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あの夏は終わらない

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あの夏は終わらない ◆hwBWaEuSDo



 宇宙人の仕業だ。

 きっとあの狐のお面を被った奴は宇宙人の手先かなんかなのだ。
 そして、地球人の中から優秀な人種を選別するためにこんなことを仕出かしたんだ。
 最後まで残ったら、あの男は恐らくヘリウムを飲んだ後みたいな声で「キミヲワレワレノナカマニシヨウ」とかなんとか言ってUFOで連れて行くに違いない。


 そんなこと、どうでも良かった。


 周りでは森がざわざわ、と揺れていてまるでひとつの生き物のようだ。
 深夜であることも相まってか、その場はとても不気味な様子をかもし出している。
 どうして自分がこんな所にいるのか見当も付かなかったが、それもどうでもいい。
 この現象が宇宙人の仕業だろうと、悪の秘密結社の野望だろうと、大魔術師召喚のための大いなる儀式だろうと何だって構わなかった。
 全てがどうでもいいのだ。

 そんな果てしない虚無を感じながらぼく――浅羽直之は絶望して、地面に膝をついた。

 思う。さっきまでぼくはあの島にいた。
 あの夏の終わらない南の島で、ぼくは伊里野に会っていた。
 そして、世界を犠牲にしてでも伊里野を助ける、そうぼくは宣言した。

(……なのに、伊里野は行ってしまったんだ)

 ぼくのせいだ、と深く後悔する。
 あの伊里野に対する告白。
 あんなことしなければ彼女は行かなかった。
 ぼくのことなんかを守りには行かなかった。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 感情を暴走させ、隣にあったデイパックを地面にたたき付ける。
 バシン、という音を立てながらデイパックが土の上に転がった。
 ぼくはただ泣き続ける。
 恥も外聞も無く、伊里野が行ってしまったことがただただ悲しくて、ひたすら泣き続けた。
 あの五月蝿さかった蝉の音が、今はとても恋しい。





  〇





 しばらく泣いていると大分落ち着いてきた。
 それでも周りが静かな為、ぼくのむせび泣く声が周りに響いた。

(……どうしようか?)

 はぁはぁと息を整えた後、ぼくは涙を流しながらもこれからのことについて考える。
 さっきの空間のことに対して、ぼくはぐちゃぐちゃになってしまった頭を頑張って働かせた。

(生き残れ、とか言っていたけど一体何をすればいいんだろう?)

 さっきのあのお面の男が言っていたことをよく聞かなかったのは痛かったと思う。
 とりあえずやることが無かったし、ぼくは先程地面に叩きつけたデイパックを拾いあげた。
 結構丈夫な造りになっているらしく多少汚れてはいたが、どこも破れてはいなかった。

(そういえば、これ何が入っているんだろう?
 お面の男がなんか言っていた気がするけど……)

 ぼくは何となく気になってデイパックを開けてみることにした。

「うわっ」
 最初に出て来たのは銃だった。
 あの島でぶっ放した物とは違う奴だったが、黒光りしていて、重く、紛れも無く本物の銃だということは分かった。
 マシンガンとかいう奴だろうか。

(こんなものを渡して生き残れって、つまり……殺し合えってこと?)

 殺し合い。
 ぼくはその言葉に恐怖を感じつつ、中から別に名簿と書かれた冊子を取り出す。
 そこである名前を見つけた時、ぼくは驚愕した。


 そう記されてあったのだ。
 何度も読み直したが間違いなくそこにはその名前が記されていた。
 同姓同名の別人だろうか、と思ったがそこで気付く。


(さっきまでぼくはあの島にいたんだ。
 それが今は何故か此処にいる。
 そんなことが出来るのなら、行ってしまった伊里野を呼び出すこともできるんじゃ
 ないか?
 もしそうなら……伊里野を行かせるのを阻止することができるんじゃ……)

 そう思った途端、ぼくの心臓が鼓動を早めた。
 伊里野を生きさせることができる。
 これは今のぼくにとって余りにも魅力的な言葉だった。

 ちら、とさっき取り出した銃に目をやる。
 あれがあれば人を殺すことが出来るだろう。
 あんな物を渡して生き残れということは、要するにあれで皆を殺せってことらしい。
 勿論ぼくはそんなことはしたくはない。

(でも、ぼくは……伊里野の為なら世界だって敵に回してみせる!
 ぼくは伊里野を生き残らせるんだ!
 あの夏を、UFOの夏を終わらせなんかしない!)

 ぼくは涙を拭って銃を持ち上げ動き出した。
 銃は先程より不思議と軽く感じる。
 夏用の制服が少しだけ寒かった。




【A-2/山の中/一日目・深夜】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:精神高揚。
[装備]: ミニミ軽機関銃@現実。
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品1~2個所持)。
[思考・状況]
 0:伊里野を生き残らせる。
 1:伊里野以外は殺す。
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。



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