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BREAK IN (後編)

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BREAK IN (後編) ◆MjBTB/MO3I



ここでフリアグネ達三名の織り成す物語の舞台は、近くにあったモダンな雰囲気を漂わせるバーへと移る。
理由は、トラヴァスとの合流後にフリアグネがかけた以下の号令である。


 ご覧、このおぞましき水晶の輝きを。こんなものを私に向けていたんだよ、彼女は。
 この"私"に、この紅世の王に対し、同属でもフレイムヘイズもないただの人間がね。
 素晴らしいとは思わないかい? 君の時と同じだ。再び私は猛々しい種と出会えた。
 いやはや、これは面白い。取って喰うつもりだったが非常に惜しい。
 …………だからここは一つ、戯れをしようじゃないか。親睦を深める意味でも、ね。


フリアグネの企みは単純なものであった。
それは"和服"の――フリアグネは両儀式の名を知らないので、今はこう呼称する――スカウト。
正しく"少佐"の時と同じ、"ただの人間という括りから逸脱した存在"であろう和服を気に入ったのだ。
勿論こちらの提案に従わないようであれば、すぐに躊躇い無く殺すが。

しかし、ここで少し問題が発生した。
戦闘終了直後、和服の突き刺すような殺気は霧散。何故だか消えてしまったのだ。
目の前の邪魔者全てを刈り取らんとするが如きあの凶暴性。それが今、微塵も無い。
狐の面は既に回収してあり、この手の中。故に和服の顔はよく見える。
明らかに、闘争の中で感じられた"あれ"が微塵もなくなっていた。
何故なのだろうか。


補足すると、それは彼の推測通りの事態が発生したからである。
"和服"両儀式の支えとなっていた黒桐幹也が、自分の及び知らぬ場所で死ぬ。
放送によって生み出されたのは精神の均衡の崩れ。悲観的な思考。そして敗北。
ごくごく単純な言葉で表現するならば、彼女はもう"何もかもがどうでも良かった"のだ。

勿論この事実を、フリアグネは把握していないのだが。


ともかく、それでも和服に対する興味の強さは変わってはいない。
脆弱なフレイムヘイズを上回るのではないかという予感。それが今は勝っている。
少佐とはまた違う方向性へと突き抜けるこの和服の真髄、見てみたい。出来れば、臣下とした上で。

フリアグネはカウンター奥へと引っ込んでいくと、まずは近くにあった放送器具に手を伸ばした。
それらしいボタンを何度か押してみるといとも簡単に稼動。スピーカーから緩やかなスムーズジャズが流れ始める。
BGMとしては問題はないだろうと判断してそれ以上弄る事はせず、次は多段棚から酒を適当に数瓶持ち出した。
蜂蜜をアルコール発酵させた"タッジ"に、トウモロコシ等が原料であるビールに似た飲料"テラ"、蒸留酒"アラキ"など。
チョイスが独特だが全く気にせずグラスも人数分用意。少佐と和服が立っている場所、その近くのテーブルに置いてやる。
これで準備は完了。後はこれを振舞ってやれば場の雰囲気は微かでも暖まるはずだ。
と、思っていたが。

「私は遠慮しておきましょう。知っての通り銃器を扱う身……酔いは怖いですから」
「――――オレも却下」

即、断られてしまった。案を断固として受け入れないという意思が透けて見えるくらいだ。
苦笑しながら「残念」と呟くと、再びカウンター奥へ。
そうしてそのまま所定の位置に酒を戻そうとして、"これも何かの縁"とデイパックに放り込んだ。
"紅世"には存在しないものを好くのは"徒"の本能。それにもしかしたら何かに使う可能性もある。
ただの気まぐれと言えば、それまでなのだが。

さて、どうするか。
あの真面目な少佐はともかくとして、和服の方は未だに言う事をきかないのか、と感心した。
ここに来るまでに、戦意も殺気も消えうせていた相手だ。梃入れをしなければもう燃え上がらないかもしれないと覚悟していた。
これでもう少しやる気を見せてくれれば完璧なのだが。敵意のみでは何も生まれはしない。ただただ非生産的な時間を過ごすままだ。
後一歩及ばないといったところだ。やはり、駄目か? ここで殺すか? いや、もう少し様子を見よう。

「確かに朝から酒というのもみっともない話ではあるね。ではこちらではどうかな?」

カウンターから戻ったフリアグネは酒絡みの思考を捨てて、店内の"別のゾーン"へと二人の視線を導いた。
フリアグネの掌が指し示したのは、店内にどっしりと居座るビリヤードのセットだった。
ハスラーはいない。あるのはポケットテーブルにビリヤードボール、キューやチョークやメカニカルブリッジ等。
"椅子取りゲームの参加者以外の人間は存在しない場所である様子なのに、何の問題もなくプレイが出来そう"だ。

「ルールは"ナインボール"にしよう。私もたまには息抜きくらいはしたい……付き合ってくれるね?」

大人気なくも、少し殺気を込めてしまった。
すると少佐は何かを察したような目でこちらを見ると、せっせとゲームの用意を始めた。
手玉一つにカラーボール九つをテーブルに並べ、先程フリアグネがグラスでそうしたようにキューを人数分用意してくれた。
そうしてこちらに近づき、囁きかける。

「あの子を我々の傘下に、という企みなのはわかりましたが……敢えてのビリヤードというのは?」
「別に酒でも良かったのだけれど、あの"和服"の心を探りたいと思ってね……」
「なるほど、何かをきっかけに少しずつアプローチをかけようと……?」
「ああ。人間というものは必ずその心理が行動に現れるからね。そこを狙い、探り、推理する」
「ああ、ようやく話が繋がりました。しかし相手がこちらに乗り気でなくてはなりません……今は厳しいのでは?」
「そうだね。だから今回は脅してでも舞台に立たせよう。そして少しずつ和服の心中を探る」
「心に隙間があり、それを利用出来るならば利用したいと」
「そういう事さ。やはり少佐は賢い」
「では相手がこちらに隙を見せなかったり、または使い物にならないと判断した場合は?」
「殺すよ」
「そうですか……ふむ」
「そういうことだ。ではそろそろ始めようじゃないか。とは言え和服は乗り気ではないようだし、ここは……」
「私が説得しましょう」
「大丈夫かい? 取って喰われてしまわないようにね」
「ご安心を。ところで、質問なのですが……」
「おや、どういった内容かな?」
「……"ワフク"とはどういう意味ですか? あの子を表している事は解るのですが」
「…………ん? 和服は和服だよ?」

そんな内緒話を経て、トラヴァスは和服へと向かっていった。それを確認してカラーボールを眺めるフリアグネ。
あの様子では暫くかかりそうか、とつまらなそうにため息をついてしまった。

が、その予想は大外れ。直後に和服がこちらにあっさりと近づいてきた。しかも驚くことに、その足取りは何故かしっかりとしている。
少佐から奪い取ったのか、キューも持っている。突然あの出会ったばかりの頃の"やる気"を髣髴とさせる何かを感じさせてくれた。
些か奇妙だが、乗り気になってくれたのであれば嬉しい話である。一体何があったのか。ナインボールと言った途端これとは。
と、ここですぐに少佐も戻ってきた。和服のここまでの変化だ、何を言ったのかは当然気になるので耳打ちをする。

「見事だよ少佐。一体何を言ったんだい?」
「いえ……私は別に何も。こちらが不思議なくらいです。密やかに催眠術でもかけていたのですか?」
「まさか。そんな悪趣味に興じたりはしないよ……」
「では彼女に裏があると考えても?」
「さてね。だがとにかくチャンスだ。折角の面白い人間なのだから……がっかりさせてくれないで欲しいな、和服」
「同意です。私も"簡単に死なれたくないと思っています"から」
「おい、始めないのか?」

王と少佐若干二名の内緒話を途切れさせるように、和服の声が響いた。


       ◇       ◇       ◇


相容れなければあっさりと殺そうとするこの野蛮な王には少し冷や冷やさせられた。
故にトラヴァスはあの"ワフク"――王に従い、こう表現する――が乗り気になってくれた事に心底感謝した。
だが同時にそれは、今度はあのワフクの心をどう動かすかに気を配らねばならなくなったという事だ。
自分が見た最初のワフクはダウナーの化身とも言える状態だったので、恐らくは自分と同じく放送絡みの何かがあったのだと予想出来た。
しかし今は違う。何故だか笑みまで浮かべている。元気を取り戻した、という言葉の範疇ではない。
やけになったか? それともビリヤードに何か深い縁があるのか。それとも強烈な負けず嫌いか。
何がなんだか解らないので判断に迷うが、とりあえずは臣下として"王"に従い、ビリヤードを楽しむとする。

「公式な試合でもないし、ブレイクはやりたい人間に任せるとしよう。順も最後で良い」
「オレは良い。眼鏡に譲る」
「……では不肖ながら」

任されたので、二名の視線に晒されながらトラヴァスはブレイクショットを放った。
放たれた手玉が"一番"ボールと衝突し、その力が全体へと伝わっていく。
手玉は衝撃によって急速に停止。それを尻目に残り九つのボールは好き放題にテーブル上を暴れまわった。
だがそれもそこまで。ボールは各ポケットに吸い込まれないままやがて停止。
結果は一番がコーナーポケットの近くまで移動してくれただけ。これではトラヴァスへのメリットは無に等しい。
本来はここでいくつか落としておけば美しく、また有利なのだが。

「いやはや不甲斐無い。申し訳ありません」
「いいや、構わないさ。だがこうなると次は……」
「オレだな」

ワフクが構えた。散り散りになったカラーボール、その一番目をしっかりと見据えている。
さて、こういう場合にはまずは一つ一つを綺麗に落としていくのが賢明だ。
恐らくはコーナーポケットに一番を華麗にイン。そのまま二番へと手を伸ばす計画だろう。普通はそうする。
集中するワフク。その姿をトラヴァスは見つめるものの、心の内まではまだ悟れそうに無い。彼女の得体の知れぬ高揚が邪魔をしている。
それはフリアグネも同じようで、両名のワフクと手玉への視線は通常のハスラー達のそれとは全く違っていた。
当然だ。重要なのはこのゲームの結果ではないのだから。

「ん?」

と、ここまでトラヴァスは気付いた。
このワフク、コーナーポケットを狙ってなどいない。その隣にあるクッションに対し一番をぶつけるつもりだ。
何を考えているのか。他のボールにぶつけることで間接的に数を減らそうという算段か?
いや、違う。"そうだが違う"。トラヴァスが視線をずらせば、答えはすぐに判明した。
そう、このまま跳ね返った場合、その斜線上にあるのは!


小気味良い音が鳴る。


       ◇       ◇       ◇


フリアグネは目を見張った。

手玉が前進し、衝突したのは当然一番ボール。だがその一番のボールはポケットではなくクッションへ。
一番は僅かにクッションに衝撃を吸収されながらも、微妙に角度を変えて手玉に当たらないように進んでいく。
ここまでだと思った。ここで終わり、続いて和服から自分へとターンが移るものだと思っていた。
しかし、その予想は一瞬の内に殺される。

なんと元気良く跳ね返った一番が、長方形の長辺を沿う様に疾走し"九番"ボールへと迷い無く激突したのだ!
テーブル上で唯一の"黄と白のストライプで彩られたこのゲームの主役"が、初回から真っ先に動く。
その先にあるのは、一番が鎮座していた場所と正反対の位置に存在するコーナーポケット。
然程時間もかからずに九番はいとも容易く吸い込まれ、手玉と残り八つのカラーボールが場に残される。
関心と驚愕で何も言えず静まり返るフリアグネとトラヴァス。そして不敵な笑みを浮かべる和服。


これにてナインボール終了。勝者、和服。


なんと。これは、まぁ。突然彼女が乗り気になった理由を探る間も無く終わってしまった。
というかまだ一度もキューを振るっていないのに。表向き"息抜きをしたい"と言った相手の事をまるまる無視している。

「オレの勝ちだな……もう一度、やるか?」

少し矜持を傷つけられたが何もおかしいことは無い。ナインボールとはそういうルールだ。
そもそものルールは"一から九までのボールを数字が小さい順に落として行き、九番ボールを落としたものが勝者"である。
そして"白い手玉をぶつける対象はテーブル上のボール中最も数が小さいもののみである"という縛りが発生する。
お気付きの通りこの制約は実際にプレイした際には非常に重く圧し掛かり、このゲームの難易度をかなり上げている。
だが同時に、実は"小さい数字にさえ当てれば、それが他のボールを間接的にポケットに落としてもセーフ"というルールも存在している。
つまり初っ端に一番ボールを使用して間接的に九番ボールを落とした場合も"セーフ"。しかもその時点で勝者が決まるというわけだ。
力量と運さえあればいくらでもプレイ時間を短縮させられる。ナインボールとはそんな大胆な側面も持つゲームなのだ。

(この行動の意味するところは……"お遊戯など早く切り上げたい"ということかな?)

突然の世紀末ビリヤード大会開催のお知らせに、少々戸惑いを隠せないフリアグネ。
そこに更に和服の意味不明な高揚感丸出しの姿である。混乱しそうだ。

(いや、だが"もう一戦プレイするか"と挑発したのは和服の方だ……何か、何かを伝えようとしている)

ならば。
フリアグネは一瞬少佐と視線を交わし、

「……うふふ、そうしようか」
「ええ、そうですね」

乗った。


       ◇       ◇       ◇


意味が解らなかった。


「パス」


ワフクは何をしているんだ?


「……なるほど。では、フリアグネ様」
「…………私の番か。次は七番を……よし」
「おめでとうございます」
「――――フッ」


そちらだろう、もう一戦やろうと言い出したのは。
だからこちらはフリアグネとワフク、両方の顔色を伺っているというのに。


「くっ……」
「残念でした。では次は私の番ですか……」
「――オレも健闘を祈るよ」
「…………ありがたきお言葉」


何故、そうやってじっとしている……?


「……おや」
「残念」


さぁ、君の番だワフク。


「ん? ああ、パス」


…………。


       ◇       ◇       ◇


第二回戦も終盤に差し掛かり、遂にボールは最後の九番を残すのみとなった。
それはいい。ゲームが滞りなく進んだ何よりの証拠だ。
しかし問題なのは、この第二戦目は何故かフリアグネとトラヴァスしかキューを振るっていない、という奇妙な事態に発展している事だ。
何故なのか。それは、

「パス」

和服のこの度重なる宣言によるものだった。
一番が落ちようとも二番が落ちようとも三番が落ちようとも、四番五番六番七番に至っても全て

「パス」

の一言で一蹴されてしまう。
もう何度続いたか解らない。たまに聞こえるのは自分達を応援するような茶化しているような野次のみ。
上手い皮肉を思いついたかのように不敵な笑みを浮かべたまま、宣言するのは玉を突く権利の放棄だ。

現在、テーブル上には九番と手玉の二つが鎮座している。
二つのボールの距離はそう遠くは無い。しかもこのまま直接ボール同士を激突すれば、九番は斜線上のポケットへと確実に収納される。
そして何をどう間違ったのか、その"下手を打たなければラストショット"の権利を得た幸運なハスラーが、

「さて――――」

まさかの和服である。
そして、

「またパスかい?」
「いや、やる」

遂に彼女は、ここに来てようやくその重い腰を上げた。
キューを構える姿も久方ぶりかと見まがう。小さい傷だらけだがそれでも白い彼女の腕に抱かれたキューが手玉を狙う。
和服の集中力が上がっていく。確実に落としてやるという気迫が見える。この和服、ノリノリである。
しかし少し腹の立つ話だ。一回戦では初発でゲームを終了させ、と思いきや二回戦では最後まで待ちに徹していた。
九番にしか興味が無いのか。一度のゲームで一度だけ打てさえすれば満足なのか。
それとも自身の手でゲームを終わらせられればそれでいいのか。
いや、待て。そうか。

(自分の手で、九番を落とし、ゲームを終わらせる……?)

そうか、そういう事か。

(口数の少ない人間だと思っていたけれど、最初から君は随分とお喋りだったんだね……和服)

もう何度目になるだろうか、少佐の表情を確認するのは。
だがどうやら少佐も気付いたようだ。彼女の行動が意味する、彼女自身の想いを。

(やはり、君は面白いよ。"狩人"の目は間違ってはいなかった)

そうこうしている内に、和服は行動を起こしていた。
九番が手玉の力によって押し出される。そうして当たり前の様にポケットへと姿を消し、手玉のみが残された。
正真正銘のラストショット。勝利したのは、和服。

「和服」
「――オレの事か?」
「そうだよ。名を聞いていないからね……途中からの生き返ったかのような活躍ぶりには驚いたけれど、わかったよ。
 後ろの少佐も既に理解し、私と同じ結論に達しているはずだ。得物を失っても、それでも君が"立ち直った理由"をね」
「へぇ」
「そう、君は…………」


       ◇       ◇       ◇


式は、ナインボールを提案された瞬間に、そのルールを思い出したと同時にようやく気付くことが出来た。
それは、自分のこの想いをぶつけるに値する相手のこと。
もやもやとして、つらくて、かなしい、そんな心を蘇らせる方法。
たった一つの方法。少し我慢すればきっと叶うこと。やっと気付けた、最良の方法。


それは――――"人類最悪"を、殺して、殺して、殺して、殺す。ただその為だけに、動く。


黒桐を失った悲しみは大きすぎて、もうこの世界にはそれを押し付けられる人間などどこにもいないと思った。
だから自分独りが抱え込んでしまって、それでも少女のように喚き散らすことがどうしても出来なくて。
それでも珍しく泣いて、泣いて、泣いて、だけどそれでも何も変わらなくて。
だったらこの世界で人を殺して、八つ当たりすれば――――そう思ったけれど、無理だった。
黒桐の姿がちらついて。それに誰かを殺しても黒桐を失った心の穴は埋まらないって理解出来てしまって。
"織"がいなくなった時から、自分はずっと何かを殺してそれを埋めようとしてきたけれど、今回はもうそれでも駄目なのだ。
きっとこの世界に現存する全ての人間を殺しきっても何も埋まらない。

だから、もう全部の力を"人類最悪"の抹殺に集中させよう。

故になるべくこのゲームが早く終わり、かつ自分が生存出来る形を式は望む。
手段などどうでも良い。繋がりなどどうだって良い。
人を殺す方が早ければそうするし、ここからの脱出の手立てを探すのが早いならそちらにする。
"良い奴"と"悪い奴"だって区別しない。自分にとって有益なのは"このゲームを早く終わらせる手立てを持っている方"だ。
だからこの目の前の優男と眼鏡が自分にとって有益なら付き合ってやっても良いと思う。そう考えている。

気付かせてくれたのはナインボール。
力量や運さえあれば最速で完結するゲームの存在。
だからそれを、過程を吹き飛ばして終了させた。
きっかけを与えてくれたせめてもの恩義。それが、式のあの行動だ。

「結局、オレはどっちでも良いんだ」

その事にあの二人は、第二戦目のラストショットでようやく気付いてくれた。
もし全然気付かなかったら、どんな手を使ってでも殺してやる、なんて考えていた。

「ありがとう、気付かせてくれて……で、だ」

互いの主張は判明した。
優男は今までの発言からして、何を気に入ったか自分を引き入れたいと考えているのだろう。
眼鏡のほうはよく解らない。だがこいつの仲間だというのなら似たようなものなんだろう。
式はそれを踏まえた上で、言う。

「――――どうする? 今ならお前達と一緒にゲームを終わらせても良いって、そう思えるんだけどな」


       ◇       ◇       ◇


「ふふ……うふふ、ふふ……ふっ、あはははっ! はははははははッ!」


楽しい。炎髪灼眼のおちびちゃんでもこうは行かなかった!


「全く、どちらが勧誘されていたのかこれではわからないね……。
 うふふ、ふふふふふ……良いよ、良いなぁ"それ"。その眼、その殺意、実に良い」


良いだろう。要はつまり、私達が下手を打たない限りは傘下に収まってくれるというわけだ。


「久方ぶりの光景だ、歓迎するよ和服! 共に行動するのを許そう。
 "紅世の王"を手玉に取ろうというその姿、少佐共々実に素晴らしい!」


ならば、思う存分働いてもらおう。とても気に入ったから。そして最後に、死ね。


       ◇       ◇       ◇


「「 でも 」」


"狩人"と"和服"の声が交差。
"少佐"以外の二名が、口を揃えて言い放つ。


「「 使えなくなったら、すぐに殺してやる 」」


新たな玩具を手に入れた喜びに震えるフリアグネ。
ここに来てようやく生きがいを見つけた式。
二人は、笑う。





そんな姿を、そんな光景を、少佐は静かに観ていた。
大命を成就させる為、策を生み出そうと、ただただ影の如く、無言のまま。

両儀式と同じく愛する者を失った悲しみを、彼女と違い表に出さぬまま、ずっと。




【C-5/何処かのバー/一日目・午前】

【フリアグネ@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:吸血鬼(ブルートザオガー)@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック(肩紐片方破損)、酒数本、狐の面@戯言シリーズ、支給品一式、不明支給品1~2個
[思考・状況]
基本:『愛しのマリアンヌ』のため、生き残りを目指す。
1:トラヴァスと両儀式の両名と共に参加者を減らす。しかし両者にも警戒。
2:他の参加者が(吸血鬼のような)未知の宝具を持っていたら蒐集したい。
3:他の「名簿で名前を伏せられた9人」の中に『愛しのマリアンヌ』がいるかどうか不安。いたらどうする?
[備考]
坂井悠二を攫う直前より参加。
※封絶使用不可能。
※“燐子”の精製は可能。が、意思総体を持たせることはできず、また個々の能力も本来に比べ大きく劣る。

【トラヴァス@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:ワルサーP38(6/8、消音機付き)、フルート@キノの旅(残弾6/9、消音器つき)
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0~1個、フルートの予備マガジン×3
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗っている風を装いつつ、殺し合いに乗っている者を減らしコントロールする。
1:当面、フリアグネと両儀式の両名と『同盟』を組んだフリをし、彼らの行動をさりげなくコントロールする。
2:殺し合いに乗っている者を見つけたら『同盟』に組み込むことを検討する。無理なようなら戦って倒す。
3:殺し合いに乗っていない者を見つけたら、上手く戦闘を避ける。最悪でもトドメは刺さないようにして去る。
4:ダメで元々だが、主催者側からの接触を待つ。あるいは、主催者側から送り込まれた者と接触する。
5:坂井悠二の動向に興味。できることならもう一度会ってみたい。

【両儀式@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0~1個
[思考・状況]
基本:ゲームを出来るだけ早く終了させ、"人類最悪"を殺す。
1:ひとまずフリアグネとトラヴァスについていく。不都合だと感じたら殺す。
[備考]
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。


「伊里野のナイフ」は刃の部分が破壊された状態でC-5のどこかに放置されています。



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前:粗悪品共の舞踏会 フリアグネ 次:しばるセンス・オブ・ロス
前:粗悪品共の舞踏会 トラヴァス 次:しばるセンス・オブ・ロス
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