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リアルかくれんぼ(後編)

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リアルかくれんぼ(後編) ◆ug.D6sVz5w

前編から



「……な? 冗、談だろ……」
「嘘……」
 上条とかなめ。
 穴のふちと底にいる両者の口から共に驚きの声が漏れた。
 放送の前置きそのものは、最初の北村との話し合いでの考察を裏付けるかなり重要な内容を含んではいたのだが、正直今の彼らにそんなことはどうでもいい。

――北村祐作

ほんの数時間前に別れた仲間の死が告げられたのだ。

「どういうこと!?」
「わかんねえ!」
 混乱の中、かなめと上条は互いに大声を張り上げる。

 先に多少なりとも落ち着いたのは、荒事の経験がかなめよりも多い上条の方だった。

 努めて冷静になって上条は考える。

 ――北村が死んだ。

 ――どこで?
 ――どうして?
 ――誰が殺した? 

「――千鳥!」
「何よ!」
「いいか、落ち着け。ひとまず俺の事は無視して、お前は先に温泉に向かってくれ。ただし、一人じゃ危険だ。だから多分、まだ温泉にはシャナ達がいるだろうからあいつらと合流しろ。 ……もしも、温泉に人の気配がないようだったら南、海の方に向かってくれ。」
「……あ、ひょっとしたら……」
上条の言葉にかなめは少しぶつぶつと何かを呟いた後で、怒鳴り返してくる。
「ってあんたはどうするのよ!? ここにもしも殺し合いに『乗った』のが来たら逃げ場所がないじゃない!」
「大丈夫だ!」
 上条は叫び返す。

 そう、上条だってむざむざ死ぬつもりはない。
 死地に留まりつづけるつもりもない。
 そう、どんな時でも諦めないのは上条の長所の一つ。

「千鳥、っと……ここらへんを照らしてみてくれ」
「何かあるの?」
 言われるがままに、かなめは上条が指差した場所に明かりを移す。そこには取り立てて変わったところはない。 
「……何もないじゃない?」
「いや……」
 そう言いながらそこに上条は両手を当て、強く押し込む――その前に。

 ばぎん、という上条にとっては慣れた手ごたえと同時に、そこを中心に人一人が身を屈めれば通れそうな穴があいた。

「やっぱりな」
 それを上条は得意そうに見た。

 そう、落ち着いて周りを見渡せば気がついた。
 上条が派手に降りた……もとい、落ちたせいで穴の中には埃が満ちていた。
 明かりの中でその埃をよく見れば、横の方から風が流れていることには簡単に気がつく。

 後は簡単だ。
 例えここの入り口と同様に「そこ」が隠されていようとも、風が通るぐらいに薄ければ少し力を加えたらどうにかなる。
 ……実際には薄いのは何らかの力で補強してあったからなのだが、そんな事実は上条の右手には関係ない。

「風が流れてるってことはここは外につながってるはずだ。俺もすぐに行くから頼む!」
「……わかった!」
 本音を言うなら、例え何回かの荒事に巻き込まれていようとも、かなめはただの普通な女子高生だ。こんな場所で一人で行動するのは少し不安があった。
しかし、上条は上に登ってこれそうにないし、逆にかなめが地下に降りようにも、この高さを無事に降りるだけの自信はない。
それに彼女も温泉で何があったのかは知りたくもある。
(うん、何かあったら逃げ出せば平気よね……)

そして彼女も決意を固めた。

「……当麻!」
「何だ?」
「最初会ったときから思っていたけど、あんたは運が悪いみたいだから用心しなさいよ」
 かなめの言葉に上条は小さく笑う。
「サンキュ、千鳥こそ安全第一。危ないと思ったらすぐに逃げろよ」
「わかってるって」
 かくして彼らの道は一旦は分かたれた。
 きっとお互いにすぐ合えることを信じて。


【E-1/教会地下/一日目・朝】

上条当麻@とある魔術の禁書目録】
【状態】:全身に打撲(行動には支障なし)
【装備】:無し
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品1~2)、吉井明久の答案用紙数枚@バカとテストと召喚獣
【思考・状況】
基本:このふざけた世界から全員で脱出する。殺しはしない。
1:この地下から脱出。その後温泉に向かう。
2:かなめや先に温泉に向かったシャナ達とも合流したい。
3:インデックスを最優先に御坂と黒子を探す。土御門とステイルは後回し。

【備考】
※地下道の先がどうなっているのかは次の書き手にお任せします。
※教会内には何らかの異能の力が働いているところがありました。


【E-1/一日目・朝】

千鳥かなめ@フルメタル・パニック!】
【状態】:健康
【装備】:とらドラの制服@とらドラ!、二十万ボルトスタンガン@バカとテストと召喚獣、小四郎の鎌@甲賀忍法帖
【道具】:デイパック、支給品一式(不明支給品×1)、陣代高校の制服@フルメタル・パニック!
【思考・状況】
基本:脱出を目指す。殺しはしない。
1:温泉に向かって情報を集める。
2:何かあったら南、海岸線近くで上条を待つ。
3:知り合いを探したい。
4:上条にはああ言ったが、少しだけシャナ達に対して疑念。
【備考】
※2巻~3巻から参戦。



【備考】
※マップ端からはみ出しても数秒間は大丈夫。それ以上は不明だがおそらくは消滅する。
※『幻想殺し』で壁は少しだけ壊せるが、壁はすぐに再生するために今のところは脱出することはできない。

以上の情報を上条当麻と千鳥かなめは知りました。



 ◇ ◇ ◇


「…………」

 六時間ごとに流れる放送。
 その最初の一回を興味なくガウルンは聞き流した。

 彼にとって興味がある人間は今のところ三人だけ。
 その内一人、この会場で出会ったガキは名前も知らない。
 しかし、興味を持つもう一人カシムこと相良宗介と同様、あいつがそうかんたんに殺されるはずがないから、ガウルンが殺すまで、あいつらが死ぬはずがないから気にするまでの事もない。
 故に放送で名が呼ばれることを気にしなくてはならない相手は一人きりだったのだが、その相手、千鳥かなめは放送前にその姿を発見した。

 ならばどうして放送を真面目に聞く必要があるだろう。

 だからこそ、放送の少し後千鳥かなめが教会から飛び出してきた瞬間にも、ガウルンは対応できた。

(何をやっているニンジャ!)
 咄嗟に動きを止めるために、彼に気がつかないで走っていくかなめに銃を向けたものの、彼女を気にせずこちらに向かってくる左衛門の姿に気が付き、銃を下ろす。

「どういうことだ?」
 彼から少し離れたところで動きを止めた左衛門にガウルンは問い掛ける。
「うむ……実はの」
 そうして彼は教会で様子をうかがって得た情報を語りだす。


「……成る程な。上出来だぜ、ニンジャ」

 教会で何か事故か何かがあって、あのかなめと同行していたガキは動きが取れない状況に陥ったこと。 

 温泉に奴らの仲間がいたこと。

 その仲間が今の放送で呼ばれたこと。

 かなめが先行して様子を見に行くことにしたこと。

 左衛門が伝えた以上の情報を吟味しながら、ガウルンは考えをまとめる。

「よし、じゃあ……」
 当初、ガウルンは彼が教会に残されたガキをいたぶりながら殺して、左衛門にかなめを確保させるつもりだった。

 しかしその指示を出そうとする直前に、ふと気がついたのだ。
 ひょっとしたらニンジャの奴は勘違いをしているかもしれないと。
 ガウルンにとってはかなめは、あくまでもメインデッシュであるカシムを苦しめて、絶望させるためのスパイス程度でしかない。
 しかしもしも、左衛門がかなめをガウルンにとっての重要な存在だと勘違いしていたらどうする?

 もちろんいざとなれば二人まとめて殺すつもりではあるが、そんなもったいないことをわざわざする必要はどこにもない。

「俺はかなめちゃんの後を追って、温泉に向かう。ニンジャ、お前は教会に残ったが気の方を始末しな」
「うむ、心得た」
「ああ、それとついでだ。あのガキの顔も奪ってこいや」
 あとはついでに口調のテストも済ませておく。
 会話を聞くついでにあのガキの声の方も覚えたことだろう。
 ニンジャが追いついたらかなめと会話をさせて、ぼろを出さないようなら上出来だ。

「なるべくはやくこいよ」
 そう言い捨てると、左衛門を残してガウルンは走り出した。

 相手の目的地が分かっているいる以上、先回りをすることは簡単だ。
 だが、温泉で殺しをやった奴がこちらに向かってこないとも限らない。そんな見知らぬ殺人者にせっかくの獲物をくれてやるつもりはガウルンにはカケラもない。

 ならば一番いいのはかなめの後を尾行することだ。

 ガウルンはつい先ほど走っていった少女の跡を追い始めた。  


【E-1/一日目・朝】


【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(小)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:温泉でかなめを補足しつつ、ニンジャが来るのを待つ。温泉にまだ殺人者がいるようならばそいつの相手も楽しむ。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。
3:それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
4:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
5:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心での行動はなるべく避けるようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。


 ◇ ◇ ◇


 肝心の仕掛け、隠し口そのものはものの数分程度で発見できた。
「ふむ……」
 だがしかし、せっかく見つけた入り口を前に、如月左衛門はそこに入ろうとはせずに顎に手をやり考え込む。
 彼が悩む理由は一つ。この先は一体どうなっているのかということである。
 せっかく見つけた隠し口ではあるが、戸棚の奥に隠されていたそこは光が差し込まず、忍びである彼の優れた視力をもってしてもその奥を見通すことは適わなかったのだ。

 うかつにここを降りていったその先には、あるいはあの若者が武器を構えて待っておるかも知れぬ。
 あるいは底に逆しまに立てられた無数の刃が犠牲者を待っているかも知れぬ。

 今やこの如月左衛門の命は彼一人のものではない。
 甲賀卍谷の里全ての者の未来と同じ。
 ましてやこの地での彼はどうにもふがいなきことばかりが続いている。疫病神か何かに取り憑かれたかと思えし現状、とてもではないが無謀な賭けに挑むつもりは彼にはない。

 だからといって、このままここを立ち去るわけにはいかないのもまた事実。
 あのにっくきガウルンめの指示はあの若者の殺害だけではない。あの若者を殺害したのちその顔を奪ってくることが彼への指示。
 それに背けばどうなるか……。
 主君、甲賀弦之介の生首をガウルンめに奪われている今はあ奴めの命令は如月左衛門にとっては絶対に守らなければならない。

「ええい、忌々しい!」
 いつまでもうつけのごとくこの場所を見張っておくわけにもいくまい。
 がうるんと、そして何よりも奴程度の男にまんまとしてやられた自分自身に悪態をつきながら、如月左衛門はひとまず入り口から離れると、教会内を探索することにした。
 灯りか何かが見つかれば、この中にも入っていける。

 ――そうして数分後。
「ないのう……」
 十字架がある広間、そしてこの部屋もくまなく調べつつ左衛門は落胆の溜息をついた。
 探索を開始してすぐに、数本のろうそくを発見して喜んだのもつかの間、この場には肝心の火種が無いのだ。これではせっかく見つけたろうそくもただのゴミと変わらない。
「…………」
 それでも諦めずに、黙々と探索を続ける左衛門ではあったが、その胸中はがうるんへの怒りが残る。
 そもそもがうるんめに奪われた彼自身の、そして弦之介の荷物があればこのような苦労は最初からしなくとも済んだのだ。
 ところがあの男は左衛門にこうした指示を出しておきながらも、返した道具は何一つない。
 もしもこの手にあのふらんべるじゅがあったのならば、あるいはあの闇の先に何が待ち構えていようとも恐れずに飛び込んでいけたかもしれない。

「……まったく無駄を…………む?」
 不意に如月左衛門の動きが止まる。
 確かに、聞こえた。

「――人の声?」
 聞こえてきたのは間違いなく人の声。おまけにその内容は……。
 わずかに逡巡した後、如月左衛門は声が聞こえた方へと向かうことにした。
 少なくともこの地で容易く己の居所を明かすようなものが危険であるとは思われない。

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
 距離はそれほど遠くない。
 そこにいる相手がどのような相手であろうとも、先ほどのような失態は二度と見せまい。そうした固い決意を胸に彼は慎重に街を駆けていった。



◇ ◇ ◇


「はぁ……はぁ……」
 温泉旅館を出てからしばらく、ただただ真っ直ぐ西に、走りつづけた櫛枝実乃梨の息はかなりあがってきていた。
 しかし彼女の足は止まらない。
 ソフトボールの練習と数多のバイトの経験によって鍛え上げられた彼女の根性はこの程度で音を上げてしまうほどやわではなかったし、それ以上に今の彼女に足を止める意思は一切、なかった。

(――いない)
 走りつづける彼女の目に見覚えのある光景が映る。
 そこはほんの少し前、シャナと秀吉とエルメスと、一緒になって訓練していた場所。

『ちょ、ちょちょっ、木下くんってば! ちゃんと後ろ支えててよ? 絶対離しちゃダメだかんね!?』
『無理じゃ! 自転車じゃあるまいし、支え切れるわけがなかろう!?』

 あの時からまだ何時間もたってはいないのに、それがもうずいぶんと過去のことのように思える。
 あの時はまだ、こんなことになるなんて想像さえしていなかった。また後であーみんや大河、高須君。みんなと元のように戻れるって信じていられたのに。
 そうして「彼ら」から貰った情報で、北村君もここに呼ばれたことに驚いて、けどすぐに会えるから、他のみんなとも同じように簡単に会えるはずだって、そうあの時は思えたのに。

 ――だけど今はどうだ?

 実乃梨の足は止まらない。
 あの場所はあっという間に後方へと流れて見えなくなった。

(やっぱりどこにも見当たらないじゃんかぁ!)
 あの時「彼ら」が調べに行くといっていた会場の端、黒い壁までは後わずか。
 もしも嘘をついていなければ、本当に北村の仲間だったというのなら、とっくに異変があったはずの温泉へと向かうはずの彼らとは出会っていなければおかしい筈だ。

 人がいい二人組みのようにあの時は見えた。
 けれどそれは本当に確かだったのか。
 北村君に会えるって思い上がったあまりに、何かを見逃していなかったのか。

 実乃梨の心の内でどんどん彼らを信じたいという気持ちが薄れていく。
 代わりに心の中に残るのは疑念。

 そうこうする内に、ついに実乃梨はこの世界の端にまでたどり着いた。

「はぁ…………はぁ…………」
 呼吸を整える間も惜しんで、周囲を見渡すが人影はどこにも無い。

「……っく!」
 実乃梨は大きく息を吸い込み叫ぶ。

「上条当麻ぁぁぁああ! 千鳥かなめぇぇぇぇええ! いるんだったら、出、てこぉぉおおいぃぃぃぃ!」

 ……おおいぃ

 ……いいぃ

 ……ぃ

 ただ彼女の叫び声だけがこだまする。
 周囲には、誰もいない。来る気配も無い。

 ……あるいはもう少し彼女が冷静であったなら、彼女達が別れた時間と距離の関係から、早期に調査を終わらせた彼らがどこか別の場所へと向かい、そのせいで出くわさなかったと思い至れたかもしれない。
 しかし、普通の学生である彼女にそのような冷静さを期待するのは酷というものだろう。

 だから結果として、彼女の疑惑は確信へと変わる。

「……許せない」
 怒りと共に彼女は呟く。
 北村君を殺したあの二人には絶対にそれ相応の報いを受けさせてやる。
 今は温泉に戻るだけの時間も惜しい、少なくともあの二人がこの近くから北の方へと向かったことは間違いないはずだ。
 だから彼女も北へと走り出し、すぐにこちらへと向かってくる人影を見止めて足を止めた。

「――誰、ですか?」
 今は状況が状況だけに誰もが疑わしく見える。
 とりあえず相手が声が聞こえる距離まで近付くのを待ってから、実乃梨は相手に声をかけた。
 返事が無いようならそのまま逃げよう、そんなことを考えたが、意に反して相手はそこで足を止める。

 中肉中背の特徴が無いのが特徴といった男だった。
 そのまま男は害の無い笑顔を浮かべると、実乃梨に話し掛けてきた。

「あ、いや済まぬ。わしの名は如月左衛門じゃ」
「あ、私は櫛枝実乃梨」
「……」
「……」
「何か用でもあるんじゃ?」
 しばしの沈黙の後に実乃梨の言葉に男は気恥ずかしげに頬を掻いてから聞いてきた。

「うむ、聞き違いならばすまんのじゃが、おぬし今かなめ、と叫んではおらんかったか?」
「!? 知ってるの?」
 思いもしなかった男の言葉に実乃梨は食いついた。

 その勢いに男はやや引いた態度を見せたものの
「うむ。それが千鳥かなめという女子ならばの。そうじゃな容姿は……」
 と頷いた。
 彼の語る千鳥かなめの風貌は間違いなく、彼女の知る千鳥かなめと同一人物だ。   

「本当!? 居場所とかは知ってるの?」
「まあ、待て。先にわしの問いにも答えてもらおう」
 さらに勢い込んで質問を重ねる実乃梨をやんわりと制止すると、一転して鋭い目つきで男は実乃梨をじろり、と見据える。
「わしが聞きたいのは一つ。おぬし一体あやつとどのような関係じゃ?」
「…………」
 左衛門の問いかけに、実乃梨は一瞬押し黙った。

 彼女とかなめの関係を正直に言った場合、もしも彼が実乃梨と同様に知り合いを傷つけられていたのなら、きっと同じ敵を持つもの同士、彼女の味方になってくれるだろう。
 だがもしも、かなめの味方だったのならば彼女の悪行を知る実乃梨の口をなんとしてでも封じようとしてくるはずだ。

 逆もまたしかり。
 関係が友好的なものだといってしまえば、正直に言ったときとはきっと逆の結末が待っている。   

「…………」
 悩んだ末に彼女は正直に答えることにした。 

「成る程のう」
 左衛門は彼女の言葉にうんうんと頷き、ふと思い出したようにいう。
「おお、そういえば先ほどの質問の答えじゃが……」

 ゴクリ、と実乃梨は唾を飲み込み、そしてそっとデイパックの中のバットの柄を握る。

「わしもそれは知らんのじゃ」

……

…………

………………。 

「……は?」
 実乃梨はあっけに取られたように呟いた。

「は? あのどういうことでしょうかい?」
「うむ、実はわしはそのかなめという女子とは直の知り合いではない」
「じゃあどうして?」
 当然の疑問を浮かべる実乃梨に向かって、左衛門は笑いかける。

「じつはの、わしと一時期行動しておったがうるんという男がそ奴を探しておったのじゃ。確か……大事な仲間とか言っておったのう」
「行動していた?」 
 しかしそういう彼は今一人きりだ。
 さっきと同様、周囲に他の人影は無い。 

「そう、奴はわしを裏切ったのじゃ」
 苦々しげに左衛門は言い捨てる。
 成る程と、驚くと共に実乃梨は納得もしていた。類は友を呼ぶという。そのがうるんという彼女の仲間も彼女同様に汚い奴だということだろう。
 そんな実乃梨に左衛門は話し掛ける。

「話は変わるが実乃梨とやら、わしに手を貸さんか? おぬしもあ奴の仲間には恨みを持っているようじゃ。
ご覧のとおりわしはあ奴に襲われた際、荷物を全て奪われてしもうた。このまま奴らに挑むのは少々心許ないのが本音。
頼む! 力を貸してくれ!」
「うわ、頭をあげておくんなせえ!」
 手をこすり合わせて、頭を下げる彼に慌てて実乃梨は駆け寄った。

「あたしだってあいつらには腹を立てているんだよ。左衛門さんだっけ? あんたが手を貸してくれるっていうんならむしろこっちこそ願ったり適ったり。共に力を合わせやしょう!」
「うむ、よろしく頼む」
 やや芝居がかった口調の実乃梨に苦笑を浮かべつつ、左衛門は顔をあげた。

 ――そして。



◇ ◇ ◇


 つかまえた


◇ ◇ ◇



――――――――――――――――――――ゴキッ。



◇ ◇ ◇


「好き好んで女子を殺したいわけではないのじゃがな……」
 沈痛な面持ちで櫛枝実乃梨だったものを見下ろしながらも、手は止めずに如月左衛門は、いや、櫛枝実乃梨の顔を奪った如月左衛門は呟いた。

 彼とて人の子だ。 
 何も好き好んで婦女子を、それも一見して争いごととは無関係に過ごしてきたような町人を殺すことに胸が痛まぬといえば嘘になる。
 だが。

「済まんな……わしの事ならば冥府にていかように恨んでくれても構わぬ。じゃが、甲賀の里の皆のためじゃ。祟るのはしばし待ってくれい」
 沈痛な表情とその言葉とは裏腹に左衛門の手は淀みなく動き、実乃梨の髪を奪ってかつらを作り、そして服を脱がしていく。

 ――数分後。
 そこにいたのはぱっと見には、逢坂大河川嶋亜美などのもともとの彼女の知り合いでさえ、区別がつかないほどそっくりに櫛枝実乃梨そっくりに化けた如月左衛門であった。

 新たに得た知識、「でいぱっく」に彼女の遺体を詰め込むと、素早く境界に移動。そしてそのまま死体をほうり捨て「境界葬」を済ませると、ようやく「彼女」はにんまりとした笑みを浮かべた。

 ようやく風は彼に向かって吹き始めた。
 がうるんめが知らぬこの女子の顔なれば、奴の油断を誘い、近付くことも容易であろう。
 なおかつこやつはあのかなめとやらの知り合い。
 万が一、己の忍術をあのがうるんに見破られようとも、奴の指示を破って、あの若者の顔を奪ってこなかったことに対しても言い訳は立つ。

 すなわち、今のこの状況。
 何がどう動こうとも、彼にとっては有利になりこそすれ、不利となることなどはありえない。

「……くっくっく」
 先ほどまでガウルンの側で浮かべていた作り笑いとは違う、久方ぶりの心からの笑みも借り物の顔ではちともの足りぬ。
 しかし、上手くいけばその我慢も後少しの辛抱だ。

 己の顔にて心からの笑みを浮かべられることを楽しみにしながらも、彼は油断なく温泉目掛けて走っていった。


【櫛枝実乃梨@とらドラ! 死亡】



【E-1/一日目・朝】

【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲 ガウルンに対して警戒、怒り、殺意 櫛枝実乃梨の容姿。
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック ×2、金属バット 、支給品一式(確認済みランダム支給品1個所持。武器ではない?)

[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:温泉に向かい、 気付かれないようならガウルンを襲う。
2:気付かれたなら適当にごまかして、再び機を覗いながらガウルンの指示に従う。
3:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
4:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
※千鳥かなめ、櫛枝実乃梨の声は確実に真似ることが可能です。また上条当麻の声、及びに知り合いに違和感をもたれないはなし方ができるかどうかは不明。
※櫛枝実乃梨の話から上条当麻、千鳥かなめが殺し合いに乗った参加者だと信じています。


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前:必要の話―What is necessary?― 次:国語――(酷誤)
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前:リリアとソウスケ〈そして二人は、〉 次:What a Beautiful Hopes

前:二輪車の乗り手 上条当麻 次:あぶなげな三重奏~trio~
前:二輪車の乗り手 千鳥かなめ 次:競ってられない三者鼎立?
前:化語(バケガタリ) ガウルン 次:競ってられない三者鼎立?
前:化語(バケガタリ) 如月左衛門 次:競ってられない三者鼎立?
前:FRAGILE ~さよなら月の廃墟~ 櫛枝実乃梨 死亡
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