夢現聖杯儀典:re@ ウィキ

鉄心と水銀 交わらない宿命

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「おおおおおッ!!」


全力の咆哮。精一杯の疾走。
自分に向かって雨霰のように降り注ぐ弾幕の中を、当たらないように緩急をつけながら駆け巡る。
とはいえ、流石にいくらかは行動を読まれてしまう。
相手からの集中砲火により多少は被弾するが、問題ない。
装着している戦闘ジャケットが全てを弾き、射撃の意味を無くしてくれる。
これが模擬弾ではなく、たとえ小火器程度の実弾であったとしても。


(本当の戦場に比べたら、こんなものは生温いな)


こちらからも銃で反撃しながら、キリヤ・ケイジはふとそのような事を思い返していた。
彼が数々と経験してきた『被弾』とは、『致死』を意味する。
9mm弾ぐらいなら容易く防弾する複合装甲も、ギタイが放つ棘槍の前では紙も同然。
奴らのスピア弾は人体を簡単に引き千切り、掠っただけでも抉られてしまう。
対物クラスの破壊力・貫通力を何度も、何度も体験したケイジにしてみれば。
あの生と死を繰り返す地獄に比べたら、今やっている事などごっこ遊びにしか感じられなかった。

とはいえこれも仕事の一貫であり、今はただマスターである事を隠すためにも、こうやって職務を全うしていた。
――元々の所属はとある軍関係の機関で、今は出向先の企業が研究しているパワードスーツの開発に携わっている。
故に研究施設がある冬木市で暫く生活している、という役割がキリヤ・ケイジに与えられていた。
元の世界では入隊したての少年兵なのに、なぜこの様な待遇になっているのかは怪訝に思ってはいたが。
ある意味適材適所の配役であったため、聖杯の気紛れに気にも留めず。
そして自分がマスターである事を隠すためにも、不審な行動せずにこうやって職務を全うしていた。


不意に弾丸の雨が止む。
索敵。標的をロスト。こちらも物陰に隠れながら次の動作に備える。
相手の行動を思考する。ここ数日の経験ですぐに帰結する。
たぶん、彼女なら、この次は……


「はぁぁぁぁっ!」


気付くのが一足遅かった。
真上から、同じように機動ジャケットを纏った人影が飛び降りてくる。
特製の模造武器をその手に握り、勢いを乗せて振り抜いてくる。
こちらも咄嗟に武器で受け止めようとするが、間に合わない。
万全ではない態勢のまま、辛うじて剣筋をずらす事はできた。
しかし、いなしきれず、逸れた攻撃がそのまま腕に直撃を受けてしまった。


『す、ストーップ!中断してください!!』


そこで終了のアナウンスが入り、両者共に戦意を喪失させる。
確認すると攻撃を受けた腕部にエラーが表示されている。
――やはり、この偽りの世界における戦闘ジャケットの完成度は彼が知るモノには一歩及ばない。
現状は試作段階に過ぎず、モーションキャプチャーの最中にエラーや誤作動も度々発生する。
元の世界にはなかった技術などが組み込まれていたりと光る部分もあるが、まだ常時安定した動作は期待できない。
ともあれ今は、滾る鼓動を抑えるためにヘルメットを脱ぎ取る。
汗ばむ顔に爽やかな外気が触れる。吸い込む空気が、心にゆとりを呼び戻す。


「ふぅ…少々やり過ぎたな。大丈夫か、ケイジ?」


同じく素顔を晒した少女――リタ・ヴラタスキ――が、言う程には悪びれずに気遣いの言葉を出した。


 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


数人の研究員と整備員があれこれ言葉を交わしながら戦闘ジャケットを調整している。
その光景を少し離れた位置からケイジとリタは眺めている。
着替えてから軽いブリーフィングを行った後、彼らは次の指示が入るまで待機していた。


「……やっぱり、少し腕が痛む」
「なにせ全力で殴ったからな」
「少しは手を抜けよ」
「データを取るには全力でやるのが一番だろう」


だからって限度があるだろう、っとケイジは心の中で思いつつリタの横顔を眺めた。
リタ・ヴラタスキ。
US特殊部隊に所属する、人類最強のジャケット兵。
世界各所でギタイ達を屠ってきた精鋭中の精鋭。兵士達の間では渾名で「戦場の牝犬(せんじょうのビッチ)」と呼ばれている。
味方にも恐れられるような女傑ではあるが、時折22歳という年齢に不釣合いな幼さを見せる不思議な人物。
それがループ世界でのキリヤ・ケイジが知る彼女の肩書・人柄であった。
しかしそれがどういうわけか、同僚として研究開発に協力しているNPCとして設定されている。
ここでも優秀な人材である事には変わりないが、何故かプロフィールは19歳になっていた。
加えて戦乙女のような鋭さは幾らか薄まり、少しだけ少女らしくなっているように感じた。
最も、ループ世界では彼女との関わりなんて殆ど無かったから、何が彼女らしいなんて分からないが。


「ところでケイジ、今日はどうした?」
「ん、なにが」
「いつもより動きに切れがなかったぞ。もしかして、何か悩み事でもあるのか」
「…いや、ちょっと私的に困った事があってね」
「そうか。私でよければ何か手助けしようか?」
「ありがとう。でも、これは俺一人でなんとかなるから、大丈夫だ」


突然見透かされたような発言を受けて内心動揺したが、取り敢えずこれ以上心配掛けないように誤魔化しといた。
というより、この問題に彼女は巻き込めない。
自分自身で解決しなければならない問題なのだから。


昨晩、聖杯戦争が本番に入った事を告げられた。
つまり今までよりも危険度は増してくる。だからより一層、気を引き締めなければならない。
なにせサーヴァントの鞍替えを切実に狙っているのだ。
一つもミスは許されない。緩んだ次の瞬間には奈落の底。それ程に険しい道だ。
狙うべきは他のマスターだが、当然サーヴァントが傍にいるはずだ。武力でどうにかできる可能性はとても低い。
交渉しようにもこちらのカードは少なすぎて不利である。
万が一、他のマスターから奪い取ったとしても、従えるサーヴァントからの心象は最悪なものになるだろう。
逆に、もしかしたら性格が最悪なサーヴァントを掴まされる可能性もある。
あまりにも未知数が多すぎる茨の道。普通なら無謀と諦めるだろう。
それでもキリヤ・ケイジは現状よりはマシだと思っていた。信じるしか他はなかった。
ギタイを地球上から一匹残らず駆逐する。
終わらないループに必死に足掻いた自分の全てを無為にしないためにも、絶対に生き残ってみせる。
そのためならばどんな試練をも乗り越えるという、絶対的な覚悟を抱いているのだから。

だが昨晩、早速問題が発生した。
裁定者からメッセージが送られてきた直後、アサシンが姿を消してしまった。
令呪を一画使ってからは幾らかは大人しく命令を聞いていたから大丈夫だろう、と少しだけ気を緩めてしまった矢先に逃げられてしまった。
自らの命綱であるはずのマスターを殺害しようとするほどに凶暴な獣が、野に放たれてしまった。
何を仕出かすかわからない、最悪大惨事を起こしかねないアサシンを探すために、ケイジは夜の街を走り回った。
しかし、街に溶け込んだ彼を見つけることは叶わなかった。

結局、朝になったため研究施設に赴くことにした。
これ以上不審な行動を取ると自分がマスターとバレかねない。
だから素性を隠すため、他のNPCと同様に規則正しい行動を取るしかない。
一応、仕事が始まる合間に情報を集めようとテレビやネットから手掛かりはないかと調べてみた。
結果は大して得られなかった。ここ最近騒がれている事件の数々について報道されるだけだった。
逆に言えば、今のところは何も起こしていないという事だが、増々不安が募るばかりだ。



「あの、すみません」


しばらくして、一人の整備員が声を掛けてきた。


「キリヤさんのジャケットは、どうやら先程の攻撃で不調になってしまったようです。
 そのメンテナンスするのに時間が掛かってしまうので、キリヤさんは仕事を上がってください」
「えっ、いいんですか?」
「はい。ジャケットがないとキリヤさんにやってもらう事もありませんし。
 あとはヴラタスキさんの動くジャケットで他の項目について試してみたいと思います」
「…わかりました。ありがとうございます」


思わぬ事態に驚きつつ、この僥倖にケイジは内心歓喜した。
まさか、風が吹けば桶屋が儲かる、のように突然の休暇が転がってくるとは。
やはり、ループに囚われない一回限りの時間とは、不安だが安心であり、怖いようでおもしろい。


「良かったな、ケイジ。怪我の功名とやらだな」
「それはちょっと違うけと…まあいいか」
「…そうだ、ケイジ。もしこの後時間が空いているなら、昼食を一緒に行かないか」
「あぁ…悪い、ちょっと片付けたい用事があるから。また今度、な」
「む、そうか…」
「それじゃ」


少し不機嫌そうなリタの声を気にも留めず、ケイジは部屋から出る。
ふと、通路のガラス越しから自分のジャケットに目を向ける。
先程の彼らの会話を遠耳で聞き取った限りだと、多分今日中には修復は完了するだろう。
とりあえず今日は運良く非番になった。この時間を有効に使わない訳にはいかない。
もう一度街に出て探しに行こう。とにかく、アサシンや他のマスターを見つけねば。

そんな事を考えながら、しかしケイジは研究施設をすぐには出ていかなかった。
少し寄り道をして、再度この研究施設のセキュリティーを確認する。
もし緊急事態が発生した場合に備えて、いつでもジャケットを拝借できるように。

あの戦闘ジャケットは対人戦闘において優位に立てる優れモノだ。
流石にサーヴァントと戦うには及ばないが、それでも生存率を高めるのには役立ってくれるはずだ。
当然、研究施設の機密の一つだからセキュリティーは厳重に張られている。
もしジャケットを持っていくことが出来ても、その後は自分が追われる身になるに違いない。
だから本当はそんな事態が起こらないのが一番だが、それは望めないだろう。
何が起こるか分からない戦争に備え、万が一の非常時には有効に使わせてもらうしかない。


(さて、どこから探しに行くか……まずは新都の中心に向かってみるか)


繰り返しが望めない世界で、この先どのような未来がやってくるか分からない。
何が起きても自分が生き残れるように、ここ数日間で出来る限りの備えは整えといた。
今はただ、絶対に勝ち抜く意思を胸に、不穏な空気が立ち込める外に向かって一歩踏み出す。


【B-8(左上)/とある研究施設/一日目 午前】

【キリヤ・ケイジ@All you need is kill】
[状態]少々の徹夜疲れ、若干腕に痛み
[令呪]残り二画
[装備]なし
[道具]
[金銭状況]同年代よりは多めに持っている。
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に生き残る。
1.アサシン(T-1000)と他のマスターを探す。
2.サーヴァントの鞍替えを検討中。ただし、無茶はしない。というより出来ない。
3.非常時には戦闘ジャケットを拝借する。
[備考]
1.ケイジのループは157回目を終了した時点なので、元の世界でのリタ・ヴラタスキがループ体験者である事を知りません。
2.研究施設を調べ尽したため、セキュリティーを無効化&潜り抜けて戦闘ジャケットを持ち去る事ができる算段は立っています。
3.ケイジの戦闘ジャケットは一日目の夕方位まで使用できない見込みです。早まる場合もあれば遅くなる場合もあります。


 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


T-1000の使命。
それはスカイネットを攻撃する人間を抹殺することである。
T-1000に与えられた指令。
それは人類抵抗軍の指導者であるジョン・コナーを歴史上から消去することである。

彼に与えられた至上の命令(コマンド)は、たとえ聖杯の枠組みに組み込まれても変わらない。
たとえマスターであれど、人間ならば構わず殺す。
それが自分の現界を維持するための電池であろうとも、神を殺しかねない者(ウィルス)は排除しなければならない。
だから、自身の脱落も厭わずにマスターを抹殺しようとした。


――この思考は、この夢現の聖杯戦争とは違う、平行世界の偽りの聖杯戦争に召喚されたアサシンと共通するものがある。
――彼女は彼女の信仰を汚す異教の聖杯戦争を憎み、それを利用しようと歴代の「山の翁」を使い潰した異端者達を許せなかった。
――だから彼女も、聖杯戦争のルールなど度外視して、自らを召喚したマスターを即座に殺害した。
――という類似例もあるように思想や成立ちは全く違うが、T-1000も同じ理屈で衝動的に召喚者を殺害しようと牙を向けたのだ。


だがその身を切り刻む前に令呪を使われてしまい、“キリヤ・ケイジを抹殺してはならない”と指令をプログラムされてしまった。
今でも人類抹殺の命令は機能しており、自分のマスターも抹殺対象だと認識している。
しかし別の絶対命令により自分のマスターを殺せないという事態に、T-1000は異常を感知していた。
人間に例えるならば、もどかしさを感じていた。


とりあえずは仕方なく、T-1000は違和感を感じながらもマスターの指示に幾らかは従う事にした。
とはいえT-1000が唯一従うのはスカイネットだけであり、例えマスターであろうともキリヤ・ケイジの指示を第一に従うつもりはない。
例えマスターが交流を計ろうとも、やはり相容れない存在同士なので応じようとは思わなかった。
当然、マスターから警戒されていることは承知していた。
だからマスターも一時も気を許さないように、アサシンの事をなるべく目を離さないようにしていたようだった。
基本は霊体化して同行するように命じられた。よくて自宅待機を命じられた少しの間しか離れることはなかった。
T-1000も、表向きは云う事を聞く、フリをしていた。裏では当然黙って従うだけの事はしなかった。
同行中は街や施設にいる人間モドキ・NPCを観察したり、隙あらば施設のセキュリティに潜入し探りを入れてみた。
自宅待機など絶好の機会。マスターがいない間は周囲の把握に努めていた。
ちなみにT-1000の液体金属の一部をマスターの私物に忍ばせているため、発信機能によりほぼ何処にいるかは分かっている。
だから行動するタイミングはいとも簡単に謀れた。


こうして暫くの調査を行い思考を重ねる中で、T-1000は聖杯戦争における幾らか行動指針を決めるに至った。


人類を抹殺する使命は変わりないが、自らの手で虐殺を行うつもりはない。
流石に自分一体だけで大量の人間を殺すのは効率が悪すぎる。
可能ならば原爆・水爆などもっと効率良く殺す手段を取るのが一番だろうが、この偽りの世界ではそれも望めないだろう。
もしくはサーヴァントの宝具ならば人類を一網打尽にできるかもしれないが、そんな都合良い話は見込まないでおく。
どの道、この偽りの世界で人間共を殺しても、スカイネットが存在する世界の人類軍を壊滅させられないのでは意味がない。

それに騒ぎを起こせば他のサーヴァントに捕捉されかねない。
普通なら人間如きに及ばない程のパワーを有するT-1000だが、ここには異界の英雄たちが集っている。
その中には自分を破壊しかねない未知なる能力を持っているかもしれない。
故に警戒しなければならない。変に素性がバレれば、人間の抹殺どころではなくなってしまう。
故に慎重にいくしかない。様々な記録の中には、人間の知恵と機転によって倒されたT-1000もいるのだから。

それにアサシンとして召喚された以上、サーヴァント同士の正面きっての戦闘をしなくてもよい。
自分は【ターミネーター】だ。【人類の歴史を終わらせる者】だ。【重要人物の抹殺する者】だ。
人間達に擬態して紛れ込み、標的を暗殺するのが与えらえた役割である。
だから必要な時以外に騒ぎ立てる必要はない。
誰も気付かない内に任務をこなせばいいだけだ。



以上をもって、何をするのが一番だろうか。
簡単だ。


聖杯戦争に関わるマスター全員を殺し、聖杯に願えばいい。
『スカイネットに仇名す人間共を抹殺しろ』、っと。



では、どうやって他のマスターを探せばいいか。
それも簡単だ。




「がぁはっ!………」


今しがた、一人の警察官が脳天を貫かれて崩れ落ちる。
その傍らには、全く同じ容姿をした警察官が無表情に立っている。
手際良く殺し擬態したT-1000は、警察官の所持物を漁り、そのままパトカーのトランクルームに放り投げた。

聖杯戦争が始まれば、今まで以上に行動する主従が増えて騒動も大きくなるだろう。
そうすれば様々な情報が警察署に集まる、それにT-1000は目を付けた。
今まで集まった情報を解析しつつ、新たな騒動が起これば現場に急行し聖杯戦争の関係者を見つけていく。
暫くは後手に回ってしまうが、今はじっくりゆっくりとマスターを探せばいい。
当然、チャンスが目の前にやってくれば即行動するが、情報が集まってから行動する方が確実であろう。
とにかく隙を窺い、暗殺する。
他にもやる事はあるが、とりあえずの行動はこれでいいだろう。


これがT-1000が行きついた考えであった。


流れるように運転席に乗り込み、内部に置いてあった資料を読む。
一つ気になる記事を見つけたT-1000は、目的地に向かって街の中を移動し始めた。


 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


男が一人、日差しが差し込む公園に佇んでいた。
しかしそこは公園と呼ぶには憚ってしまうほどに無残な姿に変わっていた。
広場には数々の破壊の跡が残されている。特に大きい物はクレーターのようになっている。
少し離れた壁にも何かで一直線に薙ぎ払ったような後が遺されていた。
明らかに人間を超越した者による仕業であり、常人には理解できないだろう。
それを常識として捉えているアサシンは、何か他に痕跡がないかと現場に赴いたところであった。


「ちょっと、そこのあなた!ここで何しているの!」


背後から唐突に声を掛けられ、アサシンは振り向く。
そこには両脇の髪をゴムで纏め上げた小柄な婦警がいた。
可愛げある童顔に見事なトランジスタグラマーという、所謂魅力的な外見である女性が近づいてきていたが。
そのような人間的特徴を単なる記号としか捉えていないアサシンは全く動じずにいた。


「って、あなたも警察官だったのね。失礼しました」


てへぺろ、っと舌を出しながら愛嬌ある顔を見せる。
なぜそんな事をするのか理解できず、アサシンは無表情を崩さない。
しかし何も反応しないのは不自然なので口で応じる事にした。


「ああ、丁度この近くまで来ていたから、ちょっと気になって寄ってみた」
「へぇ、そうなの。しかし凄いよねー、これ。一体どうしたらこんな事になるのかしら」
「さぁ、わからないな」
「むぅ、つれないわねぇ。まっ、担当の刑事も全く検討が付いていないぐらいだし、仕方がないわね」
「検討が付かないと言えば、謎の失踪事件もそうだな」
「そうね。失踪者達に関連性は全くないし、ホントに神隠しにあったかのように突然姿を消えちゃうし」


事前に車内にあった資料を読んでいたため概要は知っていたが、この会話で幾らか現実味が帯びてきた。
当然、アサシンこれらの事件をサーヴァントによる仕業だと推測している。
目の前にある光景は明らかに人外同士による戦闘跡であるのは明らかだ。
失踪事件に関してはまだ断定出来ないが、おそらく聖杯戦争に関わっているのは間違いない。
どうやら警察はこれらの事態に対応しきれていないようだが、流石に手をこまねいているだけではないだろう。
当時の殺人事件の現場写真や物品保管など調査資料は残っているだろうし、失踪者の生活圏や失踪箇所から事件の範囲などは特定しているはずだ。
あとはこの目で検分すれば、他の主従に近づけるに違いない。
ならばここにはもう用がない。そろそろ警察署に向かう事を考えてた、その矢先。


「あ、それとちょっといい?もしこの子を見つけたら保護しといてくんない」


婦警が懐から一枚の写真を取り出してアサシンに渡した。
そこには愉しげに笑う少女の姿が映っていた。


「この『仲村ゆり』さんも数日前から失踪しているの。
 といっても家出みたいなもので、たまに目撃情報も入っているから事件に巻き込まれているわけでもなさそうけど。
 両親がとても心配して捜索願を出しているから、見つけたら報告して頂戴ね」
「…了解した」


もしかしたらこの少女も聖杯戦争に関わっているのでは、っと考えつつ適当なポケットにしまっておく。
今は判断材料が少ない。とりあえず見かけたら様子を見てみるのが最適だろう、と保留しておいた。


「さて、いつまでもサボる訳にはいかないからそろそろ戻りましょうか」


婦警の言葉に、アサシンは素直に従う。
この女を口封じのために暗殺することも考えたが、今はやめておく事にした。
NPCをむやみやたらに殺しても意味はないし、事件に発展して誰かに探られては動きづらくなってしまう。
それに有益、かどうかはまだわからないが情報も得られた。今はそれで良しとしよう。

アサシンと婦警の来た道はそれぞれ別の為、そのまま公園で別れる事になった。
アサシンはすぐに自動車に乗り込み、再び街に向かって動き出した。


【A-9/林道/一日目 午前】

【アサシン(T-1000)@ターミネーター2】
[状態]正常、日本人男性の警察官に擬態
[装備]警棒、拳銃
[道具]『仲村ゆり』の写真、パトカー、車内にあった資料、その他警察官の装備一式
[思考・状況]
基本行動方針:スカイネットを護るため、聖杯を獲得し人類を抹殺する。
1.警察署に潜入し情報を収集・分析する。
2.マスターらしき人物を見つけたら様子見、確定次第暗殺を試みる。
 ただし、未知数のサーヴァントが傍にいる場合は慎重に行動する。
3.「仲村ゆり」を見かけたらマスターかどうか見極める。
[備考]
1.キリヤ・ケイジの私物に液体金属の一部を忍ばせてあるので、どこにいるかは大体把握しています。



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