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単発 - 猫の住まう山守るモノ

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kemono

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猫の住まう山守るモノ


 とある山の中にひっそりとたたずむ神社。
 立派なつくりとはいえないが寂れているというわけでもなく、丁寧に管理されている印象を受ける。
 そして一見してわかる特徴として、猫の数が異様に多い。
 さほど広くもない境内に、十匹や二十匹ではきかない猫たちが、思い思いにくつろいだりじゃれあったりしている。

 その参道には巫女服を着た高校生ほどの少女が、竹箒で落ち葉を掃いている。
 その佇まいは巫女としてのそれであり、アルバイトなどではなく本職であることが伺える。
 竹箒が石畳を掃く小気味のいい音が響く境内に石段を登る足音が聞こえ、少女は箒を止める。

「あらミネコちゃん。今日も精が出るわねぇ」
「こんにちは、三宅のおばさま。お元気そうでなによりです」

 やってきたのは近所に住む女性。
 たびたび訪れては少女の話し相手になってくれたり、なにかと手助けしてくれる存在だ。
 少女たちは賽銭箱の奥にある階段に腰掛け、他愛もない談笑を始める。

「……それにしても神主さん、まだ戻られないのかしら?」
「そうですね、またしばらくは……。でも、神社のお世話にも慣れましたし、なんとかやっていけそうです」
「一人じゃいろいろと大変でしょう?何かあったら言って遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます。いざというときはお手をお借りしますね」
「いつでも頼ってちょうだいね。それじゃあ、頑張ってね」

 二、三十分ほど話し込んだのち、女性は少女に別れを告げて境内をあとにした。
 その姿を見送って一息つくと、少女の足元に一匹の猫が歩み寄ってきた。

『相変わらず話の長いやつにゃ。おかげで毛づくろいがはかどって仕方ないにゃ』
「あらこんにちは。今日はお客さんが多い日ね」

 ごく普通に話しかけてきた猫に、ごく普通に返事を返す少女。
 猫は先ほどまで女性が座っていた場所に香箱を組んで座る。
 まだ暖かさの残るそれに、満足そうに目を細める猫。

「あなたも元気そうでなによりね」
『にゃはは。猫たるもの寒さなんかに負けてらんないにゃ』
「猫は寒さも暑さも苦手、っていうのが普通だけど、やっぱりあなたは変な猫ね」
『変か変じゃないかといえば、にゃーの方こそ大概だと思うにゃ』

 猫は少女の瞳を見据えて言う。


『にゃーはいつまで人間ごっこを続けるつもりにゃ?』


 猫の言葉に少女は少し考えるそぶりを見せたのち、言葉をつなぐ。

「私がいなくなったら、ここがなくなっちゃうから。私は大好きなこの場所を守りたいの。ただそれだけ」
『にゃー。好きも過ぎると狂気の沙汰だにゃ』
「みんなの居場所を守ってあげてるんだから、少しは感謝してくれたっていいんじゃない?」

 少女は冗談めかして猫に笑いかける。

『ここいらの猫にとって、ここは他に代えようのない憩いの場所にゃ。みんなにゃーに感謝はしてるにゃー』
「あらうれしい。何年もここを守り続けてきたかいがあったわ」
『何年といえば、にゃーのその若作りはなんとかならんのにゃ?にゃーの歳なら人間になおせばもうきゅうじゅ……』

 がしっ。

「何か言った?」
『い、言ってないにゃ!にゃーは何も言ってないにゃー!だから離してくれにゃー!』

 猫の首根っこを掴んだ少女の瞳が、獣のそれへと変貌する。
 周囲の猫たちがそのただならぬ気配におびえた様子を見せ、少女の手中では猫がじたばたともがいている。

「失礼ねぇ、私はただちょっと他の猫より長生きしてて尻尾が二つに分かれてて人に化けられるようになっただけの、ただの猫よ?」

 少女の腰のあたりから二本の半透明の尻尾がすらりと伸びる。
 それがまるで意思を持つかのように、ゆらゆらと楽しげにゆれている。

 巫女服を着込んで微笑むこの少女は「猫又」。
 十五年とも二十年ともいわれる長い歳月を生き延び、妖力を得た猫の化生である。
 人に化け、人を化かすとされる猫又のご多分に漏れず、自分の正体に気づかぬ人間をあざ笑いながら、この神社に住み着いているのだ。

 少女はため息を吐くと、掴み上げていた猫をやさしく下ろしてやる。

『うにゃー……にゃーは猫又の癖に猫の扱いがひどいのにゃー。もっと後輩をいたわるにゃー』
「あなただって結構な歳じゃない。そういえば、あなたも猫又になったら私と一緒にここを守る気はないかしら?」
『にゃーは普通の猫として生涯をまっとうするのにゃー。もしにゃーが死んだら神社の裏に埋めてくれにゃ』
「あら残念。あなたがいなくなったら寂しくなるわ」
『せいぜい生きてる間は話し相手になってやるにゃ』

 お互いに顔を見合わせて笑いあう少女と猫。
 その様子は無二の親友同士であることを容易に想像させる。
 ひとしきり談笑を終えたのち、少女はひとつ伸びをして、すっくと立ち上がる。

「さて、そろそろ掃除に戻るわね。お買い物もしなきゃいけないし、さっさと終わらせなきゃ」
『頑張るにゃー。にゃーもここから応援してるにゃー』
「猫の手も借りたいところだけど、あなたには期待するだけ無駄ね」

 くすくすと笑いながら、少女は竹箒を手に参道へと進み出る。
 その腰から伸びていた二本の尻尾は、いつの間にか消えていた。


【終】




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