霧中逃避行 ~Panic Hopper~ ◆ou3klRWvAg
みかはぼーっと湖面を見つめている。
「ベルフラウちゃん、遅いなぁ……」
夷腕坊の中はそんなに快適でもなく、じっと籠もっているのもなかなかに辛い。
なかなか帰ってこないベルフラウが気になって、みかは夷腕坊の口から外へと出て辺りの様子を窺う。
すると。
夷腕坊の中はそんなに快適でもなく、じっと籠もっているのもなかなかに辛い。
なかなか帰ってこないベルフラウが気になって、みかは夷腕坊の口から外へと出て辺りの様子を窺う。
すると。
「……え、何これ……」
思わずそんな声が出た。
奇妙な霧が、いつのまにか周囲を包んでいることに気づいたのだ。
奇妙な霧が、いつのまにか周囲を包んでいることに気づいたのだ。
湖だから霧も出やすいのかな? とそんなことを思いかけて、こちらに移動する前に見た霧を思い出す。
あの霧がこっちに流れてきたのだろうか?
……そういえば、この霧は怪しいってベルフラウちゃんと話したような……
あの霧がこっちに流れてきたのだろうか?
……そういえば、この霧は怪しいってベルフラウちゃんと話したような……
(ど、どうしよう?)
光化学スモッグとか、そういう毒のある霧ではないと思うが、文字通り五里霧中の状態でみかは途方に暮れる。
行ったまま戻ってこないベルフラウも心配だった。
こんな霧の中、はたしてちゃんとみかの元に戻ってこられるのだろうか?
光化学スモッグとか、そういう毒のある霧ではないと思うが、文字通り五里霧中の状態でみかは途方に暮れる。
行ったまま戻ってこないベルフラウも心配だった。
こんな霧の中、はたしてちゃんとみかの元に戻ってこられるのだろうか?
霧を見つめて惑っているみかの頭上で、唐突に腹の底に響くような強烈な爆発音が響いた。
「ひゃあっ!?」
熱を伴った紅い光が頭上を明るく照らし、みかは頭をかかえてうずくまった。
ガラスやコンクリートの破片が、周囲にばらばらと降り落ちる。
「な、なに!? 火事……?」
熱を伴った紅い光が頭上を明るく照らし、みかは頭をかかえてうずくまった。
ガラスやコンクリートの破片が、周囲にばらばらと降り落ちる。
「な、なに!? 火事……?」
逃げなきゃ、と思って一歩踏み出しかけて、みかは見た。
熱に焦がされて一瞬晴れた霧のあいまに、確かに見た。
熱に焦がされて一瞬晴れた霧のあいまに、確かに見た。
――――炎の勢いに押し出されるようにして空を舞った小さな何かが、
焼け焦げた欠片と煙を空中に散らしながら目の前で湖に落ちていくのを。
焼け焦げた欠片と煙を空中に散らしながら目の前で湖に落ちていくのを。
「え……!!?」
目の前で起こったことが信じられなかった。
尾のようにはためく金色の髪、真っ黒に焦げた半身、一瞬のそれが目に焼きついて離れない。
遠かったのと霧越しだったのとで、みかの目にはそれが人形だと気づかず、ふつうの小さな女の子に見えた。
金色の髪、ぼろぼろになってもわずかに色の残っている赤い服は、さっき出会ったばかりのベルフラウの姿に容易に結びつき、
「それが人間の女の子である」という誤認識をいっそう強化した。
みかは、動けない。
目の前で起こったことが信じられなかった。
尾のようにはためく金色の髪、真っ黒に焦げた半身、一瞬のそれが目に焼きついて離れない。
遠かったのと霧越しだったのとで、みかの目にはそれが人形だと気づかず、ふつうの小さな女の子に見えた。
金色の髪、ぼろぼろになってもわずかに色の残っている赤い服は、さっき出会ったばかりのベルフラウの姿に容易に結びつき、
「それが人間の女の子である」という誤認識をいっそう強化した。
みかは、動けない。
……いま、目の前で、人が死んだ?
怖いとか悲しいとかいやだとか、そういった感情すらすぐには沸かなかった。
みかは真っ白になって固まっていた。
しかし、そう呆然ともしていられない事態が次に起こった。
みかは真っ白になって固まっていた。
しかし、そう呆然ともしていられない事態が次に起こった。
「――――――!」
遠く誰かの声が響くと同時に、空気の質が変わった。
「……え……ぇ……?!」
セーターを脱ぐときのような感覚が、うなじや腕、背中にぞわっと走る。
帯電した空気に、みかのおかっぱ髪がぶわっと逆立つ。
「……え……ぇ……?!」
セーターを脱ぐときのような感覚が、うなじや腕、背中にぞわっと走る。
帯電した空気に、みかのおかっぱ髪がぶわっと逆立つ。
間をおかず、みかの視界が点滅し眩めいた。
閃光にくらんだ視力が回復しないうちに、特大の爆竹を焚いたような破裂音が水面を渡って爆ぜる。
みかの目の前に、威嚇するようにいかづちが鋭く落ちたのだ。
みかの目の前に、威嚇するようにいかづちが鋭く落ちたのだ。
「……あ……」
空は晴れている。間違っても自然のものではない。
空は晴れている。間違っても自然のものではない。
――ベルフラウは言っていた。
ここには、魔法みたいな力を使える人間や、危険な生き物がいると。
――そういう存在にみかが襲われる可能性も、あると。
ここには、魔法みたいな力を使える人間や、危険な生き物がいると。
――そういう存在にみかが襲われる可能性も、あると。
「…………あ…………」
みかの体が勝手に震えだしていた。
みかの体が勝手に震えだしていた。
――――気づかれたんだ。
――――気づかれたんだ!
みかの頭の中をパニックが吹き荒れ、その場で硬直する。膝から震えが全身にひろがり、とまらない。
みかにとって、魔法は未知そのものだった。未知は恐怖に直結していた。
知らないものが一番怖い。
みかは怯えた。思い込みが勝手に自分自身を脅迫する。
あの声の主の男の子が、きっと炎を使ってさっきの小さな女の子を殺したんだ。
で、こんどは自分の番なんだ。
さっきの雷はみかに気づいたぞ、見つけたぞ、っていう脅しの一発なんだ。
きっとこの後すぐに、さっきの物凄い炎が自分めがけてくるんだ。
みかにとって、魔法は未知そのものだった。未知は恐怖に直結していた。
知らないものが一番怖い。
みかは怯えた。思い込みが勝手に自分自身を脅迫する。
あの声の主の男の子が、きっと炎を使ってさっきの小さな女の子を殺したんだ。
で、こんどは自分の番なんだ。
さっきの雷はみかに気づいたぞ、見つけたぞ、っていう脅しの一発なんだ。
きっとこの後すぐに、さっきの物凄い炎が自分めがけてくるんだ。
みかは気づかない。
落雷は湖に落ちた少女人形への追撃で、みかを狙ったものではないことに。
魔法の使い手は、地面近くに濃く淀む霧に隠れたみかの姿に気づいてなどいなかったことに。
みかは気づかない。
だから、ただ、怖い。
だから、ただ――――死ぬのが、殺されるのが、怖い!
落雷は湖に落ちた少女人形への追撃で、みかを狙ったものではないことに。
魔法の使い手は、地面近くに濃く淀む霧に隠れたみかの姿に気づいてなどいなかったことに。
みかは気づかない。
だから、ただ、怖い。
だから、ただ――――死ぬのが、殺されるのが、怖い!
逃げなきゃ、という思いと怖い、という思いが心の中で真っ向ぶつかって、
早くここから離れなきゃと思うのに、みかの体は勝手に動いて夷腕坊の操縦席に這い戻っていた。
霧の中をやみくもに逃げるよりじっとしていたほうがいいとか、そんな打算は後付けで、
ただ安全な場所を求めての行動だった。
操縦者の身を守る編み籠のなかにうずくまり、みかは震える。
ここなら、外から攻撃されても大丈夫なはず。
早くここから離れなきゃと思うのに、みかの体は勝手に動いて夷腕坊の操縦席に這い戻っていた。
霧の中をやみくもに逃げるよりじっとしていたほうがいいとか、そんな打算は後付けで、
ただ安全な場所を求めての行動だった。
操縦者の身を守る編み籠のなかにうずくまり、みかは震える。
ここなら、外から攻撃されても大丈夫なはず。
……でも、このままじゃダメなんじゃない?
すぐに見つかってしまうんじゃない?
見つかって、ころ……
すぐに見つかってしまうんじゃない?
見つかって、ころ……
(……いやぁ……!!)
自分の考えに頭を激しく振り、狭苦しい編み籠の中でいっそう縮こまった。
数時間前のちょっと立派な覚悟など、本物の恐怖の前にどこかへいってしまった。
数時間前のちょっと立派な覚悟など、本物の恐怖の前にどこかへいってしまった。
逃げ出したかった。
でも怖かった。
安全な自分の家、自分の部屋、あったかい布団を思い出す。
家に帰りたい。
もうやだよ、こんなところやだよ……!
でも怖かった。
安全な自分の家、自分の部屋、あったかい布団を思い出す。
家に帰りたい。
もうやだよ、こんなところやだよ……!
何をどう考えてどうやったのか、みかもよくわからなかった。
ただ、間近に迫ると思われる恐怖に、死の予感を前に、みかの「死にたくない」「安全なところへ行きたい」という
強い意思の集中に、エスパーぼうしは機械らしい正確さで、勝手に応えてくれた。
ただ、間近に迫ると思われる恐怖に、死の予感を前に、みかの「死にたくない」「安全なところへ行きたい」という
強い意思の集中に、エスパーぼうしは機械らしい正確さで、勝手に応えてくれた。
視界がぶれる。
ひずむ。
体が浮く。
ひずむ。
体が浮く。
発動したのは、さっき使ったばかりの「テレポーテーション」。
みかの思いはひとつ。
死にたくない。
どこでもいい、魔法の炎や雷から逃れられるところ。安全なところへ――――!
みかの思いはひとつ。
死にたくない。
どこでもいい、魔法の炎や雷から逃れられるところ。安全なところへ――――!
全身が軽くなり、つめたくなり、感覚が瞬間的に消失し――ふいにすべてが元通りになる。
空間転移は唐突に始まり、唐突に終わった。
空間転移は唐突に始まり、唐突に終わった。
…………。
……。
夷腕坊の半開きになったままの口から入ってくるのだろうか。
頬にやさしいそよ風を感じる。
頬にやさしいそよ風を感じる。
ここはどこだろう――――。
外に出て様子を確かめなくちゃ――と思うが、体が動かない。
慣れないエスパーぼうしの連続使用で、みかの精神的疲労は限界に達していた。
ただ、殺し合いの場にあるという緊張が、かろうじてみかの意識をつなぎとめている。
しかし、その緊張の糸も、極大の疲労という重い錘に引っ張られてみるみるちぎれそうになる。
「…………ぅ……ん、」
みかは、今にも閉じそうになる目で周囲を見た。
そこは分厚い肉色の護謨(ゴム(表皮に守られた薄暗い夷腕坊の操縦席。
その、繭のような閉じた空間に安堵を覚える。
慣れないエスパーぼうしの連続使用で、みかの精神的疲労は限界に達していた。
ただ、殺し合いの場にあるという緊張が、かろうじてみかの意識をつなぎとめている。
しかし、その緊張の糸も、極大の疲労という重い錘に引っ張られてみるみるちぎれそうになる。
「…………ぅ……ん、」
みかは、今にも閉じそうになる目で周囲を見た。
そこは分厚い肉色の護謨(ゴム(表皮に守られた薄暗い夷腕坊の操縦席。
その、繭のような閉じた空間に安堵を覚える。
ああ、ここならきっと安全なはず。
ここがどこだって、この中にいれば、きっと安全だよね。
なんだか外がうるさい気がするけど、ここなら、きっと大丈夫だよね……。
ここがどこだって、この中にいれば、きっと安全だよね。
なんだか外がうるさい気がするけど、ここなら、きっと大丈夫だよね……。
ベルフラウのことを意識の端にのぼらせる間もなく、みかの意識はそこで途切れた。
【?-?(位置不明)/1日目/昼】
【鈴木みか@せんせいのお時間】
[状態]:極度の精神疲労による昏倒中
[装備]:参號夷腕坊@るろうに剣心、エスパーぼうし@ドラえもん、FNブローニングM1910
[外見]:夷腕坊の操縦席の中にすっぽり収まっている
(ので、外見からでは一見して中に人がいるとは分からない)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]………… …………
1:ものすごく疲れたので、このまま休む
2:怖い。人殺しが起こっているという事実を受け止めたくない
3:ベルフラウのことが心配
基本:殺し合いはしたくないが、どうしたらいいのか具体的には考えてない
※みかは、ベルフラウの説明によりここが「リィンバウム」だと思っています。
※リィンバウムについての簡単な知識を、ベルフラウから得ました。
同時に、ベルフラウの考察を教えてもらっています。
[状態]:極度の精神疲労による昏倒中
[装備]:参號夷腕坊@るろうに剣心、エスパーぼうし@ドラえもん、FNブローニングM1910
[外見]:夷腕坊の操縦席の中にすっぽり収まっている
(ので、外見からでは一見して中に人がいるとは分からない)
[道具]:支給品一式
[思考・状況]………… …………
1:ものすごく疲れたので、このまま休む
2:怖い。人殺しが起こっているという事実を受け止めたくない
3:ベルフラウのことが心配
基本:殺し合いはしたくないが、どうしたらいいのか具体的には考えてない
※みかは、ベルフラウの説明によりここが「リィンバウム」だと思っています。
※リィンバウムについての簡単な知識を、ベルフラウから得ました。
同時に、ベルフラウの考察を教えてもらっています。
※みかのテレポート先は、次の書き手のかたにお任せします。
ただ、葵のテレポート同様制限もあって、あまり遠くには行けません。
せいぜいMAP南東エリア内のどこかだと思われます。
ただ、葵のテレポート同様制限もあって、あまり遠くには行けません。
せいぜいMAP南東エリア内のどこかだと思われます。
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