水中追跡行 ~Little Seeker~ ◆ou3klRWvAg
水中をだいぶ進み、大きな橋の半ばまで来たところで、ベルフラウは橋脚にしがみついて息継ぎをする。
すでに頭上の橋は静まり返っている。誰の気配も無い。
すでに頭上の橋は静まり返っている。誰の気配も無い。
(――さっきのはぐれは、もう行ったみたいですわね……)
少し前に湖の真ん中あたりで顔を出して息継ぎがてら橋の上の様子を窺ってみた時にはもう、
橋の上には拡声器を使っていたと思しき人間はいなかった。
いや、正確には、「人間はいなかった」。
橋の上には拡声器を使っていたと思しき人間はいなかった。
いや、正確には、「人間はいなかった」。
ベルフラウが見たのは、少年の身体に鋼鉄の蜘蛛足を生やした、不気味なはぐれ召喚獣が
向こうへと駆け去ってゆく姿。
おそらく、あのはぐれは拡声器の騒音を聞いて寄ってきたのであろう。
(やっぱり、みかさんを行かせなくて正解でしたわ)
自業自得とはいえ、拡声器を使った少年の安否が多少は心配だったが、
少なからず疲弊したこの状態でわざわざ確かめにいくのは自殺行為と思われた。
向こうへと駆け去ってゆく姿。
おそらく、あのはぐれは拡声器の騒音を聞いて寄ってきたのであろう。
(やっぱり、みかさんを行かせなくて正解でしたわ)
自業自得とはいえ、拡声器を使った少年の安否が多少は心配だったが、
少なからず疲弊したこの状態でわざわざ確かめにいくのは自殺行為と思われた。
ともかくも、これで確認は済んだ。
(あまりみかさんを待たせてもいけませんし……さっさと戻りましょう)
ベルフラウは大きく深呼吸し、再び潜水しようとして……
(あまりみかさんを待たせてもいけませんし……さっさと戻りましょう)
ベルフラウは大きく深呼吸し、再び潜水しようとして……
――ざぱっ、と遠くで水音がした。
「……!」
全体的に白っぽい印象の、変な格好の女の子が橋脚ふたつぶん離れた場所に浮かび上がってくる。
慌てて橋脚の陰に身をひそめ、息を殺して様子を窺う。
(……女の子? 宙に浮かんでるってことは、サプレスの精霊か何かかしら?)
「……!」
全体的に白っぽい印象の、変な格好の女の子が橋脚ふたつぶん離れた場所に浮かび上がってくる。
慌てて橋脚の陰に身をひそめ、息を殺して様子を窺う。
(……女の子? 宙に浮かんでるってことは、サプレスの精霊か何かかしら?)
陰に身を隠したまま、接触してみるべきか否か、ベルフラウは迷う。
(……どうしようかしら?)
仲間は欲しい。しかし……。
(……どうしようかしら?)
仲間は欲しい。しかし……。
先程の、少年に襲われた恐怖が蘇る。
もし、あの子が、あのタマネギ頭と同じような人間で、平気で殺しあおうとする人間だったら――――……。
もし、あの子が、あのタマネギ頭と同じような人間で、平気で殺しあおうとする人間だったら――――……。
「…………」
結局、ベルフラウは白い少女を見送った。
(……危ないことは、避けるって約束しちゃいましたものね)
みかとの約束を免罪符に、ベルフラウは少女との接触のチャンスを自ら捨てた。
幸い、向こう側は空中に居る。深く潜って巨大な橋桁の影を縫うように移動すれば、
ベルフラウには気づかないはずだ。
(……危ないことは、避けるって約束しちゃいましたものね)
みかとの約束を免罪符に、ベルフラウは少女との接触のチャンスを自ら捨てた。
幸い、向こう側は空中に居る。深く潜って巨大な橋桁の影を縫うように移動すれば、
ベルフラウには気づかないはずだ。
少女に注意しながら、ふたたび潜水しようとして――ベルフラウは視界の端に光を感じる。
「……?」
反射的に顔を上げる。
見えたのは、みかの待っている廃墟側の岸とは逆側の岸の森から立ちのぼる、翠色の光――――
見慣れたその光に、ベルフラウの目は釘付けになった。
「……?」
反射的に顔を上げる。
見えたのは、みかの待っている廃墟側の岸とは逆側の岸の森から立ちのぼる、翠色の光――――
見慣れたその光に、ベルフラウの目は釘付けになった。
(……召喚術!!)
だれが召喚術を使ったのだろうか?
帝国では召喚術の扱いは軍人に限られている。
はぐれ召喚師や無色の派閥ということも考えられるが、この場にいるのは子供ばかりだし……。
みかのようなはぐれ召喚獣が、誓約済みのサモナイト石を拾いでもして、気まぐれに使ったのだろうか?
それとも…………。
帝国では召喚術の扱いは軍人に限られている。
はぐれ召喚師や無色の派閥ということも考えられるが、この場にいるのは子供ばかりだし……。
みかのようなはぐれ召喚獣が、誓約済みのサモナイト石を拾いでもして、気まぐれに使ったのだろうか?
それとも…………。
(……まさか……もしかして……)
名簿にあった、ひとつの名前が脳裏をよぎる。
――――”レックス”。
彼女の家庭教師の赤毛の青年と同じ名が、名簿の最後のほうにぽつねんと混じっていたのだ。
しかし、最初に集められた場所に、先生の姿は見当たらなかったはずだ。
あんな子供ばかりの場所に大人がひとりだけ混じっていればすぐわかるだろうから、
見落としたということも考えられない。
一番ありそうなのは、単なる同名の子供である可能性。
名簿にあった、ひとつの名前が脳裏をよぎる。
――――”レックス”。
彼女の家庭教師の赤毛の青年と同じ名が、名簿の最後のほうにぽつねんと混じっていたのだ。
しかし、最初に集められた場所に、先生の姿は見当たらなかったはずだ。
あんな子供ばかりの場所に大人がひとりだけ混じっていればすぐわかるだろうから、
見落としたということも考えられない。
一番ありそうなのは、単なる同名の子供である可能性。
でも。
不安にゆらぐベルフラウの心は、手近な希望にすがりついてしまう。
……もしかしたら、先生もここにいるのかも。
……さっきのあの召喚術を使ったのは、先生なのかも。
だとしたら……急いで追えば、もしかしたら、先生に会えるかもしれない。
先生に会えたら、きっとなんとかなるかもしれない。
そんな希望が、ベルフラウを鼓舞する。
不安にゆらぐベルフラウの心は、手近な希望にすがりついてしまう。
……もしかしたら、先生もここにいるのかも。
……さっきのあの召喚術を使ったのは、先生なのかも。
だとしたら……急いで追えば、もしかしたら、先生に会えるかもしれない。
先生に会えたら、きっとなんとかなるかもしれない。
そんな希望が、ベルフラウを鼓舞する。
待たせているみかのことも、目撃した白い少女のことも、先生に会えるかもしれないという
希望の前にすべて吹っ飛んだ。
ベルフラウは残り少ない魔力を集中し、潜水球を再び生成して水中に潜る。
希望の前にすべて吹っ飛んだ。
ベルフラウは残り少ない魔力を集中し、潜水球を再び生成して水中に潜る。
(――――先生……!!)
「――――ぷはっ!」
F-5の木橋の下で水から這い上がり、橋板の裏の影へと身を寄せてベルフラウは息をついた。
先生かもしれない召喚術の使い手を確かめようと夢中になりすぎて、
あやうく魔力を使い切って溺れてしまうところだった。
F-5の木橋の下で水から這い上がり、橋板の裏の影へと身を寄せてベルフラウは息をついた。
先生かもしれない召喚術の使い手を確かめようと夢中になりすぎて、
あやうく魔力を使い切って溺れてしまうところだった。
水を含んで重たくなった髪と服の裾を絞って水気を切る。
靴を脱いで逆さにすると、ぼしゃっと水がこぼれだした。
軽くなった靴を履きなおし、ベルフラウはため息。
靴を脱いで逆さにすると、ぼしゃっと水がこぼれだした。
軽くなった靴を履きなおし、ベルフラウはため息。
途中、慣れない種類の魔法を無理をおしつつ使い続けていたせいか、維持に何度か失敗しかけて
潜水球内浸水の憂き目にあった末の結果がこれである。
白いタイツは濡れそぼって素肌の色が薄桃に透け、それなりに高価な生地の真紅のワンピースも
哀れぐしょ濡れで台無しである。麗しい金髪も水を含んでぺったんこ。
お嬢様らしからぬ、哀れもあられもない姿をさらしたまま、ベルフラウは
ぐったりと橋の陰にうずくまっていた。
潜水球内浸水の憂き目にあった末の結果がこれである。
白いタイツは濡れそぼって素肌の色が薄桃に透け、それなりに高価な生地の真紅のワンピースも
哀れぐしょ濡れで台無しである。麗しい金髪も水を含んでぺったんこ。
お嬢様らしからぬ、哀れもあられもない姿をさらしたまま、ベルフラウは
ぐったりと橋の陰にうずくまっていた。
(何をやっているんですの、私は……。
こんなところで、じっとしている場合じゃないのに……。
先生がすぐそこにいるかもしれないのに……)
こんなところで、じっとしている場合じゃないのに……。
先生がすぐそこにいるかもしれないのに……)
重い体を引きずるようにして起き上がろうとした時、川原の土手の斜面の上、
ベルフラウの頭上を軽いフットワークで駆けてゆく異装の少女が目に映った。
少し離れていても分かる、その頭に生えた獣耳。
ベルフラウの頭上を軽いフットワークで駆けてゆく異装の少女が目に映った。
少し離れていても分かる、その頭に生えた獣耳。
(メイトルパの……獣人? もしかして……)
さっきの召喚術は――――この子だったのかしら。
そう思ったとたん、体からどっと力が抜けた。
先生じゃなかったという失望と、徒労の虚無感が気力を蝕みそうになる。
そこを、なんとか奮い立たせる。
どっちにせよ、召喚術士を探していたのには変わりないのだ。
だったら、あの子と接触して情報を得るか、仲間として連れ帰るくらいはしたほうがいい。
単なる無駄足を踏んでしょぼくれ帰るのは、ベルフラウのプライドが許さなかった。
そう思ったとたん、体からどっと力が抜けた。
先生じゃなかったという失望と、徒労の虚無感が気力を蝕みそうになる。
そこを、なんとか奮い立たせる。
どっちにせよ、召喚術士を探していたのには変わりないのだ。
だったら、あの子と接触して情報を得るか、仲間として連れ帰るくらいはしたほうがいい。
単なる無駄足を踏んでしょぼくれ帰るのは、ベルフラウのプライドが許さなかった。
(せっかく追いかけたんですものっ……手ぶらで帰るわけにはいきませんわ!)
もはや意地である。
ベルフラウは滴のしたたる金髪を絞り、立ち上がろうとするが――。
ベルフラウは滴のしたたる金髪を絞り、立ち上がろうとするが――。
「……っう」
酸欠と魔力の過量消費のダブルパンチで、頭がくらくらしうまく立ち上がれない。
(無茶、しすぎたかしら……)
もし今、さっきのように誰かに襲われたら、まともな立ち回りさえできそうにない。
そんな状態でメイトルパの少女を追うのは、危険かもしれない。
酸欠と魔力の過量消費のダブルパンチで、頭がくらくらしうまく立ち上がれない。
(無茶、しすぎたかしら……)
もし今、さっきのように誰かに襲われたら、まともな立ち回りさえできそうにない。
そんな状態でメイトルパの少女を追うのは、危険かもしれない。
……無理せず、みかの元に戻ろうか?
そんな考えも浮かぶ。
そんな考えも浮かぶ。
(でも……!)
召喚術使いのメイトルパの少女も気になる。
みすみす接触のチャンスを逃していいのだろうか?
しかし、命の安全あってこそ、ではないのか?
でも、なにもできずに戻っていいのだろうか?
召喚術使いのメイトルパの少女も気になる。
みすみす接触のチャンスを逃していいのだろうか?
しかし、命の安全あってこそ、ではないのか?
でも、なにもできずに戻っていいのだろうか?
二律背反に、ベルフラウの心は迷い揺れる。
【F-5/西岸側の橋下/午前】
【ベルフラウ=マルティーニ@サモンナイト3】
[状態]:体力消耗中程度
カード使用による中~大程度の精神的疲労(MP残量1/3以下)
膝に擦り傷、全身びしょ濡れ
[装備]:クロウカード『水』
[道具]:支給品一式、クロウカード『火』『地』『風』、不明支給品0~2個(ベルフラウは確認済)
[思考・状況]
1A:召喚術の主(アルルゥ)を確認し、情報を得る。できれば仲間にしたい
1B:みか先生との約束を守り、危ないことはなるべく避ける(保身を優先)
2:1Aと1B、どちらをとるか悩んでいる。
3:みかの安否が心配。できれば早く戻り、合流したい
4:仲間を探し、脱出・対主催の方策を練る。
5:殺し合いには乗らない。
基本:先生のもとに帰りたい。
※ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。
※ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています。
(実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません)
[状態]:体力消耗中程度
カード使用による中~大程度の精神的疲労(MP残量1/3以下)
膝に擦り傷、全身びしょ濡れ
[装備]:クロウカード『水』
[道具]:支給品一式、クロウカード『火』『地』『風』、不明支給品0~2個(ベルフラウは確認済)
[思考・状況]
1A:召喚術の主(アルルゥ)を確認し、情報を得る。できれば仲間にしたい
1B:みか先生との約束を守り、危ないことはなるべく避ける(保身を優先)
2:1Aと1B、どちらをとるか悩んでいる。
3:みかの安否が心配。できれば早く戻り、合流したい
4:仲間を探し、脱出・対主催の方策を練る。
5:殺し合いには乗らない。
基本:先生のもとに帰りたい。
※ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。
※ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています。
(実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません)
【クロウカード(地・水・火・風)】
クロウカードの中でも上位に位置する四大元素のカード。
破壊力は魔力消費量に比例する。ただ、原作より燃費はかなり悪くなっている。
ファイヤーボールやヒャダルコなどの魔法と違って効果が固定されておらず、
「元素そのもの」を操れるのが最大の特徴であり、ゆえに柔軟な発想による使途が本領。
具体例としては、以下のような使い方など。(原作中の使用例)
『風』:相手を拘束して動きを封じる
『水』:空気を閉じ込めた球状バリアを周囲に張って潜水する
クロウカードの中でも上位に位置する四大元素のカード。
破壊力は魔力消費量に比例する。ただ、原作より燃費はかなり悪くなっている。
ファイヤーボールやヒャダルコなどの魔法と違って効果が固定されておらず、
「元素そのもの」を操れるのが最大の特徴であり、ゆえに柔軟な発想による使途が本領。
具体例としては、以下のような使い方など。(原作中の使用例)
『風』:相手を拘束して動きを封じる
『水』:空気を閉じ込めた球状バリアを周囲に張って潜水する
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