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数分後に迫った放送を前に、
向井拓海・小早川紗枝・
松永涼の三人は今後の方針を話し合っていた。
「もしここが禁止エリアになったら何処に行くんだ?東か南の方へ行ってみるか?」
「人を探すんなら、それがええかもしれへんなぁ」
涼の提案に紗枝も頷く。
現に明け方から早朝にかけての捜索では誰も見つからなかった。
といっても完璧にエリア全体を捜索しきったわけではないし、明るくなるまで隠れていた者もいるかもしれない。
「引きこもって隠れてた奴もいるかも知んねーけど、どのみちアタシらだけじゃ全部探し切んのは無理かもな」
拓海は手に持った地図を、テーブルに広げた。
大雑把にいえばこの島は、北東・北西・南の“街”、温泉や遊園地のある“山間部”、
ホテルや牧場のある“小島”の三つに分けられる。
最北端、最南端にある灯台や山頂の天文台などは籠城するには最適だが、禁止エリアのルールがある以上は
身動きできなくなる前に街の方へ向かわざるを得ない。
ホテル・牧場付近にある小島はおそらく誰もいないと考えた。わざわざ好きこのんで行く物好きはいないし、
アイドル同士の殺し合いが目的なら、そんなところに配置する意味はない。
皆で潰しあって最後に残りました… なんてことは主催側も望んではいないはずだ。
以上の理由から、上記の山間部や小島は後回しにして街の方を捜索しながら道中の施設
(ダイナー、キャンプ場、遊園地・動物園、飛行場)を周ることにした。
方針としては、『人を探す』ということに変わりはない。
「近いのは東の街だな」
「博物館の方はいかんでもええの?」
「あー…そっちか」
先の捜索では南側を重点的に行ったため、B-4北側の映画館や博物館は捜索していなかった。
B-4が禁止エリアに指定された場合は別としてそうでない場合、このままB-4に留まり、北西部の捜索を続けるか。
それとも東か南へ向かうのか。
「そろそろ始まるぞ…」
時計をみた涼はそういって話を遮った。拓海と紗枝もそれを聞いて話を止める。
民家の一室で彼女達はカーテンの隙間から次第に強まる日差しを感じていた。
時間に近付くにつれて三人の緊張が高まっていく。
(小梅……!)
涼は顔の前で祈るように手を組み、島内にいるであろう相棒へ呼びかけていた。
大丈夫。きっと大丈夫。あいつにも同じように心優しく強い仲間がいる。そうに違いない。
だから必ず見つけ出す。
はたして想いは届くのか。
『はーい、皆さん、お待たせしました! 第一回目の放送です! 』
遂に、その時が来た。
#
『では、また6時間後、生きている人達は会いましょうね
皆さん――――最期まで、生き延びて見せなさい』
「---------------マジかよ」
予想外の犠牲者の数に三人は驚きを隠せなかった。
十五人。つまり全体の四分の一はすでに殺されたということだ。
ある程度の数は覚悟していた。しかし六時間で十五人ということは自分達が考えていた以上に
“殺し合い”が進んでいる。
やたらと楽しそうな口調の
千川ちひろに怒りを感じたが、同時に力不足を思い知らされた。
(夏樹、李衣菜… お前ら逝っちまったのかよ)
夏樹とはバイクという共通点からツーリングに行ったこともある。
強面の拓海が事務所に馴染めたのも夏樹が積極的に話しかけてくれたおかげだ。そこから李衣菜とも話すようになり、
皆と打ち解けて話せるようになった。
最高に楽しい、いい奴らだった。
二人がどんな最後を迎えたかはわからない。わからないが、
きっと二人とも、こんなクソッタレな殺し合いなんかに負けず最後まで“ロック”を貫いたのだろう。
(夏樹…李衣菜… お前らの“ロック”はアタシが引き継いでやる)
二人だけではない。全員の魂を引き継いでいくのだ。
呑気にふんぞり返っているような奴らのいいなりになど、なるものか。
(よかった…)
涼は小梅が生き残っていることに一先ず安堵した。
しかし、状況は何も変わってはいない。
あくまでも今回名前を呼ばれなかっただけだ。今だって何者かに狙われているのかも知れない。
それに加えて、同じ事務所の仲間が大勢死んだということもある。
ともに切磋琢磨してきた仲間達が死んでしまったという事実を前に、喜ぶことはできない。
(情けねぇのはわかってるさ、けどよ…)
もちろん小梅さえ無事ならと考えたわけではないが、
知っている奴も知らない奴も命は平等だ。人が死んでいいことなど何もない。
小梅だって自分だけ助かれば他人はどうでもいいなどと考えてはいないはずだ。
(ごめんな。夏樹、リーナ。お前らとはもっと話したかったよ)
バンドをやっていた涼とロック好きな夏樹と李衣菜とはすぐに仲良くなった。
孤立しがちな涼にとって二人と話すのは小梅と話すのとはまた違った楽しさがあった。
(リーナ、約束は守るよ。夏樹の分までたっぷり聞いてやる)
李衣菜のCDを買ってやると三人で約束した。CDデビューを報告しに来た時の彼女の嬉しそうな姿は今も忘れていない。
名簿と地図に印を付けていく。一番最後に、彼女らの名前に線を引いた。
「ほな、続けよう」
静寂を破ったのは紗枝の一言だった。
亡き友を偲ぶ二人の気持ちは痛いほどわかる。
今は何も考えたくないかもしれない。同じ立場にならきっとそうなる。
出会って間もないが、二人に“心”を救われている。今度はこちらの番だ。
もし二人が立ち止まってしまったのなら、自分が手を引いて前へ進ませてみせる。
拓海と涼は顔を上げた。
「…そうだな、さっさと決めちまおう」
「どこまで話したっけか?」
「博物館の方は行かんでええのかってところまでやけど-----------ちょいええかな?」
紗枝はずっと考えていた疑問とそれに対する答え合わせを二人に求めた。
「禁止エリアって何を基準に選んどると思う?」
「さっきも話したじゃん。一箇所に固まられるのを防ぐ---------------」
言いかけたところで涼と拓海も気がついた。
籠城を防ぐために封鎖するのだとしたら、裏を返せば人が集まっている可能性があるということだ。
「つまり、指定されたとこには誰かいるっつーわけか」
「せやね、わざわざ街ん中を選ぶちゅうことはこん辺の子らはここに集まっとるんやないかな」
そういって地図上の『C-7』を指差した。
「人がおるんなら、時間前に移るはずやろ?こことかどうやろ?」
紗枝は『C-7』を指差したまま左へスライドさせた。
「C-6か。その辺なら移動してきた奴らと会えるかもな」
「行くか?」
「ああ、行こうぜ」
#
「まさか使えるとはね…」
相川千夏は事務所の一室で呟いた。
彼女は東にあるスーパーマーケットへと到着した後、事務所へと向かった。
事務所には誰も居なかったが、奥に部屋を発見し中を覗くと、
多数のモニターが店内の様子が映し出していた。
どういうわけかは知らないが、監視システムは生きているらしい。
(使えるんなら有効活用させてもらうけど)
防犯カメラで見る限り店内が荒らされた様子はない。
数あるモニターの中から一番重要な映像を探す。
(入口と…裏口にもカメラは付いてるのね)
ここさえ見張っておけば誰が何人入ってきたか解る。
分が悪ければストロベリー・ボムで一気にやって仕舞えばいい。
(ここで張ってみる…か?)
病院の遠いこのエリアなら、薬や医療品を求めてくる者もいるだろう。
唯一怖いのは近くでおきている火事だけだ。火はおさまってきているがこちらまで延焼してくるようなら早めに逃げるとしよう。
(“お客さん”…来るかしら?)
千客万来か、門前雀羅か--------------
答えは誰にもわからない。
【C-6・スーパーマーケット内事務所/一日目 午前】
【相川千夏】
【装備:ステアーGB(19/19)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×11】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
1:対象の捜索と殺害、殺し合いに乗っていることを示すため、東へ向かう。
2:以後、6時間おきに行動(対象の捜索と殺害)と休憩とを繰り返す。
※店内から事務所に通じる通路がいくかあります
※まだ店内の構造をよく把握していません
#
「やっぱり誰もいねぇな」
端末の位置情報を頼りに東へ歩を進める。
拓海の提案で、最後に移動しながらこれまで行けなかったところを捜索してみたが
結果は変わらなかった。
「わりいな。道草食っちまってよ」
「気にすんな。戻ってこないかもしれないんだし、やれることはやっといたほうがいいだろ」
「ちゃんと道に出たし、これでええんやないの?」
三人は東へ続く一本道を歩きながら話をしていた。
「姉妹みたいだな。お前ら」
「仕方ねぇだろ。これしかねぇんだからよ」
拓海は青のジャージを、紗枝は紺のジャージを着ていた。
色とサイズは異なるが同じメーカーのもので、タンスにしまってあったものを拝借した。
血塗れの特攻服や着物よりは動きやすいジャージの方が都合がいい。
着物は必要ないとして置いていくことにしたが、特攻服は持っていくことにした。
血塗れた特攻服が要らぬ誤解を生む危険があるが、
この特攻服には仲間との絆が、想いが、たっぷり詰まってる。そして“アイツ”の分も。
過去に縋り付くわけではない。
染み付いた血は、“アイツ”-----------いや、六十人の無念の代弁だ。
自分は託されたのだから。全部、背負ってみせる。
一本道を進むとダイナーが見えた。
その時ふと、街の方から煙が上がっているのに気がついた。
「もしかして…火事か?」
「行くぞっ!」
拓海は走り出した。
考えるより早く体が動いた。脳裏に思い浮かんだのは最初に出会った少女の無残な姿。
また誰かが危機に晒されている。十六人目なんて必要ない。
(もうごめんなんだよ…!)
「向井はんっ!待ち!」
「拓海!一人で行くな!」
後ろからの静止の声を聞き足を止めた。
- なぜ止めるんだ、また誰かが傷つこうとしている。今行かずにいつ行くのか。
「早くしねぇと間に合わねぇだろ!?」
紗枝は拓海を真っ直ぐ見つめて、言った。
「うちら、仲間やろ?一人で行かなあかんくらい頼りにならへんの?」
「あ-----------------」
紗枝の言葉を聞いて炎のように熱くなった心が涼しくなっていく。
熱くなって、一番大切なこと忘れていた。
「すまねぇ」
無茶な走りに仲間はついて来ない。
「落ち着いたか?罠かもしれないし一人じゃ危ねぇよ」
「ああ、もう大丈夫だ。行こうぜ、皆でな」
再び走りだした。今度はお互い速さをあわせて。
三人は知らない。
【B-5(道路)/一日目 午前】
【向井拓海】
【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)】
【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2、特攻服(血塗れ)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生きる。殺さない。助ける。
1: 引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する)
2: 東(C-6付近)へ向かう
3:涼を襲った少女(緒方智絵里)の事も気になる
【
小早川紗枝】
【装備:薙刀、ジャージ(紺)】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを救いだして、生きて戻る。
1:引き続き仲間を集める(特に白坂小梅を優先する)
2: 東(C-6付近)へ向かう
3:少しでも拓海の支えになりたい
※着物はB-4の民家においてきました
【松永涼】
【装備:イングラムM10(32/32)】
【所持品:基本支給品一式、不明支給品0~1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:小梅と合流。小梅を護り、生きて帰る。
1:小梅と合流する。
2:他の仲間も集め、この殺し合いから脱出する。
3: 東(C-6付近)へ向かう
最終更新:2013年03月03日 00:35