はらはら、はらはらと雪が降る
はらはら、はらはら、はらはらはら
はらはら、はらはら、はらはらはら
そんな街中の商店街を、一人の男が歩く
男、上田 明也は、探偵であり、殺人鬼であり、ロリコンである
だが、別に指名手配されているわけでもなし、見た目から彼のそんな本性を見抜ける人間なんて、そうそういない
だからこそ、真昼間から堂々と出歩く事ができるのだ
とまれ、雪がやまぬ糞寒い中、この匂いは反則だろう、と上田は思った
ふわふわ、ふわふわ、ふわふわふわ
美味しそうな、肉まんの匂い
肉屋の店先でコロッケ、ならよくあるが…この店は、肉まんも販売していたのだ
ふわふわ、ふわふわ、ふわふわふわ
尾行をくすぐる誘惑の香り
この誘惑に抗える日本人はいるか?否、いない!!
男、上田 明也は、探偵であり、殺人鬼であり、ロリコンである
だが、別に指名手配されているわけでもなし、見た目から彼のそんな本性を見抜ける人間なんて、そうそういない
だからこそ、真昼間から堂々と出歩く事ができるのだ
とまれ、雪がやまぬ糞寒い中、この匂いは反則だろう、と上田は思った
ふわふわ、ふわふわ、ふわふわふわ
美味しそうな、肉まんの匂い
肉屋の店先でコロッケ、ならよくあるが…この店は、肉まんも販売していたのだ
ふわふわ、ふわふわ、ふわふわふわ
尾行をくすぐる誘惑の香り
この誘惑に抗える日本人はいるか?否、いない!!
「肉まん一つー」
「はいよ!」
「はいよ!」
上田も、その例外ではなく、肉まんを購入することにした
寒い中、外で歩きながら食べる肉まんと言うのは、美味しいものだ
寒い中、外で歩きながら食べる肉まんと言うのは、美味しいものだ
……と
店の店主は、なぜか上田に、肉まんを二つ、渡してきた
店の店主は、なぜか上田に、肉まんを二つ、渡してきた
「おや?店主、肉まんは一つで…」
「一個はサービスさ……あそこにいるお嬢ちゃんに、渡してくれるかい?」
「一個はサービスさ……あそこにいるお嬢ちゃんに、渡してくれるかい?」
す、肉屋の店主が指差した先
……そこには、一人の幼女がいた
小さな、小さな幼女
多分、6歳前後くらいだろうか
上田的に言うならば、ナイスロリータ、である
この寒い中、帽子も被らず、マフラーも手袋も身につけず、当然、耳当てもつけていない
コートも薄っぺらで、寒そうで
そんな幼女が…じーーーーーっと、店先の肉まんを見つめているのだ
きっと、肉まんを食べたいのだろう
しかし、金がなくて変えないのだろう
……そこには、一人の幼女がいた
小さな、小さな幼女
多分、6歳前後くらいだろうか
上田的に言うならば、ナイスロリータ、である
この寒い中、帽子も被らず、マフラーも手袋も身につけず、当然、耳当てもつけていない
コートも薄っぺらで、寒そうで
そんな幼女が…じーーーーーっと、店先の肉まんを見つめているのだ
きっと、肉まんを食べたいのだろう
しかし、金がなくて変えないのだろう
なるほど、と上田は考えた
この店主、先ほどから、あの幼女になんとかして肉まんを渡してやろうと思っていたのだろうが、うまく言い出せなかったのだろう
……まぁ、この素敵にゴツイ顔に近づかれたら、幼女が泣き出しそうな予感がしないでもないので、上田にたくして正解かもしれない
上田の性癖を知っていたならば、任せなかったかもしれないが
この店主、先ほどから、あの幼女になんとかして肉まんを渡してやろうと思っていたのだろうが、うまく言い出せなかったのだろう
……まぁ、この素敵にゴツイ顔に近づかれたら、幼女が泣き出しそうな予感がしないでもないので、上田にたくして正解かもしれない
上田の性癖を知っていたならば、任せなかったかもしれないが
「OK、任せてくれ……俺は全世界の幼女の味方だ」
店主の意思を受け継いで……上田は肉まんをもって、幼女に近づいた
幼女は、店先の肉まんに視線を集中させていて、上田に気づいた様子はない
幼女は、店先の肉まんに視線を集中させていて、上田に気づいた様子はない
「お嬢さん」
「??」
「??」
声をかけれて、ようやく上田に気づいた幼女
上田を見あげて、きょとん、と愛らしく首を傾げてくる
上田を見あげて、きょとん、と愛らしく首を傾げてくる
「おにいちゃん、だぁれ?」
「通りすがりのはらぺこ幼女の味方さ。さぁ、この肉まんをお食べ」
「通りすがりのはらぺこ幼女の味方さ。さぁ、この肉まんをお食べ」
す、と肉まんを差し出す上田
幼女は、キラキラと瞳を輝かせて、肉まんを見つめて…
…が、すぐにしゅんとした表情を浮かべてくる
幼女は、キラキラと瞳を輝かせて、肉まんを見つめて…
…が、すぐにしゅんとした表情を浮かべてくる
「…しらないひとから、ものをもらっちゃいけません、っていわれてるの」
あぁ、なんと良い子だろう
大人のいい付けをきちんと護る、純粋な良い子
が、このまま肉まんが食べられないのでは、可哀想だ
大人のいい付けをきちんと護る、純粋な良い子
が、このまま肉まんが食べられないのでは、可哀想だ
「お嬢さん、お名前は?」
「しらないひとに、なまえをいっちゃいけません、って…」
「俺の名前は、上田 明也」
「しらないひとに、なまえをいっちゃいけません、って…」
「俺の名前は、上田 明也」
……この時
何故、いつも名乗っている偽名ではなく、本名を名乗ってしまったのか
正直、上田にはわからなかった
ただ、何故か……この幼女に対して、嘘をつきたくない、と
この瞬間、なぜか、そう思ってしまったのだ
何故、いつも名乗っている偽名ではなく、本名を名乗ってしまったのか
正直、上田にはわからなかった
ただ、何故か……この幼女に対して、嘘をつきたくない、と
この瞬間、なぜか、そう思ってしまったのだ
突然、名前を名乗った上田の様子に
幼女はますます、首を傾げた
幼女はますます、首を傾げた
「名前がわかったら、もう知らない人じゃないだろう?」
「あ、そっか!」
「あ、そっか!」
納得してくれたらしい幼女
名前がわかったからと言って、知らない人ではないと言う訳ではないのだが、今はそう言う事にしてもいいだろう
それくらい、幼女はおなかをすかせていたのだから
そっと、上田から肉まんを受け取って
名前がわかったからと言って、知らない人ではないと言う訳ではないのだが、今はそう言う事にしてもいいだろう
それくらい、幼女はおなかをすかせていたのだから
そっと、上田から肉まんを受け取って
「……えっと、ね」
もじもじしながら、幼女は上田を見つめた
「わたし、ね。こくう よしずっていうの」
よろしくね、と
幼女…穀雨 吉静は、自分もまた、上田に名前を名乗ったのだった
幼女…穀雨 吉静は、自分もまた、上田に名前を名乗ったのだった
「そうか…お父さんとお母さんが、いないのか」
「そうなの」
「そうなの」
あむあむ
上田と吉静は、二人で公園のベンチに座り、肉まんを食べていた
幸い、雪も小ぶりなってきている
吉静は、寒さで真っ赤になってしまった手で、大切そうに肉まんを持って、一口一口ゆっくりと、味わうように食べていた
上田と吉静は、二人で公園のベンチに座り、肉まんを食べていた
幸い、雪も小ぶりなってきている
吉静は、寒さで真っ赤になってしまった手で、大切そうに肉まんを持って、一口一口ゆっくりと、味わうように食べていた
二人で肉まんを食べながら、上田はさり気なく、吉静の身の上を聞き出していた
こんな愛らしい幼女を、こんな糞寒い中、こんな薄着で放り出すなどどこの鬼畜親だ、と思ったからだ
しかし、実際には、吉静には両親がいなかった
記憶の中にすら両親は存在せず、ずっと養護施設で育ってきたらしい
こんな愛らしい幼女を、こんな糞寒い中、こんな薄着で放り出すなどどこの鬼畜親だ、と思ったからだ
しかし、実際には、吉静には両親がいなかった
記憶の中にすら両親は存在せず、ずっと養護施設で育ってきたらしい
「お父さんもお母さんもいなくて、寂しくないのかい?」
「さみしくないよ。おともだちはいっぱいいるし、せんせいたちもいるの」
「さみしくないよ。おともだちはいっぱいいるし、せんせいたちもいるの」
だから、寂しくない、と
健気に、吉静はそう言って見せた
しかし、上田は気づいてしまった
吉静が、一生懸命、寂しさを堪えている事に
寂しさを表に出したら、周りを心配させるとそう考えて…一生懸命、寂しさを押し殺している事に
健気に、吉静はそう言って見せた
しかし、上田は気づいてしまった
吉静が、一生懸命、寂しさを堪えている事に
寂しさを表に出したら、周りを心配させるとそう考えて…一生懸命、寂しさを押し殺している事に
純粋な子供だな、と上田は感想を抱いた
嘆かわしい事に、最近ではこれくらいの年齢でも、すれた子供が多いと言うのに
この吉静という幼女は、どこまでも純粋で、汚れ一つ知りやしない
嘆かわしい事に、最近ではこれくらいの年齢でも、すれた子供が多いと言うのに
この吉静という幼女は、どこまでも純粋で、汚れ一つ知りやしない
「それにね」
にっこりと、
吉静は上田に笑ってみせる
吉静は上田に笑ってみせる
「もうちょっとで、ね、かぞくができるの」
「家族?」
「うん、わたしをひきとってくれるひとがきまったんだって」
「家族?」
「うん、わたしをひきとってくれるひとがきまったんだって」
なるほど
養護施設では、里親も募集している訳か
幸運にも、彼女を引き取ってくれる里親が見付かった
そう言う事なのだろう
養護施設では、里親も募集している訳か
幸運にも、彼女を引き取ってくれる里親が見付かった
そう言う事なのだろう
「いい人だといいな」
「うん、やさしいひとだといいな」
「うん、やさしいひとだといいな」
上田に頭を撫でられて、吉静は嬉しそうに笑った
…惜しかったなぁ、と上田は思う
まだ決まっていなかったなら、いっそ、自分が吉静を引き取ってもいいのに
メルとかには…まぁ、うまくいえば大丈夫だろう、きっと
…惜しかったなぁ、と上田は思う
まだ決まっていなかったなら、いっそ、自分が吉静を引き取ってもいいのに
メルとかには…まぁ、うまくいえば大丈夫だろう、きっと
「吉静ちゃんは、その人がどんな人か、まだ知らないのかい?」
「えっとね、とおくから、うしろすがただけ、みたことあるの」
「えっとね、とおくから、うしろすがただけ、みたことあるの」
……この、次に
吉静が口にした、内容
それは、彼女の残酷な未来を、決定付けているかのようで
吉静が口にした、内容
それは、彼女の残酷な未来を、決定付けているかのようで
「まっくろなおようふくきて、まっくろなめがねをかけたおとこのひとだったの」
「--------え」
「--------え」
黒い服、サングラス
……「組織」の、黒服?
……「組織」の、黒服?
(…「組織」の黒服が、子供を引き取る?)
酷く、嫌な予感がした
何か、吉静というこの幼女の未来が……閉ざされてしまっているかのような
そんな、予感
何故だろう、希望に満ちた表情を、吉静は浮かべているのに
このままでは、彼女の未来には、一欠けらの希望すらないような
そんな、絶望感
何か、吉静というこの幼女の未来が……閉ざされてしまっているかのような
そんな、予感
何故だろう、希望に満ちた表情を、吉静は浮かべているのに
このままでは、彼女の未来には、一欠けらの希望すらないような
そんな、絶望感
「…ごちそうさまでしたー!」
けふっ
肉まんを食べ終わった吉静
上田にぺこり、頭を下げてくる
肉まんを食べ終わった吉静
上田にぺこり、頭を下げてくる
「どうもありがとう!」
肉まんのお礼を言ってきた吉静
きゅう、と上田の手を握る
小さな手
肉まんを持っていたお陰で、ほのかに温まった手
じわり、吉静の体温が上田に伝わる
きゅう、と上田の手を握る
小さな手
肉まんを持っていたお陰で、ほのかに温まった手
じわり、吉静の体温が上田に伝わる
「えとね、えとね……わたし、おっきくなったら、にくまんのおれいするね!」
「お礼?」
「うん!わたしがおっきくなったら…うえだおにいちゃんに、おっきなにくまんをつくってあげるの!」
「お礼?」
「うん!わたしがおっきくなったら…うえだおにいちゃんに、おっきなにくまんをつくってあげるの!」
約束だよ、とそう言って
するり、上田の小指に、吉静の小指が絡んだ
するり、上田の小指に、吉静の小指が絡んだ
「……あぁ、約束だ」
指きりげんまん
嘘ついたらハリセンボン飲ます
嘘ついたらハリセンボン飲ます
子供の約束の呪文
吉静が口にしたそれが、上田の耳にこびりつく
吉静が口にしたそれが、上田の耳にこびりつく
「それじゃあ、またね!」
「あ………」
「あ………」
約束を、して
帰らなければならない時間だったのだろうか
吉静はベンチを飛び降りて、走り出してしまった
追いかけようとして……しかし、上田は躊躇する
…彼女を引き取る人物が、「組織」の黒服とは限らない
たまたま、黒い服を着てサングラスをかけた男にすぎなかったのかもしれない
それに、「組織」の黒服だったとしても…もしかしたら、例の超お人好しのあの黒服のような、慈悲深い黒服かもしれないではないか
彼女の未来に希望がないなどと、決まっている訳ではない
帰らなければならない時間だったのだろうか
吉静はベンチを飛び降りて、走り出してしまった
追いかけようとして……しかし、上田は躊躇する
…彼女を引き取る人物が、「組織」の黒服とは限らない
たまたま、黒い服を着てサングラスをかけた男にすぎなかったのかもしれない
それに、「組織」の黒服だったとしても…もしかしたら、例の超お人好しのあの黒服のような、慈悲深い黒服かもしれないではないか
彼女の未来に希望がないなどと、決まっている訳ではない
「………」
しかし
吉静を追いかけなかったことを
呼び止めなかったことを、上田はすぐに後悔した
吉静を追いかけなかったことを
呼び止めなかったことを、上田はすぐに後悔した
嫌な予感が、こびりついて離れない
吉静の未来に、今のままでは絶望しか存在しないような錯覚
今のままでは、もう二度と、あの笑顔を見られないのではないか、と言うような、そんな……
吉静の未来に、今のままでは絶望しか存在しないような錯覚
今のままでは、もう二度と、あの笑顔を見られないのではないか、と言うような、そんな……
「……温かかったな」
一瞬だけ、触れた吉静の手
肉まんで温まった、小さな小さな手
その手の感触を思い出し……上田は、吉静が走り去っていった道を、じっと見つめ続けた
肉まんで温まった、小さな小さな手
その手の感触を思い出し……上田は、吉静が走り去っていった道を、じっと見つめ続けた
一つ歯車動き出す
彼女の確定しかけた未来に、何か変化が訪れかける
新たに作られ始めた未来の可能性がどうなるのか
彼女の確定しかけた未来に、何か変化が訪れかける
新たに作られ始めた未来の可能性がどうなるのか
全ては、ただ、神のみぞ知る
to be … ?