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硫黄の炎に焼かれても(後編)
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硫黄の炎に焼かれても(後編) ◆02i16H59NY
(前編から)
――炎の塊が四散する、その僅かなタイムラグを突いて、彼女はルーンが張り巡らされた階段を駆け上がる。
踊り場ではすぐに重油のような物体が一箇所に集まり、人のカタチを取り始めている。
それを視野の隅に捉えながら、式はなんとか3階のフロアにまで到着。高熱で痛みの目立ち始めたナイフを構えなおす。
踊り場ではすぐに重油のような物体が一箇所に集まり、人のカタチを取り始めている。
それを視野の隅に捉えながら、式はなんとか3階のフロアにまで到着。高熱で痛みの目立ち始めたナイフを構えなおす。
貧乏籤を押し付けられた――それが、両儀式の素直な実感だった。
あの時、ロビーで炎の巨人と相対した直後。
式の示唆した『2つの可能性』を聞いた男たちは、身構える彼女をよそに、即座にその身を翻したのだった。
フリアグネは「上にいるはずの、炎の巨人の主人を討ってくるよ」と言って。
トラヴァスは「要は全てのカードを潰せばいいわけですね」と言って。
それぞれ、どこかに向かって駆け出していってしまっていた。
そのあまりの迷いの無さに抗議するタイミングすら逸し、そのままなし崩しに炎の巨人の相手を強いられている。
あの時、ロビーで炎の巨人と相対した直後。
式の示唆した『2つの可能性』を聞いた男たちは、身構える彼女をよそに、即座にその身を翻したのだった。
フリアグネは「上にいるはずの、炎の巨人の主人を討ってくるよ」と言って。
トラヴァスは「要は全てのカードを潰せばいいわけですね」と言って。
それぞれ、どこかに向かって駆け出していってしまっていた。
そのあまりの迷いの無さに抗議するタイミングすら逸し、そのままなし崩しに炎の巨人の相手を強いられている。
なるほど、“殺しきれない”とはいえ、“一瞬でも散らす”ことができるのは、おそらく式くらいのものだろう。
人間相手ならともかく、トラヴァス少佐の銃器程度では足止めにもなるまい。
フリアグネの『吸血鬼』もこの炎には無力だし、『コルデー』や『ダンスパーティ』で吹き飛ばすにしてもどれほどの効果があるやら。
直死の魔眼で確実に“散らすことができる”ポイントを見抜き、振り抜ける式だからこそ、ここまで持ちこたえることができているのだ。
彼女が炎の巨人を押さえている間に、他の2人が根本的な解決を図る。
その発想、その作戦自体は、そう悪いものではない。
人間相手ならともかく、トラヴァス少佐の銃器程度では足止めにもなるまい。
フリアグネの『吸血鬼』もこの炎には無力だし、『コルデー』や『ダンスパーティ』で吹き飛ばすにしてもどれほどの効果があるやら。
直死の魔眼で確実に“散らすことができる”ポイントを見抜き、振り抜ける式だからこそ、ここまで持ちこたえることができているのだ。
彼女が炎の巨人を押さえている間に、他の2人が根本的な解決を図る。
その発想、その作戦自体は、そう悪いものではない。
「だけど……あまり長くは持ちそうにないな」
小さく呟く式の顔に、絶望の色はない。
絶望はないが、しかし、このままいつまでも耐え続けることができるとも思ってはいない。
なるほど、確かに未だ炎の巨人の攻撃は彼女を捉えてはいない。火傷の1つも、未だ負ってはいない。
だが、手にしているナイフの方は。
一瞬とはいえ、斬り付ける度に3000度の高熱に炙られているのである。
すぐに振り切っているため溶けて崩れるようなことはないが、見るからに刃が鈍ってきている。
もう、いつ弾みで折れてしまってもおかしくない有様だ。
絶望はないが、しかし、このままいつまでも耐え続けることができるとも思ってはいない。
なるほど、確かに未だ炎の巨人の攻撃は彼女を捉えてはいない。火傷の1つも、未だ負ってはいない。
だが、手にしているナイフの方は。
一瞬とはいえ、斬り付ける度に3000度の高熱に炙られているのである。
すぐに振り切っているため溶けて崩れるようなことはないが、見るからに刃が鈍ってきている。
もう、いつ弾みで折れてしまってもおかしくない有様だ。
そして――攻撃手段を失った時、それが両儀式が焼き殺される時だ。
走って逃げても人の足より速く、階を登ってみても執拗に追いすがり、壁の向こうに逃げれば壁ごと焼き溶かして接近する。
振るう炎の十字架は、壁に触れれば爆発を起こし、手すりに触れれば鉄をも飴細工のように溶かす。
こんなもの、先制攻撃で潰す以外にどうしろと言うのだ。
復活した巨人の振り下ろす炎の十字架を斬り払って“散らし”ながら、式は思う。
走って逃げても人の足より速く、階を登ってみても執拗に追いすがり、壁の向こうに逃げれば壁ごと焼き溶かして接近する。
振るう炎の十字架は、壁に触れれば爆発を起こし、手すりに触れれば鉄をも飴細工のように溶かす。
こんなもの、先制攻撃で潰す以外にどうしろと言うのだ。
復活した巨人の振り下ろす炎の十字架を斬り払って“散らし”ながら、式は思う。
あの2人は、いったい何をやっているのか。
フリアグネは魔術師を見つけられたのか。彼は彼で今どこかで戦っているのか。それともまんまと逃げられてしまったのか。
非常ベルを鳴らしたのはトラヴァスのようだが、スプリンクラーも作動しない今、どこで何をしているのか。次の策はあるのか。
まさか式を1人残して、容赦ない逃走を選択してしまったのではないか。
……あり得ないことではない。彼ら3人の関係は、信頼というより打算で結ばれているようなものなのだから。
ホテルの3階、廊下を駆けつつ攻撃を捌きながら、彼女は小さく舌打ちをする。
どうやら、本気でこれは貧乏籤らしい。
フリアグネは魔術師を見つけられたのか。彼は彼で今どこかで戦っているのか。それともまんまと逃げられてしまったのか。
非常ベルを鳴らしたのはトラヴァスのようだが、スプリンクラーも作動しない今、どこで何をしているのか。次の策はあるのか。
まさか式を1人残して、容赦ない逃走を選択してしまったのではないか。
……あり得ないことではない。彼ら3人の関係は、信頼というより打算で結ばれているようなものなのだから。
ホテルの3階、廊下を駆けつつ攻撃を捌きながら、彼女は小さく舌打ちをする。
どうやら、本気でこれは貧乏籤らしい。
不意に、両儀式の鼻が、予想もしていなかった刺激臭を捉えた。思わずその目が見開かれる。
「なっ……!? これは……魔術師の? いや、違う……!」
その『臭い』の正体に気がついた時、彼女は戦慄を覚えた。
最初は敵の魔術師の追い討ち、そのための仕掛けかと思った。
次に、数秒後に訪れるであろう事態を想像して、その可能性を否定した。
最後に、さらにその先に現れるであろう状況を理解して、この無茶苦茶な仕掛けを施した人物とその意図に思い至った。
最初は敵の魔術師の追い討ち、そのための仕掛けかと思った。
次に、数秒後に訪れるであろう事態を想像して、その可能性を否定した。
最後に、さらにその先に現れるであろう状況を理解して、この無茶苦茶な仕掛けを施した人物とその意図に思い至った。
振り返る。
長い廊下の先、式が上ってきた階段とは反対側。
建物の中、もう1組存在していた階段とエレベーターの前。
……石油の臭いを漏らすドラム缶が1つ、とくとくと液体を零しながら転がっていた。
長い廊下の先、式が上ってきた階段とは反対側。
建物の中、もう1組存在していた階段とエレベーターの前。
……石油の臭いを漏らすドラム缶が1つ、とくとくと液体を零しながら転がっていた。
そう思ってみれば、どこかからうっすらと煙が上がり、微かにメラメラと何かが燃える音がする。
ずっと炎の巨人の相手をしていたせいで、気づくのが遅れてしまったが――炎の巨人とは全く別の場所で、確かに何かが燃えている。
そして、ベルは鳴れども、スプリンクラーは作動しない――!
ずっと炎の巨人の相手をしていたせいで、気づくのが遅れてしまったが――炎の巨人とは全く別の場所で、確かに何かが燃えている。
そして、ベルは鳴れども、スプリンクラーは作動しない――!
「あ……あの馬鹿っ! 何てことをっ!」
式は彼女らしくもなく、狼狽の声を上げる。
背後では巨人が機械的な動きで炎の十字架を振り上げている。
ドラム缶にも、そこから流れ出す液体の存在にも、お構いなしだ。
今から他所に誘導していたのでは、間に合わない。
式は即座に決断。
振り上げたナイフを手近な窓に叩き付ける。
その衝撃のせいか、痛んでいたナイフはとうとう折れ飛ぶが、式は一切構うことなく。
背後では巨人が機械的な動きで炎の十字架を振り上げている。
ドラム缶にも、そこから流れ出す液体の存在にも、お構いなしだ。
今から他所に誘導していたのでは、間に合わない。
式は即座に決断。
振り上げたナイフを手近な窓に叩き付ける。
その衝撃のせいか、痛んでいたナイフはとうとう折れ飛ぶが、式は一切構うことなく。
一片の迷いもなく、3階の窓から、外の虚空に向かって突進した。
彼女の体を捉え損ねた炎の巨人の十字架は、そしてドラム缶から繋がる水溜りを、盛大に打ち据えた。
◇
トラヴァス少佐の最後の支給品――『燃料』。
なんともそっけない一言で現されていたのは、量だけで言えば相当な分量に及ぶ代物であった。
量にして、ドラム缶十数本分。
説明書には『バギーやモトラド(注・二輪車のこと。空を飛ばないものだけを指す)の一般的な燃料』とあったから、ガソリンあたりだろうか。
この椅子取りゲームが始まってから、ずっと使い道がないと判断していたソレを――
なんともそっけない一言で現されていたのは、量だけで言えば相当な分量に及ぶ代物であった。
量にして、ドラム缶十数本分。
説明書には『バギーやモトラド(注・二輪車のこと。空を飛ばないものだけを指す)の一般的な燃料』とあったから、ガソリンあたりだろうか。
この椅子取りゲームが始まってから、ずっと使い道がないと判断していたソレを――
トラヴァスは一切の躊躇なく、ホテルのほぼ全フロアに渡って撒き散らしていた。
おそらくはフリアグネと魔術師によるものだろう、戦闘の気配が響く最上階には踏み込まなかったが、しかし、それ以外の全ての場所に。
揮発性が高く、よく燃える燃料を、ドラム缶ごと配置していったのだ。
揮発性が高く、よく燃える燃料を、ドラム缶ごと配置していったのだ。
「“魔法遣い”、いや、“魔術師”の使う技の仕組みなんて分かりはしないのだけど――あの対策は、安易だったね。
その方向からの攻略が正しいことを、自ら認めているようなものだよ」
その方向からの攻略が正しいことを、自ら認めているようなものだよ」
早々に退避し、ホテルの外から建物を眺め上げながら、トラヴァスは小さく呟く。
彼の見上げるその前で、ほぼ全ての階の窓に炎が灯ってゆく。
あの炎の巨人から首尾よく引火したか、あるいは、随所に用意した簡単な時限発火装置が上手く作動したか。
時間も材料もなかったから適当な代物だったが、電気は通っているのだから上手くショートさせれば火花を確保できる。
各階に燃料を撒きながら、トラヴァスはあちこちにそういう仕掛けを作り捨てていったのだった。
様々な工作技術を“アイカシア学校”で学び身につけた彼ならではの小技だった。
彼の見上げるその前で、ほぼ全ての階の窓に炎が灯ってゆく。
あの炎の巨人から首尾よく引火したか、あるいは、随所に用意した簡単な時限発火装置が上手く作動したか。
時間も材料もなかったから適当な代物だったが、電気は通っているのだから上手くショートさせれば火花を確保できる。
各階に燃料を撒きながら、トラヴァスはあちこちにそういう仕掛けを作り捨てていったのだった。
様々な工作技術を“アイカシア学校”で学び身につけた彼ならではの小技だった。
最初に彼が思いついた対策、それは非常ベルを押してスプリンクラーを作動させることだった。
あれほどの炎、単純に水をかけても消火しきれるとは思わないが……ルーンのカードの方は話が別だ。
紙は水に弱い。インクも水に弱い。
1つ1つ水をかけて回るのは手間がかかりすぎるが、元からある防火施設を活用すれば……と考えたのだ。
あれほどの炎、単純に水をかけても消火しきれるとは思わないが……ルーンのカードの方は話が別だ。
紙は水に弱い。インクも水に弱い。
1つ1つ水をかけて回るのは手間がかかりすぎるが、元からある防火施設を活用すれば……と考えたのだ。
だが、そちらは既に魔術師によって対策が打たれていた。
普通の者ならここで落胆するところだろうが、トラヴァスは逆に確実な手応えを感じていた。
敵が予め先回りしてまで対策を打つということは、すなわちそれが成し遂げられれば致命的である、ということ。
全てのルーンのカードを一網打尽にする、というアプローチそのものは間違っていないのだ。
普通の者ならここで落胆するところだろうが、トラヴァスは逆に確実な手応えを感じていた。
敵が予め先回りしてまで対策を打つということは、すなわちそれが成し遂げられれば致命的である、ということ。
全てのルーンのカードを一網打尽にする、というアプローチそのものは間違っていないのだ。
そしてまた、彼はすぐに気づく。
炎そのものを凝縮して作ったような、燃える巨人。
だが、そんなものが遠慮会釈なく暴れまわっているのに、火災が発生しないのは何故だ?
防火システムすら殺されているというのに、これで火事にもならない、その理由は?
炎そのものを凝縮して作ったような、燃える巨人。
だが、そんなものが遠慮会釈なく暴れまわっているのに、火災が発生しないのは何故だ?
防火システムすら殺されているというのに、これで火事にもならない、その理由は?
――決まっている。魔術師の側が、そうならないよう炎の巨人を制御しているからだ。
火事になったら、魔術師にも都合が悪いからだ。
紙は水に弱い。
それ以上に、紙は火に弱い。
子供ですら知っている、それは真実だ。
火事になったら、魔術師にも都合が悪いからだ。
紙は水に弱い。
それ以上に、紙は火に弱い。
子供ですら知っている、それは真実だ。
ならばどうする? 簡単だ。
ただ、こちらから火を放ってやればいいだけのこと。
そうすればルーンのカードも一緒に焼け落ち、炎の巨人はその力を失う。
他ならぬ魔術師自身によって防火の備えは既に殺されており、火が回るのを止めるものはない。
ただ、こちらから火を放ってやればいいだけのこと。
そうすればルーンのカードも一緒に焼け落ち、炎の巨人はその力を失う。
他ならぬ魔術師自身によって防火の備えは既に殺されており、火が回るのを止めるものはない。
皮肉としか言いようがないが――炎の魔術師は、他ならぬ炎によってその力を失い、ここに敗れるのだ。
「どうやら、君は交渉の余地すらなく、かつ、ゲームに積極的であるようだ――ならば僕にも、容赦などする理由がない」
遠隔操作の炎の化物を用意し、問答無用で参加者に襲い掛からせる、この炎の魔術師。
これをトラヴァス少佐は、排除すべき敵と認識した。
会話が成立するようなら、フリアグネたちを説得し一行に加える選択もあった。
戦闘の意思がないようなら、フリアグネたちを騙し欺き命を見逃す選択もあった。
だが――こいつはダメだ。
味方に引き込む余地はなく、生かしておくだけの価値もない。
で、あるならば。当初の方針通り、“ゲーム肯定派”同士の潰しあいを全力で演出するまで。
これをトラヴァス少佐は、排除すべき敵と認識した。
会話が成立するようなら、フリアグネたちを説得し一行に加える選択もあった。
戦闘の意思がないようなら、フリアグネたちを騙し欺き命を見逃す選択もあった。
だが――こいつはダメだ。
味方に引き込む余地はなく、生かしておくだけの価値もない。
で、あるならば。当初の方針通り、“ゲーム肯定派”同士の潰しあいを全力で演出するまで。
「君も運が悪い。君は君で、容赦も躊躇もない殺戮者だったんだろう。優秀な殺戮者だったんだろう。手はずを見ればよく分かるよ。
だが――我々もまた、殺戮者だ」
だが――我々もまた、殺戮者だ」
とうとうドラム缶にまで引火したか、ホテルの各所で断続的な爆発音が響く。
ホテルの館内で荒れ狂う炎が、さらに勢いを増す。
窓の1つを破って飛び出してきた両儀式が、着地と同時にトラヴァスの姿を認め、何やら凄い剣幕で近づいてくるが。
彼はその怒気を柳と流し、ホテルの上を見上げる。
最上階で戦っていたはずの、魔術師とフリアグネに思いを馳せる。
ホテルの館内で荒れ狂う炎が、さらに勢いを増す。
窓の1つを破って飛び出してきた両儀式が、着地と同時にトラヴァスの姿を認め、何やら凄い剣幕で近づいてくるが。
彼はその怒気を柳と流し、ホテルの上を見上げる。
最上階で戦っていたはずの、魔術師とフリアグネに思いを馳せる。
「さて、“和服”の推測通りなら、これであらかた力を失うはずなんだがね――
例の魔術師とやら、“紅世の王”の1人くらいは道連れにしてくれないものかな?」
例の魔術師とやら、“紅世の王”の1人くらいは道連れにしてくれないものかな?」
◇
「なるほど――“少佐”は自らの仕事を果たしてくれたようだね。
人間ごときに助けられたような格好で、少し気には障るけれども」
人間ごときに助けられたような格好で、少し気には障るけれども」
――煙に包まれつつある、ホテル最上階、最高級スイートの一角。
フリアグネは、小さく呟いた。
目の前には、呆然と目を見開く、赤い髪の神父。
その手に、既に炎の剣はない。
辛うじて揺らめく炎のようなもの、は残されていたが、とてもではないが剣と呼べるような代物ではなくなっていた。
フリアグネは、小さく呟いた。
目の前には、呆然と目を見開く、赤い髪の神父。
その手に、既に炎の剣はない。
辛うじて揺らめく炎のようなもの、は残されていたが、とてもではないが剣と呼べるような代物ではなくなっていた。
Fortis931、と名乗った魔術師は、かなり善戦したと言ってもいいだろう。
いや、拮抗していた、あるいは押していたとまで言ってもいいかもしれない。
体さばきこそ素人のそれではあったが、単純ながらも応用性の広い2つの技に、フリアグネも苦戦せざるを得なかったのだ。
すなわち、大きく燃え盛り時に爆発する、炎の剣の二刀流。
そして、目測を誤らせ幻惑する、熱波を利用した蜃気楼である。
こういう相手に最良の相性を示したはずの宝具、火除けの指輪『アズュール』も、今は手元にない。
あるいは燐子が手元にあれば、『ダンスパーティ』で爆破し蜃気楼を吹き飛ばし、炎剣の爆発を相殺することもできたかもしれないが。
生憎、既に人海戦術による探索のため、ホテル中に散会させたばかりであった。活用はできない。
実体なき炎剣相手に『吸血鬼』で切り結んでも益はなく、飛び道具である『コルデー』と蜃気楼の幻惑との相性は最悪。
なんとか彼我の身体能力の差でこれらの不利を補ってはいたものの、責めあぐねるのは道理だった。
だが――
いや、拮抗していた、あるいは押していたとまで言ってもいいかもしれない。
体さばきこそ素人のそれではあったが、単純ながらも応用性の広い2つの技に、フリアグネも苦戦せざるを得なかったのだ。
すなわち、大きく燃え盛り時に爆発する、炎の剣の二刀流。
そして、目測を誤らせ幻惑する、熱波を利用した蜃気楼である。
こういう相手に最良の相性を示したはずの宝具、火除けの指輪『アズュール』も、今は手元にない。
あるいは燐子が手元にあれば、『ダンスパーティ』で爆破し蜃気楼を吹き飛ばし、炎剣の爆発を相殺することもできたかもしれないが。
生憎、既に人海戦術による探索のため、ホテル中に散会させたばかりであった。活用はできない。
実体なき炎剣相手に『吸血鬼』で切り結んでも益はなく、飛び道具である『コルデー』と蜃気楼の幻惑との相性は最悪。
なんとか彼我の身体能力の差でこれらの不利を補ってはいたものの、責めあぐねるのは道理だった。
だが――
「……炎よ(Kenaz)! 巨人に苦痛の贈り物を(PrisazNaupizGebo)!
あ、あ、灰は灰に(AshToAsh)! 塵は塵に(DustToDust)! 吸血殺しの紅十字(SqueamishBloodyRood)!」
あ、あ、灰は灰に(AshToAsh)! 塵は塵に(DustToDust)! 吸血殺しの紅十字(SqueamishBloodyRood)!」
だが、それもここまでだ。
魔術師が必死の形相で呪文を詠唱する。
フリアグネも何度も聞かされた呪文。あの恐るべき炎の剣を生み出す、力ある言葉。
しかし、もはや何も起きない。
ホテルは最上階を除いてほぼ全て炎に包まれ、そしてステイルは、最上階にはルーンの配置をしていない。
実はステイルは、最上階の1つ下の階まで配置を終えたところで、カードのストックを切らしてしまっていた。
増産するに越したことはなかったし、実際ホテルを出る前に再度大量作成するつもりであったが、コピー機があるのは1階の従業員用スペースだ。
そこから戻るのは手間だし、多少の距離なら効力も及ぶ。
そうして最上階まで効果が及んでいるかどうか、実際に足を運んで確認している最中だったからこそ、あの時彼はここに居たのである。
実際、階下のルーンが無事ならこの程度の距離だ、そこから力を引き出すことも出来る彼ではあったが――その、力の源が破壊されては。
魔術師が必死の形相で呪文を詠唱する。
フリアグネも何度も聞かされた呪文。あの恐るべき炎の剣を生み出す、力ある言葉。
しかし、もはや何も起きない。
ホテルは最上階を除いてほぼ全て炎に包まれ、そしてステイルは、最上階にはルーンの配置をしていない。
実はステイルは、最上階の1つ下の階まで配置を終えたところで、カードのストックを切らしてしまっていた。
増産するに越したことはなかったし、実際ホテルを出る前に再度大量作成するつもりであったが、コピー機があるのは1階の従業員用スペースだ。
そこから戻るのは手間だし、多少の距離なら効力も及ぶ。
そうして最上階まで効果が及んでいるかどうか、実際に足を運んで確認している最中だったからこそ、あの時彼はここに居たのである。
実際、階下のルーンが無事ならこの程度の距離だ、そこから力を引き出すことも出来る彼ではあったが――その、力の源が破壊されては。
「当初の認識を修正しよう、“魔術師”――君は確かに、大したものだったよ。
その、自在法ならざる自在法を操る技術も高かったし、我々3人を必ず殺すという意思の輝きも素晴らしいものだった。
世が世なら、君は確かに歴史に名を刻むに足る、『偉大なる者』にも成り得たのだろうね。だが――」
「い……いのけんてぃうす! イノケンティウス! 『魔女狩りの王』!!」
その、自在法ならざる自在法を操る技術も高かったし、我々3人を必ず殺すという意思の輝きも素晴らしいものだった。
世が世なら、君は確かに歴史に名を刻むに足る、『偉大なる者』にも成り得たのだろうね。だが――」
「い……いのけんてぃうす! イノケンティウス! 『魔女狩りの王』!!」
フリアグネは1歩踏み出す。
魔術師はとうとう、炎の巨神の名を呼ぶ。あえて手元に配置しなかったはずの戦力にまで頼る。
だが、最強を自負する彼の力は、その呼びかけに応えることはなく。
ひとかけらの炎すらも、もはや現れない。
ただもうもうたる黒煙が最上階に流れ込む中、そして、紅世の王は、がばり、とその口を開けた。
魔術師はとうとう、炎の巨神の名を呼ぶ。あえて手元に配置しなかったはずの戦力にまで頼る。
だが、最強を自負する彼の力は、その呼びかけに応えることはなく。
ひとかけらの炎すらも、もはや現れない。
ただもうもうたる黒煙が最上階に流れ込む中、そして、紅世の王は、がばり、とその口を開けた。
「だが――今は、私の贄だ」
――いただきます。
妙に礼儀正しい声と共に、巨大な大剣・『吸血鬼(ブルートザオガー)』が一閃。
ステイル=マグヌスの体は一刀の元に両断されて――その身が、薄白い炎に包まれ、燃え上がった。
この世ならざる紅世の炎に、炎の魔術師の全てが焼き尽くされる。
彼の肉体も、精神も、魔術も、少女への想いも、何もかもが『存在の力』の炎に変換され――そして、容赦なく飲み込まれた。
妙に礼儀正しい声と共に、巨大な大剣・『吸血鬼(ブルートザオガー)』が一閃。
ステイル=マグヌスの体は一刀の元に両断されて――その身が、薄白い炎に包まれ、燃え上がった。
この世ならざる紅世の炎に、炎の魔術師の全てが焼き尽くされる。
彼の肉体も、精神も、魔術も、少女への想いも、何もかもが『存在の力』の炎に変換され――そして、容赦なく飲み込まれた。
【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録 存在焼失】
◇
「――ご苦労様です、フリアグネ様。首尾は上々のようで」
「そう言う割にはどこか不満そうだね、“少佐”。“魔術師”もろとも、私も焼け死ねばよかったとでも言いたげな顔だ」
「いえ、決してそのようなことは」
「全く、油断も隙もありやしない。こいつ、オレたちに断りもなく火を放ちやがった」
「……まあ、正直に申し上げれば、『この程度で死ぬような者たちなら、私にも利用する価値はない』。そんな風なことは思いましたがね」
「うふふ。いい答えだよ、“少佐”。やはり我々の関係はこうでなくてはね」
「そう言う割にはどこか不満そうだね、“少佐”。“魔術師”もろとも、私も焼け死ねばよかったとでも言いたげな顔だ」
「いえ、決してそのようなことは」
「全く、油断も隙もありやしない。こいつ、オレたちに断りもなく火を放ちやがった」
「……まあ、正直に申し上げれば、『この程度で死ぬような者たちなら、私にも利用する価値はない』。そんな風なことは思いましたがね」
「うふふ。いい答えだよ、“少佐”。やはり我々の関係はこうでなくてはね」
――炎上を続ける、ホテルの裏手。
合流を果たした3人は、しかし互いの無事を素直に喜ぶような真似はせず、冷静に互いの損害状況を確認しあっていた。
フリアグネは、デパートで用意してきた燐子20体を、炎に巻かれて失った。
トラヴァスは、3つ目の支給品『燃料』を、最後の1滴まで使い果たした。
両儀式は、『ダンスパーティ』と交換で得たナイフ・『エリミネイター00』を破損した。
だが、それ以外には誰1人として傷1つ負ってはいない。
あれほどまでの強敵を相手にしたにしては、驚くほどの低損害だった。
合流を果たした3人は、しかし互いの無事を素直に喜ぶような真似はせず、冷静に互いの損害状況を確認しあっていた。
フリアグネは、デパートで用意してきた燐子20体を、炎に巻かれて失った。
トラヴァスは、3つ目の支給品『燃料』を、最後の1滴まで使い果たした。
両儀式は、『ダンスパーティ』と交換で得たナイフ・『エリミネイター00』を破損した。
だが、それ以外には誰1人として傷1つ負ってはいない。
あれほどまでの強敵を相手にしたにしては、驚くほどの低損害だった。
「“魔術師”の荷物も拾ってきたがね……どうも目に付くのはこの薬だけらしい。“少佐”、要るかい?」
「ふむ、失礼。……どうやら麻薬の一種のようですね。使いどころには悩みますが、持っていて損はないかと」
「詳しいんだな」
「とっさの痛み止め代わりにも、荒っぽい拷問や尋問にも応用できますから。一通りの知識は、それなりに」
「ふむ、失礼。……どうやら麻薬の一種のようですね。使いどころには悩みますが、持っていて損はないかと」
「詳しいんだな」
「とっさの痛み止め代わりにも、荒っぽい拷問や尋問にも応用できますから。一通りの知識は、それなりに」
フリアグネから渡された荷物をあらため、トラヴァスが物騒なことを平然と口にする。
荷物からは拡声器も出てきたが、これも軽く確認した後、再び荷物の中へ。
不満の色を隠しきれないのは、1人蚊帳の外の両儀式だ。横からトラヴァスが広げる荷物を覗き込み、嘆息する。
荷物からは拡声器も出てきたが、これも軽く確認した後、再び荷物の中へ。
不満の色を隠しきれないのは、1人蚊帳の外の両儀式だ。横からトラヴァスが広げる荷物を覗き込み、嘆息する。
「なんだ、刃物の1つもないのか。これじゃオレだけ骨折り損のくたびれ儲けじゃないか」
「確かに困りますね。今回の勝利も、彼女の奮戦あってのものですから」
「ふむ――では“和服”、これを使いたまえ」
「確かに困りますね。今回の勝利も、彼女の奮戦あってのものですから」
「ふむ――では“和服”、これを使いたまえ」
フリアグネは軽く頷くと、式に向かって何かを投擲する。
反射的に受け取ったそれは――ホルスターのようなものに収まった、1対の刃物だった。
反射的に受け取ったそれは――ホルスターのようなものに収まった、1対の刃物だった。
「なんだ? これは……鋏か? それにしては、どっちも両刃みたいだが」
「『自殺志願(マインドレンデル)』。名前とカタチが気に入って、コレクションに加えようかとも思ったんだがね。
業物ではあるが宝具ではないようだし、ここはひとつ“和服”の頑張りに免じて、プレゼントしておくことにするよ」
「……やけにご機嫌なんだな」
「『自殺志願(マインドレンデル)』。名前とカタチが気に入って、コレクションに加えようかとも思ったんだがね。
業物ではあるが宝具ではないようだし、ここはひとつ“和服”の頑張りに免じて、プレゼントしておくことにするよ」
「……やけにご機嫌なんだな」
式は、怪訝な様子で首を傾げる。
奇矯すぎる形態の武器に、なるほどこれなら死蔵されてきたのも分かる、と納得しながらも、このフリアグネの気前の良さは不可解だった。
先ほどまで彼女が振るっていたナイフとて、あくまで『ダンスパーティ』との交換という形による提供だったのだ。
なのに、急に見せたこの太っ腹。かえって不審を抱くのも、当然のことだった。
奇矯すぎる形態の武器に、なるほどこれなら死蔵されてきたのも分かる、と納得しながらも、このフリアグネの気前の良さは不可解だった。
先ほどまで彼女が振るっていたナイフとて、あくまで『ダンスパーティ』との交換という形による提供だったのだ。
なのに、急に見せたこの太っ腹。かえって不審を抱くのも、当然のことだった。
「なに、あの“人類最悪”とやらも言っていただろう?
『とれるものはとれる時にとれるべくしてとるとよい』、とね。
まったく至言だよ。腹が満たされれば機嫌がよくなるのは、何も人間に限ったことではないのだよ――」
『とれるものはとれる時にとれるべくしてとるとよい』、とね。
まったく至言だよ。腹が満たされれば機嫌がよくなるのは、何も人間に限ったことではないのだよ――」
フリアグネはどこか作りものめいた微笑を浮かべ、にこやかに笑う。
その吐息に、微かに白く色づく炎が混じる。
彼らの背後では、もはや轟々たる勢いに達したホテルの火災が絶賛炎上中。
果たしてこのホテルの中、顔を見ることもなかった魔術師は、いったいどういう終焉を迎えたのか。
トラヴァスも式も、それ以上突っ込んで聞く気にはなれなかった――
その吐息に、微かに白く色づく炎が混じる。
彼らの背後では、もはや轟々たる勢いに達したホテルの火災が絶賛炎上中。
果たしてこのホテルの中、顔を見ることもなかった魔術師は、いったいどういう終焉を迎えたのか。
トラヴァスも式も、それ以上突っ込んで聞く気にはなれなかった――
◇
【C-4/ホテルの裏手/一日目・日中】
【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康、満腹、『存在の力』大幅回復済み
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ、ダンスパーティー@灼眼のシャナ、コルデー@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式×2、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:さて、これからどうしようか?
2:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
3:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
4:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。
※マネキンの“燐子”×20@現地調達 は、ホテルの火災に巻き込まれ使い果たされました。とはいえ、また精製することは可能です
[状態]:健康、満腹、『存在の力』大幅回復済み
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ、ダンスパーティー@灼眼のシャナ、コルデー@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式×2、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:さて、これからどうしようか?
2:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
3:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
4:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
※坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。
※マネキンの“燐子”×20@現地調達 は、ホテルの火災に巻き込まれ使い果たされました。とはいえ、また精製することは可能です
【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2、フルートの予備マガジン×3、アリソンの手紙
ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2、フルートの予備マガジン×3、アリソンの手紙
ブラッドチップ(少し減少)@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。
【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)@戯言シリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)×5@空の境界
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、“人類最悪”を殺す。
1:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
[備考]
※参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
[状態]:健康
[装備]:自殺志願(マインドレンデル)@戯言シリーズ
[道具]:デイパック、支給品一式、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)×5@空の境界
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、“人類最悪”を殺す。
1:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
[備考]
※参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
※C-4のホテルが、盛大に炎上しています。既に火の勢いはどうしようもない所まで来ています。
【自殺志願(マインドレンデル)@戯言シリーズ】
フリアグネに支給された。
得物と同じく『自殺志願(マインドレンデル)』の異名を取る、零崎一賊の長兄・零崎双識の愛用武器。
握り部分を半月状にした和式のナイフを2振り、ネジで可動式に固定し、大鋏の形にしてある。
その気になれば、ネジのところで分離し、2振りのナイフとして振るうことも可能。(むしろ明らかに武器としてはそちらの方が使いやすい)
『自殺志願』を収めるホルスターもセットで支給されている。
フリアグネに支給された。
得物と同じく『自殺志願(マインドレンデル)』の異名を取る、零崎一賊の長兄・零崎双識の愛用武器。
握り部分を半月状にした和式のナイフを2振り、ネジで可動式に固定し、大鋏の形にしてある。
その気になれば、ネジのところで分離し、2振りのナイフとして振るうことも可能。(むしろ明らかに武器としてはそちらの方が使いやすい)
『自殺志願』を収めるホルスターもセットで支給されている。
【燃料@キノの旅】
トラヴァスに支給された。
バギーやモトラドの動力源として世界的に一般的な液体燃料。大抵の国で購入可能。
ドラム缶にして十数本分。もちろん、火を放てば普通に燃える。
トラヴァスに支給された。
バギーやモトラドの動力源として世界的に一般的な液体燃料。大抵の国で購入可能。
ドラム缶にして十数本分。もちろん、火を放てば普通に燃える。
◇ ◇ ◇
【4】
「炎と言えば――煉獄、という概念を知っているかい?
「地獄? いや、地獄とは似て非なる概念だよ。
キリスト教、それもローマ・カトリック特有の信仰さ。
死後、善なる魂は天国へと迎えられる。悪しき魂は地獄へと落とされる。
では、天国に昇れるほどでもない、しかし地獄に落ちるほどでもない、ほどほどの小罪を背負った凡庸なる魂はどこに行くのだ?
――そんな疑問に応えて生み出された、第三の『あの世』だよ。
キリスト教、それもローマ・カトリック特有の信仰さ。
死後、善なる魂は天国へと迎えられる。悪しき魂は地獄へと落とされる。
では、天国に昇れるほどでもない、しかし地獄に落ちるほどでもない、ほどほどの小罪を背負った凡庸なる魂はどこに行くのだ?
――そんな疑問に応えて生み出された、第三の『あの世』だよ。
「彼らの言う所によれば、煉獄に落ちた魂は地獄の責め苦にも似た苦しみに晒されるという。
しかし永遠ではない。
地獄に落ちればその苦痛は永遠だが、煉獄の責め苦には期限が切られている。数百年とか、数千年とかね。
その長さは背負った罪の量に応じるという。
自らの罪に見合った分だけ責め苛まれ、苦痛をもって罪を浄化し、定められた期限の果てに天国へと迎え入れられるという。
そうして天国までたどり着けば、そこに待っているのは永遠の幸福さ。
そう信じることができるなら、責め苦が数百年、数千年単位であろうと、確かに耐えてみようという気にもなるだろう。
……実際に苛烈な拷問を受けてなお、そんな信仰を維持できるかどうかは疑問だがね。
しかし永遠ではない。
地獄に落ちればその苦痛は永遠だが、煉獄の責め苦には期限が切られている。数百年とか、数千年とかね。
その長さは背負った罪の量に応じるという。
自らの罪に見合った分だけ責め苛まれ、苦痛をもって罪を浄化し、定められた期限の果てに天国へと迎え入れられるという。
そうして天国までたどり着けば、そこに待っているのは永遠の幸福さ。
そう信じることができるなら、責め苦が数百年、数千年単位であろうと、確かに耐えてみようという気にもなるだろう。
……実際に苛烈な拷問を受けてなお、そんな信仰を維持できるかどうかは疑問だがね。
「なるほど、これはよくよく考えれば庶民に優しい信仰だろうさ。
ほとんどの人は、自分が天国に行けるほどの善人だとまで思い上がれないだろう。
さりとて、永遠の地獄に落とされるほどの悪人だとも思うまい。
そこにこんな煉獄という中間エリアが与えられれば、これは気が楽になる。
死後の運命は天国か地獄か、両極端の運命に思い悩む必要もなくなるわけだ。
冷静に考えれば問題の先送りでしかないわけだが、まあそこまで考える者はそう多くはあるまいよ。
ほとんどの人は、自分が天国に行けるほどの善人だとまで思い上がれないだろう。
さりとて、永遠の地獄に落とされるほどの悪人だとも思うまい。
そこにこんな煉獄という中間エリアが与えられれば、これは気が楽になる。
死後の運命は天国か地獄か、両極端の運命に思い悩む必要もなくなるわけだ。
冷静に考えれば問題の先送りでしかないわけだが、まあそこまで考える者はそう多くはあるまいよ。
「もっともこいつは、かの悪名高いカトリック教会の免罪符販売にも繋がってしまった信仰でな。
免罪符といえば購入者の背負った罪を軽減するもの、と言われているが、実はそれだけじゃない。
死後、煉獄に落ちたであろう親しい人々の免罪もまた、買うことができたのさ。
親や子、愛する人が死んだ時、せめて死後に待つ苦しみを短くしてやりたい、と願うのは人として自然な心理だろう?
そんな訳でカトリック教会は大量の免罪符を売り出すことになって……それが巡り巡って、宗教改革にも繋がったというわけだ。
詳しくは歴史の教科書でも読みたまえ。流石に煉獄にまで言及しているものは少ないだろうがね。
ちなみにこういう経緯があったこともあって、プロテスタントの諸派は基本的に煉獄の存在を認めていない。
元々、聖書の上での論拠も貧弱な話ではあったようだしね。東方の正教会は最初からそんなものは認めていないよ。
免罪符といえば購入者の背負った罪を軽減するもの、と言われているが、実はそれだけじゃない。
死後、煉獄に落ちたであろう親しい人々の免罪もまた、買うことができたのさ。
親や子、愛する人が死んだ時、せめて死後に待つ苦しみを短くしてやりたい、と願うのは人として自然な心理だろう?
そんな訳でカトリック教会は大量の免罪符を売り出すことになって……それが巡り巡って、宗教改革にも繋がったというわけだ。
詳しくは歴史の教科書でも読みたまえ。流石に煉獄にまで言及しているものは少ないだろうがね。
ちなみにこういう経緯があったこともあって、プロテスタントの諸派は基本的に煉獄の存在を認めていない。
元々、聖書の上での論拠も貧弱な話ではあったようだしね。東方の正教会は最初からそんなものは認めていないよ。
「さて、その天国でもなく地獄でもない、煉獄なる場所で受ける報いの内容だが、おおむね地獄のソレをコピーしてきたようなものらしい。
有名なところでは、ダンテの『神曲』に詳しいな。
針責め、血の池、焦熱の責め。まあこの辺の想像力は人類皆共通なのか、仏教の地獄とも大差ないさ。
ただやはり代表的なのと言えば、炎と熱による責め苦だろうな。
例えばシェークスピアの『ハムレット』では、王の亡霊が『硫黄の炎の責め苦』を受けていると訴えていて、これは煉獄のことであるらしい。
そもそも、和訳である『煉獄』の『煉』の字からして火を思わせるだろう? そしてその直感は正しいんだよ。
有名なところでは、ダンテの『神曲』に詳しいな。
針責め、血の池、焦熱の責め。まあこの辺の想像力は人類皆共通なのか、仏教の地獄とも大差ないさ。
ただやはり代表的なのと言えば、炎と熱による責め苦だろうな。
例えばシェークスピアの『ハムレット』では、王の亡霊が『硫黄の炎の責め苦』を受けていると訴えていて、これは煉獄のことであるらしい。
そもそも、和訳である『煉獄』の『煉』の字からして火を思わせるだろう? そしてその直感は正しいんだよ。
「地獄に落ちることもできず、天国に昇ることもできない者が、延々と焼かれ続ける場所。
一応の期間は区切られているものの、当事者にとってはそんな期限、あっても無くても似たようなもの。それが煉獄さ。
そもそも存在するのかどうか、どの会派の解釈がより真実に近いのか、なんてことは別にして、だ。
そんな所には、間違っても堕ちたくないものだね――
一応の期間は区切られているものの、当事者にとってはそんな期限、あっても無くても似たようなもの。それが煉獄さ。
そもそも存在するのかどうか、どの会派の解釈がより真実に近いのか、なんてことは別にして、だ。
そんな所には、間違っても堕ちたくないものだね――
◇ ◇ ◇
――燃え盛るホテルを背に、フラフラと真昼の街を歩く、1つの影があった。
気を抜けばそこに居ることすら見落としてしまいかねない、不思議なまでに存在感の希薄な人物である。
だが、もしも一旦彼を認識してしまえば、その人は見落としそうになった自分の視覚そのものを疑ってしまうに違いない。
だが、もしも一旦彼を認識してしまえば、その人は見落としそうになった自分の視覚そのものを疑ってしまうに違いない。
その人物は、実に2m近い長身だった。
その人物は、漆黒の修道服に身を包んでいた。
その人物は、真紅に染め上げられた長い髪をしていた。
その人物は、耳に毒々しいまでのピアスを連ねていた。
その人物は、右目の下にバーコードの刺青を刻んでいた。
その人物は、全ての指に派手な銀色の指輪をつけていた。
その人物は、遠くからも匂う大量の香水の香りを身に纏っていた。
その人物は、漆黒の修道服に身を包んでいた。
その人物は、真紅に染め上げられた長い髪をしていた。
その人物は、耳に毒々しいまでのピアスを連ねていた。
その人物は、右目の下にバーコードの刺青を刻んでいた。
その人物は、全ての指に派手な銀色の指輪をつけていた。
その人物は、遠くからも匂う大量の香水の香りを身に纏っていた。
彼の咥えていた煙草から、ぽろり、と長くなり過ぎた灰が崩れて落ちる。
強烈な外見とは裏腹な、奇妙な存在感の無さ。
彼は誰に聞かせるともなく、ブツブツと呟いた。
強烈な外見とは裏腹な、奇妙な存在感の無さ。
彼は誰に聞かせるともなく、ブツブツと呟いた。
「ええと……僕は、何をするんだったかな……。
そうだ、ホテル以外の建物を回るんだ……。……あれ、何のためだっかな……?」
そうだ、ホテル以外の建物を回るんだ……。……あれ、何のためだっかな……?」
その声に覇気はなく、その歩みに力強さはなく、その瞳に意思の光はない。
見るべきものが見れば、そんな奇妙な彼の存在を、たった一言で見事に言い当ててくれたことだろう――
見るべきものが見れば、そんな奇妙な彼の存在を、たった一言で見事に言い当ててくれたことだろう――
――“トーチ”、と。
そう、ここを彷徨っているのは、ステイル=マグヌスであってステイル=マグヌスではない。
本来のステイル=マグヌスという存在は紅世の徒に喰い尽くされ、ここにあるのはその残骸。
人間1人の消失が世界に及ぼす衝撃を和らげるためだけに配置された、代替物。
紅世の徒、そしてそれを討つフレイムヘイズたちは、“これ”を限りある炎を灯す松明になぞらえ、“トーチ”と呼ぶ。
本来のステイル=マグヌスという存在は紅世の徒に喰い尽くされ、ここにあるのはその残骸。
人間1人の消失が世界に及ぼす衝撃を和らげるためだけに配置された、代替物。
紅世の徒、そしてそれを討つフレイムヘイズたちは、“これ”を限りある炎を灯す松明になぞらえ、“トーチ”と呼ぶ。
ステイル=マグヌスが、まさにこの世から消滅しようとしていたその刹那――フリアグネは、間一髪思い出したのだった。
このささやかなる“箱庭”の中にいる、強敵たちの存在を。
自らの宿敵たる、フレイムヘイズたちのことを。
人間1人を丸ごと消滅させ、その余波を放置すれば、そのことはたちどころに討ち手たちの知るところになる。
それは言わば、大音声で自らの居場所を告げる行為にも等しい。
あの時点では階下に残してきた“少佐”や“和服”の安否は判然としなかった。
ここで後先考えずに人間を喰らい、それをフレイムヘイズに感知されれば、最悪、1人で2人の討ち手を相手取らねばならない。
そんな危惧を抱いた彼は、僅かばかりの『存在の力』を喰わずに残し、ステイル=マグヌスの“トーチ”を作成したのだった。
弱い弱い、今すぐにでも掻き消えそうな、頼りない炎を灯した“トーチ”を。
この程度の存在であっても、討滅の道具たるフレイムヘイズを欺くには十分なのだ。
このささやかなる“箱庭”の中にいる、強敵たちの存在を。
自らの宿敵たる、フレイムヘイズたちのことを。
人間1人を丸ごと消滅させ、その余波を放置すれば、そのことはたちどころに討ち手たちの知るところになる。
それは言わば、大音声で自らの居場所を告げる行為にも等しい。
あの時点では階下に残してきた“少佐”や“和服”の安否は判然としなかった。
ここで後先考えずに人間を喰らい、それをフレイムヘイズに感知されれば、最悪、1人で2人の討ち手を相手取らねばならない。
そんな危惧を抱いた彼は、僅かばかりの『存在の力』を喰わずに残し、ステイル=マグヌスの“トーチ”を作成したのだった。
弱い弱い、今すぐにでも掻き消えそうな、頼りない炎を灯した“トーチ”を。
この程度の存在であっても、討滅の道具たるフレイムヘイズを欺くには十分なのだ。
今この地を彷徨う“ステイル=マグヌス”は、自分が“トーチ”であることを知らない。
本物のステイル=マグヌスではないことを知らない。自分が一度消滅してしまったことを知らない。
それどころか、ホテルで起きた出来事についても、記憶が混乱し、ほとんど認識できていない。
一般的にいって、“トーチ”は己が“トーチ”になった時の記憶を持たないもの。
そこから喰らった側の情報が漏れるような心配はなく、そうであればこそ、フリアグネも仲間に相談なく“トーチ”を作成、放流したのだ。
本物のステイル=マグヌスではないことを知らない。自分が一度消滅してしまったことを知らない。
それどころか、ホテルで起きた出来事についても、記憶が混乱し、ほとんど認識できていない。
一般的にいって、“トーチ”は己が“トーチ”になった時の記憶を持たないもの。
そこから喰らった側の情報が漏れるような心配はなく、そうであればこそ、フリアグネも仲間に相談なく“トーチ”を作成、放流したのだ。
胸の奥、常人には見えざる薄白い炎を揺らしながら、ステイル=“トーチ”はフラフラと歩を進める。
『存在の力』の大幅な減少に伴って、今の彼には行動の意欲というものがない。
何かを成し遂げようという強い意志力など、残ってはいない。
今の彼をかろうじて動かしているのは、“トーチ”になる前に抱いていた強烈な意思の残滓。
荷物も奪われ、ほとんど手ぶらで、意欲も魔力も熱意もなく、それでも彼は、小さく呟く。
『存在の力』の大幅な減少に伴って、今の彼には行動の意欲というものがない。
何かを成し遂げようという強い意志力など、残ってはいない。
今の彼をかろうじて動かしているのは、“トーチ”になる前に抱いていた強烈な意思の残滓。
荷物も奪われ、ほとんど手ぶらで、意欲も魔力も熱意もなく、それでも彼は、小さく呟く。
「……全部、殺さないとな……あの子以外の、全てを……」
そう、ステイル=マグヌスの全ては、たった1人の少女のためだけに存在するのだ。
それはたとえ彼の魂が、イギリス清教の教義にはない、煉獄というありえぬはずの狭間に堕ちようとも……!
それはたとえ彼の魂が、イギリス清教の教義にはない、煉獄というありえぬはずの狭間に堕ちようとも……!
【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録 “トーチ”化確認】
【C-4/市街地/1日目・日中】
【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:“トーチ”状態。既に燃え尽きそうな勢い。行動意欲の大幅な低下。存在感の大幅な低下。
[装備]:筆記具少々、煙草
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:……自分から何かをする気にはなれない。
1:インデックス以外を皆殺し……にしなきゃならない、んだったかな……?
2:ええと、地図に載ってるランドマークを、回るんだったっけ……? 何のためだったか……?
[状態]:“トーチ”状態。既に燃え尽きそうな勢い。行動意欲の大幅な低下。存在感の大幅な低下。
[装備]:筆記具少々、煙草
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:……自分から何かをする気にはなれない。
1:インデックス以外を皆殺し……にしなきゃならない、んだったかな……?
2:ええと、地図に載ってるランドマークを、回るんだったっけ……? 何のためだったか……?
[備考]
既に「本来のステイル=マグヌス」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
既に「炎」は今にも燃え尽きそうな程度の危ういものです。具体的にいつ燃え尽きるかは後続の書き手さんにお任せします。
フリアグネたちと戦った前後の記憶(自分がトーチになった前後の記憶)が曖昧です。
既に「本来のステイル=マグヌス」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
既に「炎」は今にも燃え尽きそうな程度の危ういものです。具体的にいつ燃え尽きるかは後続の書き手さんにお任せします。
フリアグネたちと戦った前後の記憶(自分がトーチになった前後の記憶)が曖昧です。
投下順に読む
| 前:糸語(意図騙) | 次:提督の決断 |
時系列順に読む
| 前:糸語(意図騙) | 次:提督の決断 |
| 前:しばるセンス・オブ・ロス | フリアグネ | 次:エンキリサイテル 狩人vs.不知なるシズ |
| 前:しばるセンス・オブ・ロス | トラヴァス | 次:エンキリサイテル 狩人vs.不知なるシズ |
| 前:しばるセンス・オブ・ロス | 両儀式 | 次:エンキリサイテル 狩人vs.不知なるシズ |
| 前:オルタナティブ | ステイル=マグヌス | 次:とおきひ――(forgot me not) |