(投稿者:めぎつね)
「いや、随分と酷い有様だ。想像していた以上だね」
開口一番、初対面の相手にそう呆れられ、
アルハはとりあえず唇を引き結んだ。大分時間が経って痛覚が復帰した結果、口を開く余裕すらないというのもあったが。
更に加えれば反論の余地など一寸たりとも存在しないという程度には散々な様体だという自覚もあった為、抗弁はせず軽く頭を抱える。何せ左半身は衣服が裂けたり破いたりといった状態でずたぼろという有様。その部分に巻いた包帯はやはり既に余す所なく赤黒く染まっていたし、喀血した分や顔の裂傷も含めて血の汚れはほぼ全身に及んでいる。更には泥と埃、Gの体液まで浴びているのだからどうしようもない。
頼みを受けてそのまま直接、
アリウスに連れて来られたのが此処だった。建物自体は
ウォーレリックの支社の一つであるとのことだが、実際には倉庫といった趣が強いように見受けられた。既に日は落ちており人は少なかったが、社員というより作業員といった風体の人間ばかりが目に付いたというのもある。
実際支社というのは殆ど建前で、前線に物資を供給する為に作られた急ごしらえの中継地点なのだとアリウスは言った。ウォーレリックを主軸としたクロッセル連合内の複数の企業体の出資から成ってる、とも。人類が戦線を押し返しこの地区が安全圏となれば、出資企業の主導の下に計画都市として開発が行われる手筈になっているとか。故に支社の場所自体も、アルハらが駐屯している軍施設から然程離れてはいないらしい。
だが見覚えのない場所というのは、それだけで距離感を狂わせる。道中で意識を失っていたのだから尚更だ。満身創痍の肉体はとうに限界を超え、肩を貸して貰わなければ万足に歩くことすらできなかった。
そして、この相手に遭わされた。アリウスの目的は最初からこれだったらしく、彼女は扉の向こうで待機している。教官殿を呼んでおく、とも言っていたか。それならば、扉の外にはもう居ないのかもしれない。
「その癖、別になんてことないという顔をしている。人体は決して消耗品ではないんだけど、その辺ちゃんと解ってる?」
「そうね」
こちらの反応には構わず言葉を続けた相手に、どうにか同意だけを返すと、アルハは眼球だけを動かしてぐるりと部屋を探った。 リノリウム張りの床、100フィート余りの部屋には寝台と机に椅子が二つ。一つはアルハが、もう一つは正面の女が使っている。こちらの椅子はただの丸椅子だが、相手のそれは背もたれまで革張りの高級品だ。
他には金属製の本棚が一つと、この施設の中でも明らかに浮いた造りをした場所だ。さながら学校の保健室か教員控室にでも迷い込んだかという気にさせられる。そして全体的に白を基調とした部屋の色彩を鑑みれば、今の自分が致命的なまでに異物であるとも理解できる。
そして正面の相手。こちらの身体に触れて傷の具合を確かめている彼女もまた白かった。色の抜け落ちたような白髪は薄く緑がかっているが、アルハと同じく後染めだろう。肌も白く線も細い。一見してアルビノの類と知れた。部屋を照らす昼光色の明かりが殊更にそれを意識させる。椅子に座っている為背丈までは判然としないが、恐らくはアルハより下。アリウスと同程度だろうか。背凭れが彼女の座高を上回っている為に矢鱈と子供っぽく目に映るが、実際の年頃は十代後半といった辺りが適当だろう。人間であれば。新緑でも模したような薄緑の衣装はアリウスやもう一人と同様のもので、これがウォーレリックが保有するメードの標準衣装なのかもしれない。
アルハの包帯は全て外されていたが、治療用具どころか救急箱の一つすら出てこない。相手はアルハの体に巻かれた包帯やら何やらを外し、こちらの左腕を取って傷の具合を適当に眺めているだけだった。顔の傷は見えないが、腕のほうは既にかなり膿んでいる。鈍く痛む全身は最早どの傷が原因なのかすら判然とせず、常に思考を回していなければふとした拍子に意識を手放しそうになる。
「……ま、こいつが一番いいか」
そんな状態では当然だったか。独りごちて彼女がこちらの傷を指でなぞるのを、全く飲む警戒で眺めていた。いや、直後に襲うだろう激痛への警戒だけは頭の中を即座に埋め尽くしていた。
が、来る筈の痛みが一向に訪れない。気がつけば、あれだけ酷かった腕の傷が痕跡も残さず消えている。
「……治った?」
「コアエネルギーの塊で表面を埋めただけで、直したとは違うよ。失った分を代替させてあるから、似たようなものだけど。ほら、顔の分も」
「どう違うの」
「所謂放出系、指向性を持ったコアエネルギーに干渉されると、傷口を埋めた分のエネルギーが反応して霧散する。そうなったら元通りだ。埋めた部分が自然治癒で本物の肉と置き換わるまでは、戦場に出るべきじゃない……まぁ、そうも言ってられないんだがね」
概念だけで説明してくれるのは有難い。アルハとしても、メードに関して理解しているのは多くが概念のみで、技術的な話をされると口を噤む以外になくなってしまう。復元された左腕を不審と不安を胸に眺めるが、特に不可思議な部分も無い。触れてみても感想は変わらず、指で肌をなぞればその感触も知覚出来る。
相手がこちらの頬の辺りに手を翳すと、あれやこれやといった細かな痛みも消えた。見えはしないが治っているのだろう。触れてみれば、やはり傷の感触は見当たらなかった。一つを除いて。
「その耳、今直すのを拒んだね。いいの?」
「人を憶えておくには、傷があるほうがいいのよ」
千切れたまま傷口だけ塞がった左耳に触れつつ、呆れ気味に答える。ここに着くまでに自身の状態を確認している中で気付いたのだが、左腕の肉をセンチビート級にごっそりと持っていかれた際、左耳も一緒に失っていたらしい。あの
空戦メード、完全に呆けていた癖にそこだけは上手くしらばっくれてみせたわけだ。中々器用な真似をする。
そこまでされ、不意に理解してアルハは相手に尋ねた。
「貴方は医療メードということでいいの?」
「違う。私は……まぁ、説明するのは面倒臭いな。そういうことも出来るのは確かだから、そういうことにして頂戴」
一度明瞭に断言した後、相手はそう曖昧にはぐらかした。なんとなしに興味本位から、追求の為に口を開いて――
発した声が全く形にならなかったのは、偶然ではないだろう。喉がおかしくなったかとも考えたが、そうではない。試しに適当に呟いた意味のない言葉は、問題なく発せられた。
「そういうことにして頂戴、ね?」
彼女はいつの間にか席を立ちこちらを見下ろしていた。目測通りその背は低く、真っ直ぐに立てた人差し指を顔の横で軽く振りながら笑みを作るが、それが本心を現していないのは目元を見れば一目瞭然だ。
何かされたのだろう。が、どう干渉されたのか全く判らない。となれば、現状で迂闊に踏み込むのは避けるのが上策か。そう判じ、アルハは一つ嘆息を零した。了解の印に代わって肩を竦める。相手はそれで納得したらしく、態度を崩して続けてきた。
「貴方が相手にするRVA……アルヴァ=
クロスにも、コアエネルギーを使用した砲撃能力がある。貰えば今塞いだ部分の瘡蓋が取れる可能性もあるけれど、どの道直撃すれば死ぬだろうからね。誤差の範囲でしょう」
「……アルヴァ?」
「ただの偶然よ? アールヴァヘイム」
「知らない名前ね」
年単位で久しく聞いたその呼び名を憶えてはいたが、アルハは惚けてみせた。相手も深い意味があって口にしたのではないらしく、それを追求しては来なかった。
偶然。実際その通りだ。それ以上の意味などある筈もないし、あるべきではない。自然と目を細め、アルハは机の縁に手をかけた。優先すべきものへ意識を向ける。
「殺す相手の詳細を聞いていない。教えてくれる?」
「RVA-X。扱いとしては
リスチア王国の、実際はウォーレリックの試作機だ。各種新兵装の動作確認と薬物、機械化による身体強化などに関する、実戦を含めた最終試験なんかが目的」
「ウォーレリックはメード、ひいては永核技術全般に関して後進と聞いていたけど」
「それはそうでしょう。その為に王国を介しているんだ。いわば隠れ蓑だね。偽りなく技術的に後れを取っている王国としては、高性能なメードを自国に供与して貰えるというのは願ってもない話だ。彼女の戦果を王国のものとする代わり、RVAというメードの詳細は公には伏せる。公務以外での彼女の行動に口は出さない。そして得られた技術の一部は王国に還元する。最後のが特に効いたようでね。先方は簡単に呑んだよ」
まぁ当然だろうね、とでも言いたげに相手が嘆息するまでを視界に収め、アルハは軽く俯いて思惟に耽った。リスチア王国は連合西端に存在する小国で、対G戦争の最初期にGの襲撃によって崩壊しかけた国だ。王国を名乗ってはいるが先の襲撃の一件により王家としての政権は瓦解し、マフィアの頭領がその座に就いた話は一時期連合内の話題を独占した、と聞いている。それを考えれば、武器商人との相性は決して悪くない。抱き込み易くもあるだろう。
加えてリスチアは現状、国力技術力共に連合内では最底辺に位置し、戦力としてのウェイトも低い。連合国内での立場を固めるには、昨今ではメード戦力の増強が不可避であるが、これがまた膨大な支出を要する。
エントリヒ帝国の援助を受けながら国内の復興作業を続けている現状では、その余裕もあるまい。
つまりウォーレリックからの提案は、渡りに船でもあったのだろう。全身の鈍痛が消え失せたおかげか、適当な考察にも多少の纏まりが見える。一通り思案を終えて視線だけを相手に返すと、彼女はやれやれと肩を竦めてみせた。
「尤も、あの子の性能が余りに上等過ぎたものだから、最近は他国から本当にリスチアの戦力か怪しまれていた節もあったようだね。それを鑑みれば、まぁ……悪くないタイミングだよ。うん」
「
一人で勝手に納得されても困るわよ」
「そうだね。じゃ、ここからが本題だ。他国に供与させる上で型番では都合が悪いから、彼女には便宜上アルヴァ=クロスという呼称が使われている。試験機という運用上、当然ながら装備も全てワンオフだ。とはいえ、大半を取り上げた状態で放逐したから、現状は素手といっても差し支えないだろうね」
「放逐?」
「壊れるのは時間の問題だった。だから奴等は、彼女の処分を害虫共に任せることに決めて、思いっきりしくじった。自分たちが造り上げた兵器の性能を甘く見たのさ。彼女は害虫数百と、ついでにその場の味方陣営も一人残らず壊滅させて、今はグレートウォールを放浪中。これが大体、六時間前の出来事だ」
「六時間とは。あれこれと下準備がよかった割に、問題が起きたのは随分と最近の話ね……いや、待て」
咀嚼するように独りごちて、アルハはデスクの上に置かれた小さな時計に目をやった。針は十時を指している。部屋には窓がなく外の様子は確認できないが、恐らくは夜中だ。自分が丸一日気絶していたのでもない限りは。
「もしかして、さっきの戦闘の時か」
「ご名答。部隊が幾つか壊滅した、というだけならよくある話。それに、放っておいても全滅してただろう場所だったからね。大した問題ではないけれど、アルヴァの暴走が連合軍に知れては余りよろしくない事態になる。味方部隊は瞬殺、本部に連絡がいった様子もないけれど、アルヴァ当人が生きている以上はどう転ぶか判らない。今の彼女は見境がないし、万一連合軍と戦闘して周辺事情を調べられるような流れになると色々厄介だ。特に、ウォーレリックとリスチアの癒着が露見するのだけは防いでおきたいからね……残してはおけないというわけらしい」
「どうやれば人格が壊れるほど人を弄れるの」
「メード技術はまだまだ未知の分野だ、彼らにとってはね。ここまでは大丈夫って線引きが分からないのさ。何しろスタートラインが人体実験に置かれているんだ、最初から一線を振り切っている。そして研究者というのは知的好奇心が旺盛でね。そりゃ壊れるまでやるさ。まぁ、安心しなさい? 拷問の類で壊れたわけではないから」
「そ。あんたもそういったクチ?」
「冗談。私は研究者でも科学者でもないし、寧ろ色々と後悔している側だ。何もかも手遅れだけど。とまぁ、そういうわけだから。とりあえずは以上かな。彼女のスペックに関しては仕様書があるから、それで確認して。あと――」
不意に、彼女が腕を伸ばした。前触れもなく余りに唐突だった為に反応が遅れたが、それが危険とも感じなかった。残っている細かい傷でも処理するのだろうと、注意を外し――
その手がこちらの胸を鷲掴みした結果を受けて、とりあえずアルハは息を止めた。
「……何をしているの、あんたは」
「いや、もう一つ気になったことがあるからね。調べるから、とりあえず脱いで」
「ああ゛?」
喉の奥から搾り出したような低い唸り声。それが自然と口をついた。そんな声を出したのも久しい、いやもしかすれば初めての経験だったかもしれない。
「唸った所で、そんな半分崩壊したような服に今更意味なんてないでしょうに。どうせ脱ぐんだから大人しくしなさい」
「ふざけるな。ちょっと、あんた何処触ってんの!」
「……あら、見た目以上に大きいのね。着痩せするほうかしら」
「ああ゛? 知るか! 考えたことも無いわ!」
「……勿体無いわね貴方。まぁ、騒ぎ過ぎだから少し黙ってなさい」
ぎしりと、錆付いた機械を回すような音が聞こえた。或いは、歯車が何か異物でも噛み込んだような。実際に起きた状況も含めれば後者が近いか。体が動かなくなる。
感覚が失われたのではない。何度も経験したそれとは違う。本当に指先一つ、眼球すら動かせなくなっていた。当然声も出ない。脂汗が滲んで頬を伝う感触を肌に感じ、次の瞬間には急激な浮遊感に上下の感覚すら覚束なくなる。それがベッドの上に放り投げられた所為だと気付いたのは、背中に軟らかい衝撃を受けた後だった。
相変わらず視界が動かない。だが相手は、自分から顔を覗かせてきた。
「さて、貴方のコアの位置は? 胸の辺りなんだろうけど、色が薄過ぎてそこから先ががよく見えない」
「……左の肺腑」
「オッケー」
暗示を解かれたように口が動く。相手の外見は十代後半ほどだが、了解の印に顔の横で片手で丸を作った彼女は矢鱈と子供じみた、或いは小悪魔めいた顔をしていた。色素の抜け落ちた病弱そうな外見と、その瞬間の快活な様との隔たりが、そういった印象に繋がったのかもしれない。
尤も、相手もまたメードであり、片腕を引っこ抜かれるような勢いでベッドに放り投げられた時点で、彼女自身は病弱などという単語とは全く縁がないのはこれ以上ないほどに理解したが。ともすればこちらの方が余程病弱である。
衝撃に軋み音も殆ど立てず、それでいて体が半分ほど沈み込むベッドというのは、相当の上物に思えた。部屋の殺風景さには不釣合いなほどに。小さく「しまった」という声が聞こえたのは、そんな高級品にこんな状態のアルハを放り込んで無駄に汚してしまったことへの後悔か。
その辺りは一度吐き出した大きな嘆息で呑み込んだのだろう。暫くして、視界の外で女の呆れ返った声が響く。
「……よくやる。半分どころか四分の一も残っていないじゃない。どうしてそこまで動けるのやら」
「何の話」
「永核に内包されたエネルギーの残量。現状、普通のメードであれば死ぬまでに三分の一使うかどうかといったところだ。エネルギーを直接攻撃の手段に使うにしても、ここまで使い切る奴はまずいない」
いつの間にやら身体も動く。上体を起こしながら改めて全身を確認してみても、特に変化は見受けられなかった。相手の口ぶりからして、何かされたのは間違いない筈だが。
何時の間にか自分の席に戻った彼女が、少しだけ得意気に鼻を鳴らした。
「少し足しておいた。一月程度は寿命が延びたと思うよ」
「足した?」
「今回の件の駄賃代わり。貴方に現金を渡しても、大して意味は無いでしょう?」
後ろ手に机の引出しから札束など取り出して、気のない手つきで机上に放る。
「メードの肉体は人間の死体を基にしている。これをコアエネルギーを用いて半強制的に動かしているわけだ。体の全身に行き渡ったエネルギーは血液の代替として、肉体の維持と強化に消費されている。これが乏しくなり循環に支障が出れば、メードの肉体は内側から壊死していくわけだね。一般的なメードが今のようなGとの抗争を続けるという過程で、肉体維持が不可能なレベルまでエネルギーを消費するのにおよそ二十年弱。世間一般では十年程度と目されているけど。エネルギーそのものを放出する能力を持つ場合、その量に倣って寿命も消費する。とはいえ、余程過度に使用しない限りは数年の誤差だ」
そんな解説に暫く耳を傾けて、話の半ばほどでアルハは相手の言わんとしていることを察した。と同時、それが自分にとって極めて致命的な部分に触れるものだとも理解する。
聞くのを恐れるべきか――ふとそんな考えが頭を過ぎるが、そんな思惟に至る時点で意味がないと気付いた。今更怖がるものでもない。臆面もなく、相手を促す。
「それで?」
「大人しくしていて半年弱、或いはそれ以下。というより、既に一部の臓器が死んでいるようね。とっくに使い物にならなくなっているものを本当に極限の所で無理矢理動かしている状態だ。もう平素だろうが戦場だろうが、あちらこちらで齟齬が出ている筈。心当たりだってあるんじゃない?」
問われて、まぁ思い当たる節は数多とあった。永核が都合よくどうにかしているものだと考えていたが、本当にその通りだったらしい。勿論彼女の話をそのまま信じるかといえば否ではあるが、こんな突拍子もない嘘を並べる理由もあるまいと頭の隅では理解していた。
結論を促す。
「今の調子でいけば?」
「今追加した分を含めても、二月ほど持てば御の字でしょう」
「そう。身の振り方の参考にでもするわ」
実質上の死刑宣告にはそれだけを告げて、アルハはベッドから腰を上げた。肩と首を回し調子を確かめ、身体に問題がないのを確認する。擦り傷や打撲の痕は多く、疲労も回復しているとは言い難いが、そこまで高望みするのは野暮か。現地到着までにどれだけ身体を休められるかが問題だ。
と、呆気に取られたといった声音で相手が呟くのが耳に届いた。
「……本当に、驚きもしないのね」
「似たような話は飽きるほど聞いたわ。ついでに言えば、とっくに飽きてる」
「飽いたとしても、恐れまで忘れるべきじゃあないわよ。人は死を恐れてなんぼのものだ。それを忘れたら、人間の真似事すら出来なくなる」
「憶えておくわ」
軽い手振りも交え、相手に背を向ける。死ぬまで戦おうと、それだけを考えて生きてきた。他の生き方など知らない。頼まれたが為に、そして何よりも自分が心の奥底でそれを望んでいたが為にだ。
別に自分の力を証明したいとは思わない。Gとの戦いの中に楽しみを見出しているわけでもない。本音を言えば誰かを助けたいという気持ちすらない。それでも、自分の心は戦いを望んだ。何を得る為なのかが自分でも判らないまま、それを欲し続けた。
頭がおかしいのだろう。リーズに答えた通りに。全ての理由とするには投げやりな答えではあるが、他に適切な言葉も思い浮かばない。
(それとも、そんな私だからこそ。
壊れた人形の相手としては適当ということかしらね)
例え相手が誰であれ、求められて必要ならば戦える。使う側としては実に都合がいい存在だ。暴発さえしなければ。
と。扉に手をかけたところで、アルハは気付いて振り返った。きょとんとした顔の相手に向けて、尋ねる。
「で、私はこんな格好でどうすればいいの?」
半裸にも近い自分の格好を指し示して、アルハは肩を竦めてみせた。
最終更新:2013年03月11日 00:37