最低限必要なもの
135カメラや中判カメラと比べ、大判カメラは最初に必要な物が多くあります。ここでは大判カメラでの撮影を行うにあたり、最低限必要なものを解説します。
全く大判カメラに触れた事が無いという前提であれば、大判カメラ一式最小構成で全部コミコミ10万円前後を予想して下さい。勿論それよりも安くあげる事も出来ますし、上を見えれば天井知らずがカメラ世界の常。一例として下記の表のような費用構成になります。
品目 |
値段 |
カメラボディ |
4万 |
レンズ |
1.5万 |
フィルムホルダ5枚 |
0.2万 |
ルーペ |
0.1万 |
三脚 |
3万 |
フィルム |
0.6万 |
冠布 |
0.3万 |
合計 |
9.7万 |
判型をどうするか
一般的に大判は4x5インチ(シノゴ)を最小とし、極々特殊な物を除けば20x24インチ判までのフィルムを市場で入手する事が出来ます。8x10インチ(バイテン)より大きな判型は事情が全く変わってきてしまうこと、及び本wikiが初心者に向けての物であることから、ここではシノゴに限定して話を進めます。とはいえ、適時焦点距離等を読み替えてもらえば、バイテン程度まで大筋は変わりません。
ちなみにシノゴの上には5x7インチ判(ゴシチ/ゴナナ/ゴーナナと呼ばれる事もあります)というサイズが存在します。日本ではあまりポピュラーにはならなかったサイズの為リバーサルはもう入手が出来ませんが、ベタ焼き(印画紙の上に直接フィルムを置いて行うプリント)で2L判のプリントが作れる事、シノゴより大きいながらバイテン程大仰な機材を必要としない事から海外では未だに根強いファンがいます。
8x10(バイテン)はゴシチよりも更に大きく、プリントの六切と同サイズと聞けばそのサイズに想像が付くでしょう。リバーサルともなればフイルムそれ自体が優に鑑賞の対象となる程の大きさです。モノクロネガならば引き伸ばし機が無くともベタ焼きで充分に作品として成立する大きさですから、挑戦する価値は大いにあります。また、一般的に入手できる大判としては最大サイズでありこれ以上をULF (Ultra Large Format)として区別する事もあります。難点はどうしてもレンズ、ボディ、三脚と種類を問わず機材が大きく高価になる事ですが。とはいえ、最近では安価なモデルも存在している為ボディ面での必要初期投資は随分下がりました。
大判カメラ
当然最低限カメラが必要になります。大別するとスタジオ等向けののビューカメラと屋外に持ち出す事を考えたフィールドカメラの二種類にわかれます。もし大判カメラをスタジオに据えて写真を撮るのではなく外に持ち出す事があるならば、とりあえずフィールドカメラを一台購入する事をオススメします。逆に室内/スタジオでしか使わない、外に持ち出す事は殆ど無いし車で移動するから実質ほぼ運ぶ事はない、というのであえれば、ビューカメラを選んでもいいでしょう。
カメラのボディは中古で入手するもよし、新品を購入するもよし。少数ですが国内メーカーの新品はまだ入手が出来ますし、海外メーカーに目を向ければ低価格な新品大判カメラを作っているメーカーや憧れの高級機を作っているメーカーまで。プレイヤーはまだまだいます。
中古市場に目を向ければ、2019年現在大判カメラの値段は暴落気味。かつてはプロカメラマンの道具だったアレやコレも、比較的お手頃な価格で入手できてしまいます。キチンと整備されていても最新のデジタル一眼レフを購入するのに比べれば安い物。状態の良いお目当てのモデルがあれば、中古で困る事はないでしょう。
レンズ
当然ですが、カメラにはレンズが必要です。特殊なカメラを除くと大判カメラはレンズとボディが取り外し式になっています。多くの近代的イな大判カメラレンズは被写体側からレンズ前群+シャッターユニット+レンズボード+レンズ後群という4つの部品から構成されています。このうちレンズボードは一般的なカメラのマウントに相当する物と考えてください。
幾ら安くてもレンズボードやシャッターユニットが無いレンズを活用する為にはそれ相応の手間と知識が必要になります。必ずこの4点の揃ったレンズを、できればオークションではなくしっかりとしたお店で購入しましょう。
レンズはじめの一本
35mm換算で35~50mm前後になる所謂標準レンズ、125~180mm前後の焦点距離のレンズが一本あると良いでしょう。繰り返しになりますが、必ずレンズユニット、シャッター、そしてレンズボードがついている物を探してください。そしてレンズボードがリンホフボードとよばれるタイプになっている物を選びましょう。
リンホフボードは大判のユニバーサルマウントと言っても過言ではありません。最初はこれを選んでおくべきです。詳しくは
レンズの選び方を参照して下さい。
はじめの一本としては以下のリストからどれか一本を探してみると良いでしょう。富士フイルムのレンズはニコンの物より安価に流通している傾向があります。
富士フィルム
- CM Fujinon W 125mm F5.6
- CM Fujinon W 135mm F5.6
- CM Fujinon W 150mm F5.6
- CM Fujinon W 180mm F5.6
- Fujinon W 125mm F5.6
- Fujinon W 135mm F5.6
- Fujinon W 150mm F5.6
- Fujinon W 180mm F5.6
下段のFujion Wは上段CM Fujinonの前身にあたります。また、同じFujinon W内でも前期型後期型が存在し、レンズ前群の側面に刻印がある物が後期型とされています。
フジのレンズは流通量が多く、それでいて性能は一級品です。下記のニコンと比べてやや発色がおとなしい傾向にあります。
ニコン
- Nikkor W 135mm F5.6/5.6S
- Nikkor W 150mm F5.6/5.6S
- Nikkor W 180mm F5.6
ニコンのレンズも国内では比較的流通量が多いですが、やはり生産が終了している事もあり数は少しずつ減ってきています。絞り値の後にSがついているモデルは非Sとレンズ構成は同等ですが、シャッターユニットが特殊で、絞り羽根が7枚(非Sは5枚)になっています。
ニコンの大判レンズは濃厚な発色をする傾向が強く、特にVelviaのようなリバーサルフィルムと組み合わせるとコッテリとした色味を味わう事が出来ます。
三脚
必然的にカメラが大きくなりがちな大判カメラを扱うにあたって三脚の使用はほぼ必須です。勿論手持ちが出来る機種もなくはないのですが、九分九厘三脚に据えて撮影を行うのが大判カメラの作法となります。大判カメラは重量も嵩むので、しっかりとした三脚が必要になります。
量販店で平積みされているような安価な三脚では大判メラを安定させる事はほぼできないでしょう。どうしても値段/ブランドが性能に直結してしまうのが三脚の難しいところです。
カメラにもよりますが、理想を言えばGitzoの
2型or
3型程度の頑丈さは欲しいところです。とはいえ現実的にいきなり三脚に10万円は厳しいでしょう。4x5判フィールドカメラでのデビューであればマンフロットの
055や
190、またはSlikの
プロ500や
プロ700あたりでも大丈夫でしょう。あとは自分の財布の中身とどの程度の重量を許容するかがファクターになります。
フイルムホルダ
一般的なカメラではパトローネやスプールに巻き取られたロールフィルムを用いますが、大判カメラでは一枚物のフィルム(シートフィルム)を使います。これを装填するのがフィルムホルダです。装填には暗室かもしくはダークバッグが必要です。一般的な物は裏表で2枚のフィルムを装填します。撮影時にはこのホルダをカメラに取り付け、引き蓋を引き抜きシャッターを切って撮影します。露光が終了したら引き蓋を裏表引っくり返して差し、撮影したフイルムが感光しないようにします。
奥から5x7フイルムホルダ, 4x5フイルムホルダ, 120フィルム
かつては数々のメーカーから新品が発売されていましたが、現在新品を目にする事はほとんど無いでしょう。大判カメラに強い中古カメラ店などでは二束三文で販売されている中古品を良くみかけます。現実的に余程腹を括らないと10枚20枚と一日で撮影するのが難しいのが大判カメラです。少なくとも最初は5枚程度、多くても10枚程ホルダがあれば困る事はまずありません。
また、ロールフィルムホルダと呼ばれる物を用いる事で120フィルムを使用する事が出来るようになり、テクニカルな中判カメラとして活用する事も出来ます。ランニングコストを下げる意味でも一つ持っておくと安心です。大判カメラ華やかなりし頃は色々なメーカーから発売されていました。恐らく最も良く見かけるのはホースマンとトヨの物でしょう。ホースマンの物は小型ですがカメラのピントグラスユニットを取り外して取り付ける事になります。トヨは本体が横に大きく飛び出している為、フイルムホルダと同じくピントグラスとボディの間に差し込む事が可能な作り(干渉して刺さらない作りの大判カメラもある)になっています。ジナーは過去撮影中にもフォーマットを変更できるマルチフォーマットロールフィルムホルダを販売していましたが、2019年現在ではあまり見かける事もなくまた非常に高価です。
Linhof スーパーテヒニカVにトヨの6x9判ロールフィルムホルダを装着したところ
尚非常に特殊な使い方ではありますが、中判カメラやその他デジタルカメラなどをロールフィルムホルダ代わりに使う事も不可能ではありません。
Sinar Normaにハッセルブラッド500C/Mが装着されている
冠布
かんぷ、と呼びます。時代物の映画を見ると大きなカメラに布をかぶせた状態で覗き込んでいることがありますが、大判カメラのピントグラスは大変暗いため、周囲の光をカットして像を見やすくするために布をかぶります。
量販店やカメラ店で専用の冠布を買うのも良いですし遮光性の高い布であれば何でも代用が出来ます。上着を羽織っているならばそれでも同じ役割を果たせます。専用の物は表面が赤くなっている事が多いですが、これは布を被っている時は人のシルエットではなくなる為、安全の為周囲に自分の存在を認知してもらう為です。
ルーペ
大判カメラは極一部を覗き、ボディの背面に装備されたピントグラスという磨りガラスに写った像を見て構図とピント合わせをします。この磨りガラス上に写った像を拡大し、精密なピント合わせをする為にルーペを用います。
倍率は各種ありますがあまり低いと肉眼と大して変わりませんし、逆にあまりに高いと磨りガラスの表面のザラつきばかりが見えてしまいます。4-10倍前後、まず一本という事なら6倍前後を購入するのが良いでしょう。ローデンシュトックやシュナイダーといった名門の物から、量販店でも入手できるピークの物までと選択肢は多くありますが、とりあえずはピークの物を安く購入し、後々不満が出たら買い替えるようにすると良いかもしれません。
ピークの5倍等からで実用上は問題ないでしょう。
フイルム
大判カメラ用のシートフイルムですが、全体の傾向として最も安い物がイルフォードのモノクロ、次点でフジのリバーサルとなっています。好きな物を選んで下さい。
折角大面積の大判写真に足を踏み入れるのですから、一度ぐらいはリバーサルフイルムを使ってみると感慨もひとしおでしょう。
猶、大判カメラは135判カメラと比較して絞り込んで使用する事が多い為、ISO50や100の低感度フイルムをいきなり使用すると中々面倒です。可能であればISO400程度のフイルムを使用すると、最初は色々と助けられれす。
上述のアイテムを揃えれば、とりあえず撮影の準備は整ったと考えて良いでしょう。各種アイテムについてはそれぞれ独立した項目が存在しています。詳しく知りたい場合はそれぞれの項目を参照して下さい。
最終更新:2020年05月20日 16:52