まだ見上げて先窄まりの建物で消耗してるの? (アオリ)


Do not go gentle into that good perspective, Large Format should burn and rave at the moment of photoshoot, Tilt, tilt against the perspective of the building.


 大判カメラであればどのような機種でも最低限は備えてあるもの、それがアオリ機構です。百聞は一見に如かずです。用例を見てみましょう。
 風景や建築物を撮影する場合、視線より上にあるものを写す時はカメラを上に向けて撮影するのが普通ですね(当たり前過ぎて何を言ってるんだと思うかもしれませんが)。しかし、そうするとレンズによる歪みが発生してしまいます。典型的なのは肉眼では垂直に見えるビルが写真では上すぼまりに写ってしまうもの。


アオリ機構を活用することでこれをもっと自然な形に写すことができます
(申し訳ないのですがこれはデジタルカメラによる画像を補正したものです。イメージとしてご理解ください)


上の方だけを見るとさほど違和感がないかもしれませんが、並べて見ると一目瞭然ですね。
これが大判カメラにおいて恐らくもっとも利用されるアオリ、「ライズ」です。

ビューカメラをライズした様子

以下、この項目では大判カメラで利用できるアオリについてもう少し詳しく解説していきます。

アオリの基礎

大判カメラが備えているアオリには4種類が存在します。
  • ライズ/フォール
  • スイング
  • シフト
  • チルト

この4種類のアオリを、移動するアオリと傾むくアオリの二種類として捕えると感覚が掴み易いかもしれません。ライズ/フォールとシフトが移動するアオリ、チルトとスイングが傾むくアオリです。

移動するアオリはアオリの後ピント位置は移動しません。

ライズ/フォール(Rise/Fall)はその名の通り、フレームを垂直に持ち上げる、或いは下げる事を意味します。前フレームを上下に移動させるのがフロントライズ/フロントフォール、リアフレームを上下に移動させるのがリアライズ/リアフォールです。フロントライズ=リアフォール、フロントフォール=リアライズという関係性は覚えておきましょう。フロントとリアの両方をそれぞれ同じだけライズ(又はフォール)させると単順に中立を維持します。

フロントのライズ/フォールはイメージサークル自体を上下させ、リアのライズ/フォールはイメージサークル内で切り抜く位置を上下させます。この操作ではピント位置は移動しません。

スイング(Swing)はフレームを左右に回転させる事です。ビューカメラでは前後フレーム共に45~50度程度までのスイングが出来る機種が多いですが、木製フィールドカメラでは10~25度、金属製フィールドカメラでも最大30度程度が普通です。フロント/リア共に出来る機種が殆どですが、モデルによってはリアスイングを備えない物もあります。この操作ではピント位置が変化します。

シフト(Shift)はフレームを水平に左右移動させる事です。多くのフィールドカメラではフロントのみに備えられている事が多いアオリです。ビューカメラは前後フレームにシフトを持ちます。多くの場合被写体へのカメラ映り込みの回避等に使われる為、どちらかと言えばビューカメラで多様される動きです。フロント右シフト=リア左シフト、フロント左シフト=リア右シフトという関係性は覚えておきましょう。フロントとリアの両方をそれぞれ同じだけ左(右)シフトさせると単順に中立を維持します。
フロントのシフトはイメージサークル自体を左右に移動し、リアのシフトはイメージサークル内で切り抜く位置を左右に移動します。この操作ではピント位置は移動しません。

チルト(Tilt)はフレームを前後に傾ける事です。大判カメラのアオリのイメージとして真っ先に上げられる王道のような物と言えるでしょう。同時に最も理解に時間のかかるアオリでもあります。フロントをチルトさせるとピント面が移動し、リアをチルトさせると被写体の形状を歪ませる/補正する事が出来ます。チルトはフロントチルトとリアチルトで明確に役割が異なります。注意しましょう。

 あおりを実現する為にはカメラのフイルム/感剤を保持しているリアとレンズを保持しているフロントそれぞれのフレームに可動軸を設ける必要があります。この軸の設け方により、ベースチルトとセンターチルト/画軸支持チルトの2系統が存在します。スイングとシフト、ライズ/フォールに関してはこの軸の違いは殆ど影響しませんが、チルトを用いた際の操作に対して非常に大きな影響を与えます。

ベースチルト

 最も基本的なのがベースチルトです。これは文字通りフレーム自体を根本から前後に傾ける事で行います。

Sinar Norma. 典型的なベースチルト機。

 木製フィールドカメラはその折り畳み機構との相性が非常に良い事もあり多くがこのベースチルト機です。金属製フィールドカメラも折り畳み機構との相性の良さからベースチルトを採用している事が多いですが、リンホフのスーパーテヒニカシリーズはリアのみベースチルトではありません。ビューカメラでも多くの機種がこのベースアオリを採用していますが、発売年度の新しい物はより進歩した、というよりもピントへの影響が少なくまた理解し易い画軸支持チルトを備えている機種も多くあります。

 上述の通り非常に基本的なアオリのシステムであり、一度習得してしまえばほぼ全ての大判カメラでアオリが使えるようになります。後述の画軸支持チルトと異なりリアフレームでアオリを行った場合にはピントがズレる為、前にチルトした場合はフレームを後ろに下げ、後ろにチルトした場合はフレームを前に動かす処理が必要になります。

画軸支持チルト

上記ベースチルトと異なるアオリ機構が画軸支持チルトです。機構が複雑になる為フィールドカメラで備えている事は少なく、多くは新しい世代のビューカメラが備えています。特徴としてはチルト軸とピント軸が一致している為、このチルト軸上においた被写体はチルトやスイングをかけてもピントがズレないという事があげられます。例えば手前向かって右から向かって左奥に伸びているような斜めの面(建物など)えを撮影する際、ピントスクリーン上の左垂直スイング軸 (左右上下反転しているので向かって左側)のライン上でピントを合わせ、あとはそのままスイングをかけて全体にピントが合うようにすれば再度のフォーカシングは不要になります。


Sinar P. フレームを支えている部分の曲線により回転運動の軸がブレずピントに影響が無い

シャインフリューク (シャインプルーフ)の法則

 日本語への転写には議論がありますが、このシャインフリュークの法則の理解は大判カメラでアオリを行おうとすると早晩必要になって来ます。
この法則は「『一直線上に斜めに並んだ被写体』と『レンズの向き』と『フィルム面』から無限に線を伸ばした時に一点で交わると、斜めに並んだ被写体全てにピントが合う」という事象を指します。これだけだと非常に判り辛いのですが。

ケーススタディ

目の前にある建物を撮影したい。カメラとフレームが中立の状態では建物上部が見切れてしまうのでカメラを上に向けて撮影したが、建物の上部が窄まってしまった。これを窄ませる事なく撮影するにはどのようにアオれば良いか?

  • ライズで処理をする場合
    • メリット: 難しい事を考えずにできるので一番楽
    • デメリット: イメージサークルに余裕が無いレンズでは不可
  1. カメラとフレームが中立の状態でピントを合わせる
  2. 前フレームのみをライズする
  3. ピントグラス上で建物が全て入るまでライズし続ける

 この方法ではカメラが建物に対して真っ直ぐなままである為、カメラと建物の両方が地面に対して真っ直ぐ立っている限り、見上げる事による先窄まりが原理的に発生しませんので一番簡便な方法です。ですが、当然ライズ量に応じて大きなイメージサークルを持つレンズが必要です。例えば69フイルムバックを使用する場合や、5x7/8x10用レンズを4x5で使用する場合などに適当です。

  • ベースティルトの場合
    • メリット: イメージサークルが小さなレンズでも可能
    • メリット: フィールドカメラを含む大抵の大判カメラで可能
    • デメリット: 動きを理解するのが難しい
  1. フレーム中立の状態でカメラを斜め上に向け、建物全体がピントグラスに収まるように構図を決める。
  2. フレーム中立のままピントを合わせる
  3. リアフレームを前(被写体側)に倒す (見上げる事により先すぼまりになった建物を真っ直ぐにする)
  4. リアフレームを手前(フイルムバック側)に移動させてフォーカシングを調整する

注意点:
  • 前フレームを前後させると撮影倍率が変わり、建物の写る大きさが変わる事に留意する。
  • リアフレームを前にチルトした場合多少写る範囲が下(地面側)に動く。軽いライズで補正する必要が出る。
  • 上記の理由によりあまりカツカツの構図だとアオった時にハミ出る。

基本の動きであると同時にもっともままならない動きをするパターンと言えるでしょう。また、リアフレームのみをティルトするとピント面が感剤と平行にならない為、所謂ジオラマ写真のような効果が生じてきます。

  • 画点指示アオリ/センターアオリの場合
    • メリット: イメージサークルが小さなレンズでも可能
    • メリット: 動きが理解し易い
    • デメリット: 搭載している機種が少ない
    • デメリット: 搭載している機種は大抵ビューカメラで重い
  1. フレーム中立の状態でカメラを斜め上に向け、建物全体がピントグラスに収まるように構図を決める。
  2. フレーム中立のままピントを合わせる
  3. リアフレームを前(被写体側)に倒す (見上げる事により先すぼまりになった建物を真っ直ぐにする)
最終更新:2020年05月26日 16:42