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Dear my prince

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Dear my prince







私は、貴方の中でどんな存在だったの?






 ◇  ◇  ◇






季節は一瞬で世界の色を変えてしまう。
人は言うだろう、四季折々の世界を私達は堪能できて幸せである、と。
例えば、毎日通っている並木道。
見慣れた景色も季節の移り変わりと共に様々な世界を見せてくれるのだ。
春は、始まりの風が吹き、戸惑いを勇気へと変えていく。
夏は、爽やかな暑さを伴った情熱の空が世界を照らす。
秋は、紅葉色の葉が雪のように舞い落ち、趣を感じさせる。
冬は、雪の純白で化性をした世界が、子供心を想起させるだろう。
こうして、季節は廻る。何度も何度も、たった一度しかない刹那の景色を世界に刻みながら、回帰していく。
人もそうだ。関係を廻して構築しながら前へと進む。
生きていくにあたって、大なり小なり変わらなくちゃいけないことはあるものだ。
本位不本意関係なしに曲げることを良しとせずに進むには、この世界は少し生き辛い。

「シンデレラのようだった。私が一人のアイドルとして羽撃けたことが今でも信じられない」

けれど、変わり続けなくてはならない世界が辛いと感じ、“ずっと”と願うのは間違いなのだろうか。
アイドル――瞬間を魅了し続ける輝きの結晶であり、きゃぴきゃぴな若い女性。
馬場このみが夢を体現するアイドルに嫌悪感を抱くのは当然のことだった。
小さい身体、身の丈にあってない理想と現実。年齢と中身をきちんと見れば立派な大人なのに、周りは子供扱いをする人しかいない。
誰も本当の自分を見つけてくれないし、欲してくれない。
外見で全てが決まってしまう現実が、辛い。大人の女性を夢見るこのみにとって、それは絶望といっても過言ではない。
剥離していく夢に嫌気がさす毎日だった。

「貴方は私に言ってくれたのよ? お前の夢と現実を擦り合わせてやるって」

しかし、そんな真綿で首を絞められるような毎日を壊してくれた時がやってきた。
ある日であったスーツの男――プロデューサーが、このみをアイドルとしてスカウトしたのだ。
最初は信じることが出来なかった。
アイドルに対してあまりいいイメージを持っていない女の子が、アイドルにスカウトされるなんて。
まるでお伽話だ、子供の外見だからってからかうなと疑うのが精一杯の抵抗だった。
不貞腐れて、どうせ夢みたいなものだと、プロデューサーにブツクサと呟いていた記憶が今も残っている。

「あまりにも大真面目な顔で言うから騙されちゃったじゃない、馬鹿」

それでも、彼女を見つめる瞳に曇りはなかった。
ただ一言、彼はこのみに言葉を投げかけた。
“お前”が欲しい、と。
ワガママし放題のお姫様の手を引っ張り、“輝きの向こう側”へと連れ出した王子様。

「乗り気じゃなかった私を、貴方……見事に乗せてくれちゃって」

怠惰な世界から連れ出してくれた王子様がドレスを携えてやってきた。
そして、王子様に連れ立って見た向こう側は、何処までも広大で――心が躍った。

――此処でなら叶えられるぞ。

彼が発した言葉が、このみの頭の中で何度も響く。
“馬場このみ”の描いた理想が馬鹿にされない場所が其処にあった。
ステージで歌い、踊り、観客を魅了する。
夢と現実の境界線で見る世界は気持ちいいと教えてくれた彼がしたり顔で教えてくれる。
このみが心の底から望んでいた“ずっと”が否定されない世界だと彼が笑う。

「でも、乗せられて正解だったわ。私の内面をありったけに表現できる最高の世界。
 誰もが自分を真正面からぶつけられる夢の場所で、私は“ずっと”私のままで在り続けられる」

そんな世界で、お姫様は一人のアイドルとして自分を貫くことに決めた。
“輝きの向こう側”へ進むことを選んだのだ。
まるで陳腐な二流の北米映画だ、このみ自身もおかしくて笑ってしまった。

「アイドルっていいなって思わせたのは貴方なのよ、プロデューサー」

何時の日か確かにあった記憶。
ショーウインドウに映る自分とプロデューサー。
現実との齟齬に蝕まれていた寂しさも今では何処かへと消えてしまった。
幸せだった。
心の底から笑顔を浮かべて、そう言える毎日だった。

「それなのに」

誰が囁いたのだろう。
夢は終わるからこそ、夢なのだと。
泡のように膨らんだこのみの世界は――音を立てて弾け飛んだ。

「わからないわよ、どうしてこんなことになっちゃうのよ! 私、プロデューサーのことわかっていたつもりなのに!」

ショーウインドウに映るのは――このみだけだった。
このみの流す涙も、失った温もりも、壊れた夢も、彼がいてこそだったのに。
どうして。声を張り上げて問いかけても、彼は何も答えない。
いつも通り、申し訳無さそうな笑顔を浮かべる“王子様”のままだった。
仮面が外され、素顔が顕になった時――自分はどんな顔をしていたのだろう。
永久よりも長いとさえ感じられた一瞬は、最悪の始まりをこのみにプレゼントしてくれた。

「嘘だったの? 私とプロデューサーが積み重ねた“ずっと”は――何処にもなかったの?」

薄い朱と蒼が混ざった空の下、馬場このみはどれだけの時間をかけても、指一本も動かせなかった。
彼が自分達を狂気のゲームに陥れたことに、納得なんて到底出来やしないことは承知している。
承知しているからこそ、前に進めない。
壊れた彼女の根幹が、脚に纏わり付く。

「教えてよっ! 教えてくれないと、私、諦められない。プロデューサーのこと、嫌いになれないよ!」

プロデューサーのことを想えば想うほど恋しいのに――届かない。
どうにもならないことぐらい知っていても、尚だ。

「嫌だ、嫌だよ……離れたくないよぉっ!! プロデューサー!!!!」

培ってきた恋心はミキサーにかけられてグチャグチャになってしまった。
それでも、核である想いの欠片は割れずに残っている。
否、残ってしまったのだ。
馬場このみが喪失を否定してしまったからこそ――今も彼への想いは消えず残留している。



【一日目/朝/H-1】

【馬場このみ】
[状態]健康
[装備]
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
1:動けない。彼への想いが、痛い。


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