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上条「もてた」
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meteor089
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上条「もてた」 ① ②
5 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 23:21:34.27 ID:nBnxCeYo [2/5]
「もてた」
「もてた」
い、と上条が言い切るより先にゴバァッと両頬を殴られる。
ほんの少し土御門がタイミングを遅らせたせいで上条は左右に首をグキッとひねることになった。
ほんの少し土御門がタイミングを遅らせたせいで上条は左右に首をグキッとひねることになった。
「うぉいテメーらいきなりなんだ!」
「それはこっちの台詞にゃー、カミやん」
「自覚の無いこういう男はホント許せへんね。なんでカミやんて2次元の主人公みたいに鈍いんやろね」
「それはこっちの台詞にゃー、カミやん」
「自覚の無いこういう男はホント許せへんね。なんでカミやんて2次元の主人公みたいに鈍いんやろね」
ギャアギャアと騒ぎ出すバカ三人組を横目に吹寄はため息をつく。
この程度の騒ぎはまだ止めるレベルですらないのだった。
今日の話は上条当麻がいかに2次元世界の住人っぽいか、らしい。
盛り上がる三人のうち一人はメイドの学校に通う義妹がいるあたり、
なんて不毛な会話だろうと吹寄は思った。
この程度の騒ぎはまだ止めるレベルですらないのだった。
今日の話は上条当麻がいかに2次元世界の住人っぽいか、らしい。
盛り上がる三人のうち一人はメイドの学校に通う義妹がいるあたり、
なんて不毛な会話だろうと吹寄は思った。
「だから、もてないことの証明なんて今俺に彼女がいない時点でもう済んでるだろ!」
「ええかカミやん? もてるっちゅーのはな、フラグを何本立てられるかって意味なんやで。
カミやんはそのフラグを回収も折りもせずに延々ため込んでるんやないか。それはもてるっていうんや!」
「はぁ? だからフラグなんて立ってないって! そんなモン立ってたら全力で回収してやるさ!」
「ええかカミやん? もてるっちゅーのはな、フラグを何本立てられるかって意味なんやで。
カミやんはそのフラグを回収も折りもせずに延々ため込んでるんやないか。それはもてるっていうんや!」
「はぁ? だからフラグなんて立ってないって! そんなモン立ってたら全力で回収してやるさ!」
シン、となぜかクラスが静まり返った。上条の言葉が、言質を取られるように周囲に浸透していく。
「ほうほう、面白いことを言ったにゃーカミやん、じゃあ、やってもらおうか」
「なんだよ、何をやれって言うんだ?」
「カミやんが今までに知り合った女の子に、『デートしようぜ』って言っていくってのはどうかにゃー?」
「お、おいおい。それ下手したらドン引きされるんじゃ」
「ちっちっち。分かってないなあカミやんは。
いきなり本気で誘ったらそりゃ引かれるかも知れんけど、
ちょっと冗談ぽく言って反応を確かめてみたらええんやんか」
「それで一人でもオッケーが出るようならカミやんは不幸少年を返上して俺達に土下座をする、
そして全員から断られたら俺達のおごりで残念でした会を開く、ってことで」
「なんだよ、何をやれって言うんだ?」
「カミやんが今までに知り合った女の子に、『デートしようぜ』って言っていくってのはどうかにゃー?」
「お、おいおい。それ下手したらドン引きされるんじゃ」
「ちっちっち。分かってないなあカミやんは。
いきなり本気で誘ったらそりゃ引かれるかも知れんけど、
ちょっと冗談ぽく言って反応を確かめてみたらええんやんか」
「それで一人でもオッケーが出るようならカミやんは不幸少年を返上して俺達に土下座をする、
そして全員から断られたら俺達のおごりで残念でした会を開く、ってことで」
奨学金が振り込まれるまでの三日を、どうしても乗り越えられそうになかった当麻にとってタダ飯は重要だった。
「ほう、いいじゃねーか。この上条さんの不幸体質を甘く見るなよ?」
自分で言ってることにホロリと来ながら、上条は誘いに乗ることにした。
姫神がトイレから戻ると、突然、上条に話しかけられた。
「なあ姫神、ちょっと話があるんだけどさ」
「何? 言っておくけど。早弁したからって私のお弁当はあげない」
「いやそうじゃなくて。その、さ、姫神。付き合って、くれないか?」
「え――」
「何? 言っておくけど。早弁したからって私のお弁当はあげない」
「いやそうじゃなくて。その、さ、姫神。付き合って、くれないか?」
「え――」
一人目の少女がドキリと驚きに目を開いて、嘘、と呟いた。
6 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 23:22:05.74 ID:nBnxCeYo
「上条君。その、教室でそういう冗談を言うのはやめて欲しい。君にはシスターの子が。いるでしょ?」
「なんでインデックスの話がでてくるんだ? 姫神、俺は今真面目に話をしてるんだ。
そういう茶化すようなのは止めてくれ」
「なんでインデックスの話がでてくるんだ? 姫神、俺は今真面目に話をしてるんだ。
そういう茶化すようなのは止めてくれ」
姫神はなんだか警戒しているように一歩引いた。
その一歩を詰め返して、上条は迫った。
なにせタダ飯がかかっている。それは真面目になるには充分すぎる理由だ。
姫神にノーと言わせるだけで一勝目を稼げる。
上条は、イエスと言ってもらえる可能性をこれっぽっちも考えていなかった。
その一歩を詰め返して、上条は迫った。
なにせタダ飯がかかっている。それは真面目になるには充分すぎる理由だ。
姫神にノーと言わせるだけで一勝目を稼げる。
上条は、イエスと言ってもらえる可能性をこれっぽっちも考えていなかった。
「わ、私は――」
戸惑う姫神が上条から目線を外すと、クラスメイト達がにこやかに談笑している。
……はずなのに声のボリュームがやけに低くて、耳だけは全員こちらを向いていた。
……はずなのに声のボリュームがやけに低くて、耳だけは全員こちらを向いていた。
「上条君。お昼。一緒に食べられる?」
「え? ああ、いいけど」
「それじゃ、続きはそのときに……」
「待ってくれ!」
「何?」
「え? ああ、いいけど」
「それじゃ、続きはそのときに……」
「待ってくれ!」
「何?」
ほとんどいない女友達の顔を思い出しながら、人数を数える。
夕方までに全員に声をかけなければいけないのだから、先延ばしはマズイ。
夕方までに全員に声をかけなければいけないのだから、先延ばしはマズイ。
「今すぐここで、ってのは無理なのか?」
「だ、だって。ここは教室で、みんながいるわ」
「だ、だって。ここは教室で、みんながいるわ」
どんな感情の揺れも些細にしか表さない姫神が、はっきりと焦っていた。
7 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 23:22:33.71 ID:nBnxCeYo
「お前の本当の気持ちなんて、誰に隠すようなもんでも無いだろ?
どんな言葉だって、俺はちゃんと受け止める。
周りの連中のことなんて気にするなよ」
どんな言葉だって、俺はちゃんと受け止める。
周りの連中のことなんて気にするなよ」
ごめんね上条君、なんて言葉は体育館裏で言われたって悲しいだけなのだ。
どこで言われようと上条は、ちゃんと受け止める覚悟をしていた。
周りの連中は上条のことを笑うだろうが、その覚悟も出来ている。
……心の中にシクシクと降る雨を止ませることはできないかもしれないけど。
どこで言われようと上条は、ちゃんと受け止める覚悟をしていた。
周りの連中は上条のことを笑うだろうが、その覚悟も出来ている。
……心の中にシクシクと降る雨を止ませることはできないかもしれないけど。
「……ぅ」
姫神は声が出なかった。
あまりにいきなりで、頭が回らないのだ。
それなのに上条の目が真剣で、曖昧な返事は許されない気がした。
あまりにいきなりで、頭が回らないのだ。
それなのに上条の目が真剣で、曖昧な返事は許されない気がした。
「……いい、よ」
「――――え?」
「――――え?」
その言葉はまだ二人を強く結びつける言葉にはならないかもしれないけれど。
二人で話して、遊んで、そうしているうちにきっと絆は深くなるから。
二人で話して、遊んで、そうしているうちにきっと絆は深くなるから。
「デートとか、すればいいの?」
「え、えっと、ああ」
「え、えっと、ああ」
そのデートにノーと言って欲しかったのだが。
後ろでは、勝者のはずの土御門と青ピアスが
猫でも噛みそうなほど窮鼠の顔をしていた。
後ろでは、勝者のはずの土御門と青ピアスが
猫でも噛みそうなほど窮鼠の顔をしていた。
「くそ、カミやんは茶化さんかったら素でこの威力か」
「これは一人目にしてすでに背中刺す刃の出番かにゃー」
「これは一人目にしてすでに背中刺す刃の出番かにゃー」
12 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/01(日) 23:47:16.57 ID:nBnxCeYo
「ひ、姫神ほんとにいいのか?」
「ひ、姫神ほんとにいいのか?」
マズイ。いきなり負けそうだった。
脳裏で勝ち誇る土御門の笑顔を思い浮かべ、グーでそれをぶち抜いた。
なんとしても姫神にノーと言わせなければ。
脳裏で勝ち誇る土御門の笑顔を思い浮かべ、グーでそれをぶち抜いた。
なんとしても姫神にノーと言わせなければ。
「そういう上条君こそ。私でいいの?」
「へ? い、いやそりゃお前みたいな綺麗な子とデート出来るとか
上条さんにあるまじき幸運が降りかかるならそれはまったく問題ないといいますか
でもそれってあれ? なんかありえなくね?」
「へ? い、いやそりゃお前みたいな綺麗な子とデート出来るとか
上条さんにあるまじき幸運が降りかかるならそれはまったく問題ないといいますか
でもそれってあれ? なんかありえなくね?」
悶々と呟く上条の言葉の、「お前みたいな綺麗な子」より後を姫神は聞いていなかった。
「いきなり褒められても。その、困る」
ばっさり断られて不幸がずーん、というのを期待しているのになぜかだんだんと
周囲がお花畑と化していく。上条はその雰囲気に当惑した。
周囲がお花畑と化していく。上条はその雰囲気に当惑した。
「な、なあ姫神。上条さんはぶっちゃけ不幸な人ですよ?
一緒に出歩いちゃったりしたら、どんな不幸に会うか分かりませんよ?」
「いい。理不尽な不幸には慣れてる。それに、一緒に未来を歩く人の不幸なら、背負ったっていい」
一緒に出歩いちゃったりしたら、どんな不幸に会うか分かりませんよ?」
「いい。理不尽な不幸には慣れてる。それに、一緒に未来を歩く人の不幸なら、背負ったっていい」
姫神が僅かにはにかみながら下を向いて、そう言った。
違うのだ。上条は心の中で否定を繰り返す。そうじゃないだろ姫神! キレがないぞ。
お前はもっとナイフで切るようにこの上条当麻を切って捨てるヤツだ!
違うのだ。上条は心の中で否定を繰り返す。そうじゃないだろ姫神! キレがないぞ。
お前はもっとナイフで切るようにこの上条当麻を切って捨てるヤツだ!
「だーかーらー! 違うんです! 違うんですよ姫神さん!
ここは上条ライフ的に考えてソッコーで断られるシーンなの!
ここでオッケーされちゃうとまた俺の負けになるんだから……
ってそうか、だからオッケーされちまうのか。これも不幸の一形態ということか!」
「か、上条君?」
ここは上条ライフ的に考えてソッコーで断られるシーンなの!
ここでオッケーされちゃうとまた俺の負けになるんだから……
ってそうか、だからオッケーされちまうのか。これも不幸の一形態ということか!」
「か、上条君?」
いきなり不満を噴火させた上条に戸惑う。
「よくわからないんだけど、君は。デートを断られるのを望んでいるの?」
「ああそうだよ! このままオッケーされちまったら俺は あそこでニヤニヤしてる連中に
土下座しなきゃなんねーんだ。いや、あいつらのことだから絶対土下座じゃすまねえ」
「ふうん」
「ああそうだよ! このままオッケーされちまったら俺は あそこでニヤニヤしてる連中に
土下座しなきゃなんねーんだ。いや、あいつらのことだから絶対土下座じゃすまねえ」
「ふうん」
事情を察した姫神が、冷たく相槌を打った。
断れば、上条君の願いどおりになる。
そんなことはしてやるつもりはなかった。
断れば、上条君の願いどおりになる。
そんなことはしてやるつもりはなかった。
「上条君」
「な、なんだ?」
「今日の放課後、校門のところで待ってるから」
「へ?」
「な、なんだ?」
「今日の放課後、校門のところで待ってるから」
「へ?」
そう言うと、きびすを返して姫神は自分の席に着いた。
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。
14 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/02(月) 00:40:30.28 ID:pNc6mSoo [1/6]
姫神は次の休み時間に声をかけても一切反応してくれなかった。
姫神は次の休み時間に声をかけても一切反応してくれなかった。
「ほらーカミやん。はやく土下座してや。こういう勝負事で負けた人が往生際悪いと白けてまうんやで?」
「そうだにゃーカミやん。ほら、『私はナンパして一人目の子を五分で落とせる一級フラグ建築士です』
って言いながらそこに這いつくばって謝れ」
「ふざけんな! さっきのだって姫神が一方的に決めたんじゃねーか。
そういうのをデートって言いきっちまうのはどうなんだよ?」
「カミやん? 僕やったらそれデートって思うよ? そういう展開けっこうあるし」
「今は二次元の話はしてないぞ」
「そうだにゃーカミやん。ほら、『私はナンパして一人目の子を五分で落とせる一級フラグ建築士です』
って言いながらそこに這いつくばって謝れ」
「ふざけんな! さっきのだって姫神が一方的に決めたんじゃねーか。
そういうのをデートって言いきっちまうのはどうなんだよ?」
「カミやん? 僕やったらそれデートって思うよ? そういう展開けっこうあるし」
「今は二次元の話はしてないぞ」
ちょっと上条も分が悪いのを自覚していた。
授業中に思いなおして放課後に待ち合わせか、とドキッとしたからだった。
授業中に思いなおして放課後に待ち合わせか、とドキッとしたからだった。
「んー、あくまでもあれをデートだとは認めないと?
「あ、ああ。そうだ」
「それじゃ今回はカミやんの言い分を認めてやるかにゃー。でもカミやん、二度はないぜ?」
「わかった。ちゃんと断らせればいいんだろ?」
「それじゃ次のターゲットはどの子にするん? 気の強そうな委員長とか?」
「あ、ああ。そうだ」
「それじゃ今回はカミやんの言い分を認めてやるかにゃー。でもカミやん、二度はないぜ?」
「わかった。ちゃんと断らせればいいんだろ?」
「それじゃ次のターゲットはどの子にするん? 気の強そうな委員長とか?」
当麻が近い席に座っている吹寄を見ると、薄いブックレットから目を離してこちらを睨んだ。
「姫神のときから見てて事情を知ってるあたしに、貴様は声をかけるわけ?」
「い、いや。別に委員長サマにそんなことをするつもりは……って吹寄。
お前今度はそんなモンにはまってるのか?」
「え? そんなモンって、貴様これを見てもそういう風に言えるわけ?
この『どんなふくらはぎの張りでも一瞬で吹き飛ばす!
アステカ産黒曜石を丁寧に研磨して作った
トラウィスカルパンテクウトリの指圧棒3,980円』って!」
「それ科学っていうより魔術の匂いがぷんぷんしてるじゃねーか!
っていうか俺が言いたいのはその冊子のほうだよ。
そのシリーズ、西部山駅の近くの路地裏にあるいかがわしい本屋に置いてあった」
「い、いや。別に委員長サマにそんなことをするつもりは……って吹寄。
お前今度はそんなモンにはまってるのか?」
「え? そんなモンって、貴様これを見てもそういう風に言えるわけ?
この『どんなふくらはぎの張りでも一瞬で吹き飛ばす!
アステカ産黒曜石を丁寧に研磨して作った
トラウィスカルパンテクウトリの指圧棒3,980円』って!」
「それ科学っていうより魔術の匂いがぷんぷんしてるじゃねーか!
っていうか俺が言いたいのはその冊子のほうだよ。
そのシリーズ、西部山駅の近くの路地裏にあるいかがわしい本屋に置いてあった」
いつ通ったかは忘れたが、そこはオカルト系のトンデモ本を扱う専門店らしかった。
学園都市でオカルトは今日び流行らない。
必然的に魔方陣が表紙に載った通販カタログなんてものはそんなところにしか置いてなかった。
学園都市でオカルトは今日び流行らない。
必然的に魔方陣が表紙に載った通販カタログなんてものはそんなところにしか置いてなかった。
「上条。貴様、このカタログを置いてる店を知っているの?」
「あ、ああ」
「……いつなら、案内してくれる?」
「はい?」
「あ、ああ」
「……いつなら、案内してくれる?」
「はい?」
急に吹寄の態度が軟化した。
15 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/02(月) 00:41:58.33 ID:pNc6mSoo [2/6]
姫神は次の休み時間に声をかけても一切反応してくれなかった。
姫神は次の休み時間に声をかけても一切反応してくれなかった。
「ほらーカミやん。はやく土下座してや。こういう勝負事で負けた人が往生際悪いと白けてまうんやで?」
「そうだにゃーカミやん。ほら、『私はナンパして一人目の子を五分で落とせる一級フラグ建築士です』
って言いながらそこに這いつくばって謝れ」
「ふざけんな! さっきのだって姫神が一方的に決めたんじゃねーか。
そういうのをデートって言いきっちまうのはどうなんだよ?」
「カミやん? 僕やったらそれデートって思うよ? そういう展開けっこうあるし」
「今は二次元の話はしてないぞ」
「そうだにゃーカミやん。ほら、『私はナンパして一人目の子を五分で落とせる一級フラグ建築士です』
って言いながらそこに這いつくばって謝れ」
「ふざけんな! さっきのだって姫神が一方的に決めたんじゃねーか。
そういうのをデートって言いきっちまうのはどうなんだよ?」
「カミやん? 僕やったらそれデートって思うよ? そういう展開けっこうあるし」
「今は二次元の話はしてないぞ」
ちょっと上条も分が悪いのを自覚していた。
授業中に思いなおして放課後に待ち合わせか、とドキッとしたからだった。
授業中に思いなおして放課後に待ち合わせか、とドキッとしたからだった。
「んー、あくまでもあれをデートだとは認めないと?
「あ、ああ。そうだ」
「それじゃ今回はカミやんの言い分を認めてやるかにゃー。でもカミやん、二度はないぜ?」
「わかった。ちゃんと断らせればいいんだろ?」
「それじゃ次のターゲットはどの子にするん? 気の強そうな委員長とか?」
「あ、ああ。そうだ」
「それじゃ今回はカミやんの言い分を認めてやるかにゃー。でもカミやん、二度はないぜ?」
「わかった。ちゃんと断らせればいいんだろ?」
「それじゃ次のターゲットはどの子にするん? 気の強そうな委員長とか?」
当麻が近い席に座っている吹寄を見ると、薄いブックレットから目を離してこちらを睨んだ。
「姫神のときから見てて事情を知ってるあたしに、貴様は声をかけるわけ?」
「い、いや。別に委員長サマにそんなことをするつもりは……って吹寄。
お前今度はそんなモンにはまってるのか?」
「え? そんなモンって、貴様これを見てもそういう風に言えるわけ?
この『どんなふくらはぎの張りでも一瞬で吹き飛ばす!
アステカ産黒曜石を丁寧に研磨して作った
トラウィスカルパンテクウトリの指圧棒3,980円』って!」
「それ科学っていうより魔術の匂いがぷんぷんしてるじゃねーか!
っていうか俺が言いたいのはその冊子のほうだよ。
そのシリーズ、西部山駅の近くの路地裏にあるいかがわしい本屋に置いてあった」
「い、いや。別に委員長サマにそんなことをするつもりは……って吹寄。
お前今度はそんなモンにはまってるのか?」
「え? そんなモンって、貴様これを見てもそういう風に言えるわけ?
この『どんなふくらはぎの張りでも一瞬で吹き飛ばす!
アステカ産黒曜石を丁寧に研磨して作った
トラウィスカルパンテクウトリの指圧棒3,980円』って!」
「それ科学っていうより魔術の匂いがぷんぷんしてるじゃねーか!
っていうか俺が言いたいのはその冊子のほうだよ。
そのシリーズ、西部山駅の近くの路地裏にあるいかがわしい本屋に置いてあった」
いつ通ったかは忘れたが、そこはオカルト系のトンデモ本を扱う専門店らしかった。
学園都市でオカルトは今日び流行らない。
必然的に魔方陣が表紙に載った通販カタログなんてものはそんなところにしか置いてなかった。
学園都市でオカルトは今日び流行らない。
必然的に魔方陣が表紙に載った通販カタログなんてものはそんなところにしか置いてなかった。
「上条。貴様、このカタログを置いてる店を知っているの?」
「あ、ああ」
「……いつなら、案内してくれる?」
「はい?」
「あ、ああ」
「……いつなら、案内してくれる?」
「はい?」
急に吹寄の態度が軟化した。
17 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/02(月) 00:46:49.56 ID:pNc6mSoo [3/6]
ほんとごめん。二回投稿しちった。
ほんとごめん。二回投稿しちった。
13
タイトル変えて全然違う話やっても良かったなと思ったんだけど、
面白そうなネタ探しても面白くかけなきゃ意味無い品。
ちょっとここで頑張ってみるは。
面白そうなネタ探しても面白くかけなきゃ意味無い品。
ちょっとここで頑張ってみるは。
19 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/02(月) 10:20:05.96 ID:pNc6mSoo [4/6]
「……だからさ、あれはどう考えても違うだろ!
だってデートのデの字も口にして無いんだからあれはノーカンだって!」
「ちゃうよカミやん。フラグがいくつ立つかが重要なんやって!
あんなトントン拍子に女の子と放課後を過ごすフラグ立てるとか、
角を曲がったらパンを加えた女の子とぶつかりましたってのと
おんなじくらいありえへんよ!」
「んなこたねーだろ! 吹寄がいつも読んでるカタログの話振ったら
本を置いてる場所を教えてくれって言われた、それだけじゃねーか」
「それだけ? カミやんいまそれ『だけ』って言った?
許されへんよその言い分は! 謝れ!
学園都市の、いや日本のすべての出会いの無い男に謝れ!」
だってデートのデの字も口にして無いんだからあれはノーカンだって!」
「ちゃうよカミやん。フラグがいくつ立つかが重要なんやって!
あんなトントン拍子に女の子と放課後を過ごすフラグ立てるとか、
角を曲がったらパンを加えた女の子とぶつかりましたってのと
おんなじくらいありえへんよ!」
「んなこたねーだろ! 吹寄がいつも読んでるカタログの話振ったら
本を置いてる場所を教えてくれって言われた、それだけじゃねーか」
「それだけ? カミやんいまそれ『だけ』って言った?
許されへんよその言い分は! 謝れ!
学園都市の、いや日本のすべての出会いの無い男に謝れ!」
昼休み、さっさと昼食を済ませて上条たちは廊下を歩く。
「で、言っとくけどあれをデートに誘ったと俺は認めないからな」
「くっ、この期に及んでカミやんは往生際が悪い……」
「まーでも自分から誘ってないのは事実だしにゃー。
まだまだ続きはあるんだし次行こうぜ次」
「次って、俺はどこに案内されてるんだ?」
「どこって、次は小萌先生を攻めるんですたい」
「くっ、この期に及んでカミやんは往生際が悪い……」
「まーでも自分から誘ってないのは事実だしにゃー。
まだまだ続きはあるんだし次行こうぜ次」
「次って、俺はどこに案内されてるんだ?」
「どこって、次は小萌先生を攻めるんですたい」
ぶは、と上条の口から息が漏れる
「ば、ばか! いくらなんでもそれはシャレにならねーだろ!」
20 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/02(月) 10:41:35.99 ID:pNc6mSoo [5/6]
「でも脈もなさそうな隣のクラスの女子とかに声かけても面白くないにゃー。
カミやんに脈ありなのは小萌先生くらいじゃ?」
「ないないない! っていうか俺は青髪と違ってロリじゃねーし」
「僕はロリちゃうでー。ロリもいけるだけやでー?」
「っていうかインデックスとイチャイチャしてる時点でカミやんもロリいける人確定ですたい」
「でも脈もなさそうな隣のクラスの女子とかに声かけても面白くないにゃー。
カミやんに脈ありなのは小萌先生くらいじゃ?」
「ないないない! っていうか俺は青髪と違ってロリじゃねーし」
「僕はロリちゃうでー。ロリもいけるだけやでー?」
「っていうかインデックスとイチャイチャしてる時点でカミやんもロリいける人確定ですたい」
青髪に聞こえないよう土御門が囁く。
「で、どこまで手を出したのかにゃー?」
「だぁっ! 何もしてねーから! っていうかお前こそどうなんだよ。
夜な夜な何やってるんだ! 壁のクソ薄い寮で」
「ななナニって、別に何もしてないんだにゃー?」
「だぁっ! 何もしてねーから! っていうかお前こそどうなんだよ。
夜な夜な何やってるんだ! 壁のクソ薄い寮で」
「ななナニって、別に何もしてないんだにゃー?」
「はぁ、職員室の前でも上条ちゃんたちは上条ちゃんたちなんですねー」
「月詠先生?」
「カミやん、チャンスやないか。お願いしてみたら?」
「だからシャレにならねーっつの」
「いやいや、断ってもらったらええだけなんやから、問題ないやんか」
「月詠先生?」
「カミやん、チャンスやないか。お願いしてみたら?」
「だからシャレにならねーっつの」
「いやいや、断ってもらったらええだけなんやから、問題ないやんか」
小萌先生は首をかしげ、この子達は何をしにここに来てるんでしょう、と呟く。
上条が正面を向き、しぶしぶという感じで口を開いた。
上条が正面を向き、しぶしぶという感じで口を開いた。
「月詠先生」
「はい、なんでしょう上条ちゃん?」
「付き合ってください」
「はい、なんでしょう上条ちゃん?」
「付き合ってください」
上条がくっと腰を曲げて礼をする。
「はい、いいですよ。先生今日の放課後は時間取れますから」
27 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/03(火) 00:23:06.55 ID:jCu44hQo [1/4]
「え?」
「それで、単位が危ないのは透視と記憶術ですよね。上条ちゃんはどっちをやりたいんですか?」
「あー」
「え?」
「それで、単位が危ないのは透視と記憶術ですよね。上条ちゃんはどっちをやりたいんですか?」
「あー」
そりゃそうだ。生徒を導くことに一番熱心なのが月詠小萌という教師なのだ。
付き合ってといわれたら補習に付き合ってということなのだ。
付き合ってといわれたら補習に付き合ってということなのだ。
「月詠センセ、ちがうでー。カミやんはそういうこと言ってるんとちゃうねん」
「ほえ? どういうことですか?」
「ほえ? どういうことですか?」
ガリガリと上条は頭をかく。
「その、付き合ってってのは、一人の女性として俺とデートしてくれって意味です」
「え?」
「え?」
ぽん、とはじけるように勢いよく、小萌先生の顔が真っ赤になった。
「ななななな何を言ってるんですか上条ちゃん! せせ先生をからかっちゃいけません!」
「すいません」
「すいません」
その通りからかっているので謝った。
「先生は上条ちゃんたち学生さんの未来を担い任されている身分なのですよそれなのにこ、こ、
恋人だなんてそういう関係には断じてなっちゃいけないのです確かに男性教諭と女学生の結婚というのは
少なくない例があるようですがこの場合女性の側の先生が上条ちゃんよりもずっと年上でですね、その」
「やっぱり、駄目ですよね?」
恋人だなんてそういう関係には断じてなっちゃいけないのです確かに男性教諭と女学生の結婚というのは
少なくない例があるようですがこの場合女性の側の先生が上条ちゃんよりもずっと年上でですね、その」
「やっぱり、駄目ですよね?」
良かった。上条はほっと息をつく。さすがに学校教師は鉄板で断ってくれそうだ。
「う……。一応これでも私は大人の女性です。でも、先生はだからといって上条ちゃんの
その勇気を笑ってはぐらかすようなことは、したくないのです」
その勇気を笑ってはぐらかすようなことは、したくないのです」
28 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/03(火) 00:51:48.28 ID:jCu44hQo [2/4]
「上条ちゃん、もう一度だけ聞いてもいいですか?
さっきの言葉は上条ちゃんの本気、なんですよね?」
「……」
さっきの言葉は上条ちゃんの本気、なんですよね?」
「……」
冷や汗が背中をつたう。月詠先生は真剣だった。
むしろ昼休みの廊下でここまで真面目になれるのはどうなんだろうと思うが、
月詠先生はそういう人なのだ。
むしろ昼休みの廊下でここまで真面目になれるのはどうなんだろうと思うが、
月詠先生はそういう人なのだ。
小萌はふと、後ろの二人が気になった。
色々とバカをやってくれる3人組だ。
自分は本当にからかわれてるのでは、と不安がよぎる。
上条ちゃんの付き添い? いや、男の子はむしろそういうのは絶対にしない。
いやでも、見届けるとか意味がきっとあるはずです。
先生に告白なんてきっと高校生の上条ちゃんにとってすごく大変な決心が必要で、
それなら誰かに相談したくなることだってあるかもしれません。
色々とバカをやってくれる3人組だ。
自分は本当にからかわれてるのでは、と不安がよぎる。
上条ちゃんの付き添い? いや、男の子はむしろそういうのは絶対にしない。
いやでも、見届けるとか意味がきっとあるはずです。
先生に告白なんてきっと高校生の上条ちゃんにとってすごく大変な決心が必要で、
それなら誰かに相談したくなることだってあるかもしれません。
「お二人は、上条ちゃんに相談されたんですか?」
「へっ? ええ、まあなあ。そうやんな?」
「ああ。カミやんがすごく悩んでたみたいだったからにゃー」
「へっ? ええ、まあなあ。そうやんな?」
「ああ。カミやんがすごく悩んでたみたいだったからにゃー」
深刻な顔で土御門が頷いた。
その空気に気圧されて、上条は小萌先生を放り出して土御門に
殴りかかることが出来なかった。
その空気に気圧されて、上条は小萌先生を放り出して土御門に
殴りかかることが出来なかった。
「上条ちゃん。先生は、ううん、私は」
「月詠先生」
「月詠先生」
上条は何かを言いかけた小萌先生に、言葉をかぶせた。
「すみませんでした」
深く頭を下げて、事情を説明した。
29 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/03(火) 01:22:59.62 ID:jCu44hQo [3/4]
「ちょ、おいおい! 姫神とデートって」
「このまま放課後に姫神と町を歩いて、姫神から告白されなければカミやんの勝ち、
告白されたら俺達の勝ちでどうかにゃー?
……まあ告白されたら俺らは敗者にもなるわけだけどにゃー」
「まあカミやんに彼女が出来たら抱えてる未回収フラグを折って捨ててくれそうやし、
ありかもなー。彼女持ちのカミやんなら幸せ余ってるからご飯くらいなら奢ってくれそうやし」
「ちょ、おいおい! 姫神とデートって」
「このまま放課後に姫神と町を歩いて、姫神から告白されなければカミやんの勝ち、
告白されたら俺達の勝ちでどうかにゃー?
……まあ告白されたら俺らは敗者にもなるわけだけどにゃー」
「まあカミやんに彼女が出来たら抱えてる未回収フラグを折って捨ててくれそうやし、
ありかもなー。彼女持ちのカミやんなら幸せ余ってるからご飯くらいなら奢ってくれそうやし」
上条も、さすがに姫神を無視するのは悪いかなーと思った。
姫神と町で遊んだことは無いが、それほど派手に遊ぶやつにも見えない。
軽くファストフード店で腹ごしらえをしてゲーセンを流すくらいなら構わないだろう。
姫神と町で遊んだことは無いが、それほど派手に遊ぶやつにも見えない。
軽くファストフード店で腹ごしらえをしてゲーセンを流すくらいなら構わないだろう。
「姫神がどういうつもりか知らないけど、まあ、遊びに行くくらいならやるわ。
お前らも来るか?」
「お邪魔になるのが分かってていくやつはいないにゃー。あ、結果は明日辺り聞かせてもらうにゃー」
「結果って、それは飛躍しすぎだろ。姫神が告白とかありえねーって」
「じゃあカミやん、もし告白されたらどうするん?」
「え? い、いや、だからありえないって!」
お前らも来るか?」
「お邪魔になるのが分かってていくやつはいないにゃー。あ、結果は明日辺り聞かせてもらうにゃー」
「結果って、それは飛躍しすぎだろ。姫神が告白とかありえねーって」
「じゃあカミやん、もし告白されたらどうするん?」
「え? い、いや、だからありえないって!」
一瞬頬を染めて当麻君と言葉を紡ぐ姫神を想像して、上条は自分の都合の良過ぎる妄想に蓋をした。
34 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/04(水) 21:50:58.48 ID:icTMOO6o [1/4]
放課後までに、三度、姫神と目が合った。
今まで上条は姫神のことを授業中に注視したことはなかったので分からないが、
姫神は上条の呼びかけを無視する一方で、上条のことが気になっているらしかった。
今まで上条は姫神のことを授業中に注視したことはなかったので分からないが、
姫神は上条の呼びかけを無視する一方で、上条のことが気になっているらしかった。
放課後になってすぐ、姫神が声をかけてきた。
「上条君。掃除とかは?」
「ない」
「そう」
「さっきの休み時間の話だけどさ、姫神は」
「校門のところで、待ってる」
「上条君。掃除とかは?」
「ない」
「そう」
「さっきの休み時間の話だけどさ、姫神は」
「校門のところで、待ってる」
姫神の表情はいつも同じだ。落ち着いて見ていれば変化にも気づくが、
短い会話でそれを窺うのは難しかった。
短い会話でそれを窺うのは難しかった。
「おっと確認に行ったカミやんがあっさりと受け流されたにゃーっ!」
「きっとあれは照れ隠しなんやって!
転校してくる前から知り合いやった女の子とこれでようやく進展か。
カミやんおいしいなあ……」
「青髪お前はいい加減に次元を間違えるのを止めろ」
「で、どこに行くん? 最近話題のデートスポットといえば
古代魚復元で盛り上がってる水族館やけど、入場料が高いらしいよ」
「そういうとこに入られると財布が軽くなるからなるべくチープなところで頼むにゃー」
「お前らは追ってくんな!」
「きっとあれは照れ隠しなんやって!
転校してくる前から知り合いやった女の子とこれでようやく進展か。
カミやんおいしいなあ……」
「青髪お前はいい加減に次元を間違えるのを止めろ」
「で、どこに行くん? 最近話題のデートスポットといえば
古代魚復元で盛り上がってる水族館やけど、入場料が高いらしいよ」
「そういうとこに入られると財布が軽くなるからなるべくチープなところで頼むにゃー」
「お前らは追ってくんな!」
ジロリと睨むと、はっはっはと乾いた笑いが返ってきた。
「いややなあカミやん。ちょっとした冗談やって」
35 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/04(水) 22:46:25.62 ID:icTMOO6o [2/4]
姫神は上条にケーキセットの一つでも奢ってもらう気で校門前に佇んでいた。
ごめんの一言もなしにすっぽかす人ではないことはなんとなく分かっている。
ごめんの一言もなしにすっぽかす人ではないことはなんとなく分かっている。
「結構真剣に。言ったつもりだったんだけどな」
それなのに、あれは酷かったと思う。
姫神がクラスの友達に相談でもすれば、上条は女子から総スカンを食らうだろう。
それをしないのは、相手のことが気になる弱みか。
姫神がクラスの友達に相談でもすれば、上条は女子から総スカンを食らうだろう。
それをしないのは、相手のことが気になる弱みか。
「上条君はあのシスターの子が気になるのかな」
色気より食い気といった感じの気質だが、自分と同い年になる頃にはきっと綺麗になって、
上条君もたぶん、邪険になんて扱えなくなる。
上条君もたぶん、邪険になんて扱えなくなる。
姫神は自分から上条に声をかける気はなかった。
そして上条から声がかかるだろうとも思っていなかった。
だから今日したことは小さな転機であり、大きな決断だった。
そして上条から声がかかるだろうとも思っていなかった。
だから今日したことは小さな転機であり、大きな決断だった。
「おーい姫神!」
遠くから上条の叫ぶ声が聞こえた。
やけに急いでいる。
走って自分のことを迎えに来る上条を見て、心臓がコントロールを失った。
やけに急いでいる。
走って自分のことを迎えに来る上条を見て、心臓がコントロールを失った。
「上条。君」
「逃げるぞ!!!」
「逃げるぞ!!!」
ぎゅっと手を握られて、姫神は上条と一緒に駆け出した。
36 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/04(水) 23:02:13.35 ID:icTMOO6o [3/4]
プロットなしで書くとこの薄氷感がたまらない。
そしてまったり進行だと感想にレスができてちょっと嬉しい。
プロットなしで書くとこの薄氷感がたまらない。
そしてまったり進行だと感想にレスができてちょっと嬉しい。
31
ごめんね四条川原町で後輩がゲロ吐いたせいで昨日は更新できんかった。
32
これからハーレムフラグ立つかなあ。
とりあえず姫神フラグは立った。
とりあえず姫神フラグは立った。
33
雲川先輩と吹寄、かあ。あの高校バストカップ数で入学規制あったりすんの?
とりあえず街に出ちゃったから学校内のキャラかどうかは関係なくなったかも。
とりあえず街に出ちゃったから学校内のキャラかどうかは関係なくなったかも。
37 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/04(水) 23:19:39.50 ID:icTMOO6o [4/4]
ハッハッと浅い息が聞こえる。自分と上条のだ。
都合がいいと言わんばかりに今にも発車しそうだったバスに強引に体をねじ込んで、
二人はクーラーの聞いた車内で息を整えているのだった。
ハッハッと浅い息が聞こえる。自分と上条のだ。
都合がいいと言わんばかりに今にも発車しそうだったバスに強引に体をねじ込んで、
二人はクーラーの聞いた車内で息を整えているのだった。
「上条君。急に。どうしたの」
「悪い。土御門と青髪のヤツが尾(つ)けようとしてたから撒こうと思ってさ」
「悪い。土御門と青髪のヤツが尾(つ)けようとしてたから撒こうと思ってさ」
こちらが行き先を決めてない以上、降りる場所は向こうに読まれることはない。
「バスに乗せといてなんなんだけどさ、姫神はどういう用で校門前に呼び出したんだ?」
「え?」
「いや、なんていうか事の発端を考えますと上条さんは平身低頭しなきゃいけない気もするんですが
もしかして罰ゲームでも吹っかけられるのかなとか思っておりまして」
「……そういうのじゃ。ない」
「えっと、じゃあ、どんな?」
「……私は、デートに誘われたから、待ち合わせを指定しただけ」
「え?」
「いや、なんていうか事の発端を考えますと上条さんは平身低頭しなきゃいけない気もするんですが
もしかして罰ゲームでも吹っかけられるのかなとか思っておりまして」
「……そういうのじゃ。ない」
「えっと、じゃあ、どんな?」
「……私は、デートに誘われたから、待ち合わせを指定しただけ」
イニシアチブを上条に丸投げする一言だった。
「その、青髪とかの口車に乗った結果やってしまった出来心でして、
その辺の事情はもう一度お話したほうがよろしいでせうか」
「いい。上条君が嫌なら。次のバス停で降りよう」
「姫神。お、お前は良いのかよ」
その辺の事情はもう一度お話したほうがよろしいでせうか」
「いい。上条君が嫌なら。次のバス停で降りよう」
「姫神。お、お前は良いのかよ」
面白くなさそうに淡々と上条を見つめていた目が、軽く泳いだ。
「私は待ってるって言った」
40 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/05(木) 00:46:24.10 ID:1dArhboo
見覚えのあるファーストフード店。
58円のお徳用バーガーは値上がりして、いまや100円もするらしい。
58円のお徳用バーガーは値上がりして、いまや100円もするらしい。
「上条君。100円」
姫神は冗談半分に、上条にそうお願いしてみた。
飲み物とあわせて200円、奢ってもらえた。
飲み物とあわせて200円、奢ってもらえた。
「そういやこれが、お前と会ったきっかけだったっけ」
「そうだね」
「あれからはなんともないんだよな?」
「うん。あの人達だって普通に平穏を望んでいるから。
私みたいなのが無理矢理吸い寄せたりしなければ。何も起こらない」
「そうだね」
「あれからはなんともないんだよな?」
「うん。あの人達だって普通に平穏を望んでいるから。
私みたいなのが無理矢理吸い寄せたりしなければ。何も起こらない」
もう慣れたケルト十字の重みに意識をやる。
「そっか。さて、それじゃ今からどうする?」
「私はデートに誘われた側。上条君が。決めてくれると思ってた」
「う……。わかった。腹くくるわ。水族館でも映画館でもゲーセンでも
ジムでも銭湯でも連れて行ってやる。姫神はどれがいい?」
「銭湯は。デートにならないと思う」
「まあ、普通はそうだな。あ、でも二二学区のスパリゾート安泰泉ってトコ、
水着着用で男女混浴の風呂があった」
「そういう意味じゃなくて。水着を着て二人でのんびりお湯につかるのって。
デートとは言わないと思う」
「そりゃそうか。水着ってのはデートっぽいと――――ッ」
「私はデートに誘われた側。上条君が。決めてくれると思ってた」
「う……。わかった。腹くくるわ。水族館でも映画館でもゲーセンでも
ジムでも銭湯でも連れて行ってやる。姫神はどれがいい?」
「銭湯は。デートにならないと思う」
「まあ、普通はそうだな。あ、でも二二学区のスパリゾート安泰泉ってトコ、
水着着用で男女混浴の風呂があった」
「そういう意味じゃなくて。水着を着て二人でのんびりお湯につかるのって。
デートとは言わないと思う」
「そりゃそうか。水着ってのはデートっぽいと――――ッ」
姫神の水着はどんなだろう。
ふと頭にそれがよぎり、上条は一瞬姫神の胸元を見て
ドギャンっと首ごと視線を外した。
ふと頭にそれがよぎり、上条は一瞬姫神の胸元を見て
ドギャンっと首ごと視線を外した。
50 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/11(水) 00:16:00.35 ID:LHiTekwo [2/3]
「……上条君。その、人の体を見てそういう態度をとるのは止めて欲しい」
「うぇっ?! い、いいいや何のことでせうか?」
「どうしてそんな初(うぶ)な振りをするの? 上条君は色んな女の子に声をかけてるのに」
「そんなことしてないって! インデックスのこと言ってるのか? 別にアイツとは特別な関係じゃないって」
「本当に?」
「……上条君。その、人の体を見てそういう態度をとるのは止めて欲しい」
「うぇっ?! い、いいいや何のことでせうか?」
「どうしてそんな初(うぶ)な振りをするの? 上条君は色んな女の子に声をかけてるのに」
「そんなことしてないって! インデックスのこと言ってるのか? 別にアイツとは特別な関係じゃないって」
「本当に?」
当麻は意外と姫神が執拗に尋ねてくることに戸惑いを感じた。
「かくしてどうするんだよ」
「キスとかもしてないの?」
「当たり前だ!」
「そう」
「キスとかもしてないの?」
「当たり前だ!」
「そう」
姫神が素っ気無く呟いてそっぽを向いた、と当麻には見えた。
彼女がやった、と笑みを浮かべたことには気づかなかった。
彼女がやった、と笑みを浮かべたことには気づかなかった。
「他にも心当たりはないの? いつだったか、自分の部屋まで常盤台の女の子を連れてきてたよね」
「へ? ああ……御坂妹な。あれ、初対面だったんだぞ?」
「上条君なら。初対面の女の子を連れ込むくらいはやりそう」
「おまえなぁ……。典型的なモテない高校生のこの上条当麻に限ってそんなことあるわけないだろ?」
「へ? ああ……御坂妹な。あれ、初対面だったんだぞ?」
「上条君なら。初対面の女の子を連れ込むくらいはやりそう」
「おまえなぁ……。典型的なモテない高校生のこの上条当麻に限ってそんなことあるわけないだろ?」
お前の言ってることは見当違い過ぎると、ため息をつく。
それじゃあ、私は。
それじゃあ、私は。
「私は。どうなの? 私はどうして君の前にいるように見えるの?」
「どうって……姫神はどう罰ゲームを執行してやろうかと思ってるんじゃ、って」
「それは違うって、言ったよね?」
「姫神……」
「私は。自分らしくないことを言おうとしてるのは分かっているけど。上条君とデートを。するつもりでここにいる」
「どうって……姫神はどう罰ゲームを執行してやろうかと思ってるんじゃ、って」
「それは違うって、言ったよね?」
「姫神……」
「私は。自分らしくないことを言おうとしてるのは分かっているけど。上条君とデートを。するつもりでここにいる」
姫神がぎゅっと、指をペーパータオルでぬぐった。
51 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/11(水) 00:37:34.51 ID:LHiTekwo [3/3]
「姫神、俺は……」
「姫神、俺は……」
そこまでしか、声にならなかった。あまりに突然で、あまりに意外。
そして未だに事態を正しく理解できている自信がない。
姫神が、俺のことを? ……いやいやいや! 調子に乗るな上条当麻。
冷静に現実を見つめろ。つまらない希望的観測で小躍りなんてすると後で死にたくなる。
なにせ姫神はクラスメイトだ。事の顛末がワンフレーズでも教室の雑談に上れば、上条の破滅は約束される。
そして未だに事態を正しく理解できている自信がない。
姫神が、俺のことを? ……いやいやいや! 調子に乗るな上条当麻。
冷静に現実を見つめろ。つまらない希望的観測で小躍りなんてすると後で死にたくなる。
なにせ姫神はクラスメイトだ。事の顛末がワンフレーズでも教室の雑談に上れば、上条の破滅は約束される。
「上条君。その。何かを言いかけたんだったら言って欲しい」
俺はお前のことを友達としか思えない、か。
俺はお前のこと嫌いじゃない、か。
俺は、から繋がる言葉は望ましい予想と望ましくない予想、どちらにも容易に転ぶ。
まあ、まさか俺はお前のことが好きだなんて言葉が飛んでくることはないだろう。
そこまで、姫神は自分のことを過大評価できなかった。
俺はお前のこと嫌いじゃない、か。
俺は、から繋がる言葉は望ましい予想と望ましくない予想、どちらにも容易に転ぶ。
まあ、まさか俺はお前のことが好きだなんて言葉が飛んでくることはないだろう。
そこまで、姫神は自分のことを過大評価できなかった。
「なあ姫神! と、とりあえず、これからいくところ考えようぜ!」
「え?」
「え?」
姫神ははしごを外されたような気分だった。
当麻にしてみれば、姫神の考えていることを探るのに必要な展開だった。
当麻にしてみれば、姫神の考えていることを探るのに必要な展開だった。
「近場といえば、博物館で『科学の興り・錬金術と神学展』を見るか、地下に降りてゲーセンで遊ぶか、
まあ、それかここでダベるかだなぁ。姫神は……ゲーセンか?」
まあ、それかここでダベるかだなぁ。姫神は……ゲーセンか?」
姫神はお、という顔になった。
「その三つなら。ゲームセンターかも。どうしてそう思ったの?」
「え? なんとなくだけど、お前は意外と騒がしいの好きなんじゃねーかなって」
「え? なんとなくだけど、お前は意外と騒がしいの好きなんじゃねーかなって」
姫神の女友達はどちらかというと皆大人しかった。博物館にこそ友達といったことはないが、
図書館に集まったりすることは多かった。
当麻の予想は当たっていて、自分のことを分かってもらえていることが、嬉しかった。
図書館に集まったりすることは多かった。
当麻の予想は当たっていて、自分のことを分かってもらえていることが、嬉しかった。
「確かに嫌いじゃない」
「うし、じゃあ、行きますか。小遣いはちゃんと下ろしてあるし、大丈夫だな」
「あ。私――」
「うし、じゃあ、行きますか。小遣いはちゃんと下ろしてあるし、大丈夫だな」
「あ。私――」
姫神はこまめに貯金を下ろす人だった。
今も、財布の中には三千円もない。食費を含めればちょっと頼りない金額だった。
今も、財布の中には三千円もない。食費を含めればちょっと頼りない金額だった。
「姫神はゲーセンで熱くなるほうか?」
「別に。そんなことない。見てるだけで楽しいから」
「うし、じゃあ足りない分は俺が出すよ」
「そんな。それは悪いよ」
「いいって。これ、『デート』なんだろ?」
「別に。そんなことない。見てるだけで楽しいから」
「うし、じゃあ足りない分は俺が出すよ」
「そんな。それは悪いよ」
「いいって。これ、『デート』なんだろ?」
申し訳ないけれど、その気遣いが嬉しかった。
55 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/12(木) 01:29:48.99 ID:EAW6WxUo [1/3]
「さて、と。今日こそは、手に入れてやるわよ」
御坂美琴は無類のゲコ太好きだ。市販のグッズはたいてい揃えてある。
非売品だってあれやこれやと手を使って入手してきた。
だから、ゲームセンターのUFOキャッチャーの景品を入手するのはむしろ自然なことだ。
非売品だってあれやこれやと手を使って入手してきた。
だから、ゲームセンターのUFOキャッチャーの景品を入手するのはむしろ自然なことだ。
「昨日と違って小銭(タマ)はたっくさん用意してきたし、絶対手に入れてあげるわ」
美琴の目の前には『超シビア設定! 取れたらこちらのゲーム機と交換!』と書かれたポップアップ。
もちろんゲーム機など要らない。たった数万円ぽっちのおもちゃなどいつでも買えるし、
テレビのない常盤台の寮生がそんなものを買っても仕方がない。
ゲーム機の代理として筐体の中に配置された非売品のゲコ太人形。彼女の狙いはそれだった。
もちろんゲーム機など要らない。たった数万円ぽっちのおもちゃなどいつでも買えるし、
テレビのない常盤台の寮生がそんなものを買っても仕方がない。
ゲーム機の代理として筐体の中に配置された非売品のゲコ太人形。彼女の狙いはそれだった。
ガチャガチャと小銭を突っ込み、彼女はゲコ太を、ゲコ太だけを見つめていた。
56 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/12(木) 01:30:29.91 ID:EAW6WxUo [2/3]
「あっちのUFOキャッチャーは占領されてるみたいだから。これにしよう」
「姫神はこういうラインナップが好みなのか?」
「別に。ぬいぐるみはそんなに好きじゃないから。小さめのにしようと思っただけ」
「姫神はこういうラインナップが好みなのか?」
「別に。ぬいぐるみはそんなに好きじゃないから。小さめのにしようと思っただけ」
交代で一つのターゲットを狙おうという話になった。
どうせならと姫神の欲しいものを狙うことになり、その目星が付いたところだった。
小さな涙の雫の形をした、お洒落なアクセサリ。ラピスラズリの青を姫神は気に入った。
上条はそれをキーホルダーだと認識していた。そういう風にも使えなくはなかった。
だが、その涙の雫のモティーフに通す鎖の長さを調節すれば、それはペンダントにもブレスレットにもなる。
それを姫神は、できれば上条にとって欲しいと思っていた。
どうせならと姫神の欲しいものを狙うことになり、その目星が付いたところだった。
小さな涙の雫の形をした、お洒落なアクセサリ。ラピスラズリの青を姫神は気に入った。
上条はそれをキーホルダーだと認識していた。そういう風にも使えなくはなかった。
だが、その涙の雫のモティーフに通す鎖の長さを調節すれば、それはペンダントにもブレスレットにもなる。
それを姫神は、できれば上条にとって欲しいと思っていた。
「気づいてくれないかもしれないけど。私は君からのプレゼントが欲しい」
ゲームセンターの騒がしい音に紛らわせるよう、そっと想いを言葉にした。
「え? ごめん、なんだって?」
「私はあんまりうまくないから上条君が取ってね。って言った」
「ん。まあ、得意って訳じゃないけどいいところ見せたいしな。頑張ってみるわ」
「私はあんまりうまくないから上条君が取ってね。って言った」
「ん。まあ、得意って訳じゃないけどいいところ見せたいしな。頑張ってみるわ」
ニッと笑う上条に、姫神は微笑を返した。
ガチャガチャと小銭を突っ込み、上条は青い涙の雫と、そしてプラスチックのウインドウに映った姫神を見つめていた。
ガチャガチャと小銭を突っ込み、上条は青い涙の雫と、そしてプラスチックのウインドウに映った姫神を見つめていた。
61 名前:28[] 投稿日:2010/08/13(金) 00:39:46.37 ID:4JdZXIIo [1/3]
「これくらいの金額なら、遊んだ分の値段込みで悪くないな」
「うん。上条君、結構上手だったね」
「ま、格好悪いとこ見せずに済んでよかった」
「うん。上条君、結構上手だったね」
「ま、格好悪いとこ見せずに済んでよかった」
景品が出てくるポケットから上条は目当ての品を取り出し、姫神に手渡した。
「ほい。それじゃあ、貰ってくれ」
「うん……。ありがとう。大切にするね」
「え、あ、ああ」
「うん……。ありがとう。大切にするね」
「え、あ、ああ」
ふわりと笑って、小さな景品を大事そうに握る姫神の仕草に、思わず上条はドキッとした。
パッケージをそっと姫神が開けると、そこには短めの細い鎖が入っていた。
鎖自体には薄い白のメッキがかかっていて、銀の光沢に温かみを与えている。
そしてところどころにビーズ細工がしてあって、鎖だけでもそれなりに洒落ていた。
姫神は上条を一瞥すると、その鎖に青い涙の雫を通し、ブレスレットにして左腕に嵌めた。
パッケージをそっと姫神が開けると、そこには短めの細い鎖が入っていた。
鎖自体には薄い白のメッキがかかっていて、銀の光沢に温かみを与えている。
そしてところどころにビーズ細工がしてあって、鎖だけでもそれなりに洒落ていた。
姫神は上条を一瞥すると、その鎖に青い涙の雫を通し、ブレスレットにして左腕に嵌めた。
「どうかな?」
「どう、って。まあ制服にはそんな合わないかもな」
「どう、って。まあ制服にはそんな合わないかもな」
照れ隠しの言葉は素っ気無かった。
そういえば御坂の妹にネックレスを送ったこともあったはずなのに。
同級生の姫神とゲーセンに行って自分のとった景品をつけてくれた事実が、
なんだか男冥利に尽きるというか、上条の心をくすぐるのだった。
きっと、姫神がカジュアルな服装にそれを合わせれば、似合うだろう。
そういえば御坂の妹にネックレスを送ったこともあったはずなのに。
同級生の姫神とゲーセンに行って自分のとった景品をつけてくれた事実が、
なんだか男冥利に尽きるというか、上条の心をくすぐるのだった。
きっと、姫神がカジュアルな服装にそれを合わせれば、似合うだろう。
「迷惑だった?」
「そ、そんなことないって。そうだ、姫神。喉渇かないか?
さっきから結構声を張ってるから飲み物欲しくなってきた」
「うん。そうだね。買いにいこうか」
「そ、そんなことないって。そうだ、姫神。喉渇かないか?
さっきから結構声を張ってるから飲み物欲しくなってきた」
「うん。そうだね。買いにいこうか」
62 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/13(金) 01:22:19.02 ID:4JdZXIIo [2/3]
「うーん」
「どうしたんだ?」
「ちょっと。一缶は多いかなって」
「うーん」
「どうしたんだ?」
「ちょっと。一缶は多いかなって」
ペットボトルのお茶は売り切れで、少ない量で売られている缶コーヒーは買う気がしなかった。
「じゃあこれ飲むか?」
僅かに姫神がためらいを見せた。
「上条君は。間接キス。気にならないの?」
「へ? 気にするような年じゃないだろもう……意識させるなよ」
「うん……」
「へ? 気にするような年じゃないだろもう……意識させるなよ」
「うん……」
差し出されるより、あるいは引っ込められるより先に、姫神は上条のサイダーに手を出した。
適当にあけられたプルタブには、上条が口をつけた跡が残っている。
僅かにためらって、姫神はそこに口をつけた。
適当にあけられたプルタブには、上条が口をつけた跡が残っている。
僅かにためらって、姫神はそこに口をつけた。
「ありがと」
「もういいのか?」
「うん。これ以上飲んだら。良くないから」
「炭酸苦手だったか?」
「もういいのか?」
「うん。これ以上飲んだら。良くないから」
「炭酸苦手だったか?」
ふるふると姫神は首を振った。これ以上飲んだら、意識しすぎて自分が変態というか、
良くない嗜好を持った人になりそうな不安があった。
良くない嗜好を持った人になりそうな不安があった。
休憩の意味も込めて、自販機の傍のベンチに二人で腰掛ける。
背中のほうからは格闘ゲームと思わしき打撃音や、レーシングゲームらしきエンジン音が響きわたる。
ゲームセンターの片隅のうら寂れた一区画。周りに人は少なくないのに、
ぽっかりと二人だけの空間が開いていた。
背中のほうからは格闘ゲームと思わしき打撃音や、レーシングゲームらしきエンジン音が響きわたる。
ゲームセンターの片隅のうら寂れた一区画。周りに人は少なくないのに、
ぽっかりと二人だけの空間が開いていた。
「ずっと、こんな日が続けばいいんだけど」
上条君が学校をサボらないで、大過なく過ごせる日が。
63 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/13(金) 01:34:45.02 ID:4JdZXIIo [3/3]
「ずっと、こんな日が続けばいいんだけど」
その言葉を、上条は少し違った意味で受け取っていた。
「続くさ。明日からもこれからも、毎日姫神の平穏な日々は」
真剣な響き。希望的観測だというよりも、強い意志のようなものが言葉には乗せてあった。
姫神は上条の勘違いを正さなかった。
姫神は上条の勘違いを正さなかった。
「そうだと良いね。でも。私の平穏は十字架の上に建ってる。
でも上条君と一緒で。私も多少の不幸には慣れてるから」
でも上条君と一緒で。私も多少の不幸には慣れてるから」
もう慣れた首から下がるその重みに、服の上からそっと触れた。
「やめろよ」
その言葉が、嬉しかった。姫神は自分の言葉が卑怯だったことに自覚はあった。
上条にそんな風に否定して欲しくて、人には滅多に見せない弱気を、覗かせた。
上条にそんな風に否定して欲しくて、人には滅多に見せない弱気を、覗かせた。
「幸せなんて人間なら誰だって手に入れられるんだ。手の届かない黄金なんかじゃなくて、
それは毎日簡単に手に入れられる安いモンなんだ。
姫神。お前は今、毎日を楽しめてるか?」
「……うん。穏やかで。結構楽しいよ」
「なら余計な心配なんてすんな。ちゃんと毎日を過ごしてたら、
ちゃんと毎日幸せはやってくる。それにもしお前がどうにもならない
厄介ごとを抱えちまったなら、俺を頼ればいい」
「上条君」
「どんなにお前がピンチでも、どうしようもない境遇に陥っても。
助けが必要なら、俺はいつだってお前のところに駆けつける」
それは毎日簡単に手に入れられる安いモンなんだ。
姫神。お前は今、毎日を楽しめてるか?」
「……うん。穏やかで。結構楽しいよ」
「なら余計な心配なんてすんな。ちゃんと毎日を過ごしてたら、
ちゃんと毎日幸せはやってくる。それにもしお前がどうにもならない
厄介ごとを抱えちまったなら、俺を頼ればいい」
「上条君」
「どんなにお前がピンチでも、どうしようもない境遇に陥っても。
助けが必要なら、俺はいつだってお前のところに駆けつける」
真剣なその声に、姫神は口を開くことが出来なかった。
隣にいるこの少年はあの日自分を助けてくれた。
ちっぽけな出会いがきっかけだったのに、姫神の身を案じてくれた人だった。
だから、そんな直球過ぎる言葉を、茶化すこともなく受け止めてしまえる。
隣にいるこの少年はあの日自分を助けてくれた。
ちっぽけな出会いがきっかけだったのに、姫神の身を案じてくれた人だった。
だから、そんな直球過ぎる言葉を、茶化すこともなく受け止めてしまえる。
「お前が不安に付きまとわれる未来しか描けないって言うんなら。
俺がその幻想を、ぶち壊してやる」
俺がその幻想を、ぶち壊してやる」
それは愛の告白のように、姫神にとっては大切な大切な意味を持った言葉だった。
姫神は缶サイダー一本分あいていた二人の隙間を、体を傾けてそっと埋めた。
姫神は缶サイダー一本分あいていた二人の隙間を、体を傾けてそっと埋めた。
68 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/14(土) 00:59:57.31 ID:QIu7sSgo [1/4]
ふっと我に返ったときに、自分のすぐ傍に上条がいることに気がついた。
思わず声をかけようとして、声が出なかった。上条の隣に、女がいたから。
上条の制服とその女子高校生の制服の体裁がよく似ている。たぶん、同級生。
控えめで物静かな感じのする、黒髪の綺麗な人だった。
ふっと我に返ったときに、自分のすぐ傍に上条がいることに気がついた。
思わず声をかけようとして、声が出なかった。上条の隣に、女がいたから。
上条の制服とその女子高校生の制服の体裁がよく似ている。たぶん、同級生。
控えめで物静かな感じのする、黒髪の綺麗な人だった。
「そっか」
こんなにうるさい場所なのに、上条の言葉は全て聞き取れた。
ああ、この人もアイツに救われた人なんだな、と美琴は理解できた。
そして、その女の人がどんな気持ちを上条に抱いているのかも。
上条のその言葉は、夏の終わりに美琴が聞いたそれと、ほとんど同じだった。
アイツは、誰にだってああいうことをいうヤツなんだ。
ああ、この人もアイツに救われた人なんだな、と美琴は理解できた。
そして、その女の人がどんな気持ちを上条に抱いているのかも。
上条のその言葉は、夏の終わりに美琴が聞いたそれと、ほとんど同じだった。
アイツは、誰にだってああいうことをいうヤツなんだ。
「分かってた、ことなのにな」
ふと上条の隣の女の人が、こちらを振り向いた。
それは単に、立ち尽くす美琴が不自然だっただけで、他意はなかっただろう。
それは単に、立ち尽くす美琴が不自然だっただけで、他意はなかっただろう。
「姫神、どうかしたか? ……って、御坂?」
「上条君の。知り合いなんだ?」
「上条君の。知り合いなんだ?」
もう一度姫神が美琴を見た。
視線が交わるときに、今度は隔意があった。
あえて表現するなら、敵を値踏みするような、そんな意味合いの込められた目線。
たぶん美琴が向けたそれも、同じだった。
視線が交わるときに、今度は隔意があった。
あえて表現するなら、敵を値踏みするような、そんな意味合いの込められた目線。
たぶん美琴が向けたそれも、同じだった。
69 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/14(土) 01:20:40.36 ID:QIu7sSgo [2/4]
姫神と美琴は、軽い会釈で挨拶をした。
軽い探りはそれで済ませた。
姫神と美琴は、軽い会釈で挨拶をした。
軽い探りはそれで済ませた。
「で、アンタはこんなところで何をしてるわけ?」
「何って……まあ、なんだ」
「デート」
「何って……まあ、なんだ」
「デート」
言いよどむ上条に、姫神が言葉を重ねる。
「ひ、姫神?」
「上条君は。さっきデートをしようって言って誘ってくれた」
「いや、それは」
「違うの?」
「上条君は。さっきデートをしようって言って誘ってくれた」
「いや、それは」
「違うの?」
じっと、ハッキリしなさいよと美琴が上条を見つめている。
姫神も肯定して欲しいと、切ない目で上条を見つめていた。
姫神も肯定して欲しいと、切ない目で上条を見つめていた。
「う、まあ。これはデートだってことに、なってる、けど」
「そういうこと」
「そういうこと」
姫神は、美琴のほうを見て事実を解説した。
常盤台の制服を着た、つまり中学生を相手にこんなことを言う自分を、
姫神は浅ましいと思った。だけど、きっと判断は間違っていない。
常盤台の制服を着た、つまり中学生を相手にこんなことを言う自分を、
姫神は浅ましいと思った。だけど、きっと判断は間違っていない。
目の前の女の子はアクティブな印象の子だった。
綺麗というにはやや幼く、可愛いというには芯が通りすぎている。
だけどこんな子に甘えられたら、上条君だって悪い気はしないだろう。
綺麗というにはやや幼く、可愛いというには芯が通りすぎている。
だけどこんな子に甘えられたら、上条君だって悪い気はしないだろう。
今。当麻に貰った勇気を使うべきなのは今だ。
自分の思いが報われないことを許容してしまったら、この子でなくても誰かの方に、
想いを伝えたい誰かはなびいてしまうだろう。
自分の思いが報われないことを許容してしまったら、この子でなくても誰かの方に、
想いを伝えたい誰かはなびいてしまうだろう。
上条の口から出たデートという言葉は、美琴の強気を挫くには充分な威力だった。
美琴は姫神の遠慮のない視線に一歩、後退させられた。
美琴は姫神の遠慮のない視線に一歩、後退させられた。
74 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/14(土) 23:52:16.01 ID:QIu7sSgo [4/4]
「行こう。上条君」
「行こう。上条君」
姫神がやけに積極的だった。自ら上条の腕を引き、ベンチから立たせる。
そして、そのまま上条の二の腕辺りの袖をつかんでいた。
腕を組むところまでは、していなかった。それが彼女の限界でもあった。
そして、そのまま上条の二の腕辺りの袖をつかんでいた。
腕を組むところまでは、していなかった。それが彼女の限界でもあった。
「上条君、ねえ。彼女には下の名前で呼んで欲しくないわけ? と、と、当麻?」
上条の連れは、腕も組めず、名前で呼びもしない。
それは最悪の予想とは少し違って、
まだ自分が蚊帳の外に放り出されたわけではないらしいことを意味している。
私がアイツの彼女だったら絶対もっとくっついて、名前だって当麻、って呼ぶ。
……べべべ別にアイツのじゃなくても一般論としてそうよね!
それは最悪の予想とは少し違って、
まだ自分が蚊帳の外に放り出されたわけではないらしいことを意味している。
私がアイツの彼女だったら絶対もっとくっついて、名前だって当麻、って呼ぶ。
……べべべ別にアイツのじゃなくても一般論としてそうよね!
「……お前にそんな呼ばれ方したの何度目だっけ?」
「知らないわよバカ!」
「まあ、姫神は彼女ってわけじゃない。姫神の名誉のために言っとくと」
「知らないわよバカ!」
「まあ、姫神は彼女ってわけじゃない。姫神の名誉のために言っとくと」
姫神が目を伏せた。だが当麻の腕を手放さない。
美琴は目を上げてそれを確認し、目をそらした。
美琴は目を上げてそれを確認し、目をそらした。
「当麻……君」
「え、姫神?」
「え、姫神?」
記憶を失うより前から知り合っていた美琴の場合と違い、
姫神にそう呼ばれるのが初めてだというのに上条は自信があった。
姫神にそう呼ばれるのが初めてだというのに上条は自信があった。
「私と当麻君は。確かに付き合ってるわけじゃないけど。でも今日は。デートをする約束でしょ?」
「姫神、いや、俺の自意識過剰だってんなら笑ってくれりゃ良いけどさ、その」
「姫神、いや、俺の自意識過剰だってんなら笑ってくれりゃ良いけどさ、その」
まるで、二人で遊んで最後に告白、なんて流れになりそうな台詞だった。
そんなわけはないはずだと思いながら、上条もしがない男の性で、期待せずにはいられなかった。
そんなわけはないはずだと思いながら、上条もしがない男の性で、期待せずにはいられなかった。
「ねえ、と、当麻。メールの件は一体いつ、付き合ってくれるわけ?」
「メール?」
「メール?」
前から後ろから、振り回されてばっかりだった。
この間からメールメールと、やけに美琴がつっかかってくる。
この間からメールメールと、やけに美琴がつっかかってくる。
「買い物とかに、付き合ってくれるって話してるじゃない!」
身に覚えのない話だった。
87 名前:28[] 投稿日:2010/08/30(月) 11:11:24.32 ID:Cnz69/co [1/2]
「あのう御坂さん? 上条さんはあなたとそんな約束をした覚えが全くないのですが」
「ちゃんとしたわよ! ほ、ほらこないだアンタが私からのメール消したかもって言ってたじゃない!」
「……その内容が買い物に付き合うって話だったと?」
「そ、そうよ! なによ疑うの?」
「あのう御坂さん? 上条さんはあなたとそんな約束をした覚えが全くないのですが」
「ちゃんとしたわよ! ほ、ほらこないだアンタが私からのメール消したかもって言ってたじゃない!」
「……その内容が買い物に付き合うって話だったと?」
「そ、そうよ! なによ疑うの?」
上条は気の抜けたため息をついて、ぼんやりと宙を仰ぎ見た。
「別に疑いはしねえよ。ただ、俺は返事した覚えないんだけど?」
「そ、そうだっけ? 貰った気がしてたんだけどなー」
「どんな返事を?」
「あー、たしか『この不肖上条当麻、美琴様にどこまででもお付き合いさせていただきます』って」
「ふざけんな! そんな返事俺がするわけねーだろ! そういうメールは白井に送ってもらえ!」
「ちょ、やめてってば! 黒子の場合はそれが冗談にならないのよ!
ああもう貸しなさいよアンタの返信メール探したげるから!」
「お、おい」
「そ、そうだっけ? 貰った気がしてたんだけどなー」
「どんな返事を?」
「あー、たしか『この不肖上条当麻、美琴様にどこまででもお付き合いさせていただきます』って」
「ふざけんな! そんな返事俺がするわけねーだろ! そういうメールは白井に送ってもらえ!」
「ちょ、やめてってば! 黒子の場合はそれが冗談にならないのよ!
ああもう貸しなさいよアンタの返信メール探したげるから!」
「お、おい」
小気味のいいテンポで、美琴と上条は掛け合いをしていた。
あんな調子を、自分は出せないだろう。姫神は急に開いて見えた上条との距離に怯えた。
美琴が当麻の腕を捕まえて、尻のポケットから携帯を引き抜いたところだった。
あんな調子を、自分は出せないだろう。姫神は急に開いて見えた上条との距離に怯えた。
美琴が当麻の腕を捕まえて、尻のポケットから携帯を引き抜いたところだった。
「俺の返信が気になるなら自分の携帯を見ろよ」
「うっさいわね。アンタの送信履歴見たっておんなじことでしょ?」
「うっさいわね。アンタの送信履歴見たっておんなじことでしょ?」
ポチポチとボタンをいじりながら、美琴は上条のメール受信履歴を見ていた。送信履歴ではなく。
上から女の名前を探していく。上条詩菜と書かれたメールは中身を一つ見てスルーした。
ひめがみ、漢字なら姫神だろうか。その名前を探しながらスクロールし続けて、
過去数ヶ月間にその名前が一度もないことを確認した。
気になる名前は、二つ。
上から女の名前を探していく。上条詩菜と書かれたメールは中身を一つ見てスルーした。
ひめがみ、漢字なら姫神だろうか。その名前を探しながらスクロールし続けて、
過去数ヶ月間にその名前が一度もないことを確認した。
気になる名前は、二つ。
「土御門って、これメイドの土御門じゃないでしょうね?」
「あ、おい。それ受信履歴だ!」
「あーゴメンゴメン。間違えた。で、土御門って? 私の知り合いにメイドの子がいるんだけど。
アンタそういう趣味じゃないでしょうね」
「舞夏のこと知ってるのか? このメールはアイツの兄貴のほうだ。舞夏のアドレスはしらねーよ。」
「ふーん」
「あ、おい。それ受信履歴だ!」
「あーゴメンゴメン。間違えた。で、土御門って? 私の知り合いにメイドの子がいるんだけど。
アンタそういう趣味じゃないでしょうね」
「舞夏のこと知ってるのか? このメールはアイツの兄貴のほうだ。舞夏のアドレスはしらねーよ。」
「ふーん」
上条に見えないようにコッソリとメールを開く。語尾がにゃーにゃーしていて、男同士のものらしいくだらない内容だった。
土御門舞夏と連絡しあってるのではないことを確認してほっとため息をつく。
土御門舞夏と連絡しあってるのではないことを確認してほっとため息をつく。
ふと、そこで見落としていた名前に気がついた。いや、名前だと思わないから流していたのだ。
よく考えれば何度か聞いた名前。
つい最近メールをしたその送り主の名前は、インデックスと書かれていた。
よく考えれば何度か聞いた名前。
つい最近メールをしたその送り主の名前は、インデックスと書かれていた。
95 名前:28[sage] 投稿日:2010/08/30(月) 22:27:56.73 ID:Cnz69/co [2/2]
差出人の名前がインデックスと書かれたそのメールをポチっと押して開ける。
差出人の名前がインデックスと書かれたそのメールをポチっと押して開ける。
「おい、御坂! 関係ないメールを開けるなよ」
「あーうん。ごめん」
「テメェ全然謝る気ないですねコノヤロウ!」
「なによ。わ、私が頑張って送ったメールをどっかにやっちゃうような薄情なヤツが偉そうにしてんじゃないわよ!」
「頑張ったってなんだよ。お前はメールも遅れない情報弱者か」
「そうじゃなくて、わ、私だってその、どういうメールを送ったらとか……」
「あーうん。ごめん」
「テメェ全然謝る気ないですねコノヤロウ!」
「なによ。わ、私が頑張って送ったメールをどっかにやっちゃうような薄情なヤツが偉そうにしてんじゃないわよ!」
「頑張ったってなんだよ。お前はメールも遅れない情報弱者か」
「そうじゃなくて、わ、私だってその、どういうメールを送ったらとか……」
ゴニョゴニョと言葉にならないぼやきをうつむいた美琴が吐き出す。
それでもメールを見るのを止めたりはしなかった。
それでもメールを見るのを止めたりはしなかった。
「『猫+1のエサはちゃんと用意してあげたよお兄ちゃん』……?」
「ああ、そのメールか」
「……最低」
「あ?」
「ああ、そのメールか」
「……最低」
「あ?」
汚らわしいものでも見るように、美琴が当麻を冷ややかに睨んでいた。
すぐ後ろで、姫神も瞳をすっと切れ長にしていた。
すぐ後ろで、姫神も瞳をすっと切れ長にしていた。
「かみ……当麻君。君は。あのシスターの子にお兄ちゃんって呼ばせてるの?」
「違う違う! それは濡れ衣だぞお二人さん方や。それはインデックスが書いたないようじゃなくてだな」
「へぇ、違う女の子になら、アンタはお兄ちゃんって呼ばれてるワケね」
「そう。上条君は。知り合いの女の子の数なら両手があっても足りないものね」
「な、なんで二人とも怒ってるんだよ。ちなみにそれはさっき話に出た土御門の妹の舞夏だ。
アイツは誰にでもお兄ちゃんという女だし、ついでに言えばアイツは義理の兄と一線を越えてるっぽい」
「違う違う! それは濡れ衣だぞお二人さん方や。それはインデックスが書いたないようじゃなくてだな」
「へぇ、違う女の子になら、アンタはお兄ちゃんって呼ばれてるワケね」
「そう。上条君は。知り合いの女の子の数なら両手があっても足りないものね」
「な、なんで二人とも怒ってるんだよ。ちなみにそれはさっき話に出た土御門の妹の舞夏だ。
アイツは誰にでもお兄ちゃんという女だし、ついでに言えばアイツは義理の兄と一線を越えてるっぽい」
美琴と姫神が驚いた顔をした。ついでに上条から少し離れたところで誰かの暴れる音がした。
金髪と青髪が印象的な二人組だ。上条には心当たりがありすぎた。
金髪と青髪が印象的な二人組だ。上条には心当たりがありすぎた。
「あれ、土御門君と」
「何も言うな姫神。どうやら逃避行は続けないといけないらしいな」
「そうだね。見られるのは。恥ずかしいし」
「え? ああ、うん。後で何言われるかわかんないしな」
「え、ちょっと。一体なんなのよ?」
「何も言うな姫神。どうやら逃避行は続けないといけないらしいな」
「そうだね。見られるのは。恥ずかしいし」
「え? ああ、うん。後で何言われるかわかんないしな」
「え、ちょっと。一体なんなのよ?」
美琴が事情を飲み込めずに戸惑っている。姫神が、そっとその手から当麻の携帯を奪った。
「ごめんね。これ。返してもらうから」
「あなたのじゃないと思うんだけど?」
「そうだね。じゃあ当麻君。行こう」
「お、おう」
「あなたのじゃないと思うんだけど?」
「そうだね。じゃあ当麻君。行こう」
「お、おう」
手を握ると、照れた顔をした上条がぐいと姫神を引っ張った。
加速をそうやって上条に助けてもらって、二人は猥雑な地下街を、人を縫うように走り出した。
加速をそうやって上条に助けてもらって、二人は猥雑な地下街を、人を縫うように走り出した。
「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ!」
奪われたのは携帯ではなくて、上条だった。
後ろから走ってくる高校生と併走しながら、美琴は上条たちを追った。
後ろから走ってくる高校生と併走しながら、美琴は上条たちを追った。
99 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/02(木) 01:34:20.74 ID:wbZ/ZLwo [1/4]
「くそ、あいつらなんでこんなにしつこいんだ」
「土御門君たちは分からないけど。あの子はなんとなくわかるかな」
「へ? 御坂のアレを理解できんの?」
「……上条君は。ひどい男の子だね」
「ひどいって……なんだよ」
「くそ、あいつらなんでこんなにしつこいんだ」
「土御門君たちは分からないけど。あの子はなんとなくわかるかな」
「へ? 御坂のアレを理解できんの?」
「……上条君は。ひどい男の子だね」
「ひどいって……なんだよ」
地下で美琴と土御門と青ピを撒くのに人ごみを縫いながら、建物の一つに逃げ込む。
そこはいわゆる百貨店の地下一階。お菓子のショーケースを横目に見ながら、エレベータに駆け込んだ。
そこはいわゆる百貨店の地下一階。お菓子のショーケースを横目に見ながら、エレベータに駆け込んだ。
「これでいったん追っ手からは逃れたけど」
「何階で降りるか。それが問題だね」
「何階で降りるか。それが問題だね」
土御門たちも当然エスカレータなり隣のエレベータなりで追ってくるだろう。
すぐ上の一階で降りて逃げるのが一番手詰まりになりにくい。
上にあがれば見通しのいいフロアで逃げ場は少ない。
だが勿論あちらもそれは分かっていて、おそらく一階には追っ手が割かれるだろう。
すぐ上の一階で降りて逃げるのが一番手詰まりになりにくい。
上にあがれば見通しのいいフロアで逃げ場は少ない。
だが勿論あちらもそれは分かっていて、おそらく一階には追っ手が割かれるだろう。
「土御門はこういうのに機転が利くほうだ。逃げ場が少ないほうに行っちまったらそれこそ詰みだ」
「それじゃ。次で降りよう」
「それじゃ。次で降りよう」
あっという間に次の階に着く。エレベータは空のまま上にあがるようにボタンを押した。
エスカレータは右手奥にあるから、それ以外の逃げ場を探す。
左に逃げた先に、トイレや荷物搬入用の出入り口が押し込められた一角が見えた。
エスカレータは右手奥にあるから、それ以外の逃げ場を探す。
左に逃げた先に、トイレや荷物搬入用の出入り口が押し込められた一角が見えた。
「あっちだ」
「あ」
「あ」
ぎゅっと上条が姫神の手を握る。その遠慮のなさに、姫神は胸を高鳴らせた。
楽しい。
鬼ごっこを恋人と一緒にやるというのは。きっとすごく楽しい遊び。
姫神は上条に引っ張られながら、ふとそんなことを考えていた。
楽しい。
鬼ごっこを恋人と一緒にやるというのは。きっとすごく楽しい遊び。
姫神は上条に引っ張られながら、ふとそんなことを考えていた。
104 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/02(木) 09:29:34.67 ID:wbZ/ZLwo [4/4]
「やべっ! 御坂が来てる!」
「やべっ! 御坂が来てる!」
警戒していたのとは別ルート。階段からの刺客だった。
その視界から逃れるために、トイレの横に伸びた搬入口通路に逃げ込む。
ダンボールが身長くらいに積み上げられて、うまく視界が出来ている。
その視界から逃れるために、トイレの横に伸びた搬入口通路に逃げ込む。
ダンボールが身長くらいに積み上げられて、うまく視界が出来ている。
「姫神、ここだ!」
「うん」
「うん」
後ろから付いてきていた姫神をダンボールに隠し、上条は覆いかぶさるように姫神に密着した。
スタスタというパンプスが奏でる足音が聞こえる。御坂だろうか。
スタスタというパンプスが奏でる足音が聞こえる。御坂だろうか。
「……」
「……」
「……」
沈黙の意味が、二人で異なっていた。
上条はひたすら外に意識をやり、追ってくる連中の匂いをかいでいた。
一方姫神は。
上条はひたすら外に意識をやり、追ってくる連中の匂いをかいでいた。
一方姫神は。
……どうしよう。上条君が。すごく近い。
背中に手を。回せちゃう距離だよね。
背中に手を。回せちゃう距離だよね。
何せ頬が当麻の制服に触れるレベルの距離なのだ。
抱きつくのが目的ではないことになっているから、体の全てを上条に預けたりはしていない。
だけども体温とか匂いとか、それどころか心臓の鼓動さえ聞こえそうな距離に、
姫神は戸惑いと嬉しさを隠せないくらいに感じていた。
抱きつくのが目的ではないことになっているから、体の全てを上条に預けたりはしていない。
だけども体温とか匂いとか、それどころか心臓の鼓動さえ聞こえそうな距離に、
姫神は戸惑いと嬉しさを隠せないくらいに感じていた。
「姫神」
「何?」
「何?」
突然耳のすぐ近くでかけられた声にビクゥとなりながら姫神は返事をした。
上条の息遣いがただひたすらに近い。
上条の息遣いがただひたすらに近い。
「気配を完全に見失った。なんつーか、いつまでこうしてればいいかわかんねえ」
「そう。……もうちょっと。隠れていよう」
「そう。……もうちょっと。隠れていよう」
追っ手の件とは別の、自分の都合で姫神はそう上条に提案した。
106 名前:28[] 投稿日:2010/09/03(金) 01:17:10.47 ID:IkTsZ/Uo [1/2]
上条も、いつの間にか姫神のほうを見つめたまま硬直していた。
周りを警戒しなければならないはずなのに、姫神の彫りの薄い顔の1パーツ1パーツに
視線を縫いとめられてしまっている。
周りを警戒しなければならないはずなのに、姫神の彫りの薄い顔の1パーツ1パーツに
視線を縫いとめられてしまっている。
姫神も、上条から視線を外せずにいた。畢竟、二人は見つめあい続けることになる。
「う……」
「……」
「……」
姫神が視線をそらせない理由は、その行為が上条への無関心や嫌悪を
意味してしまわないかという不安があるからだった。
上条が硬直してるのは、今日もう何度目か分からないが、
姫神のいつもと違う側面にドキッとさせられているからだった。
意味してしまわないかという不安があるからだった。
上条が硬直してるのは、今日もう何度目か分からないが、
姫神のいつもと違う側面にドキッとさせられているからだった。
僅かに、姫神の唇がわなないた。
緊張に耐えかねたせいかもしれなかった。
それが、上条には誘っているように見える。
緊張に耐えかねたせいかもしれなかった。
それが、上条には誘っているように見える。
誰の視線もないそこで、10センチをつめるだけの簡単な作業。
キスまでの物理的障壁はほとんどないと言ってよかった。
キスまでの物理的障壁はほとんどないと言ってよかった。
「なあ姫神」
「え……」
「お前、好きなやつとかいるか?」
「え……」
「お前、好きなやつとかいるか?」
そんなことを突然聞く上条の態度のせいで、
姫神は頭が真っ白になった。
どういう理由で、そんな質問をするんだろう。
姫神は頭が真っ白になった。
どういう理由で、そんな質問をするんだろう。
唇を開く。言葉の形に整えたはずのそこからは、しかし声が出てこなかった。
後ろに握った手が震える。
浅くなる息を必死で吸い込む。
文にならないのは仕方ない。最低限の音を、なんとか紡ぎだした。
後ろに握った手が震える。
浅くなる息を必死で吸い込む。
文にならないのは仕方ない。最低限の音を、なんとか紡ぎだした。
「とう…ま……くん…」
112 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/05(日) 13:20:19.30 ID:CL9HntAo [1/3]
「とうま……くん……」
「とうま……くん……」
それが姫神の限界だった。
元から小さな声がさらにかすれ、音の一粒一粒が途切れがちで、抑揚に乏しかった。
元から小さな声がさらにかすれ、音の一粒一粒が途切れがちで、抑揚に乏しかった。
「……えっと、なんだ、姫神?」
「え?」
「え?」
上条の声は、戸惑いを含んでいた。
「いやほら、姫神が俺の名前で呼びかけたまんま黙っちまうからさ。なんなのかと聞きたくなって」
「あ……」
「あ……」
姫神は、ありったけの勇気を振り絞って、答えを口にしたつもりだったのだ。
でも、声調がちょっとおかしかったせいで、そうは受け取ってもらえず、
普段「上条君」と呼びかけるのと同じ意味合いだと理解されたらしかった。
でも、声調がちょっとおかしかったせいで、そうは受け取ってもらえず、
普段「上条君」と呼びかけるのと同じ意味合いだと理解されたらしかった。
「つーかさ、当麻君ってのは姫神も小っ恥ずかしくないか? なんでそんな呼び方するようになったのか
よくわかんねーけど、付き合ってない男をそう呼ぶのは、あんまりよくないぞ」
「……迷惑。だったかな」
「え、あ、いや。そういうわけじゃないけど。……でも、よくねーよ。さっきも『好きなヤツいるか?』って
質問のすぐ後に『当麻君』ってとこで言葉を切っちまうのもさ」
よくわかんねーけど、付き合ってない男をそう呼ぶのは、あんまりよくないぞ」
「……迷惑。だったかな」
「え、あ、いや。そういうわけじゃないけど。……でも、よくねーよ。さっきも『好きなヤツいるか?』って
質問のすぐ後に『当麻君』ってとこで言葉を切っちまうのもさ」
上条が恥ずかしがっているのを隠すように頭をかいたり、しきりに周囲を警戒している素振りを見せた。
「そういうの、男の側を勘違いさせちまうぞ? 上条さんだって一応健全かつモテない男子高校生なわけで、
姫神みたいな綺麗な女の子とこういうシチュエーションになったらさ、まあなんだ、期待しちまうって、いいますか」
姫神みたいな綺麗な女の子とこういうシチュエーションになったらさ、まあなんだ、期待しちまうって、いいますか」
そこまで言って恥ずかしさが規定値を越えたのか、上条が頭を抱えて悶絶しだした。
「だーっ! 今のなし。武士の情けで聞かなかったことにしてくれ」
「私。侍じゃない。……聞き流せないよ」
「私。侍じゃない。……聞き流せないよ」
断じて、聞き流したりなんてできるものではなかった。
上条が自分だけを見ていて、意識してくれているのだ。
上条が自分だけを見ていて、意識してくれているのだ。
「頼むから聞き流してくれ。それと姫神。俺の呼び方も、戻さないか。やっぱドキッとしちまうよ。
お前だって俺から『秋沙』って呼ばれたら……ほら、びっくりして落ち着かないだろ?」
お前だって俺から『秋沙』って呼ばれたら……ほら、びっくりして落ち着かないだろ?」
一瞬で体が反応した。上条の声はバリトンに届かない、渋いというほどの声ではない。
だけど、紛れもなく男性の声だ。
上条が紡いだ秋沙という響きは、心地よくなんて思えないくらい爆発的な感情を姫神にもたらした。
だけど、紛れもなく男性の声だ。
上条が紡いだ秋沙という響きは、心地よくなんて思えないくらい爆発的な感情を姫神にもたらした。
113 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/05(日) 14:11:06.61 ID:CL9HntAo [2/3]
「……」
「……」
長い沈黙の時間が続く。
姫神は心の中にある消化し切れないほどの大きな感情を、必死に咀嚼しているところだった。
抱えている気持ちを、嬉しさを甘味に、気恥ずかしさを酸味に、戸惑いを苦味にたとえるなら、
ちょうどグレープフルーツくらいの味だった。
客観的に見れば、峻烈な酸味と程よい苦味は、甘みを引き立てていた。
もちろん姫神にはそんな達観は無理で、ただひたすら籠に山盛りになった果物をもてあましていた。
上条は、そんな姫神の心境を斟酌できるわけもなく、頭の中で謝罪の言葉を練っていた。
姫神は心の中にある消化し切れないほどの大きな感情を、必死に咀嚼しているところだった。
抱えている気持ちを、嬉しさを甘味に、気恥ずかしさを酸味に、戸惑いを苦味にたとえるなら、
ちょうどグレープフルーツくらいの味だった。
客観的に見れば、峻烈な酸味と程よい苦味は、甘みを引き立てていた。
もちろん姫神にはそんな達観は無理で、ただひたすら籠に山盛りになった果物をもてあましていた。
上条は、そんな姫神の心境を斟酌できるわけもなく、頭の中で謝罪の言葉を練っていた。
「その、姫神。嫌な気持ちにさせたみたいで、ごめん。名前で呼んだのは悪かった」
「違うよ……」
「姫神?」
「秋沙……って。呼んで欲しい」
「それって――」
「違うよ……」
「姫神?」
「秋沙……って。呼んで欲しい」
「それって――」
上条が、そこで口ごもった。瞳に真剣な色が湛えられた。
こっそりと姫神は視線を外して、当麻の胸の辺りを見つめていた。
体の重みをそっと上条に預ける。それが、姫神の精一杯の意思表明だった。
見えないところにあっても、上条がじっと姫神を見つめてくれていることを、理解していた。
こっそりと姫神は視線を外して、当麻の胸の辺りを見つめていた。
体の重みをそっと上条に預ける。それが、姫神の精一杯の意思表明だった。
見えないところにあっても、上条がじっと姫神を見つめてくれていることを、理解していた。
「ひめ……なあ、秋沙」
「――っ」
「――っ」
心臓が跳ねる音がする。
「もし買いかぶられてるんなら困るから一応言っとくけどさ、
俺だって女の子に興味はあるし下心もある普通の男子だからな。
秋沙って下の名前で呼んで、当麻って下の名前で呼び返してくれる女の子を、
俺はただの友達だとは思えないんだ。もっと特別なさ、まあ、
彼女とか、そういう関係の女の子だと思う。」
俺だって女の子に興味はあるし下心もある普通の男子だからな。
秋沙って下の名前で呼んで、当麻って下の名前で呼び返してくれる女の子を、
俺はただの友達だとは思えないんだ。もっと特別なさ、まあ、
彼女とか、そういう関係の女の子だと思う。」
当麻の制服に僅かに髪が触れる距離。姫神は首を横に振って、
髪と、そして自分の匂いを当麻に擦りつけた。
髪と、そして自分の匂いを当麻に擦りつけた。
「もし仮に秋沙が、普通の友達として俺を見てるんだったら、
今日の遊びが友達同士の遊びの延長なんだったら、
名前で呼んだり、こういうのをするのは止めよう」
今日の遊びが友達同士の遊びの延長なんだったら、
名前で呼んだり、こういうのをするのは止めよう」
また姫神は、首を横に振った。今度はおでこまでくっつけた。
「首を振るってことは……俺が意識しちまってるのは、間違いじゃないって、
そういうことで……良いんだな?」
そういうことで……良いんだな?」
僅かに逡巡して、すこしだけ、姫神は頭を縦に振った。
「当麻君の……。当麻君の。気持ちを聞かせて?」
120 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/12(日) 11:24:34.64 ID:acdkAjQo [2/5]
姫神の瞳が潤んでいる。
物凄く、姫神が可愛かった。
上条とて一般男児。自分が「お前のことが好きだ」と一言言うだけで
目の前の女の子が靡(なび)いてくれそうなこの瞬間。
いつもならただのクラスメイトとしか見ていない姫神の、ごく何気ないような仕草の一つ一つまでが、
首元に見えるほくろや切りそろえられた前髪までが、鮮やかな驚きを伴って上条の瞳に美しく映る。
物凄く、姫神が可愛かった。
上条とて一般男児。自分が「お前のことが好きだ」と一言言うだけで
目の前の女の子が靡(なび)いてくれそうなこの瞬間。
いつもならただのクラスメイトとしか見ていない姫神の、ごく何気ないような仕草の一つ一つまでが、
首元に見えるほくろや切りそろえられた前髪までが、鮮やかな驚きを伴って上条の瞳に美しく映る。
「姫神は、可愛いと、思う」
「えっ」
「えっ」
信じられない言葉を聴いたような顔をして、そして姫神は表情をくしゃりとさせた。
「嬉しい。信じられないよ。当麻君がそんなことを言ってくれるなんて」
「信じられないって何だよ。前から姫神のことは綺麗だなって、思ってた」
「本当に? でも言ってくれなかったよね」
「いやだってさ、ただの友達にそんなこと言うの、変だろ?」
「そうだね。ただの友達の男の子にそんなこといわれても。困るだけかも」
「今は良いのか?」
「うん。だって。そういってくれたのは当麻君だから」
「姫神」
「信じられないって何だよ。前から姫神のことは綺麗だなって、思ってた」
「本当に? でも言ってくれなかったよね」
「いやだってさ、ただの友達にそんなこと言うの、変だろ?」
「そうだね。ただの友達の男の子にそんなこといわれても。困るだけかも」
「今は良いのか?」
「うん。だって。そういってくれたのは当麻君だから」
「姫神」
つい、気がはやった。
知らぬ間に、上条は自分の手が動いて、姫神の肩にかかったことに気がついた。
知らぬ間に、上条は自分の手が動いて、姫神の肩にかかったことに気がついた。
「あっ……」
どんどん自分の中で、姫神の存在感が大きくなっていく。
インデックスを別とすれば、クラスメイトである姫神はもっとも上条に近しい場所にいる少女なのだ。
学校を休みがちであっても、学生生活という青春を彩る各ページに確かに姫神はいた。
この肩にかけた手を引き寄せるだけで、きっともっと楽しい日々が待っている。
上条は、口の中の渇きを覚えながら、無理矢理つばを飲み込んだ。
インデックスを別とすれば、クラスメイトである姫神はもっとも上条に近しい場所にいる少女なのだ。
学校を休みがちであっても、学生生活という青春を彩る各ページに確かに姫神はいた。
この肩にかけた手を引き寄せるだけで、きっともっと楽しい日々が待っている。
上条は、口の中の渇きを覚えながら、無理矢理つばを飲み込んだ。
その時だった。
カツンカツンと、ローファーの音が聞こえてきた。
二人の体が強張る。
見つかると面倒だという以上に、こんな物陰で、こんなにも近い距離にいる自分達が、
もはや誰かに見られたら言い訳の出来ないような、そんな風に感じていた。
カツンカツンと、ローファーの音が聞こえてきた。
二人の体が強張る。
見つかると面倒だという以上に、こんな物陰で、こんなにも近い距離にいる自分達が、
もはや誰かに見られたら言い訳の出来ないような、そんな風に感じていた。
「……ったく。なんで私がアイツなんかのこと探さなきゃいけないのよ」
そんなぼやき声が聞こえる。足音の主が御坂美琴であることに疑いはなかった。
121 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/12(日) 12:17:57.45 ID:acdkAjQo [3/5]
御坂美琴は学園都市にあまたと存在する電撃使いの、頂点に立つ能力者である。
その能力の高さの一つの発露が、電磁場を電気力線や磁力線として視覚化できることだ。
追いかけるのに消極的であるかのように口では言っておきながら、
美琴は能力をフルに活用して二人を追っていた。
御坂美琴は学園都市にあまたと存在する電撃使いの、頂点に立つ能力者である。
その能力の高さの一つの発露が、電磁場を電気力線や磁力線として視覚化できることだ。
追いかけるのに消極的であるかのように口では言っておきながら、
美琴は能力をフルに活用して二人を追っていた。
建物の端近い、トイレの辺りを歩いているときだった。
つんつんと、目の前で力線が束ねられるのが分かる。緩く集めた糸を引っ張って束ねる感じに近い。
出力としては大したことがない。一本の力線に対応する電束と磁束を小さくし、
力線をかなり高密度に描いてようやく分かるレベルだった。
普段、美琴はそのデータを意識しないようカットしている。なぜなら自分自身が頻繁に発し、
そして学園都市のほぼ全ての住人が発するものだからだ。気にしていてはキリがない。
――メールチェックのための携帯電話の発信、なんてものは。
つんつんと、目の前で力線が束ねられるのが分かる。緩く集めた糸を引っ張って束ねる感じに近い。
出力としては大したことがない。一本の力線に対応する電束と磁束を小さくし、
力線をかなり高密度に描いてようやく分かるレベルだった。
普段、美琴はそのデータを意識しないようカットしている。なぜなら自分自身が頻繁に発し、
そして学園都市のほぼ全ての住人が発するものだからだ。気にしていてはキリがない。
――メールチェックのための携帯電話の発信、なんてものは。
ふうん、と美琴は心の中で呟く。
丁寧に目を凝らせば、ダンボールの物陰にあたる空間は、金属でもプラスチックでも紙でもない、
生体特有の誘電率と透磁率をしていた。そして多分、二人いる。
みーつけた、とでも声をかけてやろうかと思案したところで、ふと気になる。
そんなところで、高校生の男女が、一体ナニをするというのか。
丁寧に目を凝らせば、ダンボールの物陰にあたる空間は、金属でもプラスチックでも紙でもない、
生体特有の誘電率と透磁率をしていた。そして多分、二人いる。
みーつけた、とでも声をかけてやろうかと思案したところで、ふと気になる。
そんなところで、高校生の男女が、一体ナニをするというのか。
ふふふ不純よ不純! もしそんなコトしてたら絶対に許さないんだから!
って、だいたいあの二人は付き合ってないみたいだし、ありえないわよそんなの!
ていうか許さないってなによ。別に高校生カップルが街でイチャついてたって
私は気にしたことなかったじゃない! なんで、こんなに気になるのよもう。
って、だいたいあの二人は付き合ってないみたいだし、ありえないわよそんなの!
ていうか許さないってなによ。別に高校生カップルが街でイチャついてたって
私は気にしたことなかったじゃない! なんで、こんなに気になるのよもう。
足が、先に進まなかった。真実を知るのが怖いような、そんな気分。
見つめる物影から、さっきの女の声が聞こえてきた。
見つめる物影から、さっきの女の声が聞こえてきた。
「当麻君。さっきの。御坂さんのことはどう思ってるの?」
美琴の心臓は、その機能を停止した。
122 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/12(日) 13:05:01.52 ID:acdkAjQo [4/5]
「当麻君。さっきの。御坂さんのことはどう思ってるの?」
「当麻君。さっきの。御坂さんのことはどう思ってるの?」
姫神の質問の内容よりも、上条はその声の大きさが気になった。
隠れているのだから見つかっては困るのだ、だというのに姫神の声には遠慮がない。
もとから小さな声だから、あまり気にしていないのかもしれないと上条は思った。
隠れているのだから見つかっては困るのだ、だというのに姫神の声には遠慮がない。
もとから小さな声だから、あまり気にしていないのかもしれないと上条は思った。
「……」
返事を保留して、辺りの気配を探る。
遠ざかった音は聞こえなかったが、それらしい足音も聞こえない。
気づいているのならここまで見に来るだろうから、おそらく美琴はまた離れたのだろうと
上条は判断した。
遠ざかった音は聞こえなかったが、それらしい足音も聞こえない。
気づいているのならここまで見に来るだろうから、おそらく美琴はまた離れたのだろうと
上条は判断した。
「ひめ……秋沙。さすがに今の声は大きかったんじゃないか?」
「いいの。それより。ちゃんと返事して欲しい」
「いいの。それより。ちゃんと返事して欲しい」
上条は質問を反芻する。
御坂のやつのことを、どう思ってるかって?
御坂のやつのことを、どう思ってるかって?
とりあえず浮かんだのは御坂妹のことだった。あいつら元気にやってるかなー、といった風に。
なんだかんだで美琴とはこまめに会ったり連絡を取ったりしているので、特に思うところはないのだった。
上条は、頼れる人もおらずどうしようもなくなった美琴の、泣き顔を知っている。
美琴の表情が、あのときみたいな絶望の影を背負っていないことを知っている。
なんだかんだで美琴とはこまめに会ったり連絡を取ったりしているので、特に思うところはないのだった。
上条は、頼れる人もおらずどうしようもなくなった美琴の、泣き顔を知っている。
美琴の表情が、あのときみたいな絶望の影を背負っていないことを知っている。
「どうって……なんていうか、ビリビリ中学生、だなあ。アイツは」
「え?」
「会うたびになんか突っかかってくるし、勝負だなんだってのが好きみたいなんだよ。
俺の右手に勝てないのが不満らしくてさ、戦えーって言われたり、
体育祭で勝負したりしてるんだ。まあ、まだ子供なんだろうな。
俺もそういうノリは嫌いじゃなくて、結構付き合ってやってるから
偉そうなことは言えないけど」
「……そうなんだ。好き。じゃないの?」
「へ? い、いや。そりゃ嫌いなヤツなら相手なんてしないけどさ。
好きとかそういうのとは違うだろ。だって勝負よーなんて言ってくる女の子を
好きになってならないだろ。しかも中学生だし」
「え?」
「会うたびになんか突っかかってくるし、勝負だなんだってのが好きみたいなんだよ。
俺の右手に勝てないのが不満らしくてさ、戦えーって言われたり、
体育祭で勝負したりしてるんだ。まあ、まだ子供なんだろうな。
俺もそういうノリは嫌いじゃなくて、結構付き合ってやってるから
偉そうなことは言えないけど」
「……そうなんだ。好き。じゃないの?」
「へ? い、いや。そりゃ嫌いなヤツなら相手なんてしないけどさ。
好きとかそういうのとは違うだろ。だって勝負よーなんて言ってくる女の子を
好きになってならないだろ。しかも中学生だし」
姫神は、自分のしたことを自覚していた。
上条の鈍感と、美琴の素直になれない気質を利用して、恋敵に現実という名のナイフを突きつけるつもりだった。
ただ、思わぬほど上条の言葉は鋭利で、そして突きつけるだけのはずが、確実に心臓をえぐっていたと思う。
それは姫神の誤算だった。
目の前にいる姫神という女の子を意識しているが故に御坂という女の子をいつも以上に軽んじてしまう、
そういう男の性は、姫神に計算できるはずもなかった。
上条の鈍感と、美琴の素直になれない気質を利用して、恋敵に現実という名のナイフを突きつけるつもりだった。
ただ、思わぬほど上条の言葉は鋭利で、そして突きつけるだけのはずが、確実に心臓をえぐっていたと思う。
それは姫神の誤算だった。
目の前にいる姫神という女の子を意識しているが故に御坂という女の子をいつも以上に軽んじてしまう、
そういう男の性は、姫神に計算できるはずもなかった。
126 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/13(月) 11:01:34.36 ID:1V2kxJQo [1/7]
足音を立てないのは、強がりだった。
ザクザクと、上条の表裏ない言葉が美琴の胸に突き刺さる。
美琴はなぜ自分が傷ついてるのかも分からないまま、これ以上上条の言葉を聴きたくなくて、
そっと二人から離れた。
足音を立てないのは、強がりだった。
ザクザクと、上条の表裏ない言葉が美琴の胸に突き刺さる。
美琴はなぜ自分が傷ついてるのかも分からないまま、これ以上上条の言葉を聴きたくなくて、
そっと二人から離れた。
別に、アイツが私のことどうとも思ってないって、わかってたじゃない。
っていうかどう思われてようが私には別に関係ないじゃない。
なんで、なんでこんなにココロが痛いのよ。ワケわかんない。
っていうかどう思われてようが私には別に関係ないじゃない。
なんで、なんでこんなにココロが痛いのよ。ワケわかんない。
「ん? あれ嬢ちゃん、カミやんは見つかったのかにゃー?」
鬱陶しいその声を無視して、美琴は上条たちから遠いほうの出口へと去っていった。
「どないしたんやろ。何やらあの子すごい怒ってたみたいやけど」
「分かってないにゃー。あれは泣き顔ぜよ」
「ええー。そうかなあ?」
「あれくらいの子は素直になれない年頃なんだにゃー」
「舞夏ちゃんも素直なとこ見せてくれへんのんかな? お兄さんはつらいねー」
「まっ、舞夏はそんなことないぜよ。それより、嬢ちゃんの来た方に行くぜよ。たぶんカミやんはあそこだ」
「せやね。あの子のあの表情がカミやんがらみなんは間違いあらへんし」
「分かってないにゃー。あれは泣き顔ぜよ」
「ええー。そうかなあ?」
「あれくらいの子は素直になれない年頃なんだにゃー」
「舞夏ちゃんも素直なとこ見せてくれへんのんかな? お兄さんはつらいねー」
「まっ、舞夏はそんなことないぜよ。それより、嬢ちゃんの来た方に行くぜよ。たぶんカミやんはあそこだ」
「せやね。あの子のあの表情がカミやんがらみなんは間違いあらへんし」
二人はトイレや非常口などの集まった、商業施設としては「影」にあたるその一角を目指して歩きだした。
姫神は、かすかに美琴の立ち去る音を聞いて、そっとため息をついた。
「上条君は。女の子の気持ちを分からない人だね」
「……え?」
「……え?」
上条はまったく脈絡のない姫神のコメントに困惑した。
姫神が自分の毛先を整えるように軽く払った。
姫神が自分の毛先を整えるように軽く払った。
「……私も。酷いことをした人だけど」
「あのう、秋沙さん? よくわからないんですが」
「いいの。わからなくて。それに悪いと思っても。私は譲る気なんてなかった。
それより当麻君。そろそろ。逃げないと土御門君たちに見つかると思う」
「あ、ああ。そうだな。さすがにここも潮時だろうな。けど、見つからない逃げ口っつったら……」
「あのう、秋沙さん? よくわからないんですが」
「いいの。わからなくて。それに悪いと思っても。私は譲る気なんてなかった。
それより当麻君。そろそろ。逃げないと土御門君たちに見つかると思う」
「あ、ああ。そうだな。さすがにここも潮時だろうな。けど、見つからない逃げ口っつったら……」
荷物搬入口。たしかにトラックの発着がある以上そこから逃げられるだろうが、
制服を着た男女の高校生は常識的に考えてそんなところを通らない。
制服を着た男女の高校生は常識的に考えてそんなところを通らない。
「大丈夫。見つかってもなんとかなるよ」
姫神が、上条の腕をそっと抱きこんで、そちらへと導いた。
主張に薄い性格でありながら、意外とこういう曲面ではためらいのない姫神だった。
主張に薄い性格でありながら、意外とこういう曲面ではためらいのない姫神だった。
127 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/13(月) 11:52:36.90 ID:1V2kxJQo [2/7]
「だぁっ。なんであいつらは見つけるのがあんなに早いんだ!」
「ごめんね。ちょっと。読みが甘かった。かも。」
「だぁっ。なんであいつらは見つけるのがあんなに早いんだ!」
「ごめんね。ちょっと。読みが甘かった。かも。」
特殊な出口から百貨店を後にして人通りの少ない道を選んで逃げたにもかかわらず、
土御門と青髪ピアスはあっという間に上条たちを補足し、追いかけてきている。
土御門と青髪ピアスはあっという間に上条たちを補足し、追いかけてきている。
「まさか土御門のやつ俺の体に発信機とか仕込んでないだろうな」
「土御門君って。そういうことする人なの?」
「ああ。アイツならやりかねん」
「土御門君って。そういうことする人なの?」
「ああ。アイツならやりかねん」
なにせ魔術サイドと科学サイドの多重スパイをやる男だ。ただの高校生とは違うのだった。
「あっちに行こう。人ごみのほうが。紛れられると思うから」
「だな」
「だな」
姫神はさすがに上条ほど体力がないのか、かなり荒い息をついている。
後ろで追うのも体格の良い男子二人だ。遅かれ早かれ、鬼ごっこでは追いつかれて負けだろう。
角を曲がってショッピングストリートに出る。歩行者天国のそこは道幅も程よく狭く、人も多かった。
後ろで追うのも体格の良い男子二人だ。遅かれ早かれ、鬼ごっこでは追いつかれて負けだろう。
角を曲がってショッピングストリートに出る。歩行者天国のそこは道幅も程よく狭く、人も多かった。
「当麻君。ここに」
「……え?」
「……え?」
姫神に連れ込まれた店は、試着室が用意されている服飾店だった。
ただし女物ばかりで、ついでに言えば面積がものすごく少ない。
女の人の腰の辺りとか、胸の辺りを覆う布を販売しているお店だった。
あんまりにも唐突な人生初入店に、上条は興奮するより先に
居心地の悪さと気恥ずかしさで死にそうだった。
一瞬、数十メートル後ろから追いかけてくる二人のことをスッパリ忘れて、
店に入って数歩のところで立ちすくむ。
ただし女物ばかりで、ついでに言えば面積がものすごく少ない。
女の人の腰の辺りとか、胸の辺りを覆う布を販売しているお店だった。
あんまりにも唐突な人生初入店に、上条は興奮するより先に
居心地の悪さと気恥ずかしさで死にそうだった。
一瞬、数十メートル後ろから追いかけてくる二人のことをスッパリ忘れて、
店に入って数歩のところで立ちすくむ。
姫神はあまり気にしていなかった。
店内に彼氏連れがいるのは見えたので、二人で入ってもおかしくないだろう。
自分の着る下着を上条に選定してもらうような流れにまでなればさすがに恥ずかしいが、
便宜的にここに入店するくらいなら平気なのだった。
店内に彼氏連れがいるのは見えたので、二人で入ってもおかしくないだろう。
自分の着る下着を上条に選定してもらうような流れにまでなればさすがに恥ずかしいが、
便宜的にここに入店するくらいなら平気なのだった。
128 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/13(月) 11:53:02.68 ID:1V2kxJQo [3/7]
「試着室はあそこだね」
「は? え、ちょ。いやいやいやいやいや何言ってるんすか姫神さん!!!」
「大丈夫だよ。こういうところの試着室は二重になっているの。
着替え部屋と彼氏とか友達が待つ部屋とがセットになった試着室だから」
「そ、そうなのか。いやでも、なんつーかそこに姫神と入るってのは」
「……私は着替えるつもりはないんだけど。当麻君は。気になった?」
「ぶっ。上条さんはそんなこと思ってナイデスヨ?」
「試着室はあそこだね」
「は? え、ちょ。いやいやいやいやいや何言ってるんすか姫神さん!!!」
「大丈夫だよ。こういうところの試着室は二重になっているの。
着替え部屋と彼氏とか友達が待つ部屋とがセットになった試着室だから」
「そ、そうなのか。いやでも、なんつーかそこに姫神と入るってのは」
「……私は着替えるつもりはないんだけど。当麻君は。気になった?」
「ぶっ。上条さんはそんなこと思ってナイデスヨ?」
姫神は慌てる当麻をクスリと笑った。
やっぱり女の人の下着を見ると。当麻君でも慌てるんだ。
さすがに姫神も自分の下着姿を上条に見せるのは恥ずかしすぎた。
やっぱり女の人の下着を見ると。当麻君でも慌てるんだ。
さすがに姫神も自分の下着姿を上条に見せるのは恥ずかしすぎた。
早くしないと二人に追いつかれる。
上条と姫神はそそくさと店内を奥に進み、試着室の前に行く。
姫神はそこで、大きな過ちに気がついた。試着室のカーテンの前にはサンダルが二つ。
つまり、使用中だった。
上条と姫神はそそくさと店内を奥に進み、試着室の前に行く。
姫神はそこで、大きな過ちに気がついた。試着室のカーテンの前にはサンダルが二つ。
つまり、使用中だった。
「当麻君。どうしよう」
「へ? なんだ?」
「へ? なんだ?」
上条は心に大きく負荷のかかるこの空間で、すでに平常心を失っていた。
突然止まって後ろを振り向いた姫神のようには、自分を止めることができなかった。
展示用のマネキンの足元についたキャスターに、左足を引っかける。
突然止まって後ろを振り向いた姫神のようには、自分を止めることができなかった。
展示用のマネキンの足元についたキャスターに、左足を引っかける。
「げ」
「あ」
「あ」
気がつけば上条は試着室へと、突貫を試みていた。
「きゃっ!」
知らない女の人の、叫ぶ声がする。
上条は全身から血の気が引いていくのが分かった。
謝って許されるレベルじゃない。普通にこれは警備員(アンチスキル)に捕まって一晩説教を食らった上で
保護者呼び出しの上謹慎になるコースだ。最悪すぎる。
上条は全身から血の気が引いていくのが分かった。
謝って許されるレベルじゃない。普通にこれは警備員(アンチスキル)に捕まって一晩説教を食らった上で
保護者呼び出しの上謹慎になるコースだ。最悪すぎる。
129 名前:28[sage] 投稿日:2010/09/13(月) 11:53:30.98 ID:1V2kxJQo [4/7]
「すすすすすみません! 本当にごめんなさい! すぐ出て行きます悪気はないんです!」
「……君、上条君?」
「え?」
「すすすすすみません! 本当にごめんなさい! すぐ出て行きます悪気はないんです!」
「……君、上条君?」
「え?」
名前を呼ばれて、思わず顔を上げる。
フワフワした金髪の、長身の女性だった。
手足も長くすらっとした印象で、薄い緑のブラジャーに包まれたどちらかというと薄い感じの胸が、
体の雰囲気によくあっている女性だった。下半身は長いソックスとスカートを穿いたままで、
エロいというよりも綺麗だった。
手足も長くすらっとした印象で、薄い緑のブラジャーに包まれたどちらかというと薄い感じの胸が、
体の雰囲気によくあっている女性だった。下半身は長いソックスとスカートを穿いたままで、
エロいというよりも綺麗だった。
「え、えっと。確か対馬、さんだっけ」
「ええ。名前を覚えていてくれたのね。……ところで見るのを止めてくれると、ありがたいんだけど。
さすがに知り合うの頬をひっぱたくのはためらいがあるし」
「ええ。名前を覚えていてくれたのね。……ところで見るのを止めてくれると、ありがたいんだけど。
さすがに知り合うの頬をひっぱたくのはためらいがあるし」
上条はドギャンッ、と首を横にひねった。
対馬と当麻のいる待合側ではなく、さらに奥の着替えを行う部屋のほうを、だ。
対馬と当麻のいる待合側ではなく、さらに奥の着替えを行う部屋のほうを、だ。
「対馬さん?! 何かあったんですか? それに上条さんって今……あ」
「や……やあ。久しぶり、五和」
「あ、お久しぶりです。上条さん」
「や……やあ。久しぶり、五和」
「あ、お久しぶりです。上条さん」
あまりの驚きに、二人の行動は上滑りした。場違いなほどに普通の応対だった。
五和は対馬ほど背が高くない。
そして全てのパーツが細めに出来た感じのする対馬と違って、五和の体は柔らかそうだった。
濃い目のピンクの地に、黒の水玉が浮いている。ブラとショーツの縁を彩るレースは、これも黒だった。
コンセプトがセクシー路線なせいか、胸元はいつも以上に寄せてあって、
豊かな起伏のなかに出来上がった谷間の深さは深遠すぎるものがあった。
下のほうも勿論破壊力では負けていない。
前と後ろを繋ぐ腰紐の辺りは切れ上がっていてびっくりする位細いし、
よく見ればメッシュが入っていておへその真下なんかはスケスケだった。
そこを注視するとなんだか水玉の黒ともレースの黒とも違う黒々とした――
五和は対馬ほど背が高くない。
そして全てのパーツが細めに出来た感じのする対馬と違って、五和の体は柔らかそうだった。
濃い目のピンクの地に、黒の水玉が浮いている。ブラとショーツの縁を彩るレースは、これも黒だった。
コンセプトがセクシー路線なせいか、胸元はいつも以上に寄せてあって、
豊かな起伏のなかに出来上がった谷間の深さは深遠すぎるものがあった。
下のほうも勿論破壊力では負けていない。
前と後ろを繋ぐ腰紐の辺りは切れ上がっていてびっくりする位細いし、
よく見ればメッシュが入っていておへその真下なんかはスケスケだった。
そこを注視するとなんだか水玉の黒ともレースの黒とも違う黒々とした――
「こら」
対馬が当麻の目にチョキを付きたてた。
「のうあ!」
悶絶していると、バタリと横で五和が気絶する音が聞こえた。
132 名前:28[] 投稿日:2010/09/13(月) 21:05:10.93 ID:1V2kxJQo [6/7]
「奥が超うるさいですね」
「なあおい、さっさと出ようぜ」
「言われなくても超すぐに戻りますよ。麦野に怒られるのは御免ですから」
「なあおい、さっさと出ようぜ」
「言われなくても超すぐに戻りますよ。麦野に怒られるのは御免ですから」
学園都市を暗躍する組織『アイテム』の一角である絹旗最愛とパシリの浜面仕上の二人は
ごく普通の繁華街の、これまたどこにでもあるようなランジェリーショップで買い物をしていた。
細々した任務が立て続いているらしく、着替えがないらしい。
二日同じ服を着続けることに殊更神経質に文句を言ったのはリーダーの麦野だった。
シャワーは確保したようだったので、下着と替えの服を二人で買いに行っているのだった。
下っ端は浜面以外にも顔も知らないのが山ほど付いているのだが、麦野は性別を指定できなさそうな
その連中には買いに行かせたくないらしい。浜面が許されるのは、友好の証ととってもいいのだろうか。
それとも人間として認識されていないと思うべきなのだろうか。
ごく普通の繁華街の、これまたどこにでもあるようなランジェリーショップで買い物をしていた。
細々した任務が立て続いているらしく、着替えがないらしい。
二日同じ服を着続けることに殊更神経質に文句を言ったのはリーダーの麦野だった。
シャワーは確保したようだったので、下着と替えの服を二人で買いに行っているのだった。
下っ端は浜面以外にも顔も知らないのが山ほど付いているのだが、麦野は性別を指定できなさそうな
その連中には買いに行かせたくないらしい。浜面が許されるのは、友好の証ととってもいいのだろうか。
それとも人間として認識されていないと思うべきなのだろうか。
「それにしても麦野の下着、おばさんくさいとは思いませんか?」
「い、いやそんな、俺は……」
「ああ、浜面は麦野の年を超知らないんでしたっけ。麦野は今にじゅ」
「いいいいやいやいやいや! いいから! 聞いても寿命が縮まる気しかしねえ!」
「い、いやそんな、俺は……」
「ああ、浜面は麦野の年を超知らないんでしたっけ。麦野は今にじゅ」
「いいいいやいやいやいや! いいから! 聞いても寿命が縮まる気しかしねえ!」
ネットで注文を済ませ、受け取りをしに来ているのでデザインのチョイスは本人のものだ。
四セットの下着のうち、浜面の視界に入ったのは一番上にある麦野の下着と、
一番下にある滝壺の下着だった。
率直に言って、麦野の下着は年相応でないかと思う。麦野があれで趣味が幼ければ浜面もどうかと思うが、
クラシックな、シルクでできた薄いピンクの下着は別に麦野が着ておかしな所はない。見たいとも特に思わなかったが。
一方滝壺の下着には、好感が持てた。綿でできた柄なしの薄青のショーツで、股の切れ上がったよくあるヤツと異なり、
僅かに裾が延びていてショートパンツのような形状をしている。
四セットの下着のうち、浜面の視界に入ったのは一番上にある麦野の下着と、
一番下にある滝壺の下着だった。
率直に言って、麦野の下着は年相応でないかと思う。麦野があれで趣味が幼ければ浜面もどうかと思うが、
クラシックな、シルクでできた薄いピンクの下着は別に麦野が着ておかしな所はない。見たいとも特に思わなかったが。
一方滝壺の下着には、好感が持てた。綿でできた柄なしの薄青のショーツで、股の切れ上がったよくあるヤツと異なり、
僅かに裾が延びていてショートパンツのような形状をしている。
「浜面は超変態ですね」
「ちょ、待ってくれ。そもそもここに連れてきたそっちが悪いんじゃないのか」
「荷物持ちを拒否するんですか? 超下っ端の癖に?」
「ラップしてから渡してくれりゃいいじゃねえか!」
「ラッピングを引きちぎるところからやりたいなんて度し難いですね」
「ちげーよ! っていうかお前の下着は一体何なんだ」
「ちょ、待ってくれ。そもそもここに連れてきたそっちが悪いんじゃないのか」
「荷物持ちを拒否するんですか? 超下っ端の癖に?」
「ラップしてから渡してくれりゃいいじゃねえか!」
「ラッピングを引きちぎるところからやりたいなんて度し難いですね」
「ちげーよ! っていうかお前の下着は一体何なんだ」
ちらっと見えた豹柄を、浜面はフレ
ンダのものとは見なさなかった。
ンダのものとは見なさなかった。
「浜面? 私は見ていいとは超一言も言いませんでしたが」
「だからそっちが俺の目の前で受け取るんが悪いんだろーが!」
「何を言ってるのか超分かりませんね。帰ったらこの件は麦野に報告することにします。
浜面が麦野が今から穿こうとしている下着をじっと眺めて超おばさん臭いと言った、と」
「おいばかやめろ!」
「だからそっちが俺の目の前で受け取るんが悪いんだろーが!」
「何を言ってるのか超分かりませんね。帰ったらこの件は麦野に報告することにします。
浜面が麦野が今から穿こうとしている下着をじっと眺めて超おばさん臭いと言った、と」
「おいばかやめろ!」
浜面は、つい先日自分を殴り飛ばした男が隣にいたのに、ついぞ気がつかなかった。