「はぁ………………」
今回のような施設を貸し切った大規模なライブや強力なドラゴンとの戦いといった何か大きなイベントが始まる前はいつもこうだ。
プレッシャーに押し潰されそうになって、精神がネガティブな状態に陥る。
その姿を周囲の人々に見せたくなくてつい楽屋に閉じ籠もってしまうのだ。
プレッシャーに押し潰されそうになって、精神がネガティブな状態に陥る。
その姿を周囲の人々に見せたくなくてつい楽屋に閉じ籠もってしまうのだ。
原因はいつだってただ一つ。
(本当にわたしでいいのかな………)
陽菜がその身に宿す神性。
天照大神。
巫女に志願した時はまさか一神話の主神をこの身に降ろすとは思ってもみなかった。
かの主神が日本における巫女のトップ、日ノ本家の当主以外に宿るという極めて珍しい事例。
神降ろしに成功してから数日後、「国の役人」を名乗る人物の案内に従って『陽宮庁』に招かれた日のことは良く覚えている。
よくわからないが凄いことだけは伝わる豪華な内装、調度品、食事。
テレビ越しにしか見たことのない何人もの偉い人々。
そして、63代目日ノ本 八千代に手を握られながら告げられた言葉。
かの主神が日本における巫女のトップ、日ノ本家の当主以外に宿るという極めて珍しい事例。
神降ろしに成功してから数日後、「国の役人」を名乗る人物の案内に従って『陽宮庁』に招かれた日のことは良く覚えている。
よくわからないが凄いことだけは伝わる豪華な内装、調度品、食事。
テレビ越しにしか見たことのない何人もの偉い人々。
そして、63代目日ノ本 八千代に手を握られながら告げられた言葉。
『照咲さん。「カミガカリ」を、この国をどうか頼みます』
数日前までただの少女だった陽菜にとって突然背負うこととなった使命はあまりにも重かった。
されど、途中で投げ出すわけにもいかず。
しかしながら、覚悟と決心は確固たるものを擁立出来ずに中途半端。
そのような心持ちのまま、彼女は巫女活動を続けてしまっていた。
勿論、選ばれたからには人々の日常と笑顔を守りたいという思いは抱いている。
それでもずっと拭えない疑念が存在しているのだ。
されど、途中で投げ出すわけにもいかず。
しかしながら、覚悟と決心は確固たるものを擁立出来ずに中途半端。
そのような心持ちのまま、彼女は巫女活動を続けてしまっていた。
勿論、選ばれたからには人々の日常と笑顔を守りたいという思いは抱いている。
それでもずっと拭えない疑念が存在しているのだ。
(わたしなんかが本当に相応しいのかな……。天照大神の巫女に。『カミガカリ』のリーダーに……)
特異な天照大神の巫女の誕生に伴って、マスコミやインターネットは直ぐ様陽菜を取り沙汰にして騒ぎ立てた。
純粋に祝福する記事は少なかった。
大衆は規範から逸れた例外を嫌う。
在野の少女が巫女となったのは何かの間違いなのではないかと彼女自身や日ノ本家、天照大神を批判するものの方がよく目立っていた。
純粋に祝福する記事は少なかった。
大衆は規範から逸れた例外を嫌う。
在野の少女が巫女となったのは何かの間違いなのではないかと彼女自身や日ノ本家、天照大神を批判するものの方がよく目立っていた。
『正当な血筋でない少女、選ばれる』
『外様の巫女なんて神性が濁る』
『所詮は64代目が成長するまでの繋ぎだろ。逆にかわいそう。当て馬じゃん』
『主神、ご乱心!』
『禄に権能を発揮出来ない63代目のせいで日ノ本家は天照大神に見限られた』
『もう終わりだねこの国』
『外様の巫女なんて神性が濁る』
『所詮は64代目が成長するまでの繋ぎだろ。逆にかわいそう。当て馬じゃん』
『主神、ご乱心!』
『禄に権能を発揮出来ない63代目のせいで日ノ本家は天照大神に見限られた』
『もう終わりだねこの国』
気にしないようにしようとしても嫌でも目にする心無い誹謗中傷。
仲間達からは「無視しろ」と言われたが、陽菜は完全に目を逸らすことは出来ず、頭の片隅にこびりつかせてしまっていた。
罵詈雑言だとしてもそのうちの幾つかには反論し難いものが有ったから。
それでも、それでも──────。
仲間達からは「無視しろ」と言われたが、陽菜は完全に目を逸らすことは出来ず、頭の片隅にこびりつかせてしまっていた。
罵詈雑言だとしてもそのうちの幾つかには反論し難いものが有ったから。
それでも、それでも──────。
「リーダー!そろそろ出番だよ!準備お願い!みんな待ってるよ!」
ドア越しに呼ぶメンバーの声で我に返る。
そうだ。
力不足で頼り無いリーダーだとしても。
64代目にバトンを繋ぐまでの代わりだとしても。
そうだ。
力不足で頼り無いリーダーだとしても。
64代目にバトンを繋ぐまでの代わりだとしても。
『陽菜!』
『照咲さん!』
『陽菜ちゃん!』
『リーダー!』
『ひなっち!』
『照咲さん!』
『陽菜ちゃん!』
『リーダー!』
『ひなっち!』
そんな自分に期待してくれている仲間達が、ファンのみんなが確かに存在しているのだから。
ならば今は出来ることをただガムシャラにやるしかない。
この国のために。
そこに住む人々のために。
そして証明し、刻み込んで認めさせてみせる。
自分を、照咲 陽菜という存在を。
ならば今は出来ることをただガムシャラにやるしかない。
この国のために。
そこに住む人々のために。
そして証明し、刻み込んで認めさせてみせる。
自分を、照咲 陽菜という存在を。
「わかった!今行く!」
元気良く返事をすると部屋に備え付けてある鏡の前に立ち、一度深呼吸してから両の人差し指で左右の口角を持ち上げてみる。
出来上がるのはまるで眩しく輝く日輪のようにな笑顔。
出来上がるのはまるで眩しく輝く日輪のようにな笑顔。
「大丈夫。わたしはやれる。わたしが全てを照らしてみせる……!」
自信を注入するために行ういつものおまじない。
歌詞を間違えませんように。
ステップで転びませんように。
ライブが成功しますように。
ステップで転びませんように。
ライブが成功しますように。
様々な願いと祈りを込めたルーティンを経て彼女はスイッチを切り替えるかの如く「ただの照咲 陽菜」から『カミガカリ』のリーダー、そして天照大神の巫女となる。
「よしっ!それじゃあいっちょやってみますか!」
自らに発破をかけ終えると陽菜は身を翻して楽屋を後にする。
不安はまだ残っている。でも、今は一旦ここに置いていこう。
つい振り返りそうになる心を抑えて彼女はステージへと繰り出していく。
不安はまだ残っている。でも、今は一旦ここに置いていこう。
つい振り返りそうになる心を抑えて彼女はステージへと繰り出していく。