D76なんて忘れてしまえ


フィルムの現像


 撮影したからには現像せねばならぬ。これは大判カメラに限らずフィルムカメラを扱う上では避けられない道です。フィルムの現像はとても奥深いものであり――幸か不幸か――とても楽しいものでもあります。本項では撮影後の現像について解説します。

現像とは


 撮影した、つまり光が当たったフィルムの表面には潜像という銀化合物でできた肉眼では見えない像が形成されています。この潜像を可視化して顕像とし、フィルムとして保存・鑑賞に堪えるようにする一連の工程が広義の現像(processing)です。
これをもう少し細かく分けていくと

  • 潜像を可視化する工程(狭義の現像 developing)
  • 現像作用を止める工程(停止浴 stop bath)
  • 余分な銀を除去し、安定させる工程(定着 fixing)
  • 薬液を洗い流す工程(水洗 washing)

この4つの工程に分かれます(モノクロネガの場合)。
これを自分でやってしまうのが自家現像です。

たのしい自家現像

暗室が無いと現像は出来ないと思っていませんか?それは大きな間違いです。少なくとも4x5判程度までならば撮影済フィルムを光に暴露しないままタンクに詰める事が出来れば自家現像は出来てしまいます。

タンクにフイルムを詰める工程はダークバッグを使うのが最もシンプルでしょう。ただし大判カメラで使われる4x5インチかより大きなフィルムですとダークバッグは内容積が足りなく感じるかもしれません。もし真っ暗に出来て窓からの月明かりが入らないような場所、例えば風呂場や洗面所があるのならば、そこでフイルムを詰めるのも良いでしょう。

現像にあたって4x5判を現像出来るタンクは数種類ありますが、最もポピュラーなのは独Joboの物でしょう。近年は米Stearman Pressが開発したコンパクトな現像タンクも広がりつつあります。

大判用現像タンクのアレコレ
  • Jobo
 回転現像(タンクを引っくり返しての攪拌ではなくローラー上で継続的にゴロゴロ回す)にも対応するので自動化への道も開けている。特に回転現像は必要な液量が少ないのがメリット。現像システムとして印画紙までカバーする膨大なモジュールがあるので他サイズのフィルムにも対応。タンク毎に最大現像容量が異なるので、シノゴの先の大型フォーマットへの展開も問題なし。お金があるならば攪拌と保温を自動でやってくれる自動現像システムもあるので、とにかく結果の安定性と再現性を求めるならこれ一択。難点はやや入手し辛い事。

 オススメSP-445は樹脂製の部品複数によって構成された4x5インチフイルム専用現像タンクです。外装は黒色の梨地仕上げになっており、内部に475mlの液を注ぐ事で一度に4枚までのフイルム現像を可能とします。小型軽量かつ薄型のデザインが使用液量の低減に貢献しています。破損時は部品単位での購入が可能且つ、フィルムホルダも時々新型になっているので補修面で心配する事は無いでしょう。一度に4枚のフィルムの現像が可能です。

 必要液量そこそこ、割に簡単なフィルムのロードと使い易いタンクです。地味に構成が改善されている(フィルムロードの皿が改造され続けている)為、もしどこかの点灯で購入する時は注意しましょう。

 イギリスの写真関連用具メーカーであるPaterson社のシステムタンクは本来135と120フィルム用ですが、これにMOD54製の大判用フィルムホルダを突っ込む事でシノゴフィルムの現像が可能です。MOD54フィルムホルダは断続的に改良を加えられ続けており2020年5月現在の最新版はMk27(!)。一度に6枚のフィルムの現像が可能です。

  オススメ上述のPaterson社のシステムタンクに使える大判用フィルムホルダ。3Dプリンタ出力というモダンな構成で、こちらも一度に6枚のフィルムの現像が可能。上のMOD54とはフィルムの装填/固定方法が異なりタンクやリールが濡れていても装填し易いとの事。同社はJoboタンク用のリールもラインナップ。Film Photography Projectが販売している大判フィルム用現像リールは同社のOEM製品で色が違うだけなので、購入するさいはどちらでもお好きな物をどうぞ。8x10用なども販売している為大フォーマットにも手を出した際は確認してみていも良いかもしれません。

 アメリカの写真家Benoît氏が販売している、上述のPaterson社のシステムタンクに使える大判用フィルムホルダ。ABS製で一度に6枚のフィルムの現像が可能。所謂リールというよりはケーシングのような形をしており、ハンガーにひっかけるような形ではなくリールの穴にフィルムを差し込んで現像するようになっています。アメリカ製品らしく耐久性をウリにしており、食洗機に耐えると公称している恐らく唯一の現像リール。カラー用など薬品の残留が問題になる場合は導入を検討しても良いかもしれません。販売されている最大フォーマットは5x7。

  • Yankee(リンク先は米bhの商品ページ)
 四角い箱の中のハンガーにフィルムを並べて現像する、最もクラシックなタイプの現像タンク。シノゴだけでなく微妙に小型のフォーマットなども現像出来る為汎用性という意味では高いのだが、フィルム装填にミスが発生しやすいとの事。

  • Cescolite(リンク先は米bhの商品ページ)

  • Arkay

 中国の新興メーカー。一般的な金属製現像タンクを拡大した物でシノゴに対応。全金属製なので頑丈。一度に最大で10枚の現像が可能と大容量で、5x7仕様(MAX6枚)も存在している。メタルタンク特有の蓋からの水漏れはやはりありそうな雰囲気。


現像プロセス

冒頭にも記載した通りモノクロフィルム現像のプロセスは現像→停止→定着→水洗の4工程で、大判だからと言って何が変わるわけではありません。基本的には小サイズフォーマットの現像用の指南書などを確認して下さい。

流れを具体的に書くと以下の通りです。

下準備

撮影が終わったフイルムを暗室環境下(ダークバッグ等含む)でタンクにつめる。タンクの蓋を正しく閉めるなどして密閉し、露光しないようにする。(ここまで終わったら明室で良し)

現像

 フイルムだけが入ったタンクに現像液を注ぐ。その前に普通の水でタンクを満たし、1~2分程攪拌する(前浴)工程を挟む人もいる。
最初に一分程連続で攪拌を続ける(初期攪拌)事が多い。

停止浴

 タンク内の現像液を排出し、水または酸性の停止液を注入して現像作用を停止する。現像はアルカリ雰囲気下で進行するため、停止液によって中性もしくは酸性雰囲気ならしめれば現像は停止する。これ以降の作業は厳密な時間管理を必要としない。

定着

 停止液を排出し、定着液をタンクに満たして攪拌する。フィルム上の残余のハロゲン化銀を除去し、像を安定ならしむるための工程である。酢酸とチオ硫酸アンモニウムからなる酸性迅速定着液が一般的だが、アルカリ性の物も存在する。

水洗促進浴(オプション)

 水洗効率を上げ、定着液の除去を早めるため水洗促進剤を使用することがある。定着液の排出後一度水浴し、その後水洗促進剤を注入して攪拌する。

水洗

 定着液の残留は現像後のフィルムの寿命を著しく損なう。よって水洗には十分に留意する必要がある。単に流水を用うるのも良いが置換効率が悪いため長時間を必要とする。タンクによっては水洗器を利用すれば迅速に水洗できる。

乾燥

 フィルムを取り出し、ハンガーやクリップなどで吊るして乾燥させる。水滴が残ると跡になってしまう為、水切り剤なので水がスパっと落ちていくようにするのが一般的。

完全に乾燥が終了した後、ネガホルダなどに入れて保存しましょう。その後はデジタル化するなりプリントを作るなり御自由に。おつかれさまでした。
最終更新:2020年09月08日 11:00