ファイナルアンサー? ◆u8Q2k5gNFo



三村かな子は温泉に向かっていた。

ホテルでもよかったが、かな子のいるG-3からホテルは直線距離で5km弱。
長距離移動するのは精神的疲労を考えても、リスクが大きい。
疲労したところを大勢で襲われたら、不覚をとるかもしれない。
襲撃された場合を考え、薄暗く物陰多い山中を行くほうが良いと判断した。
勿論、山中だろうと可能性はいくらでもあるのだが。


“訓練(レッスン)”は受けていたが、殺し合いである以上、
自分自身が背後からの不意打ち・だましうちで殺される可能性は充分あるのだ。
現に殺し合いに“乗っている”アイドルはいる。


不利なことばかりではない。
“乗っている”アイドルがいるのなら、四十三人全員殺す必要はない。

極端な話、無力を装い他のアイドル達に助けられながら、
最後に裏切って殺してしまってもいい。
誰も自分の正体をまだ知らない。顔を見られた三船美優はすでに殺した。
病院では一人取り逃がしたが、相手も逃げている以上、いくらでも言い訳はできる。
この先他のグループに合流するに支障はない。
好ましくないが、今後のことを考えればそういうなりふり構わぬ手段も考えておくべきか。
半数以上残っている現状では他人に足を引っ張られ、殺されることもありえる。
まだ、その時ではない。


あくまでも、今はスタンダードな“悪役”。命乞いされようと、罵られようとも、
速やかに、確実に、殺す。

どれだけ卑劣でも外道でも…

プロデューサーを救うためなれば。


温泉までの道のりは分かっている。図書館を経由し、市街地を抜けていくコースが最短だ。
山中に入れば舗装された道路もある。


そんなことを考えている間に市街地にたどり着いた。








「…………行こう」

十時愛梨はそう呟いて、立ち上がった。

放送は終わった。やはりあの後、多田李衣菜木村夏樹は死んだようだ。
城ヶ崎美嘉と三船美優はまだ生きている。そして高垣楓も。

放送によれば、美嘉の妹の莉嘉は死んだらしい。美嘉が必死だったのは
恐らく妹の莉嘉のためだろう。その莉嘉が死んだと聞けば彼女はどうなるのだろう? 
怒り狂って仇討ちに奔るだろうか?絶望し生きることをやめてしまうだろうか?
そんな相手を前に彼女たちは…?



(楓さん… あなたは…)

彼女は今何処で何をしているだろう。
高森藍子日野茜と同じく殺し合いを止めようと奔走しているのだろうか。
それとも、プロデューサーを殺した自分に復讐するため、島を駆け巡っているのだろうか。

普段の彼女からは考えられないが、人殺しなど考えたことのないであろうアイドル達が
こうして今、殺し合っているのだ。絶対なんてありはしない。
もし生きて彼女に会えた時、彼女は自分に何と言うだろうか。



(もう…関係ない…)
殺して、生き抜くと決めた。他人の想いを考える余裕はない。
自分のことで精一杯なんだから。


愛梨は北の遊園地へ向かうことにした。
藍子と茜はより人の集まりやすい街の中心部へ向かうだろう。

逆方向へ行けば会うことはあるまい。







二階の窓から外を確認する。
放送も終わり、そろそろ皆動き出す頃だろう。
いつもなら、仕事に向かう時間だ。休憩としては充分だろう。


すでに六人と遭遇していることを考えると、いつまでも留まるわけにはいけない。
この辺一帯にはかなりの人数が集まっている可能性がある。
『十時愛梨は危険人物』と御布令がでているかもしれない。


大勢で殺しにこられたら、殺されてしまうだろう。
いくら銃があっても所詮、扱いは素人にすぎないのだ。美嘉の時のように爆発物を使われたら
為す術がない。クレー射撃のように撃ち落とせればどれだけいいか。


少しだけ空いたカーテンの隙間から周囲を探る。


「あ-------------」


愛梨のいる民家の後方に人影を発見した。


「かな子………ちゃん………」






かな子は周囲に身を隠しながら進んでいた。
何度か来たことがあるとはいえ、市街地の隅々まで把握しているわけではない。
下手を踏めば袋小路や、入り組んだ裏路地から抜け出せず、時間の無駄になるかもしれない。


なるべく横道に入らず、最短ルートで温泉に向かう。
これから山道を登ることを考えれば、無駄な体力消費に繋がりそうなことは避けておきたい。
登山はトレーニングの一種として取り組んだが、ダンスやランニングとは違った疲れがあった。


やっぱりホテルに行こうか… 
一瞬そう考えたが、ホテルに向かうとしても緑に多い島を縦断するのはどのみち同じことだろうと考え直し
温泉へ行くことを改めて決めた。
温泉が既に他のグループの拠点となっていた場合、ホテルに向かうことも考えおこう。


(温泉…かぁ…)

前に来た時は仕事に追われ、ゆっくり楽しむ暇もなかったのを思い出した。
そういえばシャワーも浴びていない。








十時愛梨にとって三村かな子は友達だ。

一緒にお菓子を作り、学校の、仕事の、家族の、友達の、話をした。
そしてプロデューサーの話も。
彼女もまた、プロデューサーに対し、尊敬や信頼以上の想いを抱えている。
でもやさしい彼女は他人を殺せないだろう。


彼女は今の自分をみたらどう思うか。
驚く?悲しむ?それとも怒る?


ぐっとカーテンを握り締める。こちらに来るか、それとも別の方へ行くか。
ある意味一番嫌な相手だが生きると決めた以上、来るならやるしかない。
たとえ仲のいい友達であっても。


階段を下り、裏口から外へ出る。スコーピオンを両手に構え、正面の玄関へまわり、道路を覗いた。
彼女はこちらに背を向け、前方の様子を窺っていた。




殺れる-----------

多田李衣菜を殺した時と目測で同じか少し遠いくらいの距離だろう。しかし、長時間狙いをつけてはいられない。
勘づかれるかもしれないし、移動されるかもしれない。

もし仕留めきれなかったら、一転自分が大ピンチだ。
塀の内側にいるため、玄関に向かって撃たれ距離を詰められたら裏口から家内に逃げるしかない。
塀は高く、素早く跳び越えるのは無理だろう。

ごくりと喉を鳴らす。今まで感じたことのない、不気味な緊張感が愛梨を襲う。



(なんだろう……この感じ………)



隠れながら移動するのは当たり前だろう。
しかし動きが“自然”すぎる。銃の構え方から走り方まで無駄がない。
いくら修羅場をくぐり抜けてきたとしても、一晩でこうも変わるものか?

自分の知る彼女とは明らかに異なる。
顔は無表情で、怯えている様子はない。
まるで別人のようだった。





頭の中で考えが巡る。

“撃つ必要があるのか?”   “これを逃せば次はない”  “殺してしまえ”
“ここは逃がしたほうがいい”  “外れる もっと近づけ”  “お前の覚悟はその程度か” 
“脅威ではない ほうっておけ”  “今しかない”  “二人殺してる 今更戻れない”
“君子危うきに近寄らず”  “殺さねば禍いとなる”  



考えがまとまらない。

撃つか、見逃すか。



十時愛梨はスコーピオンを構えトリガーに指をかける。


決断の時が迫っていた-----------------------







【G-3・市街地/一日目 午前】

【十時愛梨】
【装備:ベレッタM92(15/16)、Vz.61"スコーピオン"(14/30)】
【所持品:基本支給品一式×1、予備マガジン(ベレッタM92)×3、予備マガジン(Vz.61スコーピオン)×4】
【状態:健康】
【思考・行動】
 基本方針:生きる。
 0:---------
 1:殺して、生き抜く
 2:遊園地へ行く

※まだ発砲していません。構えてトリガーに指をかけている状態です。
※藍子と茜は中心部(G-4、F-4)に向かうだろうと考えています。
※かな子に対して得体の知れない“何か”を感じています。



【三村かな子】
【装備:US M16A2(27/30)、カーアームズK9(7/7)、カットラス】
【所持品:基本支給品一式(+情報端末に主催からの送信あり、ストロベリー・ソナー入り)
     M16A2の予備マガジンx4、カーアームズK7の予備マガジンx2、ストロベリー・ボムx11
     コルトSAA"ピースメーカー"(6/6)、.45LC弾×24、M18発煙手榴弾(赤×1、黄×1、緑×1)
     医療品セット、エナジードリンクx5本】
【状態:健康】
【思考・行動】
 基本方針:アイドルを全員殺してプロデューサーを助ける。アイドルは出来る限り“顔”まで殺す。
 1:温泉あるいはホテルに向かい、そこを拠点とし余分な荷物を預け、場合によってはまとまった休息を取る。


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前:23時59分59秒 十時愛梨

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最終更新:2013年02月15日 04:53