ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

ネコの話 ―― Girl meets Girl ――

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
管理者のみ編集可

ネコの話 ―― Girl meets Girl ―― ◆76I1qTEuZw



海が近いのか、遠いさざなみの音に混じって潮の匂いがしていた。
大きな川の、三角州。
ひときわ目を惹く摩天楼を中心に、背の高いビルが並ぶビジネス街。
これだけの重量ある建物を支える地盤の改良、そして氾濫を繰り返したであろう川を押さえ従わせる治水技術。
地味にこのエリア一帯の技術レベルは、相当に高いものであるらしかった。

そんな、コンクリートとガラスに囲まれた街の中に、1人の少女が佇んでいた。
長い髪を頭の両脇でリボンで結わえ、どこかの制服のような服を着て。肩には似合わぬデイパックを提げ。
そして、不釣合いな印象を与えるものを、それぞれの手に構えていた。

右手に提げていたのは、見るからに凶悪な装飾の成された刺々しいナイフ。
左手に提げていたのは、槍の穂先を途中から折り取ってきたかのような、手槍にも似た刃物。
彼女は小さく溜息をつくと、そして手近なビルの壁面に向き直った。

瞬間――
彼女からおよそ5メートル先。
傍らのビルの壁面に、そのナイフが、音もなく深々と突き刺さっていた。

投げたわけではない。彼女は1ミリだってその手を動かしてはいない。
そして、投げて刺さるような標的でもない。何せ鉄筋コンクリート造りの建物である。
投擲に向かぬ形状のナイフを、ただ投げてここまで突き刺すことができるとしたら、それはそれで十分な異能だ。
そしてこのツインテールの少女は、そんな怪力とは全く異質な異能を、その身に備えている。

ふむ。突き刺さったナイフを確認した彼女は、何か確認するように小さく頷く。
続いて彼女の左手からも、手槍のような武器が音もなく「消え」、ナイフと並んで壁面に「突き刺さる」。
やがて軽く2呼吸ほどの間を置いて、彼女自身の姿も掻き消えて……
ビルのすぐ傍、手を伸ばせばナイフと手槍に届く位置に、出現した。
突き刺さったままの2本の凶器に軽く触れると、それは次の瞬間、向きを変えて彼女の手の内に納まる。

「能力は、問題なく使えますわね……ただちょっと、普段より計算が『重い』ですかしら?
 この状況下、ストレスを感じていないと言ったら嘘になりますけれど……さて……」

少女は、小さく呟く。
『能力』。
そう、彼女には特殊な能力が備わっている。
超能力開発機関『学園都市』でも五本の指に入る名門・常盤台中学に属する、『大能力者(レベル4)』。
使い手もレアな11次元特殊計算式応用分野、『空間移動(テレポート)』使い。
学園都市治安維持機関『風紀委員(ジャッジメント)』所属。
白井黒子、だった。




 ◇




白井黒子は考える。
この残酷な「椅子取りゲーム」のことを、考える。
最多でも1人しか生き残れない、最長でも3日間で終わることが確定しているという、生き残りのゲーム。
そして、こうして支給された2つの品。
『グリフォン・ハードカスタム』という名のナイフと、『地虫十兵衛』という人物が使っていたという槍。
最初の説明に拠れば、自分だけではなく他の参加者にも「武器」がランダムに支給されているという。
あの狐面の男は明言こそしなかったが、この状況を作った者の意図は明らかだった。


   ――殺し合え。

   最後の1人が決まるまで、互いに武器を取って、殺し合え。


「……ほんと、分かりやすいですわね。思わず反吐が出そうなほどに」

お嬢様学校の生徒には似合わぬ汚い言葉をあえて選び、白井黒子は吐き捨てる。
殺し合い、傷つけあって、「最後の1人」を選べ。「優勝者」を選び出せ。
自分たちの、手によって。
なんともシンプルな話だ。そしておそらく、この場では既存の法など役に立たないのだろう。
警察も、『警備員(アンチスキル)』も、『風紀委員(ジャッジメント)』も機能しない空間。
いや、仮にこの場で行われる行為が法の裁きを受けるとしても、きっと「優勝者」は罪に問われない。
裁かれるのは、この催しを仕組んだ者たちだけだ。
優勝者自身は「緊急避難」として無罪放免だろう。なにせこの状況、典型的な『カルネアデスの板』なのだから。
これでは、多くの者が殺し合いに乗ってしまうはずだ。
容易に、乗ってしまうはずだ。

「問題は、その『たった1枚の板』を誰に回すか、なのですけれども」

この状況設定がいやらしいのは、自分が「最後の1人」になる気のない者でさえ、殺し合いに乗りかねないことだ。
名簿をザッと見渡せば、同じ姓を持つ名が2組、すぐに目につく。
『黒桐』が2人、『ウィッティングトン・シュルツ』が2名。
親子か、兄弟姉妹か、それとも夫婦か。従兄弟やら孫やら、もっと遠い親族の可能性もあるけれど。
もしこのうち1名でも、「自分はどうなってもいいから大事な家族を生き残らせたい」と考えたとしたら、どうなるか。
……決まっている。殺し合いに、乗るのだ。
他の参加者を減らし、「大事な家族」を保護し、そして可能であれば「最後の2人」になって、自決する。
そうすれば、晴れてその「大事な家族」は「優勝者」だ。狐面の男の言葉を信じるのなら、生還が約束される。

いや、これは別に「家族」に限った話ではない。
愛する恋人。将来を誓った許婚。命を投げ出すに足るほどの主君。
名簿で名前を見ただけでは判断のつかないこれらの関係によっても、人は自らを犠牲にしうる。
自分自身を犠牲にし、見も知らぬ人々を犠牲にし、「最後の1人」の座を「誰か」に譲ろうとする可能性がある。

そして――こんな考察をしている白井黒子にもまた、大切な人が。

「お姉様……」

御坂美琴
白井黒子が敬愛して止まぬ、偉大なる先輩にしてルームメイト。この世で最も大事な存在。
何とも忌まわしいことに、彼女の名もまた、名簿に載っていたのだった。

彼女のことを想うと、胸が熱くなる。
彼女のためなら、何でもできる。
彼女にとって何かプラスになるのなら、自分自身が報われなくたっていい。
だから、そう、彼女が生き残るためなら、この手を汚すことだって……!

「……って、それはありえませんわよ。
 もしもあの『狐のお面』の『上』にいる奴がそれを期待しているのなら、『クソ喰らえ』って言って差し上げますわ」

一瞬湧き上がってしまった妄念を次の瞬間には蹴倒して、白井黒子は心の中で中指を立ててみせる。
ありえない。
それは、ありえないのだ。
御坂美琴を「最後の1人」にするために、白井黒子が積極的に殺し合いに乗る……そんな展開は、ありえない。

まず、その想い人たる御坂美琴そのものが、白井黒子に大人しく守られているような存在ではない。
常盤台中学のエースにして、学園都市全体でもたった7人しか居ない『超能力(レベル5)』。
最高レベルの電撃使いであり、ついた異名は『超電磁砲(レールガン)』。
磁力を操り、何の変哲もないコインを音速の3倍で撃ち出す大技の名でもある。
とてもではないが、白井黒子が「守る」などと大見得を切れる相手ではないのだ。

しかし、そんなこと以上に――
御坂美琴という人物は、誰かの犠牲をよしとはしない高潔な精神の持ち主である。

白井黒子は思い出す。「あの長い1日」を。
戦い、傷つき、敗北し、全てが終わった後でも事情は僅かにしか垣間見えなかった、あの日。
『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の『残骸(レムナント)』に関わったあの夜、白井黒子は思い知ったのだ。
御坂美琴という人間を。
そして、御坂美琴が見ている世界を。
何より、自らが到達したいと願っている世界の姿を。

御坂美琴は、誰かが犠牲になって終わる展開を、決して望まない。
彼女ならきっと、加害者も被害者もまとめて全部救おうとする。
彼女ならきっと、こんな馬鹿げた椅子取りゲームそのものを否定する。
彼女ならきっと、あの狐面の男が「無駄」と断定した「最後の1人になる以外の方法」を、ギリギリまで模索する。

ならば――白井黒子の取るべき道も、また同じ。
最後まで諦めず、この残酷なゲームを否定する道を探す。
御坂美琴と白井黒子では、持っている能力も才能も異なるから、全く同じというわけには行かないが。
殺し合いに積極的な者がいたら、『風紀委員(ジャッジメント)』の流儀で死なない程度に叩きのめし。
殺し合いの犠牲になりそうな者がいたら、『風紀委員(ジャッジメント)』の責務として保護する。
そして同時に、御坂美琴と白井黒子が手を取り合ってこの箱庭を脱出する方法を見つけ出す……!
どう考えても容易ならざる道だが、やるしかない。

「たった1人しか生き残れないなんて……そんな幻想、ブチ壊して差し上げますわ」

決意のための誓い。
自分で口にしながら、ふと何か引っ掛かりを覚えたが、まあいいやと軽く首を振る。
本音を言えば、何とかして御坂美琴と合流し、協力体制を取りたくはある。
あまり気は進まないが、御坂美琴が惚れているらしい「あの殿方」も助けにはなるだろう。
しかし、差し当たっては――

「差し当たっては、そう……貴方への対応をどうするか、ですわね」

白井黒子は軽く溜息をついて振り返る。
学園都市全体の治安に携わる『風紀委員(ジャッジメント)』なんて仕事をしていた関係で、身に覚えのある感覚。
敵意以上、殺意未満。やや困惑と怯えの色も混じった視線。
予知能力(ファービジョン)系の『能力』が無くとも分かる、その気配。独り言の途中から感じていた息遣い。
果たして、向き直ったその先には。

白い髪をした、小柄な幼い少女が、緑の瞳を見開いて、無表情に白井黒子を見つめていた。
……膝立ちの姿勢のまま、その肩にRPG-7を構えた格好で。




 ◇




RPG-7。
旧ソビエト連邦で開発された、個人携行用の対戦車榴弾発射装置だ。
乱暴な話、「戦車さえも倒せる威力の、巨大な単発グレネードランチャー」。
簡便な構造や使い勝手の良さから、広く長く世界で利用されていた代物だ。

もちろん、「外部とは2、30年は技術レベルが異なる」学園都市では見る機会のない、旧世紀の遺物。
白井黒子とて、類似の兵器を資料の上で見たことがあるだけだ。
しかし、それでも分かる。
こんなものをまともに喰らったら、まあ生きてはいられないだろう、ということくらいは。

「それでも、わたくしにとっては、大した脅威ではないのですけれど」
「…………」
「荒っぽい手段に訴える前に、一応聞いておきますわよ。
 その物騒なものを、下ろして頂けませんこと?」

幼い少女の僅かな動きも見逃さないよう注視しながら、白井黒子は警告を発する。
かく言う白井黒子も、左右の手にそれぞれ刃物を提げている。
妙な動きをすれば、すぐにでもそれらが「空間移動(テレポート)」で少女に襲い掛かる構えだ。
標的は少女の構える武器そのもの。
狙いは相手の武器破壊。
空間自体に割り込む転移攻撃なのだ。鉄だろうがコンクリートだろうが簡単に切り裂き突き刺すことが出来る。
ぶっちゃけてしまえば、転移させるのは刃物である必要すらないのだ。
標的の堅さを問わずに貫く、見てから避けたのでは絶対に間に合わない、必殺の攻撃――
しかし、それだけの攻撃力を持ってなお、白井黒子は少し躊躇った。

「うーん……でも、それだと暴発が怖いですわね」
「…………?」
「ここはいっそ、手っ取り早く済ませた方がいいですかしら。こんな風に」

逡巡は1秒。
次の瞬間、白井黒子の姿は掻き消える。
消失と同時に、驚いた様子で口をぽかんと開ける少女の、すぐ隣に出現。
少女の視線が転移した彼女を捕らえる前に、す、と手を伸ばしRPGに触れ……
次の瞬間には、少女の肩の上から重みが消失する。
がしゃん。
小さな音を立てて、離れた場所にRPGが落下。大した高さではなく、この程度なら暴発の心配もない。
ほんのまばたき2つほどの間に、完全な武装解除に成功する。

白井黒子の能力、『空間移動(テレポート)』。
転移させられる対象は、彼女の肌に触れている物体、あるいは彼女自身。
限界飛距離81.5メートル、限界重量130.7キログラム。
ただし精神状態の乱れによってその性能は大きく低下するのだが……
この程度の『敵』の無力化など、実に容易いものだった。
『能力』を理解していない様子の少女にも分かりやすいよう、ナイフを突きつけた上で降伏を勧告する。

「まだ、やられますか?」
「…………」
「なんのおつもりで、あんな物騒なモノを向けられたのか分かりませんが……」
「…………」
「貴方がまだ殺し合いに乗るというのなら、次は少し痛い目に会って頂くことに……」
「…………」
「……あの、わたくしの声、聞こえてます? 言葉、通じてますかしら? まさか……喋れない、とか?」
「…………わかる」
「…………」
「…………」

RPGを取り上げられ、その場にへたり込んだ格好のまま、しかし感情の読めない表情で見上げる少女。
白井黒子は、軽い頭痛を覚える。
言語が通じないわけではない。喋れないわけでも、聞こえていないわけでもない。
なのに少女は、いくら待っても口を開く様子がない……。

「これは、どうしたものですかしらね……」
「…………」
「誰か翻訳して下さる方はいらっしゃらないですかしら。
 わたくし、『読心能力(サイコメトリー)』の心得はないのですけど」
「…………」
「この子の考えそのものでなくても、代わりに会話して下さるだけでも助かるのですけれど」
「ならば私で良いのだろうか」
「誰でもいいですわ、このお地蔵さんみたいな子と喋ってるぐらいなら……って、え?」

反射的に言葉を返して、そして、白井黒子の思考は停止する。
驚きの原因は、2つ。
1つは、その声がさっき僅かに聞こえた少女の声ではありえない、妙に貫禄ある男の声だったこと。
もう1つは……その、声の放たれた源が。

「どうしたのかね。会話を望んだのはキミだったはずだ」
「い、いや、そうですけれど……え? 何? これ、腹話術か何かですの?」
「……ちがう。ねこ」
「その通り。私は猫だ。私が喋ることに何かおかしな点でもあるのかね。
 私にはキミが先ほど見せた不可思議な移動の方がよほど理解できないのだが」

白井黒子は今度こそ眩暈を感じ、額に手を当てた。
目の前の少女は無表情なまま、少し不思議そうな様子で彼女を見上げる。
そう……白い髪の少女に代わって発言した、朗々たるバリトンの声の主は。

少女の傍らに置かれたデイパック。
その口から半身を乗り出すように顔を出した、1匹の、三毛猫だった。




 ◇




白い髪の少女の名は、『ティー』。
喋る三毛猫(珍しいことにオスだった)は、『シャミセン』。
シャミセンの方は『参加者』ではなく、ティーの『支給品』という扱いらしい。
どちらもシャミセンに質問を浴びせかけ、ようやく引き出せた情報だった。

ちなみにティーはその間、無言でシャミセンを抱きかかえたまま、物欲しそうな視線でRPG-7を眺めていた。
それを白井黒子に向けて構えていたのも、敵意や殺意に拠るものではなかったらしい。
ただ純粋に「それが炸裂する様を見てみたい」というだけの、ある意味、酷く傍迷惑な好奇心であったらしい。
何とも危うい、ティーの感性。
白井黒子は本格的な頭痛がしてきたこめかみを押さえ、何度目かも分からぬ溜息をつく。

「それにしても……何で猫が喋ったりするんですの? 常識的に考えてありえませんでしょうっ!?」
「私には何故キミが自分の常識こそ絶対だと思えるのかが分からない。
 キミと接触する前、こちらの少女から聞いた話では、彼女も『言葉を喋る犬』と日常的に接していたという。
 変革を迫られるべきなのは私の存在ではなくキミの常識の方ではないのか?」

妙に観念的なことを言う猫だった。やけに良い声をしているのがさらに苛立ちを誘う。
一事が万事こんな感じで、饒舌ではあるのだが会話は脱線してばかりだ。
ティーは相変わらず無言を貫き、しかし、この状況では少女を放置もできない。
白井黒子の悩みは、どうにも尽きることがないようだ。

それにしても……と、白井黒子は思う。
シャミセンが今言ったことは、あながち外れていないのかもしれない、と。

一例を挙げれば、こうして「猫が喋っている」という状況。
白井黒子の知識で強引に説明するとすれば……
例えば『念話能力(テレパス)』系あたりの能力者なら、似た現象を再現できるかもしれない。
実際に喋っている能力者はどこか別の場所に居て、この三毛猫を能力発揮の『足場』にでもすれば……。

しかし、そうやって強引に説明をつけようとすること自体が、かなり危険なのかもしれないのだ。
あの狐面の男の説明を受けた、あの最初の状況。
あそこから今いる現在地まで「飛ばされた」方法は、『空間移動(テレポート)』ではない。
少なくとも白井黒子の知る限り、能力者の使う『空間移動(テレポート)』系能力ではない。
白井黒子の能力では、同系統の能力者を転移させることは出来ないのだ。
そして、逆もまたしかり。
つまりあれは――「能力のように見えて能力に拠らない現象」、としか言いようがない。
となれば、「能力以外に基づく不思議な現象」が起こりうる可能性を、頭の片隅にでも留めておく必要があるだろう。
そう、それこそ……人語を喋る猫、のような存在も。

「常識を疑え、ね……。
 なんで猫なんかの言葉に感心しそうになってるのか、自分でも分かりませんけれど。
 確かにこの場では、先入観は抜きにした方が良さそうですわね。でないと、咄嗟の判断を誤るかもしれません」
「キミが私の言葉から何を得ようと私の知ったことではない。
 それはキミの判断であって私の判断ではないのだから」
「戯言はもう結構ですわ。それより、これからのことですけれども」

無駄に喋り続けるシャミセンを無視して、白井黒子はティーに向き直る。
無口な彼女に発言を求めても無駄だということは、この短時間で既に身に染みて理解している。
なので、あえて言葉での発言は求めない。
発言せずに意思が伝えられるよう、名簿を広げてティーの方に向けてやる。

「どなたか、貴方の知り合いはいらっしゃいません? その『喋る犬』とかいうのとは別に」
「…………」

沈黙。そして少しの思案。
やがてティーの指が、名簿の上の1つの名を指して止まる。

「『シズ』さん、ですか。この方お1人ですわね?」
「…………」
「貴方にとって、大切な方なんですね?」
「…………」

迷子の子供に1つ1つ確認するかのように、白井黒子は問う。
ティーは無言のまま、微かに頷く。
そして、

「では……貴方はこの方のために、御自分の命を投げ出すつもりはおありですか?」
「…………」

ティーと向き合う前に考えていた懸念。誰かに奉仕するかのように殺し合いにのる可能性を問い。
少しだけ考え込んだ様子のティーは、これも小さく、微かに首を振った。
ようやく安堵の溜息をついて、白井黒子は緊張を解く。

「それでは……当面は、そのシズさんとの合流を目指すことにしましょう。
 『喋る犬』の方も、そこの小生意気な猫のように『支給品』になっているかもしれませんしね。
 とは言っても、アテもありませんから、しばらくは適当に動き回ることになりそうですけれど」
「…………」
「了解した。それで私はどうすれば良いのだろう」
「デイパックにでも入って大人しくして下さいませ。余計な口出しされると五月蝿いだけですわ」
「……まあ、よかろう」

横柄な言葉と共に、シャミセンは素直にティーのデイパックに納まった。言葉とは裏腹に、物分りはいいようだ。
続いてティーが落ちていたRPGを拾い、これもまたデイパックに収める。
白井黒子も少し眉を寄せるだけで、とりたてて咎めたりはしない。
この先何があるか分からないのだ。無闇に濫用されるのはマズいが、武器はあるに越したことはない。

「さて、まずは……見晴らしの良い所に行きましょうかしら。あの大きなビルなど、良さそうですわね」
「…………」
「では、行きますわよ」

そして白井黒子は、ティーと共に虚空に消えた。
2人まとめての連続転移で、地図上に『摩天楼』と記された一際大きなビルを目指し、「駆け出した」。
ティーを保護する。シズや喋る犬を探してやる。御坂美琴や上条当麻も探す。殺し合い以外の解決策も探す。
容易な道ではない。が、しかしだからこそ、後ろを振り返っている余裕などないのだ――。









――再び無人となった深夜のビジネス街に、遠いさざなみの音が響く。
壁面に刻まれた、2本の刃物の傷。
たったそれだけの痕跡をその場に残して去っていった白井黒子は……しかし、気づいているのだろうか?
自らが「保護」した、その少女の心の内を。
別にティーは白井黒子に嘘をついていたわけではない、偽っていたわけではない。ただ、彼女は、純粋に……。






【E-6/ビジネス街/一日目・深夜】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、不明支給品0~1、
[思考]
 基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
 1.当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
 2.可能ならば、御坂美琴か、(気は進まないが)上条当麻とも合流したい。
 3.とりあえず見晴らしの良い所(E-5の摩天楼)にでも行ってみる
[備考]:
 『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。

【ティー@キノの旅】
【状態】健康。RPG-7を使いたくて、うずうず。
【装備】RPG-7(1発装填済み)@現実
【道具】デイパック、RPG-7の弾頭×2、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱、不明支給品0~1
【思考】
 基本:??? (とにかく手榴弾やグレネードランチャーやRPG-7を使いたい?)
 1.RPG-7を使ってみたい。
 2.とにかくRPG-7を撃ってみたい。
 3.機会があったらすぐにでもRPG-7をブッ放してみたい。
 4.白井黒子に怒られるかもしれないがチャンスがあったらRPG-7を炸裂させてみたい。
 5.RPG-7でなくとも、手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 6.シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
[備考]:
 ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
 シャミセンは用事がない限りティーのデイパックの中で大人しくしているつもりのようです。


【グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ】
澄百合学園の一年生、西条玉藻が愛用する得物の1つ。
見るからに派手で凶悪なナイフ。

【地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖】
甲賀卍谷衆が1人、地虫十兵衛の愛用の得物。槍の穂先の部分。
手も足も無い地虫十兵衛はこれを己の食道に隠し、最後の切り札として口から発射する形で使っていた。

【RPG-7@現実】
旧ソ連が開発した歩兵携帯用の対戦車榴弾発射兵器。構造が簡単で世界的に広まった。
今回、予備の弾頭が2つセットで支給されている(合計3発撃てる)。

【シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱】
 キョンの家で飼われている元・野良猫。非常に珍しいオスの三毛猫。
 猫にしてはやけに大人しい性格で、人の言うことをよく聞く。三大欲求の中で睡眠欲が突出している。
 参戦時期は2巻目に当たる『涼宮ハルヒの溜息』の途中から。
 ハルヒの『力』の影響で、人の言葉を喋れるようになった模様。妙に観念的な発言をする。



投下順に読む
前:Parallel daze――(平衡幻覚)  次:魔女狩りの王
時系列順に詠む
前:女怪  次:魔女狩りの王


ティー 次:摩天楼狂笑曲
白井黒子 次:摩天楼狂笑曲
ウィキ募集バナー