クロバラメモ1
満願成就の日の朝、どこからかサアっと風が吹いた。
なんだか随分と涼しい風だ。
それになんだろうか、この風で舞っている白い毛のような・・・。
「あれ・・・?」
後ろを振りかえってみれば、競争相手の尻尾がない。
「あれま。」
足元を見てみれば、二本の白い足ですっくと立っている。
「わお。」
風になびく白い髪をかきあげて、頬に触れ、目蓋に触れ、
鼻に触れ、肩に触れ、これで完全に納得した。
満願成就の今日この日、
八幡様のお力で、私は人間になっていた。
クロバラメモ2
「君、人間は好きかね?」
「ええ。」
「君の世話係はどうだい?」
「好きよ。それはもう、食べちゃいたいくらいに。」
クロバラメモ3
クロバラメモ4
人間は隠されたものをつい捜してしまうものらしい、
って小耳に挟んだから、あっちこっちに色々なアイテムを
隠したりしてみたの。
あらまぁ、どうしてルイゼットったらあんなに怒っているのかしら?
せっかくだから回転ノコギリの近くにアイテムを置いてみたら、
ちょっと2、3人軍人さんが真っ二つ。
どこかその辺に転がっているようなよくある事故と、
どこかその辺に転がっているようなよくある軍人さん。
ねぇ?そこまでご機嫌斜めになることもないでしょう?
今度料理でも作ってみようかしら。
きっとルイゼットだって機嫌を直してくれるわ。
追伸 回転ノコギリの近くにアイテムを置くのはやめようと思うの。
どこなら良いのかしら・・・。
高い建物のてっぺんなんて素敵じゃない?
クロバラ番外編1
クロバラが職員の指を噛みちぎった。
「甘噛みさせて いいでしょう?」
といってクロバラの世話係の指を舐めまわし、
優しく噛み始めたかと思うと、突然指を噛みちぎってしまったらしい。
クロバラに反省した様子はない。
「おいしかった」…だそうだ。
こんなものを戦場に送り出して大丈夫なのか…?
もし問題が起きたら誰が責任を取る…?
クロバラ番外編2
魔剣を参考にして生み出された初期の身体改造技術は、
殆どの場合、失敗したといっていい症例を生み出しただけだった。
あるものは理性を失い、あるものは脳が縮小し、
あるものは異常な吸血衝動で使い物にならなかった。
その失敗作をトットート博士が受け取り、研究することで、
やっと安定した精神を持つ強化人間を
生み出すことができるようになった。
この技術をもっと発展させれば…
きっとシロバラは安定するはずだ。
クロバラのような失敗作を送り出して、
恥をかく訳にはいかない。
クロバラ番外編3
クロバラに足りなかったのは教育ではないか?
そんな話が上がっている。
確かに、私たちはクロバラの頭脳を過信して、
何かを教えるということをほとんどしなかった。
私達よりはるかに優れた頭脳をもって、わからないことなどない、
はずだった。
クロバラに倫理はなかった。
同情するという発想もなかった。
自然な感情が欠落していた。
これを正せるのが教育だとするなら…
教育というものもあながち馬鹿にしたものでもない。
…もし教育係を付けるとするなら…
やはりギヨティーヌ・ルイゼットが適任か。
なんでも、クロバラと親密な関係にあったらしい。
考えられないことだが…これが本当だとすると、彼女以外に
適任者はいないだろう。
私たちは失敗したが、ノートメアシュトラーセの研究所では、
きっと上手くやれるはずだ。
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