ただ愛が欲しかった
今までずっと夢を見ていた
友達はいっぱいいて、お父さんもお母さんも私を
愛してくれる
そんな素敵な夢
でも夢は覚めてしまった
目を開けた私は嘘にまみれた現実を見た
偽りの居場所に本当の愛はない
私は逃げた
私を騙す全ての嘘から
逃げた先は欲に穢れた美しいほどに醜い街だった
私は必死でこの街で死ぬことを拒んだ
明日を買うために春を売り、食べるために嘘を吐いた
生きてさえいればいつか幸せになれると思っていたから
そんな思い上がりを抱く子供だったから
彼と出会った日のことは今でも覚えている
私の嘘を暴き、涙を拭ってくれたあの日から私は彼のことを愛していた
独身を騙る好青年を私は愛してしまったのだ
彼とは週に1、2回顔と身体を合わせる関係だったが、それでも幸せだった
ここで満足していれば幸せなままでいられたかもしれない
でも私は愚かにも更なる幸せを求めてしまった
本当の愛の証明を求めたのだ
私の過ちは彼との間にある0.01mmの壁を貫いたこと、そしてそれを彼に黙っていたことだ
私の目論見は成功した
彼の種は私に根付き芽を出した
私は嬉しかった
2人、いや3人が本当に愛し合う未来を夢見ていた
そしてその夢も覚めた
私は彼に孕ったことを伝えた
愚かな私は彼が喜ぶことを疑わなかった、信じていた
「おろしてくれ」
彼はそう言った
私を裏切った
その言葉が「子供を堕ろせ」という意味だということに気がつくのに時間がかかった
そして彼は「僕には妻がいる」だの「君とは遊びだった」だのと続けた
その時、私は気がついた
彼はずっと私を騙していたこと
そしてこの世に本当の愛なんて存在しないことに。
時刻は12時
魔法は全て解けた
本当はこうなることが分かっていた
だからこれを持ってきた
私はいつも彼がするように彼をベッドに押し倒した
そして彼を私に挿れる代わりに私は彼を刺した
赤い液体が彼から溢れ出す
苦悶に歪む彼の顔は素敵だった
だから何度も刺した
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
そして彼が動かなくなった
この世から嘘つきが一人消えた
嘘つきが消えた後は嘘を消さなきゃ
私は私の中の嘘に、愛を騙る嘘に刃を振り下ろした
痛くて熱い
血がどくどく溢れ出る
まるではじめての時みたい
私は腹を刺して割いて嘘を抉り出す
これは嘘にまみれた人生への罰だ
嘘つきは地獄に落ちるんだ
そう思えばどんな苦痛も平気だった
だんだん寒くなって体が動かなくなってきた
自分が作った赤い海に溺れる
自分が作った赤い海に溺れる
まだドス黒い腹の内を曝け出していないのに……
そんなことを考えながら少女は息を止めた
夢野ユリコは死んだ
どう?愚かな少女のお話は?面白かった?
そう。それは良かったわ
……大事なことを言い忘れていたわね
『この話に嘘はないわ』
そう。それは良かったわ
……大事なことを言い忘れていたわね
『この話に嘘はないわ』