アラキの旅 #3-2

(投稿者:A4R1)


「危ないところでしたね。」
何とか上半身を持ち上げたボクの目の前に手を差し出された。
その時やっと顔を見ることができた。
「店長!」
「案外早く帰ることができたよ。君、立てるかね?」
「あ…はい…。」
店長と呼ばれたお爺さんに手をひかれて、何とか立ち上がることができた。
心地いい纏め方をした白髪に、控えめな白髭が映える方だ。
「奴らもとんでもないものを作ったもんじゃな、トーマスよ。」
トーマスと呼ばれたお爺さんが、地面に置かれた果物入りの紙袋を拾った。
「いやはや、こまったもので…。
 ついに店の中を荒らされる時が来るとは…。」
さっき、イイが大暴れしてたからかも…。

「お店に至ちゃーく!って何があったのコレ!?」
うきうきとした気持ちで店内に入るなり、驚いたミミちゃん
「ならず者がやりおったからとっちめたのじゃ。」
「それは大変でしたね…。」
少し遅れて店内を確認したリリさんが
「リリや。その包みは何かね?」
「猟銃みたいな物を抱えた人が落したんですよ。
 それで追ってみたらここに…。」
「あ!この人この人!!」
さっきボクを捕まえていたノビている男をミミちゃんがつついた。
「その人の銃でお二人がピンティだったんです!!」
「そうだったんですか…。」
「もらっちゃおっか!!」
「いいのかなぁ…。」
「損害を発生させた集団の一員なら責任は連帯として被るものじゃろ。」
「そうだね!!」
「そんなきがるに自分のものにしていいのかなぁ…。」
ボクの不安を尻目に嬉しそうに持ち物を物色するみんな…。
どっちが悪者かわからなくなりそう…。

「なにがあるかな~。」
「おっ、金の延べ棒じゃな。」
中身に心躍らせていると、遠くから誰かの叫び声が近付いてきた。
「金の延べ棒が盗まれた!!誰か盗んだ奴を見てないか!!」
その声にみんなが血相を変えて店の奥に駆け込んだ。
「なんでみんなが逃げるの!?ちょっと!!」

AM 11:53

事態の説明とシャープエナと呼んでいた男たちの引き渡し、
延べ棒の返還に店内の修理や備品の買い出しが終わった頃にはみんなクタクタの状態でテーブルについた。
「お客さぬが入る前に終わりまいたね~。」
「みんないい働きぶりだった。」
「ありがとうございまーす!!」
ハリのある返事はミミちゃんしか返せなかった。
みんな買い出しや備品の手配とかでヘトヘトに…。
「初めて訪れた市街の店という店を駆け回るなんて普通しないと思うんですが…。」
「オレなんか…テーブルを持って…ここと家具屋を…何度往復したことか…。」
褐色の肌に汗の粒を浮かばせるイイ。
息こそおさまっているものの、疲れはまだ取れきっていないみたい。
「本来ならトラック類で運搬するものらしいですからね…。疲れて当然ですよ…。」
「ともかくお疲れ様でした。何か御馳走しますよ。」
一寸の迷いもなくみんなで返答する。
「「「「「「プリンパフェ一つ。」」」」」
            二つ。」
「キキ二つも食べるの!?」
「いや、それよりナナはいつの間に来ていたんだ!?」
「イイが『テーブルを…』って言っていたあたり。」
「無言で席に着かないで頂けないでしょうか…。」
「びっくりさせようと思ったんだけど、イイに感づかれちゃった…。」
「そんな悪戯心を発揮されてもですね…。」
「反応に困るのぅ…。…おや?」
「おぉ、セテ君いらっしゃい。」
高速連絡船で出会った蒼い髪の男性が入店した。
「ヨヨさん、早かったですね。」
「おぉおぉ、セテ君か。」
「いつもヨヨさん待ち合わせ時間ぎりぎりに来ることが多いんですけど、今日は早かったですね。」
「この子達が来るというから張り切ってなぁ。」
イイが凄く小さい声で「年寄りの冷や水だな」って言ったら、案の定ヨヨさんに睨まれた。
「リリさん、キキ君、イイ君、ミミちゃん、ナナさん…全員来ていますね。よかった…。」
「再起能力がケタ外れの高さなんだろうさ。」
入口からガスマスクをつけた人が入ってきた。
「そんな心配は必要無かったみたいだな。セテ。」
「確かに…。」
ボサボサの髪に藍色の衣類という不気味さが仄かに感じられる風貌がちょっと肝に響いた。
「みんなげんきー!?」
その人に続いて壁の後ろから智代ちゃんがひょっこり顔を出した。
「あー!ちよちゃーん!!」
ミミちゃんが智代ちゃんに駆け寄る。
「智代が世話になったな…。」
顔を隠されていて表情が全く読めないけど、声から察するに気は害されていないと思う…。
「あ、は、はい。」
「ん?千代の親父さんか?」
「いや、俺は智代の兄の一弥だ。お袋と親父は訳あってな…。」
「そうか…。」
「きゃー!!」
「!?ミミちゃん!?」
千代ちゃんの後ろ、お店の入口の外の方を見たまま尻もちをついて目に涙をためて顔を青くしていた。
「どうしたの!?」
「く、くも!!」
「くも!?」
「あぁ、アレかえ…。」
「アレ?」
「おおおぉぉぉ!!?」
店内にイイの怒号が響く。他のお客さんがいなくて本当によかった…。
「でけぇ!!マジでけぇ!!」
「巨大な蜘蛛だ!!」
「いやぁ~驚かせてごめんなさい。」
その蜘蛛に乗ったままの人が、申し訳なさそうに笑った。
「ヴィンセント!!そいつもっと離れた所に置いてこいよ!!」
「ティーノを遠くに置いておくなんてできないよ。」
「あのなぁ…いや、もういいや…。」
一弥さんが額の辺りを押さえて席についた。
「ヴィンセント君の飼っているタランチュラのティーノ君じゃ。」
「タランチュラって毒蜘蛛!!」
「蜘蛛とか百足に妙に惚れこんでる奴だ。」
「多足系の生物が好きなんですね…。」
「か、噛まない?」
「人間は滅多に噛まんよ。」
「万が一噛まれても血清はたっぷりあるから安心して噛まれていいよ。」
「かまれたくねーよ!!」


PM 0:15

ティーノに慣れて、プリンを堪能した所でヨヨさんが話を切り出した。
「さってっと~、カズヤ君、」
「ん。」
「ヴィンセント君。」
「はい。」
「そろそろ例の話を始めようかね。」
「あぁそうだったな。」
「解りました~。」
「他の人も来る店の中で大事な話をするの?」
ナナさんの一言に「しまった!」といったようにヨヨさんが舌をぺろりとだして、自分の頭に手を置いた。
「では、店の奥にどうぞ。」
「トーマスさん…。」
「礼はいりません。それよりも他のお客様が来る前に早く…。」
「よーしいこー。」
「あぁ~、スパイダーはこの奥に入れないでほしいのでう。」
「そんなぁ…。」
「サイズが大き過ぎるどで。」
「ちっちゃくならないかなッ!?」
みんなでティーノを押さえてみたらあまりサイズが変わらない上に暴れ出した。
「嫌がってる嫌がってる。」
「外で待ってもらうしかないのぅ…。」
「ティーノぉ~…。」
ティーノが180回れ右をして店外にでたのを確認して、ヴィンセントさんを店の奥にひきずりこんだ。

「それでは両人、例の物を。」
お二人がカバンの中からファイルを取り出し、テーブルの上に中身を広げた。
イイがそれを御冷のグラスのコースター代りにした。おろしてあげた。
「今回皆に聞いてもらう事は、
 君達について・君達のマスターについて・君達を襲った奴らについての三つ。」
「まずは、お前達についてか。」
「ボク達についてですか?」
「ああ。アラキと頭につけられるMAIDは今のところ11人いるらしい。」
ボク達は顔を見合せ、一弥さんに視線を向けた。
「そんなにいるんですか?」
「何も奴が一人で全員のスターターを務めたわけじゃないからな。」
「名前かぶりも含めると相当いそうですからね。
 藤十郎君に関係する方のみに絞った総人数ですね。」
「なるほど…。」
まだいるとでも…!?
「本題に入る前に、確認の意味も込めて、持っている銃器と名前を順番に言ってもらえますか。」
ヴィンセントさんが申し訳なさそうな笑顔で手帳とペンを構えた。

「はい。えーと、二丁拳銃・キキです。」
ホルスターに納めておいた拳銃をテーブルに置いてみた。
「ロケットランチャー・イイだ。」
「ま、待って。」
ボクがやったように、イイもまたテーブルにランチャーを置こうとしたところを慌ててストップした。
「テーブルにそのロケットランチャー置いたら邪魔だ!!」
「1mぐらいあるからのぉ…。」
「その前に、テーブル壊れちゃいそう…。」
「横に置いてくださいね。」
「散弾銃・ミミ!!」
「注射銃・リリです。」
「火縄銃・ナナと申す。」
「炸裂単発拳銃・ヨヨじゃ。」
「狙撃銃・セテ。これで7人。」
「あと4人いるという事ですよね?」
「あぁ、ただ、そのうちの二人は出会ったとしても同行していくのは難しいらしい。」
「?なんでだよ。」
「あ!智代しってるよ!!」
「え?なんで?」

「ボクらと同行できない、それで智代ちゃんが知ってる…。あ、なるほど。」
「キキ、解ったのか?」
「うん。予想だけど、その二人は行商などで世界を回ってるんだよ。」
「そうそう!はんばいぶとかんきんぶでふたりでまわってるんだよ!!」
「はんばいぶと。」
「かんきんぶ?」
「物品の販売を主に行う販売部と、物品の買い取りを主に行う換金部じゃな。」
「その二つの部門は行商で行われる事は普通は無い筈ですけどね…。」
「その分、取り扱う事の出来る品の幅は行商人の中でもかなり広い方らしい。」
「なかなかのツワモノでしょうね…。」
「ともかく、後二人のアラキと合流してほしいという事ですね。」
「あぁ。9人揃わないと取り合ってやらな…いや、やれないと言っていたな。」
「何故?」
「何故かは言ってくれなかったな…。なんやかんやではぐらかされるし…。」
御冷を一息で飲み干し、グラスを置いた一弥さんの口がヘの字に結ばれる。
「何か思う事があるんでしょうね。」
「さあな…。」

「で、ミミ達のますたーってどんな人なの?」
「あぁ、二つ目か。…言っておくが、そんじょそこらの技師とは一味も二味も違うぞ。」
「え?」
一言を口にした後、頬杖をついて軽く唸った。
「…オイ、それだけしかわかんねぇのか?」
「いや、アイツが不用意に情報を漏らさないでほしいって釘を何本も刺してくるんだ。」
「釘ってそんな…。」
「それがその釘なんだが。」
一弥さんのカバンの中から五寸釘が何本か取り出された。
「ウソだろ!?」
「ウソだよ。」

「な、何も殴るこたぁないだろ…。」
「バ、バカヤロウ!!心配掛けさせるような言い方すんじゃねぇ!!」
「イイ…熱くなりすぎ…。」
「わ…わりぃ…。」
「智代ちゃんがいなかったら死んでたんじゃ…。」
イイの左フックをまともに受けたマスクの右半分がひしゃげてしまった…。
「お兄…。」
一弥さんとイイの間に入ったままの位置で、千代ちゃんが泣きそうな顔でそのマスクを見つめていた。
「大丈夫だ。怪我するほどの痛みじゃない。」
「でも…。」
「心配するな…ほら。」
その千代ちゃんだけに顔を見せるようにガスマスクを外した。
「…よかったぁ…。」
潤んだ瞳のまま笑顔になった千代ちゃんの後ろで、
その触れあいを見届けていたナナさんが、見た状態のままで固まった。
「…?ナナや。」
「ッ!は、いッ!?」
驚いた勢いで膝をテーブルの裏にぶつけて、痛みで仰け反りバランスを崩して椅子ごと倒れて、
後頭部を床にぶつけてそのままノビちゃった…。
「ナナさぁ~ん?」
「一体なんだったんじゃ…。」
「…にしても、この幸せそうなツラ…。」
眠っているかのように目をつむり、鼻から鮮血が覗き、
とある絵画を彷彿とさせるように微笑む口元がそこにあった。
いや、本当に寝ちゃってる。
「…よく分からない特性を持ってんだな…。」
「あれ?一弥さん、マスク直したんですか?いや、いつのまに!?」
マスクを外して千代ちゃんに顔を見せた時には、確かにマスクはひどく歪んでいた。
つけ直した時には、マスクは新品同様になっていた。
「これは替えのマスクだ。」
「どこに持ってんだ?」
「秘密だ。」
「いくつ持ってるの?」
「秘密だ。」
「「…。」」
イイと顔を見合わせる。
疑問符が脳裏でくるくる回る。
「マスクの話題より、本筋の続きを…。」
「ナナを起こさんとな。」
「じゃ、オレが殴r「よさんか!!」

「会話中で恐縮ですが、プリンパフェが出来上がりましたよ。」
来た!!!!
「一弥、そのマスターとやらの話は後でにしてくれ。」
「皆さんそっちが優先ですか!?」
「アラキだからな。」
「申し訳ありませんが私も頂かせてもらいます。」
「リリさんも…。」

「みなさんむちうで食べてあすね…。」
「一心不乱じゃないか…。」
「何と静かなことでしょうか…。」
「この子達のマスターから直々に教えていただいたプリンですからね。」
…?
「アイツは菓子作りがやけにうまいからな。」
「一弥君だってケーキ作りはかなりの腕前でしょ。」
「趣味程度さ。」
「謙遜する必要もないでしょう。」
「おみせのしょうひんにしてもいいとおもうのにね。」
「量産も保存も利かないからなぁ…。」
「うぅ…ざんねん…。」
「でも、セテとそのマスターが売り物を開発したのよ。」
突然、誰かが入口から顔を覗かせた。
「プリンテイストのスナックをね。」
その手には大きめの一眼レフカメラが握られている。
「お、仁恵も来たか。」
「お店の中にいるって聞いてたのに、お店の奥にいるとは思わなかったよ…。」
「思いもよらないいざこざがあったからのぅ…。」
「まさか、あの訳の分かんない師団の一部に絡まれたんでしょ!?」
「しだん?」
「そいつらの出所を探るのは『しだん(至難)』の技だ。なんつって。」
「…ゴメン。」
「ま、そんなけったいな奴らの話題より、仁恵の自己紹介を先に頼む。」
「そだね。えぇと、カメラマンやりながら世界中回っている梧桐仁恵です。
 GとかMAIDとかすごい人物とかの写真を撮影する事が主な仕事です。
 それで、えー、ぶっちゃけるとキミ達のマスターと旅してます。」
「「「「え!?」」」」
何たる衝撃の告白。
「じゃ、仁恵さんについてけば…。」
「ダーメ。」
「ちぇ~。」
「どうしてもだめか。」
「約束は約束だもの。我慢して。」
「~…。」
「でも、名前ぐらいなら言ってあげてもいいんじゃないかな?」
「それもそうだな。」
「マスターの名前は荒木藤十郎って言うの。
 基本的に自由人で、立ち入り禁止区域に勝手に入ってちゃってたリ、
 人様のMAIDに勝手に会いに行ったり、何かしらの組織のトップをからかったりと、
 訳の分かんない男よ。技師の技術力と軍人の戦闘力を兼ね揃えているんだけどね…。」
「藤十郎…さんって相当のエリートなんですね…。」
行動は実に怪しいけど…。
「みんなが目覚めた所、そこももともと海賊の隠れ家だったんだけど、
 藤十郎が『ここに引っ越すか。』って言って…。」
「言って?」
「海賊全員を治安維持団体に押し付けて、殴りこんだ隠れ家に家具とかを持ち込んで…。」
「引っ越し目的で海賊の隠れ家奪ったのか!?」
「そう…。」
一人で乗っ取り完遂って…本当に何者なの…。
「ちょっとまって!!」
「どこで待つの?」
「そんなやんちゃな人に、今誰が付いているの?」
「え?」
「今、野放し状態になっているということに…。」
「あ…。」
事の真意に気がついたセテさんの顔がひきつる。
「今もどこかで誰かが…。」
「…。」
「ま、いっか。」(真剣な顔で)
「うん!!」
「いいの!?」

あれ?何この胃の痛み。


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最終更新:2009年10月24日 20:38
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