それは、春休みに入ってからのこと
家の仕事の手伝いの一環でだった
家の仕事の手伝いの一環でだった
「……ここか」
笛吹探偵事務所
そこに、俺は足を踏み入れた
そこに、俺は足を踏み入れた
「すみませ…………あ」
「あ」
「あ」
…そこの、多分、所長が座るのだろう、椅子
そこに座っているのは、思いっきり、俺の顔見知りだった
そこに座っているのは、思いっきり、俺の顔見知りだった
「…獄門寺?」
「……明日か」
「……明日か」
クラスメイトの、明日 真だ
いや、二年になったらクラス替えがある訳だから、またクラスメイトになるかどうかは、知らないが
いや、二年になったらクラス替えがある訳だから、またクラスメイトになるかどうかは、知らないが
「…ここ、笛吹探偵事務所、だよな?」
念のため、尋ねると
「あぁ、そうだ」
と、すぐに答えが返ってきて
………
どういうことだ?
………
どういうことだ?
「えぇと、とりあえず…何か、探偵に依頼が?」
「そうなんだが…」
「それなら、俺が依頼を受けるから、話を聞かせてもらえないか?」
「そうなんだが…」
「それなら、俺が依頼を受けるから、話を聞かせてもらえないか?」
ひとまず、明日がこの探偵事務所にいた事情やら何やら、簡単に説明されて…とりあえず、納得する事にした
少し驚いたが、相手が知り合いだろうが何だろうが、俺はここで人探しを頼まなければならないのだから
少し驚いたが、相手が知り合いだろうが何だろうが、俺はここで人探しを頼まなければならないのだから
「人探し?」
「あぁ…俺は、ある人の代理で依頼を持ってきてるんで、その人の事は詳しく知らないんだが……名前は、朝比奈 まどか。つっても、離婚したんで姓は変わってて、どんな姓を名乗ってるかわからないんだが」
「離婚して姓が変わってるのなら、旧姓になってるんだろう?」
「…その人は、実家から勘当されていて、その家の姓を名乗る事を禁じられている」
「あぁ…俺は、ある人の代理で依頼を持ってきてるんで、その人の事は詳しく知らないんだが……名前は、朝比奈 まどか。つっても、離婚したんで姓は変わってて、どんな姓を名乗ってるかわからないんだが」
「離婚して姓が変わってるのなら、旧姓になってるんだろう?」
「…その人は、実家から勘当されていて、その家の姓を名乗る事を禁じられている」
ややこしい事情だと思う
これだから、旧家と言うやつは
これだから、旧家と言うやつは
「だから、今、その人がどんな姓を名乗っているのか、全くわからない。そのせいで、その家の人間がその人を探してもずっと見つからない。だが、その人を勘当した両親も、そろそろ歳だし…いい加減、許してやろうって事で、顔を合わせたいんだそうだ」
「その両親が、本来の依頼人と言う事か」
「そうなるな」
「その両親が、本来の依頼人と言う事か」
「そうなるな」
全く、日景さん達も
六年前だかに、その娘さんが、お孫さんのことで家に乗り込んできた時に、許してやれば良かっただろうに
まぁ、その時に許せなかったからこそ、ここまでややこしくなってしまっているのだが…
六年前だかに、その娘さんが、お孫さんのことで家に乗り込んできた時に、許してやれば良かっただろうに
まぁ、その時に許せなかったからこそ、ここまでややこしくなってしまっているのだが…
「その…マドカさん、の写真とか、あるだろうか?」
「あぁ、預かってきてるけど…その人、今年で40歳になるらしいけど、写真は女子高生時代の物なんだが」
「これは酷い」
「あぁ、預かってきてるけど…その人、今年で40歳になるらしいけど、写真は女子高生時代の物なんだが」
「これは酷い」
一応、写真を渡しておく
そこには…どう見ても当時の不良です、ありがとうございました、と言う印象の女性が映し出されていた
女性は化粧や髪形や服でいくらでも化けるから、この写真が手がかりになるかどうか
そこには…どう見ても当時の不良です、ありがとうございました、と言う印象の女性が映し出されていた
女性は化粧や髪形や服でいくらでも化けるから、この写真が手がかりになるかどうか
「…本来の依頼人は、日景家 現当主代行 日景 薫。現当主 日景 宗光と、その妻日景 千鶴の娘……マドカを、見つけて欲しい。居場所を伝えてくれれば、一千万払うそうだ」
「一千万!?」
「足りないようだったら、もう一千万追加する、と言っていた」
「一千万!?」
「足りないようだったら、もう一千万追加する、と言っていた」
言われた事を、俺は伝えているだけだ
流石金持ちは違う、とかこっそりと思っている
あの家なら、一千万の二千万も大して違わないだろうし
流石金持ちは違う、とかこっそりと思っている
あの家なら、一千万の二千万も大して違わないだろうし
「受けてくれるだろうか?」
じっと、俺は明日を見詰めた
…正直、断れると結構困る
ここの探偵事務所は評判がいからと、任せられてきたのだ
薫さんとしては、現当主である宗光さんが、表向きまだ娘さんを許していないから…当主代行として、あの人自身が依頼を持ってくるわけにはいかない
当主の、表の顔を立てなければいけないから
…正直、断れると結構困る
ここの探偵事務所は評判がいからと、任せられてきたのだ
薫さんとしては、現当主である宗光さんが、表向きまだ娘さんを許していないから…当主代行として、あの人自身が依頼を持ってくるわけにはいかない
当主の、表の顔を立てなければいけないから
だから、日景家の人間ではない俺が、頼まれる事になったのだ
親父やお袋とか、組の人達が動いたら、気づかれる可能性もあるから
親父やお袋とか、組の人達が動いたら、気づかれる可能性もあるから
お使いといえば、お使い
…だが、非常にプレッシャーがかかると言うか期待を背負っているというか
正直、面倒くさい
ある意味で、他人の親子喧嘩の尻拭いに近い事を、これまた他人に頼むことなのだから
…だが、非常にプレッシャーがかかると言うか期待を背負っているというか
正直、面倒くさい
ある意味で、他人の親子喧嘩の尻拭いに近い事を、これまた他人に頼むことなのだから
明日は、写真をじっと見つめて…考え込んでいる様子で
「…その、宗光さん、だったか?…マドカさんを、許そうとしてるん、だよな?」
「あぁ。大きい病気とか手術とかして、気が弱ってるから…死ぬ前に、娘の顔が見たいって気持ちがあるのかもしれない」
「あぁ。大きい病気とか手術とかして、気が弱ってるから…死ぬ前に、娘の顔が見たいって気持ちがあるのかもしれない」
そうか、と頷いて、明日は顔をあげてきた
「それなら、依頼を断るわけにはいかない…その依頼、受けさせてもらう」
「!……そうか、良かった」
「!……そうか、良かった」
俺は、ほっと息を吐いた
ごそごそと、鞄から預かって来た封筒を手渡す
ごそごそと、鞄から預かって来た封筒を手渡す
「これ、当面の調査費用として使ってくれ、って預かってきてたんだ。マドカさんが見付かった場合の報酬とは別だってよ」
「わかった……って、この封筒、かなり分厚いんだが…」
「俺は中身を見てないんで、いくら入ってるかは知らない」
「わかった……って、この封筒、かなり分厚いんだが…」
「俺は中身を見てないんで、いくら入ってるかは知らない」
…ただ、この厚さ
中身が全部一万円札だったら、軽く二百万くらいだと思うんだが…
……高校生にこんな大金預けるなよな、日景さんも
中身が全部一万円札だったら、軽く二百万くらいだと思うんだが…
……高校生にこんな大金預けるなよな、日景さんも
「調査結果は、どこに連絡すれば?」
「俺の携帯に頼む。日景さんたちには俺から伝えるから……携帯の番号は、初詣の時に知らせたよな」
「俺の携帯に頼む。日景さんたちには俺から伝えるから……携帯の番号は、初詣の時に知らせたよな」
あぁ、と頷いてきた明日
……よし
これで、俺の役目は終わった
これで、俺の役目は終わった
「それじゃあ、よろしく頼んだ。期限は特にもうけないそうだから、他に優先すべき依頼があった時はそっちを優先しておいてくれ」
「わかった。本来の依頼人さんによろしくな」
「わかった。本来の依頼人さんによろしくな」
それじゃあ、また新学期にでも…と、別れの挨拶をして、俺は探偵事務所を出た
すぐに、携帯を取り出す
すぐに、携帯を取り出す
「…日景さん?……はい、依頼、受けてもらえました……当主様の様子は?………はぁ。まぁ、あの人だったらまだまだ何十年も元気に生きそうですけど……」
それでも、病は気から
マドカさんと会えば、宗光さんも元気になるだろう
マドカさんと会えば、宗光さんも元気になるだろう
……喧嘩腰的な意味で元気にならない事を祈るしかない訳だが
本当なら、お孫さんである、翼とか言う人もその場に立ち会った方がいいのかも、しれないが…
…まぁ、他人の家の事情に、深く首を突っ込むまい
…まぁ、他人の家の事情に、深く首を突っ込むまい
ひとまずは、仕事から解放されて
俺は大きく伸びをしながら、帰路についた
途中、花子さんと合流して何か甘い物でも食べさせてやろうかな、とか、そんな事を考えながら
俺は大きく伸びをしながら、帰路についた
途中、花子さんと合流して何か甘い物でも食べさせてやろうかな、とか、そんな事を考えながら
fin