いやー、人類文明って割とあっさり終わるもんッスね。
かつて東京と呼ばれていたこの瓦礫の山で、櫛灘 姫はぼんやりとそんなことを思っていた。
「終焉の龍、ガーラーグ」。
半年前、パリに五匹出現したのが遥か遠い記憶に思える。
3日前のことだった。
やつらは再び姿を現した。
やつらは再び姿を現した。
その数──推定150億匹。
群れで行動するし人間の密集地に集まりやすい習性、そんなものが明らかになるかならないかのうちに、全ては蹂躙され尽くしていた。
巫女先進国である日本であっても、それは例外ではなかった。
巫女先進国である日本であっても、それは例外ではなかった。
どうしようもないほど、多勢に無勢だった。
無敵と思われていた『臨界者』たちは、疲れと飢えによって一人、また一人と倒れていった。
最強と謳われたAランクドラゴンたちは、群がるガーラーグの爪牙によってその誇り諸共引き裂かれた。
理想のために悪虐を尽くしてきた『モノリス』たちも齧られ焼かれ、死体と残骸しか残らなかった。
ドラゴンを手中に収めたと豪語していた『登龍派』の人間たちも、ドラゴンを崇め新世界を夢見た『龍教会』の人間たちも、全て等しく瓦礫の森の下敷きだ。
歩いて事務所に行ったところ、何人かの遺体とペシャンコになったビルがそこにあった。一週間前にライブの送迎に使われたバスが、穴だらけになってひっくり返っているのも見た。
そんなこんなで何の因果か「また」生き残ってしまったわたしは、飢え死にするかガーラーグの群れに引き裂かれるかまで、とりあえずぼんやりと空を見上げていることにした。
「あ、いましたいました生き残り」
瓦礫の下からひょっこりと顔を出す巫女が一人。
えーと……たしか「敷島 心華」とかいう子だったはずだ。
えーと……たしか「敷島 心華」とかいう子だったはずだ。
「大変なことになりましたねー」
彼女は今がこの世の終わりとは思えないほど、気さくに話しかけてくる。
「空を見て、何考えたんですか?」
「いや、『負け』ってこんな感じなんだなーって」
「変なこと考えてたんですねw」
「いや、『負け』ってこんな感じなんだなーって」
「変なこと考えてたんですねw」
太陽を遮る、無数のガーラーグたちの翼。
今のところアレらが降りてくる気配はないが、今となっては些細なことだ。
今のところアレらが降りてくる気配はないが、今となっては些細なことだ。
「まあわたしも、『どうにもならないことってあるんだなー』みたいなこと考えてたんですけどね」
天叢雲剣も折れちゃったし、と付け加える彼女の横顔は、寂しそうな、それでいて何か吹っ切れたような面持ちだ。
「それにしても先輩、なんか嬉しそうですね」
「あー……バレちゃいますかね、そこ」
「何でです?」
「心華が生きてたから、かな?」
「あー……バレちゃいますかね、そこ」
「何でです?」
「心華が生きてたから、かな?」
ウソだ。
「旅は道連れ、って言うじゃん?アレだよアレ」
これは半分ホントだ。
ヤマタノオロチと戦った時に喪った『高天原48』の仲間たち。
彼女らの元にようやく還れると思うと、このどうしようもない敗北もそれほど悪いものではない気がしてくるのだ。
共にいた時こそ長くはないものの、彼女たちの存在はわたしにとって大切なものだったから。
彼女らの元にようやく還れると思うと、このどうしようもない敗北もそれほど悪いものではない気がしてくるのだ。
共にいた時こそ長くはないものの、彼女たちの存在はわたしにとって大切なものだったから。
「まあね、大人にはいろいろ思うところがあるってことッスよ。ハハハ」
「わたしより何歳も上ってわけじゃないのに『大人』は無理がありすぎですよーw」
「わたしより何歳も上ってわけじゃないのに『大人』は無理がありすぎですよーw」
ひとしきり笑って、二人揃って上を向く。
そして、空に動きがあった。
黒い影がこちらに向かって蠢く。
軽く目視しただけで1000匹を超えるガーラーグが、地上の獲物を、わたしたちを貪ろうと飛来してくる。
わたしと心華、どちらともなく目を閉じ、瓦礫に横たわる。
黒い影がこちらに向かって蠢く。
軽く目視しただけで1000匹を超えるガーラーグが、地上の獲物を、わたしたちを貪ろうと飛来してくる。
わたしと心華、どちらともなく目を閉じ、瓦礫に横たわる。
こういう終わりも、また有りなのかもしれないな。
…………
ここは時の狭間。
ここは誰かの過去。
ここはいつかの現在。
ここはあり得た未来。
「時間」という概念の存在する限り、時の狭間はそこにある。
あらゆる並行世界、あらゆる可能性、あらゆる「もしも」は、時の狭間で繋がっており、同時に時の狭間によって分断されている。
並行世界を旅する、龍であって龍でない超常存在──彼を知るものは、彼を「パラドックス」と呼ぶ──は、そんな時の狭間にてひとつの「もしも」が黒い影によって埋め尽くされるのを見た。
彼が「もしも」の破綻を目にするのはこれが初めてではなかったが、いつ見ても気分のよいものでもなかった。
あらゆる並行世界、あらゆる可能性、あらゆる「もしも」は、時の狭間で繋がっており、同時に時の狭間によって分断されている。
並行世界を旅する、龍であって龍でない超常存在──彼を知るものは、彼を「パラドックス」と呼ぶ──は、そんな時の狭間にてひとつの「もしも」が黒い影によって埋め尽くされるのを見た。
彼が「もしも」の破綻を目にするのはこれが初めてではなかったが、いつ見ても気分のよいものでもなかった。
彼は終わらない物語を好んでいた。
いつまでも語り継がれる世界を好んでいた。
いつまでも語り継がれる世界を好んでいた。
幸せでなくてもいい、力強く歩み続けるその「意志」を、彼は好んでいた。
黒い影に押し潰されただひたすら停滞し、衰弱し、そして「終わり」へと向かう、ひとつの「もしも」。
そう間もなく、この「もしも」もまた、潰れて消え去るのだろう。今まで目にしてきた、幾つもの「もしも」のように。
黒い影に押し潰されただひたすら停滞し、衰弱し、そして「終わり」へと向かう、ひとつの「もしも」。
そう間もなく、この「もしも」もまた、潰れて消え去るのだろう。今まで目にしてきた、幾つもの「もしも」のように。
彼は少し悲しそうな顔をすると、何処かへ飛び去っていった。