今となっては昔のこと。
荒地の真ん中、涙で顔をぐしゃぐしゃにした一人の巫女が、一心不乱に祈りを捧げていた。
荒地の真ん中、涙で顔をぐしゃぐしゃにした一人の巫女が、一心不乱に祈りを捧げていた。
「天におわします神々よ、どうか、どうか──」
返事はない。
「偉大なる神々よ、我の嘆きを聞き届けたまえ──」
返事はない。
「お願いします、お願いします──」
返事は、ない。
白い翼を背中に宿した無数の白龍。手には剣を、槍を、弓を番え、攻撃の合図を待ち続けている。
燃え盛る翼を広げる4体の龍。無数の瞳をその身に宿し、その全てが巫女を見据えている。
そしてそれらの背後には、穢れを知らぬ輝く翼に眩き光を背負った、「光そのもの」とも呼べる龍。事情を知らなければ、この龍こそが「神」ではないかと錯覚してしまいそうなほどの神々しさを湛えている。
だがしかし、その足元には、ズタズタに引き裂かれた、「この土地にいた、かつて神だったもの」たちが転がっていた。
この土地に宿った信仰、神威、恵み、希望。
それら全てが「光の龍」によって踏み躙られた。
神々は果敢に光の龍に戦いを挑み、そして散っていった。
力の差が大きすぎた。
一柱、また一柱と神が斃れていくに従って、神々は光の龍に恐れ慄くようになっていった。一方で斃れた神の死骸は光の龍に喰われてゆき、光の龍は力をつけていった。
神々が使役する眷属たちも、白い翼の龍たちに蹂躙され、遂には死骸の山と成り果てた。
巫女たちも殺され、害獣の死骸のように灼かれ爛れ、名もなき塵へと返っていった。
そして全ての神は斃され、民草も亡び、残すところ年若い巫女が一人だけ。
それももう、終わろうとしていた。
燃え盛る翼を広げる4体の龍。無数の瞳をその身に宿し、その全てが巫女を見据えている。
そしてそれらの背後には、穢れを知らぬ輝く翼に眩き光を背負った、「光そのもの」とも呼べる龍。事情を知らなければ、この龍こそが「神」ではないかと錯覚してしまいそうなほどの神々しさを湛えている。
だがしかし、その足元には、ズタズタに引き裂かれた、「この土地にいた、かつて神だったもの」たちが転がっていた。
この土地に宿った信仰、神威、恵み、希望。
それら全てが「光の龍」によって踏み躙られた。
神々は果敢に光の龍に戦いを挑み、そして散っていった。
力の差が大きすぎた。
一柱、また一柱と神が斃れていくに従って、神々は光の龍に恐れ慄くようになっていった。一方で斃れた神の死骸は光の龍に喰われてゆき、光の龍は力をつけていった。
神々が使役する眷属たちも、白い翼の龍たちに蹂躙され、遂には死骸の山と成り果てた。
巫女たちも殺され、害獣の死骸のように灼かれ爛れ、名もなき塵へと返っていった。
そして全ての神は斃され、民草も亡び、残すところ年若い巫女が一人だけ。
それももう、終わろうとしていた。
《終いか》
光の龍はさいごの巫女に尋ねる。
「どうか、どうか、どうか──」
巫女は恐怖からか、絶望からか、或いはその両方からか、龍の言葉はもはや聞こえていないようだった。
龍は嗤い、満足そうに鼻を鳴らすと、配下の龍たちに告げる。
龍は嗤い、満足そうに鼻を鳴らすと、配下の龍たちに告げる。
《光あれ》
この言葉を合図に、四匹の熾天の龍が咆哮を上げる。
荒地は焼けつく灼熱、凍てつく氷河、吹き荒ぶ颶風、揺れ震える地鳴に崩壊し、そして轟音、爆鳴、渦を巻く光の奔流が、全てを無へと帰していく。
荒地は焼けつく灼熱、凍てつく氷河、吹き荒ぶ颶風、揺れ震える地鳴に崩壊し、そして轟音、爆鳴、渦を巻く光の奔流が、全てを無へと帰していく。
すべてがなくなったその跡に、光の龍はただ佇んでいた。
そして暫し考え込んだのちに、配下の一匹の龍にこう告げた。
そして暫し考え込んだのちに、配下の一匹の龍にこう告げた。
《新たなる預言者を探せ》
《我等の光を人の世に紡ぐ、『讃えられるべきもの』を探せ》
《我等の千年王国成就のための、最後の預言者を、探せ》
配下の龍は命を受け、東へと飛び去っていった。
光の龍はもう少し佇んでいたが、やがて日の出とともに光に融けていき、姿を消した。
光の龍はもう少し佇んでいたが、やがて日の出とともに光に融けていき、姿を消した。