一人じゃない、星にウィンク ◆j1Wv59wPk2



三村かな子は、とある民家に身を潜めていた。
その視線の先には、二人の参加者と思わしき少女達。
かな子はなぜ彼女達を見つける事が出来て、そしてなぜ身を潜めているのか。

前者の理由は、彼女が先程入手したアプリ『ストロベリー・ソナー』によるものだった。
学校で受けた主催からの指示に沿って入手した専用アプリ。
それは事前に予想していた通り、特性手榴弾『ストロベリー・ボム』の位置を示すアプリだった。
半径1kmほどを探知し、それがあるならば地図上に表示する。
それによれば、持っていた自分自身以外にもう一つ、町役場の前で反応があった。
だから彼女はそこへ向かい、その持ち主を発見したのである。

そして後者、なぜ彼女は身を潜めているのか。
それはかな子自身が彼女達を殺すかどうかを決めかねていたからだった。
別に怖気づいた訳ではない。一番最初の時点でとうに"人を殺す"覚悟はできている。
それでも手を出さなかったのは、単純に殺すことの利害を考えていたからだった。

相手は二人、かな子から見た方向だと二人は重なっていた。
距離も遠く、片方を残せば、そのもう片方に襲撃を悟られてしまう。
すぐ近くにあるのは役場。相手は即座に身を隠す事ができるだろう。
今持っている武器では、彼女達を一気に殺せる手段は無かった。
……正確には先程入手したストロベリー・ボムがあったが、
この特性手榴弾は焼夷弾タイプで、さらに1.5倍の威力を誇る。
もしこの爆発が彼女達のストロベリー・ボムに引火した場合、想像以上の大惨事になる。
まだ始って間もない状態から身を危険に晒すのは、"最後のアイドル"としては喜ばしくない。
訓練(レッスン)として、会場内で行動する『計画』を教えられた時、
最初の六時間は様子見し、ロワイアルの動向を見る事を勧められた。
最終的な判断は自ら現場で判断するべきだと言われたが、かな子はその教えに従うつもりでいた。
狙えるアイドルは狙うが、危険を伴いそうならまだ狙うべきではない。そう思っていた。

そして、そう判断した理由はそれだけではない。
彼女達の近くには死体があった。
死体の状態と持っている武器から見て、手を下したのが彼女達の片割れであることはほぼ確定していた。
そして、殺したはずの二人はそれほど動転した様子も無い。
この様子から推測するに、おそらく彼女達は殺し合いをする者たちなのだろうと思われた。
つまり、彼女達はこれから自分と同じ、人を殺して生き残るつもりだ。
手に持っている武器を使って、ストロベリー・ボムを使って、どんな手を使ってでも……。

つまり、かな子はアイドル達による潰し合いを期待したのだ。
変にここで有望な参加者を殺してしまうと、このイベントそのものが破綻してしまう可能性があった。
彼女達の場所はこちらで手に取るようにわかる。
ストロベリー・ボムは確かに強力な支給品ではあるが、場所が分かる以上、こちらには大きなアドバンテージがある。
その気になればいつでも殺す事ができる。そういう意味ではむしろ他の参加者より脅威ではない。
だから、この場は彼女達を見逃し、別の場所へ向かう事にした。
かな子は既に次に向かう場所は決めていた。
いずれ来るであろうアイドル達との『決戦』に向けての準備をするべく、歩みを進めた――

    *    *    *

無機質な電気の光が支配する病院。
その道端で、一人の少女がまるで人形のように座り込んでいた。

「………私、私は………」

少女――栗原ネネは、あれから未だにできること、することが決断できずにいた。
即ちそれは、殺し合いに乗るか、否か。
その問いは彼女の中で幾重にも繰り返され、そして答えが出ないまま時間だけが流れて行った。
彼女が選べる道には、結局どれも犠牲の先にあった。
まだ未熟な少女には切り捨てる非情さを選べず、答えのない問いをただ繰り返した。

いっそ、死んでしまえば楽なのかもしれない。
首につけられたチョーカーにそっと手をかけ、そう考える。
これをただ引っ張るだけで、こんな現実にお別れを告げられる。
でも、ここで私が死んでも、プロデューサーが助かるという保証は無い。
死んでしまえば、妹は悲しむし、プロデューサーの身にも危険が降りかかってしまう。
だから、死ねない。死ぬことさえ許されない。


――本当はそんな事、ただの建前なのに。
ただ単純に死にたくない。怖い。それが本心なのに。
もう一度妹に会いたい。プロデューサーに会いたい。あの頃に、戻りたい――


彼女の頭は、そんな事まで考えてしまう程に疲労し、追いこまれていた。
肝心の決断がいつまでたっても出来ず、ただ時間だけが過ぎてゆく……





ふと、どこかで音が聞こえた気がした。

「…………?」

その音量は微々たるもので、集中していないと聞こえないほどだったが、確かに絶え間なく何かが鳴っている。
それは何かの曲のようだった。どこかで聞いた事のあるような、そんな曲。
一体どこから鳴っているのか……、目についたのは自分のデイバッグだった。

(そういえば……まだ確認してなかったけど、…何が入っているんでしょう?)

目覚めてすぐ、バッグを開けて中身を少しだけ見たが、奥の方までは目を通してなかった気がする。
今、改めてもう一度そのバッグを開けてみると、鳴り響く音がより大きくなった。
……間違いない。原因はこの中にある。
バッグの中に手を突っ込み、手さぐりでまさぐってみると、何かが震えていた。
取り出してその姿を確認してみると、それは意外となじみの深い物だった。
――携帯電話。これから音楽は鳴っていた。
それはつまり、どうやら何者かから着信がかかっている、ということだった。
その番号に見覚えは無い。……知っている者からかかってくるとは思ってはいなかったが。

彼女はそれに出るかどうかを迷った。だがすぐにその携帯を開ける。
何故電話が鳴っているのか、相手は一体誰なのか、……相手は、道を示してくれるのだろうか。
出るだけならおそらく危険は無いはず。彼女は意を決してボタンを押した。


『も、もしもし……、あなたは……誰ですか?』


相手からの応答。彼女は、答える。



「私……私は、栗原ネネ、です」





『……そ、そう……栗原、ネネ……』
「はい……」

…………会話が続かない。
そもそも相手は何故掛けてきたのだろうか。
電話の相手を知りたかったから?そもそもこの人は誰?

「あの、あなたは……」
『あっ、こ、こっちが名乗らないと、失礼ですねー……』
「あ、いえっ、別にそういう訳では」
『えっと、ショーコ……星、輝子、です』
「星、輝子さん……?」

その名前には聞き覚えがあった。
ごく最近人気を博してきた売れっ子のアイドルだと、プロデューサーは言っていた。
まだブレイクして間もないのに、こんな場に呼ばれてしまった心境はどうなのだろうかと、いらぬ心配をしてしまう。
だが、それとはまた別に違和感も感じていた。
そもそもネネには彼女の事は少ししか知らないが、確かかなり激しいイメージのアイドルだと聞いた。
そのイメージだけで判断するなら、おそらく殺し合いに乗るものだと、そう思っていたのだが。
電話の向こうでその星輝子と名乗る少女は、そのイメージからかけ離れていた。

「なんだか、いつもの雰囲気と違いますね」
『え、あっ…………フ、フハハハハ……は……』
「む、無理しなくて大丈夫ですよ!」

考えてみれば、彼女だってまだ年端もいかない女の子のはずだ。
仕事でこそ激しい姿を見せているのだろうが、その姿が彼女の全てであるはずがない。
気弱で、今にも潰れてしまいそうな声。それが彼女の素の姿なのだ。
ネネは自らの先入観を反省した。

「えっと……それで、あの……」
『……っ、あの!…ね、ネネさんは…』
「……はい」

話が途切れて、何かを切り出そうとしたその時、相手の方から声をかけてきた。
そもそも電話をかけてきたのはあちらの方だ。
世間話をして終わり、というわけではないだろう。
つまり、ここからが本題。ネネには、その大方の予想がついていた。

『こっ、殺し合い……する?』
「………」

いきなり切り出された、彼女の問い。おそらくこれが本題だったのだろう。
それは、栗原ネネ自身がずっと悩んでいた選択だった。
始まってからずっと、時間が流れる事も忘れてずっと考えていた事。


――私は、この問いにどう答えるべきなのだろう。

相手の事を考えるなら、「殺し合いなんて乗っていない」と、そう言う方が賢明かもしれないけど。

でも、それは本当の私の気持ちじゃない。

そんな事を言える程、今の私の気持ちは固まっていない。

だって、だって私――




「………分かりません」
『えっ?』
「分からないんです。私はどうすれば良いのか、一体何ができるのか……」

気がつけば、ネネは自らの悩みを口に出していた。
一度出してしまった感情は、決壊したダムのように溢れ出ていく。

「プロデューサーさんには、死んでほしくない。
 でも、私は多分……人を殺す事なんてできない。
 やらないと、プロデューサーが死んでしまうから、人を殺さないといけないのに。
 でも、そんなことをしてしまったら…私はもう、二度と大切な人に顔向けできない。
 私は、どっちも選べない。怖くて……何もできない」

今、自分が置かされている現状を口に出して言っているうちに、その絶望を噛み締める。
そしてその現実にどうしても自分が無力だという事を嫌でも知ってしまう。涙が出そうになる。

「私の言っていることは、我が儘なんですか?
 どちらも大切で、どちらも失いたく無い……なんて、望んではいけないんですか!?
 私っ、私は……ただ、皆と一緒に、帰りたいだけなのに……」

それは、途中から涙声の叫びになっていた。
人のためにアイドルとなった少女にとって、誰かを犠牲にしないと生きられない。
その現実があまりにも辛く、厳しかった。

「教えてください……私は、どうすれば良いんですか?」

そして、彼女もまた問いかける。
こんなことを赤の他人に言っても仕方のない事であるはずなのだが、もう彼女は考える事に疲労していた。
決断ができない。どっちに進めば良いのかが分からない。
教えてほしい。導いてほしい。そこには癒しの女神などでは無い、ただの15歳の少女の姿がそこにあった。

一通り言い終わって、ネネはハッとした。
何を言っているんだろう。こんな事、赤の他人に言う事ではない。
自身の発言を後悔し、謝罪の言葉が口から出かかった時――



『……なんだかよくわかりませんけどー…多分、それって、私と同じじゃないですか……?』



静かだった少女が、言葉を発した。



「……同じ?」
『わ、私だって…殺し合いなんてしたくないし……
 でもプロデューサーにも死んでほしくないし…。
 だって、……と、友達だから。キノコと、―――……』

最後の方は電波状況が悪かったのか、ノイズ混じりで聞こえなかった。
しかし、その名はおそらく彼女にとって大切な、彼女のプロデューサーの名前なのだろう。
……なぜそこでキノコが同列に出てくるのかはネネには分からなかったが。

「友達……」
『そう、友達……。
 私、ボッチだし、キノコ以外に友達居なかったんですけど、
 今は、プロデューサーも、他にも皆……友達……フフ、フヒヒ……』

ボッチ……純粋無垢なネネにとってはあまり聞きなれない言葉であったが、
あまり良い印象の言葉では無いように感じた。

『だから、プ、プロデューサーは、友達だから、助けたい、けど……、
 ここにも、友達が居るから……美優さんと雪美、が……
 殺し合いとか、そんなのできるわけ無いし……どうしようって、思ってたから……
 ほら、やっぱり、私と同じ……フフ』

たどたどしく、彼女は話を続けていく。
……もしかして、彼女なりに励ましてくれているのだろうか?
ネネには電話の先の少女のその真意は分からなかったが、推測はできる。

彼女の言葉には"友達"という言葉が多用されていた。
彼女にとって、……おそらくずっと一人だった彼女にとって、"友達"という存在は想像以上に大きいのかもしれない。
確かに、彼女の言うとおりきっと自分と同じ……むしろ、彼女の方がより非情な現実があるのだろう。
友達を一人として失いたくない。彼女もまた、見えない道の上を歩いていたのだ。
そして、その答えは未だ見えていない。

「その……ごめんなさい。
 輝子さんだって辛いはずなのに、私……」
『あ、い、いや、そういうつもりで言ったわけじゃないんですけど……』

改めて、ネネは自らの言葉を反省した。
いつもは相手の気遣いのできる少女、その素をさらけ出してしまった事に対して負い目を感じていた。
特に、顔さえもよく知らないような人に対して、である。
その様子は声しか聞こえず、会った事もない輝子も察する程であった。


『あ……あの』



だからだろうか。
彼女が意外な提案を持ち出してきたのは。




『だ、だったら……その、私達の所、来ません……?
 えっと……ひ、人が多ければ、な、悩みも解決するかもしれないですよ…』
「……え?」



彼女が突然切り出してきた提案。それは、合流の提案だった。


『ほ、ほら、こっちは…その、ひ、人が他にもいるから……
 多分、きっとネネさんの役に……た、立てるかも……』

ネネからすれば、それはとても意外だった。
彼女は電話先の相手のことはよく知らない。それは確かな事だったが、
電話での印象から、このように積極的な人物とは思えなかった。

「で、でも、私……その、ご迷惑を……」
『え……め、迷惑なんかじゃ無い、ですよ……多分……』

その事自体初耳だったのだが、どうやら電話先の相手には仲間がいるようだった。
それはこの殺し合いにおいて、少なくとも今は人を殺してない……
つまり、ほぼ殺し合いを否定しているのではないか……と、そう危惧していた。
それが反逆と見なされ、プロデューサーが死んでしまうかもしれない。
だから、その提案を受け入れてしまうのは早計かもしれない。
単純な遠慮だけではなく、彼女にはそんな理由もあった。

「ごめんなさい……私は……その……」
『………』

だが、栗原ネネはその提案を断りきれなかった。
確かに、一人ではまったく分からない事も、他の人がいるならなにか解決法を見いだせるかもしれない。
それにここで断ったとしても、他に案があるわけでも無い。
決断の出来ない彼女を助ける提案。その提案を受け入れるかどうかもまた決断だった。
結局の所、彼女は自分の意思で、犠牲の道を進まなければならない。
………それか、どこかに隠れている、犠牲を出さない道を見つけ出すか。

『………こ、こちらこそ、すいません……。
 なんか、勝手な、こ、事言っちゃって……』
「……あ…っ」



これが、最後のチャンスなのか。
彼女はそう思い、答えを決めかね、ふと窓の外を見たその時――




「あの、私は…っ!?」



栗原ネネは、確かな"死"を見た。





    *    *    *

『…ッ!』
「な、何!?」

遊園地のトイレの中、人目を避けるように電話をしていた輝子の声が響く。
電話の向こう側で聞こえた物音、中断された相手の声。ただ事では無いと感じた。
もしかして、誰かに襲われた?命の危機が迫っているのだろうか?
悪い想像が彼女の頭を駆け巡る。しかし、その最悪の事態には至っていなかった。

『ご、ごめんなさい…。今、人が来て……その……っ』
「……ひ、人?」

いまいち要領が掴めないが、何やら緊迫した状況のようだった。
だが、とりあえず今はまだ無事なようだ。それだけで一安心だった。

『……輝子さん。あの……輝子さんは今、どこに?』
「え…? ゆ、遊園地ですけど……」
『……私、本当は迷っています。
 ここで進むべきなのか、そうでないのか……。
 今は、ちょっと時間が無いみたいです。
 私が生きて、決断できた時……その時、もう一度電話します。
 それまで……ごめんなさい』
「え……ちょ、ちょっと、ネネさ……っ!」

その声を最後に、通話が切れた。
もう声は聞こえず、ただ携帯の機械音が流れるだけだった。

「………大丈夫、かな……」

状況はさっぱりわからないが、鬼気迫る状況なのはなんとなく理解できた。
そんな中、こちらがもう一度電話を掛ける事は出来ない。
今の輝子にできることは、無事を祈る事だけだった。

「……なんで、あんな事言っちゃったんだろう……」

彼女は携帯を閉じ、キノコに手を触れ、物思いにふける。
会った事も無い人に、誘いをかける。それは、昔の彼女ならば考えられないような事だった。
彼女がここまで変わった理由……それは、やはり"友達"の存在が大きかった。

三船美優佐城雪美。同じプロデューサーの元、集まった人達。
人付き合いが苦手な自分に、プロデューサーが手を差し伸べてくれて、今では二人共と話すようになっていた。
キノコを可愛いと言ってくれた雪美、自分に優しく接してくれた美優。
長らく"ボッチ"であった輝子にとって、その全員が大切な友達だった。
一人を経験してきた輝子にとっては、その大切な友達を失いたくない。
そんな気持ちが、少しだけでも確かにあった。

それは今の今まで、はっきりとした気持ちでは無く、彼女自身もそれを意識することは無く過ぎていった。
しかし、少しの好奇心で掛けた電話が、その相手が、彼女にその意思を認識させた。
今までさしたる目的も無くただついて来ただけの少女に、その『目的』が出来たのだ。
だから彼女は、相手に合流を持ちかけた。
それが正しい判断なのかどうかの判断はできなくても、彼女なりの行動を起こすことが出来た。
それだけでも、彼女なりに一歩前進できただろう。

「…これから、どうしよ……、
 ……あ、まずは、戻って、報告しないと………」

キノコを弄っていた輝子は、おもむろに立ち上がる。
果たして、電話先の少女は神だったのか、悪魔だったのか。
その答えも、自らの道も、今の彼女にはわからなかった。



【F-4 遊園地/一日目 黎明】

【星輝子】
【装備:ツキヨタケon鉢植え、携帯電話】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品×0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:友達を助けたい。けどどうすれば良いかわからない。
1: 栗原ネネの電話を待つ。

※三船美優、佐城雪美、星輝子は同じPによるプロデュースです。
 ただし、同じユニットでは無く、それぞれ単体で活動しています。


    *    *    *


病院に三村かな子が来たのは偶然ではない。
彼女は、やがて来る他のアイドルとの『決戦』に備えて、医療用品の調達をするべく向かっていた。
全てのアイドルの敵となる彼女にとって、一切の妥協は許されない。
かな子は生き残るために、たった一人のアイドルになるために、計画的に病院に向かった。

ただ、そこに居たアイドルと目が合ったのは偶然であったが。

それは一瞬の事で、咄嗟にそのアイドルは窓から身を隠した。
窓までは距離があり、武器が確実に当たるような距離ではない。かな子は相手に狙い撃ちされる前に病院へ入った。
相手を視認できたのは一瞬の事であり、人数や武器に関しては一切分からない。
相手が誰なのかすら分からず、故にこの殺し合いに肯定的なのかどうかも分からない。
だが、見られた以上はこちらも臨戦態勢を取らなければならない。

銃を構え、病院内を進む。
かな子は一週間前からこの島を訪れ、レッスンの合間にこの島の主要施設は全て訪れていた。
この病院の中で実践レッスンを行ったこともある。
故に、彼女はこの病院の構造を他の誰よりも理解していた。
最短ルートを通り、二階へ上る。そして最短ルートで相手が覗いていた窓へ向かう。
相手に準備させる隙を与えず、迅速に殺す。
もちろん既に相手が迎え撃つ準備をしている場合も考え、警戒を怠らず、かつ迅速に進む。
できる限り冷静に、レッスンで学んだことを生かし進む。
そして、彼女はその窓にたどり着いた。

だが、その場所にあのアイドルは居なかった。
この病院のどこかに逃げたか、隠れたか……彼女はその窓に手をつける。
しかし、かな子には相手がどこに行ったのかが分からなかった。
その場所から何処かへ、その痕跡がどこにも見つからない。
なら、そのアイドルを排除するために手当たり次第に探すしか無いと判断し、ふと窓の外を見て……

――彼女は、もう一つの可能性に気がついた。

窓の下を見る。そこには、病院の入口を守るように頑丈な屋根がついていた。
2階からその屋根への高さの差は小さく、そして屋根から地面への差もまた小さい。
………例えば、もしここから屋根を伝って飛び降りたとしたら、大した怪我は負わないのだろう。
その事実に気づいた時、彼女は身を乗り出して周りを確認した。
そして、かな子から見て右――方角にして東に、こちらに背を向け走る少女の姿があった。

「………!」

咄嗟に銃を構える。そして、





「……射程距離範囲外、です」

銃をそっとおろした。



背を向け逃げ去る少女の姿を見て彼女は、おそらく殺し合いに乗っていないアイドルなのだろうと推測した。
なら、できればここで殺しておきたい。しかし、彼女には優先すべき事がある。
ここに来た本来の目的、それを成し遂げるのが先だと判断し、かな子は病院の奥へ消えていった。



【G-3 総合病院/一日目 黎明】

【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り)
     M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、カットラス、ストロベリー・ボムx11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。
1:病院内で医療用品等を調達する。
2:最初の6時間は派手な動きはしない。

※ストロベリー・ソナー
 地図上の半径1kmを範囲として、その範囲内にストロベリー・ボムがあるなら地図上に表示するアプリ。
 このアプリのダウンロードは学校の視聴覚室で誰でも可能。ただしそれを知っているのは現在三村かな子だけです。

    *    *    *

「はぁっ……はぁっ……」

暗闇も開け始め、栗原ネネは草原を走る。
病院へ一人の少女が訪れる。その事実だけなら、彼女はここまで取り乱す事はない。
しかし、ほんの一瞬だけ目が合った。その一瞬だけで、彼女は相手の危険性を察知した。
栗原ネネは死に近い場所に縁があったとは言えただの少女。特別それを見切る能力があるわけではない。
つまり、そんな少女にすら分かる程、あの少女の目は闇を秘め、その姿はおぞましさを身にまとっていた。
想像とは違う、もっと具体的な"死"。彼女はそれを垣間見た。

もしも、あの電話が無かったら。
きっとあれからずっと自己嫌悪に陥り、気づく間も無くあの人に殺されていたかもしれない。
もしも、その相手が待ち合わせの提案をしていなかったら。
きっと窓から飛びたすなどといったことはせず、病院の中で恐怖に怯えて隠れていただろう。
あの電話が、彼女の運命を変えた。
それが良い事だったのかどうか、そしてその先にある結末、そんなもの今の彼女にわかるはずがない。

――私は、そこに向かうべきなのだろうか。
殺し合いなんてしない。それがアイドルとして、人として正しい選択なのだろう。
しかし、そのためにプロデューサーを危険に晒さなければならない。
プロデューサーを助けるためには、殺し合いをしなければならない。
それは、今まで応援してくれたファンの人達……そして、プロデューサーと妹への裏切りだ。
私は、この矛盾に、どうしようもない現実に悩まされてきた。
しかし、それでも時は進む。無情にも、世界は進んでいく。
だからもう、長く迷っている暇はない。
……もうそろそろ、決断の時は迫っている。



彼女の道はぼやけ、そして多く枝分かれしている。
だが、そのうちの一つがまるで星のように輝いてた。
その道に進むのは正しい道?スポットライトから歩き出した少女が選ぶ道は……。



【G-3/一日目 黎明】

【栗原ネネ】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、未確認支給品0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:自分がすべきこと、出来ることの模索。
1:星輝子の元へ向かうかどうかを考える。とりあえず遊園地付近へ向かう。
2:決断ができ次第星輝子へ電話をかける。


前:完全感覚Dreamer 投下順に読む 次:彼女たちの中でつまはじきのエイトボール
前:完全感覚Dreamer 時系列順に読む 次:彼女たちが探すシックスフォールド
前:フォースド・トゥ・フェイス、アンノウン 三村かな子 次:だって、私はお姉ちゃんだから
前:捧げたいKindness 栗原ネネ 次:水彩世界
前:ドロリ濃厚ミックスフルーツ味~期間限定:銀のアイドル100%~ 星輝子 次:安全世界ナイトメア

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年02月04日 16:45