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紅蓮への懇願
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紅蓮への懇願 ◆LxH6hCs9JU
「ふむ。ではロボットやテープレコーダーの類ではないとな?」
「そ。いやはやなんといいますか、七面鳥くさいことに巻き込まれちゃったってわけさ」
「七面倒くさい、かのう?」
「そうそう、それ」
「しかしどうする? おぬし、一人では動けぬのじゃろう?」
「うん。できれば動かしてくれるとありがたい」
「それは無理じゃ。なにせ、ワシは乗ったことがない」
「じゃ、押して」
「どこまでじゃ?」
「う~ん、そうだなぁ……どこまでも」
「やはり、このままここに置いていってしまってもよいかの?」
「冷たいなぁ」
「む」
「どうしたの?」
「人じゃ。ほれ、あそこを歩いておる」
「なんだかおっかない表情してるね。物騒なもの持ってるし」
「迂闊に声をかけるべきではないかもしれぬのう」
「どうする?」
「とりあえず……追ってみるとしようかの」
◇ ◇ ◇
会場の南端。民家の屋根から海を眺める、奇異な格好の少女がいた。
上着というよりは外套に近しい長さの、黒寂びた色のコートを纏う、小柄な体躯。
灼熱の赤を点す、炎のように燃える――否、炎のごとく『燃えている』長髪。
眼光に熱気を帯びた威圧感を持たせること可能とする、深く清い紅の双眸。
並び称して、炎髪灼眼。
「そ。いやはやなんといいますか、七面鳥くさいことに巻き込まれちゃったってわけさ」
「七面倒くさい、かのう?」
「そうそう、それ」
「しかしどうする? おぬし、一人では動けぬのじゃろう?」
「うん。できれば動かしてくれるとありがたい」
「それは無理じゃ。なにせ、ワシは乗ったことがない」
「じゃ、押して」
「どこまでじゃ?」
「う~ん、そうだなぁ……どこまでも」
「やはり、このままここに置いていってしまってもよいかの?」
「冷たいなぁ」
「む」
「どうしたの?」
「人じゃ。ほれ、あそこを歩いておる」
「なんだかおっかない表情してるね。物騒なもの持ってるし」
「迂闊に声をかけるべきではないかもしれぬのう」
「どうする?」
「とりあえず……追ってみるとしようかの」
◇ ◇ ◇
会場の南端。民家の屋根から海を眺める、奇異な格好の少女がいた。
上着というよりは外套に近しい長さの、黒寂びた色のコートを纏う、小柄な体躯。
灼熱の赤を点す、炎のように燃える――否、炎のごとく『燃えている』長髪。
眼光に熱気を帯びた威圧感を持たせること可能とする、深く清い紅の双眸。
並び称して、炎髪灼眼。
フレイムヘイズ、『炎髪灼眼の討ち手』シャナは、その燃える瞳で海を見据えていた。
「飛んでいったら、どこにたどり着くと思う?」
「どこにもたどり着かない、というのが最もありうる正解であろうな」
「封絶とも違う。因果孤立空間を生み出すのに、別の自在式があるってこと」
「現段階ではなんとも言えん。仮にこの現象が封絶の上位種にあたるものだとしても、あの〝人類最悪〟なる輩は」
「紛れもなく、人間だった。〝徒〟でも、〝燐子〟でも、ましてや〝ミステス〟なんかでもない……いったい、何者なんだろう」
「どこにもたどり着かない、というのが最もありうる正解であろうな」
「封絶とも違う。因果孤立空間を生み出すのに、別の自在式があるってこと」
「現段階ではなんとも言えん。仮にこの現象が封絶の上位種にあたるものだとしても、あの〝人類最悪〟なる輩は」
「紛れもなく、人間だった。〝徒〟でも、〝燐子〟でも、ましてや〝ミステス〟なんかでもない……いったい、何者なんだろう」
暗闇の空間で為された、一方的な宣誓。その進行役を務めた男の素性に、心当たりはない。
フレイムヘイズとしては経験の浅いシャナ、そして彼女に異能を与える相棒にも。
フレイムヘイズとしては経験の浅いシャナ、そして彼女に異能を与える相棒にも。
「奴の正体は確かに気になる。が、なによりも不明瞭なのは、このような催しを企てる真意、目的だ」
シャナの首にかけられたペンダント型の神器〝コキュートス〟から、遠雷のような声が響き渡る。
声の主こそ、〝紅世〟真正の魔神とも恐れられる強大なる〝王〟、〝天壌の劫火〟アラストールだった。
幼き少女、古き魔神、二人にして一人のフレイムヘイズは、並び『炎髪灼眼の討ち手』と称される。
そして今は、そういった称号的な真名に加えてもう一つ――ある少年から拝命した『シャナ』という名も。
声の主こそ、〝紅世〟真正の魔神とも恐れられる強大なる〝王〟、〝天壌の劫火〟アラストールだった。
幼き少女、古き魔神、二人にして一人のフレイムヘイズは、並び『炎髪灼眼の討ち手』と称される。
そして今は、そういった称号的な真名に加えてもう一つ――ある少年から拝命した『シャナ』という名も。
「生き残れるのが一人。集まっているのは六十人。目的なんてハッキリしてる。つまり、他の五十九人は死ねってこと」
少女らしからぬ冷徹な声、厳格な態度で事態を捉えるシャナ。
幼き日にフレイムヘイズとしての誓いを交わし、『天道宮』で多くを学んできた彼女に、歳相応という言葉は意味を持たない。
今が異常に塗れているともなれば、なおのこと妥協や油断は許されず、異能を知る存在の一人として、物事を捉える必要があった。
幼き日にフレイムヘイズとしての誓いを交わし、『天道宮』で多くを学んできた彼女に、歳相応という言葉は意味を持たない。
今が異常に塗れているともなれば、なおのこと妥協や油断は許されず、異能を知る存在の一人として、物事を捉える必要があった。
「ならばどうする? 奴の言葉通りにたった一つの椅子を目指すか?」
「他が全部敵で、悠二や一美、ヴィルヘルミナがいなければ、それも考えた」
「だが、この地に彼女らはいる。未記載の十人に、御崎市や〝紅世〟縁の人物が紛れているとも限らん」
「だから、まずは調べる。もし仮に、襲ってくるような奴らがいたら……」
「他が全部敵で、悠二や一美、ヴィルヘルミナがいなければ、それも考えた」
「だが、この地に彼女らはいる。未記載の十人に、御崎市や〝紅世〟縁の人物が紛れているとも限らん」
「だから、まずは調べる。もし仮に、襲ってくるような奴らがいたら……」
纏うコートの内側を探ろうとして、シャナの表情が寸秒、凍てつく。
いつもなら易々と掴み得るであろう感触が、そこにない。
盗難や紛失など絶対にありえないはずの得物が、知らぬ間になくなってしまっていた。
いつもなら易々と掴み得るであろう感触が、そこにない。
盗難や紛失など絶対にありえないはずの得物が、知らぬ間になくなってしまっていた。
「……『夜笠』は問題なく顕現できる。しかしながら、『贄殿遮那』が奪われたとあっては、常のようにはいかんぞ」
「ちゃんと心得てる。どんな奴らがいるかはまだわからないけれど、人間とやり合うならこれでも十分なくらいだし」
「ちゃんと心得てる。どんな奴らがいるかはまだわからないけれど、人間とやり合うならこれでも十分なくらいだし」
シャナが纏うコート――『夜笠』はアラストールの翼の皮膜の一部を顕現させたものゆえ、紛失のしようがない。
しかし、シャナがかつて〝天目一個〟から頂戴した大太刀、『贄殿遮那』は、鞘としていた『夜笠』の中より消えていた。
もちろんシャナやアラストールに紛失、盗難の記憶などなく、いつの間にかの干渉、と受け取らざるを得なかった。
ともなれば、なおのこと〝人類最悪〟なる男、もしくは彼の背後に潜む存在の影が、大きく見えてくる。
しかし、シャナがかつて〝天目一個〟から頂戴した大太刀、『贄殿遮那』は、鞘としていた『夜笠』の中より消えていた。
もちろんシャナやアラストールに紛失、盗難の記憶などなく、いつの間にかの干渉、と受け取らざるを得なかった。
ともなれば、なおのこと〝人類最悪〟なる男、もしくは彼の背後に潜む存在の影が、大きく見えてくる。
「アラストール。もう一つ、気になることがあるの」
「む、なんだ?」
「む、なんだ?」
懸念すべきは膨大、考察の道筋は数あれど、まずは実地を歩いてみるべき、と判断したシャナは、民家の屋根から路面に降り立つ。
毅然とした足取りで道を行き、あてなき方角を目指しながら、純粋な疑問を声に出した。
毅然とした足取りで道を行き、あてなき方角を目指しながら、純粋な疑問を声に出した。
「奴の言っていた……『ドラえもん』って、なんのことだと思う?」
「むぅ……我も認知しておらぬ名だ。おそらく、この鞄型の宝具を作り出した〝紅世の王〟か――」
「むぅ……我も認知しておらぬ名だ。おそらく、この鞄型の宝具を作り出した〝紅世の王〟か――」
と、
アラストールが唐突に言葉を切り、シャナも足を止めた。
民家も疎らな、崖も近い平坦な道。隠れ潜む場所にも困るそこで、気配は鮮明に訪れた。
相手もそれを理解しようとしているのか、逃げ隠れするつもりはないらしい。
シャナとアラストールは互いの合図もなしに、自然な動作で後ろを振り向いた。
アラストールが唐突に言葉を切り、シャナも足を止めた。
民家も疎らな、崖も近い平坦な道。隠れ潜む場所にも困るそこで、気配は鮮明に訪れた。
相手もそれを理解しようとしているのか、逃げ隠れするつもりはないらしい。
シャナとアラストールは互いの合図もなしに、自然な動作で後ろを振り向いた。
赤を基調としたブレザータイプの制服が、目に映る。
風に靡くスカートは少女の証。歳はシャナの同級に近い、つまりは女子高生と窺える。
手に握られているのは、金属製のバット。肩には、シャナも所持している黒の鞄が。
風に靡くスカートは少女の証。歳はシャナの同級に近い、つまりは女子高生と窺える。
手に握られているのは、金属製のバット。肩には、シャナも所持している黒の鞄が。
「なに、おまえ」
フレイムヘイズの視点から見れば危機感の一つも植えつけるに値しないが、一応の武装を為してるその少女。
不適に微笑み、シャナの灼眼にも臆すことなく、ぎゅっとバットを両手に持ち直した。
不適に微笑み、シャナの灼眼にも臆すことなく、ぎゅっとバットを両手に持ち直した。
「あいにくと、名乗る名はねぇ」
返答も一瞬、シャナには、次に彼女が取る行動の予測がついた。
「お命……頂戴!」
古めかしい攻撃宣言の後、金属バットの少女が疾駆する。
◇ ◇ ◇
「はて、また別の女子が現れたのう」
「すごいねあの子。髪、燃えてるよ。熱くないのかな?」
「派手な髪じゃのう。外国の子なのじゃろうか」
「そういう君は、おじいさんみたいな喋り方をするね。君の住んでる国ではみんなそうなの?」
「いいや。そんなことはないぞ」
「ふーん。あ、なんか一触即発の空気だよ」
「ふうむ。やはり、皆考えることは同じなのかのう……」
「またまた。君はああいう野蛮なことしないでしょ」
「もちろんじゃ。というか、未だ夢でも見ている気分でのう」
「ああ、それはよくないね。早く夢から覚めたほうがいいよ。いつ茂みから撃たれるかわかったもんじゃないし」
「なんとも物騒な話じゃが……やはり、のう」
「おお、一触即発が弾けて大乱闘が生まれそうだ!」
◇ ◇ ◇
勝負は一瞬、決着は瞬きの間についた。
金属バットで殴りかかった少女は、シャナの〝殺し〟の領域にまで足を踏み入れ、迎撃される。
身に纏う『夜笠』、その奥から木刀を引き抜くこと一閃。
刃を持たない木の刀身は、しかしシャナの豪速の振りによって威力を増し、バットを明後日の方向に弾き飛ばした。
刹那の出来事に目を白黒させる少女は、急に痺れ出した両手を眺め、声を漏らす間もなく、
◇ ◇ ◇
「はて、また別の女子が現れたのう」
「すごいねあの子。髪、燃えてるよ。熱くないのかな?」
「派手な髪じゃのう。外国の子なのじゃろうか」
「そういう君は、おじいさんみたいな喋り方をするね。君の住んでる国ではみんなそうなの?」
「いいや。そんなことはないぞ」
「ふーん。あ、なんか一触即発の空気だよ」
「ふうむ。やはり、皆考えることは同じなのかのう……」
「またまた。君はああいう野蛮なことしないでしょ」
「もちろんじゃ。というか、未だ夢でも見ている気分でのう」
「ああ、それはよくないね。早く夢から覚めたほうがいいよ。いつ茂みから撃たれるかわかったもんじゃないし」
「なんとも物騒な話じゃが……やはり、のう」
「おお、一触即発が弾けて大乱闘が生まれそうだ!」
◇ ◇ ◇
勝負は一瞬、決着は瞬きの間についた。
金属バットで殴りかかった少女は、シャナの〝殺し〟の領域にまで足を踏み入れ、迎撃される。
身に纏う『夜笠』、その奥から木刀を引き抜くこと一閃。
刃を持たない木の刀身は、しかしシャナの豪速の振りによって威力を増し、バットを明後日の方向に弾き飛ばした。
刹那の出来事に目を白黒させる少女は、急に痺れ出した両手を眺め、声を漏らす間もなく、
ヒュン、
とシャナの木刀を眼前に突きつけられ、絶体絶命に陥った。
「……あ」
少女の声が、ようやくの反応として拙い抵抗を試みる。
この突然の攻撃行為を、シャナは紛れもない敵対行動と見て取り、だからこそ躊躇もしない。
ただし、猶予だけは与える。
漫然と反射を繰り返し、我武者羅に他者を傷つけるだけがフレイムヘイズにあらず。
だからこそ、少女の突進に敵意はあっても殺意はなかったことが、気にかかった。
この突然の攻撃行為を、シャナは紛れもない敵対行動と見て取り、だからこそ躊躇もしない。
ただし、猶予だけは与える。
漫然と反射を繰り返し、我武者羅に他者を傷つけるだけがフレイムヘイズにあらず。
だからこそ、少女の突進に敵意はあっても殺意はなかったことが、気にかかった。
「お……っ」
眼光鋭く、木刀の切っ先と共に少女の出方を窺うシャナ。
炎髪灼眼は揺るがず、いざというときの力の行使も視野に入れ、手を抜かない。
相手に余計な判断材料を与えぬようにと、言葉を放ることすらせず、次なる反応を待つ。
程なくして、少女は、
炎髪灼眼は揺るがず、いざというときの力の行使も視野に入れ、手を抜かない。
相手に余計な判断材料を与えぬようにと、言葉を放ることすらせず、次なる反応を待つ。
程なくして、少女は、
「お見それしやしたぁあああああ――っ!!」
猛烈な勢いで、土下座を敢行した。
◇ ◇ ◇
「すんなり勝負がついたのう。それにしても、まったく見えんかった」
「ホント、気づいたらバットがどっかに飛んでいっちゃった、って感じ」
「ひょっとしたら、剣道の達人かなにかなのかもしれぬ」
「でもああいうのは、遠くからの狙撃に弱かったりもするよね」
「漫画だと、弾丸を剣で叩き斬ったりもするのじゃが」
「あ~、そういうの、見たことある」
「本当か? すごいのう、おぬし」
「伊達に旅人の相方を務めているわけじゃないんでね」
「お、なにやら申し開きの機会を得たようじゃの」
◇ ◇ ◇
「あっし、姓を櫛枝、名を実乃梨と申す者でござんす! 失礼ながら先生の実力、試させていただきやしたっ!」
◇ ◇ ◇
「すんなり勝負がついたのう。それにしても、まったく見えんかった」
「ホント、気づいたらバットがどっかに飛んでいっちゃった、って感じ」
「ひょっとしたら、剣道の達人かなにかなのかもしれぬ」
「でもああいうのは、遠くからの狙撃に弱かったりもするよね」
「漫画だと、弾丸を剣で叩き斬ったりもするのじゃが」
「あ~、そういうの、見たことある」
「本当か? すごいのう、おぬし」
「伊達に旅人の相方を務めているわけじゃないんでね」
「お、なにやら申し開きの機会を得たようじゃの」
◇ ◇ ◇
「あっし、姓を櫛枝、名を実乃梨と申す者でござんす! 失礼ながら先生の実力、試させていただきやしたっ!」
深々と土下座をする、櫛枝実乃梨と名乗るその少女。
シャナは木刀を構えたまま、彼女の奇異な行動に目を奪われ、その言動の節々を判断材料へと昇華していく。
シャナは木刀を構えたまま、彼女の奇異な行動に目を奪われ、その言動の節々を判断材料へと昇華していく。
「此度の無礼はなにとぞ、なにとぞご容赦いただきたく! 不肖この櫛枝に、どうかお力添えをしてはいただけないでしょうか!?」
唐突すぎる助力の申し出に、シャナは眼光の鋭さを寸分も落とさず、言葉を交える。
「力を貸せ、って? なんのために?」
「みんなを……みんなを救うためだよ!」
「みんなを……みんなを救うためだよ!」
実乃梨は顔を上げず、額に土をつけたままの状態で猛々しく吼えた。
表情は窺えずとも、声色から鬼気迫る内情が読み取れる。
表情は窺えずとも、声色から鬼気迫る内情が読み取れる。
(どう思う、アラストール?)
(なにやら訳ありのようではある、が)
(なにやら訳ありのようではある、が)
心中、身の内に存在を宿すアラストールと、実乃梨に対する印象を比しながら、慎重に言葉を選び取ろうとする。
結論出ぬまま、実乃梨の文言が続く。
結論出ぬまま、実乃梨の文言が続く。
「先生は気づいてるかな……この、なんだかよくわからない競争の、意味」
声は一転して、暗がりの行灯のように心許なく威勢を失う。
「あの狐みたいな仮面つけてた人、あの人は言わなかったけどさ……結局、これ、勝ちは一人なんでしょ?」
疑問符を交えた言葉に、シャナは眼光以外の反応を見せようとはしなかった。
「他が消えなきゃ、ってことならさ、つまり、これってさ……殺し合い、って、そいうことなんじゃないかな!?」
そのとおり、と現実を突きつけることは容易かった。が、そんなことをするまでもない、と判断する。
彼女は既に、解を得ている。だからこその一連の凶行なのだろうと、シャナはあたりをつけた。
彼女は既に、解を得ている。だからこその一連の凶行なのだろうと、シャナはあたりをつけた。
「私は……! そんなの嫌だ! 大河も、あーみんも、高須くんも、誰一人として失いたくない!」
貪欲な言葉の裏にある意思は、友情か、博愛か、それとも単なるわがままなのか。
人の世での暮らしが浅く、社交性に乏しいシャナでは、初対面の人間、それも年頃の女子の気持ちなどわかり切れない。
人の世での暮らしが浅く、社交性に乏しいシャナでは、初対面の人間、それも年頃の女子の気持ちなどわかり切れない。
「私にだって夢がある。ここまでがんばってきたんだもん……こんなことに巻き込まれてご破算なんて、死んでもイヤ!」
(ヴィルヘルミナ)
己にとっての母にも近しい、教育係――『万条の仕手』ヴィルヘルミナ・カルメルは、大丈夫だろう。
このような異例な事態に巻き込まれても、相応の対処をしうるはずである。そう思えるだけの、信頼があった。
このような異例な事態に巻き込まれても、相応の対処をしうるはずである。そう思えるだけの、信頼があった。
(吉田一美)
己を通して〝紅世〟の存在に触れ、しかしなんの異能も持たない、恋敵にして親友は――大丈夫だろうか。
誰かが企画の本質を暴き、この地で闘争を生むのは自明の理。そうなれば、彼女も巻き込まれる可能性が高い。
誰かが企画の本質を暴き、この地で闘争を生むのは自明の理。そうなれば、彼女も巻き込まれる可能性が高い。
(……悠二)
己が想いを寄せる――邪なものではなく、真に純粋な意味での『想い』を寄せる少年は、どうだろうか。
日々の鍛錬が功を結ぶか、それともこの異常が努力を超えるか、いずれにしても、軽々しく心配などしたくはない。
日々の鍛錬が功を結ぶか、それともこの異常が努力を超えるか、いずれにしても、軽々しく心配などしたくはない。
(みんなは、きっと大丈夫。だって、あんなにも『強い』。だから、私は――)
意を固めたシャナが、実乃梨に問う。
「つまり、おまえはどうしたいの?」
「みんなが助かる道を探す! そのために、仲間が欲しいんだよ!」
「みんなが助かる道を探す! そのために、仲間が欲しいんだよ!」
矢庭に答えた実乃梨を、シャナはさらなる問いで推し量る。
「具体的な方策、もしくは指針でもあるの? 私の力を見たのは、用心棒をあてにして?」
「うっ……それは、その……ないとも言えないこともない、といいますか……」
「おまえの言っていることは、程度の低い理想よ。駄々をこねているのと、変わらない」
「うっ……それは、その……ないとも言えないこともない、といいますか……」
「おまえの言っていることは、程度の低い理想よ。駄々をこねているのと、変わらない」
シャナの辛辣な評に、実乃梨が顔を上げる。
目尻には、涙が窺えた。
目尻には、涙が窺えた。
「それでも……私は、まだ最悪を選びたくない。だって、ひょっとしたら、って思うじゃん。
こんなゲームみたいなの、まだ納得できてないから。知ったことかだよ。ルール違反上等だよっ!」
こんなゲームみたいなの、まだ納得できてないから。知ったことかだよ。ルール違反上等だよっ!」
今にも泣き喚かん勢いで、それでも一線を越えまいと踏みとどまる強さには、吉田一美の影を見た。
だから、なのかもしれない。
だから、なのかもしれない。
(……状況が状況だ。異例の事態とはいえ、判断を見誤るなよ)
(……わかってる)
(……わかってる)
シャナは実乃梨から視線をずらし、二、三歩ほど横へと移動する。
実乃梨が訝る横で、シャナは屈み、落ちていた小石を拾った。
そして、道の小脇、茂みのほうへとそれを投げ放った。
実乃梨が訝る横で、シャナは屈み、落ちていた小石を拾った。
そして、道の小脇、茂みのほうへとそれを投げ放った。
「いてっ!」
直後に、男の子のような声が悲痛を訴える。
先ほどから茂みの中に感じていた気配、小動物の類ではありえなかったそれに、シャナが続けて言葉を放った。
先ほどから茂みの中に感じていた気配、小動物の類ではありえなかったそれに、シャナが続けて言葉を放った。
「そこにいるの。さっきから櫛枝実乃梨をつけてたでしょう? 隠れてないで出てきなさい」
「えっ?」
「えっ?」
まったく気づいていない様子だった実乃梨を尻目に、シャナは茂みのほうをじっと睨み据える。
気配隠蔽の出来からして素人と判断した正体は、やはり人。
顔立ちは女の子らしく、しかしどういうわけか、男子の学生服を身につけている。
男装癖でもあるのか、とシャナが怪訝に思い、続いて彼が押す一台のオートバイに目がいった。
気配隠蔽の出来からして素人と判断した正体は、やはり人。
顔立ちは女の子らしく、しかしどういうわけか、男子の学生服を身につけている。
男装癖でもあるのか、とシャナが怪訝に思い、続いて彼が押す一台のオートバイに目がいった。
「痛いなぁ、まったく。いきなり石を投げつけるだなんて、いくらなんでも酷いんじゃないの?」
オートバイが、男の子の声調で喋った。
傍らの男装少女ではなく、オートバイが。
一見して普通と取れるオートバイが、肉声を。
傍らの男装少女ではなく、オートバイが。
一見して普通と取れるオートバイが、肉声を。
「……〝燐子〟?」
「では、ないようだな」
「では、ないようだな」
喋るオートバイ、というシンプルな珍事が、〝紅世〟の常識で測れないと見て取るや、シャナとアラストールは短く唸った。
「ふむ、挨拶をしておくべきかのう」
「見つかっちゃったし、そうしたほうがいいかもね」
「見つかっちゃったし、そうしたほうがいいかもね」
男装少女とオートバイが声を揃えて、名乗りを上げる。
「ワシは木下秀吉じゃ。名簿には名が載っていなかったが、どうやら六十名の内の一人らしい。こちらはエルメス」
「よろしく。たぶん、秀吉と同じようなことを言うんだろうけど……バイクじゃなくてモトラドだかね」
◇ ◇ ◇
それぞれの道筋を辿れば、なんということはない。敵意など混在しない、まったく平和な邂逅だったと言える。
「よろしく。たぶん、秀吉と同じようなことを言うんだろうけど……バイクじゃなくてモトラドだかね」
◇ ◇ ◇
それぞれの道筋を辿れば、なんということはない。敵意など混在しない、まったく平和な邂逅だったと言える。
櫛枝実乃梨は、友達を誰一人欠かすことなく、元の暮らしに帰り着くことを願った。
具体案はないにしても、そのためにはまず味方を得るべき、と考えたようである。
そして目をつけたのが、奇妙な燃える髪に、民家の屋根から颯爽と跳び下りるほどの身体能力を見せた少女。
挑みかかってみれば、木刀でバットを弾き飛ばすという荒業を見せる、頼るには十分な逸材だった。
具体案はないにしても、そのためにはまず味方を得るべき、と考えたようである。
そして目をつけたのが、奇妙な燃える髪に、民家の屋根から颯爽と跳び下りるほどの身体能力を見せた少女。
挑みかかってみれば、木刀でバットを弾き飛ばすという荒業を見せる、頼るには十分な逸材だった。
木下秀吉は、まず鞄の中身を確認したらしい。そうして出てきたのが、二輪車のエルメスだ。
正確にはモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)という種らしいエルメスは、自我を持つ。
名簿を検証してみたところ、キノという旅人の相棒、つまりは乗用車であるとの情報が得られた。
秀吉のほうは、この時点で指針を固めておらず、とりあえず同級生と会って話し合いたいと願い出た。
正確にはモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)という種らしいエルメスは、自我を持つ。
名簿を検証してみたところ、キノという旅人の相棒、つまりは乗用車であるとの情報が得られた。
秀吉のほうは、この時点で指針を固めておらず、とりあえず同級生と会って話し合いたいと願い出た。
これら、大まかな情報の提示を路上で受け、シャナは熟考する。
戦闘時に表出する炎髪灼眼は今は消え、黒髪黒眼の姿で、しばしの時を刻んだ。
そして、
戦闘時に表出する炎髪灼眼は今は消え、黒髪黒眼の姿で、しばしの時を刻んだ。
そして、
「……ふう」
ため息をひとつ零し、提案する。
「とても路上でまとめられるような話じゃないみたい。そのへんの家を借りて、じっくりやりましょう」
「ということは、用心棒やってくれるんッスね、先生!」
「その呼び方、やめて」
「ということは、用心棒やってくれるんッスね、先生!」
「その呼び方、やめて」
露骨な態度を取ってくる実乃梨には、嫌味が感じられない。
笑顔は太陽のように眩しく、見ていて悪い気はしなかった。
笑顔は太陽のように眩しく、見ていて悪い気はしなかった。
「勝手に人様の家に上がるのは気が引けるのぉ」
「どうせ無人だ。気にかけることでもあるまい」
「どうせ無人だ。気にかけることでもあるまい」
まだどこか現実が実感し切れていない、といった風な秀吉も、特に害はないだろう。
事態が事態、そしてなによりエルメスのような例もあるため、アラストールの存在も特別隠すことはしなかった。
事態が事態、そしてなによりエルメスのような例もあるため、アラストールの存在も特別隠すことはしなかった。
「それにしてもすごいな、喋るペンダントとは」
「喋る自動二輪車に言われたくはないがな」
「自動二輪車じゃないよ、モトラドだよ」
「喋る自動二輪車に言われたくはないがな」
「自動二輪車じゃないよ、モトラドだよ」
エルメスもどこか、緊張感が足りない。
鞄の中から出てきた、ということは名簿に記されるべき六十名の参加者ではなく、配られるはずの『武器』に該当する存在なのだろう。
鞄の中から出てきた、ということは名簿に記されるべき六十名の参加者ではなく、配られるはずの『武器』に該当する存在なのだろう。
「あれ、そういや先生、大河に似てね? 声といい、目つきといい、ちんまい姿といい……」
「アラストール。やっぱり、こいつら放って先にいかない?」
「待て。この場はなによりもまず情報だ。こやつらとて、有益な情報を……」
「アラストール。やっぱり、こいつら放って先にいかない?」
「待て。この場はなによりもまず情報だ。こやつらとて、有益な情報を……」
どうにも、話を聞くだけで気苦労が重なりそうだ。
シャナが声なくして薄っすら思い、その中途で、保留にしていたある謎を思い出す。
彼らならば、あるいは知っているのではないか。と思い至り、手始めとして問うた。
シャナが声なくして薄っすら思い、その中途で、保留にしていたある謎を思い出す。
彼らならば、あるいは知っているのではないか。と思い至り、手始めとして問うた。
「そうだ。おまえたち、『ドラえもん』ってなんだか知ってる?」
「は?」
「は?」
三者にして五者の邂逅は、まだまだ続く……。
【E-1/民家/一日目・深夜】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
1:櫛枝実乃梨と木下秀吉、ついでにエルメスから搾り取れるだけの情報を搾り取る。
2:みんなが少し心配。
[備考]
※封絶使用不可能。
【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
1:シャナに用心棒を頼みたい。
2:みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:エルメス@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
1:とりあえず情報提供。
2:吉井明久、姫路瑞希と合流したい。
【逢坂大河の木刀@とらドラ!】
逢坂大河が竜児の家を襲撃した際に用いた、ごく一般的な木刀。
【E-1/民家/一日目・深夜】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
1:櫛枝実乃梨と木下秀吉、ついでにエルメスから搾り取れるだけの情報を搾り取る。
2:みんなが少し心配。
[備考]
※封絶使用不可能。
【櫛枝実乃梨@とらドラ!】
[状態]:健康
[装備]:金属バット
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
1:シャナに用心棒を頼みたい。
2:みんなが助かる道を探す。そのために多くの仲間を集める。
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康
[装備]:エルメス@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
1:とりあえず情報提供。
2:吉井明久、姫路瑞希と合流したい。
【逢坂大河の木刀@とらドラ!】
逢坂大河が竜児の家を襲撃した際に用いた、ごく一般的な木刀。
【金属バット@現実】
ごく普通の金属バット。
ごく普通の金属バット。
【エルメス@キノの旅】
キノの相棒。言葉を話すモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)で、空を飛ぶことも自力で走ることもできない。
後部座席はキャリアに改造されているが、いつも積まれていた鞄や毛布は、一切撤去されてしまっている。
キノの相棒。言葉を話すモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)で、空を飛ぶことも自力で走ることもできない。
後部座席はキャリアに改造されているが、いつも積まれていた鞄や毛布は、一切撤去されてしまっている。
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