彼女の"正義"は揺るがない。
何故なら彼女自身が"正義"を"執行する者"だと信じて疑わないからである。
相手にどんなに悲しい過去があろうが、どこかの誰かに強い恨みを持ってようが、ただ罪を犯した者に対して正義を執行する。それが彼女の"なすべき事"であり、巫女に選ばれた理由だと考えている。
何故なら彼女自身が"正義"を"執行する者"だと信じて疑わないからである。
相手にどんなに悲しい過去があろうが、どこかの誰かに強い恨みを持ってようが、ただ罪を犯した者に対して正義を執行する。それが彼女の"なすべき事"であり、巫女に選ばれた理由だと考えている。
(あの人は……)
報告を済ませたので本部を出ようとすると、ベンチに腰掛け、朧げにどこかを見つめる女性がいた。血の通ってなさそうな白い肌と髪、着用している灰色のセーラー服には、スカーフをしていなかった。
確か、彼女も巫女である。
「こんにちは。カーシャフトさん。今、何をされているのですか」
「……?……あぁ、ヤーネか。そうだな、今日は定期検診を受けて、今は結果を待っていた」
だいぶ放心状態だったのであろう。話し掛けられている事を理解するのに少し時間がかかっていた。詳しくは知らないが、彼女は自我を代償に巫女になったらしい。見つめていると此方が引き摺り込まれそうな虚な瞳に抑揚のない声の無機質さはまるで人形の様だった。
他愛の無い質問に淡々と帰ってくる応答。
それを繰り返すうちに、もう少し違った反応を見たいと思う様になり、ヤーネはある種の禁じ手を使うことにした。
それを繰り返すうちに、もう少し違った反応を見たいと思う様になり、ヤーネはある種の禁じ手を使うことにした。
「弟さんは元気ですか」
それまでただ事務的で簡素な返事しかしなかったヘレンがピクリと僅かに反応する。ヘレンにとって弟とは、巫女である理由である程に非常に重要な存在だと以前誰かから聞いた。
「この前弟に……ランドルフに久しぶりに会った時、怒られた」
「あら、何故」
「『自分の身体を傷を付ける様な戦い方をするな。残ったらどうするんだ』と」
「あら、何故」
「『自分の身体を傷を付ける様な戦い方をするな。残ったらどうするんだ』と」
ポツポツと紡がれる言葉を聞くに、ヘレンの弟はどうやら現在の彼女と巫女になる前の彼女は別人格と思い込んでいるらしい。
最早八つ当たりの様な弟の我儘に対して呆れた様子を見せるヤーネを見て、今まで微動だにしなかったヘレンの顔が少しだけ俯く。
最早八つ当たりの様な弟の我儘に対して呆れた様子を見せるヤーネを見て、今まで微動だにしなかったヘレンの顔が少しだけ俯く。
「まぁ、それは酷い。貴方の巫癒能力なら傷なんて跡形も残らないでしょうに」
普段表情を変えることのないヘレンがヤーネの言葉を聞いて微少だが、悲しそうな色を浮かべる。
「ランドルフに悪気は無いんだ。悪いのはすべて私だ」
何をどうしたら自身のせいになるのかまるで理解できないが、自我を失ってもどうやら自責の念はまだ残っているらしい。
「でも、ドラゴンを討伐したのは貴方の実力でしょう。戦い方を変えようとして、捕食されたら元も子もありません」
そうヤーネがフォローを入れると、ヘレンの暗い瞳が揺れた気がした。
そして口を開き、何か言葉を発しようとした時、白衣を着た男が現れた。
そして口を開き、何か言葉を発しようとした時、白衣を着た男が現れた。
「ヘレン。結果が出たから此方に……あれ、こんにちはヤーネ。君がヘレンと会話だなんて珍しい」
この男は連盟に所属する研究員の一人だ。未だ珍しい『造られた神話』の神を宿す彼女の面倒を見ると同時に、データを取っている。ヘレンは重要な戦力であり、貴重なサンプルでもあるのだ。
闖入者の登場によりいつの間にかヘレンの表情は無に戻っていた。これ以上話を続けるのは困難だと判断したヤーネは腰掛けていたベンチから立ち上がる。
「……弟さんについては、もっと腹を割って話し合いをした方が宜しいかと。誤解したまま戦い続けるのもお互いに辛いでしょうし。
それでは私は失礼します。幸運を」
「…………善処する」
それでは私は失礼します。幸運を」
「…………善処する」
研究員の男にも簡単な挨拶をすまし、その場を後にする。ヤーネは少し遅くなった昼食を取ろうと、最近気に入っているカフェに向かって歩き出した。