現像液えり好み
「現像液を選ぶには汎用性があり、現像データの豊富なものを選ぶのが良い。つまり我々にはD-76という強い味方がいる。それは周知の事実だ。とはいえ一つ問題がある。その周知の事実が間違っていることだ」
Rodinal
古典的現像液の代表。その歴史は19世紀に始まり、幾度の処方変更を経て現在に至る。濃縮現像液で使用時に25倍、50倍、100倍等の濃度に稀釈して使用するため長期使用に耐え扱いやすい。微粒子効果のある成分を配さずネガの粒子感は大きいものの熔銀を起こさないため高いシャープネスを得られる。R-09、ADONAL、BLAZINAL等の別称がある。また、鎮痛剤のアセトアミノフェン(タイレノール)を使って調合するParodinalというバリエーションも。
Pyrocat
現像液は主薬としてメトールもしくはフェニドンにヒドロキノンを配するのが一般であるが、Pyrocatはピロカテコールを主剤とするのが特徴である。A液とB液とに分かれており、用時に水を加えて1:1:100等の割合に稀釈する。Rodinalと同じく熔銀がなくシャープネスの低下を引き起こさないのであるが、カテコール系現像液は銀粒子の周囲を染色し、見かけ上微粒子に見えるようになる。したがってシャープでありながら微粒子であり、諧調表現に勝れたネガを得ることができる。
数度に渡って処方変更が行われており、初期の処方のPyrocat-HDは市販品が販売されている。改良処方のPyrocat-MC等は試薬を蒐めて自ら調製せねばならない。
注意点として、カテコールによる着色は酸に弱いため、停止及び定着に酸性の物は使用できない。よって停止は水、定着はアルカリ性定着液を用うることになるが、乳剤はアルカリ雰囲気下で軟化するため傷をつけないように留意せねばならぬ。入手・使用共にやや困難だが、求める価値のある現像液である。
Pyrocat HD
茶色い染色になるタイプ
FX-1
"ステロイドを打たれたRodinal"と呼ばれる事もある現像液。Rodinalよりも更に高いシャープネスを求めて作られた現像液で、現在の所人類が作り出した現像液で最も高い先鋭度を得られる。対照的に当然ながら粒子感が目立つ事となる為、中判以上のフォーマットでないと常用は難しいかもしれない。現像時基本的には原液での使用になる為Rodinal程のコストパフォーマンスは持たない。また、感度も引き出し辛い傾向にある。
本来のFX-1はヨウ化カリウムを用いるが入手性に難がある等の理由からビタミンC(アスコルビン酸)を用いる代用処方が存在する。
FX-1ビタミンC処方
- ビタミンC (アスコルビン酸): 1.0g
- メトール: 0.4g
- 無水亜硫酸ソーダ: 20g
- 無水炭酸ソーダ: 4.0g
- 重曹: 1.0g
- 水を加えて: 1L
FX-6a
FXシリーズの現像液の一つ。比較的簡単な処方ながら、珍しいモノバス (現像/定着を一液で行う)現像液。1950年代半ばには雑誌等でも紹介されていた。現在では水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)とフェニドンの入手が難しいかも。
FX-6a処方
- 無水亜硫酸ソーダ: 50g
- ハイドロキノン: 12g
- フェニドン: 1g
- 水酸化ナトリウム(苛性ソーダ): 10g
- ハイポ: 90g
- 水を加えて: 1L
ハイポ量でコントラストを調整せよ、との指示があり、ハイポが増える(125gまで)と軟調に。逆に減らすと(70g程度まで)硬調に。超硬調にする場合はハイポを70gにした上でハイドロキノンを15gや17gまで増加せよとの事。
処理時間目安は20度で5分、劣化するまでに大体10本程度が現像可能と当時の雑誌に記述有。猶モノバスではありがちだが、定着しきれない事もあるのでその場合は別途定着液に付けてキッチリ定着する事。
POTA
PhenidOne ExTended RAnge DeveloperでPOTA。超超々軟調の仕上りになる特殊現像液。空気に触れると凄まじい速度で劣化する為調合してから廃棄までの保管可能時間は1時間程度とされるものの、現像による疲弊は殆どしない為この1時間の間であれば相当の本数の現像が可能。通常撮影すると黒潰れ白飛びするようなハイコントラストな被写体を撮影する為に開発されただけあり、本来は天体写真等の為に使われていた。
一般撮影用に使用した際は絞り20段程度の露出を許容する事が出来、上がる画はHDR処理をしたデジタル画像のような雰囲気に。超微粒子というわけではないが粒子感/シャープネスは下がる傾向にある。撮影時に露光を倍程度(+1)する事が望ましい。
POTA特有の仕上りには根強いファンがおり、数々の改良型処方が存在する。代表的な所では
DELAGI8、TDLC-101, TDLC-102, TDLC-103など。全体的にPOTAよりも感度を引き出しやすくし、シャープネスを向上した上で階調を良くする傾向に進んでいるパターンが多い。
POTA処方
- 湯 (50-85度ぐらい): 700ml
- 無水亜硫酸ソーダ: 30g
- フェニドン: 1.5g
- 水を加えて: 1L
フィルムの現像で疲弊する事はほぼないが、急速に酸化して行くので完成したらせいぜい1時間以内ぐらいで使い切る事。現像時間の目安は大体12-15分ぐらい。
薬剤が温度高めでないと溶け辛いが、元々必要な溶媒としての量が多く冷水を加水して1Lにしても温度を下げ切るのが難しい。とはいっても30度切る(28度程度だと猶良し)ぐらいならば割と普通に現像が出来てしまう+超軟調なので高温現像で問題になる硬調化があまり問題にならないので、温度を気にせずやってしまうのもアリ。
シュテックラー二浴式
Kodakが誇る濃縮一般現像液の一つ。希釈率を変更する事で現像時間と仕上りを調整できる万能現像液。ほぼ無限とまで言われる保管可能期間、水温/水質にほぼ影響されない仕上りとやたらに強い。詳細は個別項目参照。
D-23
Kodak超微粒子現像液処方の一つ。軟調現像液にカテゴライズされる事も。感度は出ないので一段程度減感しての撮影推奨。T粒子フィルムとの相性はどうもあまり良くない様子なので、トラディショナルな球状粒子フィルムで使用した方が良いかも。
D-25
Kodak極超微粒子現像液処方の一つ。上記軟調微粒子現像液D-23に薬剤を更に追加する事で微粒子効果を高めた物。正直フィルム自体の微粒子化が進んでいる上、フィルム面の面積が大きく微粒子化の必要性が小さい大判カメラであんまり使う価値があるかと言うと…。ただし低感度フィルムと組み合わせてほぼ無粒子を狙うのは、大きくクロップ等をする必要がある場合は充分に選択肢のうちの一つ。ただし感度は出ないので、一段減感しての撮影推奨。
市販現像液の一つで、数少ないモノバス現像液の一つ。Df (Developing / Fixing)という番号の通り現像から定着までを1液で行うので、現像が上がったら水洗するだけで良いというお手軽ケミカル。大体1リットルで135フィルム15-16本程度の現像が可能。上記FX-6aと同じくモノバスの常として使っていくと液にカスが貯まっていくので適当に濾過してやる事推奨。コーヒーフィルターとかを活用すると良いでしょう。
通常20度程度を基本とする現像液としては珍しく処理温度高め(公称だと21-27度程度)が必要。それより温度が低いと減感処理になり、それより高温だと増感処理に。またT-MAXに代表されるT粒子フィルムとはあんまり相性が宜しくない様子。少なくともピンクステインが中々抜け辛い傾向に。
液が劣化し易く、また定着不足も発生し易いので心配なら定着をもう一度してやっても良いかも。こう書くとあまり使い易くなさそうな現像液に聞こえるが、T粒子フィルムでなく且つ温度がレンジの中にあれば現像時間を基本的に考えなくて良い事と一液式である事は、タンクではなく皿現像を行う時に非常に便利。
最終更新:2020年08月18日 16:05