中東、某地方都市にて──
戦火に包まれていたはずのこの街は、とある一人の男によって静まり返っていた。
男の名は’ベルゼブブ’。
彼が齎したのは平和ではなく、圧倒的な破壊による蹂躙だった。
その肉体に命中した銃弾は潰れ、手榴弾は意味もなく、空爆は微風にもならず、ただひたすら徒手空拳を持ってして全てを沈黙させた。
ベルゼブブの暴力の後に残ったのは、ひしゃげた戦車、無数の死体、そして墜落した戦闘機の残骸であった。
その肉体に命中した銃弾は潰れ、手榴弾は意味もなく、空爆は微風にもならず、ただひたすら徒手空拳を持ってして全てを沈黙させた。
ベルゼブブの暴力の後に残ったのは、ひしゃげた戦車、無数の死体、そして墜落した戦闘機の残骸であった。
つまらん。
巫女でもなければこの程度か。
巫女でもなければこの程度か。
現代火器の非力さに落胆したベルゼブブ。
その時、丘の向こうから微かな巫力が漂い、彼の感覚器官を撫でた。
その時、丘の向こうから微かな巫力が漂い、彼の感覚器官を撫でた。
退屈しのぎとなる程度には練度が高いことを祈る。いや、そうでなくては困る。
振り向きざまに、飛んできた矢を掴む。
矢は容易く折れ、跡形もなく消えた。
矢は容易く折れ、跡形もなく消えた。
「ベルゼブブ!貴殿は12人の巫女により完全に包囲されている!速やかに投降し、裁きを受けよ!」
巫女が通達する。
12人。人数だけを聞けば、思わず苦笑いしそうになるほど少ない。
すなわち、一人一人が腕に覚えがあるのだろう。
まずは挨拶代わりに龍気を練り、無数の刃として撃ち出す。
巫女達が立っていた丘は一瞬でバラバラになり、跡形もなくなった。
けれども巫女どもは上手く躱したようだ。尤もこの程度を躱せないようでは困るが。
12人。人数だけを聞けば、思わず苦笑いしそうになるほど少ない。
すなわち、一人一人が腕に覚えがあるのだろう。
まずは挨拶代わりに龍気を練り、無数の刃として撃ち出す。
巫女達が立っていた丘は一瞬でバラバラになり、跡形もなくなった。
けれども巫女どもは上手く躱したようだ。尤もこの程度を躱せないようでは困るが。
間髪入れず空から無数の矢が降り注ぐ。
Bランク相当のドラゴンの鱗を貫く程度の巫力を纏ったそれは、ベルゼブブの肌に微小な傷一つつけること能わず粒子となって消えた。
Bランク相当のドラゴンの鱗を貫く程度の巫力を纏ったそれは、ベルゼブブの肌に微小な傷一つつけること能わず粒子となって消えた。
矢が落ち切るや否や二人の巫女が飛び掛かってくる。
同じ顔立ち。双子のようだ。コンビネーションは取れている。が、なにぶん非力だ。
同じ顔立ち。双子のようだ。コンビネーションは取れている。が、なにぶん非力だ。
仕込んだバグナウによる横薙ぎの一閃を、ベルゼブブは難なく躱す。もう片方の巫女はメリケンサックによるストレート。あまりに無鉄砲な一撃。
巫女の拳に合わせてベルゼブブも拳を突き出す。パンチとも言えぬ軽い「突き」はありったけの巫力を纏ったメリケンサックを一瞬で破壊し、同時に巫女の腕を粉砕する。
痛みで悲鳴を上げるメリケンサックの巫女を尻目に、先ほどのバグナウの巫女の再攻撃を迎え撃つ。
一瞬で8方向からバグナウによる爪撃が飛ぶ。
「権能」による空間歪曲だろうか、お粗末が過ぎる。
8方向すべての襲撃を蹴りで対処し、9発目のキックを巫女の身に撃ち込む。巫女は吹き飛ぶことすらできず、蹴りを撃ち込まれた腹に大穴が空く。
その身に起きた現実を理解する間もなく、ベルゼブブの追撃の掌底を浴びて巫女は上半身が千切れ飛んだ。
巫女を一人屠ったベルゼブブの背後を、先ほどのメリケンサックの巫女が決死の形相で襲う。どうしようもないほど隙だらけだ。
ベルゼブブは体を捻り、そのままの勢いで一薙ぎの蹴りを放つ。
その鋭さはもはや斬撃。まともに受けてしまった巫女は上半身と下半身が泣き別れ、その場に崩れ落ちる。
二人の巫女が命を散らす様を、10人の巫女はただ眺めていたわけではない。
精霊(ジン)の神装巫女による一撃は溜めが必要だ。その間の時間稼ぎを双子は買って出た、というわけだ。
が、流石にこの速度での敗北は想定外だったらしく、本来はベルゼブブを拘束する手筈だった巫女と「もしも」の時のための巫女が慌てて飛び出す。
巫女の拳に合わせてベルゼブブも拳を突き出す。パンチとも言えぬ軽い「突き」はありったけの巫力を纏ったメリケンサックを一瞬で破壊し、同時に巫女の腕を粉砕する。
痛みで悲鳴を上げるメリケンサックの巫女を尻目に、先ほどのバグナウの巫女の再攻撃を迎え撃つ。
一瞬で8方向からバグナウによる爪撃が飛ぶ。
「権能」による空間歪曲だろうか、お粗末が過ぎる。
8方向すべての襲撃を蹴りで対処し、9発目のキックを巫女の身に撃ち込む。巫女は吹き飛ぶことすらできず、蹴りを撃ち込まれた腹に大穴が空く。
その身に起きた現実を理解する間もなく、ベルゼブブの追撃の掌底を浴びて巫女は上半身が千切れ飛んだ。
巫女を一人屠ったベルゼブブの背後を、先ほどのメリケンサックの巫女が決死の形相で襲う。どうしようもないほど隙だらけだ。
ベルゼブブは体を捻り、そのままの勢いで一薙ぎの蹴りを放つ。
その鋭さはもはや斬撃。まともに受けてしまった巫女は上半身と下半身が泣き別れ、その場に崩れ落ちる。
二人の巫女が命を散らす様を、10人の巫女はただ眺めていたわけではない。
精霊(ジン)の神装巫女による一撃は溜めが必要だ。その間の時間稼ぎを双子は買って出た、というわけだ。
が、流石にこの速度での敗北は想定外だったらしく、本来はベルゼブブを拘束する手筈だった巫女と「もしも」の時のための巫女が慌てて飛び出す。
剣を掲げ、ベルゼブブに突進する巫女。
一見、単なる自殺行為に等しい猪突猛進。
だが、突進しているのは彼女の権能「幻影」による幻体だ。本体は空高く飛び上がり、ベルゼブブを両断せんとありったけの巫力を剣に込めている。
一見、単なる自殺行為に等しい猪突猛進。
だが、突進しているのは彼女の権能「幻影」による幻体だ。本体は空高く飛び上がり、ベルゼブブを両断せんとありったけの巫力を剣に込めている。
全くもって小賢しい。
地抉るように腕を天へと突き上げるベルゼブブ。発生した衝撃波は巫女の幻体をあっさりと掻き消し、突き上げた拳は巫女本体の渾身の一撃を受け止める。
否、剣を粉砕する。
自らの誇りでもある剣を砕かれた巫女は、それでも残った刀身でベルゼブブを斬りつけんとすぐさま二撃目の動作に入る。
その動きは、ベルゼブブの眼には文字通り「羽虫が止まるほど」鈍く映った。
己に向かってくる呆れ返るほどナマクラな剣。その刃の部分をおもむろに掴むと、グシャリと握りつぶして即席の柄に変える。そのまま剣を奪い取り、巫女をひとしきり殴打する。
10発ほど腹を打ち据えてやったあたりで剣が砕けたため、おしまいと言わんばかりに巫女を蹴り上げる。
拘束術式を組んでいたはずの巫女は、ただ呆然とこちらを見ている。
ベルゼブブは今まで気にも留めていなかったが、足元を見る限りどうやら彼女は拘束術式を発動しようと権能を展開したらしい。それらしき形跡が──そしてそれをベルゼブブが無意識のうちに踏み砕いた跡も──見て取れる。
ここまでお粗末な出来栄えだと、もはや拳を振るうのも億劫だ。
ベルゼブブがつまらなさそうに人差し指をサッと横に払うと、術式巫女の首はちぎれ飛んだ。
その動きは、ベルゼブブの眼には文字通り「羽虫が止まるほど」鈍く映った。
己に向かってくる呆れ返るほどナマクラな剣。その刃の部分をおもむろに掴むと、グシャリと握りつぶして即席の柄に変える。そのまま剣を奪い取り、巫女をひとしきり殴打する。
10発ほど腹を打ち据えてやったあたりで剣が砕けたため、おしまいと言わんばかりに巫女を蹴り上げる。
拘束術式を組んでいたはずの巫女は、ただ呆然とこちらを見ている。
ベルゼブブは今まで気にも留めていなかったが、足元を見る限りどうやら彼女は拘束術式を発動しようと権能を展開したらしい。それらしき形跡が──そしてそれをベルゼブブが無意識のうちに踏み砕いた跡も──見て取れる。
ここまでお粗末な出来栄えだと、もはや拳を振るうのも億劫だ。
ベルゼブブがつまらなさそうに人差し指をサッと横に払うと、術式巫女の首はちぎれ飛んだ。
「だ、第一波、総射撃開始!」
リーダーと思われる巫女の上擦った声が響くと、巫力の込められた弾丸が大雨のようにベルゼブブに襲いかかる。
彼にとってはまだ先程の「矢」の方がマシなものに感じた。たった十数ミリの弾丸に込められる巫力などたかが知れている。
無数の弾丸をその身に受けるも傷一つつかないベルゼブブは、弾丸が発射された先に真っ黒な龍気の塊を投げつける。それは着弾と同時に周囲を消し炭にする業火をあげ、銃を構えていた3人の巫女を焼き払った。
彼にとってはまだ先程の「矢」の方がマシなものに感じた。たった十数ミリの弾丸に込められる巫力などたかが知れている。
無数の弾丸をその身に受けるも傷一つつかないベルゼブブは、弾丸が発射された先に真っ黒な龍気の塊を投げつける。それは着弾と同時に周囲を消し炭にする業火をあげ、銃を構えていた3人の巫女を焼き払った。
先 ほど蹴り上げた巫女が落ちてきた。と同時についに精霊(ジン)の巫女が溜めを終わらせたようだ。
爆発的な巫力の高まり。Aランクドラゴンすら思わず怯むその凄まじさは、巫女の周囲を照らす虹色の燐光が物語っていた。
爆発的な巫力の高まり。Aランクドラゴンすら思わず怯むその凄まじさは、巫女の周囲を照らす虹色の燐光が物語っていた。
「ターゲット、ロックオン!精霊力充填完了!巫力集束!権能解放!『果てを貫く霊光(アルダウ・アラディ・ヤフタリク・アルニハヤ)』!」
清廉なる巫力の激流がベルゼブブを討ち取らんと怒濤のように押し寄せる。今まで幾度となく強大なドラゴンを一撃で屠ってきた、圧倒的破壊を伴う輝きの光に対してベルゼブブがとったのは、同じく必殺の一撃──ではなく、一発の正拳突き。
それは次元を歪め、抉り、砕きながら光の波動を正面から叩き潰し、闇色に染め上げた。
周囲の何もかもが、ぐにゃりと形を変えて崩れていく。もはや戦いどころではない。残った巫女たちは散り散りに逃げ出していくが、一人、また一人と時空間異常に飲み込まれる。
吹き荒れる嵐がいつか凪いでいくに連れて、異常な次元は時間をかけて元通りになっていく。
後に残っていたのはベルゼブブただ一人だけだった。
それは次元を歪め、抉り、砕きながら光の波動を正面から叩き潰し、闇色に染め上げた。
周囲の何もかもが、ぐにゃりと形を変えて崩れていく。もはや戦いどころではない。残った巫女たちは散り散りに逃げ出していくが、一人、また一人と時空間異常に飲み込まれる。
吹き荒れる嵐がいつか凪いでいくに連れて、異常な次元は時間をかけて元通りになっていく。
後に残っていたのはベルゼブブただ一人だけだった。
──否。
「13人目の巫女」が彼の前に立ち塞がっていた。
巫女は羽根のような剣を抜き、構えるとベルゼブブを「斬りつけた」。
ベルゼブブは右腕を構えその斬撃を防いだが、腕にうっすらと一文字の傷痕が残った。
巫女は羽根のような剣を抜き、構えるとベルゼブブを「斬りつけた」。
ベルゼブブは右腕を構えその斬撃を防いだが、腕にうっすらと一文字の傷痕が残った。
「ほう」
傷痕を修復しながらベルゼブブは興味深げに巫女を観察する。先ほどの雑兵の群れの指揮官とは違う顔だ。
「今まで姿を隠していたのか。最初からお前が出ていたら、犠牲も少なかったのではないか?」
「戦場に犠牲と敗者はつきものだ」
「戦場に犠牲と敗者はつきものだ」
ベルゼブブの問いに、巫女はこともなげに答える。
「何より、五月蠅い奴らだったのでな」
言い終わると巫女は再び剣を構え、ベルゼブブの背後に回り一閃する。
ベルゼブブは体を捻りながら回避し、裏拳で迎撃。返す刀でガードする巫女。衝撃をそのまま活かして一回転すると、そのままさらに一閃。二閃。さらに突き、斬り上げ。
桁外れの巫力を纏ったそれらの攻撃をベルゼブブは相殺しきれないのか、彼の腕に少しずつ傷が増えていく。
だがベルゼブブはニヤリと笑うと、巫女に向かって正拳突きを繰り出した。
再びこの地を襲う、次元を揺るがす一撃。
周囲の景色を歪め、潰し、終焉へと導くその圧倒的脅威を巫女は「一刀のもとに斬り伏せた」。
だが、ベルゼブブはこれを見越していた。一切の間断なく巫女へと距離を詰め、二撃目の掌底を放つ。
巫女は巫女で、この一撃を受ける準備は整っていた。十重二十重に巫力を展開し防壁と成し、さらにカウンターとして斬り上げの姿勢まで取っていた。
巫力と龍気が触れた瞬間発生する、三度目の次元の歪み。この歪みは互いに予想以上のものだったのか、ベルゼブブは撃ち込んだ掌底から次の攻撃動作に移らず防御の構えを取り、巫女は巫女でカウンターの一閃が虚しく空を切った。
ベルゼブブは体を捻りながら回避し、裏拳で迎撃。返す刀でガードする巫女。衝撃をそのまま活かして一回転すると、そのままさらに一閃。二閃。さらに突き、斬り上げ。
桁外れの巫力を纏ったそれらの攻撃をベルゼブブは相殺しきれないのか、彼の腕に少しずつ傷が増えていく。
だがベルゼブブはニヤリと笑うと、巫女に向かって正拳突きを繰り出した。
再びこの地を襲う、次元を揺るがす一撃。
周囲の景色を歪め、潰し、終焉へと導くその圧倒的脅威を巫女は「一刀のもとに斬り伏せた」。
だが、ベルゼブブはこれを見越していた。一切の間断なく巫女へと距離を詰め、二撃目の掌底を放つ。
巫女は巫女で、この一撃を受ける準備は整っていた。十重二十重に巫力を展開し防壁と成し、さらにカウンターとして斬り上げの姿勢まで取っていた。
巫力と龍気が触れた瞬間発生する、三度目の次元の歪み。この歪みは互いに予想以上のものだったのか、ベルゼブブは撃ち込んだ掌底から次の攻撃動作に移らず防御の構えを取り、巫女は巫女でカウンターの一閃が虚しく空を切った。
一瞬訪れる静寂。
距離を取る二人。
そして。
距離を取る二人。
そして。
「権能解放、光の大海(バハル・アルヌール)」
「奥義、暴蝕せし蛮軍(エクリプス・レギオン)!」
「奥義、暴蝕せし蛮軍(エクリプス・レギオン)!」
巫女の剣は消え、そして光があった。
ベルゼブブの両掌から、闇が溢れた。
ベルゼブブの両掌から、闇が溢れた。
光は闇を消し去り、闇は光を喰らった。
互いの出力は拮抗し、混沌を生み、何もかもを呑み込んでいった。
情景はさながら光と闇の終末戦争といった様相を呈している中、巫女は涼しい顔をしていた。ベルゼブブは笑みを浮かべていた
互いが互いを無へと帰す凄絶な力のせめぎ合いは幸いなことにプラスマイナスがゼロとなり、爆発や次元崩壊といった現象をもたらすことはなかった。
代わりに周囲の何もかもが無に飲み込まれ消えていったが、些細なことだろう。
そしてゼロが収束に向かい、辺りは巨大なクレーターを残して再び静まり返った。
巫女はほんの少し疲れたようにため息をつき、ベルゼブブは高笑いを残して姿を消した。
…………
互いの出力は拮抗し、混沌を生み、何もかもを呑み込んでいった。
情景はさながら光と闇の終末戦争といった様相を呈している中、巫女は涼しい顔をしていた。ベルゼブブは笑みを浮かべていた
互いが互いを無へと帰す凄絶な力のせめぎ合いは幸いなことにプラスマイナスがゼロとなり、爆発や次元崩壊といった現象をもたらすことはなかった。
代わりに周囲の何もかもが無に飲み込まれ消えていったが、些細なことだろう。
そしてゼロが収束に向かい、辺りは巨大なクレーターを残して再び静まり返った。
巫女はほんの少し疲れたようにため息をつき、ベルゼブブは高笑いを残して姿を消した。
…………
「以上が、衛星から撮影された映像になります」
遠く離れたヴァチカンの大聖堂では、「神の劇団」によって、戦闘映像の分析が行われていた。
映像を確認していた四人の巫女が、それぞれ口を開く。
映像を確認していた四人の巫女が、それぞれ口を開く。
「つまり、私たちの次の演目は『悪魔祓い』ということか」
「地上の愛と美、護り抜いてみせますわ」
「どんな歌が歌えるのか、楽しみですね〜」
「ああ神よ……」
「地上の愛と美、護り抜いてみせますわ」
「どんな歌が歌えるのか、楽しみですね〜」
「ああ神よ……」
四人の巫女は決意を新たにする。これから始まる戦いについて、決して負けられない。と。
「すべては、神の御心のままに」