…ほぅ、と
一人の幼女が、真っ白な息を吐き出す
さく、さく
施設の周りの雪を踏みしめ歩く幼女
寒い中、薄っぺらなコート一枚
帽子も手袋も耳当てもつけちゃいない
それでも、雪の中、歩くのが楽しくて
さくさく、さくさく、さくさくさく
一人の幼女が、真っ白な息を吐き出す
さく、さく
施設の周りの雪を踏みしめ歩く幼女
寒い中、薄っぺらなコート一枚
帽子も手袋も耳当てもつけちゃいない
それでも、雪の中、歩くのが楽しくて
さくさく、さくさく、さくさくさく
「………わぁ」
空を見上げ、幼女は感嘆の声をあげた
空にぽっかりと浮かんだ月は、綺麗で、綺麗で
思わず、うっとりと見あげてしまう
空にぽっかりと浮かんだ月は、綺麗で、綺麗で
思わず、うっとりと見あげてしまう
幼女はまだ知らない
この世界が、どんなに歪か
幼女はまだ知らない
この街が、どんなに歪か
この世界が、どんなに歪か
幼女はまだ知らない
この街が、どんなに歪か
知らないが故に、幼女は純粋だ
汚れなど知らぬ、新雪のように
汚れなど知らぬ、新雪のように
雪だるまを作りたいな
そう考えた幼女
そっと、雪に手を伸ばして
そう考えた幼女
そっと、雪に手を伸ばして
「………吉静ちゃーん?」
名前を呼ばれて、そちらに視線をやる
見ると、施設の職員が、息を切らせて走ってきていて
見ると、施設の職員が、息を切らせて走ってきていて
「駄目でしょう、こんな時間に外に出たら。風邪を引きますよ!」
「…ぅ……御免なさい…」
「…ぅ……御免なさい…」
怒られて、しょぼんとする幼女
心配させてしまった、としょんぼりだ
心配させてしまった、としょんぼりだ
幼女は知らない、気づかない
この職員が、彼女のことをこれっぽっちも心配していない事実に
ただ、風邪でも引かれて自分の責任にされたら困ると
ただ、保身しか考えていない事実を知らない、気づかない
この職員が、彼女のことをこれっぽっちも心配していない事実に
ただ、風邪でも引かれて自分の責任にされたら困ると
ただ、保身しか考えていない事実を知らない、気づかない
「ほら、帰りますよ」
「はぁい」
「はぁい」
職員は、幼女の手も引かずにさっさと歩き出す
さく、さく、と
幼女は、置いていかれないよう歩き出す
寒い空気の中に晒され続けた手は痛いほどに赤くなっていたが、それを温めてくれる存在は彼女にはいない
さく、さく、と
幼女は、置いていかれないよう歩き出す
寒い空気の中に晒され続けた手は痛いほどに赤くなっていたが、それを温めてくれる存在は彼女にはいない
彼女の名前は 穀雨 吉静
とある養護施設に住まう幼女
両親の顔を、彼女は知らない
彼女の記憶の中に両親は存在せず、気づいた時にはこの施設にいたから
とある養護施設に住まう幼女
両親の顔を、彼女は知らない
彼女の記憶の中に両親は存在せず、気づいた時にはこの施設にいたから
吉静は近々、決定した引き取り手に引き取られる予定である
優しい人だといいな、と吉静はわくわくしていた
優しい人だといいな、と吉静はわくわくしていた
吉静は、予感もしてない
自分を引き取ろうとしているその相手が、自分を実験台にしようとしている事実など
自分を引き取ろうとしているその相手が、自分を実験台にしようとしている事実など
吉静は、予感もしていない
その相手に引き取られる事は、彼女にとって人生の終わりを意味している事を
その相手に引き取られる事は、彼女にとって人生の終わりを意味している事を
吉静の運命がどうなるのか
それは、まだ誰にもわからず
それは、まだ誰にもわからず
すべては、ただ、神のみぞ知る
to be … ?