カナリアの啼く頃に ◆JZARTt62K2
私――ローゼンメイデン第二ドール、金糸雀は自分の幸運を信じられずにいた。
遁走劇の最中に闖入者が現れたことは、殺される寸前だった自分にとってとてつもないラッキーだ。
このラッキーを使わない手はない。禍転じて福と成す、というやつである。
……どう転んでも結果的には福ではないけれど、最悪の展開だけは防がなければ。
遁走劇の最中に闖入者が現れたことは、殺される寸前だった自分にとってとてつもないラッキーだ。
このラッキーを使わない手はない。禍転じて福と成す、というやつである。
……どう転んでも結果的には福ではないけれど、最悪の展開だけは防がなければ。
(ここが策士の腕の見せ所……薔薇乙女一の頭脳、見せてあげるのかしら!)
目を見開き、視線を巡らして状況分析を開始する。
細かな情報収集と綿密な計画の立案は、策士の基本だ。
鉛弾とともに現れた色黒人間の右手には鉄の銃身。銃撃の余韻か、硝煙の臭いが鼻を突く。
自分をグリルにしようとしたメガネ人間は無手。拳法のような構えを取っている。
雷使いであるメガネ人間の体勢は、おそらく雷撃を放ちやすいものなのだろう。殺る気満々だ。
銃使いの色黒人間も銃を油断なく構えている。瞳は殺気に満ちており、こちらも殺る気満々。
殺し合いを始めるのは明白であり、どちらかが命を落とす展開も大いに有り得る。
この状況で、一体自分はどう行動すべきだろうか?
普通に考えれば、銃使いと協力して、自分を殺そうとした雷使いを倒すところだ。
そう、“普通に考えれば”。
一流の策士は普通には考えない。裏を読むのだ。
細かな情報収集と綿密な計画の立案は、策士の基本だ。
鉛弾とともに現れた色黒人間の右手には鉄の銃身。銃撃の余韻か、硝煙の臭いが鼻を突く。
自分をグリルにしようとしたメガネ人間は無手。拳法のような構えを取っている。
雷使いであるメガネ人間の体勢は、おそらく雷撃を放ちやすいものなのだろう。殺る気満々だ。
銃使いの色黒人間も銃を油断なく構えている。瞳は殺気に満ちており、こちらも殺る気満々。
殺し合いを始めるのは明白であり、どちらかが命を落とす展開も大いに有り得る。
この状況で、一体自分はどう行動すべきだろうか?
普通に考えれば、銃使いと協力して、自分を殺そうとした雷使いを倒すところだ。
そう、“普通に考えれば”。
一流の策士は普通には考えない。裏を読むのだ。
(敵の敵が味方とは限らないのかしら)
自分は乱入者のことを全く知らない。
平和主義者か、殺人者か、賢者か、狂人か、天使か、悪魔か、全然知らない。
彼女が乱入してくれたおかげで自分は助かったけれど、それはあくまで結果論。
協力して敵を倒し「チームワークの勝利かしら!」と言った途端に、パートナーからズガン! となったらギャグにしかならない。
訂正、笑い話にもならない。
『ご褒美システム』がある限り、いや、一人しか生き残れないこのゲームで、信頼できる相手などいない。
ならばどうする? 簡単だ、共倒れを待てばいい。
勝ちそうになったほうを密かに邪魔し、負けそうになったほうをこっそりと手助けして、両者の疲弊を待つ。
そして、どちらかが勝ち残った瞬間、油揚げを掻っ攫えばいいのだ。
平和主義者か、殺人者か、賢者か、狂人か、天使か、悪魔か、全然知らない。
彼女が乱入してくれたおかげで自分は助かったけれど、それはあくまで結果論。
協力して敵を倒し「チームワークの勝利かしら!」と言った途端に、パートナーからズガン! となったらギャグにしかならない。
訂正、笑い話にもならない。
『ご褒美システム』がある限り、いや、一人しか生き残れないこのゲームで、信頼できる相手などいない。
ならばどうする? 簡単だ、共倒れを待てばいい。
勝ちそうになったほうを密かに邪魔し、負けそうになったほうをこっそりと手助けして、両者の疲弊を待つ。
そして、どちらかが勝ち残った瞬間、油揚げを掻っ攫えばいいのだ。
(ふっふっふ、魚人のリーさんってやつかしら! 楽してズルして、おいしいところはいただきかしら!)
正しくは漁夫の利。
そんなことを考えながら、金糸雀は顔を背けてニヤリと笑う。
そんなことを考えながら、金糸雀は顔を背けてニヤリと笑う。
激闘を予感させる緊張の中、3人の間で、一瞬時間が止まった。
そしてそれは、本当に一瞬だけだった。
「え」
金糸雀が視線を戻したとき、雷使いは確かにそこにいた。
乱入してきた銃使いから6mほど離れた位置で、よくわからない構えを取っていた。
それが、消えた。
靄のように、幻のように、消え失せた。
ただ、爆散する土だけを残して。
乱入してきた銃使いから6mほど離れた位置で、よくわからない構えを取っていた。
それが、消えた。
靄のように、幻のように、消え失せた。
ただ、爆散する土だけを残して。
「風華崩拳ッ!」
風の唸り声とともに、有り得ない場所から雷使いの声が聞こえた。
自分の耳がイカレていなければ、声が聞こえたのは“銃使いがいたはずの場所”。
視界の端に映っているのは、6m離れた位置にいたはずの雷使いが、暴風を纏った拳撃を繰り出している姿。
突然目の前に現れた相手に虚を突かれたのか、ろくにガードもできないまま銃使いが吹き飛ばされる。
空中に放り出されながらも武器を手放さないのは流石といったところだが、そんなことは殆ど慰めにならない。
なぜなら、危機は全く去っていないからだ。
銃使いの身体には風のロープが巻きついており、両手の動きを封じていた。
手首くらいは動かせそうだが、両手を使ったガードなどはできそうにない。
更に、雷使いが宙に浮く銃使いを追撃し、トドメを刺そうと拳に紫電を纏わせる。
この拳がクリティカルヒットすれば、数秒後にでもこんがりバーベキュー(人間大)が出来上がるだろう。
だが、状況をようやく理解したらしい銃使いも、不安定な体勢ながら反撃を開始。
連続して放たれた銃弾は雷使いの頬を掠め、銃使いに僅かばかりの猶予を与える。
命を繋ぎ止めた銃使いが、髪の毛を数本灼かれながらも地面を踏み締め、牽制の銃を構えようとして――驚愕に目を見開いた。
それはそうだろう。雷使いが、存在するべき場所にいなかったのだから。
そして、存在してはいけないところにいたのだから。
達人級の歩法で懐に潜り込んでいた雷使いが、両腕の龍を解き放つ。
自分の耳がイカレていなければ、声が聞こえたのは“銃使いがいたはずの場所”。
視界の端に映っているのは、6m離れた位置にいたはずの雷使いが、暴風を纏った拳撃を繰り出している姿。
突然目の前に現れた相手に虚を突かれたのか、ろくにガードもできないまま銃使いが吹き飛ばされる。
空中に放り出されながらも武器を手放さないのは流石といったところだが、そんなことは殆ど慰めにならない。
なぜなら、危機は全く去っていないからだ。
銃使いの身体には風のロープが巻きついており、両手の動きを封じていた。
手首くらいは動かせそうだが、両手を使ったガードなどはできそうにない。
更に、雷使いが宙に浮く銃使いを追撃し、トドメを刺そうと拳に紫電を纏わせる。
この拳がクリティカルヒットすれば、数秒後にでもこんがりバーベキュー(人間大)が出来上がるだろう。
だが、状況をようやく理解したらしい銃使いも、不安定な体勢ながら反撃を開始。
連続して放たれた銃弾は雷使いの頬を掠め、銃使いに僅かばかりの猶予を与える。
命を繋ぎ止めた銃使いが、髪の毛を数本灼かれながらも地面を踏み締め、牽制の銃を構えようとして――驚愕に目を見開いた。
それはそうだろう。雷使いが、存在するべき場所にいなかったのだから。
そして、存在してはいけないところにいたのだから。
達人級の歩法で懐に潜り込んでいた雷使いが、両腕の龍を解き放つ。
「内撞掌ッ!」
轟音がまず一回響き、重なるようして耳に届いた二回目の振動波が鼓膜を震わせた。
一回目は銃使いが“発射”された音で、二回目は背後の木に“命中”した音。
雷使いの掌の先で、大木に叩き付けられた銃使いがずるずると崩れ落ちる。
完璧に全く何にも見えなかったが、吹き飛ばされて全身を強打したであろうということは、なんとか理解できた。
頭を垂れ、足を投げ出した銃使いの身体は、とても立ち上がれるようには見えない。
一回目は銃使いが“発射”された音で、二回目は背後の木に“命中”した音。
雷使いの掌の先で、大木に叩き付けられた銃使いがずるずると崩れ落ちる。
完璧に全く何にも見えなかったが、吹き飛ばされて全身を強打したであろうということは、なんとか理解できた。
頭を垂れ、足を投げ出した銃使いの身体は、とても立ち上がれるようには見えない。
(って、瞬ッ殺ッなのかしらーッ!?)
決着まで、わずか数秒。
視点を固定する間もなく終了した攻防劇に、唖然とするしかない。
予定外にも程がある。予想外にも程がある。化物にも程がある。
こんな達人相手に邪魔もヘチマもない。それ以前に、手を出す暇すらない。
頭の中が真っ白になっている間にも状況は進み、焦りを加速させるのに十分な言葉が聞こえてくる。
視点を固定する間もなく終了した攻防劇に、唖然とするしかない。
予定外にも程がある。予想外にも程がある。化物にも程がある。
こんな達人相手に邪魔もヘチマもない。それ以前に、手を出す暇すらない。
頭の中が真っ白になっている間にも状況は進み、焦りを加速させるのに十分な言葉が聞こえてくる。
「すみません……今、楽にします。恨むなとは言いませんし、正義を気取るつもりもありません。
でも、僕がやらなきゃいけないんです。人を殺そうとしてしまった僕が、リリスさんを止めなければいけないんです。
僕が、やらなきゃ……僕が、僕が、背負わなければいけないんです……」
でも、僕がやらなきゃいけないんです。人を殺そうとしてしまった僕が、リリスさんを止めなければいけないんです。
僕が、やらなきゃ……僕が、僕が、背負わなければいけないんです……」
雷使いが、ぐったりとしている銃使いにゆっくりと近づき始めた。
ぶつぶつと物騒な言葉を呟きながら、確実にトドメを刺せるよう距離を詰めていく。
ぶつぶつと物騒な言葉を呟きながら、確実にトドメを刺せるよう距離を詰めていく。
(明らかに正気じゃないのかしらっ! 強盗に包丁とはまさにこのことなのかしらっ!
ま、まずいのかしら、このままだとカナもあいつに……)
ま、まずいのかしら、このままだとカナもあいつに……)
もしかしたら復活するかもしれないと期待を込めてみても、銃使いは起き上がらない。
ただ、完全に気を失っているわけではないらしく、左手が微かに動いている。
揺れる腕の延長線上にナイフがあることから、気絶したフリをしながら地面に落ちた武器を拾おうとしているだろう。
なんて意味がない行為。今更ナイフ一本で戦局が変わるはずがないのに。
今はまだ気づかれていないようだが、雷使いが不意討ちに対応できない保障はない。
まして、倒れ込んでいる体勢からの不意討ちなど、失敗する確率のほうがはるかに高い。
そんな行為は、みっともない悪あがき。どうせ結果は変わらない。
ただ、完全に気を失っているわけではないらしく、左手が微かに動いている。
揺れる腕の延長線上にナイフがあることから、気絶したフリをしながら地面に落ちた武器を拾おうとしているだろう。
なんて意味がない行為。今更ナイフ一本で戦局が変わるはずがないのに。
今はまだ気づかれていないようだが、雷使いが不意討ちに対応できない保障はない。
まして、倒れ込んでいる体勢からの不意討ちなど、失敗する確率のほうがはるかに高い。
そんな行為は、みっともない悪あがき。どうせ結果は変わらない。
銃使いがやられたら、次は自分の番だ。
瞬間移動ができる達人相手に逃げ切れるとは思えない。
少しでも動いたら音で気付かれてしまうし、逃げようとしている獲物を見逃すほどあの人間は慈悲深くないだろう。
撃退できるかどうかなんて考えるまでもない。
愛用のバイオリンがあったとしても勝率が五分を下回るであろう相手に素手で挑むなど、それこそただの蛮勇だ。
瞬間移動ができる達人相手に逃げ切れるとは思えない。
少しでも動いたら音で気付かれてしまうし、逃げようとしている獲物を見逃すほどあの人間は慈悲深くないだろう。
撃退できるかどうかなんて考えるまでもない。
愛用のバイオリンがあったとしても勝率が五分を下回るであろう相手に素手で挑むなど、それこそただの蛮勇だ。
(ああ、早く音を立てずに逃げる策を、ピ、ピチカート、なんでこんなときに限っていないのかしらー!)
いくら気持ちを落ち着けようと思っても、昂ぶる鼓動は抑えられずパニック寸前。
頭の中にいくつもの逃走作戦が浮かび上がっては『不可能』の烙印を押されて消えていく。
もはや、何をしても駄目なのか。自分は最初から助からないシナリオだったのか。
もはや一欠片の策も出せなくなったことに虚無的な怒りを覚えながらも、呆然とするしかない。
これから目の前で起こることは、嫌でも想像できる。そして、次は自分だということも。
これにて終局。ローゼンメイデン第二ドール、金糸雀はここで脱落する。
頭の中にいくつもの逃走作戦が浮かび上がっては『不可能』の烙印を押されて消えていく。
もはや、何をしても駄目なのか。自分は最初から助からないシナリオだったのか。
もはや一欠片の策も出せなくなったことに虚無的な怒りを覚えながらも、呆然とするしかない。
これから目の前で起こることは、嫌でも想像できる。そして、次は自分だということも。
これにて終局。ローゼンメイデン第二ドール、金糸雀はここで脱落する。
(……なんて、冗談じゃないのかしら!!)
――嫌だ。こんなところで死ぬわけにはいかない。
銃使いの人間が最後まで足掻いているのに、ローゼンメイデンである自分が諦めてどうする。
死ぬ覚悟を決めるぐらいなら、最後までみっともなく足掻いて見せよう。
このくらいの修羅場など、生きていればいくらでも出会う。
何度も何度も死にかけて、何度も何度も絶望して、それでも、諦めない。
諦めたら、そこで終わり。生存の権利を自ら放棄するようなやつに、生きる資格はない。
生きることは、戦いなのだから。
銃使いの人間が最後まで足掻いているのに、ローゼンメイデンである自分が諦めてどうする。
死ぬ覚悟を決めるぐらいなら、最後までみっともなく足掻いて見せよう。
このくらいの修羅場など、生きていればいくらでも出会う。
何度も何度も死にかけて、何度も何度も絶望して、それでも、諦めない。
諦めたら、そこで終わり。生存の権利を自ら放棄するようなやつに、生きる資格はない。
生きることは、戦いなのだから。
覚悟(開き直りとも言う)を決めたら、後は早かった。
唯一の武器であるコチョコチョ手袋を装着して、敵を見据える。
雷使いは銃使いの2mほど前でなにやら逡巡しているところだったが、大きく息をひとつ吐くと、呪文を唱えるために口を開いた。
無意識に息を吸い込むであろうひとつの動作、その一瞬に狙いを定める。
そして“くすぐる”。
5m離れた位置から、できるだけ多くの神経に触れるように。
土のベッドに横たわる銃使いに向かって、皮肉と哀れみに満ちた哂いをぶつけながら。
唯一の武器であるコチョコチョ手袋を装着して、敵を見据える。
雷使いは銃使いの2mほど前でなにやら逡巡しているところだったが、大きく息をひとつ吐くと、呪文を唱えるために口を開いた。
無意識に息を吸い込むであろうひとつの動作、その一瞬に狙いを定める。
そして“くすぐる”。
5m離れた位置から、できるだけ多くの神経に触れるように。
土のベッドに横たわる銃使いに向かって、皮肉と哀れみに満ちた哂いをぶつけながら。
(威勢良く乱入してくれたのはありがたいけど、どうせならくんくんみたいに格好よく決めてほしかったのかしら……。
もう、仕方がないのかしら。あなたがやられたらカナもやられちゃうし、手助けしてあげるのかしら!)
もう、仕方がないのかしら。あなたがやられたらカナもやられちゃうし、手助けしてあげるのかしら!)
作戦は最初に決めていたものをそのまま使った。そう、『負けそうになったほうをこっそりと手助け』するのだ。
敵を不意討つのが難しいなら、その敵に隙を作ってあげればいい。
一瞬でも隙が出来れば、それだけ襲い掛かりやすくなるに違いない。
そうすれば、少しは銃使いに有利になり“一瞬で勝負が決まることは防げる”。
乱戦になれば、雷使いはそれだけ戦闘に集中しなければならなくなるだろう。
自然と、周囲への警戒は怠らざるを得ない。
つまり、その間に逃げれば追跡されることは防げるというわけだ。
一瞬で倒された人間に過度の期待はしない。怪我の一つでも負わせてくれれば上等だ。
敵を不意討つのが難しいなら、その敵に隙を作ってあげればいい。
一瞬でも隙が出来れば、それだけ襲い掛かりやすくなるに違いない。
そうすれば、少しは銃使いに有利になり“一瞬で勝負が決まることは防げる”。
乱戦になれば、雷使いはそれだけ戦闘に集中しなければならなくなるだろう。
自然と、周囲への警戒は怠らざるを得ない。
つまり、その間に逃げれば追跡されることは防げるというわけだ。
一瞬で倒された人間に過度の期待はしない。怪我の一つでも負わせてくれれば上等だ。
「ひゃあっ!?」
コチョコチョ手袋の効果は絶大だった。
極度に緊張していた雷使いは、身体をくすぐられる突然の感触に、肺の中の空気を全て吐き出す。
奇襲するには最高の隙。一発逆転を狙う人間がここで仕掛けないわけがない。
わけがないのだが――
極度に緊張していた雷使いは、身体をくすぐられる突然の感触に、肺の中の空気を全て吐き出す。
奇襲するには最高の隙。一発逆転を狙う人間がここで仕掛けないわけがない。
わけがないのだが――
(さあっ、今……かし……ら……?)
その絶好の機会に、銃使いは動かなかった。
指一本、髪の毛一本動かさなかった。
ただ、片方だけ開けた目でこちらを見つめていた。
コチョコチョ手袋を使った自分を、薄く引き絞った目で見つめていた。
盤上の駒を見るような、打算に満ちた冷たい目で、見つめていた。
指一本、髪の毛一本動かさなかった。
ただ、片方だけ開けた目でこちらを見つめていた。
コチョコチョ手袋を使った自分を、薄く引き絞った目で見つめていた。
盤上の駒を見るような、打算に満ちた冷たい目で、見つめていた。
(ちょっ……まさか、まさかアナタ――)
心の中で叫び声を上げるが、どうにもならない。
そんな自分に構わず、無慈悲にも雷使いがこちらを向く。
『気絶している』銃使いから目を離し、『奇妙な手袋を構えている』自分に、薄く光る拳を向ける。
それは、くすぐられた直後よりも酷い致命的な隙。銃使いの左手が流れるように動き出す。
そんな自分に構わず、無慈悲にも雷使いがこちらを向く。
『気絶している』銃使いから目を離し、『奇妙な手袋を構えている』自分に、薄く光る拳を向ける。
それは、くすぐられた直後よりも酷い致命的な隙。銃使いの左手が流れるように動き出す。
「ま、待つのかし」
「『魔法の射手・光の1矢』ッ!」
「『魔法の射手・光の1矢』ッ!」
願いは聞き届けられず、殺意の光が目の前に迫る。
視界が白く染まる直前、ばね仕掛けの人形のように跳ね上がる銃使いが、視界の端に映った。
地面に落ちていたナイフを掬い上げ、ファーストアクションで雷使いに投げつける。
直後、衝撃と閃光に包まれた私に、そのナイフが雷使いに命中したかどうかはわからない。
視界が白く染まる直前、ばね仕掛けの人形のように跳ね上がる銃使いが、視界の端に映った。
地面に落ちていたナイフを掬い上げ、ファーストアクションで雷使いに投げつける。
直後、衝撃と閃光に包まれた私に、そのナイフが雷使いに命中したかどうかはわからない。
(あいつ、私を捨て駒にしやがったのかしら――)
こうして私は、戦いに負けた。
※ ※ ※
「まだ、動けたんですか!?」
「悪、いけど、結構丈夫に、できて、んのよ、私は!」
「悪、いけど、結構丈夫に、できて、んのよ、私は!」
焦りを押し隠すように地面を強く蹴り、相手との距離を取る。
同時に、避け切れなかったナイフを右足から引き抜いた。
吹き出る血を押さえながら、歯を食いしばる。自分の迂闊さと愚鈍さを呪うしかない。
別の目標に気を取られて本来の目標から反撃を受けるなど、師匠に知られたら懲罰ものだ。
相手が気絶したフリをしていたとか、横合いから未知の遠隔攻撃を受けたことなど言い訳にならない。
それにしてもこの銃使い、やはり一般人ではないらしい。
中段に当てた打撃は、常人なら間違いなく悶絶する威力だったのに。
同時に、避け切れなかったナイフを右足から引き抜いた。
吹き出る血を押さえながら、歯を食いしばる。自分の迂闊さと愚鈍さを呪うしかない。
別の目標に気を取られて本来の目標から反撃を受けるなど、師匠に知られたら懲罰ものだ。
相手が気絶したフリをしていたとか、横合いから未知の遠隔攻撃を受けたことなど言い訳にならない。
それにしてもこの銃使い、やはり一般人ではないらしい。
中段に当てた打撃は、常人なら間違いなく悶絶する威力だったのに。
「なら、今度こ……っ!?」
即座に反撃の構えを取ろうとした瞬間、強烈な立ち眩みに襲われた。
ろくに休息も取らずに連続して魔法を使った代償として、魔力が少なくなってきたのだ。
魔力を使うということは、精神力を削るということ。
午前に使った魔法は、『風精召喚 戦の乙女17柱』『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』『桜華槍衝 太公釣魚勢』
『雷の斧(ディオス・テュコス)』『風花 武装解除(フランス・エクセルマティオー)』『魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾・雷の11矢』の6つ。
学校に来てからも『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を何回か使っているし、瞬動術や拳法の一部も魔力を使わなければできないものだ。
それに対して、休息した時間は1時間にも満たなかった。魔力は気休め程度にしか回復していない。
本来ならこの程度でヘバることはないのだが、この島では魔力が制限されているらしく、もはや立っているのも辛い状態だ。
ろくに休息も取らずに連続して魔法を使った代償として、魔力が少なくなってきたのだ。
魔力を使うということは、精神力を削るということ。
午前に使った魔法は、『風精召喚 戦の乙女17柱』『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』『桜華槍衝 太公釣魚勢』
『雷の斧(ディオス・テュコス)』『風花 武装解除(フランス・エクセルマティオー)』『魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾・雷の11矢』の6つ。
学校に来てからも『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を何回か使っているし、瞬動術や拳法の一部も魔力を使わなければできないものだ。
それに対して、休息した時間は1時間にも満たなかった。魔力は気休め程度にしか回復していない。
本来ならこの程度でヘバることはないのだが、この島では魔力が制限されているらしく、もはや立っているのも辛い状態だ。
(……せめて、この人を倒すまでは!)
だが、ここで倒れるわけにはいかない。
学校では、コナンくんや小狼くんが危ない目にあっているかもしれないのだ。
それに、もしここで自分が負けたのなら、リリスさんを止める人がいなくなってしまう。
僕がやらなければいけないんだ。
いつかのように、自分の力で道を切り拓くしかない。
それなのに、どうしてこの身体は思い通りに動いてくれないんだ――
学校では、コナンくんや小狼くんが危ない目にあっているかもしれないのだ。
それに、もしここで自分が負けたのなら、リリスさんを止める人がいなくなってしまう。
僕がやらなければいけないんだ。
いつかのように、自分の力で道を切り拓くしかない。
それなのに、どうしてこの身体は思い通りに動いてくれないんだ――
『どうしました? ネギ先生』
ふと、声が聞こえた気がした。
『まるでダメです』
懐かしい、どこかで聞いた誰かの言葉。
失望したかのような声で、幻聴は静かに問いかける。
失望したかのような声で、幻聴は静かに問いかける。
『――なぜ、今ダメなのかわかりますか?』
わからない。ダメなのかどうかすら、わからない。
『あなたの心がとらわれているからです』
心が、とらわれている。
コナンくんたちの所へ帰ることに、リリスさんを止めることに、そして、人を殺しかけてしまったことに。
そうなのだろうか。
僕の心は、未来のことに、過去のことに、とらわれているのだろうか。
コナンくんたちの所へ帰ることに、リリスさんを止めることに、そして、人を殺しかけてしまったことに。
そうなのだろうか。
僕の心は、未来のことに、過去のことに、とらわれているのだろうか。
『この試合勝たねばと思い』
そうだ、僕は勝たなければいけない。
汚れてしまった僕は、全てを背負って勝たなくてはならない。
汚れてしまった僕は、全てを背負って勝たなくてはならない。
『そう思うほど手は動かず、足は出ない』
……その、とおりだ。
普段なら、こんな失敗はしない。
こんな、自暴自棄になって身を滅ぼすことなどしない。
ずっと先のことばかり考えていて、今を見ていなかった。
普段なら、こんな失敗はしない。
こんな、自暴自棄になって身を滅ぼすことなどしない。
ずっと先のことばかり考えていて、今を見ていなかった。
『忘れないでください』
僕は、一体何をやっていたんだろう。
後先考えず、一人で突っ走って、あげく、無様に失敗した。
ただ、思い込みの使命感に突き動かされて、無駄に命を捨てるところだった。
自分のことしか考えず、小太郎くんのことを、師匠のことを、
そして、元の世界で待っていてくれるであろうみんなのことを考えていなかった。
本当に、情けない。
後先考えず、一人で突っ走って、あげく、無様に失敗した。
ただ、思い込みの使命感に突き動かされて、無駄に命を捨てるところだった。
自分のことしか考えず、小太郎くんのことを、師匠のことを、
そして、元の世界で待っていてくれるであろうみんなのことを考えていなかった。
本当に、情けない。
『みんなのことを――』
幻聴が止んだときには、頭の中が驚くほどスッキリとしていた。
魔力がないことには変わりはないが、不思議と負ける気がしない。
魔力がないことには変わりはないが、不思議と負ける気がしない。
「……行きます」
右拳を突き出し、地面を踏み締めて構えを取る。
もう大丈夫だ。油断をすることも、焦燥に駆られることも、不覚を取るつもりもない。
ただ、目の前の戦いに集中す……る……?
もう大丈夫だ。油断をすることも、焦燥に駆られることも、不覚を取るつもりもない。
ただ、目の前の戦いに集中す……る……?
「あ……れ……?」
「やっと、効いてきたみたいね」
「やっと、効いてきたみたいね」
急に視界がゆらぎ、手足の感覚が鈍くなった。
慌ててバランスを取ろうとするが、地面の感覚を掴み損ねてしまう。
まるで自分の身体ではないみたいだ。崩れた姿勢を立て直すこともできない。
グルリと風景が回転し、叩き付けるような衝撃が全身を襲う。
土を噛みながらも顔を上げようとするが、首すら自由に動かせない。
起き上がろうともがく僕に、銃使いの声が降りかかる。
慌ててバランスを取ろうとするが、地面の感覚を掴み損ねてしまう。
まるで自分の身体ではないみたいだ。崩れた姿勢を立て直すこともできない。
グルリと風景が回転し、叩き付けるような衝撃が全身を襲う。
土を噛みながらも顔を上げようとするが、首すら自由に動かせない。
起き上がろうともがく僕に、銃使いの声が降りかかる。
「このナイフ……思ったより強力じゃない」
ナイフだって? 一体何を……。
……まさ……か……毒!?
妙な形状のナイフだとは思ったけど、そんな仕掛けがしてあったなんて!
だから、ナイフを投げた後に畳み掛けてこなかったのか。彼女にとっては、ナイフを当てることができればそれで良かったんだ。
なんて失敗だ。あのナイフは絶対に避けなければいけないものだった。
それなのに、致命的な一撃を食らってしまった。もはや指一本動かせそうにない。
足音がだんだんと近づいてくるが、いくら頑張っても身体は全く動いてくれない。
僕はバカだ。一瞬の油断が死を招くことなんて、魔法使いの戦いでは常識だったじゃないか。
せめて、もう少し早く自分を見つめ直しておくべきだったのだ。そうすれば、こんな事態は避けられたはずだ。
でも、遅い。もう、遅すぎる。
このまま、殺されてしまうのか。何もできず、誰も助けられないまま……。
……まさ……か……毒!?
妙な形状のナイフだとは思ったけど、そんな仕掛けがしてあったなんて!
だから、ナイフを投げた後に畳み掛けてこなかったのか。彼女にとっては、ナイフを当てることができればそれで良かったんだ。
なんて失敗だ。あのナイフは絶対に避けなければいけないものだった。
それなのに、致命的な一撃を食らってしまった。もはや指一本動かせそうにない。
足音がだんだんと近づいてくるが、いくら頑張っても身体は全く動いてくれない。
僕はバカだ。一瞬の油断が死を招くことなんて、魔法使いの戦いでは常識だったじゃないか。
せめて、もう少し早く自分を見つめ直しておくべきだったのだ。そうすれば、こんな事態は避けられたはずだ。
でも、遅い。もう、遅すぎる。
このまま、殺されてしまうのか。何もできず、誰も助けられないまま……。
『ネギーーーーッ! このバカネギ!!』
ああ、また幻聴が聞こえる。
ごめんなさい、アスナさん。僕はやっぱりバカで――
ごめんなさい、アスナさん。僕はやっぱりバカで――
『何やってんのよ、立ちなさいよーーーーっ!!』
…………。
『ネ……ネギ先生、しっかりーーーーっ』
『ネギ坊主ーーーーッ、まだイケルアル!』
『ネギ先生!!』
『ネギ坊主ーーーーッ、まだイケルアル!』
『ネギ先生!!』
……そう、だ。
こんなところで、死ぬわけにはいかない。
さっき決意したばかりなのに、ここで死んでしまったらなんの意味もない……!
こんなところで、死ぬわけにはいかない。
さっき決意したばかりなのに、ここで死んでしまったらなんの意味もない……!
「ぐっ……あああああっ!!」
最後の気力を振り絞って顔を上げる。
そして、無詠唱の魔法を放とうとして、
そして、無詠唱の魔法を放とうとして、
黒く、虚ろな銃口を見た。
――それが、最期に見た光景となった。
※ ※ ※
硝煙と血と脳漿の臭いが鼻をつく。
臭いの出所は、つい今しがた肉の塊に変えた少年。
メガネごと右目を打ち抜かれ、紅い涙を流している。
臭いの出所は、つい今しがた肉の塊に変えた少年。
メガネごと右目を打ち抜かれ、紅い涙を流している。
「……恨むなとは言わないし、正義を気取るつもりもない。私はただ、死にたくないだけ」
意味のない言葉を呟きながら、小さな頭をゆっくりと踏みつけた。
目的は首輪の回収。
うまく使えば交渉道具になるかもしれないし、脱出の手掛かりになる可能性だってある。
ナイフを傷めるのは嫌なので、素手で毟り取ることにした。
もう片方の足で身体を押さえ込み、銀色に輝く首輪を握り締める。
目的は首輪の回収。
うまく使えば交渉道具になるかもしれないし、脱出の手掛かりになる可能性だってある。
ナイフを傷めるのは嫌なので、素手で毟り取ることにした。
もう片方の足で身体を押さえ込み、銀色に輝く首輪を握り締める。
「ふっ!」
気合を入れて腕を引くと、ボキリと鉄柵を引き抜いたような音が出た。
引き千切られた子供の首が地面に転がり、首輪に引っ掛かった脊柱がズルリと零れ落ちる。
首輪を無理矢理引き剥がされた身体は、血を数回吐き出した後、完全に動かなくなった。
手にかかってしまった血糊を少年の服で拭いながら、溜息を吐く。とても疲れた。
引き千切られた子供の首が地面に転がり、首輪に引っ掛かった脊柱がズルリと零れ落ちる。
首輪を無理矢理引き剥がされた身体は、血を数回吐き出した後、完全に動かなくなった。
手にかかってしまった血糊を少年の服で拭いながら、溜息を吐く。とても疲れた。
「それにしても強かった……ピノッキオ以上じゃない……」
未だに軋む身体を押さえながら、改めて戦慄を覚える。
空間を縮めたとしか思えない歩法に、強烈な打撃。オマケに魔法まで使えるなんて反則だ。
この身体が義体化していなかったら、おそらく最初の一撃で戦闘不能になっていただろう(まあ、これは意味がない仮定だが)。
そんな実力を持った少年も、今や物言わぬ骸と化している。たった、一発の銃弾によって。
血に濡れた首輪を見ると、【Negi=Springfield】と刻印されているのが目に入った。
もはや、呼ばれることのない名前。
思い出の中でしか、語られることのない名前。
空間を縮めたとしか思えない歩法に、強烈な打撃。オマケに魔法まで使えるなんて反則だ。
この身体が義体化していなかったら、おそらく最初の一撃で戦闘不能になっていただろう(まあ、これは意味がない仮定だが)。
そんな実力を持った少年も、今や物言わぬ骸と化している。たった、一発の銃弾によって。
血に濡れた首輪を見ると、【Negi=Springfield】と刻印されているのが目に入った。
もはや、呼ばれることのない名前。
思い出の中でしか、語られることのない名前。
(……無意味な感傷ね。これから、何人殺すかわからないのに)
赤と銀が混じり合う首輪をランドセルに放り込み、改めて周りを見渡す。
森は静寂を保っており、誰かが動く気配はない。
ただ、魔法による破壊の痕跡がいくつか残されているだけだった。
黄色い少女がいたはずの場所も大きく抉られており、未だに煙が上がっている。
森は静寂を保っており、誰かが動く気配はない。
ただ、魔法による破壊の痕跡がいくつか残されているだけだった。
黄色い少女がいたはずの場所も大きく抉られており、未だに煙が上がっている。
「あの女の子、生きてるかな。光弾が直撃したみたいだったけど……」
破壊跡に近づきながらも、心は平静を保っていた。
自分が見捨てた少女がどうなっていようと、あまり関係がないからだ。
当面の目的は「テロリストの排除」であり「弱者の保護」ではない。
最初の指針である「生き残る」ために、危険人物を排除しているだけ。
殺し合うつもりがない者や脱出を目指す者を襲いはしないが、積極的に助けるつもりもない。
所詮、脱出が無理とわかったら殺すつもりの人間だ。天秤は自分の安全のほうに傾く。
一応、感謝はしている。
腕一本くらいは失う覚悟で突貫するつもりだったが、想定外の横槍のおかげでかなり楽ができた。
自分が五体満足でいられるのは、あの少女のおかげだと言ってもいい。
それでも、心の中で感謝する程度。敵の敵が死んだからといって悲しんでいたらキリがない。
自分が見捨てた少女がどうなっていようと、あまり関係がないからだ。
当面の目的は「テロリストの排除」であり「弱者の保護」ではない。
最初の指針である「生き残る」ために、危険人物を排除しているだけ。
殺し合うつもりがない者や脱出を目指す者を襲いはしないが、積極的に助けるつもりもない。
所詮、脱出が無理とわかったら殺すつもりの人間だ。天秤は自分の安全のほうに傾く。
一応、感謝はしている。
腕一本くらいは失う覚悟で突貫するつもりだったが、想定外の横槍のおかげでかなり楽ができた。
自分が五体満足でいられるのは、あの少女のおかげだと言ってもいい。
それでも、心の中で感謝する程度。敵の敵が死んだからといって悲しんでいたらキリがない。
「あ~~、これは無理そう……ん?」
大した期待もなく焦げ臭い森の一角を確かめていると、奇妙なものを発見した。
「拡声器と……人形の腕?」
血塗れの拡声器は少女が使っていたものだろうが、それにくっ付いているおもちゃの腕はなんだろう。
袖の装飾が少女のものに似ているのは気のせいだろうか。
袖の装飾が少女のものに似ているのは気のせいだろうか。
「死体はなし、ね。消し飛んだとしても、肉の一片くらいは残るでしょうに」
いくら探しても少女の死体が見つからないことも不可解だった。
消えた少女の死体。残された人形の腕。どうにも気になってしょうがない。
よく見たわけではないけれど、あの少女、人間にしては小さすぎたような気がしなくもない。
拳法使いの少年を遠くから攻撃したことといい、どうやら一般人ではないようだ。
もし生き延びているならば、いずれ脅威になる可能性もある。調べる必要があるかもしれない。
消えた少女の死体。残された人形の腕。どうにも気になってしょうがない。
よく見たわけではないけれど、あの少女、人間にしては小さすぎたような気がしなくもない。
拳法使いの少年を遠くから攻撃したことといい、どうやら一般人ではないようだ。
もし生き延びているならば、いずれ脅威になる可能性もある。調べる必要があるかもしれない。
「彼なら知ってるかな……」
朝方に出会った魔技師の少年を思い出しながら、拡声器ごと人形の腕をランドセルに放り込んだ。
分析するにしても、こんな森の中でやる必要はない。
一通り辺りを見回した後、痛んだ身体を休めるために、安全そうな場所まで移動することにした。
もう、この場所に用はない。
分析するにしても、こんな森の中でやる必要はない。
一通り辺りを見回した後、痛んだ身体を休めるために、安全そうな場所まで移動することにした。
もう、この場所に用はない。
※ ※ ※
彼女は知らない。
自分が殺した少年は、自分と同じように危険人物だけを狙っていたことを。
そして、多くの仲間がいることを。
自分が殺した少年は、自分と同じように危険人物だけを狙っていたことを。
そして、多くの仲間がいることを。
彼女は知らない。
何気なくランドセルに放り込んだ拡声器が、午前中だけで二人の命を奪った、縁起が悪すぎるものだということを。
今まで災厄を呼び寄せ続けてきた物品だということを。
何気なくランドセルに放り込んだ拡声器が、午前中だけで二人の命を奪った、縁起が悪すぎるものだということを。
今まで災厄を呼び寄せ続けてきた物品だということを。
彼女は、知らない。
※ ※ ※
薄暗い森の中を、小柄な人影が駆け抜ける。
服はボロボロで、綺麗に整えられていたであろう髪は見る影もない。
ときに木の根に躓きながら、ときに地面に這い蹲りながら、それでも走り続けている。
服はボロボロで、綺麗に整えられていたであろう髪は見る影もない。
ときに木の根に躓きながら、ときに地面に這い蹲りながら、それでも走り続けている。
「はっ、はぁっ、なんとか、逃げることには、成功したのかしらっ」
金糸雀が迫り来る光の矢を避けることができたのは、奇跡としか言いようがなかった。
咄嗟に横に飛んだことが幸いしたのだろう。ほんの少しでも反応が遅れていれば、今こうして走ることなどできていなかったはずだ。
真横で起こった爆発によって吹き飛ばされたことも、逃走の手助けをしてくれていた。
2mほど宙を舞って地面に叩き付けられたときも、軽い身体のおかげでそれほどダメージを受けずに済んだ。
それでも、金糸雀は喜んでなどいない。顔を歪めて、必死に涙を堪えている。
雷使いの放った光弾は、金糸雀の腕を抉り飛ばしていた。
まともに食らっていれば身体に大穴が開く攻撃を、右腕を失うだけで済んだ――そんなふうに考えることができなかったとしても、それは仕方がないことだろう。
腕一本分だけ軽くなった身体に鞭を打ち、金糸雀は森の中をひた走る。
咄嗟に横に飛んだことが幸いしたのだろう。ほんの少しでも反応が遅れていれば、今こうして走ることなどできていなかったはずだ。
真横で起こった爆発によって吹き飛ばされたことも、逃走の手助けをしてくれていた。
2mほど宙を舞って地面に叩き付けられたときも、軽い身体のおかげでそれほどダメージを受けずに済んだ。
それでも、金糸雀は喜んでなどいない。顔を歪めて、必死に涙を堪えている。
雷使いの放った光弾は、金糸雀の腕を抉り飛ばしていた。
まともに食らっていれば身体に大穴が開く攻撃を、右腕を失うだけで済んだ――そんなふうに考えることができなかったとしても、それは仕方がないことだろう。
腕一本分だけ軽くなった身体に鞭を打ち、金糸雀は森の中をひた走る。
「こ、この借りは絶対に返してやるのかしら……」
恨みの念を銃使いの少女に向け、金糸雀が復讐を誓う。
本来なら雷使いの少年に恨みの矛先が向くところだが、銃使いに対する憎しみばかりが募っていた。
あのとき彼女が動いていれば、金糸雀は腕を失うことなどなかったのだから。
心の底では、八つ当たりでしかないことはわかっているのだろう。
だが、誰かを恨みでもしなければ保てないほど、金糸雀の心は壊れる寸前だった。
身体の一部を欠損させてしまった乙女は、もはやジャンクでしかない。
アリスに、なれない。
本来なら雷使いの少年に恨みの矛先が向くところだが、銃使いに対する憎しみばかりが募っていた。
あのとき彼女が動いていれば、金糸雀は腕を失うことなどなかったのだから。
心の底では、八つ当たりでしかないことはわかっているのだろう。
だが、誰かを恨みでもしなければ保てないほど、金糸雀の心は壊れる寸前だった。
身体の一部を欠損させてしまった乙女は、もはやジャンクでしかない。
アリスに、なれない。
「絶対に、絶対に、許さないのかしら……」
壊れた人形が、森を駆ける。
黒い塊を、精神の奥に沈殿させながら。
健全な精神は健全な肉体に宿る。
完全な魂は完全な人形に宿る。
ならば、壊れた人形には何が宿るのだろうか。
黒い塊を、精神の奥に沈殿させながら。
健全な精神は健全な肉体に宿る。
完全な魂は完全な人形に宿る。
ならば、壊れた人形には何が宿るのだろうか。
【E-4/森/1日目/昼】
【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:胴体に重度の打撲傷、中程度の疲労
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残段数3)
ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、 トマ手作りのナイフホルダー
[道具]:基本支給品、回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、
十字架×1、ダイエットフード×1、目薬×1、山彦草×1)
首輪@ネギ、金糸雀の右腕(コチョコチョ手袋が片方だけついている)、血塗れの拡声器
[思考]:袖についた血は落としておきたいな……
第一行動方針:安全な場所まで移動して休息。
第二行動方針:好戦的な参加者は倒す。
第三行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう。
基本行動方針:最後まで生き延びる(当面、マーダーキラー路線。具体的な脱出の策があれば乗る?)
【トリエラ@GUNSLINGER GIRL】
[状態]:胴体に重度の打撲傷、中程度の疲労
[装備]:拳銃(SIG P230)@GUNSLINGER GIRL(残段数3)
ベンズナイフ(中期型)@HUNTER×HUNTER、 トマ手作りのナイフホルダー
[道具]:基本支給品、回復アイテムセット@FF4(乙女のキッス×1、金の針×1、うちでの小槌×1、
十字架×1、ダイエットフード×1、目薬×1、山彦草×1)
首輪@ネギ、金糸雀の右腕(コチョコチョ手袋が片方だけついている)、血塗れの拡声器
[思考]:袖についた血は落としておきたいな……
第一行動方針:安全な場所まで移動して休息。
第二行動方針:好戦的な参加者は倒す。
第三行動方針:トマとその仲間たちに微かな期待。トマと再会できた場合、首輪と人形の腕を検分してもらう。
基本行動方針:最後まで生き延びる(当面、マーダーキラー路線。具体的な脱出の策があれば乗る?)
【E-4/森/1日目/昼】
【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:中度の疲労、全身打撲及び擦過傷(行動にやや支障あり)、右腕欠損、心が壊れかけている
[装備]:コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん、スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER
[道具]:支給品一式、イエローの衣類一式(少し湿っている)、 酢昆布@銀魂
旅行用救急セット(絆創膏と消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
[思考]:……みっちゃん……ピチカート……
第一行動方針:腕を失った原因(ネギとトリエラ)に復讐する。そのために、他の人間を利用する。
第二行動方針:どこかで「武器」を確保する。持ち物の交換・死体からの荷物漁り等、手段は問わない。
基本行動方針:(基本方針は未だに定まっていない)
【金糸雀@ローゼンメイデン】
[状態]:中度の疲労、全身打撲及び擦過傷(行動にやや支障あり)、右腕欠損、心が壊れかけている
[装備]:コチョコチョ手袋(片方)@ドラえもん、スケルトンめがね@HUNTER×HUNTER
[道具]:支給品一式、イエローの衣類一式(少し湿っている)、 酢昆布@銀魂
旅行用救急セット(絆創膏と消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
[思考]:……みっちゃん……ピチカート……
第一行動方針:腕を失った原因(ネギとトリエラ)に復讐する。そのために、他の人間を利用する。
第二行動方針:どこかで「武器」を確保する。持ち物の交換・死体からの荷物漁り等、手段は問わない。
基本行動方針:(基本方針は未だに定まっていない)
【ネギ・スプリングフィールド 死亡】
※指輪型魔法発動体@新SWリプレイNEXTはネギの死体が装備しています。
≪119:混沌の学び舎にて(5) | 時系列順に読む | 079:Cinderella cage≫ |
≪121:オイシイとこだけツマミ食い | 投下順に読む | 123:それは狂的なまでに(前編)≫ |
≪119:混沌の学び舎にて(2) | 金糸雀の登場SSを読む | 148:MOTHER/2発の銃弾/金糸雀の逆襲≫ |
トリエラの登場SSを読む | 134:人はいつでも間違うもの 大切なのはそれからの(後編)≫ | |
ネギの登場SSを読む | GAME OVER |