カメラの選び方
ひとえに大判カメラと申しますが、用途によりさまざまな形態の大判カメラが用いられてきました。
本項ではおおまかな形態とその用途について解説します。
カメラのタイプ
大判カメラには大きくわけて
上記の三種類があります。
フィールドカメラ
フィールドカメラは大判カメラの中でも野外に持ち出すことを主眼とし、小型軽量化を重視した機動性に富むカメラです。後述のビューカメラと比すると特にアオリの自由度に劣りますが、風景や人物を撮影するに不都合はありません。
木製の物は軽量ですが悪天候に弱く耐久性も低く、金属製の物は蛮用に耐えますが大重量です。
ひたすら室内で撮影するという方も少ないでしょうから、最初の一台を選ぶのであれば持ち運びに簡便なフィールドカメラが向いているでしょう。
代表的な機種
大判カメラにおけるライカポジション。金属製。フィールドカメラでありながらビューカメラのような用途もある程度可能な上に、距離計が付いているモデルはプレスカメラ的にも使える凄い奴。何でも出来るタイプのカメラで特に中心軸のズレないリアチルトが使い易いが、当然本物のビューカメラ程の自由度は持たない上に高機能の代償として重く嵩張る為器用貧乏とも言えるカメラ。この重量を持ち出せるなら軽量なビューカメラも持ち出せるし、ここまでの高機能を野外でフルに使う事はまず無い為普通のフィールドカメラでも何とかなってしまう。
- トヨ トヨフィールド45シリーズ
- タチハラ フィルスタンド45シリーズ
- ウィスタ ウィスタ45シリーズ
タチハラ フィルスタンド45
典型的な木製フィールドカメラの出で立ち。華奢だが非常に軽量。
Linhof スーパーテヒニカV
金属製フィールドカメラ。ボディ側面に飛び出しているのは連動距離計。
ビューカメラ
ビューカメラは最もプリミティブな形態のカメラの一つです。前後の枠(英語ではStandard)を頑丈なレールで接続し、その間を蛇腹で繋いだ形を取ります。アオリの自由度、使用できるレンズの種類、各種オプションによる拡張性などどの点を持っても前述のフィールドカメラより制限が少なく、使い手の希望に応える事ができます。特に建築や物撮り(ぶつどり、屋内での商品撮影のこと)など画像のゆがみを厭う場合、補正に勝れるビューカメラがしばしば用いられます。
代償として大きく、重くなりがちで、当然それを支える三脚と雲台も大きく頑丈な物が必要となることから、屋外での使用には向きません。
車で移動する場合や、駅のすぐ近くなど重量があまり問題にならない場合は良いですが、基本的には室内で使うことが多いタイプのカメラです。
代表的な機種
1947年にスイスでC.Kochが「どんな撮影にも使えてかつ使い易い大判ビューカメラを」と願って製作したのがジナーのはじまりです。初代のNorma以来数機種が発売され、2019年現在では4x5インチ判の運用能力を持たないP3が最新機種となっています。特筆すべきはその徹底したユニット化思想と互換性で、初代機NormaのユニットがP3と混用できたり或いはP3に対して一つ前のモデルであるP2のユニットを装備して4x5インチ判orより大きな判型の運用能力を与える事が出来ます。
フィールドカメラのテヒニカで知られるリンホフ社のビューカメラシリーズがカルダンです。初代カルダン以降多くの機種が販売され、特に1968年に発売されたカルダンBiはセンターチルトとベースチルトの両方を実装するなど機能面価格面両方で最高機種でした。2019年現在ではディスコンになっています。
- トヨ トヨビューシリーズ
- ホースマン Lシリーズなど
ジナー ジナーNorma
ジナーの初代機。画像では5x7判にコンバートされている。
ジナー ジナーP
初代機Normaの後継として発売されたモデル。アオリの自由度、精度共にピカ一だが大きく重い。
プレスカメラ
時代設定の古い映画を見ていると、新聞記者が両手で箱のような物を構えているシーンが出てくる事がありませんか?プレスカメラは文字通り報道用のカメラとして使用されていたようなカメラの総称です。
プレスカメラはフィールドカメラの亜種と捕える事もできます。大判カメラでありながら自由度を諦めて速射性を高める作りになっており、ライカやコンタックスのように距離計でのピント合わせが出来るモデルや、大判カメラでありながらフォーカルプレーンシャッターを装備しているものまであります。
残念ながらとても汎用性があるカメラとは言えませんが、大きなストロボや閃光電球を炊きつつプレスカメラを振り回すスタイルには間違いなくロマンがあるのは確かです。
代表的な機種
グラフレックス/トヨ グラフィックシリーズ
Busch Pressmanシリーズ
Wista 45RF
グラフレックス スーパースピードグラフィック
グラフレックスのグラフィックシリーズ最終型。簡単に交換できるカムによる距離計連動が強み。海外にはファンが多くカムの図面を引けるソフトウェアが存在する。
その他
上記のカテゴリに当て嵌らない大判カメラもあります。例えば古いポラロイドのカメラを改造した大判レンジファインダーやジナーハンディなどの目測手持ちカメラ等々。とはいえ余程の理由が無い限りこの手の特殊用途カメラを選ぶ理由はありません。用途が特殊であるからこそ特殊な形態のカメラが必要とされたのであり、一般的な撮影には向かない事が殆どだからです。
新品にするか中古にするか
大判カメラを新品で購入するか中古で購入するかは非常に悩ましい問題です。昨今プロ用機材もデジタルバックを初めとしてデジタル化が進んでおり、それを受けて大判カメラを製造しているメーカーも大分数が少なくなりました。
例えばビューカメラの名門であるジナーは、最新のP3でデジタルバックへの最適化を進め、4x5インチフィルムを使用する事は出来なくなっています(前身のP2のユニットを追加すれば使用は可能ですが)。本邦にも数多くあった木製フィールドカメラメーカーも、需要の減少と職人の高齢化もあり殆どが廃業、消滅しました。
ですが、海外に目を向ければまだまだ多くのメーカーが大判カメラを製造しています。例えば大判カメラで最も知られたメーカーであろう独リンホフは、未だにビューカメラとフィールドカメラを製造し続けています。雲台で知られるアルカスイスも大判カメラのフルラインナップを維持しています。そして数々の新興メーカー達。古めかしい物と思われがちな大判カメラですが、海外には多くのユーザーとコミュニティが存在しています。大判カメラの火はまだ消えていないのです。
中古での購入は安価ですが、製品のコンディションが大きくバラつきます。又、大判はプロが使用していた事が多く、それぞれのプロが自分に合うようにカスタムしていた事もしばしばです。その為、そのカメラが本当に正常な状態なのかの判断が難しく、OH済みである、又は知り合いに詳しい人間がいる等の場合でない限り中々中古での購入は難しい部分があります。
特別安く状態が良い/OH済みであるモデルが無いようであれば、
イギリスのThe Intrepid Camera Compnayが製作している4x5フィールドカメラを購入する事をオススメします。樺の合板製のボディをベースに主要部へ金属を用いて軽量(1.1kg)かつ安価(280英ポンド=4万円程度)に新品カメラが入手出来ます。野外や街中での撮影に用いるなら充分な性能を備えているので、このカメラに不満が出てきた時初めてより高機能なフィールドカメラやビューカメラの購入を検討しても良いでしょう。Intrepidのフィールドカメラはレンズをマウントするボード、フイルムホルダ回り共々最もスタンダードな構成を踏襲していますから、後々ボディを買い替えたとしても使い回しが効き無駄になりません。
オススメモデル
新品で購入する場合
オススメ。イギリスの新興大判カメラメーカーで元々はKickstarter等のクラウドファンディングからスタート。精力的にモデルの改善を行っており、主力の4x5フィールドカメラは2019年5月時点でMk4に達している。合板を用いて軽量化を図りつつリンホフボードとグラフロックというオーソドックスの極みのような作り。折り畳んで小さくする事も出来る。
イタリアの大判カメラメーカー。ラインナップが膨大で判り辛いが、ムーブメントの自由度が凄まじく高いX Cameraシリーズ、安価なフィールドカメラのAffordable Cameraシリーズ、そして20x24まで対応するFolding Camera Classicシリーズの3ラインが存在する模様。最低297ユーロ(=約3.6万円程度)から5000ユーロ(=62万円程度)まで幅広い。
ウェブサイトにアクセスするとBitdefenderが警告を発したので注意。中国製フィールドカメラメーカー。折り畳み型と非折り畳み型をラインナップ。
ShenHaoと同じく中国のメーカー。レンズボードがリンホフボードではないので注意。現在は独の写真関連大手のJoboが取り扱い。
大判カメラの老舗。現在ではカメラよりも証明写真周りのアレコレが主力商品のようだが、細々とカメラを売っている。金属製と木製のフィールドカメラをラインナップに持っており、特に金属製のWista45が有名だが、サブタイプにレンジファインダーを備えた45RFが存在する。
イギリスの新興大判カメラメーカー。Intrepidと同じく元々はKickstarter等のクラウドファンディングからスタート。フィールドカメラよりもよりビューカメラに近い構成だが、2019年5月時点で販売されているモデルはレールの延長が出来ない(この点はフィールドカメラ的)。金属製部品以外は3Dプリンタによる樹脂製という構造を取る事で軽量な作りとなっており、1kgを切って900g前後しかない。
リアフレームはスイングしか出来ず、アオリの自由度でやや一般的なモデルより劣るが無限遠の風景等を撮影するならば余り困らないかもしれない。IKEAのような自分で組み立てるDIYキットか完成品かを選んで購入でき、また部品のデータもオープンソース化されているので知識があれば自信で新なパーツを作る事も可能。
スイスの大判メーカー。三脚とカメラを接合するクランプ部の方が有名かもしれないが、本来それは大判カメラを支えるための物。
もう少し詳しく
機能→ ↓カメラ |
Fライズ Fフォール (mm) |
Fティルト(前/後) mm |
Fスイング deg |
Fシフト mm |
Rライズ/フォール |
Rティルト (前/後) |
Rスイング |
Rシフト |
蛇腹伸縮長 mm |
レンズボード |
重量g |
Intrepid |
+42/-30 |
+45/-45 |
45 |
30 |
NA/NA |
+90/-30 |
NA |
NA |
75-320 |
Linhof |
1100 |
Chroma |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Standard |
+35/-45 |
+45/-0 |
45 |
32 |
NA/NA |
NA/NA |
NA |
NA |
60-360 |
Linhof |
1500 |
Stenopeika 4x5 Basic |
+30/-30 |
+20/-90 |
14 |
NA |
NA/NA |
+90/-20 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Stenopeika 4x5 SE2 |
+60/-48 |
+23.5/-25 |
12 |
22 |
+24/-20 |
+90/--29 |
24 |
17 |
75-630 |
Linhof |
3200 |
Chamonix 45N-2Standard |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
GIBELLINI Proxima 45Standard |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Canham DLC2 |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Canham 4x5 Wood |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Shenhao TZ45-IIC |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Technika 3000 |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Wista 45SP |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
Toyofi |
+25/-25 |
+90/-90 |
50 |
25 |
NA/NA |
+90/-17 |
NA |
NA |
65-300 |
Linhof |
1600 |
最終更新:2020年01月08日 15:37