フタリの記憶
島の南東に位置する、コンクリートの塊。
地図の表記は「研究施設」と書かれている、普通の人にはあまり馴染みのない、謎の建物。
その中、入り組んだ通路の先。
奥深くの部屋、沢山のモニターの光が照らされる中。
一人の少女が、もの言わぬまま、動かぬまま。
ソファの中に、沈み込んでいた。
◆
「………ん、むぅ……」
暗かった彼女の視界に、一筋の光が差し込む。
あたりはぼやけていて、はっきりと認識できない。
ここはどこで、一体何をやってたか。
すぐに、思い出せなかった。
あたりはぼやけていて、はっきりと認識できない。
ここはどこで、一体何をやってたか。
すぐに、思い出せなかった。
「あっ、やっと起きた~! 伊織ちゃんってば、ねぼすけさんだね♪」
寝ぼけ眼に、一人の女性の顔が映る。
気だるい思考は、彼女が誰だったか、認識するスピードが遅い。
そう……彼女は確か、北上麗花だ。同じ事務所に所属する、自由奔放なアイドル。
……どうして、彼女とこんなところにいるんだったか。
気だるい思考は、彼女が誰だったか、認識するスピードが遅い。
そう……彼女は確か、北上麗花だ。同じ事務所に所属する、自由奔放なアイドル。
……どうして、彼女とこんなところにいるんだったか。
「ふぁ……」
寝ぼすけ。
彼女の言葉と、思わずもれた欠伸で、自分がこの場所でうたた寝していたことをやっと理解する。
けれど、それだけでは現状を全て認識したことにはならない。
思わず寝てしまった自分は、何をするべきだったのか。
目をこすると、その少し後ろには淡い緑髪を揺らす少女、島原エレナの姿もいた。
彼女の言葉と、思わずもれた欠伸で、自分がこの場所でうたた寝していたことをやっと理解する。
けれど、それだけでは現状を全て認識したことにはならない。
思わず寝てしまった自分は、何をするべきだったのか。
目をこすると、その少し後ろには淡い緑髪を揺らす少女、島原エレナの姿もいた。
……エレナ、麗花。
この『イベント』で、最初に出会ったアイドル。
そして今は、彼女達と共に行動していて。
この、研究施設の中にいて。
この『イベント』で、最初に出会ったアイドル。
そして今は、彼女達と共に行動していて。
この、研究施設の中にいて。
そしてまだ、何も終わってない。
「…………………っ!!?」
全てを理解した瞬間、彼女の体はがばりと起き上がった。
呑気に寝てるような状況じゃない。
プロデューサーに、最後の一人になるまで殺しあえとかふざけた事を言われていたんだ。
彼女達が勝手に行動してるのを監視しておくつもりだったのに、いつのまにかソファの中で意識が途切れていた。
一体、どれだけ?何時間…!?
呑気に寝てるような状況じゃない。
プロデューサーに、最後の一人になるまで殺しあえとかふざけた事を言われていたんだ。
彼女達が勝手に行動してるのを監視しておくつもりだったのに、いつのまにかソファの中で意識が途切れていた。
一体、どれだけ?何時間…!?
「いっ、今何時よ!?」
「きらめくステージ?」
「そういうのいいからっ!!」
「きらめくステージ?」
「そういうのいいからっ!!」
真面目に聞いてるのを、いつもの調子でからかわれ、頭に血筋が浮かぶ勢いで怒鳴る。
どれだけの時間が無駄になったのか。自然と焦りが募る。
どれだけの時間が無駄になったのか。自然と焦りが募る。
「……12時、8分だヨ」
代わりに、と言わんばかりに、エレナが浮かない表情を浮かべながら呟く。
彼女にしては、珍しい状態だった。それが、少し引っかかった。
けれど、今重要な事はそれじゃない。告げられた時間の方が、問題だった。
彼女にしては、珍しい状態だった。それが、少し引っかかった。
けれど、今重要な事はそれじゃない。告げられた時間の方が、問題だった。
「12時……」
伊織が、具体的に何時頃、意識を失ったのかは本人にもわからない。
けれど、少なくとも2時間ほどは、睡眠かそれに近い状態だったのは間違いない。
しっかりしなければと思っていたのに、こんな失態を起こしてしまうとは。
それに頭を抱える反面、彼女のいった時間と、その反応が気にかかる。
けれど、少なくとも2時間ほどは、睡眠かそれに近い状態だったのは間違いない。
しっかりしなければと思っていたのに、こんな失態を起こしてしまうとは。
それに頭を抱える反面、彼女のいった時間と、その反応が気にかかる。
12時。それは、何かの節目だったような。
「……ねぇ、伊織ちゃん」
「なによ」
「ついさっきね、プロデューサーが何か喋ってたの」
「はぁ?」
「なによ」
「ついさっきね、プロデューサーが何か喋ってたの」
「はぁ?」
未だ整理し切れてない伊織に、麗花はよりよく分からない事を言い渡す。
プロデューサー?喋った?まさか、ここに来て何か言ってたとでも?
そんなわけがないだろう、と溜息をついて。
プロデューサー?喋った?まさか、ここに来て何か言ってたとでも?
そんなわけがないだろう、と溜息をついて。
「……あっ」
一つ、思いあたった。
放送だ。あの始まりの場所で、プロデューサーはそんな事を言っていた。
6時間に、1回……6時に始まったのだから、次は12時、ついさっき、終わっている。
放送だ。あの始まりの場所で、プロデューサーはそんな事を言っていた。
6時間に、1回……6時に始まったのだから、次は12時、ついさっき、終わっている。
「うわー…聞き逃しちゃったじゃないのよ……。アンタ達、内容覚えてる?」
頭の中の全てのピースがかっちりはまって、また何度目かの溜息をつく。
情報は、言うまでもなく大事だというのに、よりにもよって寝過ごして聞き逃してしまうとは。
記憶が確かならば、侵入禁止エリアがどうとか、重要な事も伝えると言っていたし、なおさらだ。
情報は、言うまでもなく大事だというのに、よりにもよって寝過ごして聞き逃してしまうとは。
記憶が確かならば、侵入禁止エリアがどうとか、重要な事も伝えると言っていたし、なおさらだ。
「えっと……ケータイタンマツ?に内容、送られた、って」
「端末……?」
「端末……?」
そんな苛立ちを隠しもしない伊織に対して、エレナはそっと声をかける。
携帯端末、なんて聞きなれない言葉に、一瞬首を傾げる。
ここに連れてこられてから、怒ったり、泣いたり、錯乱したり。
二人と合流した後も、すぐにここに向かって。
冷静になると、彼女は自分の荷物を調べていなかった。
携帯端末、なんて聞きなれない言葉に、一瞬首を傾げる。
ここに連れてこられてから、怒ったり、泣いたり、錯乱したり。
二人と合流した後も、すぐにここに向かって。
冷静になると、彼女は自分の荷物を調べていなかった。
「……これね」
自らのデイパックを開けてみると、目的のものは目の前にあった。
電源ボタンと思わしきものに触れてみれば、ちゃんと画面が映し出される。
一瞬、これで外に連絡が取れるんじゃないかと期待したが、さすがにそんなうまい話はないだろう。
そんな甘い考えを頭から振り切り、画面を眺める。
放送の内容が記されているページへのリンクを、踏む。
電源ボタンと思わしきものに触れてみれば、ちゃんと画面が映し出される。
一瞬、これで外に連絡が取れるんじゃないかと期待したが、さすがにそんなうまい話はないだろう。
そんな甘い考えを頭から振り切り、画面を眺める。
放送の内容が記されているページへのリンクを、踏む。
「……っ、何これ……!?」
そこに映し出されていた情報は、にわかには信じがたいものだった。
真っ先に目に飛び込んできたのは、死んだ者の名前と、その数。
12人という、人数。彼女が悠長に寝ている間にも、それだけの仲間が死んでいた。
真っ先に目に飛び込んできたのは、死んだ者の名前と、その数。
12人という、人数。彼女が悠長に寝ている間にも、それだけの仲間が死んでいた。
伊織も、誰も死んでいないなんて楽観的な考えはしていない、つもりだった。
けれど、それでもせいぜい5~6人で済むんじゃないか、と。そう考えていたのは否定できない。
そんな中、突きつけられたのは非情な現実。
けれど、それでもせいぜい5~6人で済むんじゃないか、と。そう考えていたのは否定できない。
そんな中、突きつけられたのは非情な現実。
(春香…!? 真も……うそでしょ…!?)
真っ先に書かれていた、天海春香という名。
とても死ぬなんて想像できない、菊地真という文字。
可奈、美也、育、ひなた。殺し合いなんてできそうにない子達まで、無常にもその命を散らせている。
淡々と、ありえないと否定したいような情報が入ってくる。その度に、頭が割れるように痛む錯覚を覚えた。
とても死ぬなんて想像できない、菊地真という文字。
可奈、美也、育、ひなた。殺し合いなんてできそうにない子達まで、無常にもその命を散らせている。
淡々と、ありえないと否定したいような情報が入ってくる。その度に、頭が割れるように痛む錯覚を覚えた。
(いくらなんでも、ここまで……)
ちらりと横をみやると、元気なく俯くエレナの姿。
なるほど、と。1人納得していた。
確かに、こんな情報を伝えられたら、いつも元気な彼女もショックを受けるだろう。
少なくとも、他の2人よりかは現実を見ていた筈の伊織でもかなり心に来る事実。
楽観的だった彼女には、あまりにも重たい事実だったに違いない。
なるほど、と。1人納得していた。
確かに、こんな情報を伝えられたら、いつも元気な彼女もショックを受けるだろう。
少なくとも、他の2人よりかは現実を見ていた筈の伊織でもかなり心に来る事実。
楽観的だった彼女には、あまりにも重たい事実だったに違いない。
(……アンタ、は)
その下、禁止エリアの方にも目を通して、一旦電源を落とす。
少なくとも、この事に関しては問題はなさそうだった。
だからこそ、6時間で起きた事、散っていった子達の事が頭に浮かぶ。
皆、大切な仲間だった。誰ひとりとして、いなくなっちゃいけない子達で。
少なくとも、この事に関しては問題はなさそうだった。
だからこそ、6時間で起きた事、散っていった子達の事が頭に浮かぶ。
皆、大切な仲間だった。誰ひとりとして、いなくなっちゃいけない子達で。
(アンタは、何も思わないわけ……!?)
そして、『あの男』にとっても大切な子達だった筈。
あの場所で、この殺し合いを宣言した男の顔が、頭に浮かぶ。
きっと、これからもこのイベントは進み、これからも犠牲者は増えていくのだろう。
そしてそれは、どこかであの男も見ているだろう。
誰よりも、シアターの50人の事を大切にしていた筈の、人間が。
あの場所で、この殺し合いを宣言した男の顔が、頭に浮かぶ。
きっと、これからもこのイベントは進み、これからも犠牲者は増えていくのだろう。
そしてそれは、どこかであの男も見ているだろう。
誰よりも、シアターの50人の事を大切にしていた筈の、人間が。
(プロデューサー……ッ!!)
握る拳が、震える。
何も言えない歯痒さ、悔しさ、怒りと悲しさが、混ざり合ってごちゃごちゃになる。
こんな時に、あいつは一体どこで、何をしているのか。
何もわからず、どうにもならなくて、俯く中、ただ気持ちだけが先走り。
何も言えない歯痒さ、悔しさ、怒りと悲しさが、混ざり合ってごちゃごちゃになる。
こんな時に、あいつは一体どこで、何をしているのか。
何もわからず、どうにもならなくて、俯く中、ただ気持ちだけが先走り。
「伊織ちゃん」
そんな中で、一つの声が聞こえた。
誰の声だろう、と一瞬思って、すぐに思い当たる。
自分とエレナ以外にも、ここにはもう一人いた。
けれど、今は顔を上げられない。とてもひどい顔を、していたから。
誰の声だろう、と一瞬思って、すぐに思い当たる。
自分とエレナ以外にも、ここにはもう一人いた。
けれど、今は顔を上げられない。とてもひどい顔を、していたから。
むにっ。
「ふぇっ」
だが彼女はそんなことおかまいなしだった。
「ひゃっ……にゃ、にゃにしゅ…!」
「そんな顔より、笑ってる方がかわいいよ?それそれ~っ♪」
「そんな顔より、笑ってる方がかわいいよ?それそれ~っ♪」
むにっ、むにっ。
伊織のほっぺたを、つねって横に伸ばす。
彼女の事などつゆしらず、北上麗花はどこまでもマイペースだった。
明らかに衝撃を受けていた伊織に対しての、麗花なりの励ましだったのかもしれない。
伊織のほっぺたを、つねって横に伸ばす。
彼女の事などつゆしらず、北上麗花はどこまでもマイペースだった。
明らかに衝撃を受けていた伊織に対しての、麗花なりの励ましだったのかもしれない。
だが。
「………っ、やめなさいよッ!!」
そんな彼女の姿が、伊織の逆鱗に触れた。
「うっ……」
「アンタねぇ……っ、人が、死んだのよ!?」
「アンタねぇ……っ、人が、死んだのよ!?」
激昂する伊織の言葉に、近くにいたエレナがびくりと震える。
それはただ、突然の怒号に驚いただけではない。
少女達が理解するには、あまりにも残酷すぎる真実。それを実感する度に、少女の心は耐えきれなくなる。
なのに、目の前の女性はそれを知ってもなお、こんな態度を崩さない。
それが、今の伊織の癪にさわった。
それはただ、突然の怒号に驚いただけではない。
少女達が理解するには、あまりにも残酷すぎる真実。それを実感する度に、少女の心は耐えきれなくなる。
なのに、目の前の女性はそれを知ってもなお、こんな態度を崩さない。
それが、今の伊織の癪にさわった。
「こんなにっ、こんなに死んだっていうのに、何も思わないわけ!?」
呆然とする麗花の、その胸倉に掴みかかる。
何も変わっていない彼女に、行き場のなかった憎悪をぶつけていく。
駄々をこねる、子供のように。
何も変わっていない彼女に、行き場のなかった憎悪をぶつけていく。
駄々をこねる、子供のように。
「い……いたいよ、伊織ちゃん……!」
「ふざけんじゃないわよ……! なんとか、いいなさいよぉ……っ!」
「ふざけんじゃないわよ……! なんとか、いいなさいよぉ……っ!」
15歳の少女とはいえ、本気で、怒りに任せて掴みかかられて、麗花は顔を歪ませる。
責め続ける伊織の言葉尻は震えて、心の底から、絞り出しているかのように弱々しい。
今までのものとは比にならない、本気の、怒り。
責め続ける伊織の言葉尻は震えて、心の底から、絞り出しているかのように弱々しい。
今までのものとは比にならない、本気の、怒り。
それに対して、彼女は。
「……私、そんな事言われても……」
ただ、戸惑う事しかできなかった。
「…ッ!」
返された彼女の言葉に、伊織はまた頭に血が上るような感覚を覚える。
……が、震える腕を抑えて、そのまま手を離した。
そう、彼女にこんな事を言っても、何も変わらない。
ここで怒りをぶつけたって、解決することはない。
……が、震える腕を抑えて、そのまま手を離した。
そう、彼女にこんな事を言っても、何も変わらない。
ここで怒りをぶつけたって、解決することはない。
「……悪かった、わね」
そのまま、彼女の元を離れて、さっきまでいたソファに、そのまま飛び込む。
口では謝りはしたものの、その表情は浮かない。
麗花に対してぶつけた、憎悪の感情は未だ消えてなどいないから。
ぶつける対象が、彼女じゃないにしたって、彼女に対するいらだちは消えなかった。
ただ、こいつはどうせ変わらないのだから、気に掛けるだけ無駄だと。そう思う事にした。
口では謝りはしたものの、その表情は浮かない。
麗花に対してぶつけた、憎悪の感情は未だ消えてなどいないから。
ぶつける対象が、彼女じゃないにしたって、彼女に対するいらだちは消えなかった。
ただ、こいつはどうせ変わらないのだから、気に掛けるだけ無駄だと。そう思う事にした。
「それで、何か見つかったの?」
「……?」
「探索よ。その様子じゃ、期待はできなさそうだけど」
「……?」
「探索よ。その様子じゃ、期待はできなさそうだけど」
一旦、気持ちを落ち着ける。
そのためにも、まずは現状確認を先決した。
彼女が眠っていた間、時間にして、おそよ2時間。
その前からやっていた彼女達の探索は、とっくに終わっている筈だが。
そのためにも、まずは現状確認を先決した。
彼女が眠っていた間、時間にして、おそよ2時間。
その前からやっていた彼女達の探索は、とっくに終わっている筈だが。
「あー、ウン……いろいろ見つけてはきたんだけど」
「……はぁ。あんまり、役立ちそうなものはないわねぇ」
「……はぁ。あんまり、役立ちそうなものはないわねぇ」
エレナが持ってきて、並べられたものを眺め、ため息をつく。
この場所、研究施設に用意された、おそらくここを舞台にした撮影用の小道具。
禍々しい液体の入ったカプセルのようなものもあるが、まさかこれで怪物に変化する事もないだろう。
結局、この施設の中は『あの時』の撮影と何ら変わりない。というぐらいしか成果はなかった。
この場所、研究施設に用意された、おそらくここを舞台にした撮影用の小道具。
禍々しい液体の入ったカプセルのようなものもあるが、まさかこれで怪物に変化する事もないだろう。
結局、この施設の中は『あの時』の撮影と何ら変わりない。というぐらいしか成果はなかった。
「ごめんネ、イオリ……」
「別にいいわよ。何もないって事は分かったわけだし」
「別にいいわよ。何もないって事は分かったわけだし」
申し訳なさそうに俯くエレナを、彼女なりに励ます。
とはいえ、進展がないのは変わらない。
自分自身でまた探索すれば、まだ何か見つかるのかもしれないが。
とはいえ、進展がないのは変わらない。
自分自身でまた探索すれば、まだ何か見つかるのかもしれないが。
「……さて」
そうして、区切りがついた彼女は改めてどうするかを考える。
目の前に広がる、防犯カメラの映像には、動くものは何も映っていない。
少なくとも、この施設の中にはここにいる3人以外には誰もいないのだろう。
ここが安全だという認識は変わらない。生き残るのが目的なら、まだここで籠城するという手もあるが。
目の前に広がる、防犯カメラの映像には、動くものは何も映っていない。
少なくとも、この施設の中にはここにいる3人以外には誰もいないのだろう。
ここが安全だという認識は変わらない。生き残るのが目的なら、まだここで籠城するという手もあるが。
「それじゃ、これからどうするかよね」
「……ワタシ、は」
「……ワタシ、は」
二人にも提案を聞こうかとした矢先、エレナが口を開く。
「ワタシは、みんなを探しにいきたいヨ……」
一言、呟いた彼女の姿はいつもとは考えられない程に弱々しい。
その言葉、その気持ちは、伊織にも痛いほどよくわかった。
言ってしまえば、お気楽な考えの持ち主。
けれど、その純粋な気持ちがこんな理不尽な事で汚されるのは、許していいはずがない。
その言葉、その気持ちは、伊織にも痛いほどよくわかった。
言ってしまえば、お気楽な考えの持ち主。
けれど、その純粋な気持ちがこんな理不尽な事で汚されるのは、許していいはずがない。
「……そうね」
「賛成っ、私もじっとしてるのは退屈だし♪」
「賛成っ、私もじっとしてるのは退屈だし♪」
そして、それとは別に平常運転な大人。
彼女の態度に、聞こえない程度の舌打ちをして、天井を見上げた。
彼女の態度に、聞こえない程度の舌打ちをして、天井を見上げた。
「……はぁ」
探しにいく。ここから動くにしても、その理由はひどくふわふわとしたものだった。
結局、彼女達は何もしていないのだ。
いろいろ考えてみたって、実際に殺されかける危機に見舞われたわけじゃないし、それを見たわけでもない。
この3人でだらだらと6時間過ごして……どうするかもわからずに、生きている。
結局、彼女達は何もしていないのだ。
いろいろ考えてみたって、実際に殺されかける危機に見舞われたわけじゃないし、それを見たわけでもない。
この3人でだらだらと6時間過ごして……どうするかもわからずに、生きている。
(…っ、ダメダメ、こんなんじゃ顔向けできないわ…!)
そんな思考の袋小路に入りつつあって、考えをふきとばすように首を振る。
こんな事では、巻き込まれて死んでいった者達に、申し訳が立たない。
こんな事では、巻き込まれて死んでいった者達に、申し訳が立たない。
――もう2度と会えない、大切な、仲間だった皆に。
「伊織ちゃん、これからどうするの?」
「っ!か、考えてるんだから静かにしてなさい!」
「っ!か、考えてるんだから静かにしてなさい!」
一瞬だけよぎった、暗い影。
それを認識するよりも先に、伊織は声をかけられた。
きょとん、とする麗花に対し、彼女は半ば怒鳴るように言葉を返す。
どこまでも能天気で、腹が立つ。
エレナも、難しい事を考えられるような性格をしていない。
目の前にいる2人に、何かを期待する事なんてできそうにない。
それを認識するよりも先に、伊織は声をかけられた。
きょとん、とする麗花に対し、彼女は半ば怒鳴るように言葉を返す。
どこまでも能天気で、腹が立つ。
エレナも、難しい事を考えられるような性格をしていない。
目の前にいる2人に、何かを期待する事なんてできそうにない。
(私が頑張らなきゃ、いけないのよ…!)
そうして彼女は、これからの決断を下す―――
【一日目/日中/G-8研究施設管理室】
【水瀬伊織】
[状態]健康
[装備]無線機
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:こんなふざけたイベントになんか乗らない、抵抗する。
1:籠城すべきか、仲間を探しにいくべきか……。
2:麗花の態度に嫌悪や苛立ち。
3:なんでこの施設がここに……?
[状態]健康
[装備]無線機
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:こんなふざけたイベントになんか乗らない、抵抗する。
1:籠城すべきか、仲間を探しにいくべきか……。
2:麗花の態度に嫌悪や苛立ち。
3:なんでこの施設がここに……?
◆
それは、ほんの数十分前の出来事。
「ただいま~♪」
施設内のドアが開き、間の抜けた声が響いた。
北上麗花が先陣を切り、その後ろを島原エレナが続く。
北上麗花が先陣を切り、その後ろを島原エレナが続く。
「ながくなっちゃったネー」
「そうだねっ。伊織ちゃん、待たせちゃってごめんね!」
「そうだねっ。伊織ちゃん、待たせちゃってごめんね!」
施設内を探索し、色んなところを見て回って、見つけたものに逐一はしゃいでいって。
ブレーキ役もいない彼女達の冒険は、気づけば太陽が真上に来る時間まで長引いていた。
まだまだ余裕で時間は潰せたが、一旦伊織の元に戻ろうかと提案したのは、麗花の方。
曰く、「あまり放ってると寂しくて泣いちゃったり怒っちゃったりしそうだよね」との事で。
ブレーキ役もいない彼女達の冒険は、気づけば太陽が真上に来る時間まで長引いていた。
まだまだ余裕で時間は潰せたが、一旦伊織の元に戻ろうかと提案したのは、麗花の方。
曰く、「あまり放ってると寂しくて泣いちゃったり怒っちゃったりしそうだよね」との事で。
「……あれ?」
が、実際はそのどっちでもなく。
二人が戻ってきた時には、伊織は穏やかに、ソファで寝息をたてていた。
二人が戻ってきた時には、伊織は穏やかに、ソファで寝息をたてていた。
「伊織ちゃん、居眠りしちゃってる……かわいー♪」
寝ている伊織のすぐ近くまで、顔を近づける。
結構近くで声を発しているのに、起きる気配はない。
つんつん、と頬をつついてみても、目覚める様子はない。
どうにも、結構深く眠ってしまっているらしい。
結構近くで声を発しているのに、起きる気配はない。
つんつん、と頬をつついてみても、目覚める様子はない。
どうにも、結構深く眠ってしまっているらしい。
「……起こしてあげた方が、いいかナ?」
「どうしよっか……うーん……」
「どうしよっか……うーん……」
そんな彼女の事で、2人は顔を見合わせる。
これからの事を考えるなら、彼女を起こして結果を報告しておくべきなのだろう。
けれど、目の前の少女の安らかな寝顔を見るに、起こすのもはばかられた。
これからの事を考えるなら、彼女を起こして結果を報告しておくべきなのだろう。
けれど、目の前の少女の安らかな寝顔を見るに、起こすのもはばかられた。
「起きるまで、待つ?」
「ワタシはそれでもいいヨ?」
「じゃあ決まりっ♪」
「ワタシはそれでもいいヨ?」
「じゃあ決まりっ♪」
結局、2人の意見はそんな風に一致した。
それを伊織自身が聞けば怒るだろうが、肝心の彼女はぐっすりと眠っている。
異議を述べるものは、ここには誰もいなかった。
それを伊織自身が聞けば怒るだろうが、肝心の彼女はぐっすりと眠っている。
異議を述べるものは、ここには誰もいなかった。
「ウーン……それじゃ、どうしよっか」
「このよくわかんないの、開けてみる?」
「このよくわかんないの、開けてみる?」
待つ事になって、彼女達は暇を持て余す。
手に持った、この施設で見つけた謎の液体入りカプセルを持って、揺らしてみる。
ただの備品でしかないのだが、純粋な彼女達にとっては、心躍るものだ。
好奇心の赴くままに、行動しようとする。
手に持った、この施設で見つけた謎の液体入りカプセルを持って、揺らしてみる。
ただの備品でしかないのだが、純粋な彼女達にとっては、心躍るものだ。
好奇心の赴くままに、行動しようとする。
ぴーんぽーんぱーんぽーん。
「……?」
その動きを、ひとつの機械音が止めた。
『ただ今より、第一回定時放送を開始します』
「あっ、プロデューサーの声だヨ」
「あっ、プロデューサーの声だヨ」
それを聞いても、2人はピンとこなかった。
難しい事を考えなかった……あるいは"考えないようにしていた"彼女達は、詳しい事を知らない。
だから、これが放送であり、事実を伝えるものである、ということに対し。
難しい事を考えなかった……あるいは"考えないようにしていた"彼女達は、詳しい事を知らない。
だから、これが放送であり、事実を伝えるものである、ということに対し。
『それでは、まずは開始からここまでの死者の発表を行います』
心の準備が、できていなかった。
「え……?」
「…………」
「…………」
淡々と、読み上げられていく名前。
そして、それが散っていった子達だという、現実。
それが、彼女達にどれだけ影響を与えるのか。
唖然として見上げるエレナ。そして俯く麗花の表情は、見えない。
そして、それが散っていった子達だという、現実。
それが、彼女達にどれだけ影響を与えるのか。
唖然として見上げるエレナ。そして俯く麗花の表情は、見えない。
『それでは、これで第一回放送を終了します』
彼女達がろくな反応も返せないまま、その放送は終了した。
静かになって、ただ無音の空間が広がる。
静かになって、ただ無音の空間が広がる。
「………れ、レイカ…?」
少しして、エレナは小さく、震えた声を出した。
未だ、エレナの中でも何がどうなったのか、整理はついていない。
呼ばれた、12人の子達は、もういない。そんな事、認められるほど強くない。
ただ、すがるようにすぐ近くにいた人の名前をよんだ、それだけの事。
未だ、エレナの中でも何がどうなったのか、整理はついていない。
呼ばれた、12人の子達は、もういない。そんな事、認められるほど強くない。
ただ、すがるようにすぐ近くにいた人の名前をよんだ、それだけの事。
「……ぅ……」
それを遮るように、ひとつ小さな声が響く。
麗花の声、じゃない。その後ろ、もう1人の少女。
寝ている筈の少女が、うなされるように声をあげる。
麗花の声、じゃない。その後ろ、もう1人の少女。
寝ている筈の少女が、うなされるように声をあげる。
「……なんで、よ……」
その頬を、ひとしずくの涙が伝った。
「……っ」
プロデューサーの言葉に、無意識のうちに反応したのだろうか。
彼女の言葉の真意を知る事は、できやしない。
けれど、その涙が、その言葉が。
とてもかなしいものだって事は、エレナにも理解できた。
彼女の言葉の真意を知る事は、できやしない。
けれど、その涙が、その言葉が。
とてもかなしいものだって事は、エレナにも理解できた。
「……私ね」
突如押し寄せたかなしみに茫然としていた中で、今度は沈黙していた麗花が口を開く。
そのまま、未だ寝息をたてている伊織の元へと歩み寄る。
無防備で、年相応の寝顔を見せる彼女の、近くへ。
そのまま、未だ寝息をたてている伊織の元へと歩み寄る。
無防備で、年相応の寝顔を見せる彼女の、近くへ。
「伊織ちゃんの、怒ったり笑ったりしてる顔がすきなの。
いきいきしてて、かわいー、って思うし。見てて楽しくなっちゃうから」
いきいきしてて、かわいー、って思うし。見てて楽しくなっちゃうから」
そっと、流れる雫を拭う。
伊織の方を向く彼女の表情を、伺う事はできない。
語る彼女の言葉を、聞く事だけしかできない。
伊織の方を向く彼女の表情を、伺う事はできない。
語る彼女の言葉を、聞く事だけしかできない。
「……こんな、悲しい顔を見るのは、たのしくないな」
ただ、その口調はいつもの彼女から想像できない程、優しくて、悲しいものだった。
「……っ! ワタシも、同じだヨ!」
その言葉に、思わずエレナも口を出す。
楽しい、楽しくない。他人からみれば、バカげた理由かもしれない。
けれど、彼女達にとって……アイドルにとって、重要な理由の筈だ。
今までの活動も、辛かったり、悲しかったりしたけど。
それ以上に、楽しかったから、頑張ってこれた。
楽しい、楽しくない。他人からみれば、バカげた理由かもしれない。
けれど、彼女達にとって……アイドルにとって、重要な理由の筈だ。
今までの活動も、辛かったり、悲しかったりしたけど。
それ以上に、楽しかったから、頑張ってこれた。
心の底で楽しくなれない、こんな事が、いいはずなんてない。
「だよねっ」
その言葉を聞いて、麗花は振り返る。
浮かべていたのは、いつも見る純粋そうな笑顔だった。
浮かべていたのは、いつも見る純粋そうな笑顔だった。
「ねぇ、エレナちゃん。私、一つ思いついた事があるんだけど」
そのままずいっと近づいて、人差し指を立てる。
まるで、いたずらを思いついた子供のような笑み。
まるで、いたずらを思いついた子供のような笑み。
「名付けて…伊織ちゃん、激おこぷんすかぽんだいさくせ~ん!」
そう楽しそうに宣言した彼女の事を、エレナはぽかんと見ている事だけしかできなかった。
「ぷんすか…ポン?」
「伊織ちゃんに、元気出してもらうために……ぷんぷんって、怒らせてみようかな、って♪」
「伊織ちゃんに、元気出してもらうために……ぷんぷんって、怒らせてみようかな、って♪」
単語の意味ひとつもわからないエレナを横目に、麗花は話を聞く前に語り始める。
さっきまでの雰囲気は何一つ感じられない、いつものほがらかな笑顔。
さっきまでの雰囲気は何一つ感じられない、いつものほがらかな笑顔。
「私もエレナちゃんも、難しい事はよくわかんないでしょ?
でも、伊織ちゃんはちゃんと考えてる。途中でくじけたりしないように、私達で背中を押してあげないと!」
でも、伊織ちゃんはちゃんと考えてる。途中でくじけたりしないように、私達で背中を押してあげないと!」
子供が何気なく提案するかのように、話を続けていく。
相変わらずな調子ではあるが、エレナも話自体は悪くないのだろう、とも思いつつあった。
手段はともかくとして、伊織の事を想っての行動であることには、変わりはない。
相変わらずな調子ではあるが、エレナも話自体は悪くないのだろう、とも思いつつあった。
手段はともかくとして、伊織の事を想っての行動であることには、変わりはない。
ただ、それでも引っかかる事がある。
そうして元気づける事で、話が進んでいく事で。何かが、ないがしろにされるんじゃないか、と。
そうして元気づける事で、話が進んでいく事で。何かが、ないがしろにされるんじゃないか、と。
「でも、レイカっ」
「あっ、伊織ちゃんがそろそろ起きるよ」
「あっ、伊織ちゃんがそろそろ起きるよ」
そんな漠然とした不安を、口に出すより先に、話は遮られた。
視線を移せば、そこにはあくびをして、もぞもぞと動く伊織の姿があった。
視線を移せば、そこにはあくびをして、もぞもぞと動く伊織の姿があった。
「それじゃ、私がいろいろするから、サポートよろしくね♪」
エレナが何かいうより前に、麗花は動き出さんとする伊織の元へと駆け寄っていった。
「あっ、やっと起きた~!」と、声をかけていく。
留まる事なく進んでいくその姿を、後ろから見る事しかできなかった。
「あっ、やっと起きた~!」と、声をかけていく。
留まる事なく進んでいくその姿を、後ろから見る事しかできなかった。
◆
(……レイカ)
そうして時間が経ち、エレナは変わらず二人の姿を、少し離れた場所で見ていた。
伊織はしっかりと現状を考えていて、麗花もおどけて笑っている。
彼女の作戦は、ある程度は功を奏しているといってもいいのだろう。
伊織はしっかりと現状を考えていて、麗花もおどけて笑っている。
彼女の作戦は、ある程度は功を奏しているといってもいいのだろう。
ただ、それでも彼女のもやもやした気持ちは晴れない。
単純に、彼女自身、気持ちの整理がついていないというのもあるが、それ以上に目の前の2人の事が気にかかった。
単純に、彼女自身、気持ちの整理がついていないというのもあるが、それ以上に目の前の2人の事が気にかかった。
そもそも、怒らせる事で元気づけたって、何の解決にもならないのではないか。
伊織の心を、癒せたわけじゃない。言ってしまえば、より負担を増やすだけだ。
それでも、不器用すぎる彼女達に他の解決法が、思いつかない。
どうにかしないと。そう思っても、何もできずにこうして立っている。
伊織の心を、癒せたわけじゃない。言ってしまえば、より負担を増やすだけだ。
それでも、不器用すぎる彼女達に他の解決法が、思いつかない。
どうにかしないと。そう思っても、何もできずにこうして立っている。
そして、彼女が心配していたのは、それだけじゃない。
―――こんなにっ、こんなに死んだっていうのに、何も思わないわけ!?
頭の中で、ついさっき叫ばれた言葉が響き渡る。
悲痛な、叫びだった。そして、それはきっと、憎悪を向けられていた彼女にとっても同じな筈だ。
悲痛な、叫びだった。そして、それはきっと、憎悪を向けられていた彼女にとっても同じな筈だ。
(何も、思わないわけないヨ)
沢山の、人が死んだ。
麗花は、それに何も思わなかったのだろうか。
……そんなわけがない、と。断言できる。
麗花は、それに何も思わなかったのだろうか。
……そんなわけがない、と。断言できる。
それを聞いた、それを知った時の、麗花の表情は見えなかった。
次に見た時の、麗花の表情は笑っていた。
そして、伊織の事について喋っていた。
自分の事を、何も言わなかった。
次に見た時の、麗花の表情は笑っていた。
そして、伊織の事について喋っていた。
自分の事を、何も言わなかった。
彼女の気持ちは、誰にも見せる事なく押し込められてしまったのだ。
(レイカ……レイカは、どう思ってるノ?)
再び視線を向けると、そこにはまた、伊織に声をかけて怒鳴られている彼女の姿があった。
気にせず笑う、その表情の奥に隠れた、真意を知る事は、できない。
【島原エレナ】
[状態]健康
[装備]無線機
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。
1:とりあえず、伊織についていく。
2:レイカ、大丈夫かな…。
3:なんだか、かなしいヨ
[状態]健康
[装備]無線機
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。
1:とりあえず、伊織についていく。
2:レイカ、大丈夫かな…。
3:なんだか、かなしいヨ
【北上麗花】
[状態]健康
[装備]無線機
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。
1:とりあえず、伊織ちゃんを元気づける。
2:茜ちゃんが死■■■■■■
3:■■■■■■■■■■■■■
4:■■■■■■■■■■■■■■■
■■■■■■■■■■■■■■
[状態]健康
[装備]無線機
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:殺し合いには乗らない。
1:とりあえず、伊織ちゃんを元気づける。
2:茜ちゃんが死■■■■■■
3:■■■■■■■■■■■■■
4:■■■■■■■■■■■■■■■
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(麗花やエレナが探検で回収したものは、G-8研究施設管理室に置かれています)
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