(投稿者:トーリス・ガリ)
キルシュの日記から一部・グエンとすれ違い
3月3日
グエンさんが私を庇って怪我をした。
怪我というほど大げさなものではないが、明らかに痛みを堪えていた。
庇ってくれるのはいつものことだが、解せない。
あの程度なら弾き返すくらい訳も無かったのに、どうしてわざわざ傷付いてまで私を守ろうとするのだろう?
迷惑だとは言わないけれど、正直過保護に扱われるのはいい気分ではない。
何より、目の前で、私のせいであんな顔をする彼は見たくない。
3月4日
夜に襲われて迎撃に向かった。
グエンさんも昨日の傷がまだ少し痛むようだったが、私と一緒に出た。
夜間戦闘は二人とも得意なので問題無かったが、彼がまた私を庇っていたので、終わった後つい口が出た。
真剣に言っているのに、冗談で返されて頭に来てしまい、私らしくもなく手が出てしまった。
今考えるとやり過ぎてしまったかもしれない。
明日謝っておこう。
3月5日
昨日の日記を書いてすぐに第二派が来た。
日をまたいで夕方前まで戦っていた。
他のメードに比べて体力の無い私には辛かったが、無傷で済んだのは私を含めて数名のみだったらしい。
今回彼とは別行動だったので庇ってもらうことは無かった。
グエンさんはあのスタイルなので、大怪我は無かったがボロボロになって帰ってきた。
なのに、自分よりも傷一つ無い私のことを心配していて、「疲れただろう」と私を負ぶって行こうとした。
自分の疲れを見せないようにしていたのはわかっていたし、私の服が汚れるので流石にやめてもらった。
というか、公衆の面前でよくそんなことが出来るものだ。
昨日の事を謝ろうと思っていたが、昨日の今日でふざけられて言う気が失せてしまった。
今になって後悔している。
書き留めておきたいことは色々あるが、疲れたのでそろそろペンを置こうと思う。
3月6日
激戦の後の二連休。
身体を休められるのは嬉しいが、せっかくの休みの一日目が疲労回復に潰されるのは少し悔しい。
それに、この前のことも気になる。
でも、今もこうして日記を書くことが億劫なくらい疲れている。
今日の所は素直に眠ることにする。
3月7日
二連休二日目。
疲れは若干残っている。
明日からまた動かなければいけないが、正直もう一日休みたい。
一方テルマちゃんは元気で、疲れの取れない私を気遣って軽食を作ってくれた。
ナイフの扱いは見ていてヒヤヒヤしたが、意外にできるようだった。
味は薄めで食べやすかった。
前の事を謝りに行こうと思ったが、仲間と出かけたらしく会うことが出来なかった。
3月8日
楼蘭のメードと知り合った。
今は南部で
ワモンが異常発生しているそうで、人手が足りていない基地へ一時的に飛ばされている。
今日から三日間はテルマちゃん、薙刀の秀雄ちゃん、弓の光義ちゃん、特殊能力を持った黒百合ちゃん、お目付け役らしい阿倍野さんと行動を共にする。
楼蘭製の刃物は切れ味がいいという話を聞いていたが、G相手にあんなに綺麗に切れるものだとは思わなかった。
テルマちゃんが阿倍野さんに着替えを目撃され、秀雄ちゃんに首を刎ねられていたが、「暫くすれば元に戻る」らしい。
陰陽師、所謂まじない師の類らしいが、そんなこともできるのかと驚いた。
テルマちゃんも部屋のドアを開けたまま着替えをするなと言っているのに、よく忘れるらしい。
阿倍野さんは悪くないと思っていたが、しっかり見ていたようだ。信じられない。
ちなみに阿倍野さんはセクハラの癖があるらしい。要注意。
グエンさんとは暫く会えない。
3月9日
早朝六時前からワモンの群れが近づいてきた。
千里眼が無ければ今いる基地は落ちていたかもしれない。
かなりの数だったが、テルマちゃんと楼蘭の三人の協力もあって思ったより苦戦はしなかった。
テルマちゃんとは暫く一緒に戦うことが無かったが、私とも楼蘭の三人ともうまく連携をとっていた。
とはいっても、終わったのは正午を回った頃。
幸いその後は何事も無かったのでゆっくり休むことが出来た。
3月13日
11日に帰れると思っていたが、予定が変わった。
10日の日に交代で来るはずの別のメードが何人かトラブルに遭ってしまい、到着が遅れた。
とりあえずトラブルの無かった楼蘭の神楽ちゃん、地元出身の
どりすちゃんが午前中に着いて賑やかになった。
でも、夕方からまたワモンの群れが押し寄せてきて、日をまたいで11日はそれを撃退するだけで潰れた。
かなりの数が来て被害は大きかったが、11日の昼頃から到着したファイザちゃん、イーディちゃん、雷花ちゃんと共闘した。
一般兵から怪我人がたくさん出たが、誰も死なずに済んだのは奇跡だろう。
全員かなり疲れてしまい、もしこのタイミングでまた襲われたら私達も危なかった。
12日は完全にダウン状態で、部屋から出る気力も日記を書く気力も無く、食事やシャワーの時以外一日中ベッドで寝ていた。
テルマちゃんと神楽ちゃんは食事中も半分寝ていて、阿倍野さんは所用で一人出かけていた。
ちなみにその時の話題では遅れてきた人の中には神楽ちゃんと知り合いの人が多く、どりすちゃんの知り合いもいたようだ。
世界は狭い。
とりあえず交代は全員着いたので、明日ようやく帰れる。
帰ったら今度こそグエンさんに謝らないといけない。
3月14日
やっと帰って来れた。
でも肝心のグエンさんがいない。
昨日別の任務で
カヒラー治水センターに行って、明後日戻るらしい。
嫌がらせでもしているのだろうか?
とにかくいないものはしょうがないので、我慢して待つしかない。
それよりも、テルマちゃんに最近様子がおかしいと言われたが、私はそんなに挙動不審だろうか?
テルマちゃんはその辺勘が鋭いが、私自身わからないのでなんともいえない。
3月15日
買い物帰り、宿舎の庭の隅でテルマちゃんが地べたに座っていた。
両手に何か小さいものを乗せていて、それをじっと見つめているようだったが、近づいてみると怪我をして気を失った小鳥だった。
テルマちゃんは、あまり表情には出ていなかったが目には涙を溜めていて、小さく嗚咽を漏らしていた。
自分の部屋の窓にぶつかって落ちたそうで、どうやら小鳥が死んでしまったと思ったようだ。
私が教えて安心したテルマちゃんは、その小鳥の怪我が治るまで看病すると言い、自分の部屋に持っていった。
心配なので、私も一緒に様子を見た方がよさそうだ。
そして明日はいよいよグエンさんが帰ってくる日だ。
早く明日になってもらうために、今日は早めに寝てしまうことにする。
3月16日
やっとグエンさんに会えた。
久しぶりに会うと何故か緊張した。
言うことは決まっているのに中々口が動かず、結局ちゃんと謝ったのは夕食を過ぎてから。
が、本人はなんのことだかさっぱりわからないという顔をして、何故謝るのか聞き返されてしまった。
完全に忘れてしまっていたようだ。
今までずっと私が気にしていたことはなんだったんだろうか?
それを思うと馬鹿馬鹿しくなってしまい、追い討ちをかけるようにからかわれて腹が立った。
そして今度は「つい」ではなくわざと平手打ちをお見舞いしてあげた。
彼が前のことを自力で思い出して、彼の方から謝ってこない限り許さないことにした。
最低だ。
キルシュの日記からまた一部・霧
7月9日
最近霧の濃い日が続いている。
ザハーラに来てしばらく経つがこんなのは初めてで、年配の人に聞いてもやはり同じだった。
かといって肌寒いとかいうこともなく、気温はいつも通り。
ただジメジメしていて、髪をセットしてみてもすぐに湿気にやられてしまう。
砂漠地帯には恵みなのだろうが、私はやはりこういうどんよりした天気は好きになれない。
と、いつもの三人と話していたら、三人とも驚いていた。
私が暗いのは自覚しているが、別に暗いのが好きなわけじゃない。
7月10日
早く晴れてほしいと思っていたが、どんどん濃くなっていく。
霧は空まで多い尽くしていて、夜になっても星が見えなかった。
グエンさんとテルマちゃんの様子がおかしい。
グエンさんのいつもの冗談が今日は一度も飛んで来なかった。
テルマちゃんは一日中部屋に引きこもって出てこようとせず、食堂にも出てこようとしなかったので、食事は私が運んで届けた。
グエンさん曰く、「コイツは勘だが、この霧はただの霧じゃねえ」のだそうだ。
亜人は勘が鋭いそうだが、だったらこの霧はなんだというのだろう?
7月14日
霧はまだ晴れない。
ただの霧じゃないというグエンさんが言っていたことを痛感した。
これはしばらく日記を書けなかった理由でもある。
11日にワモンの襲撃があって、私はそれにやられて大怪我をした。
初めてだった。
腕が痛い、やはり無理だ。
7月15日
昨日の続き。
いつもなら無傷で帰るのが当たり前だったが、何故か千里眼が使えなかった。
ダメだ、やはりまだ痛む。
7月21日
続き。
霧は未だに晴れない。
痛みは多少引いてきたが、ベッドから出ることはまだできず、絶対安静だ。
千里眼が使えなかったと前回書いたが、正確に言えば使えはしたが狂っていた。
視ようと思ったところが視えず、視界が激しく揺れてごちゃ混ぜになる。
頭の中で耳障り(?)なノイズが流れ、いろんな場所の音が聞こえる。
金縛りにあったときや変な夢を見たときと似た感じの、わけのわからない恐怖のような感覚が襲ってきて、パニックになった。
そのままワモンに襲われ、抵抗もできず、噛み付かれたときの痛みで気を失い、目が覚めるとベッドの上。
索敵能力がこんな形で裏目に出るなんて夢にも思わなかった。
グエンさん達いつもの三人組は別部隊で戦っていて、13日と18日にお見舞いに来てくれた。
最初は苦しくてまともに話も出来なかったが。
18日に聞いた話だと、なんとか撃退はできたが、被害は大きかったそうだ。
テルマちゃんはなんとか無事だったらしい。
だがみんなが痛手をこうむったのは私のせいでもある。
7月22日
今日はグエンさんが一人だけお見舞いに来た。
私が読んでいた小説の続編が出たので、それを買ってきてくれた。
が、今は読書をする体勢になると腰、首、腕、太腿等々、すぐに身体の節々が悲鳴を上げる。
まともに読めるようになるのは治ってからになりそう。
それに、正直本を読む気にはなれない。
グエンさんは察したのか、「お前のせいじゃねえよ」と、いつもの口調で言った。
普段は無神経で鈍いくせに、たまにこういうことがあるから、なんというか、困る。
曰く、「己惚れるな。お前がいなかったぐらいでどうにかなるほど腐った連中じゃねえ。お前も俺も末端なんだからな」とのこと。
少し気が晴れた。
7月23日
今日は何も無かった。
書くことが無いので現状報告。
日記に報告を書くのもおかしな話だが。
痛みは引いていないがだいぶ動けるようにはなっている。
ただし、まだ絶対安静は解かれない。
メードとはいっても酷い怪我をしたのだから、あまり動くと悪化するだろう。
自分から動けないので、変わったことがないと退屈でしかたがない。
病院食は食べやすいが、少し飽きてきた。
テルマちゃんに会いたいが、忙しくてお見舞いには来れないらしい。
こんなところか。
7月24日
移動任務で知り合った楼蘭の秀雄ちゃんと光義ちゃんがお見舞いに来てくれた。
近くに来たのでついでに宿舎に寄って私がここにいることを知ったらしい。
阿倍野さんと黒百合ちゃんは所用で別行動。
色々話を聞かせてもらったが、中でも例の霧関係の話で変なことを聞いた。
赤い派手な楼蘭鎧のメードが、次々と人を襲って武器を強奪しているという話だ。
二人も彼女に襲われたらしいが、それが案外ドジだったようで、あっさり撃退したそうだ。
これだけだと霧と何の関係があるのかわからなかったが、そのメードが霧のことについて何か知っているらしいのだ。
この霧は一体なんなのだろうか?
7月25日
また何も無い。
現状報告もおとといしているし、今日は本当に書くことが無い。
早くベッドの上から開放されたい。
7月26日
昨日まで重苦しいほど濃かった霧が、朝起きたら晴れていた。
試しに千里眼を使ってみたが問題無く視ることが出来た。
これがあれば、最悪動けなくても散歩をした気分にはなれる。
普段はしないが、あまりに退屈なときは時々する。
ただ、やっているとだんだん虚しくなってくる。
やはり早く動けるようになりたい。
キルシュの日記から更に一部・別れ、再開、再出発
7月27日(破れている)
こんなことを書
グエンさ
どうし
テル
どう
8月4日
明日退院だが、全く嬉しくない。
こんなことを書きたくはなかったが、現実を受け止めるために書くことにする。
7月27日からのページを破り捨て、それ以降日記を書かなかったのは、勿論怪我をしたときのような理由ではなく内面的なもの。
ついつい回りくどく書いてしまう。やはり書きたくないからなんだろう。
上の行と今の行を書く間に一時間以上は間が空いただろうか。覚悟を決めて、何があったのか率直に書こう。
テルマちゃんが無事で、忙しくてお見舞いに来れないというのは嘘だった。
本当は私が運ばれたすぐに仲間の誤射で落とされ、ウォーリアにやられたそうだ。
その後私と同じ病院に運ばれ、集中治療室で眠っていたが、7月25日の深夜に容態が急変して死んだらしい。
27日にグエンさんが来て教えてくれた。
テルマちゃんが治るまでは心配をかけないために伏せておくつもりだったらしい。
これ以上書くのは辛いのでこれで終わりにする。
9月12日
一ヶ月以上もブランクが空いたが、久々に日記を書く。
現実を受け止めるなんて前回は書いたが、受け止めたといえば受け止めたと思う。
ただ、結局今日まで引きずっていた。
多分完全に立ち直ったとは言えないが、先日いい物をもらって凄く嬉しい。
テルマちゃんのコアだ。
あの丸い目と同じアメジストで、光に透かすととても綺麗だ。
あの日から何度泣いたかわからないが、この時は不思議と泣かなかった。
形見ではなく、帰ってきた、という感じがしたからだろう。
それはそうと、コアは再利用できるそうだが、何故私にくれたのか気になり、聞いてみた。
「割れて使い物にならなかったからだ」という答えが返ってきた。
本来なら廃棄されるところだったという。
腹立たしい話だが、無事でよかった。
9月13日
みんな驚いている。
私が以前よりも明るくなったらしい。
自覚は無いが、周りが口を揃えて言うんだからそうなんだろう。
特に
クロードさんは「笑い方が怖くなくなった」と言う。
じゃあ今までは怖かったの? 正直この時はショックを受けた。
隆光さんは「目がチラチラ見える!」とよくわからないことを言っていた。
そうかと思ったら他の人も同じく「キルシュの目が見えた!」と騒ぐ。
偶然来ていた例の楼蘭組ですら反応は同じ。
私は絶滅危惧種やUMAの類じゃない。
でもグエンさんだけは幸か不幸か、他と反応が違う。
私の変化に全く気付いてないのだ。
珍獣扱いされることが無い代わりに明るくなったと言われることも無い。
複雑な心境だ。
9月14日
移動任務が入った。
今回はカヒラー治水センターで、いつもの三人と一足先に着いていた楼蘭出身のメール二人、それと珍しい非戦闘員のメードが一緒だ。
楼蘭のメール二人は両方とも初めて見る顔で、グエンさんに迫る大きな人が春賢さん、アイパッチをした目つきの悪い方が
ジンナイさんという。
非戦闘員の方も楼蘭出身で、翆蓮ちゃんという内気なメードがなのだが、信じられないことに隆光さんに懐いている。
グエンさんもクロードさんも彼女とは知り合いらしいが、本当に懐くのは隆光さんだけらしい。
ここに来たわけだが、3月のワモン大量発生と同じ現象がここの近くで起こったらしく、丁度空いていた私達が呼ばれたのだ。
ただ、楼蘭のメール二人はブリーフィングに参加せず、今日は到着したときの挨拶以外一度も会わなかった。
二人とも、特にジンナイさんには異様な雰囲気を感じていたが、やはりただのメール二人じゃなさそうだ。
と詮索してもいいものが出るわけが無いだろう。多分。
それにテルマちゃんならそんなことで人を疑いはしない。
9月16日
ワモン撃退完了。
3月のアレに比べると随分あっさり終わった。
正直大量発生という言葉を聞いてげんなりしていたが拍子抜けだ。
いつもの三人と楼蘭のメールが前線に立ち、私は施設と翆蓮ちゃんを護るという構成だったので、申し訳ないが私はだいぶ楽をさせてもらった。
楼蘭の二人が桁違いに強かったというのもある。
それでも、昨日の日記を書こうと思った矢先に来て日をまたぎ、今日の午前中に終わったので、疲れていないというと嘘になる。
ちなみに楼蘭の二人は、使っている道具からして忍者のようだった。
なるほど、隠密なら私達とは違うだろう。ブリーフィングにいなかったのも多分そのせいだ。
念のため明日明後日もここで待機する予定だ。
9月17日
今日は襲撃は無かった。
特に書くことも無かったので、昨日書き忘れていたことを書く。
テルマちゃんのコアを持って出撃していたのだが、こころなしか防壁や千里眼の範囲が広がった気がする。
コアがエネルギーの源泉といっても、こういうこともあるんだろうか?
基本的なことしか知らない私が何を考えてもわかることではないが。
なので、「テルマちゃんのおかげ」と都合良く解釈することにする。
9月18日
移動任務最終日。
今日も襲撃は無かった。
夜になって隆光さんがお酒を出して、「飲もうぜ!」と上機嫌。
グエンさんが酔って私にくっ付いてくるのが怖かった。
去年書いた発情期のアレを思い起こさせる。
みんながいる前で暴れられるのは勘弁して欲しい。
隆光さんは意外にもあまり酔った様子は無かった。
が、翆蓮ちゃんと仲が良すぎて他が入ってくる余地が無い。
クロードさんはいつも以上にツッコミが冴えていた気がする。
忍者二人は不参加。いろいろあるんだろう。
私はというと、お酒を飲んだのが初めてで加減がわからず、実は途中から記憶が無い。
これを書いている今は、実は19日の帰還後。自室で余裕が出来たから。
19日の日記は夜に書く。
関連項目
最終更新:2009年10月06日 00:23