなにが皇か。貴様がその場で不殺の信念を穢していればそれこそあの御方は悔いていたことだろう」
「ちが...信念なんかじゃ...」
「――――小娘ェ!」
ひたすらに自己否定を続けるあかりに、ミカヅチは激昂し地面に剣を突き立てる。
岩盤の砕ける音が響き、石の礫が宙を舞った。
岩盤の砕ける音が響き、石の礫が宙を舞った。
「その鳥はあの御方の友の忠実なるしもべ。なぜソイツが貴様を引っ叩いたかわからんのか!貴様が己が信念を侮辱するのはあの御方を辱めるのと同意!あの御方が身命を賭して護ったのは誰も価値を見出さぬつまらぬものだったとな!」
激しい叱咤にあかりの涙は引っ込み背筋がゾクゾクと粟立つ。
けれど。
彼の怒りには、会った直後から発されていた殺気は感じられなかった。
けれど。
彼の怒りには、会った直後から発されていた殺気は感じられなかった。
「ココポ...」
あかりはココポを見上げその瞳を覗き込む。
ココポはミカヅチの言う通りだと言わんばかりに鼻を鳴らした。
ココポはミカヅチの言う通りだと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「あの御方がお前たちを護り散ったのならば、貴様はどうする。この催しを受け入れ、全てを屠ることで忠誠を誓おうとするこの俺を前にして、貴様はどうする!?」
ミカヅチの問いは、アンジュが死んでから、いいやそれよりもずっと前から思い悩んでいたことだった。
自分には不殺の才能がない。
だからいくら練習をしても間宮の術の手癖は抜けず。
そのうえ、間宮の術ですらほとんど使えなくなってしまっている。
昔のものは封印して、新しいものは身につかなくて。
そんな自分が本当に武偵でいいのか。アリアの戦姉妹の席に座っていていいのか。
自分には不殺の才能がない。
だからいくら練習をしても間宮の術の手癖は抜けず。
そのうえ、間宮の術ですらほとんど使えなくなってしまっている。
昔のものは封印して、新しいものは身につかなくて。
そんな自分が本当に武偵でいいのか。アリアの戦姉妹の席に座っていていいのか。
答えは未だに出ていない。
それでも彼女は立ち上がり顔を上げた。
それでも彼女は立ち上がり顔を上げた。
(叩いてくれてありがとうココポ。気づかせてくれてありがとう、ミカヅチさん)
―――『武偵』であり続けることと、誰かを護ること...二者択一だった場合、どちらを採りたいんだい?
先刻の琵琶坂からの問いかけが何度も何度もぐるぐると脳髄を巡る。
不殺を貫き武偵として在り続け、いつものように過ごしたい。
例え間宮の術を発揮し命を奪ってでも護りたいものを護りたい。
不殺を貫き武偵として在り続け、いつものように過ごしたい。
例え間宮の術を発揮し命を奪ってでも護りたいものを護りたい。
(ごめんなさい、琵琶坂さん、アンジュさん。私、まだ迷ってるみたい)
他人に言われたからとすぐに決められるほど彼女は要領が言いわけでも聞き訳がいい性質でもない。
即断即決、初志貫徹できるほどに彼女はまだ成熟していない。
それでも。いや、だからこそか。
即断即決、初志貫徹できるほどに彼女はまだ成熟していない。
それでも。いや、だからこそか。
両足を前後に開き、腰を落とす。
右手を前へと突き出し爪を立てた五本指とともに上向け、左手は顔の前へと添えて、こちらも爪を立てる。
あかりは、『鷹捲』の姿勢に入ることでミカヅチの問いに答えを示した。
右手を前へと突き出し爪を立てた五本指とともに上向け、左手は顔の前へと添えて、こちらも爪を立てる。
あかりは、『鷹捲』の姿勢に入ることでミカヅチの問いに答えを示した。
「...それでいい。託されたならばそれに応えることだけを考えろ。その先どうなるかは―――」
ミカヅチはほんの一瞬だけ、穏やかな笑みを浮かべると―――地響きがしたかと錯覚するほどに、強く地面を踏み込んだ。
「この戦にて掴み取ってみせろ」
再び放たれるミカヅチの殺気に、あかりは身震いする。
恐い。
圧だけでもわかる圧倒的な実力差が。
恐い。
また選択を失敗してしまうかもしれないことが。
恐い。
なにも掴めず、アンジュの死を無駄にしてしまうかもしれないことが。
それでも。
圧だけでもわかる圧倒的な実力差が。
恐い。
また選択を失敗してしまうかもしれないことが。
恐い。
なにも掴めず、アンジュの死を無駄にしてしまうかもしれないことが。
それでも。
(それでも―――誰かを護りたいって気持ちだけは、譲れない!)
「高千穂さん、みんなをお願い」
「あかり、そんなこと私が許すとでも...!」
「一人で、やりたいの」
「あかり、そんなこと私が許すとでも...!」
「一人で、やりたいの」
あかりは振り向き、高千穂を見据える。
彼女が浮かべていたのは微笑みだった。
諦めからくるものではなく、いつもの日常を象徴するものでもなく。
決意を固めた者が決まって浮かべる、戦士の微笑みだった。
彼女が浮かべていたのは微笑みだった。
諦めからくるものではなく、いつもの日常を象徴するものでもなく。
決意を固めた者が決まって浮かべる、戦士の微笑みだった。
(っ...!)
もしもこれが武偵の試験などであれば背中を押して鼓舞し、成功すれば共に祝福し、失敗すれば全力で慰めたことだろう。
けれど、いまはそうじゃない。
失敗は即・死に繋がり、未来はそこで途絶えてしまう。
だから高千穂麗は容易く受け入れられない。
どうにかできないか脳細胞を総動員させ策を練る。
けれど、いまはそうじゃない。
失敗は即・死に繋がり、未来はそこで途絶えてしまう。
だから高千穂麗は容易く受け入れられない。
どうにかできないか脳細胞を総動員させ策を練る。
「ホラ、行きますよ高千穂さん」
それを遮ったのは、絹旗だった。
高千穂の残る腕を掴み、力づくでその場から動かす。
高千穂の残る腕を掴み、力づくでその場から動かす。
「ちょ、絹旗さん。私はまだ...!」
「いいから、さっさと行きますよ。この状況でああまで言うなら私たちがなにを言っても超無駄なんで」
「いいから、さっさと行きますよ。この状況でああまで言うなら私たちがなにを言っても超無駄なんで」
どこか苛立った調子に、絹旗はグイグイと高千穂を引っ張りあかりの視界から遠ざかっていく。
「ホロォロ...」
「僕らも行くとしよう、鳥くん。...あかりちゃん、それが君の選択肢であり、必要なことだというならば僕はなにも言うまい。
ただ、僕からは一つだけ。先ほども言ったように、きみがどんな答えを出そうとも、僕はきみの意思を尊重するよ。武運を祈る」
「僕らも行くとしよう、鳥くん。...あかりちゃん、それが君の選択肢であり、必要なことだというならば僕はなにも言うまい。
ただ、僕からは一つだけ。先ほども言ったように、きみがどんな答えを出そうとも、僕はきみの意思を尊重するよ。武運を祈る」
琵琶坂もココポと気絶したカタリナを連れ、あかりの視界から消えていく。
あかりはその背中たちを名残惜しそうに見つめ、ほどなくしてミカヅチに向かい合った。
「待ってくれてありがとうございます」
ヒイラギ。ヴライ。マロロ。
三者との戦いを通じて、ここが命がけの戦場であることは嫌でも思い知らされている。
だから彼らは情け容赦なく自分を排除しにきた。
そんな中、ミカヅチは言葉を交わす時間をくれた。覚悟を決める時間をくれた。
弱い私にも、対等の戦場に立つことを許してくれた。
だから、あかりは礼を言いたくなってしまった。
三者との戦いを通じて、ここが命がけの戦場であることは嫌でも思い知らされている。
だから彼らは情け容赦なく自分を排除しにきた。
そんな中、ミカヅチは言葉を交わす時間をくれた。覚悟を決める時間をくれた。
弱い私にも、対等の戦場に立つことを許してくれた。
だから、あかりは礼を言いたくなってしまった。
「礼など不要だ。俺がお前の敵であることには変わりはないからな」
ミカヅチは己のこの行いが自己満足にしか過ぎないことは理解している。
いくら公平になるよう戦場を整えたとはいえ、敬愛すべき姫殿下、アンジュの遺した者を潰やそうとしていることには変わりはないからだ。
それでもミカヅチは躊躇わない。
この先、数多の屍を積もうとも、振り返り立ち止まることは決してない。
いくら公平になるよう戦場を整えたとはいえ、敬愛すべき姫殿下、アンジュの遺した者を潰やそうとしていることには変わりはないからだ。
それでもミカヅチは躊躇わない。
この先、数多の屍を積もうとも、振り返り立ち止まることは決してない。
「痴れ事はここまでだ」
「はい。わかっています」
「はい。わかっています」
その言葉を最後に、二人の間に静寂が訪れる。
責任感や緊張に、ミカヅチから放たれる殺意であかりの背や額からは冷や汗が止まらなくなる。
責任感や緊張に、ミカヅチから放たれる殺意であかりの背や額からは冷や汗が止まらなくなる。
呼吸器すら押しつぶされそうなほどの重圧にも、アンジュの背中を思い描き己が足を奮い立たせる。
(見ていてくださいアンジュさん。私は、必ず掴み取ってみせます!)
あかりが決意に目を見開くのと同時。
駆けた。
先に駆けたのは―――ミカヅチ。
空いていた距離が瞬く間に縮まる。
先に駆けたのは―――ミカヅチ。
空いていた距離が瞬く間に縮まる。
それに微かに遅れてあかりも駆ける。
あかりの狙う鷹捲は武器破壊から相手を無力化する技だ。
その為、鷹捲同士の衝突ならまだしも、武器を有する相手に先手を取ったところでどうしようもないため、初動はどうしても遅れてしまう。
それを差し引いてもなお、ミカヅチの速度はあかりの想定を超えていた。
あかりの狙う鷹捲は武器破壊から相手を無力化する技だ。
その為、鷹捲同士の衝突ならまだしも、武器を有する相手に先手を取ったところでどうしようもないため、初動はどうしても遅れてしまう。
それを差し引いてもなお、ミカヅチの速度はあかりの想定を超えていた。
(先が見えない)
あかりの鷹捲の成功率は1/3。しかし、それはあくまでも状況とコンディションがベストパフォーマンスを許す場合の成功率であり、実際にはさらに低い。
現状の成功率は―――ゼロ。
例え鷹捲が発動しても押しつぶされる他ないとしか言いようのないほどに、ミカヅチという壁には微かな隙間すら見つからない。
現状の成功率は―――ゼロ。
例え鷹捲が発動しても押しつぶされる他ないとしか言いようのないほどに、ミカヅチという壁には微かな隙間すら見つからない。
(それでも、諦めない!)
―――武偵憲章10条。諦めるな。武偵は決して、諦めるな。
諦めたらそこで全てが終わる。だから諦めない。
例え死への刃が寸前まで迫ろうとも。
瞬き一つで胴体が泣き別れになる未来しかなくとも。
例え死への刃が寸前まで迫ろうとも。
瞬き一つで胴体が泣き別れになる未来しかなくとも。
(諦めない!諦め―――)
たとえ想いが不屈でも現実は優しくない。
間宮あかりは数秒後にはこの世にいない。
それが齎される未来。彼女の力では決して覆せぬ運命。
間宮あかりは数秒後にはこの世にいない。
それが齎される未来。彼女の力では決して覆せぬ運命。
なにもなければ、だが。
ガキン、と鈍い音と共にあかりの身体が弾かれる。
「え...!?」
両断されていない我が身にあかりは目を白黒させる。
横合いから影が割り込んできたのだ。
あかりと同じくらいの大きさの影が。
横合いから影が割り込んできたのだ。
あかりと同じくらいの大きさの影が。
「っ...!」
「絹旗、さん!?」
「絹旗、さん!?」
自分諸共吹き飛ばされた正体は、先ほど見送ったはずの絹旗最愛だった。
退却をしたフリをして、自分たちが眼前に集中している隙をつき、回り込んできたのはわかる。
わからないのは、なぜ戻ってきたかだ。
退却をしたフリをして、自分たちが眼前に集中している隙をつき、回り込んできたのはわかる。
わからないのは、なぜ戻ってきたかだ。
「絹旗さん、どうしてここに!?」
「どうして、ですかってぇ?」
「どうして、ですかってぇ?」
苛立ちを隠せぬままの声音で、絹旗はあかりの両頬をつねる。
「そんなこともわからないのはこの口ですかコラ」
「ふぇえ!?」
「ふぇえ!?」
あかりはなぜ絹旗が怒っているのかがわからず、されるがままにぐにぐにとつねられ続ける。
「私はね、あなたが一騎打ちで何かを掴むだとか、あいつの忠誠がどうだとかは超どうでもいいんですよ。そんなもんは殺し合いが終わってから好きにやればいいんで」
あかりの頬から手を離すと、絹旗は立ち上がりミカヅチを見据えた。
(受け止めた...?俺の剣を、生身でだと?いや、感触は生身を斬りつけたソレではなかった)
横合いからの乱入に多少面を食らったミカヅチだが、即座にここまでノーマークだった絹旗最愛への認識を改める。
「小娘。腕に覚えがあるようだが、加減をするつもりはないぞ」
「こちとら友達が最初に殺されて、元リーダーに連れと同僚をやられて、あんたら二人に勝手に完結させられて超イラついてるんですよ。
そういう訳で、私は私であなた達みたいに超好き勝手やらせてもらいますから」
「腹は既に決めているか...ならば...ッ!?」
「こちとら友達が最初に殺されて、元リーダーに連れと同僚をやられて、あんたら二人に勝手に完結させられて超イラついてるんですよ。
そういう訳で、私は私であなた達みたいに超好き勝手やらせてもらいますから」
「腹は既に決めているか...ならば...ッ!?」
再び剣を構えようとしたミカヅチの腕に背後より何かが巻き付く。
「多勢に無勢...卑怯だと思うかい?僕からすれば、個人の能力で圧倒的に勝る者が弱者と一対一を強要する方がよっぽど卑怯に思えるがね」
絹旗と同じく、先ほど場を離れたはずの琵琶坂英至が凶悪な笑みを浮かべながら鞭を放ったのだ。
「人類はいつだって強力な敵には団結して対策してきた。災害然り害獣然りだ。
人間たりえる知恵を放棄し、考えなしに戦うことを選んだ時点できみは害獣に他ならない。
ならばこうして僕ら人間に囲まれて叩かれるのは自然の摂理だろう?」
「...ああ、そうだな。俺は悪鬼羅刹に墜ちようとも忠義を果たすと誓った。ならば俺は貴様の言う通りに害獣なのだろう!」
人間たりえる知恵を放棄し、考えなしに戦うことを選んだ時点できみは害獣に他ならない。
ならばこうして僕ら人間に囲まれて叩かれるのは自然の摂理だろう?」
「...ああ、そうだな。俺は悪鬼羅刹に墜ちようとも忠義を果たすと誓った。ならば俺は貴様の言う通りに害獣なのだろう!」
ミカヅチは鞭に巻き付かれた腕を強引に引っ張ると、それだけで琵琶坂の身体の上体が崩れよろけてしまう。
戦場と鍛錬で鍛え上げた仮面の者とあくまでも一般成人男性では腕力勝負では勝負にもならない。
しかし、琵琶坂は微塵も慌てず、むしろ余裕の笑みを浮かべている。
戦場と鍛錬で鍛え上げた仮面の者とあくまでも一般成人男性では腕力勝負では勝負にもならない。
しかし、琵琶坂は微塵も慌てず、むしろ余裕の笑みを浮かべている。
「そんなにこれが欲しいかい?ならくれてやるよッ!」
琵琶坂はなんの躊躇いもなく鞭を手放した。
―――ボッ
瞬間、鞭から火が湧き出し、ミカヅチの身体を焼き付ける。
「ヌウッ!?」
「―――ハッハハハハハ、どうだ俺のカタルシスエフェクトの味はぁ!?」
「―――ハッハハハハハ、どうだ俺のカタルシスエフェクトの味はぁ!?」
琵琶坂の口が狂気的に吊り上がりそうになる。
先ほどまで武人ヅラしていた男が顔を苦悶に歪め許しを請う姿を思い描けば多少なりとも胸がすくというもの。
本当ならば「止めてほしかったら媚びへつらい土下座しろ」とでも煽りたいところだが、今はまだお人よしどもを隠れ蓑にしている身。
そこは我慢して掌で零れる笑みを隠した。
先ほどまで武人ヅラしていた男が顔を苦悶に歪め許しを請う姿を思い描けば多少なりとも胸がすくというもの。
本当ならば「止めてほしかったら媚びへつらい土下座しろ」とでも煽りたいところだが、今はまだお人よしどもを隠れ蓑にしている身。
そこは我慢して掌で零れる笑みを隠した。
「―――フンッ!」
だが琵琶坂の期待は大きく外れた。
ミカヅチは、纏わりつく炎を気合い一徹で弾き飛ばしたのだ。
ミカヅチは、纏わりつく炎を気合い一徹で弾き飛ばしたのだ。
つい数時間前に己の身体をも焼き尽くす煉獄の業火とやりあったのだ。
この程度の小火で彼が遅れをとるはずもない。
この程度の小火で彼が遅れをとるはずもない。
呆気にとられる琵琶坂へと、ミカヅチが迫る。
「ファント」
それを庇うように突き出されるは銀色の刺剣。
ミカヅチの剣は軌道が逸れ、琵琶坂は一難を凌ぐ。
ミカヅチの剣は軌道が逸れ、琵琶坂は一難を凌ぐ。
「まさか私の愛用のレイピアが支給されていたなんてね...完璧(パーフェクト)よ、絹旗さん」
琵琶坂に代わり、レイピアを手にした高千穂麗が凛とした佇まいで戦場に躍り出た。
「さあ、踊りましょうかお侍様」
片腕でありながらも流麗に、突く時は力強く、しかし接触は一瞬のみ。
突いては引き、突いては引き。
ミカヅチが鍔迫り合いをしようとしても高千穂はそれを臨まない。
フェンシング。高千穂麗の数ある得意競技の一つである。
突いては引き、突いては引き。
ミカヅチが鍔迫り合いをしようとしても高千穂はそれを臨まない。
フェンシング。高千穂麗の数ある得意競技の一つである。
(慣れた)
高千穂が突きを引こうとしたタイミングでミカヅチは同時に踏み込み距離を詰める。
戦場では見ること敵わぬフェンシングの動きも、数度繰り返せばミカヅチはもう見切ることが出来た。
死地における経験値は、高千穂に勝機など産ませなかった。
けれど高千穂は微塵も絶望しなかった。
元々、自分で勝とうなどとは思っていなかったから。
戦場では見ること敵わぬフェンシングの動きも、数度繰り返せばミカヅチはもう見切ることが出来た。
死地における経験値は、高千穂に勝機など産ませなかった。
けれど高千穂は微塵も絶望しなかった。
元々、自分で勝とうなどとは思っていなかったから。
「どいたどいたぁ!」
ミカヅチの間に再び絹旗が割って入り甲高い音を立てて高千穂諸共吹き飛ばされる。
「鳥ィ!!」
「ホロォロォ!!」
「ホロォロォ!!」
琵琶坂の号令と共に、高千穂たちへと追撃をかけようとするミカヅチへココポがとびかかり、同時に琵琶坂の鞭がまたしても飛来する。
「チィッ」
両腕が健在であれば楽に凌げる攻撃の波も、片腕では捌ききれず、どうしても反応が微かに遅れてしまう。
ココポへと反撃しようとすれば即座に高千穂や絹旗が。
彼女たちへと攻撃しようとすればココポとその背後より琵琶坂が。
矢継ぎ早に繰り出され続ける攻撃に、ミカヅチの注意が散漫していく。
ココポへと反撃しようとすれば即座に高千穂や絹旗が。
彼女たちへと攻撃しようとすればココポとその背後より琵琶坂が。
矢継ぎ早に繰り出され続ける攻撃に、ミカヅチの注意が散漫していく。
「―――あかり!」
高千穂はミカヅチとの戦いの最中にも関わらず呼びかける。
「私も下僕たちを失った。それはとても悼むし己の無力さを恥じるわ...でも!」
ミカヅチに弾かれながらも、高千穂はすぐに顔を上げ前を見据える。
「私の願いは変わらない!私はあの日常へと絶対に帰りたい!そこに私の知る間宮あかりがいないなんて決して許せないのよ!」
何度吹き飛ばされても、何度土に塗れようとも構わず、高千穂は立ち上がり叫び続ける。
「私は一人じゃできないと思い知らされたから、攻撃を止めることが出来ると言ってくれた絹旗さんを、私をフォローしてくれると申し出てくれたココポと琵琶坂さんを信じたわ。
そして私はお前も信じる!『武偵』の間宮あかりは、必ず勝てない私たちを助けてくれると!」
そして私はお前も信じる!『武偵』の間宮あかりは、必ず勝てない私たちを助けてくれると!」
激しい攻防の中、いまはギリギリで戦況を保っているとはいえ、それでも優位に立っているのはミカヅチだ。
恐らく、息が上がりつつつある絹旗が崩れれば一気に押し切られてしまう。
恐らく、息が上がりつつつある絹旗が崩れれば一気に押し切られてしまう。
それでも。
さきほどの八方ふさがりではなくなった。
ミカヅチは注意を周囲にわけねばならなくなったので、隙が生じてきた。
ミカヅチは注意を周囲にわけねばならなくなったので、隙が生じてきた。
武偵としての『鷹捲』の成功率はゼロから1/3にまで戻っていた。
(本当にいいのかな)
ここで鷹捲を成功させれば、確かにミカヅチは一旦は止められるかもしれない。
けれどそれは皆の力だ。自分で選んだ選択肢じゃない。
本当に、これでアンジュの意思に応えられたと言えるのか?
けれどそれは皆の力だ。自分で選んだ選択肢じゃない。
本当に、これでアンジュの意思に応えられたと言えるのか?
―――己が務めを果たせよ
「私を助けなさい、あかり!」
武偵憲章1条、仲間を信じ、仲間を助けよ。
アンジュの遺した言葉と高千穂の叫びが重なった瞬間、踏み込んだ足に、躊躇いはなかった。
絹旗を弾き飛ばした直後のミカヅチへとあかりが跳ぶ。
反応が遅れたミカヅチは直感的に剣を突き出す。
反応が遅れたミカヅチは直感的に剣を突き出す。
あかりは構わず、宙で身体を捻り回転を加える。
鷹捲とは、人体に秘められる『パルス』という微細な電流による振動をジャイロ効果によって増幅・集約し、振動で万物を破壊する技である。
鷹捲とは、人体に秘められる『パルス』という微細な電流による振動をジャイロ効果によって増幅・集約し、振動で万物を破壊する技である。
(鷹捲―――!!)
生じたパルスは、ミカヅチの剣を掠め。
その電流が伝わり。
彼の身体へと大ダメージを―――
(はず、した)
与えなかった。
鷹捲の成功率は1/3。失敗率は2/3。
不運にも彼女はその2/3を引いてしまったのだ。
不運にも彼女はその2/3を引いてしまったのだ。
宙で身を捩った為に、剣を躱すことはできたものの、あかりはミカヅチの真横を通り過ぎ、なにを為すこともなく地に落ちる。
(ッ、早く態勢を)
着地と同時にすぐさま同じ構えを取ろうとする。
「ぁ」
時すでに遅し。
あかりの姿勢が整う前にミカヅチは振り返りあかりへと剣を向ける。
多少距離があれど、彼の脚力であればそこはもはや射程圏内だ。
疲労しきった絹旗も高千穂もココポも琵琶坂も、もはや妨害できぬ間合いだ。
多少距離があれど、彼の脚力であればそこはもはや射程圏内だ。
疲労しきった絹旗も高千穂もココポも琵琶坂も、もはや妨害できぬ間合いだ。
「終わりだ」
鷹捲の姿勢に戻ろうとしつつも、ミカヅチの呟きにあかりは己の死を直感する。
視界に映るミカヅチの動きはひどくゆっくりに見えるのに、自分の身体は全く追いつかない。
視界に映るミカヅチの動きはひどくゆっくりに見えるのに、自分の身体は全く追いつかない。
そして、その時間に終焉を齎さんと、ミカヅチは強く地面を踏み込んだ。
「な、に...?」
彼の視界が逆転した。
躓いたのだ。
先ほどまでなかった突起状の土の盛り上がりに。
「あかりちゃん」
呆気にとられるあかりの耳に声が届く。
隣にはいない筈なのにすぐ傍で背中を押してくれるような錯覚を覚えた。
隣にはいない筈なのにすぐ傍で背中を押してくれるような錯覚を覚えた。
「私だって、悔しかったのよ」
同じ喪失と悲しみを経験した彼女―――カタリナ・クラエスの魔法が、あかりに再び挑む機会を与えてくれた。
「―――なめるなぁぁぁぁぁ!!」
姿勢を大幅に崩したとはいえ、ミカヅチは歴戦の戦士である。
彼はこの異常事態に驚愕するのではなく、瞬時に次なる攻撃の体勢に変える。
宙で宙がえりをし、剣を振り下ろす体勢へと入る。
瞬間の判断力の高さと、強靭且つ柔軟な肉体から繰り出される剣撃。仮面以上に、彼を左近衛大将たらしめる技だ。
通常の筋力に加え遠心力も上乗せされた一撃は、この場における最硬の防御力である絹旗の窒素装甲でも容易く防げるものではない。
彼はこの異常事態に驚愕するのではなく、瞬時に次なる攻撃の体勢に変える。
宙で宙がえりをし、剣を振り下ろす体勢へと入る。
瞬間の判断力の高さと、強靭且つ柔軟な肉体から繰り出される剣撃。仮面以上に、彼を左近衛大将たらしめる技だ。
通常の筋力に加え遠心力も上乗せされた一撃は、この場における最硬の防御力である絹旗の窒素装甲でも容易く防げるものではない。
(ありがとうカタリナさん)
奇しくもソレは、あかりと同じくパルスを生み出す回転だった。
先ほどとは違い、あかりはその場で跳躍・宙がえりしパルスを増幅させる。
「鷹捲!!」
ミカヅチの振り下ろしとあかりの指先が肉薄し接触した。
―――ザッ。
あかりの中指が中央から縦に裂かれる。
あかりが最初の鷹捲とは違いミカヅチへと接近しようとはしなかったこと、さしものミカヅチも咄嗟の振り下ろしで距離感を微かに損ねたのはあかりにとっての幸運だろう。
そうでなければあかりは中指どころかその身が両断されていたのは間違いないのだから。
そうでなければあかりは中指どころかその身が両断されていたのは間違いないのだから。
鷹捲は決して無敵の技ではない。
振動する力が相殺しきれないほどに高い攻撃を受ければ殺しきれない分のダメージを負うことは免れない。
ミカヅチの回転が生み出すパルスはあかりの鷹捲よりも多く、残る振動する力でも十分に彼女を殺傷することができる。
振動する力が相殺しきれないほどに高い攻撃を受ければ殺しきれない分のダメージを負うことは免れない。
ミカヅチの回転が生み出すパルスはあかりの鷹捲よりも多く、残る振動する力でも十分に彼女を殺傷することができる。
―――バチィ
「ッ!?」
しかし、それは彼が振動する力を攻撃の主眼に置いていた場合においてはだ。
ミカヅチの攻撃はあくまでも斬撃が目的であり、生じたパルスはその副産物でしかない。
彼はパルスを操ることは一切できないのだ。
対して、あかりの鷹捲はパルスを通じて敵を蝕む振動の技。
彼はパルスを操ることは一切できないのだ。
対して、あかりの鷹捲はパルスを通じて敵を蝕む振動の技。
即ち。
あかりの鷹捲は、彼女の産んだパルスとミカヅチのパルス、その両方を孕んだ技となる。
ミカヅチの持つクロガネ征嵐へとパルスが立ち上る。
クロガネ征嵐は如何な衝撃のおいても壊れない特性を有する。
しかし、使い手へ伝わる振動する力を防ぐことはできない。
その振動が腕を伝う様に驚愕しつつも、実感する。
これがあの御方の遺したものであることを。
振動が腕のみならず、全身に広がっていくのを感じながらもミカヅチは小さく微笑んだ。
「貴女たちの勝利です―――姫殿下」
そして。
振動が全身に伝わり切ると同時に―――左近衛大将ミカヅチの衣服が、下着を残して弾け飛んだ。
ドサリとミカヅチの身体が地に落ち、辺りは静寂に包まれる。
はあ、はあ、と誰のものとも知れぬ息遣いが空気を支配する。
やがて、あかりが動き出し、ミカヅチの胸板に耳を乗せる。
信じられないと言わんばかりに、あかりの表情が歪む。
「あかりちゃん!」
「あかり」
「あかり」
カタリナと高千穂があかりに駆け寄る。
「カタリナさん...高千穂さん...!」
あかりは涙を滲ませ顔を上げた。
彼女の鼓膜をうったのは、鼓動の音。
彼が生きている証。
即ち―――
「私...できたよ...!!」
『武偵』として、間宮あかりはこの場を収めることが出来たということ。
あかりの勝利宣言に、カタリナと高千穂は破顔し、歓喜のあまりあかりを強く抱きしめた。
これ以上なく喜色を浮かべる三人を遠目に見ながら、ようやくこの戦いが終わったのだと悟った絹旗・ココポ・琵琶坂の三人は大きく息を吐き肩の力を抜くのだった。
☆
「それで、なにか言うことはないんですか」
数分後、あかりは腕組をする絹旗の前で正座させられていた。
「え、えーっと...」
包帯を巻かれた中指で頬を搔きながらあかりは目を逸らす。
「『なんで絹旗さんが怒ってるかわかりませーん』ってことですか?ハッ、なら超わかりやすく教えて差し上げますよ!」
ズイ、と絹旗は背を屈ませあかりへと顔を寄せる。
「さっきも言いましたがね、あんたが一人でやるなんて言い出さなかったらこんな超めんどくさい戦いにはならなかったんですよ」
さらにズイ、と顔を寄せる絹旗にあかりは圧迫感を感じのけ反る。
「私が窒素装甲で受けて、他の四人でかく乱して、あなたが鷹捲とやらでフィニッシュ!これが最初からできてれば超楽にパパーッとカタがついてたんですよ」
ズズイ、ともはや鼻先が頬にささるくらいの至近距離にまで近づく絹旗にあかりは更にのけ反る。
「あなたのわがままに振り回されて、クッタクタのヘットヘトになった私たちに超言うべきことがなにもないとお思いなんですか!?」
もはや頭突きしてもおかしくないほどにゴリゴリと額を押し付けてくる絹旗にあかりは涙目になりながら顔を逸らす。
「絹旗さんの言う通りよ、あかり」
先ほどまでは喜びを分かち合っていた高千穂だが、絹旗への同意を表すように厳しい目つきになりあかりを叱咤する。
「武偵憲章第三条。強くあれ。但し、その前に正しくあれ。あの状況下と実力差で一対一を臨むのはどう考えても悪手でしかないわ。
もしもあなたが最初の立ち合いで切られていたらここにいるみんなも命が危なかった。それはわかっていて?」
「ごめんなさい...」
もしもあなたが最初の立ち合いで切られていたらここにいるみんなも命が危なかった。それはわかっていて?」
「ごめんなさい...」
高千穂に痛いところを突かれ、あかりはしゅんと縮こまる。
「でも」
あかりから謝罪の言葉を聞いた途端に、高千穂の目元からは力みが抜け言葉も柔らかいものになる。
「本当に頑張ったわね、あかり」
労いの言葉と共に、絹旗とあかりの間にさりげなく割って入り彼女を抱きしめる。
「高千穂さん...わぁあああん」
顔に押し付けられる柔らかい感触と温もりに、あかりの顔はくしゃりと歪み、涙ながらに顔を埋めた。
そんな彼女の頭を撫でつつ、労う感情の一方でこうも思う。
そんな彼女の頭を撫でつつ、労う感情の一方でこうも思う。
(傷ついたあかりに厳しくも優しく指導する―――辛い時にこそ寄り添える私!佐々木志乃、心友の席は私が一歩リードしたようね!)
下心を隠せない高千穂の笑みに、存外強かな女ですねと絹旗はかぶりを振った。
(まあそのくらい図太い方が助かりますがね)
浜面たちの件を全く引きずっていない訳ではなさそうだが、ウダウダと悩み続けるよりは非常に心強い。
それは今回のあかりとの差で如実に響いてきた。
それは今回のあかりとの差で如実に響いてきた。
(当面の問題は...アレをどうするかですね)
絹旗はチラとカタリナと琵琶坂とココポに介抱を兼ねた拘束を施されているミカヅチへと視線をやる。
パンイチ、しかも武器も没収されたとなっては先刻までの脅威はなくなったとも見れる。
しかし、それと彼が殺し合いに乗るのを止めるかはまた別の問題だ。
例え武器が無くとも、あの身体能力と戦闘における経験値は敵にまわせば非常に厄介だろう。
パンイチ、しかも武器も没収されたとなっては先刻までの脅威はなくなったとも見れる。
しかし、それと彼が殺し合いに乗るのを止めるかはまた別の問題だ。
例え武器が無くとも、あの身体能力と戦闘における経験値は敵にまわせば非常に厄介だろう。
(正直に言えば超即刻始末しておきたいところですが)
絹旗は暗部の人間だけあって、あかりたちと比べて不殺への意識はかなり低い。
有事の際に敵を殺すことに関しては別に悪いことだとは思っていないし躊躇いもない。
有事の際に敵を殺すことに関しては別に悪いことだとは思っていないし躊躇いもない。
(ただここで高千穂さんたちと揉め事起こすのは超面倒ですよね...さて、どうなることやら)
ほどなくして介抱と拘束を終えたカタリナと琵琶坂があかりたちのもとへとやってくる。
「お待たせあかりちゃん。これで一安心ね」
「あの、ミカヅチさんは...」
「だいじょうぶだいじょうぶ。呼吸も安定してたし、琵琶坂さんと一緒に傷の手当もしたから」
「カタリナさん、琵琶坂さん、ありがとうございました。それと...迷惑かけてごめんなさい」
「いっ、いやいや私こそさっきまで呑気に気絶してたし、結果オーライでなによりよ、うん!」
「僕は言っただろう。きみの意思を尊重すると。カタリナさんの言う通り、これがきみの望み選んだ結果ならばなによりさ」
「あの、ミカヅチさんは...」
「だいじょうぶだいじょうぶ。呼吸も安定してたし、琵琶坂さんと一緒に傷の手当もしたから」
「カタリナさん、琵琶坂さん、ありがとうございました。それと...迷惑かけてごめんなさい」
「いっ、いやいや私こそさっきまで呑気に気絶してたし、結果オーライでなによりよ、うん!」
「僕は言っただろう。きみの意思を尊重すると。カタリナさんの言う通り、これがきみの望み選んだ結果ならばなによりさ」
ぺこりと頭をさげるあかりに、カタリナは慌てて、琵琶坂は落ち着き払いながら彼女を労わる。
戦闘での場の興奮も落ち着いてきたところを見計らい、絹旗が声を挙げる。
「それじゃあこれからですが―――」
「ホロロロォ―――!!!」
「ホロロロォ―――!!!」
絹旗の声を遮るように、ココポの叫びが響き渡る。
何事かと皆が振り向けば、彼女(ココポは雌である)は忙しくミカヅチの周囲を走り回っていた。
もしや、ミカヅチが目を覚ましたのか。否応にも緊張の空気が走る。
だが、それもまた一瞬で変わる。
何事かと皆が振り向けば、彼女(ココポは雌である)は忙しくミカヅチの周囲を走り回っていた。
もしや、ミカヅチが目を覚ましたのか。否応にも緊張の空気が走る。
だが、それもまた一瞬で変わる。
―――ガボッ
真赤な塊が漢の口から放たれた。
ソレは地面に落ちるとジワジワと広がり赤い染みを作っていく。
吐き出されたソレが大量の血塊だと理解すると同時に、あかりと高千穂が、遅れてカタリナ・琵琶坂・絹旗が駆け出す。
あかりが彼の身体を抱き寄せ、何度も名前を呼んでも返ってくるのは尚も吐き出される赤色だけ。
びちゃびちゃ、びちゃびちゃと赤色があかりや高千穂の制服を赤く濡らし、彼は苦悶の表情を浮かべる。
そうして少しの間だけ痙攣すると、やがて荒い息も小さくなっていき、ほどなくして沈黙した。
なにを遺すでもなく。ただただ唐突に。
左近衛大将ミカヅチは、その心臓の鼓動を止めた。
☆
あかりと高千穂は心臓マッサージと人工呼吸を繰り返し必死に命を繋ごうとする。
「な、なんで...」
一方で、カタリナは顔面を蒼白させ佇んでいた。
自分と琵琶坂が看ていた時は気絶していたとはいえ、なんともなかったはずだ。
まさか自分の介抱の仕方が間違っていたのか?
そんなはずはない。琵琶坂から分けられた、気分がよくなる光も塗ったし、実際に自分もたんこぶの痛みが治まった。
だから彼がこんなことになる道理はどこにもなかったはずだ。
なのになぜ。
自分と琵琶坂が看ていた時は気絶していたとはいえ、なんともなかったはずだ。
まさか自分の介抱の仕方が間違っていたのか?
そんなはずはない。琵琶坂から分けられた、気分がよくなる光も塗ったし、実際に自分もたんこぶの痛みが治まった。
だから彼がこんなことになる道理はどこにもなかったはずだ。
なのになぜ。
「...あかりちゃん、高千穂さん。もうよしたまえ」
琵琶坂は必死に救命措置を続けるあかりと高千穂の肩に手を置き宥める。
「あかりちゃん、これは素人目で見ての検分だがね...不幸な事故だと僕は思うんだ」
「事故...?」
「彼の身体をみてくれ」
「事故...?」
「彼の身体をみてくれ」
琵琶坂はミカヅチの身体を指差し注目を集める。
彼の身体は傷がついていない箇所が無いほどに痛々しいものだった。
彼の身体は傷がついていない箇所が無いほどに痛々しいものだった。
「あの怪我であそこまで動けたのが奇跡のようなものだったんだ。そこで気絶なんてしようものなら...」
「ぇ...」
「ぇ...」
あかりは腹が底冷えするような感覚に襲われる。
もしも琵琶坂の検分が正しいなら、鷹捲がミカヅチを殺したことになる。
つまりは結局あかりは武偵の禁を犯したことになる。
その事実が、呪詛のようにあかりに纏わりついてくる。
もしも琵琶坂の検分が正しいなら、鷹捲がミカヅチを殺したことになる。
つまりは結局あかりは武偵の禁を犯したことになる。
その事実が、呪詛のようにあかりに纏わりついてくる。
「あかりちゃん。これはきみのせいじゃない。あれだけ派手に動き顔色も良かった彼がこうなるなんて誰に想像がつくものか」
「ホロォロ...」
「ホロォロ...」
眉を下げ、心底悼むような表情であかりの肩を抱き寄せ慰めの言葉をかける琵琶坂と、彼らとミカヅチを交互に見て悲し気な声を漏らすココポ。
そんな彼を訝し気な目で見る絹旗。
そんな彼を訝し気な目で見る絹旗。
そして高千穂は必死に周囲を見回す。
(あかりが殺したなんてありえないわ!絶対になにか他に原因があるはずよ!)
彼女はなんの根拠もなしにそう考えているわけではない。
高千穂は鷹捲の特性を大まかではあるが知っている。
あれは遅効性の技ではなく即効性の技。
即ち、仮に琵琶坂の検分が正しいとしても、ミカヅチが死ぬならばその瞬間であり、数分後に効果を発揮し死に至らしめるという結末は訪れないのだ。
なにか他に原因があるはずなのだ。
例えばそう、何者かが介入したとか―――
高千穂は鷹捲の特性を大まかではあるが知っている。
あれは遅効性の技ではなく即効性の技。
即ち、仮に琵琶坂の検分が正しいとしても、ミカヅチが死ぬならばその瞬間であり、数分後に効果を発揮し死に至らしめるという結末は訪れないのだ。
なにか他に原因があるはずなのだ。
例えばそう、何者かが介入したとか―――
「ッ!」
そして高千穂は見つけた。
ミカヅチを蝕んだと思われるモノの存在―――ではない。
飛来する見覚えのある紙を。
それが、あかりと琵琶坂目掛けて飛んできているのを認識した瞬間―――彼女は、反射的に動いた。
ミカヅチを蝕んだと思われるモノの存在―――ではない。
飛来する見覚えのある紙を。
それが、あかりと琵琶坂目掛けて飛んできているのを認識した瞬間―――彼女は、反射的に動いた。
「危ないあかり!」
そして紙が彼女に触れた瞬間。
彼女の身体は、燃え上がった。
「ガッ、ギ、アァァ」
「クックク、覚えのある力の気配につられてみれば、おるわおるわムシケラが」
「クックク、覚えのある力の気配につられてみれば、おるわおるわムシケラが」
肉が焼ける音と高千穂麗の悲鳴を背景に、一同の前にふわりと白き装束が舞い降りる。
平安時代を思わせる道士の装飾。
顔に火傷が刻まれながらも浮かべる不敵な笑み。
なにより邪悪に立ち上る黒き氣は、見る者すべてに告げていた。
顔に火傷が刻まれながらも浮かべる不敵な笑み。
なにより邪悪に立ち上る黒き氣は、見る者すべてに告げていた。
「せいぜい抗ってみせろ。私が退屈を紛らわせる程度にはな」
温い友情物語は終わりだ。これより始まるのは鬼による虐殺の時間だと。
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