アットウィキロゴ

「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - モデルケース-08

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 上野小竹がターボババアと出会ったのは、ちょうど町に高速道路ができ始めたころだった。当時小竹は旅館の女将を引退し、隠居生活を送ろうとしていた。速さを求め、止まることを嫌っていた小竹ではあったが、体がついていかないのだ。どれだけ動きたくても体は老い続け、次第に動かなくなっていく。小竹にとってそれは死にも勝る苦痛であり、そのため死ぬまで止まることなく働くつもりであったが、ある時気が付いてしまった。自分が老い、遅くなっていくことでどれだけの人間が苦労するかを。
 小竹は女将であったが、女将の仕事と仲居の仕事の両方をやっていた。ずいぶんとキツイ仕事であったが、やりがいはあった。しかし、体が動かなくなることで仕事の進みは遅くなった。小竹はそれを認めず働いていたが、逃れようのない現実だった。仕事が滞らないようほかの従業員がサポートに回ろうとしたが、答えは今までやってきた矜持があるがゆえにそれを認めず拒否を続けた。女将である小竹に逆らうことのできる者は居なく、仕事の滞りは日に日に増えていった。
 ある日、それを息子に諭された。

「お袋、あんたがいるとみんながうまく動かねぇ」
「気づいてるだろ?女将の仕事だけでもきついぐらいだ!もうお袋は前みたいに働けねんだ」
「お袋のせいで、みんなの足並みが揃わなくなる。みんなが遅れるんだ!わかるだろ!」
「もういいんだよ母さん。あとは、俺に任せて休んでくれ」

 実の息子に言われては、さすがの小竹も認めざるを得なかった。その日を境に隠居を決意した。
 隠居生活はずいぶんと味気のないものだった。小竹の人生はとにかく走り抜ける人生だった。彼女にとって隠居というのは止まってるに等しい。しかし、齢70を超えた今、まともに働くことは

不可能だった。彼女の日々は急速に色あせていき、頭もどこかぼんやりとしていった。楽しみといえば町近くで出来上がっていく高速道路を見ながら、速さに思いを馳せることぐらいであった。
 しかし、1年ほど経てば高速道路はすっかり出来上がり、小竹の楽しみはなくなってしまった。そのころからだろか。小竹の頭は霧がかったように働かなくなり、すっかりボケが始まってきてし

まった。気力もなくなったせいか、体力もめっきり落ち込み、家を出ることもほとんどなくなってしまった。それを心配した息子と娘は小竹を旅行に連れてくことにした。息子は旅館の運営が忙しいため、小竹と娘だけで行くことになった。
 行き場所はある有名なサーキット。そこでF1のグランプリレースをみることが目的だった。世界選手権をかけた国内レースだからこそ、それは見応えがあるものになるはずだ。小竹のボケかけた頭でもそれは理解できた。それだけで、小竹は自分の視界に色が再び戻ってきたのを感じた。
 そして小竹の予想通り、レースは実にすばらしいものだった。ボケから回復はしなかったものの、興奮し、立ち上がってみるほど小竹はレースに魅了された。それに娘も喜び、ともにレースを楽しんだ。楽しみ過ぎて帰るのが遅くなってしまった。それがいけなかった。
 娘が小竹を乗せて家へ帰る。時間はすでに9時を回っており、あたりに車はなく明りは道路照明灯のオレンジ色の光だけ。そんな暗い景色の中、車内はいまだにレースの興奮に冷めやらぬ小竹と、その相手をする娘との会話で明るく弾んでいた。久々に楽しそうな母との会話を楽しむ娘の視界の端に、ふと、何かが映った。最初は別の車かと思ったがライトの明かりは全然見えない。少し気になりしっかりとサイドミラーを覗き込む。

「ひっぃ!!!」

 サイドミラーに映ったもの正体が分かった瞬間、娘の口から思わず息が鋭く漏れる。ボケた小竹にもそれは伝わり、ふと後ろの座席からサイドミラーを覗き込んだ。その光景に思わず小竹も目を疑った。顔を皺くちゃにゆがめた老人が手足を振り乱しこちらに走ってきているのだ。その速度は異常なほど速く、車のすぐ横を走っている。車の時速は60キロ以上は出ており、横を走る老人もそれと同じ速度で走っているのだ。娘はその光景に恐怖した。そして思わずアクセルをさらに踏み込んでしまった。別に急停止しようとも車は自分以外には走っていないのだから構わなかっただろうが、この時ばかりは冷静な判断ができていなかった。車は速度を上げ、70キロ、80キロと次第に速度を上げていく。しかし外を走る老人はその速度に平気についていく。
 ふいに老人は腕を車へと伸ばし、窓ガラスへと手を触れた。小竹が乗る後部座席の窓ガラスへと。顔もしっかりと小竹のほうへ向けられている。小竹も老人を見返す。目が合った。老人はよく見ると老婆であることが分かった。手足を異常な早さで動かし、車と並列している。その光景をまじかで見た小竹が思い浮かべたのは憧憬だった。速くあることを体現したがごときその老婆は、小竹にとってはまさに理想だった。昔から自分の体の中で暴れていた出所不明の速さへの憧憬。それを体現する眼前の老婆。小竹は窓ガラスに触れている老婆の手へ、自分の手を重ねた。

「……どうしてあたしはこ~じゃないんだ?」

 口からこぼれおちたのは憧れと、それが手に入らないことに対する諦念、そして失意。思いのすべてが口から漏れ出した。
 老婆が窓ガラスへ手を伸ばしたのと、小竹がそこに手を重ねたのは、小竹の体感時間ではひどく長いものだったが、実際の時間ではほんの数秒の出来事であった。

「きゃあああああああああああああああああああああああ!」

 外を走る老婆が自分の母へと手を伸ばしている。そう思った娘は思わずハンドルを切った。それは自分の母を理解不明なナニカから守ろうとする行為だったが、それを行うには車のスピードはあまりにも出すぎていた。車の速度はすでに時速90キロ後半である。そこから急にハンドルを切ればどうなるか。車はすぐさまバランスを崩し、遠心力に引っ張られガードレールへと激突した。それだけにはとどまらない。ガードレールを突き破りその奥にあった岩肌へとその車体を打ち付けた。



モデルケース『ターボババア』④



「うおぉ!!おい!あのババア転んだぞ!」

 後部座席に座っていた坂本は無様に転ぶ小竹の様子を眺めながら興奮した様子で前に二人へと言葉を贈った。坂本にしてみればようやく退屈な日々から抜け出すことができたのだから、交付するのも当然だろう。しかし、そんなことどうでもいいのか前に二人はしょうもない芸人のギャグを見ているかのごとく冷めた様子である。

「それはサイドミラーで確認した」
「あの人はターボババアと契約してるんですから、それぐらい問題ないですよ。きっと」

 その二人の様子に、坂本はひどく不快気に眉を歪めた。実際坂本は不快であった。二人の冷めた態度が自分を馬鹿にしているように思えてならない。つい最近、都市伝説と契約したことによって己の欲望を解放したことによって、坂本は異常に感情的な人間へと変化した。不快だということを隠そうともせず態度に出し、それを二人に暴力としてぶつけようとする。たとえそれが自分の契約した都市伝説だろうと、死にかけの自分を救ってくれた恩人だろうと。
 麦野は後部座席の坂本がポケットからナイフを取り出すのをバックミラーで確認しながら、さらにその先。ターボババアへと目を向けた。ターボババアが扱けただけで戦意が無くなるとは思えない。

(それじゃあ、あまりにも拍子抜けだわ)

 しかし、そうはならなかったことに対し、思わず口角がつり上がる。まだまだ楽しめそうだと。視線の先のターボババアは体を起こし体勢を立て直すと再び前進を始めた。先ほどよりもその初速は速く感じる。初速の時点で200キロは超えているだろう。ターボババアは車を追い抜く都市伝説。それが速くなくて何がターボババアだろうか。
 バックミラーにはナイフを振り上げる坂本が映っている。それを確認しながら麦野は口を開いた。

「坂本君。そんなことをしている暇があったら生き残ることを考えたらどうかな?」
「……はあぁ!?」

 坂本は振り上げたナイフを下すことなく制止し、さも意味がわからないという風に眉をハの字にする。当然だろう。命の危機が迫っているような状況でもないのに、急に生き残ることを考えろなどと言われてもピンと来るわけがない。急に言われてわかるものは1を聞いて10を知れる人間か、1分の隙もないほどの馬鹿だけである。

「ハァ。光輝君、もう忘れたんですか?この車がなんなのか」

 そんな坂本の様子を見てため息をついたのは、坂本と契約している都市伝説『口裂け女』であるジュリアナである。体勢を変え、体ごと坂本のほうへ向けその目を見据える。

「今私たちが乗っているのは『白いソアラ』。事故によって首を切断する都市伝説」
「あ、」

 坂本は思い出したかのように目を見開き、腕を下ろした。その顔は幽鬼のように真っ青に染まっていく。

「このスピードを出して走っている状況なんて事故を起こすにはもってこいの状況でしょ?どんなことが起こってもおかしくない」
「お、おれは降りる」
「どうやって?」
「こうやってだよぉおおお!!」

 坂本は勢いよく振りかぶると、勢いをそのままにこぶしを窓ガラスに向かって振りおろす。坂本は契約によって口裂け女の超人的な身体の能力をその身に宿している。いくら車の中で体勢が悪かろうと、全力で殴ればたとえそのガラスが防弾ガラスであろうと突き破ることができるほどの身体能力がある。しかし、

「わ、割れねぇ」

 そんな力で振り下ろされた拳をソアラの窓ガラスはものともせず受け止めた。ガラスには罅一つ入っていない。普通の車のガラスは強化ガラスであり、もちろん強化ガラスは防弾ガラスほど耐久力があるわけではない。そもそも防弾ガラスでさえ、割れて衝撃を逃がす作りになっている。だというのに、罅ひとつはいらない。坂本はこの事実に口の中が急速に乾いていくのを感じた。それと同時に体に悪寒が走る。逃れられない死へのイメージ。それが急速に自分の中で拡がっていくのだ。

「うわああああああああああああああああああ!!!」

 それを振り払おうと全力で、何度も何度も窓ガラスを、天井を、ドアそのものを殴りつける。しかし、ソアラは壊れることはなく、自分の手がむやみに傷ついて行くだけだった。なおも殴り、蹴ろうとする坂本の手足を、いつの間にか背もたれを下ろしたジュリアナが身を乗り出し抑える。

「落ち着いて光輝君!大丈夫だから!そんな光輝君が死にそうなのに私が何もしないわけないでしょ!?」
「お、おまえ!おまえぇええ!!そもそもお前なんかと契約しなけりゃ!」
「私と契約できたからクラスメイトだって、母親だって殺せたでしょ?」

 ジュリアナの言葉に坂本のこうどうがぴたりと止まる。

「私がいれば、光輝君の望みはかなえてあげられる。死にたくないと願えば、私が命をかけて守ってあげる」
「ジュリアナ…」

 見つめあう瞳と瞳、そして顔面にめり込む拳。ジュリアナの顔が陥没する。鼻からは噴水のように鼻血が飛び出し、坂本の手を赤く汚した。

「そもそもお前が俺の前に現れたから悪いんだよボケエエエエエエエ!!!」

 先ほどまでソアラに向けられていた暴力が、ジュリアナへと転換された。

「なんとかできるんだったらドアの一つや二つぶっ壊してみろよ!」
「ふぁいふぁい」

流れ出る鼻血を指で押さえつつ、ジュリアナは無造作に腕をふるった。

「OH!?」

 その瞬間爆発音かのごとき音が車内に響き渡り、車体が大きく横に揺れる。その衝撃によるものか、麦野の口から思わず悲鳴がこぼれ出た。見ればジュリアナが乗っている助手席の窓ガラスが元からないかの如くはじけ飛んでいる。その光景に坂本は今まで以上に目を見開き、体から力が抜けたのか体制を崩した。

「次からはもう少し優しくやってくれないかジュリアナ。今運転を失敗したら追いつかれてしまうのよ」

 ジュリアナが窓を破壊したこと自体は何も思っていないのか、麦野はのんきな様子でしゃべっている。

「ああ、すみません。次からはもう少し優しくします。あれ、それにしてもターボババアのほうはずいぶんと遅れてますね。まだ私たちに追い付いていないなんて」
「様子見をしているんだろう」
「様子見?そんなことしていると我々はゴールしちゃいますよ?」
「ハハハハハハハ。あなたたちは気づいていないようだけど、実はこの車、もう600キロは出てるのよ?」
「え?うそ?」


###########################################################


『ひと泡吹かせるのはいいけど、少し様子見したほうがいいねぇ。追いつくんじゃないよ』
「あん!?なにゆ~ちょなこと言ってんだい?」

 怒りと、それ以上の勝負に対する高翌揚を抱え走り出した小竹をターボババアは諌めた。しかし、小竹はそれに反論する。小竹が扱けた分、ソアラからは引き離されている。小竹にとってそれは屈辱である。いくら高翌揚感が勝っているとはいえ、屈辱を抑えることはできない。この溜飲を下げるには、相手の澄ました顔を思いっきり破顔させること、度肝を抜くこと以外ない。その思いもあり、小竹は初速を300キロ以上も超えて走り出したのだ。ターボババアの悠長な戯言につきあう気持などなかった。
 しかしその思いに反し、体の動きはだんだんと遅くなり、250キロをキープするぐらいにまで抑えられてしまう。契約者に力を与えるのは都市伝説だ。この場合小竹に力を与えているのはターボババアであり、ターボババアが与える力を抑えれば自然とスピードが落ちるのは自明の理である。

「こんのくそバア!あたしの速さをかえせ!」
『おまえは知らないかもしれないけどねぇ!あのソアラはやばいんだよぉ!やばい気配は感じたぁろ!?』
「そんなもんしら…あん?あのソアラ」

 最初に気がついたのは小竹であった。小竹の夫はレーサーであり、小竹自身はレースファンである。車を見るのは好きだし、基本的にその車種がどれほど速さが出るのかは見れば自然と頭に浮かんでくる。麦野たちが乗るソアラは改造車だということは明かされていた。改造車である以上、元以上の速度は当然出るだろう。麦野は小竹とサリーンの勝負も見ている。自分に勝つためにはサリーン以上の速度を出すしかないはずだと気づいていると小竹は考える。つまり400キロを超える速度。速度を出すためにはフォルムのことも考えなければいけないが、よほど強力なエンジンなどを使えば、車体の安全を守らなければいけるだろう。しかし、しかし、しかし、しかし、しかし、

「500は超えてるよ!?」

 いくらなんでもそれはありえない数字なのだ。高々普通の乗用車のフォルムに、それに収まりきるエンジンを積んで、破壊されず500キロを突破することなど普通の車にできるわけがない。ましてソアラなどでは!

「んなばかな」
『いったろう?様子を見よってさあ』
「あ~あ、見るべきだったねぇ見るべきだった」

 ありえぬ光景を目撃し、それでもなお小竹の目から活力は失われない。むしろ増してきている。嬉々と口角はつりあがり、その顔をは年季の入った梅干しのように皺くちゃにゆがんだ。

「こんなにも心躍るんだからさ!!!!」

 小竹は力強く一歩前に足を出す。その勢いでアスファルトはひどく飛び散った。小竹の体に再び抑えられぬ速さが舞い戻ってくる。300、400。ソアラの窓が飛び散り揺れるが気にしない。

『こたけぇ。あんたほんとにばかさ』

 ターボババアは小竹と同じような顔をして、楽しげにつぶやいた。





前ページ   /   表紙へ戻る   /   次ページ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー