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伊賀の散歩者

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伊賀の散歩者 ◆F0cKheEiqE



人気の無い、夜の草原。
丈の低い草に覆われた野を、月影が照らす。

海に近いのか、浜に打ち寄せる波の音が響き、
潮の匂いが、風と共に通り過ぎた。

実に静かな夜の海辺の風景である。

「ぉぉぉおい…」
「ぉぉおおい…」
「ぉおおおい…」
「おおおおい…」

その静寂を破る一つの呼び声がある。
暫くして、声とともにフラフラと一つの影が出現した。

それは奇怪な影であった。

右肩に、一羽の鷹を乗せた、背の高い影である。
左手に、例の黒い鞄を引き摺っている。

濃紺色の忍び装束を着た、一人の男である。
奇怪なのは、首から上を、口と鼻を除き、
白布で全てぐるぐる巻きにしていることである。
その白布には、顔の目に当たる部分を中心に、
斑々とどす黒い干乾びた血痕が染み付いており、
より一層男を不気味に見せていた。

「おおおい、天膳様ぁ・・・・」

男は誰かを探しているようだった。
その声には、何処か悲痛な響きがある。

「何処に行かれたかぁ・・・・天膳様ぁ・・・・」

ここにはいない主を呼び求めるこの男は、
名を筑摩小四郎と言う。


伊賀鍔隠れ衆十人組が一員、筑摩小四郎は、
この殺し合いについて全く理解できていなかった。
ただでさえ「にわか盲」でまだ前後も覚束ないこの若者に、
この常軌を逸した事態を理解しろと言う方が酷であろう。

盲目のこの男には、名簿を読む事はおろか、
自分が今どこにいるのかすら確認する術がないのだ。

同じ盲目でも、甲賀組十人衆の生来の“めしい”で、
異常聴覚の持主たる室賀豹馬であれば、また違ったかもしれない。

しかし小四郎は、甲賀弦之介の「瞳術」により、
自らの忍法で顔面を破壊されたことにより盲目になって、
まだほんの数日しかたっていない。

顔面を割られる重傷で、しかも盲目になってしまったこの男が、
誰の先導も受けずにこうして歩きまわっている時点で十分に恐るべき事だが、
恐るべき鍔隠れの忍びの能力を持ってしてもそこが限界であろう。

しかも、ここに呼び出される直前までいた場所が悪かった。
彼がいたのは、ここと似たような風景をした、
池鯉鮒(ちりゅう)の東、駒場野と呼ばれる延々と広がる原野地帯のただ中であったのだ。

そこで、共に甲賀組に奇襲を行った、彼の主人たる薬師寺天膳とはぐれ、
彼を求めて夜の原野をあても無く彷徨っていた所を、
突如この殺し合いの場に呼び出されたのである。

駒場野にいた時の小四郎の状況と違う点があったとすれば二つ。
一つは、駒場野では感じるはずの無い磯の香りがする点、
もう一つは、彼が片手に握っていたはずの大鎌が無くなり、
気が付けば、代わりに得体の知れない黒い鞄を持っていた点だろう。

(一体何がどうなっとるんじゃ?鎌は何処に消えた?
この奇妙な袋はなんじゃ?何故磯の香りがする?
甲賀組は何処じゃ?天膳様は何処に行かれたのじゃ?)

主の姿を求め彷徨っていた時、突如感じた浮遊感。
気が付けば何やら狭い場所にいて、突如始まった謎の口上。
意味もわからず聞いていれば口上もすぐに終わり、
気が付けばまた何処とも知れぬ原野を彷徨っていた。

疑問が疑問を呼び、考えれば考えるほど訳が解らなくなる。

もとより十人衆に数えられる異能の忍者ではあっても、
本質的には純朴な田舎の若者に過ぎない筑摩小四郎は、
例え目が見えていたとしても自分の現状が理解できなかったろう。

ましてや目が見えぬ今の小四郎には…

彼が今できる事は唯一つ。

「何処にござるかぁ・・・天膳さまぁ・・・・」

ただ無心に見えぬ主の姿を求める事だけである。

「天膳さまぁ・・・・・」

盲目の忠臣は夜をあても無く乱歩する。

闇に消える後ろ姿は、飼い主を追い求める捨てられた子犬を思わせた。




【F-4/海辺の草原/一日目・深夜】

【筑摩小四郎@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、盲目、混乱
[装備]:お幻の鷹@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、基本支給品(未確認支給品1個所持)
[思考・状況]
基本:何が何だか解らない。とにかく薬師寺天膳を探す。
1:何処にござるか、天膳様・・・・
【備考】
※目が見えません。
※現状を全く理解していません。


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